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フーケのガンパレード 1

世界は、いつも最も分かり難い方法で世界を守ろうと画策する。
                         <D.A.ルグウェール>



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大きくひびの入った宝物庫の壁を見つめ、
ミス・ロングビルこと『土くれのフーケ』は長い長いため息をついた。
振り返り、先日ルイズとギーシュの決闘が行われたヴェストリの広場を見つめる。

ゼロのルイズ。
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
魔法を使えぬ身でありながら、誰よりも貴族であり続けようとしている少女。
フーケは思う。
もしも世の貴族が全てあの少女のようであったならば、
自分は世間知らずのマチルダ・オブ・サウスゴータのままでいることが出来ただろうかと。




あれは何時のことだっただろう。
たまたま廊下で会った小さな桃色の髪の少女に、自分の父のことを尋ねてみたのは。
貴族でありながら王命に逆らい、エルフとその混血児を守ろうとした馬鹿な貴族のことを話してみたのは。
フーケは知りたかったのだ。
誰もが誹り、嘲った自分の父の行いを、しかしこの誇り高い少女は一体どういう風に受け止めるかを。
その時のことを思い出したフーケの顔に嬉しそうな笑みが浮かぶ。
あれから何ヶ月もの時間が経っていたが、
それでもフーケはその時のルイズの言葉を克明に思い出すことが出来た。
ゼロのルイズは言ったのだ。
もしよろしければその方を紹介して欲しいと。

「わたしはその方を尊敬します。もしその方がその行いで貴族の座を奪われたと言うのなら、
 わたしはヴァリエール公爵家の名においてその方を庇護します。
 世界中の誰が否定しても、わたしはその方を貴族だと思います」

ありがたかった。
知らないうちに涙が出てきた。
今まで、誰も父を認めてくれようとはしなかった。
誰もが笑い、蔑み、哀れみの目で自分たち家族を見ていた。
今でも憶えている。仲がよかった伯爵令嬢が、親友だと言い合っていたその少女が優越感に歪んだ顔で自分を平民呼ばわりしたことを。
出入りの商人が、汚物を見るような目で父を見たことを。
婚約者だった貴族がよくも恥をかかせたなと怒鳴り込んできたことを。
国中の全てが、平民も貴族も関係なしに自分たちを笑い、蔑み、哀れんでいたあの日々。
何度も何度も、自分たちは間違ってないと呟いた。
父の行いは正しいと自分に言い聞かせた。
けれど誰もそれを認めてはくれず、
マチルダ・オブ・サウスゴータは罪を犯して『土くれのフーケ』になった。

けれどこの少女は、ゼロのルイズだけは父を認めてくれた。
尊敬していると、世界中の誰が否定しても貴族なのだと言ってくれた。

父さん。
フーケは――――マチルダ・オブ・サウスゴータは記憶の彼方の父親に語りかけた。

父さん。
父さんのしたことは間違ってなかったよ。
父さんのしたことを認めてくれる人がいたよ。
ねぇ、父さん――――

しばし瞑目し、そっと涙を拭いた。
時計の針は戻らず、失意の内に死んだ父親はもういない。
世間知らずのマチルダ・オブ・サウスゴータは消えうせて、ここにいるのはお尋ね者の盗賊が一人。

拳を握り、こみ上げてきたものに耐える。
ルイズを知ってから何度も思った。
このままではいけないのか。
土くれのフーケではなく、ミス・ロングビルとして生きていてはいけないのかと。
この学園に来てからの日々を思い出す。

訳ありの自分を何も聞かずに雇ってくれたオールド・オスマン。
元軍人の筈なのに間が抜けて変な発明ばかりしているコルベール。
なぜか運の悪いシュヴルーズ。
貴族嫌いで、元貴族の自分に優しくしてくれたマルトー親方。
自分を慕ってくれた生徒たち。
そして父を認めてくれたゼロのルイズ――――!

なんでもないような日々が、どこにでもあるような時間が、なんでこんなに愛しく感じられるのだろう。
できることならば、もし許されるならば、このままずっとここで過ごしていたかった。
オスマンの秘書のミス・ロングビルとして、ゼロのルイズを見守っていたかった。

もしもこの宝物庫の壁が壊れなければ、
ルイズの使い魔がここにひびを入れなければ、自分はずっとここにいることが出来ただろう。
この宝物庫にかかっている『固定化』には手が出せないと、
この壁の厚みではどうしようもないと自分を誤魔化して、
ずっとずっとここで暮らすことが出来ただろう。

でも、それは既に壊れてしまった。
壁にはひびが入り、たやすく中への進入ができるようになってしまった。

たぶん、これは始祖ブリミルのお導きなのだろう。

もう随分と昔に信じることを止めてしまった信仰が頭に浮かぶ。

もしもこのまま自分がここにいて、その後でフーケの正体がばれたら。
自分が罪人と知られてしまったら。
きっと自分は皆の蔑みの視線に耐えられないだろうから。

心を決め、杖を振るってひびを広げると宝物庫の中へと足を進める。

狙いはただ一つ。
三十数年前にオスマンを助け、ワイバーンの群れを一人で殲滅した男の持っていたマジックアイテム。
末端価格で一億を超えるとも言われ、使い方しだいで国をも滅ぼすと言われる魔道具。
人をやめるのと引き換えに、持ち主に常人遥かに超える力を与えると言われる禁断の秘宝。

“覇者の布袋”

目当ての宝箱を開け、その秘宝を手に取る。
酒に酔わせたオスマンからその使い方は聞いていた。

目を閉じ、最後にもう一度だけ楽しかったこの数ヶ月を思い出した。

「さようなら、優しい人たち」

覚悟を決めると、思い切り息を吸って、そして吐いた。

フーケは、気を失った。



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目を覚ました時、フーケは自分を取り巻く世界に驚いた。
星の光が、風の音が、それまでの何倍もの鮮明さで感じられる。
フーケは崩れた壁から宝物庫の外に出ると、一度だけ中を見た。
傍の壁に署名し、少し考えてからアイテムの名前を書き換える。
フーケはその秘宝の本当の名前を知っていた。
先ほど気を失っていた際に、彼女の魂に接触した存在から教えられたのだ。
夢と現実の狭間で、とじめやみとあけめやみの中で、
伝説の存在せぬはずの古い古い存在に、彼女は出会ったのだ。

「天は誰も泣くことを望んでいない」

フーケはヴェストリの広場を見つめ、かつてそこにいた桃色の少女に語りかけた。

「わたしはそれを信じた。後は賭けるだけだ。わたしが正しければ、わたしが勝つだろう。 そうでなければ死ぬだけだ」

そして獰猛な笑みを浮かべ、マントを翻す。

「ゼロのルイズ。あんたは言った。貴族とはどこかの誰かの笑顔の為に力を奮えるものだと」

風をまいて走り出し、馬小屋から無断借用した白駒に飛び乗って学院の門を超える。

「ならば、わたしはあんたに賭けよう。世界を相手に嘘をつき続けるあんたを影から支援しよう」

もはや迷いはなかった。

「ガンプオード、ガンプシオネ・シオネオーマ」
(勇気は偉大なり。勇気こそは諸王の王なり)

今のフーケはやるべきこととやりたいことが一致した、世界でもっとも幸福な存在だった。

「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
 わたしはあんたの力になれることを誇りに思う」



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二つの月の光が、宝物庫の壁に書かれた書名を照らし出した。

『伝説の一年靴下、確かに領収いたしました。

                     ――――土くれのフーケ』



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