13
ルイズを抱え上げた男は、身長180サントあまり。均整の取れた体つきをしていた。
不思議なことに、その身体は女性のように柔らかかった。受け止められたルイズがついすぐ上の姉であるカトレアを連想してしまう
ような、柔らかい身体であった。よく考えれば胸もなく、あきらかに男の身体だというのに。
ルイズにそう思わせたのは、男の筋肉であった。生ゴムのように柔らかで、しなやかな筋肉。猫化の猛獣を思わせる優れた筋肉が
男の五体を覆っているのだ。
先ほどまでルイズを抱えていた張飛がブルドーザーやダンプカーだとすれば、この男はスポーツカーである。純粋に、速度のみを追
求した理想的なエンジンと、フレームの持ち主。そんな印象を受ける。
「おいおい/なに阿房みたいに呆けてやがんだよ/たすけにきてやったんだから、もっとよろこべってーの?/」
「で、デルフ!?」
突如現れ自分をキャッチした男。その腰に挿された顔なじみの剣を見つけて目を点にするルイズ。
「おいおい、なんだよ/もしかしておれっちがいねーことに気付いてなかったのか?/」
ぶっちゃけるとデルフのことなど完全に頭から消失していた。思わず、あはは、と苦笑いをするルイズ。
「……せっかく助っ人を連れてきたのに、なにそれ/ショックでけー/いいんだ、いいんだ/どうせおれなんて/」
答えがないのは図星の証拠と、剣の癖にいじけるデルフ。土鬼と名乗ったその男は、デルフを腰から引き抜いてルイズに渡す。
土鬼があごをしゃくって自分の後ろを指す。
「う、うま…?」
血のように赤い、見事な馬がそこにいた。
「元相棒があのオッサンは引き受けてくれるからよー/その隙に赤兎馬で戻るぞ!/」
腕の中でデルフがぎゃあぎゃあとわめく。それに答えるように赤兎馬がいななく。
ルイズは傍によって赤兎馬を観察する。なんという見事な馬だろうか。ビロードのような毛並みは、血で濡れたような色をしている。
瞳はラグドリアン湖のように深く静かな光をたたえ、一点の曇りもない。ギリシャ彫刻を思い出させるそ身体は、神の作りだした芸術
品というしかなかった。
「見とれてる場合じゃねーぞ/俺や祈祷書を落とすんじゃねーぞ!/」
デルフの言葉にへ?と首をかしげるルイズ。その瞬間、ルイズの身体は宙に飛ばされていた。
男、土鬼がルイズを後方へ投げ飛ばしたのである。
「う、うわわわわわわ!?」
突然の事態にパニック状態になるルイズ。
「ヒィィーン」
それを赤兎馬が器用に受け止めた。
「おい、嬢ちゃん/手綱をとれ!」
デルフの言葉に、慌てて手綱を握り締める。手綱を握り締めるや否や、赤兎馬は脱兎の如く駆け出した。
「な、なにこれ!?サラマンダーよりはやーい!??」
一部の人間の心臓をえぐるようなコメント、ありがとう。しかしそのコメントにまけぬ見事な走りである。元々運動神経があり乗馬に
一家言のあるルイズでなければ、場合によっては振り落とされてもおかしくないだろう。
「させるかぁ!」
だがそんな赤兎馬の前に立ちふさがろうとする一人の男がいた。山賊のような風貌の大男。
張飛だ。
その巨体に見合わぬ猛スピードで、赤兎馬の前に立ちふさがった。そして手にした槍で、赤兎馬の頭を貫かんとする。
ドスン
だが、その槍を弾き飛ばすものがあった。
土鬼だ。
左手の甲が目も眩まんばかりに輝いている。まるで月の光、日の光だ。
土鬼が猛烈な勢いで体当たりをかまし、そのまま腹部に2度、3度と拳を浴びせ掛けた。
「ぐあぁ!」
張飛が吹き飛び、もんどりうって倒れる。
よく見れば土鬼は何かを握っている。握ったそれで張飛を殴りつけたのだ。
鋭い爪のついたグローブのようなものだった。
張飛の腹部がぱっくりと割れている。鎧を貫通し、肉にまで爪が達していた。
「てめぇ、この張飛さまに傷をつけるとはいい度胸じゃねぇか」
土鬼は赤兎馬を負わすまいと、ルイズの進行方向を背に張飛と対峙する。特別な構えをせず、ほぼ自然体で立っている。
張飛が薬を取りだし、傷口にぶちまけた。見る見るうちに血がとまり、肉が繋がって傷跡がなくなる。水の傷薬を使ったのだ。
「てめぇをさっさとぶちのめしてから、あの女を追わせて貰うぜ!」
張飛が吼えた。大気が、大砲をぶっ放した後のように振動する。それはまるで雷のような雄叫びであった。
