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二〇〇
夜が明けぬうちに君たちは目を覚まし、旅を続ける。
空はどんよりと曇っており、今にも雨が降り出しそうだ。
一晩休息できたので、体力点一を加えてよい。
道はゆるやかな下り坂になっており、進むごとにロンディニウム塔の黒い影が大きくなっていく。
「あと一時間か二時間ってところかしら」
キュルケが口を開く。
「ウェールズ皇太子さまたちが塔に着くのは、早くて昼前……そうだったわよね?」
ルイズは兜に覆われた頭をうなずかせる──今いる場所は敵の本拠地のすぐそばであり、いつカーカバード兵と出くわすかもしれぬため、
変装を解くわけにはいかぬのだ。
「わたしたちは山を越える近道を通ったけど、皇太子さまたちは山裾を大きく迂回して進むから余分に時間がかかるはずよ。
道中、何もなければいいんだけど」
「ルイズは心配性ね。向こうには≪トライアングル≫のメイジが何人も揃っているんだから、たとえカーカバードの斥候とぶつかったところで、
簡単に蹴散らせるはずよ。
大変なのは、塔に着いてから。皇太子さまたちは二百人、対する敵は何万もの大軍……」
キュルケの声が沈みがちなものになる。
ウェールズたちは、数ではるかに勝る敵を相手に無謀な戦いを挑まねばならぬのだ──君たちを無事に塔へと潜入させるために。
「きゅい、こっちに何か来るのね」
シルフィードはそう言うと、ロンディニウム塔の方角を指さす。
「お馬に乗った人間みたいだけど、なにか変なのね……?」
小首を傾げると、青く長い髪がさらさらと揺れる。
シルフィードが指し示した方に目をこらした君は、こちらに向かってくる三つの影を見出す。
塔の方から来たということは、相手はまず間違いなくカーカバード兵だろう、と君は考える。
このまま堂々と道を進み続けるか(四二九へ)、それとも近くの藪陰に身を隠すか(三二六へ)?
三二六
君たちは道端の草むらにうずくまり、相手が近づいてくるのを待つ。
互いの距離が縮まると、馬に乗った三人の男がやって来ているのだとわかる。
だが、すぐにそれは間違いだと気づく。
現れたのは乗り手ではなく、半人半馬の生き物であるセントールだったのだ。
ルイズが息を呑む。
「カーカバード軍には、あんなのまでいるの……?」
三人のセントールは蹄を鳴らしながら近づいてくるが、君たちが隠れている草むらから十ヤードほど離れた所で脚を止めると、
弓を手に取り、矢をつがえる。
「そこから出てこい、のろまな人間め」
セントールのひとりが君たちに呼びかける。
「見られておらぬとでも思ったか? こそこそ隠れおって、ちんけな野良犬どもが!」
君は小さく毒づく。
広大な平原で生まれ育ったセントールは、人間よりもずっと遠目が利く。
彼らには、君たちの動きがはっきりと見えていたのだ。
「ねえ、どうする?」
君の耳許でキュルケが囁く。
「始末する? それとも……」
そう言って、ベルトに挟んだ杖をそっと引き抜く。
決断せねばならない。
隠れ場所から出て姿を見せるか(五七八へ)、攻撃をかけるか(六八へ)?
五七八
「ほう、こいつは驚いた!」
君たちを見て、セントールのひとりが声を上げる。
「怪しいこそつき野郎を捕まえてみれば、女連れとはな! それも、とびきりの上玉がふたりときた!」
キュルケとシルフィードを見つめるセントールたちの目が、欲望に光る。
彼らはオークのように残虐な種族ではないが、粗暴で強欲、そしてなにより色を好む連中なのだ。
セントールたちが妙な気を起こす前に、君は作り話を聞かせる──自分はカーカバードの将校であり、
ロンディニウム塔に『貢物』の捕虜を届けに行く最中なのだ、と。
「なるほど。俺たちに女を横取りされるのが怖くて、隠れようとしたのか」
セントールたちは勝手に納得し、互いにうなずき合う。
「女をかどわかすくらいしか能のない弱虫には、お似合いの態度だな。俺たちに立ち向かおうなどとは、考えもしなかったわけだ」
そう言って嘲笑を浮かべるが、すっかり警戒を解いたわけではない。
彼らは手に弓を握ったままであり、つがえられた矢の先端は君に向けられている。
「それで、お前はその女どもを、どの将軍に引き渡すつもりなのだ?」
この質問は予想していなかった!
