あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ディセプティコン・ゼロ-4


back / next


日の光を反射しつつ、金属が擦れ合う音にも似た奇声を上げて落下してくる『それ』を、一同は呆然と眺める。

キュルケの眼には、『それ』は『剣の塊』として映り込んだ。
幾本もの鋭く尖った脚と、長くおぞましい昆虫を思わせる爪。
そして酷く物騒な三叉の槍を思わせる尾。
キュルケにはその存在が、武器という概念そのものを具現化した存在に思えた。

タバサの眼には、『それ』は砂漠に棲むという『蠍』と呼称される生物として映り込んだ。
しかし、それは蠍などでは在り得ない。
蠍には3メイルを優に超える体長も、況してや鋼で出来た外骨格など在ろう筈も無いからだ。
タバサはその存在を、蠍を模したゴーレムではないかと考えた。

血塗れで佇む2人の眼には、『それ』は『悪魔』として映り込んだ。
自身を睨む縦に割れた4つの眼らしき球体。
左右に割り開かれた口から覗く、鋏の様な歯。
2人にはその存在が、エルフの住まう砂漠からやってきた悪魔であると確信出来た。

『それ』の眼には、2体の有機体と5体の奇妙なエネルギー体は単なる『標的』として映り込んだ。
何をするでもなく佇み、此方を見上げる7対の眼。
その内の1対が、丁度真下に在る。
『それ』はその存在が、自身の最初の攻撃目標であると認識した。

そして、皆が我に返ろうかという瞬間。


遍在の1体を文字通り押し潰して着地した『それ』は学院全体を揺るがす地響きを上げ、凄まじい勢いで土砂を巻き上げつつ地中へと消えた。



「な、何だ!? 何だ今のは!」
「さ、蠍!?」
「サソリ!? あれが? 馬鹿言うな!」
「でもどう見たって蠍じゃない! 他に何だって・・・・・・きゃあ!」
「うわ!」
「じ、地震だ!」

突然の異形の落下、そして遍在の消滅に地中への逃走。
更に続けて起こった地鳴りと振動に、周囲は一瞬にしてパニックに陥った。
それはキュルケも同様で、ぴくりとも動かないルイズに駆け寄ってその体を抱き締めながら、落ち着き無く周囲を見回す。

「何・・・・・・? 何なのよ今度は!」
「・・・・・・移動してる」

何時の間にかその隣へと移動していたタバサが、ぽつりと呟いた。

「え?」
「土の下を移動してる。何処から出てくるか解らない」

そう語るタバサの額には、薄く汗が滲んでいる。
彼女はガリア北花壇警護騎士団員であり、これまでの任務の仲で様々な敵と渡り合ってきた。
しかし鋼で出来た身体を持ち、地中を高速で移動する存在などという敵との交戦経験など、如何な彼女とて在りはしない。
実際のところ、今現在彼女達の足下を高速にて移動している存在は敵ではないのだが、タバサがそれを知り得る筈も無かった。
ただ、『それ』にとっての彼女達は敵ではないにしろ、味方という訳でもない。
精々が有機体で構成された障害物、といった認識であった。
但し。

「く、くそ! 何処に居る!?」
「おい、ほっとけ! あの2人を仕留めよう!」

この2人・・・・・・6体については、『標的』という扱いであったが。



「さっさと始末し・・・・・・おい。そ、それ・・・・・・」
「え?」

そして何とか混乱から立ち直り、再びルイズ達へと向き直ろうとした矢先、一方が相方の遍在の背後から伸びる、三叉の尾の先端に気付いた。
ふと見れば、少し離れた位置でルイズ達を庇いながら杖を構えるその級友達や、つい先程まで恐慌を来していた野次馬達までもが、何時の間にか止んだ振動と入れ替わるかの様に現れた尾に視線を釘付けにしている。
その尋常ならざる様子と、背後から響く巨大な鋏を力任せに開いた様な音に遍在が振り返ろうとした時には、既に手遅れだった。

「ひ、ぎゃひッ」

弓の様にしなった尾は、左右に開いたその先端から50サントは在ろうかという針を伸ばし、次の瞬間には遍在の胸を背から貫いていた。
そしてその身体を、重力の存在を無視したかの様な速度で振り回し始める。

「ぃぎぁあぁああぁぁあああああぁああぁぁっ!」
「う、うわ・・・・・・」

魔力―――――精神力で編まれた身体は擬似血液を撒き散らし、余りの遠心力に裂けた組織からは更に大量の血が噴き出す。
そして、その光景に思わず後ずさった1体に向け、尾は狙い済ました様に木偶を放った。
放ったとは言っても、風圧で木偶の眼球が潰れる程の速度で、だが。



