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ウルトラマンゼロの使い魔
第百四十九話「ロマリアの夜に」
炎魔人キリエル人 登場
ロマリア。ガリア王国真南のアウソーニャ半島に位置するこの都市国家連合体は、現在は
ハルケギニアの人間の最大宗教であるブリミル教の中心地とされる宗教国家である。始祖
ブリミルはロマリアの地で没し、後世の人間がこれを利用してロマリアを“聖地”に次ぐ
神聖なる場所であると主張したことがその始まりだ。そしてロマリア都市国家連合はいつしか
“皇国”となり、代々の王は“教皇”を兼ねるようになった。これらのため、ハルケギニア
各地の神官は口をそろえてロマリアを『光溢れた土地』と称し、生まれた街や村を出ることの
ない人間はその言葉を信じ込んでロマリアに夢を見ている。
だが、実際にロマリアを訪れて少しでも観察眼を持つ人間ならば、ロマリアが『光の国』と
称される理想郷などでは断じてないことをすぐにでも知ることだろう。実際のロマリアは、
通りという通りにハルケギニア中から流れてきた信者たちが職も住居もない貧民となって
溢れており、明日の食べるものにすら困窮した生活を送っている。その一方で、街には派手な
装飾を凝らした各宗派の寺院が競い合うように立ち並び、同じように派手に着飾った神官たちが
寺院で暇を持て余したり贅沢を極めたりしている。ここまで身分と立場の違いによる貧富の差が
同じ土地に凝縮されている場所は、ロマリア以外には存在しない。アンリエッタなどはこの光景を
『建前と本音があからさま』と評している。
そんな欺瞞に満ちたロマリアの濃厚な影の世界では、様々な集団の思惑が跋扈している。
“実践教義”を唱える新教徒がその最たる例だが、現在ではある『人外』の者たちが暗躍を
していることは、まだ誰も知らないことであった。
『……』
そしてその『人外』は今、人間の目には映らない状態である場所を注視していた。そこは
何の変哲もない酒場。だが太陽の出ている内に酒を飲むことは不信心とされるロマリアでは、
昼間の酒場は大体空いているものなのに、今日は大勢の人間が押しかけてひどく賑やかで
あった。しかも外で店を囲んでいる側は、ロマリアが誇る聖堂騎士の一隊であった。
『人外』はその酒場の中に集っている集団の方に意識を向け、その内の一人を認識すると
声音に暗い情念をにじませた。
『再び現れた……。奴に、あの時の報復を……!』
酒場に立てこもって、聖堂騎士相手にバリケードを築いているのは誰であろう、オンディーヌを
中心としたトリステイン魔法学院の生徒たちであった。
「……ったく、ロマリアに来て早々えらい目に遭ったぜ。誰かさんの余計な歓迎のせいでな」
その日の夜、才人とルイズはロマリアの中心地、引いてはブリミル教の総本山たるフォルサテ
大聖堂の自分たちにあてがわれた客室にて、とある人物と会話をしていた。と言うより、才人が
その人物に嫌味をぶつけていた。
「だから、何度も言ってるだろう? 確かに余興がちょいと過ぎたかもしれないけど、これから
待ち受けているだろうガリアとの対決は、あんなものがままごとに思えるくらい過酷なものになる
はずだぜ。あれしきで根を上げているようだったら、あの場で騎士たちに捕らえられてロマリア
から追い出されてた方が身のためってものさ」
「宗教裁判にかけられるところだったって聞いたんだけど!?」
「嫌だなぁ、そういう最悪の事態にはならないようにするためにぼくがずっと近くにいたんじゃ
ないか。さすがに命を取るような真似はしないよ」
「けッ、どうだか」
胡乱な視線を送って吐き捨てる才人。ルイズも呆れたように肩をすくめた。
そんな二人を相手に飄々と笑っている月目――地球で言うところの光彩異色の青年は、
ロマリアの助祭枢機卿ジュリオ・チェザーレ。かつてのロマリアの最盛期の大王と同じ名を
