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ウルトラマンゼロの使い魔
第五十二話「ある教師の墓標」
異次元人ヤプール人
異次元超人カブトザキラー
火炎超獣ファイヤーモンス
ミサイル超獣ベロクロン
一角超獣バキシム
蛾超獣ドラゴリー 登場
『うあああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』
「ゼロぉッ!!」
カブトザキラーの放ったM87光線の引き起こした爆発に呑まれたゼロ。絶叫するルイズ。
一方、攻撃を指示したヤプールはけたたましく高笑いする。
『うわはははははははぁ――――――――! 見たか、カブトザキラーの威力を! ウルトラマンゼロ、
今度ばかりは貴様の最期だッ!』
黒煙の中に姿が消えたゼロはどうなったのか。まさか……最悪の想像をしてルイズたちは戦慄する。
『……っはぁッ!』
しかし、最悪の想像は破られた。煙が晴れると、うずくまっていたゼロが雄々しく立ち上がった。
カラータイマーが赤く点滅しているが、まだ倒れてはいない。
ヤプールはゼロを仕留め切れなかったことに舌打ちする。
『ちッ、ウルトラ戦士は本当にしぶといものだな』
『テメェらに言われたくはねぇな、ヤプール!』
ゼロの戦意は折れていない。ゼロスラッガーを両手に握り締めると、カブトザキラーに
猛然と斬りかかっていく。
『うおおおおぉぉぉぉぉッ!』
『メビュームナイトブレード!』
対するカブトザキラーは右腕より濁った色の光剣を伸ばし、スラッガーの斬撃を受け止める。
『せぇぇぇぇいッ!』
ゼロは連続で斬りつける技、ゼロスラッガーアタックで攻めるも、カブトザキラーは巧みな
剣さばきで全ての斬撃を防ぎ切った。更に左手の巨大ハサミでゼロの胸を切り上げて、カウンターを食らわせる。
『ぐはぁぁぁッ!』
ハサミの一撃は強力で、ゼロは吹っ飛ばされて大地を転がった。カブトザキラーは追撃しようと歩み寄るが、
「シェアッ!」
ゼロが倒れたままでビームゼロスパイクを発射。カブトザキラーの胸部のクリスタルに直撃し、
スパークを起こしたカブトザキラーはその場で片膝を突く。
『ぐ、ぐぐ……!』
どうにか一撃を与えることは出来たが、ゼロのダメージも色濃い。起き上がるのも必死な状態になっていた。
苦戦しているのはゼロだけではなかった。他の三人も超獣の絶大な破壊力の前に押されつつあった。
「グロオオオオオオオオ!」
『うぅッ……!』
ベロクロンが口から高熱火炎を吐き出して、ミラーナイトを熱で苦しめる。追い詰められる
ミラーナイトの姿が突然割れた。鏡に映った虚像であった。
「グロオオオオオオオオ!」
十八番である鏡のトリックによる奇襲を仕掛けようとしたミラーナイトだったが、ベロクロンは
全身の突起からミサイルを大量に、360度全てに発射。自身を取り囲んだ鏡を全て破壊する。
『うわぁぁぁッ!』
ミラーナイト本体もまたミサイルの爆撃を食らい、地面に投げ出された。すぐに起き上がるが、
ベロクロンの投げつけた光輪で縛られて身動きを取れなくされる。
「グロオオオオオオオオ!」
『あああああああッ!』
ベロクロンは指先からのレーザーで追撃。ミラーナイトはまたも横転した。様々な敵を破った
ミラーナイトの鏡の術だが、ベロクロンには通用しないのだった。
「ギョロロロロロロロロ!」
『うおおぉぉぉッ!』
ジャンボットはドラゴリーのぶちかましを食らって倒された。ドラゴリーは超獣の中でも
随一の怪力の持ち主であり、鋼鉄のロボットであるジャンボットでもその打撃を受け切ることは出来なかった。
「ギョロロロロロロロロ!」
ドラゴリーは仰向けに倒れたジャンボットの顔面を鷲掴みにして、首をもぎ取ろうとする。
『ぐわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』
首がメリメリと嫌な音を立てる。ドラゴリーの握力はロボットの彼でも耐え難いほどであった。
ジャンボットはたまらず絶叫を上げた。
「ア――――――――オウ!」
ファイヤーモンスは口からロケット弾を発射し、グレンファイヤーの背面に浴びせかける。
更に反対側からは、バキシムが鼻先と両手よりバルカン砲を連射する。
「ギギャアアアアアアアア!」
『うおぉぉあああぁぁぁぁッ!』
挟み撃ちにされ集中砲火を食らうグレンファイヤーが悲鳴を上げる。と、ファイヤーモンスは
不意に攻撃を途絶える。
「ア――――――――オウ!」
そしてあろうことか、学院の方に歩み寄り始めた!