不思議なことに、その身体は女性のように柔らかかった。受け止められたルイズがついすぐ上の姉であるカトレアを連想してしまう
ような、柔らかい身体であった。よく考えれば胸もなく、あきらかに男の身体だというのに。
ルイズにそう思わせたのは、男の筋肉であった。生ゴムのように柔らかで、しなやかな筋肉。猫化の猛獣を思わせる優れた筋肉が
男の五体を覆っているのだ。
先ほどまでルイズを抱えていた張飛がブルドーザーやダンプカーだとすれば、この男はスポーツカーである。純粋に、速度のみを追
求した理想的なエンジンと、フレームの持ち主。そんな印象を受ける。
「おいおい/なに阿房みたいに呆けてやがんだよ/たすけにきてやったんだから、もっとよろこべってーの?/」
「で、デルフ!?」
突如現れ自分をキャッチした男。その腰に挿された顔なじみの剣を見つけて目を点にするルイズ。
「おいおい、なんだよ/もしかしておれっちがいねーことに気付いてなかったのか?/」
ぶっちゃけるとデルフのことなど完全に頭から消失していた。思わず、あはは、と苦笑いをするルイズ。
「……せっかく助っ人を連れてきたのに、なにそれ/ショックでけー/いいんだ、いいんだ/どうせおれなんて/」
答えがないのは図星の証拠と、剣の癖にいじけるデルフ。土鬼と名乗ったその男は、デルフを腰から引き抜いてルイズに渡す。
土鬼があごをしゃくって自分の後ろを指す。
「う、うま…?」
血のように赤い、見事な馬がそこにいた。
「元相棒があのオッサンは引き受けてくれるからよー/その隙に赤兎馬で戻るぞ!/」
腕の中でデルフがぎゃあぎゃあとわめく。それに答えるように赤兎馬がいななく。
ルイズは傍によって赤兎馬を観察する。なんという見事な馬だろうか。ビロードのような毛並みは、血で濡れたような色をしている。
瞳はラグドリアン湖のように深く静かな光をたたえ、一点の曇りもない。ギリシャ彫刻を思い出させるそ身体は、神の作りだした芸術
品というしかなかった。
「見とれてる場合じゃねーぞ/俺や祈祷書を落とすんじゃねーぞ!/」
デルフの言葉にへ?と首をかしげるルイズ。その瞬間、ルイズの身体は宙に飛ばされていた。
男、土鬼がルイズを後方へ投げ飛ばしたのである。
「う、うわわわわわわ!?」
突然の事態にパニック状態になるルイズ。
「ヒィィーン」
それを赤兎馬が器用に受け止めた。
「おい、嬢ちゃん/手綱をとれ!」
デルフの言葉に、慌てて手綱を握り締める。手綱を握り締めるや否や、赤兎馬は脱兎の如く駆け出した。
「な、なにこれ!?サラマンダーよりはやーい!??」
一部の人間の心臓をえぐるようなコメント、ありがとう。しかしそのコメントにまけぬ見事な走りである。元々運動神経があり乗馬に
一家言のあるルイズでなければ、場合によっては振り落とされてもおかしくないだろう。
「させるかぁ!」
だがそんな赤兎馬の前に立ちふさがろうとする一人の男がいた。山賊のような風貌の大男。
張飛だ。
その巨体に見合わぬ猛スピードで、赤兎馬の前に立ちふさがった。そして手にした槍で、赤兎馬の頭を貫かんとする。
ドスン
だが、その槍を弾き飛ばすものがあった。
土鬼だ。
左手の甲が目も眩まんばかりに輝いている。まるで月の光、日の光だ。
土鬼が猛烈な勢いで体当たりをかまし、そのまま腹部に2度、3度と拳を浴びせ掛けた。
「ぐあぁ!」
張飛が吹き飛び、もんどりうって倒れる。
よく見れば土鬼は何かを握っている。握ったそれで張飛を殴りつけたのだ。
鋭い爪のついたグローブのようなものだった。
張飛の腹部がぱっくりと割れている。鎧を貫通し、肉にまで爪が達していた。
「てめぇ、この張飛さまに傷をつけるとはいい度胸じゃねぇか」
土鬼は赤兎馬を負わすまいと、ルイズの進行方向を背に張飛と対峙する。特別な構えをせず、ほぼ自然体で立っている。
張飛が薬を取りだし、傷口にぶちまけた。見る見るうちに血がとまり、肉が繋がって傷跡がなくなる。水の傷薬を使ったのだ。
「てめぇをさっさとぶちのめしてから、あの女を追わせて貰うぜ!」
張飛が吼えた。大気が、大砲をぶっ放した後のように振動する。それはまるで雷のような雄叫びであった。
「ああ、ワルキューレが!」
ギーシュの目の前で、最後のワルキューレが砕け散った。砂と化した肉体が、雨の中はらはらと舞い落ちる。
「千変万化諸行無常、形あれども皆消える。抵抗無意味を思うは必至。因果応報百薬長寿。」
