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ゼロの使い魔掌編――我はウォーダン――

 階段の上から聞こえてくる、硝子の鈴の様に涼やかな、声。

「わたしはエルフのビダーシャル。
 お前達に告ぐ」

 細身の体躯、流れる金髪、尖った両耳。
 人間達が悪魔の如く恐れるエルフの青年は、そう言って侵入者達を見下ろしていた。

「……!」

 姿勢は一見隙だらけ――しかし、目や足の運びは明かに手練のそれ――ゆっくり階段を下りてくるビダーシャルに対し、侵入者達の中から一人の男が前に立ち、手にした大太刀を蜻蛉に構える。

「去れ。我は戦いを好まぬ」

 睥睨すらせず、ただゆったりと涼やかな目で一同を眺め下ろすビダーシャル。

「我等とて悪戯な争いは好まぬ。
 この城に幽閉されている親子を開放すると言うのであれば、我等はこの場を立ち去ろう」

 一人前に進み出た仮面の男がそう答えると、ビダーシャルの細面に微かな歪みが生じた。
 あたかもそれが不本意だと言うような、そんな感情を一瞬で覆い隠し、エルフの若者は仮面の男にこう口を開く。

「すまぬがそれは無理だ。
 我は、その親子を“ここで守る”と言う約束をしてしまった。
 渡す訳には行かぬ」

「ならば立ち会う他あるまい。
 我にとて引けぬ訳はある」

 そして、エルフが発したそんな答えに、仮面の男はほうと息を吐いた。
 その四肢に力が篭もる。
 男はすうと息を吸い……裂帛。

「チェェストォーッ!」

 その雄叫びに、エルフすら一瞬気圧された。
 男は疾風の如き速さで、剣には遠い間合いを文字通り飛び越え、手にした大立ちを、一閃……。

「むぅッ!」

 しかし、その神速の一斬は、ビダーシャルの手前で何かに受け止められた。
 青年の目の前に張り巡らされた不可視の障壁が、男の剣戟を受け撓む。
 そして、止まった男の体を、復元する障壁の反動が、凄まじい勢いで跳ね飛ばした。
 その力は不可視にして無音――その反発を察知できなかった男の体は、先の打ち込みに匹敵する速度で弾き飛ばされ、猛速で壁に叩きつけられ、落ちる。
 辛うじて受身は取ったようだが、その受けた打撃は相当のものがあっただろう。

「……。
 ほう、凄まじいな」

 だが、その衝撃にも大太刀を離さず、即座に立ち上がって再び構えを取る仮面の男の姿にビダーシャルはそんな感嘆を漏らした。
 目の前の光景を目撃し、そして青年が言葉を放つまでに含まれた間は何を示すものか?
 驚きか、呆れか、それ以外の何かか、或いは、その全てか……。

「立ち去れ、蛮人の戦士よ。
 お前では、決して我に勝てぬ」

 だがエルフの顔にそんな色が浮かんだのはほんの一瞬。
 階下の侵入者達にそう続けるビダーシャルに、仮面の男はしかし構えた大太刀を下ろさぬ。

「……人の創りし障壁が、人に斬れぬ道理が何処にあろうか。
 我はただ、打と意地を以って打ち貫くのみ!」

 そして場に走る、一瞬の沈黙。

「やれやれ、蛮人には物の道理も……」

 男の言葉に溢れる静かな気迫にほんの一瞬だけ呑まれ、しかしすぐ、そう息を吐いたエルフの青年。

「黙れッ!」

 その言葉を、男の叫びが遮った。

「そして聞けッ!」


      ゼロの使い魔掌編――我はウォーダン――


「我はウォーダンッ!
 ウォーダン・ユミルッ!
 悪を断つ剣なりッ!!
 幼子の前に続く道を無粋な壁で鎖さんとする者よッ!!
 この斬奸刀の一撃を以って、己が所業の愚かさを悟るがいい!!
 チェェェストォォォォォォォォォッ!!!」

 そして、再びの突進。
 その構えを脇構えに変え、大太刀の切っ先で地を擦るようにして、ウォーダンは走る。
 通常の鋼の刃なら切っ先を傷める愚行だが、ウォーダンの佩刀は『向こう側』のアースクレイドルにて回収されたゼンガーの参式の、操縦席内に残されていたゾルオリハルコニウムの大太刀をマシンセルが取り込んだものだ。
 ハルケギニアに来て更に固定化処置を受けたその不撓の刃は、痛むどころか階段に摩擦煙と一筋の溝とを残して、神速でビダーシャルへと直走る。

