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ある神官の手記

ある神官の手記

 ロマリアの蔵書量は素晴らしい。他国ならば既に失われたような稀少書が、あふれんば
かりに残されている。しいては、始祖ブリミルに関しては他国の追随を許さない。書とい
う形を取らずとも、石版、遺物、失われた伝承、そういった数々の情報が残されている。
 それらを扱う仕事に就いていることを、私はこの上ない誇りにしていた。たとえ魔法が
使えずとも、聖地を取り戻す助けとなれるのだ。あの日も、私はその熱意を胸に、蔵書室
にて雑多な情報から役に立つものを選りすぐる作業に取り掛かっていた。その作業は簡単
そうには見えるが、実際のところは多くの知識とセンスが問われる難しいものだった。ほ
んのわずかな気の緩みが、点と点を結ぶ線を永久に失わせてしまうかもしれないのだ。
 固定観念を捨てながらも、自らの知識との共通点を探す。それは恐ろしいまでの集中力
が必要だ。作業中に誰かに話しかけられても気付かないことがあるほどだ。だから私は、
その日誰かが近付いてきたことに気付かなかったことに、何の不思議も抱いていなかった。
 彼、いや、彼女か――よくわからないが、便宜上彼と呼ぼう。とにかく彼は、いつもの
ように古書の頁を捲っている私に話しかけてきたのだ。今思い返せば、その声はしわがれ
た老人のようにも、年若い女性の声のようにも、あるいは無邪気な子供のようにも、いや、
そもそも人間のそれだったか疑わしい。だが、その時の私は気付かず返事をしてしまった。
 なにか御用ですか、と。
 振り向いてみれば、彼は色黒の――ゲルマニアの人によく似た色だ――私の知らぬ顔の
男だった。穴倉にこもるような生活をしていた私は、変だなと思いつつも新顔か何かだろ
うと適当に推量をつけたのだ。人が恋しかったのかもしれない。そんな私に、彼は優しく
語りかけてきたのだ。
 彼との会話は楽しかった。それこそ、私以上ではないかと思ったほどの知識だけてなく、
なおかつ、それを活かすだけの洞察力、着眼点も持っていたのだ。多くのことを教えられ
た。私がもともと知りながらも気付いていなかったことがどれだけ多かったのか。それを
彼に教わったのだ。
 だが、なぜだろう、彼に対する感謝の意がわずかたりとも湧かないのは。答えは簡単だ。
その知りえたことが、いかに神を冒涜するものか、今の私には重々すぎるほど分かってい
るからに他ならない。
 そう、聖地とはもはや聖なるものではない。あれは、人を、いや世界を犯す邪悪そのも
のだ。そこに意味はない。ただそこにあるだけで、何の意志も介入せずとも、世界は否定
されるのだ。
 ああ、始祖ブリミルよ。私は今あなたを心からお怨み申し上げる。なぜあのような邪悪
の力を振ったのか。なぜあのような悪夢をこの世に残したのか。
 エルフたちが、門を悪魔と呼ぶわけが今の私にはよくわかる。いや、彼ら以上にわかっ
ている。あれは悪魔などという生易しいものではない。
 今もこの耳に残るあの声は何だ。今もこの瞼に焼き付くあの姿は何だ。茫洋で漠然で、
あの、額に第三の眼を持つ、にやにやと笑う、何よりも混沌としたアレはいったい何だ。

 世界は、星辰は着実に邪悪な位置に収まりつつある。

 それに抗う気力が、私にはない。もはやアレは目の前にいないというのに、正気が侵さ
れ続けているのがわかるのだ。ほそぼそと火酒を呷り、なけなしの意思を振り絞ってこの
手記を残す。それだけが私にできる唯一の抵抗だ。

 警告だ、聖域に近付いてはならない。門に手を出してはならない。世界を、失いたくな
いのなら。

 ああ、迎えが来たようだ。しっかり鍵をかけたはずのドアが、独りでに開いていく。手
が、手が止まらない。今すぐ頭を銃で打ち抜きたいというのに、文字を書くことが止めら
れぬ。ああ、ドアが、ドアが――


 この先は、血で汚れて読むことができない。
 ……?
 どうやら、血糊でくっついてしまったページがあるようだ。

 →捲る
  捲らない

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