あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

S-O2 星の使い魔-02


「チキュウ? 聞いたこと無いわね」
「うん……なんて言ったら良いのかな。
 ここからは物凄く遠い場所、なんだと思う」
「成る程ね。まあ、確かに私もそんな国聞いたことないし、
 あんただってトリステインもハルケギニアも知らないみたいだしね」

 そう言ってルイズは肩を竦める。
 クロードはただ苦笑するばかりであった。

 クロードとて連邦士官学校卒のエリートである。
 その中のカリキュラムには当然、未開惑星保護条約に基づく遭難時の対応マニュアルも存在している。
 原則として原住民との接触は極力避けること。
 万一接触した場合、自分の素性は巧みに隠し通すこと。
 郷に入りては業に従い、相手の文化を尊重すること。etcetc……

 だが、これらの規制も実のところ今のクロードにとって、これらはあまり関係が無かった。
 言い方は悪いが、この程度の文明の住人を相手に、単語レベルで規制を行っても殆ど意味が無いからだ。
 宇宙を『遠い空』という概念でしか知らない相手に、どうやって地球のことを説明できようか。
 せいぜい必要なのは最後の一つと、核心部分と文明の利器を隠し通すことくらいである。
 そういう点では、クロードにとって不幸中の幸いだったかもしれない。

『お互いに名前も文化も知らないほど、遠い国からやってきた』
『何が起こったのかは自分でもよくわからない』

 この二点に論題を絞り込むことで、クロードはルイズを納得させることに成功した。
 まさか『遠いお空の星からやって来た光の勇者様』などと名乗るほど、クロードも阿呆ではない。

「で、その変わった格好はチキュウとやらの流行?」
「ファッションと言うわけでもないんだけど……
 まあ、そんなに珍しい服ってわけじゃないよ」
「あ、そう。って言うか、そんな風にキョロキョロと見回すのはやめなさい、田舎者丸出しよ」
 そんな風にして、取り留めもない会話を交わしながら歩を進める二人。

 実のところ、二人ともこれだけゆったりと会話を楽しむのは久しぶりのことだった。
 互いに事情こそ違え、周囲から孤立し続けてきた二人。
 通じ合うところがあるのか、少々構図は歪であれ、それなりの関係を築いているように見える。
 もっとも、これがそうそう一筋縄では行かないことは、読者諸兄には容易に予想できることであろうが。




「ふぅ……」
「ねえ、あんたさっきから変な呼吸ばっかりして、病気?」
「え? ああ、ごめん。空気がおいしくて」
「はあ? 何言ってるのよ、空気なんてどこも変わりないでしょ」
「そんなことないよ。少なくとも、僕の住んでたところはそうじゃなかった」

 そう言ってクロードは、これで今日何度目であろうか、胸一杯に空気を吸い込む。
 車をはじめとした各種排気ガスなどに汚染された大気に比べて、
 この穏やかな土と草の香りの何と心地よいことか。
 オフに自然散策を楽しむという同僚の気持ちが、少し理解できたような気がする。

「まあ、別に減るもんでなし、好きなだけ味わいなさい。
 どうせもう、そんな汚いところへ帰ることはないんだし」
「うん、そうする……って、え、何?」
 クロードの表情が凍りついた。

「あれ、言ってなかったかしら?
 私はサモン・サーヴァントであんたを使い魔として呼び出した。
 使い魔は主に一生をかけて仕えるの。あんたの場合、その左手にあるルーンがその証よ」

 事も無げに淡々と告げられるルイズの言葉に、クロードは一瞬パニックを起こす。
 そう、一瞬だけ。

「……あー……うん」
「……えらく物分りがいいわねえ。
 てっきり『ふざけんな!』とか『元の世界に帰せ!』とか『訴えてやる!』とでも言うと思ったけど。
 まあ、言われても帰さないし、帰しようもないんだけどね」
 なにやら勝手に何かを納得しているように頷くクロードと、それを見て怪訝そうに肩を竦めるルイズ。

 さて、実際問題として、彼女の言う『帰る』『帰れない』はクロードにとって全くもって問題にならない。
 現在、クロード・C・ケニー少尉は惑星ミロキニアの調査中に行方不明となり、捜索隊が出ているはずだ。
 彼の持つ通信機を捜索隊が探知し、座標を特定してしまえば、あとは転移装置でサヨウナラ。
 そこにこの世界の技術・魔法の出る幕は無いのである。
 もっとも、帰ったら帰ったで彼を待つのは軍法会議だろうが。

(命令違反に軽率な行動、過失による事故、それに未開惑星保護条約にも大当たり……
 これはクビにでも───いや、なるわけないか)
 フッと自嘲じみた笑みを浮かべるクロード。

