あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのぽややん 7

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 アオとギーシュが決闘してから、一週間以上が経過した。

 決闘の後に何者かに倒され、重体の状態でギーシュ(なぜか裸足だった)が発見されたり、
 感極まったマルトーがアオの唇に接吻しようとして、シエスタを筆頭としたメイドたちがフルボッコにしたり、
 アオのお料理教室が大盛況になったり、
 カップリングは『アオ×ギーシュ』か『ギーシュ×アオ』かで、一大論争が巻き起こったりしたが。

 おおむね平和だった。

「決めた。明日、街に行くわよ」
 ある日の夜。ルイズは握り拳を握りながら、力強く言った。
「? どうしたの、突然?」
 アオは裁縫の手を休めて、ルイズを見た。
 ちなみに今は、お料理教室生徒百人突破記念グッズ、赤い短衣を着た大猫のぬいぐるみを大量生産しているところだった。すでに六十体を超えるぬいぐるみが部屋中にあふれている。
 ルイズも最初は、部屋が狭くなると文句を言っていたが、ここまでくると逆に諦めがつく。
 あと、何気に可愛いかったのだ。アオから献上された、ブータと名づけられた二倍の大きさを誇る特別版は、彼女のベッドのお供になるほどのお気に入りであった。
「あんた、あれだけ戦えるんだから、剣だって使えるでしょ? だから剣を買ってあげるわ。
 いつまでも石とか、そこら辺にあるもので戦わせてちゃ、わたしとしてもカッコつかないしね」
 ここまでが建前。
 本音は、やたらとアオの人気が上がって、自分の主としての立場に若干の危機感を覚えた末、ここは一つ、ご主人様の度量の広さを見せねば、と計画した事だった。
 剣、すなわち武器を買う。
 その事について、アオはまったく異論はなかった。
 ルイズは知らないが、ギーシュとの決闘の後、正面切っての戦いでは不利と悟った男連中が、何度か闇討ちや奇襲を仕掛けてきた事があった。
 人の目も無いことだったし、そういった連中はきっちりと、死なないレベルで再起不能にしてやった。もちろん証拠を残すようなヘマはしてないため、文字通り闇から闇へだ。
 最近は、そういった手合いもいなくなったが、自分にとって未知である魔法を使う相手に、素手や環境利用で対応するにも限界がある。
 何時、強力なメイジを相手にするとも限らない。
 ルイズの提案は、まさに渡りに船だった。
「街か……楽しみだね」
「でしょ。思いっきり感謝しなさいね」
 だからもう寝るわよ、とブータを抱き締め、ルイズは目をつぶった。


 次の日。
 虚無の曜日、すなわち休日である。
「はふぅ」
 枕を抱きしめたまま、キュルケはため息をつく。
 彼女は、最近眠れぬ夜を過ごしていた。
 原因は、はっきりしている。
 ルイズの召喚した平民の使い魔。
 アオ。
 その名を思うだけで、胸が高鳴る。
 ギーシュとの決闘で見せたあの強さ。素手でメイジを倒すだなんて。
 しかも、その後のモンモランシーの乱入時に垣間見せた、ユーモアに富んだ優しさ。
「ああ、ダーリン! あなたは、あたしに消えることのない火を点けたのよ。そしてそれは情熱という名の炎に変わったの!!」
 キュルケは生まれながらの狩人だった。本来なら、即アタックなのだが。
 正直、攻めあぐねていた。
 チャンスを狙おうと、ちょくちょくフレイムに監視をさせているのだが、アオの周りには邪魔者が多すぎて、全然独りにならない。
 あとルイズも、アオのそばをなかなか離れようとしないのだ。
「気持ちはわかるけどね」
 微笑ましくもあったが、しかし、そんな悠長な事を言っている場合ではない。
 キュルケは悶々とした挙句、
「よし、ルイズの部屋に行って、彼を口説こう」
 爆発した。
 そうと決めた彼女の行動は迅速だった。
 着替えを済ませ、化粧をし、そして、ルイズの部屋の扉を叩いた。
 が、返事が無い。 
 キュルケはなんの躊躇もなく、アンロックで錠前を外して部屋に入った。
 最初に、目についたのは大量のヌイグルミ群である。
「あの娘、趣味が変わったかしら」
 以前の殺風景さとはうって変わって、やけに乙女チックになった部屋を見回して首を捻る。
 まあ、誤解なのだが。
 だが、肝心のアオがいない。ついでにルイズも。
 ここで諦めるという選択肢は、キュルケには無い。