ギィィ、と唇の端をゆがめるクロムウェル。そこにもはやクロムウェルの面影はない。
「伸し烏賊、それ人生。末路の終着、同じ運命。」
クロムウェルが足をあげた。精神力がほとんどなくなり、動くのもやっとというギーシュを踏み潰そうというのだ。
「ひぃぃっ!」
地面を這ってでも逃げようとするギーシュ。「命を惜しむな、名を惜しめ」というが、踏み潰されて死ぬのは恥だと考えたのか。本能
のなせる業なのか。
だが這う程度では移動距離も底が知れたもの。至近距離に最初の一撃が落とされる。
直接触れていないにも拘らず、その威力に跳ね飛ばされ、地面を転がるギーシュ。慌てて空を見上げたギーシュの目に飛び込ん
できたのは…
「必殺必至是止め也。富と是李、仲良く喧嘩するべきか。米国漫画絵、潰れてなお生く!」
もはや避けようもない、クロムウェルの踏み潰し攻撃であった。
もうダメだ!そう観念した次の瞬間。
ゴガンッ
と鈍い音。
クロムウェルの巨体が吹っ飛んだ。
恐々、うしろを向いたギーシュの目に飛び込んできたのは、鉄の巨人とその上に乗った
「ビッグ・ファイアくん!」
そう、バビル2世だ。
「ポセイドン、なんともないか?」
命を操り、触れただけで生命力を奪う怪物、命の鐘。もしかすればポセイドンといえども無事ではすまないかもしれない。そう考え
たのだが、見る限り以上はなさそうである。
『異常なし―全て正常作動中―』
ポセイドンが発光信号を送ってくる。よし、と頷くバビル2世。
「だがあまり近づくな。万一ということもあるから、このまま遠距離から攻撃をするんだ。」
バビル2世の命令に応え、ポセイドンが腕を突き出した。指先が輝き、光のシャワーがクロムウェルに飛来する。
「何事発生!?」
起き上がろうとするクロムウェルの肉体を、強力なレーザー光線が襲う。すぱすぱと体組織が切断されていく。
「いいぞ、ポセイドン。だが今は雨が降っていてレーザーの威力が弱いはずだ。機関銃攻撃に切り替えるんだ!」
たちまち鉛の雨がクロムウェルに襲い掛かる。レーザーで切断された痕が、再生する暇もなく破壊されていく。
「ギーシュ、今のうちに」
モンモンが泥まみれで地面に転がるギーシュを助け起こす。モンモンの肩を借りて、ギーシュがよろよろと起き上がった。
「ギーシュ、すごいわ。あんな化け物に一人で立ち向かって……」
モンモンが涙ぐんでギーシュを迎える。雨の中だと言うのに、体温は高く、頬は赤い。
「い、いや。貴族として当然のことさ。」
あまり気障ぶる余裕もなく、ギーシュが応える。それを見てさらに頬を染めるモンモン。
「……でも、あんまり無理しちゃダメよ。」
胸に顔をうずめて、モンモンが呟く。なんだかここだけ異質な空間が形成されようとしている。
「もうよいからこっちへこい、単なるものよ。我が沸騰してしまうではないか。」
あきれたような水精霊の声。それを聞いて我に返ったモンモン。慌てて水精霊の入った瓶まで移動する。
「まったく。我の愛しい方の足元で邪魔をするでない。気持ちはわからぬではないがな。我も愛しい方とよく沸騰するような会話をか
わしたものじゃからな。」
からかい気味の口調で、水精霊がモンモンを挑発する。でも本当にそんな会話があったのだろうか。水精霊は熱心にポセイドンの
姿を目で追っている。
モンモンと水精霊はポセイドンが地面にあけた穴に降ろされたのだ。それまで2人を守ってきたポセイドンが、バビル2世の帰還で
攻撃モードに移行したため、二人を隠す場所としてここに穴をあけたのだ。
「そ、それはそうとっ!」
顔を真っ赤にしてモンモンが水精霊に言う。ギーシュは精神力を使い果たし、さらに安心したこともあってこの雨の中寝てしまって
いる。
「この雨何とかならないの?たしかに私は水系統の魔法を使うから良いんだけど、女王様も水を使ってるでしょ?ないほうが有利な
んじゃないかって思うんだけど……」
「できるが、やりとうない。」
ポセイドンの勇姿に見とれている水精霊が、そっぽを向いたまま答える。
「雨が降るのは自然の摂理。雨が降らなくなれば、我も力を失う。あまり干渉したくはない。それに、どちらかと言えば、雨を担当し
ているのは風の精霊じゃ。大地へと振り落ちた水は我の管轄じゃが、それを他所へやればこの辺りの生態系が大きく崩れるぞ?