『まっ、待てこの野郎ッ!』
今は他にファイヤーモンスの進撃を止める者がいない。グレンファイヤーはファイヤーモンスへ
飛び掛かろうとするが、
「ギギャアアアアアアアア!」
そこに身を屈めたバキシムが、頭頂部の角を発射!
『ぐああぁぁぁッ!』
直撃と爆発を食らったグレンファイヤーは撃ち落とされてバッタリと倒れた。
「ギギャアアアアアアアア!」
バキシムは倒れた彼の上に馬乗りになって、トゲの生えた平手で激しく殴りつける。
『うがぁッ! く、くそぅッ!』
グレンファイヤーが止められている内に、ファイヤーモンスが学院の人々に襲い掛かってしまう!
「ア――――――――オウ!」
「い、いやぁぁぁぁッ! 怪獣が来るぅぅぅぅぅぅぅぅッ!」
中庭で消火活動に当たっていた女子生徒が、ファイヤーモンスに見下ろされたことで恐怖の金切り声を発した。
「皆の衆、学院の中に退避するのじゃ! 早く、早くッ!」
オスマンが急いで呼びかけ、生徒たちを塔の中へ誘導する。しかし、
「アニエス、立ちなさいよ! 逃げないと殺されるわよ!?」
「あ……あぁ……!」
アニエスが未だ腰を抜かしたまま、立ち上がれないでいる。ルイズが何度呼びかけようと、
正気に戻らない。ファイヤーモンスはもうすぐそこまで迫っている。
「もう、しょうがないわね! タバサ!」
痺れを切らしたキュルケとタバサがレビテーションを掛け、アニエスを運搬しようとする。
だが判断が少しばかり遅かった。
「ア――――――――オウ!」
ファイヤーモンスが四人に向けて高熱火炎を吐き出したのだ。
「きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
ギリギリ直撃は受けなかったが、爆風によってルイズ、キュルケ、タバサが吹き飛ばされた。
ドテッと投げ出されたアニエスを、ファイヤーモンスが睨む。
「ア――――――――オウ!」
「ひぃッ……!」
アニエスは引きつけを起こしてガタガタ震えるばかり。過去のトラウマを呼び起こされた今の彼女は、
無力な子供同然となってしまっている。
ファイヤーモンスはそんな彼女を容赦なく焼き殺そうと、口を開く……!
「アニエスくーんッ!」
そこに飛び込んできたのは、コルベール。アニエスを背にしてかばい、勇敢にファイヤーモンスに立ちはだかる。
「はッ……!?」
コルベールにかばわれたことで、アニエスはようやく正気に戻った。ダングルテールの虐殺を
引き起こした部隊の隊長に守られているという事実が、彼女の意識をはっきりとさせた。
「やめろッ! わたしの故郷を焼いた貴様に助けられたくはない! わたしの盾になどなるなッ!」
「わたしに助けられたくないのなら、早く逃げなさい!」
アニエスが叫ぶも、コルベールはその場を動こうとしない。
「くッ、何故こんな真似をする! 罪滅ぼしのつもりか!? わたしをかばって、許しを得ようとでもいうのか!」
詰問すると、コルベールはファイヤーモンスから目を離さないまま苦笑した。
「そうかもしれない。だが……きみに死んでほしくないという気持ちだけは、本物のつもりだよ!」
「……!」
それを聞いた時、コルベールの背中を見つめたアニエスは、古い記憶が呼び覚まされた。
ダングルテールが焼き払われた時、幼い自分は瀕死の状態だったが、誰かに背負われて
逃がされたことで生き延びた。その時の背中が……今目の前にあるものと同じだと、本能的に理解をした。
「くぅッ……!」
アニエスの足に力が入り、その場から逃げ出そうとする。
しかしその行動は、わずかに遅かった。
「ア――――――――オウ!」
とうとうファイヤーモンスが地獄の業火を吐き出した! このままではアニエスが焼き殺されてしまう!