 タバサは、薄い本を閉じて、顔を赤くして呟いた。
「新世界」
 本のタイトルは、『青の薔薇』
 著者はケティ。自費出版の本だ。
 ちなみに彼女は、今やギーシュ総受け派の旗手として、知る人ぞ知る人物であった。
 しばらくぽーっとしていたタバサだったが、はたと正気に戻る。
「これは違う」
 ぶんぶんと頭を振ってから、目を閉じて、思い出す。
 あの男、アオの事を。
 一体、何者だろう。
 錬金の授業で、ルイズを助けた時に見せたあの動きから、只者ではないと思っていた。
 ギーシュとの決闘で、それは決定的になった。
 彼は、強い。
 だから知りたいと思った……強くなるために。
 だが、観察すればするほど、彼の底が見えなくなる。
 決闘の時の彼と、料理教室で料理を教える彼。あまりにも違いすぎる。
 それに一つ、気になる事もあった。
 一度、自分の使い魔であるあの子、シルフィードに監視させようとしたのだが、できなかったのだ。 
 アオを見たあの子が、怯えてしまったから。
 もう、なんでもいいから彼の事を調べようと手に入れた本だったが、まさかこんな内容だったなんて。
 つい没頭してしまった自分に激しく自己嫌悪しながら、本の表紙を見るタバサ。
 最初は、綺麗な薔薇の装丁だと思っていたが、内容を知った今だと、ただただ妖しい。

 捨ててしまおうか。
 でも、本に罪はないし。

 タバサが本を手にそんな事を逡巡していると、どんどんとドアが叩かれた。

「タバサ~、居るかしら~?」
 キュルケがドアを叩きながら声をかけると、ドアの向こう、タバサの部屋で凄い音がした。
「ちょっと、どうしたのタバサ?」
 驚いたキュルケがさらに激しくドアを叩くが、返事がない。
 慌ててアンロックで鍵を開け、部屋に入ると、
「……なにやってんの?」
 ベッドの毛布に頭を突っ込んで、お尻だけこちらに向けているタバサを発見した。
「何?」
 毛布を被ったまま、タバサがぼそっと言った。
 キュルケは、そんな親友の姿を不審に思いはしたが、しかし、追求してる場合ではなかった。
「お願い、愛するダーリンがにっくいヴァリエールと出かけたの! しかも馬に乗って!」
 ダーリン……ヴァリエール……あの使い魔の事か!
 キュルケが言い終わるまでもなく、全てを察したタバサが跳ね起きる。もちろん、どさくさに紛れて、本をベッドの下に隠す事は忘れない。
 そして窓を開けると、口笛を吹いた。
 彼女の使い魔、ウィンドラゴンの幼生、シルフィードが現れる。
「そうなの! あなたのシルフィードで追ってほしいのよ。話が早くて助かるわ」
 シルフィードは、タバサを乗せると、遥か上空に飛んで行った。
 キュルケを置いて。
「て、それじゃあ意味がないじゃない!!」
 程なくして、タバサが戻ってきた。
「どっち?」
 無表情のまま、短く尋ねる親友に、キュルケは苦笑いを浮かべることしかできなかった。

 トリステインの城下町を、アオとルイズが歩いていた。
 けっして広くない道が、人でごった返している。
「今日はお祭りか、何かなの?」
「いつもこんなもんよ。なんせ、ブルドンネ街はトリステインで一番大きな通りだし、宮殿にもつながっているんだから、当然といえば当然ね」
「へ~」
 これで大通りなんだ、とか。
 狭い、とかは言わないでおいた。
 人ごみの合間、合間を、すり抜けるように歩くアオに比べ、ルイズはもみくちゃにされながら前に進んで行く。
 ぷぎゃ! とか、ふぎゅ! などの悲鳴も時折聞こえた。
 四苦八苦しながら前を行くルイズに、アオが声をかけた。
「ねえ、ルイズ」
「なによ」
「ここって、スリが多い?」
「まさか、あんた!」
 ルイズが血相を変えて、振り返る。
「大丈夫。お金は無事だから、安心して」
 アオは上着から、財布を取り出して見せた。ルイズから預かった、彼女の財布だ。
 それを見てルイズは、ほっと無い胸を撫で下ろす。
「もう、脅かさないでよね。確かにここはスリも多いから、気をつけてよ。まあ、魔法でやられたら一発だけど」
「えっ、貴族がスリをするの?」
「違うわよ。貴族は全員メイジだけど、メイジが全員貴族ってわけでもないの。なかには傭兵や犯罪者もいるわ」
「なるほど。ちょっと数が多かったけど、ある意味運が良かったのか」
「?」

