あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

斬魔の使い魔05


 トリステイン学院の学院長オールド・オスマン。
 齢100歳を超えると言われている老齢のメイジは、果たして難しい顔をしたまま中空を見つめていた。
 先日の、生徒による使い魔召喚の儀式以来、こうである。
 秘書のロングビルは、その様子を横目で見ながら戸惑っていた。
 普段なら、鼻毛を抜くか、自分のお尻を触るか、使い魔のネズミを使ってスカートの中を覗くかをしているというのに。
 秘書として雇われてから初めて見る姿である。

 理由を聞くべきかどうか……
 その思考は、突然の闖入者によって遮られた。

「オールド・オスマン!」

 ドアを蹴り破るかのような勢いでコルベールが入ってきた。

「なんじゃね、コルベール君?」
「あの、ミス・ヴァリエールの使い魔の件なのですが……実は……」

 コルベールはロングビルをチラチラと見る。

「ああ、ミス・ロングビル。席を外しなさい」

 ロングビルは立ち上がり、部屋を出て行った。
 それを確認すると、コルベールは書き写したルーンと書物を机の上に置いた。
 それを見たオスマンの眼が光った。

「コルベール君、これは……」
「はい、間違いありません。これは始祖ブリミルの使い魔『ガンダールヴ』に刻まれていたルーンと同じであります。
 つまり、あの青年は伝説の使い魔ガンダールヴです!」



 昼食の時間。
 ルイズは今にも飛んでいきそうなほどご機嫌だった。
 魔法が使えた。
 もう、誰にもゼロのルイズなんて呼ばれることも無い。

「~♪ ~♪ ひゃっほう……うふふふふ」

 歩きながらくるくる廻りだし、かと思ったら含み笑いをしだす。
 傍から見ると不気味そのものだったが、ルイズは全く気にしていない。
 まさに有頂天だった。
 そのため、後ろをついてくる九郎の表情に気付くことも無かった。

(何でアルの気配がしたんだ……?)

 先ほどの実習で、ルイズから感じたアルの気配。
 何処かにいる、そういう気配は前々から感じていたが、何処にいるかというハッキリとしたものではなかった。

 それが、あの時は強く感じた。
 しかし、今は全く感じない。
 そのため、気のせいだったのではないかと言う考えももたげている。
 そうこう考えているうちに、食堂へと着いた。
 食堂の中でも浮かれたようにスキップをしながら進むルイズ。

「うわ、何か変だぞ」
「さっきの授業で成功したから浮かれているんでしょ」
「たった一回成功したぐらいで、何が楽しいのかねえ」

 周囲の生徒からの嘲りじみた言葉も、今のルイズには賛辞にしか聞こえない。
 いつもの席へつくと、九郎の方に振り向く。

「今回は貴方も一緒に食べても怒らないわ。むしろ、存分に食べなさい♪」
「アイサー、では遠慮しません」

 とりあえず思考はやめ、目の前のご馳走に目を向けることにした。
 時間はたっぷりとある。
 まず脳に栄養を染み渡らせてから考えるとしよう。
 ナイフとフォークを手にステーキにかぶりつこうとしたその時、