何と答える?
ザゴール・八二ヘ
フランカー・四七九ヘ
カルトゥーム・一二七ヘ
イキル・三六〇ヘ
大魔王・四六六ヘ
一二七
三人のセントールは一斉に叫ぶ。
「カルトゥーム様だと!」
君はうなずき、この女たちを早く将軍に届けねばならぬため、邪魔をしないでほしいと告げる。
セントールたちは顔を見合わせ、ひそひそと話し合う。
やがて、ひとりが君の方を向き、
「あのお方の使者の邪魔をするだなんて、とんでもない」と、
焦った表情で言う。
「ただ、塔に近づく者を見つけたら誰何(すいか)するのが俺たちの任務なのでな。気を悪くしないでくれ」
先程とはうって変わって、気を遣った態度を見せる。
君は安堵の溜息をつき、先を急ぐと言ってその場を離れようとする。
セントールたちは、お詫びに塔まで乗せていってやろうかと申し出るが、君は断って先へ進む。
セントールが走り去ったのを見届けると、キュルケがそっとつぶやく。
「ダーリンがいてくれてよかったわ。これが変装しただけのハルケギニアの人間だったら、きっとごまかしきれずにひと騒ぎ起きてたところよ」
シルフィードはうなずき、
「シルフィは人間じゃなくて風韻竜だけど、あんなに上手にだますのは無理なのね。あなたって天才ペテン師なのね、きゅい!」
「……それ、褒め言葉になってないわよ」
ルイズがあきれたような声を上げる。五〇六へ。
五〇六
もともと薄暗かった空が黒雲に覆われ、やがて雨が降り出す。
君たちは足を速める──ウェールズたちが来るのを待ちつつ、雨宿りのできる場所を探さねばならない。
やがて、望みどおりの場所を見つけ出す。
そこは、ロンディニウム塔の周囲に広がる野営地から少し離れた場所にある、大きな木の陰だ。
葉の茂った梢は雨粒を受け止め、太い幹は君たちの姿を敵の目から隠してくれる。
「ついにここまで来たわね」
キュルケはそう言うと、ロンディニウム塔の飾りけのない頂に目をやる。
カーカバード軍の溜り場を一マイルほど横切り、岩山に作られた坂道を登れば、塔の門にたどり着くことになる。
「でも、あそこを通り抜けなきゃ」
ゴブリンの兜を脱いで眼前に広がる光景を見渡すルイズの顔に、嫌悪と驚異の表情が浮かぶ。
カーカバード軍の野営地は広大なものであり、無数の天幕と小屋がひしめいている。
そこでは大勢の者たちが行き来しており、塔へ続く坂道を上る姿や、南へ向かう街道に急ぐ集団の影が見てとれる。
「いやな感じなのね」
シルフィードが眉をひそめる。
「こんなの、≪大いなる意思≫だって望んでいないのね。すごく遠くの国から来たすごく悪い奴らが、数えきれないくらいたくさんいて、
我が物顔で世界を汚し、荒らし回ってるなんて! それに何より許せないのは、お姉さまにひどいことした! きゅい!」
「とにかく、皇太子さまたちを待ちましょう」
キュルケが湿った草の上に腰を下ろす。
「あの野営地から敵をおびき出してもらわないと、進みようがないわ」
君はじりじりしながら一時間ほど待っていたが、南のほうからかすかに響く甲高い音を耳にし、はっとして立ち上がる。
「ねえ、今の……」
ルイズが目を見開くと、キュルケは黙ってうなずく。
君たちが聞いたのは、喇叭の音色だ──一昨日の夜、王党派の砦で耳にしたのと同じ音だ。
ウェールズ皇太子と彼の部下たち、それにアンリエッタ王女やアニエスが、君たちの潜入を助けるためにやって来たのだ。
喇叭に気づいたのは君たちだけではない。
野営地が目に見えてざわつきだす。
集合を命じる怒鳴り声や、角笛の荒々しい音がそこかしこで響き渡り、オークや人間の兵士たちが駆け回る。
喇叭の音に続いて、力強く凛々しい声が周辺一帯に響き渡る。
「卑劣なるカーカバード国の者たちよ、心して聞け! 私はアルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダー!
