あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

S-O2 星の使い魔-04


「朝だよ、ルイズ」
 肩を掴んで前後にゆさゆさと揺らす。

「ん~、あと5分だけ……」
 起きない。




「ルイズ、起きろってば」
 ほっぺをペシペシと叩く。

「ん~、姉様、ごめんなさぁい……」
 起きない。




「よっ、と」
 問答無用で毛布を剥ぎ取る。

「ん~、ちい姉さま、あと10分……」
 起きない。



「……」


「しぇぁッ!」
 ゴスッ
「ごふぁッ!」

 肘が鳩尾に突き刺さり、ルイズはようやく目を覚ました。


「あ、あんたねえ……もう少し紳士的に起こしなさいよ……」
「だったら淑女らしくシャンと起きろよな。
 ええっと、着替えはクローゼットの中でよかったっけ?」

 起きたルイズと起こしたクロード、双方とも機嫌はすこぶる宜しくない。
 ルイズは絵に描いたような膨れっ面だし、
 クロードはクロードで着替えを淡々とベッドに腰掛けるルイズの横に置いていくばかり。
 本日、学院周辺に雷、及び血の雨警報が出ております。
 周辺住民の皆様、特にクロード・C・ケニー君は十分にご警戒ください。
 警戒しても回避できるかどうかまでは責任持てませんが。

「……」
「……」
「……何だよ」
「……着せて」
「……は? って、ちょっと待て! それは幾らなんでも無いだろ!?」


 一瞬の空白を置いたのち、全力で抗議するクロードであったが、
 曰く、貴族たるもの下僕がいる場合は自分で着替えたりはしないということ。
 昨日の様子から『平民』であるクロードに対して、羞恥心など持ち合わせていないらしいこと。
 そして、トドメに飯抜きを条件に出されては従うしかなかった。

 その後の数分間、クロードは地獄だったのか天国だったのか、極めて判別しづらい時間を過ごすことになる。
 一つだけ言うなら、この着替え中ずっとクロードはルイズと目を合わせられなかった。

「ご苦労様、意外と手際がいいのね。
 褒めてあげるわ、光栄に思いなさい」
「そりゃどうも……」

 怪我人相手の看護訓練が役立ったとは流石に言えないクロードであった。
 朝っぱらから理性と本能のせめぎ合いに神経をすり減らしたクロードを尻目に、
 ルイズはさっさと部屋の扉を開けて出て行こうとする。



「あら、おはようルイズ」
 眉間に皺発生。

「おはよう、キュルケ」
「あなたの使い魔って、もしかして……」
 こめかみに青筋発生。

「そうよ。何か文句あんの?」
「あっははは! 何かの間違いとも思ったけど、
 ホントに平民を召喚するなんて、流石『ゼロのルイズ』は一味違うわね!」
 デコにも青筋発生。

「うっさい! で、何の用なわけ?」
「いえね、大したことじゃないんだけど。
 私のフレイムにあんたの使い魔を紹介してあげようと思って」
 デコの青筋追加。

 どう見ても遊んでます。本当にありがとうございました。
 ってか、これ以上はマジで勘弁してください。とばっちり喰うのはこっちですから。

 どうやらルイズのクラスメートらしい女子は、にやにや笑いながら火蜥蜴─────サラマンダーの頭を撫でている。
 その肌は健康的な褐色、燃えるような赤い瞳は、片方がこれまた赤い髪に隠されている。
 生来の気性なのか、それともルイズへのあてこすりだろうか、
 ブラウスの第一、第二ボタンは外され、ただでさえグラマラスな肢体がさらに強調されている。

 とびきり刺激的だったアノ着替えの直後にこれは拷問に近い。
 膝をついて半ば無理矢理に視線をサラマンダーへと固め、煩悩を必死に押さえ込む。

「あら、そっちの使い魔さんはやっぱり使い魔の方に興味があるのかしら?」
「う、うん。地球……僕の故郷には、こんな生物はいなかったからね」

 ちょびっと声が上ずっている。
 実はどこぞの惑星の生物図鑑で似たような代物を見たことはあるんですが、
 とりあえず今はそういうことにしておいてください。
 正直言って目の遣り場はここしかありません。

「……さっさと行くわよ。朝食に遅れちゃうじゃない」

 いつもの7割増しで不機嫌オーラを絶賛放出中のルイズがフンと鼻を鳴らす。
 それすらも今のクロードにしてみれば、この空間から解放されるという一点だけで福音に等しい。
 フレイムの頬をポンポンと掌で叩き、出来る限りキュルケに視線を向けないように立ち上がる。
 キュルケもルイズをおちょくるのに飽きたのか、じゃあね、と投げキッスを一つ残して悠々と去っていった。


