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るいずととら第三章-4


「なな、なによっ! ばかばかばか、とらのバカ! 変態! いい、いやらしい、いやらしいわ!」

さっきからルイズが手当たり次第に物を壁に投げつけるせいで、ルイズの部屋は竜巻が通ったあとのように惨憺たる状況となっていた。
ルイズの目は真っ赤になっている。鳶色の瞳には大粒の涙が浮かんでいた。

「……恋だったんだねえ娘っ子」
「うっさい!」

一声さけぶと、ルイズはデルフをぶん投げ壁に叩きつけた。ゴトンと床に落ちたデルフリンガーは「ぐえ」と一声呻いて、それっきり動かなくなった。
手に届く範囲のものを全て投げたルイズは、ふー……ふー……と荒い息をつきながら周りを見渡す。
……だが、そのうちにくにゃりと体から力が抜け、ルイズはベッドにへたり込んだ。嗚咽がこみ上げてくる。

シーツをぎゅっと握り締めて、ルイズは枕に顔を押し付ける。

(違うもん……恋じゃないもん……)

とらへの気持ちは、デルフの言うような『恋』ではない、とルイズは思う。

(そそ、そりゃあ、ちょっとだけ……どきっとしたりとかはあったわよ……でも、結局人間と幻獣だもの。それぐらい分かってるわ……)

ルイズにとっては、あの金色の使い魔はもっと大切なものだったのだ。
魔法が使えず『ゼロのルイズ』と呼ばれて馬鹿にされてきた自分を変えてくれたものなのだ。今ではもう、『ゼロのルイズ』と呼ぶものは一人もいない。
そのとらが、自分の手を離れることが怖いのだ。
強力な使い魔がいなくなれば、魔法の使えない自分は、再び『ゼロのルイズ』に逆戻りしてしまう……そう考えるのは、ルイズにとって何よりも苦痛だった。
……だから、あの竜に嫉妬しているのではなく――ましておっぱいが大きいからうらやましいとか、そんなことを考えているわけではないのだ、断じて。
ルイズはプライドにかけてそう自分を納得させた。

(……やっぱり、キュルケの言う通りだった。私、甘えてたのかしら……)

そう思いながらも、ルイズの涙はとめどなく溢れる。自分では気がついていない心のどこかで、やはりとらに憧れていたのだろうか。
人語を解する韻獣であり、風竜よりも速く空を飛び、スクウェア・クラスのメイジを越える炎と雷を放つ。

(その上、髪の毛で剣を自由に操り、呪文の詠唱なしで人間の姿に変化し、壁をすり抜け姿を消し……って、なにそれ。何でもありじゃない!?)

改めてとらの有能さに打ちのめされるルイズ。自分はどうだろうか……少しは成長しているだろうか……?

答えは否であった。
ルイズは机に頭を打ち付けはじめた。

そんなルイズを見かねたように、デルフリンガーが声をかける。

「おい、娘っ子……そんなに自分を責めるもんじゃないぜ……相棒の強さは並じゃねえ。そんな使い魔を召喚できたのはおまえさんぐらいだろうよ。
 だから……胸を張りな」
「デルフ……」

額を赤く染めながら、ルイズはデルフリンガーを見つめる。ルイズはそっと立ち上がると、インテリジェンス・ソードを拾い上げ、ベルトを自分の肩にまわした。

「おでれーた、何のつもりだ、娘っ子?」
「とらは使わないでしょ……せっかくだから、あたしが使ってあげる。もったいないし。いいことデルフ……」

ルイズは決意した表情で、すう、と深呼吸した。いやな予感がデルフの脳(どこかにあるとしてだが)をよぎる。


「今日からわたし、魔法剣士になるわ……!」


……まったく突然の宣言であった。
部屋に気まずい沈黙のカーテンがするすると下りる。やがて、言いにくそうにデルフリンガーが口を開いた。



「……冗談きついぜ。おまえさんじゃ、満足に振ることもできねーよ……」
「う、うるさい! これから鍛えればなんとでもなるわよ。女剣士ならいくらでもいるじゃない! それとも、このまま埃かぶってるほうがいいってわけ!?」

どっちもどっちだなあ……、と嫌そうにぼやくデルフ。苦情には取り合わず、ルイズはごしごしと涙を拭くと、散らかした部屋の片付けを始めた。

「あらまあ……どうする?」
「どうしましょう……?」
「……どうしようもない」

ドアの外では、キュルケとタバサ、シエスタの三人が困ったように顔を見合わせていた。いや、あなたのせいでしょ、とキュルケがタバサの頭をポカと叩く。
シエスタは『お茶』を入れたティーポットにカップを持っている。タバサはキュルケに叱られ、ガリア王家の任務について白状させられた上で、ここまで引きずられてきた。
そして、ドアの前で鉢合わせしたところで、ルイズの『魔法剣士』宣言を聞いたのであった。

(ルイズ……あなたってバカね……ほんとに)

自分のアドバイスが友人をさらに迷走させていることに頭を痛めながら、キュルケはドアをコンコンとノックした。


タバサがカップをシエスタに差し出した。

「……おかわり」
「は、はい……どうぞ、ミス・タバサ」
「タバサ……あなた、それもう五杯目よ?」
「美味しいから」

まあ……ならいいけど、とキュルケは溜息をつく。シエスタの『お茶』は、大いにタバサの気に入るところとなったようであった。
キュルケはシエスタのほうを向いて、一つ咳払いをした。シエスタの『相談事』のほうは、さっきからタバサに腰を折られているのだ。