この大陸の正統なる統治者にして、始祖ブリミルの末裔なり!」
≪風≫の魔法で声を遠くまで飛ばしているらしく、ずっと遠くに居るはずの皇太子の声が、君たちにもはっきりと聞こえる。
「これより、始祖と王家の名において、そなたらに正義の裁きを下す! 命が惜しくば、武器を捨てて降伏せよ! 抵抗する者には、
慈悲はなきものと思え!」三九〇へ。
三九〇
野営地に響き渡るウェールズ皇太子の声は堂々とした立派なものだが、はたから見れば、さぞ滑稽に映ることだろう。
皇太子の引き連れた手勢は二百人あまり、対するカーカバード軍は何万人もいるのだから、『裁きを下す』ことなど不可能だ。
ウェールズは自分自身を囮にして敵をおびき出すと言ったが、これでは、ほとんどの敵がその場を動かぬのではないだろうか?
君が不安を感じ始めたその時、ルイズが南──ウェールズたちがやって来たであろう方角──を指さす。
「見て! すごい……」
そう言って、ルイズは絶句する。
無数に並ぶ小屋や天幕の向こうに、巨大な渦が姿を現す。
渦は雲つく高さに伸び、百フィートをゆうにしのぐほどの幅がある。
それは竜巻のようだが、よく見れば、青く光る水の塊でできているのだ。
キュルケがぽかんと口を開ける。
「何よ、あれ!? あんなの、風や水の≪スクウェア≫だって作れないわよ」
「確かに≪スクウェア≫じゃ無利よ。あれは≪ヘクサゴン・スペル≫だもの」
ルイズがぽつりとつぶやく。
「きゅい、何それ?」
言葉の意味がわからぬシルフィードと君は、互いに顔を見合わせる。
「簡単に言えば……」
ルイズが説明役を買って出る。
「ふたりの≪トライアングル≫メイジが力を合わせて使う魔法よ。完全に息を合わせて呪文を唱えるのは至難の業だけど、
王家の血を引く者同士なら不可能じゃない、って聞いたことがあるわ。わたしも、実際に見るのは初めてだけど」
「姫さまと皇太子さまなら、できて当然という気もするわね」
キュルケが笑みを浮かべる。
「なんたって、相性ばっちりのおふたりだもの」
君たちが見守る間にも、渦はどんどん大きくなっていき、その幅は二百フィートにも達するようになる。
それを目にしたカーカバード兵たちはざわめき、うろたえる。
やがて魔法が放たれ、巨大な渦がその場から動き出す。
すさまじい轟音が響き、オークどもの悲鳴を掻き消す。
人も岩も建物も、渦に触れた物はすべてが砕かれ、引き裂かれ、天高く舞い上げられる。
荒れ狂う大渦巻は野営地を突き抜け、ロンディニウム塔の建つ岩山の麓にぶつかって、ようやく動きを止める。
渦の回転が徐々に弱まり形が崩れると、大量の水が地面に降り注ぐ。
「今ので、かなりの敵をやっつけたはずよね?」
ルイズが君たちに尋ねてくる。
≪ヘクサゴン・スペル≫が野営地にもたらした被害は甚大なものであり、渦の進路上にあったすべてのものが一掃されている。
「でも、敵はまだいくらでも残っているわ。皇太子さまたちは、そいつらを本気にさせちゃったみたいね」
キュルケの言うとおり、大渦巻の被害をまぬがれたカーカバード軍は、一斉に南へと動き出す。
もう一度同じ魔法を使われる前に、数にまかせて一気に押し潰すつもりのようだ。
「もうすぐ、野営地がもぬけのからになるわ。行く準備をしましょう」
ルイズはそう言うと、兜をかぶり直す。
腕を縄で縛られながら、キュルケが言う。
「シルフィード、あなたは塔には連れていけないわよ」と。
「きゅい!? どうして?」
シルフィードが驚きの声を上げる。
「シルフィのお芝居が下手で、敵にばれちゃうから? 大丈夫、シルフィは何も喋らないのね! 邪魔はしないのね!
