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ウルトラマンゼロの使い魔
第百十九話「こいびとは怪獣」
酔っぱらい怪獣ベロン 登場
最近のルイズの才人に対する目に余るほどの仕打ちのひどさに思うところあり、才人の
一日使用権を発動したシエスタ。その中で才人に惚れ薬を盛ろうと邪な考えが芽生えたものの、
思い直して使用しないことにする。だが、学院に忍び込んできた怪獣ベロンに惚れ薬をワインごと
奪い取られてしまった! その上惚れ薬を飲んだベロンがシエスタに惚れてしまったものだから
さぁ大変! シエスタがベロンにさらわれてしまったぞ! どうなる、シエスタ!
「……は……は……はぁ~くっしょぉんっ!」
すっかり日が暮れた頃、シエスタはくしゃみを盛大にぶちかました。何せ今の彼女は、
才人を誘惑していた際のエプロン一枚だけの姿。冬は過ぎたとはいえ、夜はまだまだ
冷え込む時期にこれはきつい。
「うぅ、さ、寒い……。どうしてこんなことにぃ……」
ブルブル震えて歯をカチカチ鳴らすシエスタ。出来ることなら今すぐ学院に帰りたいが、
それは出来ない。何故なら、今の彼女がいる場所は切り立った崖の中腹なのだから。おまけに
すぐ側では、ベロンが見張っている。
学院からシエスタを誘拐して消えたベロンは、彼女を逃がさないようにと人気のない山奥にまで
連れてきた。魔法の力など欠片もないシエスタでは、崖から命を持って逃げ出す術などない。
仮に逃げられたとしても、すぐにベロンに捕まってしまうことだろう。
「お、お願いです……。せめて、何か暖を取れるものを下さい……」
とシエスタがベロンに頼み込んだら、ベロンは何を思ったか口からゴウッ! と火炎を吐いた。
「きゃあぁッ!? や、やめて下さい! やっぱりいいですッ!」
身の危険を感じて必死に断るシエスタ。確かに暖は取れるものかもしれないが、そういう意味で
言ったのではない。おまけにアルコール臭かった。
「うぅ……惚れ薬の効果が切れれば解放してくれるかもしれないけど……いつになったら
効果が終わるんだろう……」
シエスタは惚れ薬の効き目が切れるのを期待してベロンを見上げるが、
『好き~♪』
ベロンは未だに目をハートマークにしてシエスタを見つめているので、シエスタはがっくり
肩を落とした。
ジェシカから押しつけられた惚れ薬は粗悪品であり、本来の効果時間は一時間程度のものであった。
だがもう一時間以上経過しているのに、ベロンは元に戻らない。これはベロンが人間の限界をはるかに
上回る酒気を帯びており、大量のアルコールと惚れ薬が結びついてしまって、効果が引き延ばされて
いるからだった。
要するに、悪酔いしているのだった。
「ひ~ん、助けて下さいサイトさ~ん……。今どこでどうしてますかぁ~……?」
シエスタはいよいよ半べそをかき、この場にはいない才人に助けを求めたのだった。
その当の才人は、ルイズとタバサとともに、シルフィードに跨ってシエスタの捕まっている
山奥まで駆けつけたところであった。
「ようやく見つけたぜ。何とかして、ベロンからシエスタを奪い返さないとな……」
「全く、あのメイドも手を焼かせるものね」
才人たちはベロンに見つからないように、山林に身を隠しながら崖のシエスタの様子を
タバサの遠見の魔法で確かめていた。
シエスタの置いていったジャンボットの腕輪は、現在ルイズが嵌めている。
『大きい私では、怪獣に気づかれずに接近するのは無理だ。すまないが、君たちでシエスタを
助けてやってほしい。どうかよろしく頼む』
「任せてくれ。……って言いたいところだけど……」
才人は、シエスタの側にベロンがひっついていて離れようとしない状況を観察して渋面を作った。
「ああもべったりじゃ、俺たちも見つからずに近づくってのはちょっと無理そうだな……」
生憎、崖の周囲は身を隠せられるようなものが何もない。下手に近づこうものなら、シエスタを
奪われると逆上したベロンに叩き潰されることだろう。
『あんなにシエスタに近かったら、変身して取り押さえるってのも危険だしな……』
ゼロも意見する。
「どうしたものかなぁ……。シエスタの体調も心配だし、早く何とかしたいんだけど……」
「タバサ、あんた何かいい案ない?」
悩む才人。ルイズはタバサに意見を求め、タバサは短く答えた。
「注意を引きつける」
「注意を……? そうか、怪獣の目をシエスタからそらして、その間に救出するって訳ね!」
「ベロンの注意を引くもの……何かないかな……。お酒はここにはないし……」