「どうしてくれるんだね。君のせいで二人のレディの名誉が傷ついたじゃないか!」

 突然、食堂内に響いた声に、九郎とルイズは何事かとそちらを見た。
 見ると、金髪の少年が一人のメイドに突っかかっていた。

「も、申し訳ございません! どうかお許しを!」
「謝って二人の名誉が回復するのなら苦労は無いんだよ」

 完全に萎縮してしまっているメイドに、ますます声を荒げる少年。
 と、少年の友人達が声を上げた。

「おいおい、お前が二股をかけていたのが悪いんだろ」
「そうだぞ、ギーシュ。お前が悪い!」

 やんややんやとはやし立てる彼らに、ギーシュと呼ばれた少年は顔を真っ赤にした。

「あ、あのレディ達は、薔薇の意味を理解していなかっただけさ」

 誤魔化すかのようにキザッたらしい仕草で髪をかき上げるギーシュ。

 ようするに、あのメイドのせいで二股がばれてしまい、そのことに対して八つ当たりをしているようだ。
 くだらないと言わんばかりに鼻を鳴らすルイズ。

「フン、女好きのグラモン家らしいわ。どうしようもないわね、って、ちょっと!」

 いきなり立ち上がり、ギーシュの方に向かっていく九郎。

「ちょっと待ちなさい! こらー、人の話を聞きなさい!」

 制止を無視して向かっていく九郎を慌てて追いかけるルイズ。
 ルイズの金切り声に気付いたギーシュが振り向くと、そこには怒りの形相で仁王立ちする九郎の姿があった。

「君は確か、ミス・ヴァリエールの使い魔の平民だったね。何の用だい?」
「その子に謝れ」

 自分が罵倒していたメイドを指差して言った九郎の姿に、一瞬呆気にとられ、しばらくして爆笑するギーシュ。

「あははははは! 随分と面白いことを言う平民だね。この僕がこの平民の娘に謝れと?」
「そうだ」

 顔色一つ変えずに言い放つ九郎の姿に、反転、不愉快な表情をするギーシュ。
 当のメイドはハラハラした様子で二人を交互に見ている。

「……どうやら、君は貴族に対する礼儀を知らないようだな」
「礼儀とやらが理不尽に屈するってことなら、知りたいとも思わないな」

 全く物怖じせずに答える九郎に、さらに不快感が募っていく。
 平民が、舐めた口を利く。分からせてやらねばならないな。

「よかろう。君に礼儀を教えてやろう。丁度いい腹ごなしだ」

 そう言うと、身を翻し九郎に背を向ける。

「ヴェストリの広場で待っている。せいぜい準備をしてくるといい」

 友人達やギャラリーがギーシュの後に続いていく。
 友人の一人が監視のためにここに残る。
 メイドは震えながら九郎を見つめていた。

「あ、貴方、殺されちゃう……」
「ん? そうなのか?」
「貴族を本気で怒らせたら……」

 メイドは走り去った。

 九郎は、ふぅ、と溜息を吐いた。
 後ろからルイズが駆け寄ってきた。

「あ、貴方! 何をやっているのよ!」
「何か大事になってしまいましたね」
「大事になってしまいましたね、じゃないわよ! すぐに謝ってきなさい!」
「……」

 沈黙する九郎に、ルイズはさらに畳み掛ける。

「今ならまだ謝れば許してくれるかもしれないわ。土下座でも何でもいいから!」
「……」
「いい? 平民はメイジには決して勝てないの! これは常識なのよ!」
「……嫌だ」
「分かってくれたようね、それなら……って……」

 九郎の言葉にルイズの目が釣り上がる。

「今、何て言ったの!?」
「嫌だって言ったんだ。俺は絶対に謝らない」
「――なっ!? ご、ご主人様の言うことに従いなさい!」
「今回ばかりは従えねえ。俺が今ここで謝っちまったら、あの娘はこの先どうなる? また、似たような形でちょっかいを出されるかもしれないだろ」
「そ、それは……」

 不安そうにこちらを見つめるルイズの姿。
 一瞬、それがアルの姿と重なった。
 自嘲的に眼を閉じると、一瞬の間、眼を開け、ルイズの瞳を見つめた。

「そんな後味の悪ィこと、俺は我慢できない」

 そのまま身を翻すと、ギーシュの友人に連れられて、食堂を出て行った。
 ルイズは呆然としていたが、すぐに持ち直し、

「ああもう! 勝手にしなさい!」

 そう叫ぶと、九郎の後をついていった。
 何故か頬が熱かったが、それは自分の使い魔に怒っているせいだと自身に言い聞かせて。



 九郎達がヴェストリの広場に着いた時、そこは噂を聞きつけた生徒達で溢れかえっていた。
 ギーシュは薔薇の造花を掲げて、高々と叫んだ。

「諸君! 決闘だ!」

 周囲が歓声に包まれる。
 その歓声に応えるように腕を振るギーシュ。

 それから九郎の方に振り向き、不敵な笑みを浮かべた。

「とりあえず、逃げずに来たことは褒めてやろうじゃないか」
「誰が逃げるかよ」
「よろしい。では、始めようか」

 言うや否や、持っていた薔薇を振った。
 花びらが一枚、宙に舞うと、甲冑を着た女戦士の姿になった。

「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。文句はあるまいね?」
「特に無いな」
「ふふ、言い忘れていたが、僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ」

