あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのガンパレード 7

その猫の出現は唐突だった。
出現と同時にワルキューレを力づくで破壊し、凱旋した将軍のような声で朗々と敵に向かって宣戦布告する。

風に揺れる赤い短衣。
日を反射して煌く首輪。
獅子か虎かと見まがうほどのその体躯。

世界観と言う世界観、その場にいる全ての者の常識をねじ伏せて、傲岸不遜な大猫が、ヴェストリの広場に立っている。



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その場で一番早く自己を取り戻したのは誰あろうギーシュ・ド・グラモンだった。
周囲を見渡し、貴族同士の決闘に口を挟んだであろう者が他に誰もいないのを確かめると、眼前の大猫に愕然とした目を向ける。
ごくりと唾を飲み込む。
その猫の事は聞いてはいた。ゼロのルイズが呼び出した大猫の使い魔。
そのことを聞いた時、他人事ながらもそれは良かったと思ったことも憶えている。
だがそれはたとえ身体が大きくてもただの猫の筈であり、人語を解したりワルキューレを破壊したりすることなどできるはずがなかった。

「猫……? 猫が、ルイズの使い魔風情が僕のワルキューレを破壊しただと!?」

事ここにいたり、ようやく周囲も状況が飲み込めた。
口々にざわめいてブータとワルキューレの成れの果てを見比べる。



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タバサとマリコルヌが驚愕に目を見開いた。
風のメイジである二人には、眼前の光景がどれだけ非常識か解ったのだ。
物を吹き飛ばすことに関しては風の系統は専門家と言っていい。
だが、金属製のゴーレムを吹き飛ばし、
あまつさえ粉砕させるほどの衝撃を生み出すには、少なくともスクウェアクラスの魔法を使う必要がある。
それが風に関する魔法を使う者の常識だった。
だと言うのにあの使い魔は、ただ自身の力のみでそれを為したのだ。



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キュルケは満足そうに微笑んで杖を収めた。
メイジの力を見るにはその使い魔を見よと言う。
今の使い魔の力を見れば、ルイズがどれだけの高みにいるかなど疑うことさえ馬鹿らしい。
胸の奥から喜びが沸いてくる。
それでこそルイズ。あたしの好敵手ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
使い魔の力を隠してたのは頭にくるけど、敵に手の内を見せる馬鹿はいない。
そう考えればそれはむしろ喜ばしいことなのだろう。
だって、それは彼女が自分を敵だと認めてくれているということなのだから。



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周囲の混乱も気にかけず、老猫は胸を張って自らの名を口にした。

「我が名はブータ。ブータニアス・ヌマ・ブフリコラ。
 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールに仕える使い魔だ」

その名を聞いたルイズとシエスタが驚いて顔を見合わせた。
それはシエスタの曾祖父が語った伝説の名。
何百年の時を戦い続ける誇り高き猫族の大英雄。

「まさか、本人……いいえ、本猫だったの?」

声を震わせるルイズに頷きかけると、シエスタは一歩前に出て恭しく頭を垂れた。
神に仕える巫女のように厳かに口を開き、震える声で語りかける。

「不明をお許しください、猫岳の王、宝剣の使徒、アルゴーナウタイ、猫の神様」
「面を上げよ、我が伝説を伝える人の子よ。我らは同じ主に仕える同志なるぞ」

ありがとうございます、と礼を述べるシエスタの顔に、ブータは困惑と期待の色を見て取った。
それも然りか、と胸の奥で苦笑する。
我が伝承を知る者ならば、神族の何たるかを知る者なれば致し方ないことかも知れぬ。

「古の盟約は相互扶助を禁じてはおらぬ。
 また英雄族は特定の母体種族を持たぬゆえに内政干渉の禁には抵触しない」

独り言のように紡がれたそれに、シエスタは満面の笑みを浮かべて顔を上げた。

「聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな、それは偉大なる最強の力……聖なるを守るのが猫神族の勤め」
「然り。すでに星はその胸に燦然と輝きだした。あと一呼吸分の勇気が続けば、それは伝説に届くだろう」



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「何してんだよ、ギーシュ!」
「そうだよ、はやくやっちまえ!」

周囲からの野次に、慌ててギーシュは手に持った薔薇を振り上げた。
確かに驚きはしたが、まだ勝敗が決まったわけではない。
自分が作れるワルキューレはあと六体。
如何に化け猫でも六方向から同時に攻撃すれば逃げることなど出来るはずがない。
六枚の花弁が六体の銅像に変わってブータを取り囲んだ。

「やれやれ、お灸を据えられねばわからんと見える」

呆れたように呟くと、上体を起こして二本足だけで起き上がり、調子を確かめるように数度虚空に突きを入れた。
周囲で可愛い可愛いとはしゃぐ声を、ルイズがじと目で睨み付ける。
黙れ、そこの『洪水』。あれはわたしの使い魔だ。

