あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

T-0 03


 一瞬、ターミネーターは唇を合わせる行為に対して微かに驚き、しかしすぐさま答えを導き出した。

 メモリ・バンク(要するにデータフォルダ)に記録されている事項では、これはキスと言うもののはずだ。
 主に、「人間の感情の中で最も理論的ではない『愛』と呼ばれるものを持つもの同士が行う」、と彼のデータにはあった。
 それ以上は、解らない。
 自分は元々殺人用に作られたマシーンだ、必要ないものがプログラムされている事はない。

 潜入用に製造されたとはいえ、主な仕事はT-600シリーズと同様に反乱軍のアジトに人として侵入し、
 入るなりプラズマ・ライフルを撃ち、無差別に虐殺していくことが任務。彼の根底にある存在理由――プログラム――だ。
 更なる隠密行動用にはスカイネットが別の機体を作り上げている。一つはターミネーターと同じT-101型の改良戦士【T-850】。
 外観はT-800と変わらないものの、そのボディ強度、パワー、持続性、インテリジェンスはどれをとってもT-800より上になっている。
 さらに心理学や、いわゆる人間の男女間の力学についてなどが新たにプログラムされ、T-800より人間くさく行動する事が可能だ。
 だが、まだ完成していない。このT-850は彼が1994年に送り込まれる際、タイムワープに必要な機械を奪うために占領したスカイネットのアジトから設計図が見つかっただけだ。
 特に量産する予定もなく、どうやら反乱軍の要人のみを殺すように仕向けるらしいが、アジトが爆破された今となってはそれが誰か分かるはずも無い。
 もう一体は、彼が1994年の世界で戦ったターミネーター【T-1000】。
 液体金属のボディを持ち、自分の体躯のものにならなんにでもそっくり変身する。打撃も銃も聞かない、まさに暗殺の為に作られたターミネーターだ。
 過去世界で勝てたのは送られて来たT-1000がプロトタイプであったからだろう。もし完全な奴だったら、勝てる可能性は格段に低くなっていた。 


 唇が離れるまで、ターミネーターは何もしなかった――――いや、何もできなかったと言うべきなのか……
 決して彼の反射神経が鈍いわけではない。むしろ、人の何倍ものそれをターミネーターは持っているのだが、
 彼だって、不意打ちを食らう事はあるのだった。

 彼のCPUに熱がほとばしった。
 それは一瞬で、流石のターミネーターも捕らえられないほど短く、気のせいだと認識するほど微かなものだった。
 パチッ、と次には音がした。なにか電子回路がショートしたような不吉な音だ。

 パチッ! 

 再び、音が鳴る。今度は逃すまいとターミネーターの聴覚は発信源を掴んだ。
 音は自らの体内――――思考機能を集めたモジュール及びCPU――――から発生していた。

 ターミネーターは即座に全ての回路を検査し始めた。
 一つ一つの機能を高速で、しかし確実に確認していく。そして最中、前方表示画面に突如としてみた事もない文字の、記録にもない羅列が映りこんだ。
 ターミネーターの思考回路はそれらをウイルスだと認識した。今まで見た事もないウイルス。
 駆除するために排出したはずのバスターソフト及びワクチンが次々とウイルスに飲み込まれ、姿を変えていく。
 止められない。送り出すデータや身体機能を丸々飲み込んで形を変えていく。
 これは、まるで【スカイネット】そのものだった。
 前方表記には既に警告が映り、赤い画面がちかちかと点滅を繰り返している。  
 止められない! ターミネーターの頭が痙攣を起こしたように揺れた。

 彼の目の前に、今一度サラ・コナーとジョン・コナー、そして『彼の妻』の姿が背景を黒にそれぞれ並んで映った。
 皆が皆、苦笑とも取れる顔をしている。サラは最後に握手を交わしたときの、ジョンは自分を送り出すときの、彼の妻もまた、私を送り出すときの顔。
 しかし、記憶回路が犯され始めたのだろうか、彼らの画像にひびが入ると一斉に粉々に割れた。
 ターミネーターの目の前には、もう暗闇しか映ってなかった。
 彼はその中で、自分の任務に関するプログラムがなんの機会媒体も通さずに、新しいものに書き換えられている事に気づいた。

 両膝を突き、崩れるように前のめりに倒れれる。
 最後に、目の前にいた『ルイズ』という名の少女の、小さな悲鳴が耳に届いた。

 ターミネーターは再び、つかの間の闇に意識を落とした。



「な、なんなのよ。こいつ……」

 しりもちをついたままのルイズは、自分の目の前で突如として倒れこんだ男を見た。
 あれほどの力を持っていた男が、イキナリ力なく崩れ落ちた事に疑問を感じつつ、

「(もしかして私のせい? ……私が『コントラクト・サーヴァント』しちゃったせいなの?)」と思う。

 コントラクト・サーヴァントでルーンが焼きこまれる際に、相応の痛みが使い魔を襲う事は認知していたが、
 まさかそれで気絶(?)してしまうとは思ってもみなかった。念のためにつんつんと足先で男の肩をつついてみるが、
 足の指に硬い金属に当たったような刺激がくるだけで、男の方に動く気配はない。
 男が倒れる前に、左手に光が走りルーンが出来上がったことはわかっていたので、一応これで主人に危害を加えることはないとは思う。
 でも、この男の無機質な目を思い出すとどうしても信用できない。
 ルイズは、男の目が人を人と思っていない、まるで感情や心が抜け落ちた亡霊のようだったと思い返した。