「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
コルベールは残った精神力を全て振り絞って、杖から炎を発した。ファイヤーモンスの火炎を
押し戻して時間を稼ごうというのだ。
そのお陰でアニエスはぎりぎり退避が間に合ったが……コルベールの炎は押し返されて、
彼は業火に呑まれた。
「――ッ!」
コルベールの叫び声が、炎のうねりにかき消される。
「先せぇーいッ!!」
ルイズが、キュルケが、タバサが、オスマンが……アニエスが、唖然となった。
『し、しまったッ!! ちくしょぉうッ!』
ようやくバキシムを突き飛ばしたグレンファイヤーだったが、コルベールが火炎に呑まれたところを
目の当たりにしてしまう。ギリギリと拳を握り締め、怒りの炎を焦がした。
『テメェェェーッ! 許さねぇぞぉぉぉぉぉッ!』
「ア――――――――オウ!」
グレンファイヤーは更なる犠牲者を出そうとしていたファイヤーモンスに背後から掴みかかり、
学院の前から投げ飛ばした。
ファイヤーモンスはすぐに起き上がってグレンファイヤーに火炎攻撃を繰り出すが、
彼は鍛え抜かれた胸板でそれを受け止める。
『何が究極の炎だ! こんなもん、俺の炎でぶっ飛ばしてやらぁーッ!』
グレンファイヤーは全身を燃え上がらせてファイヤーモンスにまっすぐ突撃。炎を纏った
体当たりを食らったファイヤーモンスが赤熱する。
「ア――――――――オウ!」
瞬く間に臨界点を超えたファイヤーモンスは木端微塵に爆散した。一体化したメンヌヴィルも
当然爆死。あまりに呆気ない最期であった。
グレンファイヤーの逆転に当てられたかのように、他のメンバーも猛反撃を行う。
「グロオオオオオオオオ!」
『はぁッ!』
ベロクロンがミサイルを発射しようと口を開けた瞬間に、ミラーナイトがすかさずミラーナイフを放った。
光刃はベロクロンの口内に吸い込まれる。
「グロオオオオオオオオ!!」
その衝撃で体内のミサイルが誘爆。ベロクロンは全身から黒い煙を噴いて立ち尽くした。
『シルバークロス!』
そしてミラーナイトが必殺攻撃を繰り出し、ベロクロンは十字に切断されて跡形もなく爆裂した。
『ビームエメラルド!』
「ギョロロロロロロロロ!」
ドラゴリーに頭部をもがれそうになっていたジャンボットは、一瞬の隙を突いてビームエメラルドを発射。
至近距離から光線を食らったドラゴリーが大きくひるむ。
『よくもいたいけな命を……許せん! ジャンナックル!』
コルベールの犠牲に燃えるジャンボットが飛ばしたパンチは普段以上の勢いで、ドラゴリーの脇腹を
ぶち抜いて風穴を開けた。
「ギョロロロロロロロロ……!」
『ジャンブレード!』
フラフラと足元がおぼつかなくなったドラゴリーに、ジャンボットが剣をすれ違いざまに
水平に振るう。それにより、ドラゴリーは逆に首を切り落とされた。
『これで終わりだッ!』
そしてとどめにビームエメラルド。ドラゴリーは徹底的にやられ、粉微塵にこの世から消し飛んだ。
『何だとぉ! くそ、不甲斐ない超獣どもめが!』
立て続けに部下がやられたヤプールは激昂。カブトザキラーに命令を下す。
『こうなれば、ウルトラダイナマイトで辺り一面を消し飛ばしてくれるッ!』
ヤプールの命により、カブトザキラーの全身が赤熱し始めた。自爆してこの場の全員を
抹殺しようというつもりか。
『そんなことさせるかぁぁぁぁぁッ!』
しかし、それをみすみす許すゼロではない。真正面から超速で踏み込み、正拳突きでカブトザキラーを殴り飛ばす。
『うおおおおぉぉぉぉぉぉッ!』
更にゼロツインソード・デルフリンガースペシャルを作り出し、カブトザキラーへと駆け出していく!