名乗るこの神官は、ルイズたちとは先のアルビオン戦役で、ロマリアの義勇軍という形で
対面している。その時から掴みどころのない性格と言動、態度で特に才人を散々に翻弄した
ものだった。
このジュリオが何をしたのか、そもそもルイズたちが何故ロマリアにいるのか。初めから
順を追って説明をしよう。
王立図書館の怪事件を、連戦に次ぐ連戦の果てに解決したルイズたちだが、すぐに次なる
旅が彼らの元に舞い込んできた。ブリミル教教皇との秘密の折衝のためにロマリアを訪問
していたアンリエッタから、オンディーヌにルイズとティファニアをロマリアまで至急連れて
くるよう命令があったのだ。何のためにそんな命令を出したのかは不明だったが、才人たちは
その指示通りにコルベールに頼んでオストラント号を出してもらって、ロマリアへと急行した。
しかし入国してすぐに一行はトラブルに遭遇してしまった。ロマリアでは杖や武器は剥き出しで
持ち歩いてはいけない決まりなのだが、そんな慣習には疎い才人がうっかりデルフリンガーを
背負ったままロマリアの門をくぐろうとして、衛士に止められた。すると個人的にロマリアが
大嫌いなデルフリンガーが衛士に喧嘩を吹っかけ、その末に警戒を強化している最中の聖堂騎士の
一団に追いかけられる羽目になってしまったのだ。それが、昼の酒場での籠城戦の経緯である。
しかし実はこの騒動の半分を仕組んだのがジュリオであった。才人たちがロマリアで困難に
ぶつかるように、教皇が誘拐されたという噂を聖堂騎士に流していたのだ。それで才人たちは
恐慌誘拐犯のレッテルを貼られ、執拗に追い回されたのであった。才人がおかんむりなのは
そういう訳であった。
そんなことがあったのにちっとも悪びれる様子のないジュリオに不機嫌な才人だったが、
いつまでもへそを曲げていてもしょうがないという風に、ふと話題を変えた。
「けど、さっきの晩餐会は色々驚かされたな。ジュリオ、お前がヴィンダールヴで……教皇聖下が
ルイズやテファと同じ、“虚無”の担い手なんてさ」
才人とルイズはティファニアとともに、アンリエッタと教皇聖エイジス三十二世こと
ヴィットーリオ・セレヴァレと囲んだ晩餐の席で、様々なことを聞かされた。その一つが、
ヴィットーリオが世界に四人いる“虚無”の担い手の一人であり、ジュリオが彼の使い魔……
才人と同等の立場だということである。まだ誰なのかは知らないが、ガリアにも“虚無”の
担い手がいることは判明しているので、これで“虚無”を担う四人の所在が全て判明した
ことになる。
そしてヴィットーリオは、同じ“虚無”の担い手であるルイズとティファニアに、エルフから
聖地を取り返す協力を求めてきた。ヴィットーリオはハルケギニア中での人間同士の戦火を止める
方法として、聖地をエルフから人間の手に取り戻し、ハルケギニア中を統一しようと考えている
のだった。そして強大な力を以て聖地を占領しているエルフと渡り合うために、四つの“虚無”を
一箇所に集めてその力を背景に交渉を行うつもりだと。
しかし、ヴィットーリオは実際に力を振るうつもりはないと言いつつも、才人とルイズは
それを詭弁だと感じた。ヴィットーリオのやろうとしていることは、要はエルフよりも大きい
力を振りかざして脅しを掛けるというものだ。才人たちはこれまでの経験から、力を拠りどころ
とする手段には非常に懐疑的なのであった。
特に才人は、地球の歴史の暗部の一つを思い出した。それは超兵器R1号事件……。ウルトラ
警備隊の時代に発生した、防衛隊最大の汚点の一つであるそれは、惑星を丸ごと破壊する超兵器を
盾にして侵略者の行動を牽制する計画から端を発した。その超兵器R1号の実験でギエロン星が爆破
されたのだが、生物がいないと思われたギエロン星から怪獣が出現し、地球に報復をしてきたのだ。
地球人の生み出してしまった哀しき怪獣ギエロン星獣……本の世界で戦ったことは記憶に新しい。
惑星破壊兵器による地球防衛は、この事件により、侵略者との兵器開発競争を過熱させて