 思わぬ第2ラウンドに想像以上に精神力を消耗し、溜息を吐くクロード。
 それを聞きとがめたルイズがギン! と、凶悪な視線を向ける。
 ある意味、すこぶる全力全開絶好調である。

(あ~、この様子だと朝食には期待しない方がいいかもな……)

 ドシンドシン、とでも足音を鳴らしそうな勢いで大股で歩いてゆく主の背を見て、クロードは漠然とそんなことを考えていた。


 果たして、その後の朝食はいかにも貴族らしい豪勢なラインナップ──────の横で、パン一つと塩味のスープポッキリ。
 流石にこれではこの後がキツいので、憂さ晴らしも兼ねて食べ残しを少々くすねておいた。
 どうせ貴族の残飯など行き先は一つ、バレさえしなければ文句を言われる筋合いも無いだろう。
 いざとなれば待遇の改善を訴えれば良い。バレるようなヘマをやらかしたつもりもないが。
 明日以降に彼女のご機嫌が上方修正されていることを祈ろう。
 なお、周りの目を盗んで拝借したおかずは、どこか懐かしい味がした。色々な意味で。






 さて、朝食を済ませた学生のすることと言えば決まっている。

 二人が教室の扉をくぐると、あからさまに煽り、野次が飛んでくる。
 クロードが召喚されたときに感じたそれと同質のものだ。
 今回は言語が通じるものの、クロードは我関せずとノイズ扱いで完全無視を決め込んでいる。
 長年の経験に基づく自衛策というやつだ。
 一方のルイズはと言うと、クロードとは対照的にわざわざ律儀に怒鳴り返している。
 おまけに頭に血が上っているのか、顔が紅潮している始末。

(……一々反応して、疲れないのかな)

 クロードはぼんやりと思う。
 良くも悪くも、クロードはこの手の煽り、誹りに免疫が付いている。
 付きすぎている、と言うべきかもしれない。

 彼女のように中途半端にムキになるのは下の下の悪手。
 ムキになるだけで火の粉が飛んでこないと解っていれば、相手は必ず図に乗る。
 こういう輩に対して有効なのは、最初から相手にしないか、有無を言わさぬ実力行使のどちらかだ。
 もっとも、それを口に出して十倍返しにされるも癪なので黙っているが。

 やがて教師が教室に到着し、教室は静謐な学びの空間の体を為す。

「おはようございます。春の使い魔召喚は、大成功のようですわね。
 このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、
 皆さんの使い魔達を見るのがとても楽しみなのですよ」

 教師の言葉に反応し、クラスメートの意識が再びルイズに向けられる。
 クスクスと笑い声を噛み殺しきれていない(あるいは殺す気がない?)者も少なくない。
 ギリ、とルイズは奥歯を噛み締めるが、クロードは何処吹く風といった様子。
 だが、その後すぐにミセス・シュヴルーズが統制を取ったので、それ以上のことは特に起こらなかった。
 そう、この時点では起こらなかったのだが─────

「では、まずは基礎のおさらいです。
 ええと、そこのあなた?」
「え?」

 ぎょっとした様子で自分を指差すクロード。
 教師は、確かにクロードを指名していた。


「……まさか、僕ですか!?」
「ええ、そうよ。そこの少し変わった格好をした貴方。
 特に連絡は聞いていないのだけれど、留学生かしら?
 席も用意できなくてごめんなさいね。お名前は?」
「え、えっと、クロード・C・ケニーです」
「クロード……うん、良い名前です。では、魔法の四大系統を答えていただきましょう」

 穏やかにクロードに微笑みかけるミセス・シュヴルーズ。

 これはまずい。嫌な汗が背中を流れ落ちる。
 この教師、悪意が無いだけ余計にタチが悪い。
 クロードが使い魔であることを知らないのか、或いは馬鹿げた与太話として頭から信じていないのか。
 周りの生徒たちは好奇心からニヤニヤとこちらの様子を伺っている。

 ルイズにも視線を向けるが、あからさまに無視された。
 憂さ晴らしに恥の一つでもかかせようと言うのか、口元は意地悪そうに笑っている。
 その後に自分に飛び火する可能性にまでは頭が回っていないらしい。

(勘弁してよ……)

 クロードは天を仰いだ。
 ええい、こうなりゃヤケクソだ。

「ええっと、『火』『水』『風』『土』……の、4つですか?」

 最もポピュラーな組み合わせを適当に答える。
 教室からどよめきが起こり、ミセス・シュヴルーズは微笑んでみせる。
 どうやら正解だったようだ。今日はツイているかもしれない。