 天下のロニキス・J・ケニーの息子が懲戒免職にでもなったとしたら、それはもう軍の一大スキャンダルである。
 せいぜい、上の便宜とやらで自宅謹慎辺りに落ち着くのが関の山だろう。
 或いは、行方不明期間の長さによっては、名誉の負傷や秘密任務でもでっち上げられるかもしれない。

 何にせよ、現状においてクロードに行動の選択権は無い。
 本音を言えば原住民との接触は避けたいところだったが、今更である。
 成り行きに任せるしかないのだ。

「……ちょっと! ねえちょっと、クロード! 聞いてるの!?」
「え、あ、ゴメン、ルイズ。どうしたの?」
 思考の袋小路から、ルイズの言葉で現実に引き戻される。
 すわ機嫌を損ねたか、と内心身構えるクロードであったが、意外なことにルイズは何も言ってこない。
 なにやら、あー、うー、だのと口篭ってもじもじしている。


(……こんな風にしてる分には、可愛いんだけどな)
 クロードの口元が緩む。
 もっとも、ここにおけるクロードにとっての『可愛い』というのは
 読者諸兄が連想するであろうそれとは若干のズレがあるのだが、それはとりあえず脇に置く。
 さて、クロードがそんなことを考えているうち、ルイズが沈黙を破って口を開いた。

「あんた、もしかして帰りたくないとか?
 その、故郷に嫌な思い出がある、とか……」
「……」

 クロードの返答は、沈黙。
 再び訪れる、気まずい間。

(し、しまったぁ……まずいこと聞いちゃったかな)
 自分の失敗を自覚するも、それを素直に表せない性格から二の句が次げなくなるルイズ。

「否定は、出来ないね」
 そう言ってクロードは星空を見上げる。
 自分の故郷の延長線───星の海を。
 その表情が思いのほか穏やかなことに、ルイズは内心驚いた。
 さっきまで、あんなに辛そうな顔してたくせに。

「でも、きっといずれ僕は地球に帰ることになると思う。
 地球は、僕の故郷だから。 故郷って、そういうものだと思うから」
 そう言い切って、ルイズに微笑みかけるクロード。 
 その笑顔は、本当に穏やかで、少しだけ寂しそうで。

 綺麗だと、思った。


「……」

     びしっ!

「あだっ!?」
「な~に格好つけてんのよ、平民の癖に!
 フン、それに言ったでしょ、帰れないって!」
 杖でクロードの額を撲ち、鼻息も荒く踵を返すルイズ。
 少し赤くなった額をさすりながら、それが彼女なりの不器用な気遣いなのだろうとクロードは解釈した。

「……ありがとう、ルイズ」
 そう言ってクロードは何気なくふわふわとルイズの頭を撫でる。
 素直に、感謝の気持ちを込めて。

「こ、子ども扱いするなっ! 使い魔の癖に!」
 癇癪を起こすルイズと、笑って流すクロード。
 それはまるで、仲のいい兄妹のようで───



     ビシィ
            (えっ?)




 ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、と嫌ぁな擬音を鳴らしそうな動きで、クロードに向き直るルイズ。

『艦長! 周囲の空気の温度が、急激に低下していきます!』
『何だと!?』

「そう言えばあんた、年いくつ?」
「え? え、えっと、19だけど」



     ビシビシィッ!


 その背からはドス黒いオーラが湧き上がり、表情はまさしく修羅。

『温度の低下が危険域を突破! 駄目です、止まりません!』
『いかん、いかんですよ、このままでは!』

「私……16歳なのよね」
「え゛」



     ビシビシビシィィィッ!!




 事ここに至り、流石のクロードも己の失態に完全に気付いた。
 彼女の年齢を、かなり下方修正して見てしまっていた事に。

『周辺の空気、絶対零度に到達! 非常事態です!!』
『くっ……! 総員、対閃光、対ショック防御!』





 やばい、地雷だ。それも陽電子級の。






「あんた、私を何だと思ってたわけ?」
 ボス助けて。略してボスケテ。

「まさか、私を下級生か、それとも飛び級か何かだと勘違いしてたとか?」
 すいません、思ってました。

「私の胸が小さい? 私の胸がスモールゥ?」
 誰もそんなこと言ってません。



「ああああああのその、ゴゴゴゴメンルイへぷち────────ん!?」

 クロードの意識は、そこで途切れた。
 合掌。




 後にこの光景を遠巻きに眺めていた生徒たちは語る。

 曰く、ルイズは∞の軌道を描いていた。
 曰く、己を発狂寸前にまで追い込む苦行の果てに、あの技は実在する。
 曰く、埴輪幻人全滅だ。
 曰く、へそで投げる見事な虹であった。


 そしてこの時、クロードは時折ビクンビクンと痙攣しながら

『サ☆スーン☆クオリティ』
『ヴァリエール・ド・ミテモガイジン』
『そしてとし子は今』

 などと口走っていたという。


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