それはそのうち単なるものたちの同胞にも被害を及ぼすことになるじゃろう。それでもよいのか?」
とても湖の水位を上げていたとは思えぬ発言であった。どの口からこんな殊勝な言葉が出るのだろうか。
「それに我が愛しき方ならば、この程度のハンデがあってちょうど良いじゃろうしな。うふふ。」
こっちのほうが本音っぽいのは気のせいだろうか。
「……なんていうか、頭が痛くなってきたわ…」
こんなやつのせいで家が貧乏になったのだと思うと、もはや笑うしかないモンモランシーであった。
ギーシュの目の前で、最後のワルキューレが砕け散った。砂と化した肉体が、雨の中はらはらと舞い落ちる。
「千変万化諸行無常、形あれども皆消える。抵抗無意味を思うは必至。因果応報百薬長寿。」
ギィィ、と唇の端をゆがめるクロムウェル。そこにもはやクロムウェルの面影はない。
「伸し烏賊、それ人生。末路の終着、同じ運命。」
クロムウェルが足をあげた。精神力がほとんどなくなり、動くのもやっとというギーシュを踏み潰そうというのだ。
「ひぃぃっ!」
地面を這ってでも逃げようとするギーシュ。「命を惜しむな、名を惜しめ」というが、踏み潰されて死ぬのは恥だと考えたのか。本能
のなせる業なのか。
だが這う程度では移動距離も底が知れたもの。至近距離に最初の一撃が落とされる。
直接触れていないにも拘らず、その威力に跳ね飛ばされ、地面を転がるギーシュ。慌てて空を見上げたギーシュの目に飛び込ん
できたのは…
「必殺必至是止め也。富と是李、仲良く喧嘩するべきか。米国漫画絵、潰れてなお生く!」
もはや避けようもない、クロムウェルの踏み潰し攻撃であった。
もうダメだ!そう観念した次の瞬間。
ゴガンッ
と鈍い音。
クロムウェルの巨体が吹っ飛んだ。
恐々、うしろを向いたギーシュの目に飛び込んできたのは、鉄の巨人とその上に乗った
「ビッグ・ファイアくん!」
そう、バビル2世だ。
「ポセイドン、なんともないか?」
命を操り、触れただけで生命力を奪う怪物、命の鐘。もしかすればポセイドンといえども無事ではすまないかもしれない。そう考え
たのだが、見る限り以上はなさそうである。
『異常なし―全て正常作動中―』
ポセイドンが発光信号を送ってくる。よし、と頷くバビル2世。
「だがあまり近づくな。万一ということもあるから、このまま遠距離から攻撃をするんだ。」
バビル2世の命令に応え、ポセイドンが腕を突き出した。指先が輝き、光のシャワーがクロムウェルに飛来する。
「何事発生!?」
起き上がろうとするクロムウェルの肉体を、強力なレーザー光線が襲う。すぱすぱと体組織が切断されていく。
「いいぞ、ポセイドン。だが今は雨が降っていてレーザーの威力が弱いはずだ。機関銃攻撃に切り替えるんだ!」
たちまち鉛の雨がクロムウェルに襲い掛かる。レーザーで切断された痕が、再生する暇もなく破壊されていく。
「ギーシュ、今のうちに」
モンモンが泥まみれで地面に転がるギーシュを助け起こす。モンモンの肩を借りて、ギーシュがよろよろと起き上がった。
「ギーシュ、すごいわ。あんな化け物に一人で立ち向かって……」
モンモンが涙ぐんでギーシュを迎える。雨の中だと言うのに、体温は高く、頬は赤い。
「い、いや。貴族として当然のことさ。」
あまり気障ぶる余裕もなく、ギーシュが応える。それを見てさらに頬を染めるモンモン。
「……でも、あんまり無理しちゃダメよ。」
胸に顔をうずめて、モンモンが呟く。なんだかここだけ異質な空間が形成されようとしている。
「もうよいからこっちへこい、単なるものよ。我が沸騰してしまうではないか。」
あきれたような水精霊の声。それを聞いて我に返ったモンモン。慌てて水精霊の入った瓶まで移動する。
