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S-O2 星の使い魔-01


『アイツは、英雄様の息子だからねぇ』
 哂い声が、聞こえる。
 人は誰も、己の持たぬものを羨望するもの。

 聞き飽きたはずの嫉妬とやっかみ。
 しかし、向けられ続ける悪意を受け流すには、少年は若すぎた。


『違う! 僕は僕だ!』
 反発する声が、聞こえる。
 人は誰も、一度は己に刻み込まれた運命を呪うもの。

 恵まれているはずの自分の出生。
 しかし、それを与えられるままに満足するには、少年は聡明すぎた。


『……あまり周りの言うことなんて気にするな』
 優しい声が、聞こえる。
 人は誰も、信じるに値する人物が世に存在するもの。

 けれど、その優しささえもが重く、苦しい。
 人の真心を素直に受け入れるには、少年は幼すぎた。


『僕は、地球連邦軍ロニキス・J・ケニー提督の息子というだけの人形じゃない!!』
 叫び声が、聞こえる。
 人は誰も、一度は思い願うこと。

 誰かの付属品としてではなく、己自身の価値を誰かに認めて欲しい。
 しかし、それを叶えるには、彼の父親はあまりに偉大すぎた。



 誰も近寄るな。
 誰か近くに居てくれ。

 相反する二つの思いを抱える少年。
 やがて夢は形を変え、影が少年の肩を抱きしめ、包み込む。

「──────ッッ!」

 言い知れぬ不快感に襲われ、少年は全身を振るって影を振り払う。












「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 沈黙。


 何処までも高く、青く澄み切った空から太陽の光が穏やかに降り注ぐ。
 その下で、自分が座り込んでいるのを理解するのに数秒。
 腰の痛みから、転んで軽く打ち付けでもしたのだろうか。

 鼻の奥をくすぐる芝生と土の匂い。
 彼にとっては決して馴染み深いものではなかったが、
 これらの感触が、決して今の状況が夢の続きの類ではありえないと確信させる。
 これも生き物のサガか。

(ここは……一体……!? そうだ、僕は惑星ミロキニアの調査を……ぐっ!)
 自分の行動、そして置かれた状況に思考が回りかけるも、頭痛に遮られる。
 軋む頭蓋骨の中で、次第に少年の脳細胞はシナプスを繋ぎ、記憶を再生させていく。

 父親への反発心から、まともに調査していない機械に近づいたこと。
 死んでいたと思っていた装置が突然作動し、その発動に巻き込まれたこと。
 銀色の光に包まれ遠のく意識の狭間で、父が自分の名を呼んでいたこと。

 そして、今の自分は、きわめて異常な事態におかれていること。


 目の前には桃色の髪の少女がキョトンとした表情で尻餅を付いている。
 どうやら寝惚けた勢いで突き飛ばしてしまったらしい。
 その服装は旧西暦における中世欧州をモチーフとしたもののように思われた。
 言い換えれば、典型的な未開惑星の住人の服装ということ。

 周りを見渡せば、これまた絵に描いたような服装、服装、服装。
 これはあれか、ロストテクノロジーの気紛れで、未開惑星に空間転移してしまったということか。

(……なんてこった)

 蛮勇の代償は、相当に高くついたようだ。
 しかも、これだけ現地民がいては当面通信機も使えそうにない。



「──────ハッハハハハッハハハハハハ!」


 さて、状況は少年の思考がまとまるまでの時間を与えることは無かった。
 周囲から巻き起こる爆笑の渦。

 笑い声の中に混ざる言葉の意味は理解できないが、そこに秘められた意味は容易に理解できた。
 すなわち、剥き出しの悪意。
 自分も散々受けてきたものと同質のものだ。吐き気がする。
 もっとも、自分はここまで直接的に向けられていたわけではないけれど。
 何にせよ、どうやら人間という生き物は未開惑星人であれ文明人であれ、どこもさして変わらないらしい。

 目の前の桃色の髪の少女が顔を真っ赤にして言い返し、後ろに佇む禿頭の男に何かを申し出る。
 彼女の態度が他の人間に向けるそれと明らかに異なることから、何らかの権威ある人物なのだろうと少年は推測した。