だから、連れてって!」
抗議するシルフィードに、キュルケは
「タバサを無事に救い出し、≪門≫を作る装置を壊しても、来た道をそのまま引き返して脱出できるとは思えないわ。だから、
あなたに空から迎えに来て欲しいのよ」と、
言い聞かせる。
「でもでも、シルフィは早くお姉さまに……」
「大丈夫。あたしたちを信じて、任せてちょうだい」
キュルケに説き伏せられたシルフィードは、呪文を唱えて竜の姿に戻ると、翼をはばたかせて舞い上がる
──塔の上空で君たちの合図を待つのだ。
「さ、さあ、行くわよ」
ルイズがうわずった声を出す。
「皇太子殿下たちが命懸けで作ってくださった隙を無駄にはできないわ」
隠れ場所を出た君たちは小走りに野営地に近づくが、辺りに人の気配はない。
塔へと向かう最短の道は幅が広く、ちょっとした大通りのようになっている。
この道を進むつもりなら六へ。
左側からは、戦いとは別の種類の騒ぎ声が聞こえる。
そちらに回り込むつもりなら、一七八へ。
一七八
騒ぎ声は、野営地のはずれから聞こえてくる。
雨でぬかるんだ地面を踏みしめながら慎重に近づいた君たちが見たものは、信じられぬほど巨大な岩のゴーレムだ
──六十フィートはある!
「フーケのゴーレムよ! 来てくれたんだわ!」
ルイズが声を弾ませる。
岩ゴーレムは、足許を逃げ惑うカーカバード兵たちには目もくれず、地響きを立てながらゆっくりと進む。
ゴーレムの向かう先には、高い柵で囲われた一角が見える。
さらわれた人々は、そこに閉じ込められているのだろう。
「騒ぎを起こしてくれて助かるわ」
ゴーレムを見ながら、キュルケが言う。
「おかげで、野営地は完全にからっぽ。あたしたちは誰にも見とがめられずに、塔まで行けるんだから。フーケにも感謝しないとね」
ルイズがうなずく。
「妹さんに会えるといいわね」
何事もなく野営地を通り抜けた君たち三人は、ロンディニウム塔の建つ岩山の麓にたどり着く。
岩山には、くねくねと曲がった幅の狭い坂道が築かれており、これを上り終えると、鉄製の大きな門の前に立つことになる。
門は閉まりきっておらず、人ひとりが通り抜けられる程度の隙間が開いている。
見たところ、門を守る兵士はおらぬようだ。
門をくぐる前に君は振り返り、岩山の下に広がる光景を見渡す。
広大な野営地の片隅では、フーケの岩ゴーレムが太く長い腕を振り回している。
反対側には無数のカーカバード兵が集まり、南に向かって進んでいる。
霧と煙が立ち込めて視界が悪いため、ウェールズたちの姿は見えない。
ルイズが君の隣に立つ。
「あの向こうに殿下たちが……」
ルイズの声が震える。
「殿下……姫さま……アニエス……どうか無事でいて……」
君たちの潜入の成否にかかわらず、ウェールズたちは何万もの大軍を相手に戦い続けねばならない。
敵は≪門≫を使って先回りすることができるため、逃げることもかなわぬのだ。
「とにかく、早く中に入りましょ」
キュルケがうながす。
「≪門≫を消してしまえば、きっと何もかもうまくいくはずよ」
キュルケの言葉には何の根拠もないが、いくらか気が楽になる。
門の内側は大きな中庭になっている。
雨が降っているにもかかわらず、いくつかの集団がたむろしており、君たちは疑惑を招かぬよう慎重に先へ進む。
正面には、ひょろ長い体つきをした人間型の生き物の一団がおり、君たちに関心を示している。
左手には、また別の一団がいる──最初の連中と似たような背格好だが、みすぼらしい服装をしている。
右側に回りこむと,壁際にひとりたたずむ、黒づくめの人物のそばを通ることになる。
どちらへ進む?