「まったく。我の愛しい方の足元で邪魔をするでない。気持ちはわからぬではないがな。我も愛しい方とよく沸騰するような会話をか
わしたものじゃからな。」
からかい気味の口調で、水精霊がモンモンを挑発する。でも本当にそんな会話があったのだろうか。水精霊は熱心にポセイドンの
姿を目で追っている。
モンモンと水精霊はポセイドンが地面にあけた穴に降ろされたのだ。それまで2人を守ってきたポセイドンが、バビル2世の帰還で
攻撃モードに移行したため、二人を隠す場所としてここに穴をあけたのだ。
「そ、それはそうとっ!」
顔を真っ赤にしてモンモンが水精霊に言う。ギーシュは精神力を使い果たし、さらに安心したこともあってこの雨の中寝てしまって
いる。
「この雨何とかならないの?たしかに私は水系統の魔法を使うから良いんだけど、女王様も水を使ってるでしょ?ないほうが有利な
んじゃないかって思うんだけど……」
「できるが、やりとうない。」
ポセイドンの勇姿に見とれている水精霊が、そっぽを向いたまま答える。
「雨が降るのは自然の摂理。雨が降らなくなれば、我も力を失う。あまり干渉したくはない。それに、どちらかと言えば、雨を担当し
ているのは風の精霊じゃ。大地へと振り落ちた水は我の管轄じゃが、それを他所へやればこの辺りの生態系が大きく崩れるぞ?
それはそのうち単なるものたちの同胞にも被害を及ぼすことになるじゃろう。それでもよいのか?」
とても湖の水位を上げていたとは思えぬ発言であった。どの口からこんな殊勝な言葉が出るのだろうか。
「それに我が愛しき方ならば、この程度のハンデがあってちょうど良いじゃろうしな。うふふ。」
こっちのほうが本音っぽいのは気のせいだろうか。
「……なんていうか、頭が痛くなってきたわ…」
こんなやつのせいで家が貧乏になったのだと思うと、もはや笑うしかないモンモランシーであった。
「早い!早い!早ぁぁぁぁい!」
今までにないスピードに揺さぶられ、脳が溶けてしまったかのように同じ単語を繰り返すルイズ。
「酔う!酔うって!なにこの馬!」
猛然と進む馬の速度は、ひょっとしたらシルフィード並にスピードがあるのではないか。もちろんそんなことはないのだろうが、地面を
駆けているだけに体感速度が異常なのである。
「うっせーなー/いいから祈祷書をめくれってーの!/」
「め、め、め、めくれるわけがないじゃないの!」
しがみつくのが精一杯なルイズ。どう考えても無茶です。この状態で祈祷書を開こうものなら、あっという間に後方に投げ落とされる
だろう。
「そ、それにいまさらめくらなくても、エクスプロージョンがあるじゃないの!」
「バカヤロー!エクスプロージョンは強力だけどよ、精神力を無茶苦茶消耗するんだ/今のお前さんじゃあ年に1発大きいのを打てれ
ばいいほうなんだぜ?/それでこのまま戻ったとして、花火程度のものしかでねーよ!それにだ、敵が使ってるのは先住やそれ以外
の魔法体系なんだぜ?エクスプロージョンが効くかどうかわっかんねーだろーが!」
「じゃ、じゃあ、おーすんのよ!」
思わず舌を噛みそうになるルイズ。怒鳴り返すものの迫力がない。
「祈祷書のページをめくりな。こういうときのために、ブリミルは対策を練ってるはずだぜ。」
「だから無理だってぇぇぇぇ!」
手綱を自分の身体に捲くりつけるルイズ。そうでもしないと風圧で吹っ飛ばされそうなのだ。
「今のうちに読んでおかねーと、向こうで読む時間があるかわかんねーぞー!」
「ひゃあああああ!!」
なんとか祈祷書をめくったが、そのせいで身体が煽られ、吹っ飛ばされそうになる。
「なんだかんだで真面目だよな、おめー」
「うっさいわねー!」
悪態をつくルイズの目に、エクスプロージョンとは別の、文字の書かれたページが飛び込んでくる。そこに書かれた古代語のルーン