『……愚かな。
 如何に強力な一撃でも、精霊の壁を断つ事等出来はしない』

 ビダーシャルがウォーダンを見据えると、塔の壁と言う壁から無数の石の手が生え始めた。
 手の発生速度は、ウォーダンの猛進程早くはなく、その動きは仮面の男を捕らえるには至らない……が、そもそもビダーシャルには、突撃を手で押さえる積り等、毛頭無い。
 精霊の力で形作られた手は、幾度でも愚行を続けるだろうウォーダンが、障壁に跳ね飛ばされた所で取り押さえる為のものだ。
 エルフの不敗を支える反射の壁は、巨大なゴーレムの一撃や、風や火のスクエアメイジの渾身の一撃をすら跳ね返す力を持っている。
 それが如何な技量の持ち主とてただの人間の一斬に屈する訳は無かった。

 ……そう、一斬なら、それは屈しなかったのだ。

「ウォォォォォォォォォォォォォォーッ!」

 雄叫びと共に、剣閃が走る。
 地の抵抗から解き放たれたそれは、先程の上段に倍する速度で、ビダーシャルを襲った。

 !!!

 だが、無音。
 精霊の壁は、先刻同様ウォーダンの星薙ぎすらをも受け止め、その力を跳ね返す。
 しかし、違うのはここからだった。

『……重いッ。
 だが、刃馬一体の斬撃の重さは、こんなものではなかったッ!』

 両足を大地に踏ん張り、仮面の戦士はその反動を受け止める。
 そして、反動をすら利用して刀身を加速し、連斬。
 斬撃の速さと強さに全てを注ぎ込む示現流とは全く異なる、むしろ中国武術の苗刀に近い動きで二撃目の太刀が障壁へと迫る。
 三撃目、四撃目、五撃目、六撃目……剣閃と反動の速さ鋭さは回を重ねるほど迅く、鋭く。

『……速いッ。
 だが、虎龍王の乱撃の速さ鋭さは、こんな物では無かったッ!!』

 繰り広げられるそれは、まさに、竜巻の如き斬撃の、怒涛!
 しかも恐るべき事に、ウォーダンの連斬は全て、寸分違わずただの一点を斬り付けていた。
 ウォーダンの強い怒りと、鋼の意思と、宿敵達の記憶とを受けて、その左手のルーンが眩く輝く。
 仮面の男が嵌めている手袋越しにすら認識できるその輝きは、その刃にかけられた『固定』を侵食しながら大太刀へと侵入し、それに呼応するかのようにその柄と刀身とが微かな光を発し脈動を始める……が、ウォーダンがそれに気付く事は無かった。

『打と意地を以って打ち貫く』

 ――担い手はただ、そう一身に念じて剣を振るうのみ。

「愚か者がッ!」

 そして、無心に剣を振るうウォーダンをただ呆然と眺めていたビダーシャルは、目の前の光景を振り払うように、そう叫んだ――否、そう叫ばずにはいられなかった。

「何度斬り付けた所で、結果は同じだ!」

 叫びの内容とは裏腹に、今迄動きを見せなかった無数の手が、ウォーダンの背後に迫る。
 だが、それがウォーダンの元に到達する事はついに無かった。
 幾十か、幾百か……重なる斬撃の中、ウォーダンの手に伝わる感触が微妙に変化する。

「!?」

 そしてビダーシャルは、驚きと共に張り巡らされた石の手を消した。

『精霊達が、戸惑い、驚いているッ!?』

 剣を振るうウォーダン以外の、誰が気付いただろう。
 それが、精霊の処理速度を、鍛え鍛えし武人の技が凌駕した、その瞬間だという事に……。
 そう、弥増すウォーダンの斬撃の速さは、既に『反射壁』の反応速度を越え初め、跳ね返そうと力を発している瞬間の硬壁に、真っ向から斬り付け始めていたのだ。
 精霊の反射壁は、相手の攻撃を受け止め、跳ね返すもの。
 受け止めた相手が、跳ね返される前に再度の攻撃を放ち、しかも、その攻撃が、壁の反射の力を発しようとしている部分に正確に叩き込まれ続ける等は、流石に想定外であった。

