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エデンの林檎 十話

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 十話 『だから歯茎が痛いっつってんだろが、あ?』


 真っ当に生きていたからといって幸せになれるかといえばそうではない。
 幸せの量は常に一定であると誰かが言った。だから幸不幸が存在するのだと。
 ならばこのモット伯は間違いなく幸の側であり、それを提供するのは力なき平民たちであった。

 モット伯はメイジの間ですら評判の悪い男である。
 平民の少女を金と権力を使って無理やり手篭めにし、飽きたら幾ばくかの金を握らせて追いやる。
 貴族至上主義のこのトリステインにおいて、それを言いとがめることができる平民はいない。
 メイジたちにとっても金の使い方がうまいモット伯をどうにかすることができなかった。


「シエスタが買われた?」

 朝の挨拶に出てこないシエスタを心配して食堂を訪ねたルイズに、そのむなしい真実は語られた。
 心底悔しそうな顔でマルトーはコック帽を握り締めながらうめく。

「見初められて奉公ってんなら俺も気にしやしませんがね、家族の話を持ち出して連れてったんです。あんなのないですよ」
「……」

 食堂からの帰り道、ルイズは何もしゃべらなかった。
 沈黙を破ったのはギーシュ。

「彼女に八つ当たりした僕が言ってはいけないかもしれないが、今回の件はさすがに気に入らない。平民であっても女性を一方的に辱めるのはゲスのすることだと父上に習ったよ」
「ゲルマニアは身分はあまり関係ないし平民の権利もしっかり守られてるものねぇ。むしろこの国を理解できないわ」
「モット伯は世渡りがうまい。公式に彼を止めるのは不可能だろうね」

 ルイズは何も言わず、黙って裏庭に消えた。

「……怒ってるわね」
「彼女を気に入っていたようだからね。無茶をしないでくれるといいんだが……」


 ルイズの研究小屋、木造の簡単なもののはずがいつの間にか総石造りになっているが、その横でロングビルが庭石の残骸を錬金して置物を作っている。

「“フーケ”モット伯のうわさの信憑性は?」
「ほぼ完全。被害者の一部を色町で見たことがあるね。同じ女としちゃ蹴り殺してやりたい相手かな?」
「ありがと。小屋の黒い球体持って行っていいわ」
「あれなんなんだい?」
「炭素の単結晶体。ダイヤモンドほどじゃないけど高い硬度と優れた粘度が特徴」
「何かには使えそうだね、もらっておくよ。そうそうサービスだ」
「何?」

 置物を畑の周りに並べ、ロングビルはパンパンと手を払う。

「モット伯は中身はともかく『波濤』なんて二つ名賜るくらいの実力の水のトライアングルメイジだ。
 何するつもりか知らないけど“爆発”がメインのあんたとは相性悪いんじゃない?」
「記憶にとどめておくわ」

 そう、魔法はともかく“ボムボムの実”の能力は、自分という火薬が濡れている場合着火できない。

「能力に頼るのはやめたほうがいいわね。さてどうするか……」

 コツコツと窓を叩く音、見るとフレイムとヴェルダンデが窓から顔を覗かせていた。
 戸を開けるとフンフンと鼻頭をこすり付けてくる。


「……手伝ってくれるの?」
「きゅるきゅるる」「モグモグ」
「そう、なら徹底しなくちゃね」

 フレイムは憤っていた。
 彼はもともと非常に知性の高い存在である。基本が獣であるため強いオスにメスが嫁ぐこと自体に疑問は浮かばない。
 だがその知性ゆえ人間の強さは戦闘力だけではないことも理解してる。
 しかしながらオスはあくまでメスを取り合って他のオスと戦い、その強さをアピールするに留まるべきだと考えている。
 強さで相手を縛ろうとするモットに、フレイムは強い嫌悪感を感じていた。

(獣以下の外道めが!)

 ヴェルダンデは純粋な義憤の心で動いている。
 同じメスとして気に入らないし、何よりルイズが怒っているから。
 己の主を変えた彼女のため、己の主の友人のため、ヴェルダンデは同行する。
 ていうか毎朝の毛づくろいでシエスタを気に入っただけだったりするが。

 ルイズは二匹の前に座り込み、二つのかけらを差し出しながらつぶやく。

「正体がばれてはいけないわ。だから見た目を偽る必要があるの。これを食べればそれが可能になる。その代わり一生泳げなくなるわ。それでも?」

 二匹は、迷うことなくそれを喰らった。
 そもそもフレイムは火トカゲだ、泳ぐという発想がない。
 ヴェルダンデにしても水中は得意ではなく、地中を泳ぐように掘り進むなら馬よりも早い自信がある。
 水とあまり関係のない生態の二匹にとって、それはリスクになりえなかった。