を読み上げる。
「ディ、ディスペル・マジック?」
「そいつだ。『解除』さ。わざわざ水の精霊を探して作った薬と、理屈は似たようなもんさ。」
今までにないスピードに揺さぶられ、脳が溶けてしまったかのように同じ単語を繰り返すルイズ。
「酔う!酔うって!なにこの馬!」
猛然と進む馬の速度は、ひょっとしたらシルフィード並にスピードがあるのではないか。もちろんそんなことはないのだろうが、地面を
駆けているだけに体感速度が異常なのである。
「うっせーなー/いいから祈祷書をめくれってーの!/」
「め、め、め、めくれるわけがないじゃないの!」
しがみつくのが精一杯なルイズ。どう考えても無茶です。この状態で祈祷書を開こうものなら、あっという間に後方に投げ落とされる
だろう。
「そ、それにいまさらめくらなくても、エクスプロージョンがあるじゃないの!」
「バカヤロー!エクスプロージョンは強力だけどよ、精神力を無茶苦茶消耗するんだ/今のお前さんじゃあ年に1発大きいのを打てれ
ばいいほうなんだぜ?/それでこのまま戻ったとして、花火程度のものしかでねーよ!それにだ、敵が使ってるのは先住やそれ以外
の魔法体系なんだぜ?エクスプロージョンが効くかどうかわっかんねーだろーが!」
「じゃ、じゃあ、おーすんのよ!」
思わず舌を噛みそうになるルイズ。怒鳴り返すものの迫力がない。
「祈祷書のページをめくりな。こういうときのために、ブリミルは対策を練ってるはずだぜ。」
「だから無理だってぇぇぇぇ!」
手綱を自分の身体に捲くりつけるルイズ。そうでもしないと風圧で吹っ飛ばされそうなのだ。
「今のうちに読んでおかねーと、向こうで読む時間があるかわかんねーぞー!」
「ひゃあああああ!!」
なんとか祈祷書をめくったが、そのせいで身体が煽られ、吹っ飛ばされそうになる。
「なんだかんだで真面目だよな、おめー」
「うっさいわねー!」
悪態をつくルイズの目に、エクスプロージョンとは別の、文字の書かれたページが飛び込んでくる。そこに書かれた古代語のルーン
を読み上げる。
「ディ、ディスペル・マジック?」
「そいつだ。『解除』さ。わざわざ水の精霊を探して作った薬と、理屈は似たようなもんさ。」
「クロムウェル様!」
銃弾を浴び、殴りつけられて地面に転がるクロムウェル。そこへ駆けつけようとする偽ウェールズ。
「もうよすんだ。」
ポセイドンの上で、バビル2世が静かに宣告する。
「おまえたちに、もう勝ち目はない。このままクロムウェルが命を食い尽くされるのを待って、おまえを倒せばいいんだからな。」
ジリっとウェールズがたじろぐ。クロムウェルに対して、バビル2世たちは完全な包囲網を敷いている。右手側にセルバンテス。左手
側に残月。そして中心にポセイドン。クロムウェルの逃げ場はもうない。つまり、クロムウェルに偽りの命、かりそめの命を与えられた
ウェールズの命もあとわずかということだ。
「その通りだ。」
残月がキセルをふかしながら詰め寄っていく。
「従姉妹は返してもらうぞ。」
冷たい、刺すような視線を偽者に浴びせ掛ける。でも、そんな権利があるのだろうか。疑問は残る。
フッフフ、と笑ってセルバンテスが近寄っていく。
「まさに袋のねずみ、といったところだねぇ。私にとっては、君が本物か贋物かはこのさいどうでもいいんだがねぇ。せめて利子ぐらい
でも返してはくれないかねぇ。」
残月へ顔を向けるセルバンテス。そのゴーグルがギラリと輝く。
なるべく顔をあわせないように、そっぽを向く残月。
「さあ、観念したまえ!」
全員が声をはもらせた。ウェールズがじりっと後退した。クロムウェルが、やっとの思いで身体を起こした。
「否ッ!」
とクロムウェルが叫んだ。
「我消えずこの野望。もって成就すべき。真なるかな、新たな力!」