「コホン……それで、村に出る妖魔ってどんな奴かしら、シエスタ。続けてちょうだいな」
「はい……オーク鬼なんですが……少し様子がおかしいらしいんです」

シエスタは故郷届いた手紙に書かれた内容について話し始めた。

ラ・ロシェールを越えた草原が広がる中に、シエスタの故郷タルブの村はある。そして、オーク鬼は出没するのは村はずれの寺院であると言う。
その寺院は扉が閉ざされ、どうしてもあけることができないため、「開かずの寺院」などと呼ばれて近づく人もいない。
そんな見捨てられたような寺院の周りに、最近になってオーク鬼がうろつくようになったのである。
本来、オーク鬼は人を襲う。しかし、どういう訳か、その寺院の周りを囲むように集まるだけで、タルブの村を襲ってくる気配はない。
そのため、王宮に出した討伐依頼も、犠牲者が出ていないこともあって、かんばしい答えが返ってこないのであった。
しかし、日に日にオーク鬼の数は増え、村人は怯えている。一説には、その寺院が――

「……おかわり」
「タバサ。邪魔しないの」

カップを差し出すタバサの頭をポカリと叩くキュルケ。シエスタがタバサのカップに、ポットから『お茶』を注ぐ。

「一説には、その寺院の扉が開かなくなったのは、そこに女の『幽霊』が住み着いてからで――きゃあ、み、ミス・タバサ? ど、どうしたんです、カップをひっくり返して!?」
「……な、なんでもない」

カップのお茶を零し、カタカタと震えながら顔色を青くするタバサ。首をかしげながらも、テーブルを拭き、シエスタは説明を続けた。

「それから、寺院には誰も入れなくなったと言います。とにかく、そこにオークが集まってきて……もう五十匹近いって、手紙では知らせています」
「ご、五十ですって……」
「お、お願いです、助けてください! ミス・ヴァリエール、ミス・ツェルプストー、ミス・タバサ! 村を、私の故郷を救ってください!」

そう言ってシエスタは必死に頭を下げた。ルイズとキュルケは顔を見合わせる。正直、一生徒の手に負える数でもなかった。
ただ一人、戦闘経験の豊富なトライアングル・メイジの彼女を除いては……
ルイズはじっとタバサを見つめる。



「……どう、タバサ。私たちで戦えるかしら……?」
「無理。私行かない」

即答である。

「タバサ、あなた……オーク鬼のところよりも、幽霊の話で怖がってないかしら……?」
「ない」
「ひょっとして、タバサって怖がりなわけ? 呆れた……トライアングル・メイジなのにユーレイが怖いの?」
「違う」

口では否定するものの、よほど幽霊が怖いのか、頑として譲らないタバサである。シエスタが心配そうに見つめる中……キュルケとルイズがどうにも説得しあぐねていた、その時――
――どこからか、声が聞こえてきた。

『やーれやれ、心配ないぞう……』
『お役目さまは幽霊でも綺麗なお方だよぅ……』

「ひ」とタバサが声を漏らす。

「ル、ルイズ……どこから聞こえるの?」
「わわ、わかんないわよ……! ちょっと! 誰だか知らないけど、でで出てきなさいよ……!」

声を震わせながらも、ルイズとキュルケはキョロキョロとあたりを見回した。……と、壁から、ぬ、と細い腕が現れる。
唖然とするルイズたちの前で、まるで霧をぬけるようにやすやすと、『それ』は壁から現れて見せた。

その姿は、まさに妖魔――という言葉しか見つからなかった。
腕と足は三日月状の胴体から突き出ている……のだが、あろうことか、胴体は真ん中から真っ二つに分かれており、そこから二つ、頭が覗いているのだ。

『あたしは時逆……』
『そして、あたしが時順だよう。時の狭間を旅する妖怪さーあ』

その『頭』がそれぞれ自己紹介して、シエスタ、ルイズ、キュルケの三人は唖然とした。タバサに至っては、既に失神して意識は闇の中である。

「な……なにをしにきたの……何の……用……」

に、と時順が笑う。

『……そこにいるシエスタ嬢ちゃんと同じ用さぁ』
「え、え? な、なんで私の名前を……!」
『なーに、なんでも知ってるさ……生まれたときからずっとなあ。わしらは「時」を旅すると言ったろう……』

慌てるシエスタに時逆が言う。続けて時順が口を開いた。

『さーて、ルイズ嬢ちゃん、お前さんの「時」が来たよう。見るべきものを見、知るべきことを知る「時」がなぁ……』

そう言って、時順はルイズに向かってニヤリと笑って見せた……。


ごぉぉおぉおぉおおおぉう……


タルブの村に、唸りをあげて風が吹いた。
オーク鬼たちの間を吹き抜ける風は小石を巻き上げ、寺院の壁にパラパラと音を立てる。
ぶごぉっ……ぶぎぃ……
異形に取り付かれ、片目が巨大に膨れたオーク鬼たち――いや、かつてオーク鬼だったもの、というべきだろうか――は、村はずれの寺院の周りをうろつく。

――いるぞ……ここにいるぞ……壊せ、壊せ、白面の御方の御為に……
――嫌なもの、恐ろしいものがここにいる。この中にいる……

おぞましい婢妖たちの呟きが夜の闇を震わせ、やがて風に消えていった……。


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