「やってしまいなさい、ブータ!」

迷いはなかった。そこにはただ信頼だけがあった。
自分の使い魔の勝利を信じる思いだけがあった。
ルイズの声にブータは千の時、百の世界の向こうで仕えた懐かしい姫君を思い出した。
懐かしい過去が老猫に微笑みかけ、世界を超えて彼女の声を彼に届けた。
それはいつもの通り、“ぶんなぐりなさい、神々よ”であった。

「承知」

猫神族の王、ブータはにこやかに笑った。
毛がふかふかで目が大きい、立派な立派な戦神だった。
首輪から小鈴のような剣鈴を取り出し、頭上で回転させる。
瞬く間に剣鈴が巨大化し、竜殺しの剣鈴となってブータの足元に突き立てられた。
それをつかんだところで不思議そうに首をかしげる。
体が軽い。具体的に言うと、首輪をもう一つ嵌めて、クリサリスの帽子とジョニーの手袋を付けたくらいに身体能力が上がっている。
まぁ強くなる分にはいいだろうと気にしないことにした。
軽く素振りをすると厳かにギーシュに告げる。

「さぁ来るがいい若造。戦の厳しさを教育してやるとしようではないか」



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遠見の鏡に映る情景を見ながら、
オールド・オスマンとコルベールは思い切り顎を落っことしていた。
猫が、剣を使っている。
頭を抱えて、会ったこともない始祖ブリミルと古文書の著者をののしる。
先ほどまでの自分たちの苦悩は一体なんだったのだ。



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タバサは目を見開いてその情景を見ていた。
舌が口蓋に張り付き、杖を掴んだ手が震える。
猫が剣を振るう。周囲はそのことだけに驚いているがタバサは違った。
本当に驚くべきはあの猫の剣術だ。
全く無駄のない、流れる舞踏のようなその動き。
シュヴァリエであり、数々の実戦を経験したタバサにして始めて見る剣術だった。
六体のワルキューレを翻弄し、その攻撃を全て無効化し、あまつさえ反撃する。
剣を振るったのは僅かに六度。
ただそれだけで猫は勝利した。
タバサは畏怖と共に使い魔のシルフィードから聞いた言葉を思い出した。
昨夜、幼い風韻竜は畏れに震える声で言ったのだ。

―――あの猫は、数多の竜を屠った戦神だと。



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ギーシュは愕然とした。
剣を持った大猫が、瞬く間に自分のワルキューレを倒したのだ。
この世界の全て常識を覆し、理不尽にも自分の前に立ちふさがっている。
怖かった。何も考えることが出来なかった。
手から杖が落ちたことすら気づかなかった。

「さて若造、覚悟はいいか?」

言いながら剣を振りかぶろうとしたブータの前で突如として庭の土が盛り上がった。
一匹のジャイアントモールが、ギーシュを守るように大猫の前に立ちふさがる。
眉を顰めたブータが声をかけた。

「そこをどけ、ヴェルダンデ。望んで痛い目に会うこともなかろう」

気遣うような猫の声に、しかしモールはきっぱりと首を振った。
無言で自らの胸を叩き、そこにあるものが何かを主張する。

“我は世界の守りの守り、守りの守りの守り、守りの守りの守りの守り、守りはここに、この中に”

同調された感覚を通じ、ギーシュの耳に自らの使い魔の声が響く。
これは堪えた。
ギーシュは俯き、自らを恥じた。
使い魔さえもが主の誇りの為に戦おうとしているのに、自分は震えることしか出来ないのかと。
顔を上げ、猫の向こうにいるルイズを見た。
魔法が使えぬ身で自らの前に立ちふさがり、堂々と貴族を語った大嘘つきの少女を見た。
ルイズの瞳の向こうに、確かに尊敬する父の面影を見た。
ギーシュは胸を張り、拳を握り、奥歯をかみ締めると、強張る足を無理やり動かしてヴェルダンデの前に出た。
目の隅に赤い髪の女性の姿を見つけ、頬を緩める。
一度だけ、噂話に聞いたことがある。
美貌に優れ、魔法にも長けたゲルマニアの魔女は、実はゼロのルイズを好敵手として見ているのだと。
聞いた時は一笑に付した噂だったが、ギーシュは今はっきりとその真実を理解した。

「僕の負けだ、使い魔よ」

図らずも、ギーシュは六年前のキュルケと同じ思いをルイズに抱いていた。

彼女のようになるのだと。

魔法が使えぬことを認め、その上で貴族とはなにかを教えてくれた少女のようになるのだと。



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「勝ってしまいましたね」
「うむ……まさか、本当にガンダールヴだったとは」

杖を振って映像を消し、オールド・オスマンは唇をほころばせた。
心配事は山ほどある。
あの猫がガンダールヴだったのならば、それを呼び出したルイズは何者なのか。
あの猫のことが王宮に知れればどうなるか。
だがそれ以上にルイズの魔法が成功だったことが、ルイズの心を傷つけずにすんだことがオスマンの心を軽くさせていた。

「驚きましたな、本当に猫の手を借りていたとは……」
「ミスタ・コルベール。きみ、やっぱりアホだろう」



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