「その通り。以上の4つに、失われた『虚無』を合わせ、魔法には5つの系統が存在しています」

 はぁ、と大きく息を吐き、脱力して座り込む─────やいなや、ルイズに襟を掴まれ引っ張られた。
 額がくっつきそうな勢いで詰め寄られ、クロードはどぎまぎする。

「あんた、何で知ってんのよ」
「ま、マグレだよ、マグレ」
 嘘付けこの野郎。
 眉間の皺にそう書いてあるのを見てとって、クロードの額にたら~りと汗が流れる。
 さっきはツイてるとか思ったが、すまん。ありゃウソだった。


「あんたが知ってること、全部教えなさい」
「え、えっと、あのさ、ルイズ」
「教えなさい」
「その、授業はちゃんと聞いたほうが」
「教えなさい」
「いや、だから」
「教えなさい」
「先生が」
「教えなさい」
「その」
「 い い か ら 教 え な さ い 」




「実は、『火』『水』『土』『風』の4系統が世界の基本的な要素を構成するというのは
 地球でも古くからあった概念だったんだ。
 他の……いや、色々な地方で似たような概念はあったらしくてね。
 それでここもそうなのかな、と思って適当に言ったら、運良く当たっちゃったってわけ」

 結局、ルイズに押し切られる形でクロードは己の知る限りの知識を披露するハメになる。
 飯抜きを条件に出されては、流石に抗いようが無かった。人、それを問答無用と言う。
 これもある意味で命に関わる事態だから、情状酌量の余地はあるだろう、クロード君。
 最初はこの程度で何とか茶を濁すつもりだったのだが。

「……」
「……」
「……で、続きは?」
「……はぁ。ただ、この分類も場所によってまちまちでね。
 『木』『火』『土』『金』『水』の五行っていう分け方もある」
「『木』に『金』? ふーん、『地』の細分化かしらね」
「多分、それに近い感覚だったんじゃないかな。
 これはこれで五行相活、五行相克とか色々面白いんだけどね。
 それはさておき、現行の分類はどちらかと言うと前者の4系統が主流になってる。
 これを拡張する形で、今のおおまかな分類が出来上がっているんだ。
 もっとも、この分野の研究は始まったばかりだから、この先増減する可能性もあるけどね」
「ふんふん、なるほど。それで、その分類ってどうなってるの?」
「ええっと、それは……」

 先ほどまでの不機嫌オーラは何処へやら、目を爛々と輝かせてクロードの話に聞き入るルイズ。

 もともとルイズは魔法の実技以外の成績、すなわち歴史や概念等については優秀な部類に入る。
 自身の抱える問題の原因を調べるためにも、その手の学習にはかなり力を入れているのだ。
 しかし、どんなに探しても、求めても、魔法が失敗し続ける原因の手がかりは未だ得られていない。
 本学院では実技、実践に重きを置いていることも、ルイズにとって不幸だったかもしれない。

 そんなところに現れたのが、異邦人たるクロード。
 全く別の世界、別の角度からもたらされる未知の知識、解釈。
 彼の話から、自分の抱える問題点が見つけられるかもしれない。
 ルイズにとってクロードはまさに、地獄にもたらされた蜘蛛の糸となったのだ。

 一方のクロードも、目を輝かせる主に困惑しつつも、悪い気はしていなかった。
 彼女は、これまで自分が学んできた知識に興味を持っている。求めてくれている。
 何より、生徒のモチベーションは講師にも伝染する。

 彼女は、僕の話を元にどのような考えを得るのだろう。
 新たな知識から、どんな理論を生み出すのだろう。
 どんな魔法が生み出すのだろう。

 彼の身に半分流れる学者の血のなせる業なのだろうか。
 ルイズの情熱が、未開惑星保護条約というリスクを並べたクロードの天秤を振り切った。
 腹を括ったのか、小さく一つ息を吐くと、矢でも鉄砲でも持って来いという様子でクロードは話を続ける。



 ……でも、それ以前に何か忘れてやしませんか、二人とも?



「紋章術の属性についてだけど、さっき言った『火』『水』『風』『土』。
 加えて『雷』『負』『光』『闇』『星』『無』で、今のところはこの10種類に分けられてる。
 ただ、最後の『無』が、ここで言われている『虚無』と同一かまでは解らないな。
 現状では『他の属性に分類できないエネルギー』と定義されているらしいから」
「ふうん、だったら多分それは違うわね。
 『虚無』は全ての根源といわれる力だもの」
「いや、そうとも言い切れないな。
 相対性理論……えっと、この世界を構成しているものは全てエネルギーである、っていう理論があってね。
 それを下敷きにすれば、僕らの言う『無』=ここで言われてる『虚無』という考えも矛盾しないと思う。
 まあ、まだまだ研究中の分野だから何とも言えないけどね」