タバサの意見で、才人は端末からベロンの情報を引き出した。
「あった、これだ! ベロンはお酒の他に、歌と踊りが大好きだって!」
「それってつまり?」
「こっちが歌とともに踊りを踊って、ベロンを夢中にさせてシエスタから引き離すんだ!」
自信満々に言う才人だが、ルイズが一つ問題点を挙げる。
「でも歌と言っても、誰が歌うのよ? わたし、踊りはともかく歌なんて大して知らないわよ」
タバサも同様。しかし才人には解決案が既にあった。
「大丈夫だ、この端末に歌をいくつか録音してある。それをベロンにも聞こえるように、
ボリューム目一杯に流すんだ」
「歌まで流せるのね、その機械」
「ベロンの好きそうなアップテンポな曲だ。ルイズはそれに合わせて、とにかく激しく踊ってくれ。
それでベロンは釣られるはずだ」
才人の提示する作戦にうなずき、端末を預かるルイズ。
「タバサ、ベロンがシエスタから離れたら俺たちの出番だ。シルフィード、ルイズがベロンの
注意を引きつけてる間にシエスタのところまで近づいてくれ」
タバサもシルフィードもうなずくと、いよいよシエスタ救出作戦が実行される。
「よしッ! それじゃあ作戦開始だ!」
まずはルイズが林の陰から飛び出し、わざとベロンに見つかる。
『ん~?』
「怪獣! この歌を聞きなさい!」
叫んだルイズが端末のスイッチを入れて、録音されている歌を流し始めた。
『ふぁ~すときす~からは~じまる~、ふ~たりのこいのひすとり~♪』
「……何かしらこの歌。初めて聞いたはずなのに、どっかで聞いたことあるような気がするわね……」
歌に合わせて、ルイズはベロンにアピールするように身体を大きく動かして踊り出す。
「!!」
すると早速ベロンの視線がルイズの方に釘づけになり、注意が完全に彼女に向いた。惚れ薬で
心を操られても、歌と踊りが好きという点に変わりはなかったようである。
『うお~!』
歌が進むにつれてだんだんと気分が乗ってきたベロンは、ルイズの動きを真似て踊り始める。
「よしよし、いい調子だわ!」
ベロンの反応を見てほくそ笑むルイズ。そして歌が変わるのと合わせて、踊りも別のものに変える。
『あいせいいえすずっと~、きみのそば~にい~る~よ~♪』
踊りながら、ベロンをシエスタの側から離れさせるように移動していくと、ベロンは見事に
引っ掛かってシエスタから離れていく。
「よし、今の内だ!」
ベロンが十分に距離を取ると、隠れていた才人たちが素早くシエスタの元まで飛んでいく。
「シエスタ! 助けに来たぞ!」
「サイトさんッ! あ、ありがとうございますぅ~! 心細かったですぅ~!」
感激したシエスタは思わず才人に飛びついて、ギュウッと彼を抱きしめる。
「お、落ち着いてシエスタ。怪獣がこっちに気がつくかもしれないからさ……」
抱きつかれた才人は、シエスタの色々と柔らかい部分の感触を味わってドギマギした。
……それによりタバサが、ほんのかすかに眉を吊り上げた。
「と、とにかくその格好じゃ寒いだろ。ほら、これを上から羽織ってさ」
「ありがとうございます。サイトさんは本当にお優しいですね……」
自分のマントをシエスタに着せてあげた才人は、彼女をシルフィードの上に乗せるとすぐに
この場から離れようとする。
しかし! その瞬間に、ベロンがこちらを一瞥したのだった!
『!! がおーッ!』
途端にベロンは憤怒。最早歌と踊りは通用しなくなり、シルフィードめがけドスドスと迫ってくる。
「しまった! 気づいちまった!」
焦る才人。しかしシエスタを奪還することは出来た。これならば、才人が変身してももう問題ない。
『才人! こうなりゃ俺たちの出番だぜ!』
「よっしゃ! タバサ、シエスタを頼んだぜ!」
シエスタのことをタバサに託し、才人はシルフィードの背から宙へ飛び降りた。
「デュワッ!」
同時にウルトラゼロアイを装着。光に包まれて変身、巨大化し、シルフィードに迫っていた
ベロンの面前にウルトラマンゼロが仁王立ちして登場する。
『んあぁ~!?』
ベロンは己のすぐ前に突然現れたゼロの姿に一瞬たじろいだ。
「テヤッ!」
『ほげ~!』
その隙にゼロはベロンに空手チョップ。先制攻撃をもらったベロンが目を回してひっくり返る。
その光景をバックに、ルイズの元にシルフィードが急接近。彼女の元を回り込みながら
タバサがルイズを拾い、シルフィードはこの場より飛び去って避難していく。
『ムキ~!』
シエスタを奪われ、強烈な一打をもらったベロンはカンカンになって、起き上がるとブシュー!