そこへアンリエッタが飛び出す。
「さ、させません!」
クロムウェルたちを守るように、大きく両腕を広げる。
「ウェールズさまを……もう2度と失いたくないんです!」
「そこにいるじゃないの。」とつめたい視線を残月に浴びせたのはキュルケ。当然、残月は挟み撃ちの形になって前後からダメージを
食らう。
「な、なにをいう。私の名は残月。ウェ、ウェールズ皇太子は死に申した。」
震える手でキセルを扱う残月。動揺しすぎだ。
「はいはい。そういうことにしときましょ。」
肩をすくめるキュルケ。それにしてもなんという勘の鋭さ。ヴァリエール家にツェルプストー家が勝ち続けてきた理由が窺えるというも
のだ。
「なにを言っているのか、よくわかりませんが……」
アンリエッタが顔をあげた。呪文を詠唱し始めると、偽ウェールズがそれに加わった。
水の竜巻が、二人の周りをうねり始めた。
『水』『水』『水』、そして『風』『風』『風』。
水と、風の六乗。
王家の血のみが可能な、ヘクサゴンスペル。干渉しあう詠唱が、巨大に膨れ上がった。
2つのトライアングルスペルが絡み合い、津波のような竜巻を作り出した。この一撃を受ければ、城でさえ一撃で吹っ飛ぶだろう。
「ポセイドン!」
バビル2世がポセイドンから飛び降りて、命令をした。ポセイドンが身を低くして、竜巻に突進する。
バババババババ、と竜巻とポセイドンがぶつかり合うすさまじい音が響き渡る。
「どうだ!?」
だが、いくらポセイドンとはいえこの規模の竜巻には叶わないのか。飲み込まれて中で回転をはじめる。
やがて外に弾き飛ばされて、地面に伏せた。
「こうなれば、私の魔法で!」
残月がキセルを振りかざす。スクウェアレベルを凌駕するまでに成長した風をぶつけようというのだ。
「エア・ハンマー!」
進行方向へ空気の塊を叩きつけた。わずかに竜巻がひるみ、速度を落とす。
「だめか!」
だが、竜巻は一向に衰える気配がない。より勢いを増して、全てを飲み込まんと迫ってくる。
「さっきの戦いで精神力を使い果たしたぼくに、あれに対抗できる超能力が使えるだろうか。」
いや、そもそも一切消耗していない状態でも怪しい。
そこへ、
「バビル2世を倒すは是幸運。ヨミが願いは世界を支配。すなわち全てが万事に戻る!」
竜巻をかきわけ、クロムウェルが現れた。現れたクロムウェルを見て、アンリエッタとウェールズが頷く。
竜巻がクロムウェルの身にまとわりつき、鎧と化していく。クロムウェルの身体が渦に飲み込まれ、溶け合いっていく。
やがて巨大な竜巻と、クロムウェルが完全に一体化をした。竜巻の表面にクロムウェルの顔が浮き上がり、周囲を睥睨する。その
中心部には、命の鐘が浮かんで怪しい光を放っている。
「野茂が竜巻、英雄天使!食われて同化は我が力!決着最終決戦を、ここでつけるが我が願い!」
意思を持った竜巻が、バビル2世たちに襲いかかろうとしたそのとき、飛び出してきた赤い弾丸があった。
血のように赤い馬に乗った、ルイズであった。
銃弾を浴び、殴りつけられて地面に転がるクロムウェル。そこへ駆けつけようとする偽ウェールズ。
「もうよすんだ。」
ポセイドンの上で、バビル2世が静かに宣告する。
「おまえたちに、もう勝ち目はない。このままクロムウェルが命を食い尽くされるのを待って、おまえを倒せばいいんだからな。」
ジリっとウェールズがたじろぐ。クロムウェルに対して、バビル2世たちは完全な包囲網を敷いている。右手側にセルバンテス。左手
側に残月。そして中心にポセイドン。クロムウェルの逃げ場はもうない。つまり、クロムウェルに偽りの命、かりそめの命を与えられた
ウェールズの命もあとわずかということだ。
「その通りだ。」
残月がキセルをふかしながら詰め寄っていく。