「え?」

そしてその先に佇む1体は反応も出来ず、木偶の直撃を受ける。
衝突の瞬間、2体は全身の骨格を瞬時に粉砕され、一拍遅れてぱん、という軽い音と共に弾け飛んだ。
数秒後、周囲に飛び散った大量の血液と組織が、元々何も存在などしていなかったかの様に消え去る。

「・・・・・・は・・・・・・は」
「ウソ・・・・・・だろ?」

現実を受け止めきれず、乾いた笑いを漏らす2人。
ギャラリー達の中には、遍在とはいえ人間2人が弾ける瞬間を目視してしまい、衝撃の余り意識を手放す者も少なからず居た。
当の惨劇を演出した異形は既に地中へと姿を消し、一帯は再び小刻みな振動に襲われる。

「くっ! ユビキタス・デル・・・・・・」
「あいつら、また!」

学院の建物全体からは細かな破片が零れ落ち、広場に面した窓にはめ込まれたガラスが割れて落ちる中、遍在の3体を失った2人は精神力を振り絞り、その数を補おうとする。
しかし最早余裕が無いのか、どちらも生み出した遍在は1体。
広場には本体の他、4体の遍在が佇む計算となる。

「僕等を狙っている・・・・・・! どうする!?」
「五月蝿い、黙ってろ! 上へ行くんだ! 奴が遍在を襲った瞬間にライトニング・クラウドを射ち込んでやる!」
「わ、解った!」

『フライ』で上空へと飛び上がる本体。
しかし彼等の作戦を察していたのか、はたまた聴いていたのか、彼等が上昇を終えるよりも早く轟音と共に上がった巨大な土砂の柱の中から、鋼の蠍が姿を現す。
そして金属の擦れる音と共に6本の爪が回転、その速度が徐々に早まり―――――

「うわあっ!?」
「ひいっ!?」

両の腕で回転する爪の間から白煙を噴き出す何かが6発、其々が湾曲する軌道を描いて放たれた。
それらは彼等に命中する事は無かったが、狙いを逸れた6発は学院の各所へと着弾。
そして一拍遅れて轟いた爆音と振動に、広場に居た全員が動きを止めた。
地上に立つ者の眼には、壁の向こうから立ち上る土煙が。
空に浮かぶ2人には、吹き飛んだ学院各所の壁が眼に入る。
そして彼等一同の脳裏に浮かぶのは、全く同じ言葉。



あんなものを人間が喰らったら・・・・・・?



「じょ、冗談じゃない!」

元から色白の顔を更に青白くさせ、1人がその場からの逃走を図る。
見れば、眼下では2体の遍在が凄まじい速さで突入してきた土の柱に逃げる間も無く呑み込まれ、その周囲に肉の破片を撒き散らしていた。
最早一刻の猶予も無いと、その場に背を向ける彼。
それには相方も同意なのか、念の為に自身の遍在2体をフライで浮かせ、護衛として側に置く。
しかし。

「おい、ちょっと待て!」

相方の言葉に振り返ってみれば、奇妙な光景が眼に入った。
地上では土柱が広場を所狭しと駆け巡っており、時折建造物の下へとそれが消えると建物の一部が崩落する。
固定化の魔法など、あの突進力の前には稚児にも等しいものらしい。
一体何をしているのかと訝しむ彼の眼前で、またも壁の一部が崩れ落ちた。

「は、はは・・・・・・見ろよ、僕達を見失ってやがる」
「・・・・・・え?」
「見えないんだよ! 土の中だからな・・・・・・音ででも探知していたんだろうが、遍在が宙に浮いたんで目標を見失ったんだ。今の内に逃げるぞ!」

地上約15メイル。
真上ならば、あの煙を引く砲弾も当たりはしない。
そう判断した2人は余裕が戻ってきたのか、降り注ぐ土塊から逃れようと身を寄せ合う生徒達の一画、一際目立つ赤い髪と青い髪に向けて杖を構える。
その2人の近くに、ルイズとギーシュが居る事を知っているからだ。

「置き土産だッ!」

そして振動で身動きの取れない彼女達に向かい、遍在も含め一斉に『エア・カッター』を放とうとした、その時。



「あ?」



今までとは比べ物にならぬ量の土砂と共に空中へと飛び出した異形の爪に絡め取られ、2体の遍在が一瞬にしてその肉体を四散させた。
高速で回転する6本の爪は2体を文字通りの挽肉と化し、その破片を地上へとばら撒く。
異形は耳を劈く様な奇声を上げつつ広場へと落下、またも地中へと消えた。