と鼻息を蒸気のように吹き出した。
片足で地面をかくと、勢いをつけてゼロに突進していく!
「フッ!」
『おあ~!?』
だがゼロはベロンの突進を簡単にいなした。受け流されたベロンはつんのめりながら、
勢いを殺せずに崖に激突。顔が岩壁にめり込み、落下してきた岩石が脳天に落下する。
『う~ん……!』
岩壁から身体を引き剥がすベロン。今の衝撃で頭の上で星が回っているが、それでも戦うことは
やめずに、口から火炎を吐き出した。
『うおッ! 酒くせぇッ!』
ゼロは熱よりアルコール臭いことに驚き、思わず飛びすさる。が、合わせた両手より
消火フォッグを発してベロンの火炎放射を消し止めた。
『おわっぷぅッ!』
フォッグはベロンの顔にもかかり、ベロンはむせて苦しんだ。だがそれでもめげずに、
跳躍してゼロにのしかかろうとする。
「セェアッ!」
しかしゼロはベロンの身体を両手で受け止めた上、勢いを利用して背後に投げ飛ばした。
『おわぁぁぁ~!!』
地面に叩きつけられ、ゴロンゴロン転がるベロンであった。
戦いはほぼ一方的。ベロンは怪獣といえども、戦闘に優れている訳ではないフラフラの
酔っぱらい。到底ゼロに敵うべくもない実力なのだった。
『うぅ~ん……!』
しかしベロンはどれだけやられて、グロッキーになろうともめげずに立ち上がってくる。
その様子に、才人は何だか申し訳ない気分になっていた。
『なぁ、ゼロ……あいつのことも助けられないか? 酒泥棒ではあるけれど、あんなにボロボロに
なることはないはずだよ』
ベロンが傷だらけになっても何度も向かってくる理由を、才人は分かっていた。
『あいつがあそこまでするのは、惚れ薬を飲んでおかしくなっちまったからだ。薬の効果を
切らせば、こんな戦いをする必要もないよ』
『ああ、そうだな……』
ゼロはベロンを正気に戻す手段を考えた。まずは、ベロンが迷惑行動に走る最大の理由である、
泥酔状態をどうにかしなければならない。
『……よっし! 一丁やってみるぜ!』
再度ゼロにまっすぐ突っ込んでくるベロン。それに対し、ゼロはウルティメイトブレスレットに
右手を添える。
するとブレスレットが光り、そこから意外な「あるもの」が出現したのだ! その正体とは……。
『えぇぇッ!? ば……バケツぅッ!?』
でかいバケツだった。
『こいつを食らいなッ!』
ゼロはバケツを大きく振り、中身の水を飛ばしてベロンに頭から被せた。
『んあぁぁ~!?』
水を被ったことでベロンの酔いが醒めていき、どこか焦点の合っていなかった目つきも
はっきりとしてくる。と同時に、今までに溜まった疲労のためか、すぐにその場にばったりと
倒れ込んで、ぐおーぐおーと高いびきをかき始めた。
これにより、ベロンは完全に無力化された。
『全く、散々暴れた挙句に眠りこけやがって……。幸せな野郎だな、こいつは』
ゼロは肩をすくめて、眠り込んだベロンの身体を頭上高くに抱え上げた。が、才人は別のことを
気に掛けて呆気にとられていた。
『ゼロ……そのブレスレットから、バケツも出てくるんだな……』
『みんなには内緒だぜッ!』
と告げたゼロが天高くに飛び上がり、ベロンを宇宙に送り帰してやったのだった。
「本当にごめんなさいッ!」
シエスタを無事に救出した後、ルイズたちは部屋で彼女から謝罪を受けていた。いつもの
メイド服に着替え、大きく頭を下げたシエスタを見やりながら、ルイズはため息を吐く。
「一日使用権は許したけど、そんな手を使っていいとは言ってないわ」
『全くだ。今回のことは、君の邪な考えに対しての天罰だろう』
ジャンボットも咎めると、シエスタはポロポロと泣き出してしまった。
「ほんとにごめんなさい……。こんな風に迷惑がかかるなんて……。わたしに人を好きになる
資格なんてないわ」
『あッ、いや、何も泣かなくとも……』
ジャンボットが慰めようとしたところ、才人が口を挟んだ。
「シエスタ、別に悪くないよ。だって使ってないじゃん。だからワインには注いでなかったんだろ?」
『ああ。惚れ薬とワインが別々だったのは、俺が保証する』