「ありがとう。カツ丼ちゃん、行くわよ」

 室内のガラクタや火の秘薬をゴリゴリ食らって、ルイズは研究時用の作業着を着込む。
 実験の際に地面に敷いたぼろい布をあえてマント代わりにまとう。
 フレイムとヴェルダンデをカツ丼の上へ、ルイズはただ夜の闇の中をモット伯めがけてひた走る。


 シエスタは物事をポジティブに考えるように努力していた。
 モット伯のうわさは聞いていたので、覚悟を決めるほかなかった。
 ポジティブに考えよう、そうだ、どうせなら自分に夢中にさせて操るくらいはしよう!
 そういうふうに思うよう勤めながら、シエスタはモットの用意したそれ用のメイド服に着替える。

 だがモット伯の部屋に足を踏み入れたとき、そんな思いもかすんで消し飛んでしまいそうだった。

「ほら、早くこっちに来んか!」

 怖い、怖い、怖い。
 恐怖にがちがちに震えながらシエスタはベッドに腰掛ける。
 それをいきなり押し倒す、ムードとか演出とかはまるで考えない女に嫌われそうな行動に出るモット。

「ヒッ(いや、いや、いやあ!)」

 目をぎゅっとつぶったシエスタの脳裏に浮かんだのはルイズではなく、自分と同じ色の髪と目をした少年の優しい笑顔だった。

 屋敷が震えるほどの轟音が響き渡った。


「何事かあ!」

 モット伯はいらだっていた。
 久しぶりに手に入れた上玉をさあこれから、というところで轟音。
 シエスタを部屋に残しいらいらしながらバルコニーへ向かう。
 その眼前には無理のある光景が広がっていた。
 真っ赤な髪と真っ赤に輝く目をした大男が、明らかに人間には無理な位置まで牙のぞろりと覗いた口を開いて、手当たり次第にフレイム・ボールを、それも無詠唱でばら撒いていた。


 モット伯の屋敷の少し手前、ルイズはカツ丼を元に戻して待機させると二匹に与えた実の説明を始めた。
 それは“ヒトヒトの実”、喰らったものに人間としての能力を与えるもの。
 人間が食べてもあまり意味のない実だが、人間以外が食べるときその真価を発揮する。
 いち早く意味を察したフレイムが己の体に意志を通す。
 メキメキメリメリと音を上げて、フレイムが人間に代わっていく。
 真っ赤な髪と真っ赤な目、小麦色の肌に点在するうろこ、二メイルはあろうかというキュルケの男版とでも言うべき大男がルイズを見下ろしていた。

「うっわぁ~高~」

 視線を戻すとその裸体の腰から下の映像が目に飛び込んでくる。

「……キュルケが気に入りそうね」

 フレイムは疑問符を浮かべたままだった。

 次いでヴェルダンデが変身を完了する。
 なんというか大雑把な大女が立っていた。
 ギーシュに姉がいればこんな感じだろうか? という雰囲気をかもし出す彼女。
 ただ大きい、背丈だけでなくあれもそれも全部大きい、ちょっとくらい分けろこのやろう! げふんげふん。
 女は自分の体をしばらく見つめ、ルイズに視線を向けてにかっと笑った。

「これを着ておいて頂戴」

 二人用に赤と青の二着のつなぎを喰らった布と金属から作り出し、ルイズは自分の変身を開始した。
 取り込んだ金属が体を覆い、ルイズの見た目を変えていく。
 内部の成分配置が書き換わり、髪の毛が急速に色を変えていく。
 ものの数秒で、異様に長い手足を金属で覆い背中に何かの装置を背負った怪人が誕生した。

「さてと」

 ガッと口から三つ、丸みを帯びた何かを吐き出す。
 それは凶悪な仮面。それを頭にかぶり、ルイズからできた怪人は門に目を向けた。

「いくわよ」

 合図と共にフレイムは一歩前へ、ヴェルダンデは両手をモグラのカギ爪に変え目の前の地面に飛び込んだ。


 一番不幸なのは誰かと問われれば、それはこのモット伯の館を作ったものだろう。
 自信を持って作ったであろう主と違い華美にあふれるその屋敷は、見るも無残に崩壊を始めていた。
 バクバクの実の悪魔が体内にストックした金属と硫黄から砲弾を作り出し、ルイズの両手から吐き出されるそれらは外壁を、壁を、窓を、扉を、そのことごとくを粉々に打ち砕いていく。
 屋敷から打って出る傭兵っぽい警備員たちは次々と飛来するフレイム・ボールが黒焼きに変えていく。

 ようやく出てきたメイジの眼前には、等しく地獄が広がっていた。
 燃える庭園、うめく人間、震えるメイド、死に掛けの消し炭。
 傭兵の一人の頭を丸ごと咥えていた赤い髪の大男は、現れたメイジを前に口の中の人間を吐き出し、その大きな口を開けて楽しそうに笑った。

