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ゼロのしもべ外伝-2

 アンリエッタがまだ王女だったころ、ラグドリアン湖の南に「ガイア教」という怪しい宗教が流行っていた。
 それを信じないものは恐ろしい祟りに見舞われるという。
 その正体は何か?
 イザベラはガイア教の秘密を探るため、トリステインから秘密のメイジを呼んだ。
 その名は……雪風参上!

 赤雪のタバサ 第2話

 ラグドリアン湖。
 ガリアとトリステインの国境沿いの内陸部に位置するこの湖は、風光明媚な保養地として知られている。
ハルケギニア随一の名勝だ。広さおよそ600平方キロメイル。
 特に、美の代名詞とさえなっている『水の精霊』の住まう場所として知られている。その湖から南に行くと、
そこにズール伯爵の治めるギシンという地方がある。
 この町に、最近妙な宗教が流行りつつあった。
 巨大な像をご神体とあがめる新興宗教「ガイア教」である。
 その像を一言で表せば、実に立派。
 全身金色に輝き、テカテカと輝いている。大きく張り出した頭部。太く逞しい胴体部。見るものを圧倒する
その姿は、まさにご神体にふさわしい。
 だが、このハルケギニアではブリミル以外を信仰することはご法度。ブリミル以外はおろか、今の教義で
はない教えを信仰することすら厳禁である。なにしろ、100年前に『実践教義』が唱えられたときも、ロマリア
宗教庁は激しい弾圧を行ったほどだ。
 同じブリミルを信仰する別宗派に対しても、それほどの厳しい態度で臨むのである。まして他の神を信仰
する集団に対しては鬼や悪魔が裸足で逃げ出すほどの態度で臨むのが、ロマリア宗教庁という組織なの
だ。
 それだけにガイア教の存在はガリアにとっては頭の痛いものであった。
 なぜならば一々こんな小さな出来事でロマリアの介入を許したという先例を作りたくない。さらにはどうも
ガイア教の背後にギシン領領主ズール・ムケ・デ・ギシン伯爵の姿が見え隠れしていたのである。
 ズール伯爵は先王に信頼されていた人物で、現王ジョゼフに政権が移行し政治の世界から身を引いたも
のの、いまだにガリア中央政府に強い影響力を持つ人物として知られている。
 そんな人間を、疑惑があるというだけで逮捕・尋問することはできない。もっと言えば、煙たい存在である
ズール伯爵を葬り去るには確実な証拠を手に入れた上でなくてはならない。
 そういうこともあり、タバサに「ガイア教のほんとうの姿を探って来い」という秘密指令が下されたのは当然
といえば当然であった。
 もしガイア教を利用して叛乱を企んでいるのなら、調査中ということがばれれば命はない。
 仮に叛乱を企んでいなくとも、弾圧のための調査をしていると信者に思われて、殺されかねない。
 どっちにしろ身分がばれれば死ぬ危険性が高い。これはそういう任務であった。

 そんな事情もあってか、タバサは慎重に行くつもりのようであった。
 ギシン領に入るかなり手前、実家で竜から降り、シルフィードを人間に変身させた。
 親子連れの旅人に化け、領地に潜入しようというのだ。
 多少親子連れというには無理があったため、旅の美人姉妹、ということに落ち着いたが、
「う~。2本足嫌い!動きにくい!服嫌い!ごわごわするの~!」
と、シルフィードは大変機嫌が悪かった。
 ただ、これには問題があった。
 旅人である以上、メイジの証である杖を持つことがあまりにも不自然だったのである。
 調査しているとばれれば命はない。メイジが領地に侵入し、情報を嗅ぎまわっていれば嫌でも目立つ。す
ぐにスパイと判断されるだろう。そうなれば、待っているのは死だ。
「杖は置いていくしかない。」
「きゅ、きゅい!?」
 思わず耳を疑うシルフィード。無理もない。「木から落ちた猿はただの猿だが、杖をなくしたメイジは平民
以下だ」と揶揄されるほど、メイジと杖は切っても離せないのだ。杖がなければメイジは何もできない。まし
てやこれから乗り込むのは敵地である。杖を持たずして、どうやって身を守るというのだ。
 だが、
「メイジとばれるほうが、危険。」
と、タバサは判断したらしい。たしかにいくら魔法が強力でも、使用にはメイジの精神力が必要となる。精神
力が切れれば杖はただの棒切れでしかない。メイジとばれれば、おそらく敵は精神力をなんとか消耗させ
ようとしてくるはずだ。そうなったときの生存率は0%に等しいだろう。
 ならば、逆に元々杖を持たなくても同じだろう。いや、むしろメイジとわからぬ分こちらのほうが生存率は
高いはず。なにしろメイジと杖は切っても離せぬ関係。わざわざ杖を置いてやってくるメイジがいるなどと、
誰が思うものか。
 大胆にして細心。タバサがこの年齢で、死を前提とした任務につきながら生き残っていた理由が窺い知れ
ると言うものだ。
 それに、杖がなくともいざというときはシルフィードがいる。人語を解し、高い知能を持ち、先住魔法を操る。大空を飛び交い、ブレスを吐く。いまや伝説の存在である風韻竜のシルフィードがいるのだから、わざわざ杖を持ち込んで「ここにスパイが潜入していますよ」などと宣伝して回る必要はない。
「だから杖は置いていく」
 そんなわけでメイジであることを証明する一切合財、杖からマントに至るまでを実家に置き、髪を魔法の
薬で茶色に染め、村娘が着るような粗末な服に身を包んだ1人と1匹は、目的地であるギシンへと徒歩で向
かうのだった。
 ギシン領までここから歩いて2日。そこから目的の村へは1日。ガイア教の本尊である立派なご神体が飾
ってあるという山までは、さらに半日かかる計算だ。
「飛んでいけば速いのにー!」
 ものすごーく、恨めしそうなシルフィードであった。