シエスタをかばった才人とゼロだが、シエスタは力なく首を振った。
「いえ……ギリギリまで使うつもりだったから、あの場で手にしてたんです。そもそも薬に
頼ろうとしなかったら、こんな大事にはならなかったのに……」
シエスタが自責していると、ルイズがやれやれと肩をすくめた。
「もういいわ。……サイト、あんた一旦部屋を出てなさい」
「えッ、何で?」
「女の子同士の話があるの! それくらい察しなさいよ、もう!」
グイグイと才人を部屋から追い出すルイズ。
「いいって言うまで、入ってきちゃ駄目だからね」
「わ、分かったよ」
才人が扉を閉じると、ルイズはごそごそとポケットを探り、シエスタに何かを手渡した。
「これ……何ですか?」
それは一見すると、何の変哲もないノートだった。
「読んでごらんなさい」
ノートの表紙を開くシエスタ。中身には、ルイズが才人に対して思ったことが延々と
したためられていた。ルイズの秘密日記である。
大半は、如何に才人に冷たくされたのか、どんな風にプライドを傷つけられたのか、何度
期待を裏切られたか……どれだけ才人が鈍感で、自分が思い悩んでいるかを表す内容だった。
「ミス・ヴァリエール……」
「分かる? サイトはね、そのぐらいの鈍感大王なの。だから、変な薬に頼りたくなる気持ちも
何となく分かるわ」
『確かにサイトは、変なところで思い上がって奇行に走ったり、落ち着きなくフラフラしたり
するな。私としても、私生活からもう少ししっかりしてもらいたいところだ』
才人は戦いでは勇敢な戦士になっても、まだまだ未成熟なお年頃。その年代の男子というのは
往々にして馬鹿なものだ。おまけに才人は並外れて鈍感で、女心をちっとも理解しておらず、
自惚れやすいのですぐにルイズをやきもきさせるようなことばかりする。調子づきやすいという
点ではルイズに負けず劣らずであった。
「今回のことを反省して、もう惚れ薬になんて手を出さないと誓うのなら水に流すわ。だから
人を好きになる資格がない、だなんてこと言わないの」
寛容に許したルイズに、シエスタはひしっと抱きついた。
「ああ、ミス・ヴァリエール……。わたし、サイトさんがいなかったら、あなたに一生を
捧げてもいいと思いますわ」
「よく言うわよ。でも、わたしも、あんたに何か友情みたいなものを感じるわ」
「貴族のお方に、お友達なんて言ってもらえて……わたしはトリステイン一の幸せ者ですわ」
ルイズとシエスタが仲直りすると、才人は部屋の中に戻される。
「何話してたんだ?」
「それ言ったら、あんたを外に出した意味ないでしょうが」
「そりゃそうか。まぁ、仲直りしたのならそれでいいか」
ルイズとシエスタの様子から、才人はそう結論づけた。
そんな彼の腕に、シエスタががばっと抱きついた。
「サイトさんッ!」
「うわッ! シエスタ!?」
「今日はほんとにごめんなさいッ! このお詫びはまた致しますので!」
「お、お詫びなんていいよ」
「いいえ、それではわたしの気が済みません! それに……サイトさんがよろしいのでしたら、
新婚さんごっこの続きも改めて……」
「続きぃ!?」
シエスタの言動と、胸を押しつけられて顔が崩れる才人にルイズが思わずベッドから腰を浮かした。
「ちょっとぉ!? シエスタ、あんたねぇ、今さっき謝ったばっかりで何言ってくれてるのよ!
反省してないじゃない!」
「もちろん今度は惚れ薬なんて抜きです。正真正銘、わたし自身の魅力で勝負しますから。
それなら水に流してくれるとおっしゃったでしょう?」
「だからって、ちょっとは遠慮ってもんがあるでしょうがッ! サイトあんたも、鼻の下
伸ばしてるんじゃないわよッ! ほんと馬鹿犬ぅぅぅッ!」
「な、何で俺までー!!」
ルイズ、才人、シエスタが相変わらず進歩のない騒ぎを起こしている一方で、畳の隅で
タバサが我関せずといった風に本を読み続けていた。
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