カブトザキラーはそれを迎え撃とうと、ハサミを大きく振るう。ゼロツインソードDSと殺人ハサミが交差した。
『……!』
カブトザキラーの背後へと走り抜けたゼロ。その足が崩れ、片膝を突く。
『ぐッ……!』
一方で、カブトザキラーは――頭から股にかけて一本の線が走り、身体が左右に真っ二つに裂けた。
バックリと割れたカブトザキラーの残骸が爆発を起こし、超人ロボットが粉々に吹っ飛んだ。
『おのれぇぇぇぇぇ! ここまでかッ!』
切り札のカブトザキラーも失ったヤプールは激怒するも、最早勝ち目がないことは理解していた。
そのため、唯一生き残っているバキシムに指示を飛ばす。
『バキシム、戻れぃッ! ウルティメイトフォースゼロめ、この礼は近い内にたっぷりしてやるぞぉッ!』
「ギギャアアアアアアアア!」
またしても空間が割れ、バキシムがその中へ引っ込もうとする。
『待ちやがれぇッ!』
グレンファイヤーが火炎弾を飛ばしたが、バキシムが退散する方が早かった。割れた空間が閉じ、
火炎弾は空振りしてしまう。
『くそぉッ……!』
強く悔しがるグレンファイヤー。ルイズは、バキシムの消えていった何もない空間を呆然と見つめた。
以前ゼロたちは、異次元人ヤプールにはこちらから手出しすることが出来ないと語っていたが、
ルイズはそれに疑問を持っていた。様々な超能力を持つゼロならば、敵がどこにいようと追撃が
出来るのではないか、と。
しかしその考えは、たった今砕かれた。空を割るなんて非常識にも程がある現象を引き起こす相手を、
どうやれば追跡することが出来るのか見当もつかない。
ヤプール人。自分たちが敵対している者たちの黒幕の脅威、その片鱗を見せつけられた。
『ぐぅぅッ……!』
カブトザキラーを打倒したゼロがその場に片膝を突く。今回ばかりは、限界ぎりぎりまで
エネルギーを消耗したのだ。それでも残った力を全て振り絞り、ウルトラ念力で学院を取り巻く
火災を鎮火すると、巨体が縮んで才人の姿に戻っていく。もう飛んで帰る力も残らなかったのだった。
ミラーナイト、ジャンボット、グレンファイヤーは空を飛んで帰還していく。戦いには勝利した彼らだが、
その面持ちは暗かった。戦いの犠牲者が出てしまったからだ……。
「うぅ……」
「サイト!」
才人が疲弊し切った身体に鞭打って中庭に戻ると、ルイズが慌てて駆け寄った。才人は彼女に問いかける。
「こ、コルベール先生は……?」
「……」
悲痛な表情を浮かべたルイズの見やった先に、コルベールは倒れていた。
全身大火傷を負っている。モンモランシーやタバサを始めとしたメイジが必死に治癒魔法を
掛けているが……効果が出ているようには見えなかった。
その時、コルベールの前にアニエスがゆらりと幽鬼のように立った。握り締めた剣を彼に突きつける。
「ちょっと! なにしてるのよ!」
泡を食うキュルケやルイズらの怒号を無視し、アニエスがコルベールに問う。
「なぜ我が故郷を滅ぼした? 答えろ」
「やめて! 怪我してるのよ! 重傷なのよ! しゃべらせないで!」
モンモランシーが制止するが、アニエスは質問をやめない。
「答えろ!」
コルベールはかすれた声でつぶやく。
「……命令だった。疫病が発生したと告げられた……。焼かねば被害が広がると、そのように
告げられた。仕方なく焼いた」
「……それは嘘だ」
「ああ……気づくのが遅すぎた。要は“新教徒狩り”だったのだ。わたしは毎日罪の意識にさいなまれた。
あいつの……、メンヌヴィルの言ったとおりのことを、わたしはしたのだ。女も、子供も、見境なく焼いた。
許されることではない。忘れたことは、ただの一時とてなかった。わたしはそれで軍をやめた。二度と炎を……、
破壊のためには使うまいと誓った……」
「……それで貴様が手にかけた人が帰ってくると思うか?」
コルベールは首を横に振り……目を閉じて動かなくなった。
絶望する才人。もう、コルベールの命を助ける手立てはない。ゼロとグレンファイヤーは
もう人間と一体化しているし、ミラーナイトは二次元人のハーフという特異な体質故、
二人と同じことは出来ない。コルベールの命は消えゆく一方だ……。
しかし、アニエスはコルベールめがけて剣を振り上げる。それを慌てて止めようとするルイズ、才人。
「アニエス、やめなさい! 先生はあなたを、身を挺して助けてくれたじゃないの!」