「従姉妹は返してもらうぞ。」
冷たい、刺すような視線を偽者に浴びせ掛ける。でも、そんな権利があるのだろうか。疑問は残る。
フッフフ、と笑ってセルバンテスが近寄っていく。
「まさに袋のねずみ、といったところだねぇ。私にとっては、君が本物か贋物かはこのさいどうでもいいんだがねぇ。せめて利子ぐらい
でも返してはくれないかねぇ。」
残月へ顔を向けるセルバンテス。そのゴーグルがギラリと輝く。
なるべく顔をあわせないように、そっぽを向く残月。
「さあ、観念したまえ!」
全員が声をはもらせた。ウェールズがじりっと後退した。クロムウェルが、やっとの思いで身体を起こした。
「否ッ!」
とクロムウェルが叫んだ。
「我消えずこの野望。もって成就すべき。真なるかな、新たな力!」
そこへアンリエッタが飛び出す。
「さ、させません!」
クロムウェルたちを守るように、大きく両腕を広げる。
「ウェールズさまを……もう2度と失いたくないんです!」
「そこにいるじゃないの。」とつめたい視線を残月に浴びせたのはキュルケ。当然、残月は挟み撃ちの形になって前後からダメージを
食らう。
「な、なにをいう。私の名は残月。ウェ、ウェールズ皇太子は死に申した。」
震える手でキセルを扱う残月。動揺しすぎだ。
「はいはい。そういうことにしときましょ。」
肩をすくめるキュルケ。それにしてもなんという勘の鋭さ。ヴァリエール家にツェルプストー家が勝ち続けてきた理由が窺えるというも
のだ。
「なにを言っているのか、よくわかりませんが……」
アンリエッタが顔をあげた。呪文を詠唱し始めると、偽ウェールズがそれに加わった。
水の竜巻が、二人の周りをうねり始めた。
『水』『水』『水』、そして『風』『風』『風』。
水と、風の六乗。
王家の血のみが可能な、ヘクサゴンスペル。干渉しあう詠唱が、巨大に膨れ上がった。
2つのトライアングルスペルが絡み合い、津波のような竜巻を作り出した。この一撃を受ければ、城でさえ一撃で吹っ飛ぶだろう。
「ポセイドン!」
バビル2世がポセイドンから飛び降りて、命令をした。ポセイドンが身を低くして、竜巻に突進する。
バババババババ、と竜巻とポセイドンがぶつかり合うすさまじい音が響き渡る。
「どうだ!?」
だが、いくらポセイドンとはいえこの規模の竜巻には叶わないのか。飲み込まれて中で回転をはじめる。
やがて外に弾き飛ばされて、地面に伏せた。
「こうなれば、私の魔法で!」
残月がキセルを振りかざす。スクウェアレベルを凌駕するまでに成長した風をぶつけようというのだ。
「エア・ハンマー!」
進行方向へ空気の塊を叩きつけた。わずかに竜巻がひるみ、速度を落とす。
「だめか!」
だが、竜巻は一向に衰える気配がない。より勢いを増して、全てを飲み込まんと迫ってくる。
「さっきの戦いで精神力を使い果たしたぼくに、あれに対抗できる超能力が使えるだろうか。」
いや、そもそも一切消耗していない状態でも怪しい。
そこへ、
「バビル2世を倒すは是幸運。ヨミが願いは世界を支配。すなわち全てが万事に戻る!」
竜巻をかきわけ、クロムウェルが現れた。現れたクロムウェルを見て、アンリエッタとウェールズが頷く。
竜巻がクロムウェルの身にまとわりつき、鎧と化していく。クロムウェルの身体が渦に飲み込まれ、溶け合いっていく。
やがて巨大な竜巻と、クロムウェルが完全に一体化をした。竜巻の表面にクロムウェルの顔が浮き上がり、周囲を睥睨する。その
中心部には、命の鐘が浮かんで怪しい光を放っている。
「野茂が竜巻、英雄天使!食われて同化は我が力!決着最終決戦を、ここでつけるが我が願い!」
意思を持った竜巻が、バビル2世たちに襲いかかろうとしたそのとき、飛び出してきた赤い弾丸があった。
血のように赤い馬に乗った、ルイズであった。