 一方こちら、キュルケ&タバサの追跡組。
「これって全部、ダーリンの仕業よね」
 ゴクリと唾を飲込んで言ったキュルケの言葉に、タバサが無言で頷く。
 ルイズたちが通って行った後に、まるで目印のように所々で、人が倒れている。
 皆、昏倒しており、さらに一様に、片腕の人差し指、さらに片足の二箇所があらぬ方向に曲がっていた。
「ん」
 タバサの短い呟きに、キュルケは前を見た。 
 スリの男が、アオにぶつかり、その懐に指を忍ばせようとするところだった。
 アオは見もせずに、その指を掴むと、逆に反らす。男の体が前屈みになったところで、空いた手の親指と中指で、後ろから首の頚動脈をつまむ。それだけで、悲鳴も上げられずに男の意識が飛ぶ。同時に軸足の膝を横から踏み折り、地面に落としながら極めていた指を折る。
 一連の挙動を、アオは流れ作業のように澱みなく行なった。その間、一度も視線をスリに向けていない。
 注意深く見ていなければ、突然倒れこんだようにしか見えなかった。
 実際、前を歩いているルイズは、すぐ近くなのに気づいてもいない。
 それほどに素早く、静かだった。
「ギーシュってば、命拾いしたわけね」
 さすがダーリン、とキュルケが顔を火照らす。
 悩ましげに体をくねらす親友の隣で、タバサはそれを冷静に見ていた。
 たしかに凄い。けど、それ以上に。
 寒くないはずなのに、背中がゾクリと冷えた。
 どうしてあんな風に、何の意識も込めずに事を行なえるんだろう。

「ここね」
 通りから外れた路地裏に、武器屋は在った。
 ルイズが石段を登り、羽扉を開けようと手をかけたところで、アオが止める。
「まって。どうせだから、一緒に入ればいいと思うよ」
「一緒に?」
 意味がわからず、怪訝な顔で聞き返すルイズ。
 アオは、路地の影に向かって手招きした。
 すると人影が二つ、こちらに近づいてくる。
「は、は~い、ルイズ」
 バツの悪そうな顔をしたキュルケと、
「……」
 視線を合せないように、そっぽを向くタバサだった。
「ツェルプストー! なんであんたがここに!?」
「プレゼント作戦で、ダーリンの気をひこうだなんて。そうは問屋がおろさないわよ、ヴァリエール」
「だ、誰が気をひくですって! てか、ダーリンって誰のことよ」 
「も・ち・ろ・ん、この方。アオに決まっているでしょ」
 そう言ってキュルケは、アオの腕に自身の腕を絡ませようとする。
 ルイズは、その間に体ごと割って入って、阻止した。
「なにするのよルイズ」
「なにするのよ、じゃないわ! 人の使い魔に、なに手を出そうとしてるのよ!!」
「しょうがないでしょ、好きになっちゃったんだから。恋と炎は、フォン・ツェルプストーの宿命。ヴァリエール、あんたが一番ご存知でしょ」
「ぐぬぬぬっっ! よくもまあ、いけしゃあしゃあと」

 彼女が宿敵というわけか。
 アオは、一歩ひいた状態でルイズとキュルケの舌戦を観戦しながら、以前聞かされた話を思い出した。
 袖を引っぱられ、視線を向ける。
「えーと、君は」
「タバサ」 
 タバサは、簡潔に自己紹介を済ませると、袖を引っぱったまま、店の羽扉を押し開いた。
 先に店に入ろうという事か。
 二人を見ると、さらにヒートアップしていた。
「そうだね、行こうか」
 アオの言葉に、タバサは頷くと、引っぱりながら店に入る。
「何時、気がついた?」
 タバサが、疑問を口にする。
 自分もキュルケも、気づかれるような失敗はしなかったはずなのに。
「草原を馬で走っている時に、視線を感じてね。あの竜? に乗っていたのが君たちだったんだよね」
 そんな最初から……!
「そう」
 納得したタバサは、それ以上喋らなかった。
 かなり無口な娘だな。
 それがアオの、タバサへの印象だった。