 ワルキューレが九郎に向かって突進する。
 九郎は放たれた拳をかわすと、ワルキューレの腹部に蹴りを入れた。
 鈍い衝撃音。逆にこちらの足が痛む。
 ワルキューレはたたらを踏んだが、すぐに体勢を立て直して向かってきた。
 それを横っ飛びでかわす。さらに向かってくる。

「どうした? ただ、逃げることしか出来ないのかい?」

 ギーシュの挑発を九郎は無視する。
 正直、九郎は攻めあぐねていた。
 もしもマギウス・スタイルになれたのなら、一瞬で三枚におろすのだが。
 せめて何か武器になるものを用意しておくべきだった。

「――ふっ!」

 再び放たれた拳をまたかわし、もう一度、腹部に蹴りを入れる。
 少し傷がついたが、それだけだった。

「どうするかねえ……」

 正直な話、目の前のゴーレムはそれほど怖くなかった。
 生身でアンチクロスを相手にしたこともある。そいつらに比べれば、大した相手ではない。
 もっとも、倒せるかどうかということとはまた別だが。
 また放たれた拳をかわす。かわす。かわす。時々、蹴りを入れる。
 それを何分続けただろうか。

「ええいっ! ちょこまかと!」

 業を煮やしたギーシュが薔薇を振るう。
 花弁が舞い散り、6体のゴーレムが現れた。

(まずいな……)

 これにはさすがの九郎も唸る。
 ギーシュは残酷な笑みを浮かべた。

「全く、平民相手にここまですることになるなんてね。7体のワルキューレ。これが僕の全力さ。
 行けっ!」

 ギーシュが薔薇の造花を振るう。
 6体のワルキューレが戦列に加わる。
 そして、九郎は――

 さすがにかわしきれず、顔面、腹、腕と強烈な打撃を受けた。
 膝をつく九郎。
 その顔面に蹴りが入る。

「――がっ!」

 鼻が折れる。鼻血が溢れ出る。
 攻撃はさらに休まず、倒れた九郎に蹴りを入れる。すでにリンチだ。
 思わず人込みの中からルイズが駆け寄ってきた。

「止めなさい、ギーシュ!」
「おや、どうしたんだい、ルイズ? 決闘に横槍を入れてくるなんて、貴族らしくないじゃないか」
「ふざけないで! 決闘は禁止されているはずよ!」
「禁止されているのは貴族同士の決闘のみだよ。貴族と平民の決闘は禁止されていない」
「そ、それは――」

 と、一際大きい歓声が上がった。
 二人が振り向くと、そこにはワルキューレの足を掴んでバランスを崩させた九郎が、転がるように囲みを脱出していた。
 骨が折れているのか上手く立ち上がれず、這いずるようにして距離をとる九郎。

「九郎!」

 傍に駆け寄るルイズ。
 そして、血に濡れた顔を見て驚いた。
 九郎は笑っていた。

「な、何で、笑っているのよ?」
「いや……やっと、名前で呼んでくれたなと思ってな」
「――なっ」

 ふるふると震えだすルイズ。鳶色の瞳が潤み出す。

「泣いて……いるのか?」
「泣いてないわよ! なんで平民のために泣く必要があるのよ!」
「いやあ、やっぱり泣いているって。うーん、困ったな。泣き顔は苦手だ」

 ルイズの涙を拭おうとして、視界がぼやけていることに気付いた。
 しこたま頭を蹴られたせいで、意識が遠くなっているのだ。
 そのせいかどうか知らないが、ぼやけていたルイズの姿がアル・アジフの姿に見えた。
 何故かハッキリと見える。
 顔が近づいていく。

 脳裏に浮かぶのは――
 初めて会った時――
 初めて契約した刻――


 ――久遠に臥したるもの死することなく
  怪異なる永劫の内には死すら終焉を迎えん――



 ――唇が触れた。


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