 上から、ルイズを覆うようにして影が現れた。
 コルベールだった。彼は心配そうに眉を曲げてルイズを見た後、男の左手に駆け寄った。
 恐らく、刻まれたルーンを確認するために。

「ふんっ! ……なんだ、やけに硬くて……重いなッ!!」

 だが、コルベールがいくら力を込めて体を動かそうとしても、男の体は凍りついたように動かなかった。
 渾身の力を込めても、やはり微動だにしない。人間の重さじゃあないぞ! こいつは。
 仕方ないので、しぶしぶ腕を持ち上げて覗き込むことにしたのだが……

「(な!? やはり重いっ……?)」 

 しかし、それも中々に難しい事だった。 
 コルベールは両手で、やっと持ち上げた。人間の腕を持ち上げていると言うより、この大きさの鉄の塊を持ち上げてると言ったほうが
 いくらか現実的に思えるほど男の腕は重かったのだ。それは丸太のような見た目からしてもわかりそうな事だったが、それを含めた上で異常に重いのだ。
 それでも何とかルーンを覗き込んだコルベールは、一息つけると同時に腕を落とした。

「はぁ、はぁ……珍しいルーンだ……はぁ、はぁ」 

 汗をたらし、息を切らしながらコルベールは言った。
 全く、コレだけの感想を言うために、なぜこれほど疲れなければいけないのだ?
 なんだか無性に腹が立ってきた気がするが、仮にも生徒の前で倒れている男を蹴り飛ばすなんて真似ができるはずもなく、
 両手を叩いて未だにざわめきの収まらない生徒たちの意識を自分に集めた。



 近くにいるはずのコルベールの声が、なぜか遠くに聞こえた。
 ルイズはしばらく腰が抜けて立てなかったが、持ち前のプライドと気力でふらふらしながら立ち上がる。
 そして、男を見下ろした。男はまだうつぶせに倒れ、眠るようにと言うか、死んだようになっている。
 さすがにもう、あの威圧感は感じられない。
 ルイズは睨みつけるようにしばらくそうしていたが、もはや雑音と化したコルベールの声が聞こえなくなってようやく踵を返した。
 そして、近くにあの青髪の少女を見つけると、大股で近づいて背後から肩を叩いた。

「……ありがと」

 振り返った少女は最初不思議そうに顔を傾かせたが、言葉の意味を理解したのか一言だけ、ルイズに聞こえる程度に呟いた。

「どうも」

 青髪の少女は言い終わると背を向けてきびきびと歩き出した。
 小さくなる背中を見つめながら――こんな事を言うのは失礼なのだが――ルイズは名前の解らないあの少女の消え入りそうで、無関心な目がしたどことなく、
 背後でいつの間にか立ち上がっていた男の目に、似ている気がした。



「タバサ。あなたったら、やっぱりすごいわね」

 背後から聞こえてきた声は、気配と共に誰なのか考えるまでもない。
 タバサは振り返りもせず、歩きながらも器用に読み進める本から目を離さなかった。

「何が」

 ただ、ちゃんと受け答えだけはする。
 彼女は学院での、数少ない友達と呼べる存在だから。

「あんな不気味な存在相手に真っ向から話せるんだもの。私だったら、うーん、ちょっと出来ないわね」

 タバサの眉がわずかに揺れ、ページをめくる手をピタリ止めた。
 意外だ。何であろうとキュルケが男に対し、冗談でも『不気味な存在』などと恐怖めいた感情を口にするのは。
 ちらりとキュルケを一瞥する。彼女はやや身を捩じらせて、奇妙なポーズをとっていた。

「(あれは……)」

 視線をキュルケから外し、首を回して後ろへと注意を向ける。
 まざまざと動揺の見て取れるルイズが、起き上がったあの男に驚きにうまくロレツの回らない口で一生懸命に何かを話していた。
 きーきーうるさいだろう言葉を、男は黙って聞いている。
 不意に、男の目がタバサの目を覗き込んだ。それはほんの一瞬だったが、あの男は確かにこちらを見た。
 キュルケは自分の話に熱が入りすぎて気づいていない。
 タバサは目を細めて、まるで威嚇するように男をにらんだ。しかし、元々目が合ったのは一瞬だっただけに、
 男の鋭い視線は既にタバサから逃れ、下方にいるルイズへと向けられていた。 


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