 武器屋の中は薄暗く、物が乱雑に陳列されている。
 アオは、どことなく裏マーケットを思い出していた。
「冷やかしなら、お断りだ。さっさと帰んな」
 店の奥でパイプをくわえていた親父が、チラリと一瞥しただけで、面白くもなさそうに言った。おそらく店の主人だろう、年齢より幼く見える小柄なタバサを連れたアオに対して、客だという認識は無い。
 そうこうしているうちに、羽扉を乱暴に押し開け、盛大に足音を立てながら、ルイズとキュルケが入ってきた。
「冷か」
「客よ」
 ルイズは主人の言葉を遮り、黙らせた。その迫力に、思わずパイプを取り落としそうになる。
 そこでようやく、彼女たちが貴族である事に気づいた。
「こ、これは失礼いたしました。いったい貴族さまが手前のような店に何の御用で?」
「わたしの使い魔に、剣を買いにきたの。適当に見繕ってくれないかしら」
「なるほど。ここ最近、暴れまわっている『土くれ』対策ですね」
「土くれ? なによそれ」
「あんた知らないの? 土くれのフーケっていえば、貴族のお宝を専門に盗んで回っている、メイジの盗賊のことじゃない」
 キュルケに小バカにされ、ルイズが顔を真っ赤にする。
「し、知ってるわよ、それくらい。だから、それがなんだってのよ」
「へえ、土くれを恐れた貴族が下僕にまで剣を持たせてるってぇ、小耳に挟みましてね。
 ……そちらの方でしたら、これがよろしいかと」
 そう言って親父は、細身のレイピアを倉庫から持ってきた。
「もっと太くて大きいのがいいわ」
 ルイズの言葉に、キュルケが大きく頷く。タバサは無反応だ。
「ですが、そちらの方ですとこの程度が無難かと」
 主人は小声で、素人が、と毒づく。
「ちょっといい」
 そう言ってアオは、レイピアを手に取った。
 剣を握ったとたん、体中に力がみなぎる。この感覚はウォードレスを装着した時と似ていた。
 アオは一瞬、戸惑いの表情を見せたが、こちらをじっと見るタバサの視線に気づき、笑って誤魔化した。
「振ってみてもいいかな?」
「ああ。かまわんですとも。店の物にぶつけんでくださいよ」
 主人はニヤニヤ笑いながら言った。完全にアオの事をなめている。
 ルイズたちに距離をとらせると、アオは素振りを始めた。
 最初は、感触を確かめるようにゆっくりと。一振りごとに、ギアを上げてゆく。
 一振り、二振りと数を重ねるにつれ、だんだんと主人の笑みが凍りつく。十から先は、誰にも数えられなかった。
 刃の動きは、残像すら肉眼で捕らえることができず、絶え間なく聞こえる風切り音だけしか聞こえない。
「ふっ」
 アオは短く息を吐き、素振りしていた腕を止める。だが、超速の素振りからの急停止に、レイピアの細い刀身は慣性エネルギーを吸収しきれず、根元から折れた。
「ひっ」
 折れた刀身が、主人の頭のすぐ横に突き立つ。
 アオは折れたレイピアの柄をカウンターに置き、にっこり笑った。
「すいません。もっと丈夫なのをお願いします」
「は、はい、た、ただ今お持ちします」
 直立不動の姿勢から、大慌てで倉庫に駆け込む主人。
 折れた剣を手放すと同時に、あの不思議な感覚も消えた。
 試しにもう一度握ってみると、とたんにあの感覚が戻ってくる。
 他のはどうかと、乱雑に積まれた剣に近づくと、
「坊主。てめ、ひょろっちい体している割には、たいした腕じゃねえか」
 突然声をかけられた。
 辺りを見回す。
 ルイズ、キュルケ、タバサは首を横に振った。
「それ」
 タバサが杖で、一本の剣を指し示す。
 それは錆の浮いた、お世辞にも見栄えがいいとは言えない大剣だった。
「おう、俺だ俺」
「剣が喋った!」
 さすがに驚くアオ。