「ウウウウウウウインド・アイシク」

 呪文は最後まで完成しなかった。
 ただの一歩で踏み込んできた大男のうろこと炎に包まれた拳の直撃を顔のど真ん中にくらい、氷のメイジは沈黙した。
 仲間のメイジがやられ慌てふためくメイジたちに、男は情け容赦なく火球を吐きつける。
 何とか抵抗を試みたものもいたが、すべて燃え盛る手足に吹き飛ばされていく。
 ちょうど五人目のメイジを排除し、フレイムはその目をただじっと屋敷に向けた。


 屋敷の中はさらにひどかった。
 大男をおとりに屋敷内に進入した怪人は、とりあえず目に付くものすべてを片っ端から喰らっていく。
 がたがた震える数名のメイドの前で壁に立てかけられていた斧を食べつくした怪人は、その筒状の右手を大きな扉に向けた。
 吐き出される砲弾が、扉を粉々に打ち砕く。
 一番端から順番に部屋を空け、その中の調度品をすべて平らげる。
 モット伯の精神的ダメージを狙ったこの攻撃は、ただでさえ高い彼の血圧をさらに跳ね上げることになった。

 ようやくモット伯が駆けつけたとき、目の前で怪人は大きな金庫の中にあった最期の金貨を飲み込むんでいた。

「貴様あ! よくも私の屋敷を! 私の財産を!」

 モット伯の杖から大量の水が噴出す。
 それを“砲撃の爆発で跳ぶ”というあまりに非常識な方法で回避した怪人。
 それに驚く暇もなく、怪人の鋼の腕がモット伯を襲った。

 “下から”

 キーンとかチーンとかグシャッとかいう音が響く。
 片方の性別にしかわからない致命的な痛みを感じ、モット伯は意識を手放した。
 思わず己の足の間を押さえた護衛が気配に顔を上げると、目の前には大きな砲門。

「や、優しく殺して?」

 吐き出された木製の弾等が護衛の意識を刈り取った。


 ヴェルダンデはジャイアント・モールだ。モグラのテリトリーは地中である。
 まるで水を掻くようにヴェルダンデはモット伯の屋敷の下に進む。
 彼女の鼻は、大好きな宝石のにおいを捉えていた。

 あまりよろしくない方法で財産を築き上げるものは、大体が何かしらの後ろ暗い金を持っている。
 モット伯の場合地下室が作られ、そこに隠し財産が蓄えられていた。
 地下室は外からは絶対に見えない。固定化やロックの魔法を入り口にかけたところで、まさか地下室の外壁にまでそれは施されていなかった。
 ヴェルダンデは地中から壁に穴を開けて侵入し、中を検分する。
 目に留まった宝石を嬉々としてかき集めるも、頼まれごとを思い出して棚をあさり始める。

 数分後、書類の束とオマケの宝石を体にくくりつけ、ヴェルダンデはもといた穴から抜け出した。
 そのまま屋敷の中心付近から掘り上がり屋敷の支柱周辺の土砂を削りだしている。
 建物そのものが傾き始めたのを確認すると、他の柱にも同じ用に細工を行っていった。


 急所の痛みに目を覚ましたモット伯が初めに見たものは、轟音を上げて崩壊していく自分の屋敷だった。
 使用人やメイドは既に逃げ出したらしく、都のほうへ向かう馬車の土煙が見える。
 呆然とするモット伯の前で、屋敷はその中心から崩れ落ちた。
 我に返り慌てて屋敷に内股で走ってゆく、と、門(だったもの)の横に大きなオブジェ。
 それが何かを確認した瞬間、モット伯は今度こそ意識を三千世界へすっ飛ばした。

 それは金庫やその中の金貨金塊、つぼや絵などの美術品、つまりモット伯の“表の財産”が複雑に組み合わさってできたオブジェだった。
 金貨などは鋳造しなおせばいいだろうが、つぼや絵画などはもう駄目だろう。
 ちなみに“裏の財産”こと地下室の中身は、まるでその地下室そのものが初めからなかったかのように綺麗に埋めつぶされていたことを記録しておく。
 モット伯はこの三日後、王宮に匿名で送られたさまざまな資料により爵位を剥奪されることになる。
 晩年は神の道に帰依し過去の自分のように欲望に狂ったものを導いたそうだが、正直本編とはあまり関係ない。



「ってわけで何故かモット伯が捕まって戻ってこれたのです。なんでも怪物が出たとかで」
「私のとこは何故かフレイムが言葉をしゃべるようになってね、毎日うるさくてうるさくて」
「僕のヴェルダンデもだ。韻獣ではなかったと記憶しているのだがね」
「……へえ~いろいろあったのねぇ」
「……ミス・ヴァリエール、ヒトヒトの実が二つほど足りませんが何故でしょう?」
「そういう日もあるわよ」
「「「「……」」」」


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