「……」
 お~い、先生がこっち見てますよ。


「ただ、この分類からさらにはみ出しているものもあってね。
 治療呪紋、法術なんかがいい例だ」
「え? 何言ってるのよ、治療は『水』に決まってるじゃない」
「ああ、ここでは『水』なんだ……
 実は、治療呪紋は地方によって分類がてんでバラバラなんだよ。
 ここと同じ『水』はもちろん、『土』や『風』に『光』、『火』や『雷』まである。
 ひどいのになると、全く別の独立した系統の呪紋として扱われているケースまであるくらいさ」
「何それ、全然ワケわかんない!」
「今の研究では、これら治療呪紋は他の呪紋と一切干渉を起こさないことが確認されてる。
 そして、傷の治療や病気の治療、肉体疲労の回復に精神のリラクセーション……
 治療の内容によって各属性、呪紋によって向き不向きがあることも知られてるかな。
 何しろ学問としても新しい分野だから、まだまだわからないことだらけなんだ」
「ふーん……魔法が最先端の学問だなんて、何だか実感湧かないわね。
 私たちにとっては、この場にあるのが当然なんだもの」
「正確には魔法じゃないんだけどね。限りなく近いとは思うけど」


「「「「「………………」」」」」
 もしも~し、クラスメートの皆さんも注目してますよ。


「それより、僕が気になるのはコモン・マジックって言われてる方だな。
 『レビテーション』に『フライ』……物理法則も何もあったもんじゃない」
「ブツリホーソク? ……よくわかんないけど、あのくらい、初歩も初歩よ」
「それだよ、それが一番わからない。
『飛ぶ』『浮かぶ』ってのは、僕たちの知る世界では物凄く難しいことなんだ。
 考えてもみて。君は魔法を使わずに、僕を持ち上げたり、投げたり出来る?」
「そんなの、無理に決まってるじゃない」
「だろ。でも、それを魔法を介することで、持ち上げることも投げることも出来ない僕を、
 飛ばしたり、浮かべたりすることが出来る。
 『火』『水』『土』『風』、何の力も使っていないのに、だ」
「確かにそうね。コモン・マジックに系統は関係ないもの」



「ミス・ヴァリエール!! それにクロード・C・ケニー!!」
「「は、はひぃ!?」」

 不意に落とされた雷にビクリと反応し、ひっくり返った奇声を伴い直立不動に立ち上がるルイズとクロード。

 ミセス・シュヴルーズがごっつええ笑顔をこちらに向けていた。
 ついでに、幾多のクラスメートたちもごっつええ笑顔をこちらに向けていた。

「コホン……仲がよろしいのはたいへん結構ですけれど、今は授業中です。
 異性交遊は節度を守っておやりなさいね、ミス・ヴァリエール」
「そ、そんなんじゃありませんッ!」
 思わず机をバンッ! と叩いて怒鳴るルイズ。
 先ほどの話に加え、他の生徒たちの前で注意を受けて興奮しているのか、顔が赤い。

 駄目だこりゃ。これじゃ誤解してくれって言ってるようなものじゃないか。
 こめかみを押さえるクロード。
 まあ、原因の半分は自分にもあるのだが。

 果たして、教室中からはクスクスと含み笑いが聞こえてくる。
 これはクラスの噂のネタには当分困らないだろう。
 メディック、今日はやさしさを多めにブレンドしておいてくれ。


「ではミス・ヴァリエール、あなたには先ほどの授業の内容……錬金を実演していただきましょうか」


 一瞬で、教室から笑いの潮が引く。
 さらに教室内が突然ざわつき始め、周りを見ればクラスメートたちはやたらとそわそわしている。 

(……出来るの?)
(……出来るわよ!)
 ただならぬ気配にクロードがそっと耳打ちし、ルイズは強い調子で切り返す。

 ……嫌な予感。


「ミセス・シュヴルーズ、危険です。止めるべきです」
「あんたは黙ってなさい、キュルケ!」
 口を挟んだキュルケを怒鳴り、有無を言わせず魔法を使う体勢に入ろうとするルイズ。

 ……ごっつい嫌な予感。


「大変だー! ヴァリエールが魔法を使うぞおー!」
「ゼロ警報発令~! ゼロ警報発令~!」
「総員対ショック、対閃光防御!」
「使い魔たちは、至急非難を!」
 クラスメートたちはいよいよ一様にあたふたと騒ぎ始める。

 ……ものごっつい嫌な予感。






 この後の展開については、あえて詳しく語るまい。
 あえて一つだけ挙げるならば、クロードの予感は物の見事に的中し、授業は不成立となった、とだけ述べておく。






「……でも、爆発は予想外だったなぁ」
「うるさい! うるさい! うるさい!」


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