 出発して3日目の昼。ようやくギシン領最初の村へたどり着いた1人と1匹を出迎えたのは、
「きゅいきゅい。おねえさま…じゃなくてタバサ、あれをご覧なの。家が倒れてしまっているの、きゅい。」
上から押しつぶされたようになって潰れている、農家であった。
 男衆が総出で、倒壊した家屋を撤去している。撤去しながら、皆口々に神に祈りの言葉をささげている。
「なにがあったのかしらー?」
 興味津々といった感じで作業を覗き込むシルフィード。それに気付いた農夫の一人が汗を拭いながら、
「ガイア様の罰があたったんですだ」
と親切に教えてくれた。
「罰なのー?」
「へぇ。信心してれば、こんなことにもならなかったんですがねぇ。」

 農夫の話によると、この家に住んでいたジーンという男は、この村で唯一ガイア様を信仰していなかった
のだという。そのため毎日のようにガイア様に祈祷をあげる女房を怒鳴りたて、ついには追い出してしまっ
たらしい。
 そして昨日、ガイア様から信者へお告げが下った。
「この村にいまだわれを信じぬ者あり。今夜、風とともに現れそのものに神罰をくわえるであろう」
 そして昨晩、悲劇が起こった。
 風が止み、奇妙な音が山の中から現れた。
 なにごとだ、ガイア様が現れたのかと外を覗く村人。だが、奇妙な音が聞こえるばかりで何も見えない。
 音は村の上を飛び、やがてジーンの眠る家の上空で止まった。止まると同時に、眩い光がジーンの家め
がけ降りそそいだ。
 その光をあびると、柱がへし折れ、壁がくずれ、ついには屋根が落ちて家が煎餅のようになってしまった
のだという。
 やがて光が消え、音は元来た方向へ去っていく。祈りをささげながら村人が外へ出て、潰れた家の様子を
窺うと、中にいたジーンは即死しており、おまけに家がいくらか地面に沈みこんでいたという。

「ほれ、ごらんなせぇ。柱や屋根が、地面にめり込んでいるでしょう?」
 農夫が指差す先を見ると、そこは言葉どおり地面に沈み込んでいる。
「メイジさまの魔法じゃ、こんな真似はできゃしません。間違いなく、ガイア様の奇跡ですだ。お動きになった
り、昨夜のように神罰をくわえなすったり。あれはほんとうの神様じゃ。信じぬと、罰が当たります。」
 心底怯えきった様子で農夫が答える。タバサが潰れた家屋を観察する。なるほどたしかに上から押さえ
つけられたように家屋が潰れて地面にめり込んでいる。こんな魔法は先住魔法も含めて聞いたことがない。
「ところでおめぇさんがたは?」
 瓦礫を片付けながら、別の農夫が訊いてきた。
「よく訊いてくれましたなの。わたしたちは旅人なの。」
 そんなもの見りゃわかりますだよ、と農夫が呆れる。
「ガイア様を一目見たくて、ここまで来たのです。」
 タバサがいつもよりは愛想よく答える。杖がないだけに、できるかぎり警戒心を解こうと考えてである。問
題はそれでも一般的には無愛想なことなのだが。
「ほう、そうかね。あんたらも信心にきなすったかね。」
 仲間だと知ると、とたんに農夫の顔がほころんだ。よくわからなかったが、今までかなり警戒されていたら
しい。それをあまり表情に出さないのは身分さが激しいハルケギニアの平民の持つ知恵と言うものだろうか。
無愛想なのも、旅の疲れでそうなっているのだろうとか、人見知りする性質なのだろうと好意的に解釈した
らしい。
「どこからきなすったんだね?」
「オルレアン、からです。」
「そりゃあ、また遠い。」
 がっはっはっと笑う農夫。
「あんなとこにまでガイアさまの功徳はつたわっとるかね。」
 感心したように頷く農夫。
「それで、2人はえっと……」
「姉妹。」
「そうかそうか。姉妹で巡礼か。よくきなすったのぉ」
「まあ、よく来たよく来た」
 まるで親類が来たように親愛の情を示す農夫。
「それでなのー、えっと、ガイアさまというのは、どこにいるのー?きゅいきゅい。」
「ほほう。さっそく、ガイアさまを拝みにいかれるか。熱心じゃのぉ。」
 遠いところからわざわざ来なさっただけのことはある、と村人達。
「あの山の中ほどですだ。この道を真っ直ぐに行けば、そのうち着きますで」
 見るからに険しい山を指差す農夫。なるほど、村から半日というのは嘘ではないようだ。
「ありがとうございます。」
 ぺこりと頭を下げるタバサ。
「ありがとうなのー。さっそく行ってくるのー」
 ぶんぶんと手を振るシルフィード。
 実に好対照な2人であった。
 2人の姿が消えると、村人達ははぁとため息をつき、
「なんやけったいな姉妹じゃったのぉ」
 と言い、頷きあった。
「けったいといえば、このまえ赤い仮面をつけた妙な男が空をとんどったぞ」
「またその話か」
 多少辟易したように村人たち。
「見間違いじゃよ、見間違い。」
「んだ。他に見た人間もいねーんじゃ、どうもしようなかんべ」
「もうその話はいいがな」
 無駄話を続ける村人たちを手招きして呼ぶ。
「早くつぶれた家を片付けねば、ガイア様のお怒りは収まらぬかも知れぬぞ」
 そうじゃそうじゃ、と慌てて作業に戻る村人たちであった。