「・・・・・・」
「う、嘘だ」


何の事は無い。
要は魚と同じ、深く潜り、勢いを付けて飛び出しただけに過ぎない。
違いを挙げるとすれば、下は水面ではなく地面であり、『獲物』の高さは30サントではなく15メイルであった、という事だが。

「ど、どうする、どうしよう、なぁ」
「・・・・・・」

彼等の内、一方が錯乱を始める。
無理も無い。
安全地帯である筈の空中ですら、あの異形にとっては狩りの範囲内なのだ。
そしてあんな物を見せられては、地上に降りる気にもなれない。
なれる訳が無い。
しかし刻々と減り続ける精神力は、何時までも空に在る事を許してはくれない。

「聞いてるのかよっ!? どうするんだって」
「黙れぇっ!」

そして極度のパニック症状へと陥った彼が相方へと掴み掛かった瞬間、彼は腹部に杖による強烈な打撃を浴びて意識を失い、地上へと落下していった。
残る1人は荒い息を吐き、血走った眼で何事かを呟いている。

「おおおお前が悪いんだ・・・・・・こここんな時に気が触れるから・・・・・・お、囮になるのはお前が適任だろ」

どうやら相方を餌にして、異形が彼を襲っている間に逃げる算段らしい。
悪くない判断ではある。
しかし彼は、もう1体の異形の存在を失念していた。


「いい今の内に」


その言葉が最後まで紡がれる事は無く、ヴェストリの広場上空に比較的硬い何かが割れる音が響く。
彼の意識を永遠に刈り取ったのは、時速300リーグで飛来した30トンの鉄塊による体当たりであった。



調度品が散らばり燦々たる有様を呈する学院長室で、4人の教師達は言葉も無く遠見の鏡を見つめていた。
其処には無残としか言い様の無いほどに破壊されたヴェストリの広場が映し出されていたが、それを為した異形の姿は既に無い。
4人の生徒其々の周囲には水系統のメイジが群がり、必死の救命活動を繰り広げている。
誰もが無言でそれを見る中、オスマンが重い口を開いた。

「あれは・・・・・・何かの」
「・・・・・・さあ」

それは誰の返事だったか。
再び室内には沈黙が下り、鏡には広場から運び出される4人の姿が映し出される。
モンモランシーは軽傷だったのか、ギーシュに付き添いながら自身の足で広場を立ち去った。

「ゴーレム・・・・・・でしょうか? ミセス・・・・・・」
「て、鉄で出来た蠍型のとなると・・・・・・ミス・・・・・・」
「不可能です。あれだけ精巧な物となると、創り上げるだけでも少なくともスクウェアクラスが4人は必要です。動かすとなると・・・・・・」

土系統のスペシャリストである2人から揃って放たれた否定の言葉に、オスマンとコルベールは難しい顔で考え込む。
生物の様でそうではなく、かといってマジックアイテムであるかといえばそれも不自然。
実のところ、コルベールだけはあれに最も近い概念を理解出来る存在なのだが、彼の知識からは余りにも飛躍した超技術に理解が追い付いていない。
しかし、思うところは在った。

「オールド・オスマン」

見れば彼は横目で、ロングビルとシュヴルーズを指している。
オスマンは咳払いをひとつ、威厳を纏って2人に指示を下した。

「ミセス・シュヴルーズ、そしてミス・ロングビル。君達にはあの4人の怪我の具合を見てきて貰いたい。それと建物の損壊状況もじゃ。彼等への処分は後に下す。以上じゃ」

その言葉に我に返った2人は、軽く礼を返し退室する。
ロングビルの方は何処か名残惜しげであったが。
そして2人が扉の前から去った頃を見計らい、オスマンはコルベールの言葉を促した。

「それで、何かの?」
「あの蠍が用いた飛び道具・・・・・・『似て』いませんか?」
「・・・・・・『火竜の息吹』か」

頷くコルベール。
彼の鋭い観察眼は、異形が用いた炸裂弾と自身が解析した未知の銃弾との共通点を見逃さなかった。

「あの異形と銃は恐らく、同系統の技術を用いていると思われます。2つには何らかの関連性が在るのではないでしょうか。もしや双方ともロバ・・・・・・」
「ミスタ・コルベール!」