しまうとの判断となって破棄されたのだが……ヴィットーリオはこれと同じことをしようと
しているのではないだろうか? 才人にはそう思えて仕方なかった。エルフを力で抑えつけたら、
向こうには不平が生じるだろう。それが報復となって自分たちに襲いかかって来ないと、何故
言える? ヴィットーリオは“虚無”に絶対的な自信があるようだが、力はどこまで行っても
ただの力。それを振るうルイズたちが、四六時中一切の隙をエルフに見せないなんてことが
出来るだろうか。
アンリエッタもある程度は才人たちと同じ考えで、ヴィットーリオの提唱する方法に全面的に
賛成してはいなかった。しかし……彼女は一国の長故に、ハルケギニア中の人間による争いを
止めることの困難さをルイズたち以上に知っている。彼女では、他に戦を止める方法が思いつかない
がために、ヴィットーリオに強く反対することも出来ないでいた。そのため、結論は保留という
曖昧な態度を取っていた。
そもそもそれ以前に、一つ重大な問題がある。ガリアの担い手だ。“虚無”が完全な力を
発揮するには始祖ブリミルに分けられた四つがそろわなければいけないが、あのジョゼフが
支配するガリアが協力をするはずがない。そこをどうにかしなければ、たとえルイズたちが
ヴィットーリオに協力したところで徒労が関の山だ。
しかしヴィットーリオも抜かりないもので、既にガリアをどうにかしてしまう作戦を講じていた。
三日後にはヴィットーリオの即位三周年記念式典が開催されるのだが、そこにルイズとティファニア
にも出席してもらって、三人の担い手を囮にジョゼフをおびき出すというのだ。そうしてジョゼフを
廃位にまで追い込み、ガリアを無害化するというのがヴィットーリオの立てた計略であった。
エルフのことはともかくとして、ルイズやタバサの身を狙うジョゼフには落とし前を
つけなければならない。才人はそれには賛成であったが、ルイズはこれも反対の立場を
取っていた。ジョゼフの力は未だ底が知れない……。事実、ゼロも才人も何度も危機に
陥っている。そのためルイズは強く警戒しているのであった。
ヴィットーリオはこれらのことに対して、すぐの回答を求めなかった。それで晩餐会は
終わりを迎えたのだった。
「にしても、ちょっと意外だったな。あの教皇聖下、見たことがないくらいの優男なのに……
発言がやたら過激だった」
晩餐会を振り返って、才人がぼやいた。ヴィットーリオは女性顔負けの、輝くような美貌を
有しており、更には完全に私欲を捨てたレベルの者だけが放てる慈愛のオーラを放っていた。
才人は初めて面と向かった時、しばし呆然としてしまったくらいだ。
しかしそのヴィットーリオの思想や発言は、上記の通り。力を背景にした交渉を推し進めようと
する強引さに加え、才人は彼からの「博愛は誰も救えない」という断言が一番記憶に残っていた。
愛の感情に溢れた人間の発言とはとても思えない。
このことについて、ジュリオは語る。
「それは無理からぬことさ。何せ、聖下が即位なさってからまだ三年ほどだけど、たった
それだけの間に聖下は苦渋の数々を経験なさってるのさ」
「苦渋?」
才人とルイズがジュリオの顔を見返す。
「そうさ。ロマリアは国内外から“光の国”と称されるけど、実態はそれとは程遠いのは
きみたちも目にしたことだろう? この国は全く矛盾だらけさ」
ジュリオのひと言に内心深く同意する二人。ロマリアに入国してから少し見ただけでも、
街の至るところに難民の姿と、彼らに対して全く無関心な神官の姿が目立った。籠城戦の
時も、聖堂騎士が才人たちにてこずっていると野次馬の市民から散々野次が飛んでいた。
普段権威を笠に着て威張り散らしている聖堂騎士の苦戦が愉快だったのだ。このひと幕で、
ロマリアの権力者が平民からどう思われているのかが垣間見えるだろう。
“光の国”の呼び名は、ゼロの故郷ウルトラの星の別称と同じであるが、両者の内情は