 「すごいのー!大きいのー!金ぴかー!」
 きゅいー!と両腕を広げて走り回るのはシルフィード。タバサは小さな背を目いっぱい反らして、目の前の
神体を見上げていた。
 でかい。フーケのゴーレムが子供のようである。これほどでかい建築物はガリアにも数えるほどしかない
だろう。
 なんという金属でできているのだろうか。表面は鏡のように磨きこまれ、タバサたちを映しだしている。
 大きな頭。大理石の円柱のような手足。巨大な樽を重ねたような胴体。
 ブリミルの像は門を開くことを意味する腕を横に大きく開いた形をしているが、この像は逆に腕を胸の前
で交差させ、直立した形をしている。例えるならば敬虔な信徒が祈りをささげているような姿である。
 その威圧感はすさまじく、実際の大きさよりもはるかに巨大に感じる。
「旅の方かね?」
 神体に驚き戸惑う1人と1匹に、背後から誰かが声をかけてきた。振り返ると、そこにいたのは上品そうな
老人であった。あごひげと口ひげを蓄え、ゆったりとした服を着ている。
「そうなの。ガイア様を見に来たのー」
 ふぉっふぉふぉと嬉しそうに笑う老人。
「それで、どうじゃな、感想は。」
「おおきい!ピカピカ!きゅいー!」
「そのままじゃな。ふぉっふぉふぉふぉ。それで、そちらの妹さんはどうじゃね?」
 老人のほうへ視線だけを移し、言葉を選んでしゃべりだすタバサ。
「……この世界の、ものでは、ないようです。」
 ほお、と感心したような声を上げる老人。
「無理も無い無理も無い。神様じゃからな、この世のものと思えなくても当然じゃよ。」
 うんうん、と頷く老人。
「まあ、ゆっくりしていきなさい。どこから来たのかは知らぬが、長旅でお疲れじゃろう。」
 言うだけ言ってから、村のほうへひょこひょこ戻っていく老人。その姿を見て、タバサが怪訝そうな顔をす
る。
「どうしたの、お姉さま?お腹でも空いたの?」
 どう考えても空腹なのはシルフィードだろう、と突っ込みを入れたくなるがそれは差し置いても、タバサの
怪訝そうな表情は気になるところである。シルフィードでなくても、思わず聞きたくなるような表情だ。といっ
ても、怪訝そうな表情をしているとわかるのは、ハルケギニアに数名ほどしかいないだろうが。
「足音。」
 短く、タバサが答える。
「きゅい?」
 さっぱり意味が分からず、きょとんとしたままのシルフィード。
「何を言いたいのかよくわからないの。お姉さま、きっとお腹が空いているせいで敏感になりすぎてるんだと
思うの。さっそくご飯を食べるべきなの。」
 どうあっても食事とつなげるシルフィード。だが、本当に気のせいだったのだろうか。タバサの視線は、老
人の後をずっと追っているようだった。

「ふむ。」
 と、そんな様子を見て感心したような声をあげたものが、ご神体の後ろにいる。
 先ほどの老人だ。
 だが老人はまるっきり別方向へ行ったはず。その後老人が引き返してきた様子も無い。いつの間に、ここ
に現れたというのか。
「私の足音に気づくとは。さすがはその名を北花壇に知られた雪風。下らぬ任務かと思ったが、これはこれ
でなかなか楽しめそうではないか。」
 声が若い。そして張りがある。色気のある声、と表現しても良い。
「だが…」
 自分の目の前に鎮座する、神体をまじまじと見る老人。
「これを別の世界のものと感じるとは。あの小娘、なかなか勘が鋭いようだな。」
 にやっと嬉しそうに笑ったかと思うと、その姿がまるで霞のように消えたのであった。

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