その一喝に、コルベールは思わず口を噤む。

「何処に耳が在るか分かったものではない・・・・・・迂闊な事を口にせんように」
「・・・・・・申し訳ありません」

そうだ。
こんな事が王宮に知れれば、一体どうなる事か。
東方の地より来た強大な力を持つ異形と、貴族の力を超越する銃。
そんな物の存在が知れれば、あの腐りきった貴族どもは暇潰しにまた戦争を始めかねない。
いや、最悪あの異形の主であるミス・ヴァリエール共々、アカデミーの連中に研究対象として捕縛される可能性も在る。
尤もその場合、トリスタニアもこの学院も只では済まないだろうが。

「・・・・・・コルベール君、率直に訊こう。あれを打ち滅ぼせるかね?」

その質問にコルベールは一瞬だけ目を見開き、次いで苦々しい口調で声を発した。

「・・・・・・呼吸をしているのであれば、或いは」
「・・・・・・望みは、薄いの」

学院長室に、再び沈黙が下りた。



「う・・・・・・ん・・・・・・」

静寂に満ちた医務室に、微かな声が響く。
ベッドの上で目覚めたルイズは、自身の左腕に微かな重みを感じて視線を転じた。
眼に入ったのは、鮮やかな赤い髪。

「キュルケ・・・・・・」

そこにはルイズの手を握り締め、そのままうつ伏せにベッドへと寄り掛かって眠るキュルケの姿が在った。
身を起こすと振動を感じ取ったのか、キュルケも薄らと瞼を開く。

「ん・・・・・・」

ゆっくりと起き上がり上半身を起こしたルイズを眼にすると、寝惚けた声でその名を呼んだ。

「ルイズ・・・・・・?」

しかしそれも一瞬の事、直後にははっきりと眼を見開き、ルイズの肩を揺さぶりだす。

「ルイズ!? ルイズ、目が覚めたのね、ルイズ! よかった・・・・・・!」
「ちょ、ちょっとキュルケ!」

またもや決闘の直後の様に抱き締められ、息苦しさと気恥ずかしさからルイズは赤面した。
しかしキュルケはお構いなし、わたわたと腕をばたつかせるルイズを腕の中に閉じ込め、思う存分その感触を堪能する。
尤もそれは艶めいた感情からではなく、ルイズが生きているという事を確認する為の行為であった。

「貴女、2日も目を覚まさなかったのよ!? 腕も脚も骨ごと切り裂かれて・・・・・・」
「・・・・・・そう、だったの」

キュルケが叫ぶ様に発した言葉に、ルイズは現実感に乏しい感想を抱きつつ応えを返す。
そして何となく隣のベッドへと目をやると、皺が寄ったままのシーツが目に付いた。
そこで彼女は、自分と一緒に攻撃を受けたであろうギーシュの事を思い出し、キュルケへと問い掛ける。

「ギーシュは?」
「彼もさっき目覚めたのよ。暫く貴女の事を気遣っていたけど、今はあのメイドの娘に頭を下げに行ってるわ」
「あいつが?」
「ええ」

意外だとでも言いたげなルイズに、キュルケは苦笑を返した。
しかし続くルイズの言葉に彼女は、その表情を一瞬にして引き締める。

「・・・・・・あいつらは?」

苛烈な目で問うルイズ。
その様子からキュルケは、ルイズが彼等を決して許そうとはしていない事を読み取る。

「あいつらはね・・・・・・」

キュルケは決闘の顛末と、彼等に下された処分について語り始めた。



トリステイン魔法学院より120リーグほど離れた平野。
そこに1台の見るからに作りの良い馬車が、数騎の騎兵と共に南東へと向かっていた。
既に時刻は深夜、空には2つの月が浮かび、其々が異なる色彩の光を放つ。
そして馬車の中では、全身に癒え切らぬ傷を負った1人の少年が怨嗟の声を吐き散らしていた。

「絶対に・・・・・・くそ・・・・・・絶対に・・・・・・絶対・・・・・・決して・・・・・・」

血が滲むほどに両の手を握り締め、鼻から耳元に掛けて刻まれた傷を爪で掻き毟りながら、彼は憎悪の呪文を紡ぎ続ける。
あの決闘の後、ついにその乱行に堪忍袋の緒が切れたオールド・オスマンから直々に、即時退学との処分が申し渡されたのだ。
それは彼の相方も同様ではあったが、彼の場合はまだ幸福だったかもしれない。
鋼の巨体による突進を受けた彼は、肉体の傷こそ癒えたものの結局意識が戻らず、今も北へと向かう馬車の中で呼吸をするだけの置物と化している筈だ。
尤もあんな裏切り者がどうなろうと、彼にとって知った事ではないが。