『クッ、目の前の男を侮ったか!』

 だが、そういった理由までは看破できず、しかし、このままでは反射壁を維持できないと気付いたビダーシャルは、大半の精霊達から手を離すと、ただ目の前の、反射壁の維持のみに専心する。
 それは、ウォーダンも、ビダーシャルも、どちらもそれを続けるしかない、文字通りの千日手……だが、ウォーダンも、ビダーシャルも、そのどちらも現状を、悲観してはいなかった。
 ウォーダンは、自らのただの一念が、精霊の壁を切り裂けると信ずるが故に。
 ビダーシャルは、自らより先に、運動量が多いウォーダンが力尽きると計算するが故に。
 二人の卓越した戦士は、ただ自らの技量を信じ、目の前の敵を陵駕せんと心血を注ぐ。
 そして、そんな時が更にどれだけ続いたのか?
 いつしか、左手に宿った輝きは、精神感応液体金属たるゾルオリハルコニウムの刀身を満たし、主の要望をルーンを介して受け取ったマシンセルの柄は、己が計算力の粋を生かし設計した新たな結晶核を輝きに乗せて刀身内に送り込む……そして全ての準備は整った。

『この斬撃の嵐の勢いをそのままに乗せて、最強最高の一撃を叩きつけろ』

 ルーンが伝えてきたマシンセルの応えに、仮面の男の口元に獰猛な笑みが浮かぶ。

「刮目せよッ!」

 ひたすらに続く剣戟の風音に、ただ満たされていた空間をウォーダンの叫びが走った。
 回転する斬撃の動作を続けながら、ウォーダンの姿勢と刀身の軌跡が変わる。
 流れを留めない様滑らかに、しかし確実に斬撃が描き出す軌跡は、横一文字から縦へと変わっていった。
 そう、奥義『星薙ぎの太刀』からの円を描く横薙ぎの連撃が、加速を続け連撃を維持しながらも、最大の位置エネルギーを斬撃に注ぎ込める上段――示現流の魂とも言える蜻蛉へと、徐々に変化していく。
 そして、刃の軌跡が蜻蛉に重なるその瞬間、ウォーダンの手の中で大太刀の柄が伸び、鍔が開いた。

「斬ッ!」

 まるで、巨大な斬馬刀を思わせる形に変形した柄の先、不撓の刃が液体の様に流れ、薄く、広く広がっていく。
 それをルーンから伝わる心の奮え――即ち魔力――が満たし、刀身は膨張していった。

「艦ッ!」

 ウォーダンの、構えが蜻蛉に至った時、そこにあったのは薄緑色の刀身を持つ、刃渡りだけで2メイル以上はあろうかと言う巨大な豪刀!

「刀ッ!」

 それは、あらゆる武器を支配するガンダルーヴのルーンと、優れた計算能力を持つ成長する金属細胞マシンセル、精神感応液体金属ゾル・オリハルコニウムに、希代の担い手たるウォーダン・ユミルが折り合って生まれた、一種の奇跡であった。
 かつて、元の世界で敵対していたSRXチームの駆る特機、SRX――その最強の武装の一つであるZOソードの、人間版とも言うべきその巨大な刀が、ウォーダンの掌の中で雲耀にも満たぬ瞬間だけ、天に向かって直立する
 そして、現れた斬艦刀の威容にビダーシャルが目を見開く暇も与えず、ヴォータンは神速で一歩、踏み込んだ。
 それは、今までのように加速を前提とした連撃の為の円斬とは異なる、そこで全ての威力を爆発させる為の直線の一撃。
 雪崩落ちるように振り下ろされる刃は、天井も何も触れる全てがバターどころか空気か何かの如くに通り抜け、不壊の反射壁へと接触……ウォーダンの心が形作ったその刃は、エルフの不敗を支える精霊の壁にすら、さくと食い込む。

「なっ!?」

 ビダーシャルが驚きの声を上げ、慌て自分の右手で左手を握り締めようとする……が、それは少しばかり遅きに過ぎた。
 一瞬の抵抗だけを残し、斬艦刀はいとも容易く反射壁を両断する。
 そして、その常識外れに長すぎる刀身は、背後に離れ立つビダーシャルの位置にまで到達し、左手を掴もうとしていた彼の右手の、手首から先を寸断した。

「我が斬艦刀に、絶てぬ物なしッ!」

 終われッ!

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