「あら、インテリジェンスソードじゃない」
 ルイズが物珍しそうに剣を見た。
「インテリジェンスソード?」
「意思を持った魔剣の事よ。にしても汚いわね、錆だらけでボロボロじゃない」
「んだと、このチンクシャ!」
「だ、誰が、チンクシャですってええぇぇぇ!!」 
 キュルケが、腹を抱えて笑っている。
「やい! デル公! お客様に失礼なことを言うんじゃねえ!」
 立派な大剣を抱えながら、店の主人が怒鳴り声をあげた。
「誰がデル公だ! デルフリンガーさまだ! ボケ!!」
「あー、うるせえ! 商売の邪魔だ黙ってろ!!」
 主人はそう言って、デルフリンガーを鞘に収めた。
 とたんに静かになる。
「いや、すいませんね。口は悪いわ、客に喧嘩を売るわで、こっちもほとほと困っているんですよ」
「そんな駄剣、さっさと処分しちゃいなさいよ!」
 怒り心頭のルイズ。
「いえね、こいつにも一応元手がかかっていますんで、はい。こうやって鞘に収めれば黙りますんで」
 頭を下げながら、デルフリンガーを片付ける。
「旦那、先ほどは失礼いたしました。こいつがうち一番の業物。かの高名なゲルマニアの錬金魔術師シュペー卿が鍛えあげた、鉄をも切り裂く魔法の大剣でさ」
「あら、いいじゃない。これにしましょう」
 一番という響きが気に入ったルイズは、早速値段を聞いた。
「エキュー金貨で二千。新金貨で三千になりまさ」
「ぐっ、た、高い」
 想定以上の金額に、ルイズが思わず呻いた。
「そりゃ名剣ってのは値がはるもんですぜ」
「デルフリンガーはいくらなの?」
「ちょっとアオ! そんな剣、イヤよわたし」
「まあ、あいつなら厄介払いの意味もあって、百でいいですが」
「や、安いわね」
 安さに心揺れるルイズ。
「で、でも、やっぱりイヤ。あんな暴言吐くうるさい剣なんて。静かで綺麗なやつがいい!」
 ルイズは、イヤイヤと、首を左右に振る。
 アオは、ルイズの肩に手を置くと、神々の心をも溶かすような笑顔を浮かべて、優しく言った。
「君にまた何か言うようなら、大丈夫。消してあげるから」
 主人から剣を受け取ると、鞘から抜き放つ。
「聞いてたろ? 僕は君を買う事に決めたよ。でもまたルイズに何か言ったら……折るよ」
「おもしれ! やれるもんならやって……」
 剣は威勢よく喋り始めたが、とたんに押し黙った。
 それからしばらくして、剣は小さな声でぽつりと言った。
「おでれーた。てめ、『使い手』か」
「『使い手』?」
「それにてめ、怖ええな。こんな怖ええやつあ、初めてだ」
 使い手? 怖い?
 何とか聞き取ったタバサは、剣の言葉に首をかしげた。
「いいだろ、てめに買われるなら文句はねえ。そっちの娘ッ子にも、なんも言わね。
 てめ、名は?」
「アオ、だよ。デルフリンガー」
「アオか。俺のことはデルフでかまわねえ。よろしくな相棒」
 結局、デルフと投げナイフを十本買って、ルイズたちは店から出てきた。

「じゃ、ここでお別れね。また後でねダーリン」
 手をヒラヒラさせながらキュルケは、なにやら考え込んでいるタバサを連れて、去っていた。
「ツェルプストーのやつ。やけにあっさり引いたわね」
 まあ、学園に戻ったらまたちょっかいを出してくるだろうけど。
「あんた、キュルケには気をつけなさいよ」
 ルイズはアオに念を押すと、馬を預けた駅に向かって歩き出した。

 二人が完全にいなくなった後、密かに武器屋に入る赤い髪の人影が。
 その夜、武器屋の主人は自棄酒をし、涙で枕を濡らす事になるのだった。


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