「ヴァリエール・・・・・・グラモンッ・・・・・・!」

自らの内を満たす復讐心に、怨敵の名を呟いたその時。
御者の慌てた声が聴こえ、次いで馬車が急に停車した。
反動で椅子から転げ落ちそうになった彼は、御者へと凄まじい罵声を浴びせた。

「何をしている! 貴様は御者の癖に馬車ひとつ扱えないのか!」
「も、申し訳ありません。何か巨大な物が道を塞いでおりまして・・・・・・」
「何?」

その言葉に窓から身を乗り出した彼は、心臓を鷲掴みにされた様な恐怖と共に凍り付く。
前方で道を塞ぐ様に鎮座していたのは、あのルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔―――――空飛ぶ鉄塊だった。

そして、恐怖に慄く彼と哀れな御者、騎兵達の目の前で、鋼鉄の悪夢が具現化する。

「あ・・・・・・あ・・・・・・」

地面を闇色に染める影が見る見る内にその幅を狭め、代わりに丈が塔の如く伸び始める。
周囲には金属音が幾重にも鳴り響き、それに合わせて影は徐々にその大きさを増してゆく。
月は既に影に隠れ、無力な貴族達を闇が覆い尽くした頃―――――



宙に浮かぶ月よりもなお青い光が、其処に在る全てを呑み込んだ。



2日後、すっかり回復したルイズは何時の間にか自室に面した広場へと戻ってきた使い間の内部に座し、ガラス越しに覗く風景を眺めていた。
彼女とギーシュに下された処分は大したものではなく、療養中も含め3日間の謹慎というもの。
既に前日をもってその期間は過ぎ、こうして己の使い魔と向き合っているという訳だ。
尚、建物の修繕については彼女の実家から費用が出されている。
通常ならば考えられない事だが、愛娘がトライアングルメイジ2人と相対し、しかも勝利を収めたとの報告に狂喜した両親が、気前よく送ってくれたのだ。
普段は決してそんな素振りを見せないルイズの両親だが、その実、娘達への溺愛振りは凄まじい。

「考えてみれば、アンタの名前も知らないのよね、私・・・・・・」

そう呟き、溜息を吐くルイズ。
キュルケや他の級友達から聞いた蠍型のゴーレムの事も含め、自分は使い魔の事を何も知らない、と落胆する。
その時、複雑な装置の間に備え付けられた、小さな箱に嵌め込まれているガラスの表面に、ハルケギニア言語の羅列が流れた。
一度はそれを見逃しかけたルイズだったが、再び流れたその文字を今度こそ読み取った彼女は、それを小さく声に乗せる。

「『ブラックアウト』・・・・・・貴方、ブラックアウトっていうのね?」

じゃあ、あの蠍は? と興奮気味に口にすると、またもや文字の羅列が流れた。

「『スコルポノック』・・・・・・ブラックアウト・・・・・・スコルポノック・・・・・・それが貴方達の名前・・・・・・」

嬉しそうに呟く彼女の頭上、折り畳まれた6枚羽の上で、小鳥達の囀りが響く。
日に晒された側面が暖かいのか、ブラックアウトに寄り添って昼寝をするシルフィードとフレイム、ヴェルダンデとロビンの姿が印象的な、温かい日差しが降り注ぐ午後の事だった。



「エレオノール様、サンプルの収集は終了しました」
「御苦労。それを持って直ぐに王都へ帰還しなさい」
「はっ」

眩い日差しが降り注ぐ中、王立魔法研究所所属のメイジ達は試料の採取に余念が無い。
それを指揮する彼女―――――エレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエールは、目前に広がる光景に戦慄を隠せなかった。
そして無意識の内にぽつりと、その内心に渦巻く疑念がその口から零れる。。

「一体どんな魔法を使えば・・・・・・いえ、これは本当に魔法・・・・・・?」


彼女の前には幅50メイル、長さ6リーグに渡って抉られ融けて固まった大地が、降り注ぐ日光を反射して輝いていた。


トリステイン魔法学院南東120リーグ付近で目撃された深夜の閃光。
北90リーグで発生した大規模な陥没事故。
ほぼ同時刻に起こった2つの現象。
これらの関連性については、アカデミーによる調査に於いても何ら判明してはいない。

尚、トリステイン魔法学校を出立した貴族の馬車が2台、従者諸共行方不明となったが、これについては碌な調査も為されぬままにメイジ崩れの野盗による襲撃に遇ったと断定され、調査は打ち切られた。
その裏にアカデミー、または魔法学院による情報の操作が在ったかは、現在も定かではない。



back / next

新着情報

取得中です。