天と地ほどの開きがあるのであった。
「大勢の民が今日のパンにも事欠く傍らで、各会の神官、修道士は今日も民からせしめた
お布施で贅沢三昧だ。今じゃ新教徒のみならず、終末思想じみたものを唱える異教すら
その辺で横行するありさまでね。聖下はそんなこの国の現状を解きほぐそうと、教皇就任から
ずっと努力されてきた。主だった各宗派の荘園を取り上げて大聖堂の直轄にしたり、寺院に
救貧院の設営を義務づけたり、免税の自由市を設けたりとかね。すると聖下を教皇に選んだ
神官たちは何と言ったか分かるかい? 新教徒教皇だってさ。ほんと勝手なもんだ」
うんざりしたように肩をすくめるジュリオ。
「今のままでこれ以上神官たちの私利私欲を止めようとしたら、聖下は教皇の帽子を取り上げ
られてしまうだろう。そんな行き詰まった状態を打破しようと、聖下は聖地回復をお望みされて
いるという訳だ。聖下のご動機、分かってくれたかい?」
「ま、まぁ、一応は……」
ジュリオのまくし立てるような説明により、才人は若干呆気にとられながらも、ヴィットーリオも
いたずらにエルフと事を構えたい訳ではないことを理解した。ルイズは同じように呆然としながら
ジュリオに問い返す。
「ジュリオ……あなただって神官なのに、随分とズバズバ国の痛いところを口にするのね。
まぁあなたはそういう人なんでしょうけど」
「今みたいな建前なんて必要のない、正直なところを遠慮なく発言できる国も聖下の目指されて
いるところだからね」
実に口の回るジュリオは、ここで態度を一層崩す。
「まぁこんな小難しい話をしに来たんじゃないよ、ぼくは。ちょっとしたお誘いだ」
「またルイズにちょっかい掛けようってのか?」
「是非ともそうしたいところではあるが、残念ながら用事があるのはサイト、きみの方だ」
「えッ、俺?」
やや面食らう才人。
「実はこの国には、是非きみに見てもらいたいものがあってね。ちょっとカタコンベに潜って
もらうことになるけど」
「うーん……悪いけど今日はもう疲れたから、明日にしてくれないか? 明日は時間あるか?」
「ああ。それじゃあ明日の早朝にしよう。明日は早起きを……」
話している最中で、ジュリオの台詞が不意に途切れ、彼の目つきが一変。険しいものとなって
虚空を用心深く見回す。
「ジュリオ?」
虚を突かれるルイズだが、才人もまたデルフリンガーを手に取り、警戒の態勢を取っている。
「……誰かいるな」
「気がついたかい。こういうことには鋭いんだね」
二人は、姿は見えないが刺すような殺気がどこからかこの空間に向けられていることを
察知したのだった。実は才人とゼロは、ロマリアに来てからずっと、誰かに良く思われて
いない目で見られていることを感じ取っていた。ジュリオの尾行に気づかなかったのも、
その気配に隠れていたからだ。
じり……と臨戦態勢を取る才人とジュリオ。そして息の休まらぬしばしの時間が過ぎた後……
彼らの客室が突如爆発炎上した!
「っはぁッ! いい反射神経だ!」
「散々鍛えられたからな!」
しかしジュリオと才人はルイズを連れながら一拍早く扉から脱出していた。ごうごうと
燃え盛る火災から安全なところまで下がると、ジュリオが機嫌を害したような声で発した。
「客間とはいえ、大聖堂で爆発テロなんて穏やかならぬ話だ。これを仕掛けた奴、いい加減
姿を見せたらどうだい!? 近くにいるんだろう!?」
辺りに向かって怒鳴ると、それに応ずるかの如く、三人の前に怪しいものが出現した。
全体的に人型ではあるが、輪郭がかなりおぼろげで姿がはっきりとしていない。人間型の
人魂、という表現が一番しっくりくるだろうか。
ルイズが驚き、才人とジュリオが反射的に身構えると、その人魂は言葉を発した。
『六千年の時を隔て、再び相まみえようとは……。受けるがいい、このキリエル人の裁きをッ!』
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