 改めて周りを見渡せば、彼女を囃し立てる人間は誰もみな自分と同じくらいか、自分より少し年下くらいの男女ばかりだ。
 その中で禿頭の男は、壮年から中年といったところ。
 なるほど、ここは学校で彼は教師かな。

 そんなことを考えていると、件の桜色の髪の少女が溜息を一つついてこちらに向かってくる。
 そして、集中した様子で何かを口ずさみ、杖が振られる。

(まさか、紋章術の詠唱か!?)
 とっさに思い至り身構えるが、この状況で自分が攻撃されるとも思えない。
 そして何よりも、先ほど寝惚けて彼女を突き飛ばしてしまったことへの罪悪感が、彼の初動を遅らせた。




 で、その結果。





「は、は、初めてだったのにぃぃぃぃぃぃ~っ……!!」
(僕も初めてだったんですケド……)

 恙無く、契約の儀は完了した。
 頭を抱える少女と少年を残して。
 そして、その数秒の後。

「─────っ、が、ああッ!?」
「ああ、大丈夫よ。使い魔のルーンが刻まれているだけ。すぐに落ち着くわ」
 焼け付くような痛みに悶絶する少年を尻目に、桜色の髪の少女はこともなげに言い放つ。
 果たして、痛みはじきに消えた。
 もっとも、事情を説明されずに焼印を押されるような感触を味わうのは精神衛生上よろしくない。
 せめて一言くらい説明してくれればいいのに。口を尖らせる少年であった。

 そして、彼の左手に残されたのは、少年の知識に無い紋章。
 紋章学にはそれなりに知識のある彼ではあったが、このような文字の配列は見たことが無かった。

「終りました、ミスタ・コルベール」
「ふむ、珍しいルーンですね。では皆さん、教室に戻りますよ」
 ああ、思ったとおりやっぱりこの人は教師だったんだ……などという気の抜けた考えは、
 次の瞬間に目に入ってきた光景によって根こそぎ吹き飛ぶ。
 呪文とともに、人が飛びあがる。
 何でもないことのように、まるで自転車か何かに乗るかのように!

(馬鹿な、個人レベルでの飛行能力……しかも、あの様子からして重力制御か!? 
 特別な機関を使っている様子も無い、未開惑星があれほどの技術を持っているなんて!)
 なにやら他の生徒たちがやいのやいのと囃し立てているが、さっぱり耳に入ってこない。
 目の前の光景が理解できないながらも、自分が異世界にいることを実感しつつあった。

 そして、残されたのは二人。

「……」
「……」
 顔を見合わせる。
 沈黙が重い。

「え、ええっと……」
 耐え切れなくなったのは、少年の方が先だった。

「……君は飛ばないの?」
「う、うっさいわねえ! そ、そうよ! あんたから色々と話を聞かなきゃいけないでしょ!
 どうせあんたも飛べないんでしょ、途中で色々聞かせてもらうんだから!」
「あ、ああ、なるほどね」
「そうよ! ……で、あんた、名前は?」
「あ、うん、ごめん。そうだね、僕は─────」

 そこまで言いかけたところで口篭る。
 息が詰まる
 心臓が高鳴る。
 手に汗がじっとりと浮かぶ。

 大丈夫、知っているわけがない。
 ここは未開惑星なんだから。異世界なんだから。
 でも、もしかしたら。

 9割9分9厘ありえないことだとわかっていても、恐れずにはいられない。
 それほどまでに、彼の父は大きすぎる人間なのだ。



「─────クロード・C・ケニー」



 窒息しそうになりながら、内臓が飛び出しそうになりながら、味気も飾り気も無い自己紹介を済ませる。
 その名を聞いても、彼女は一つ鼻をフン、と鳴らしただけだった。
 少なくとも、彼女が父の名を知らないのは間違いないらしい。
 安堵と開放感、そしてほんの少しの寂しさから口元が微かに緩む。

「……何笑ってるのよ、気持ち悪い」
「ああ、ごめん」
 さっきから謝ってばかりだな、僕。

「私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。ルイズで良いわ」
 彼女は胸を張って、そう名乗った。


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