「アニエス! 不必要な復讐はしないって、誓ったんじゃないのかよ!」
だが、アニエスは狂乱して二人を振りほどく。
「黙れ! わたしはこの日のために生きてきたのだ! 二十年だ! 二十年もこの日を待っていたんだ!」
アニエスの瞳の中に垣間見えた、深すぎる憎悪の色に、才人が思わず怖気だった。アニエスは
数いる騎士の中でも特に高潔な人物なのに……憎しみは、これほどに人を変えてしまうものなのか。
呆然となった才人たちに代わり、コルベールの手首を握ったキュルケが彼をかばう。
「お願い、剣をおさめて。……もう死んだのよ」
そのひと言でアニエスは立ち尽くし……全身の力が抜けて膝をついた。
「わ、わたしは……わたしは……仇に二度も救われて……それも死んで……何のために、今日まで……!」
「……恨むな、とは言わないわ。でも、せめて祈ってあげて。確かにコルベール先生はあなたの
仇かもしれないけど……、今は恩人でしょう。彼は身体を張ってあなたを救ってくれたのよ」
苦しそうな声でキュルケが言った。アニエスは小刻みに震え、嗚咽を上げ続ける。
戦いに勝ったにも関わらず、誰の心にも暗い影が差し込んでいた。
波乱の夜が明けた。とうとう、才人とルイズがゼロ戦で出発する時が目前に迫っていた。
「……先生、俺とルイズは行きます……戦争をしに」
才人は学院の庭の片隅に設けた、質素な墓標に向けて告げた。
才人が作った、コルベールの墓だ。手作りで、とても人の墓とは思えない出来だが、才人は形だけでも
コルベールを弔わないとどうしても気が済まなかった。
「……サイト、ゼロセンの中に、コルベール先生からの手紙があったわ」
才人の元へルイズが、手紙を片手に歩いてきた。
「手紙?」
「うん。読む?」
頷く才人。ルイズは手紙を広げて、ルーン文字の読めない才人に代わって朗読する。
コルベールからの手紙には、ゼロ戦を出来得る限り修理したこと、多分飛行に問題はないこと、
機銃の弾の量産は無理だったので代わりの兵器を搭載したことなどが記されていた。
ゼロ戦の説明書までついている。
そして最後に、コルベールはこんなことを綴っていた。
「サイトくん、きみに頼みごとがある。いや、変なことじゃない。頼みごとというのは、わたしの夢のことだ。
わたしの夢、それは、魔法でしかできないことを、誰でも使えるような技術に還元することだ。
いつしか誰もが使えるような立派な技術を開発することだ。
これは言うか言うまいか悩んだことだが、話しておこう。わたしはかつて、罪を犯した。
大きすぎる罪だ。その罪を贖おうと思って研究に打ち込んできたが……最近、思うように
なったことがある。それは、罪を贖うことはできないということだ。どれほど、人の役に立とうと
考えてそれを実行しても……、わたしの罪は決して赦されることはない。決してない。
だからきみ、一つ約束してほしい。これからきみは困難な事態に多々直面することだろう。
戦争に行くんだ、人の死にたくさん触れねばならんだろう。
だが、慣れるな。人の“死”に慣れるな。それを当たり前だと思うな。思った瞬間、何かが壊れる。
わたしは、きみにわたしのようになってほしくはない。だから重ねてお願い申し上げる。戦に慣れるな。
殺し合いに慣れるな。“死”に慣れるな。
さて、最後になったが頼みごとだ。きみはいつか、わたしに別の世界からやってきたと言ったね。
その世界では、きみから預けられたような飛行機械が空を飛び、ハルケギニアとは比べものにならんほど
技術が発達してる。そういうことだったね?
わたしはそれを見たいのだ。見て、是非とも研究に役立てたいのだ。だから、きみが帰るときが来た際……、
わたしも連れて行ってほしい。冗談ではない。本気だ。だから死ぬなよ。絶対に生きて帰ってこい。
じゃないと、わたしがきみの世界に行けなくなるからな」
朗読を聞き終わると、才人の頬をひと筋の涙が伝った。
「先生の馬鹿野郎……。先生が死んじゃったら、連れて行くことなんて無理じゃねぇか……」
ぐすっぐすっと鼻をすすり、嗚咽を上げる才人。ルイズは無言で彼を見つめる。
「先生……どうしてだよ。先生……」
静かに泣きじゃくる少年と、彼を見守る少女、そしてちっぽけな墓標を、天高く昇った日の光が照らしていた。
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