正面か(一九〇へ)、左か(六四へ)、それとも右か(二五一へ)?
六四
前方で話し込んでいる一団は人間に似ているが、その姿かたちに妙な違和感を覚える。
ひとりがこちらに顔を向けたので、その正体が明らかになる。
『物見』だ!
異様に大きな眼をもつこの種族は超常的な視力を誇るため、故郷アナランドでは、大勢が国境の見張りとして働いている。
邪悪な種族ではないはずだが、このような場所にいるということは、味方であるとも思えない。
四人の物見たちは、君に声をかけて呼び止める。
近づいて話をするか(二七〇へ)、それとも無視して通り過ぎるか(三七三へ)?
二七〇
「なあ、見てみろよ」
物見のひとりが、仲間たちのほうを振り返って言う。
「むしゃぶりつきたくなるくらいのいい女じゃねえか。お前らもそう思うだろう?」
他の物見らはうなずき、にやにや笑いながら、キュルケに向かって卑猥な冗談を飛ばす。
この連中は、アナランドの気のいい物見たちとは大違いの、たちの悪いごろつきどものようだ。
物見らの好色な視線にさらされ、キュルケは怯えた表情を見せる──むろん演技だろうが。
ルイズは息を潜めてうつむき、目立たぬように振る舞う。
君は物見らに会釈し、例の作り話を披露する。
これから女を塔へ連れていくところなのだと告げると、物見らは不満げに眉根を寄せ、おいしい思いをするのはいつも将校だけだ、
と愚痴をこぼす。
この連中に別れを告げて、中庭を先へ進みたいなら三七三へ。
何か情報が得られぬかと、話をしてみたいなら四五二へ。
三七三
君たちは中庭を通り抜け、塔へとたどり着く。
ロンディニウム塔は、灰色がかった四角い石を積み上げて造られた、角ばった形の建物だ。
外壁は何の装飾も見られない殺風景なものだが、この建物の本来の使われ方──牢獄──を考えれば、ふさわしい姿だとも思える。
君たちの前には大きな鉄製の扉がある。
塔の中へと通じる入り口は、これ一つだけのようだ。
君が扉に触れようとした瞬間、
「止まれ!」と声が響いたため、
ルイズはびくりと跳び上がる。
あわててあたりを見回すが、誰もいない。
「この扉は魔法で閉ざされ、いかなる力をもってしてもこじ開けることは適わぬ」
声は扉そのものから発せられているのだ。
ルイズが君に顔を近づけ、
「何よ、これ……≪インテリジェンス・ソード≫ならぬ≪インテリジェンス・ドア≫ってわけ?」とささやく。
「実用的だけど、センスは最悪ね」
キュルケも小声を出す。
「あたしだったら、ガーゴイルを門番として立たせておくわね。芸術品としての価値もある、とびっきり立派なやつを」
扉は君たちの態度にかまわず、話し続ける。
「戸口をくぐりたくば、三つの問いに答えよ。一つ、魔の都カレーの北門を開くために唱えねばならぬ、呪文の行数は?
二つ、高地の岩屋に棲む大ヒドラの頭の数は? 三つ、≪タイタン≫の夜空を照らす月はいくつある? すべての問いに正しく答えぬかぎり、
扉が開かれることはない!」
これらの問いは、ハルケギニアの人間であるルイズやキュルケには答えようのないものであり、君だけが頼りとなる。
問いの答えである数字が三つともわかったなら、順番に並べた番号を参照せよ。
答えがわからぬ場合は、塔の中に入ることはできず、君たちの冒険はここで終わる。
君は任務に失敗したのだ。
四七一
掛け金の外れる音が響き、扉はゆっくりと開く。
塔の中は薄暗く、空気は重く淀(よど)んでいる。
意を決して中に踏み込んだ君たちの背後で、扉が閉まる。
「やっと屋根のある場所に来れたわね」
キュルケが袖で額をぬぐう。
「もう雨はうんざり。こんな場所じゃなかったら、≪火≫の魔法で髪と服を乾かしたいところなんだけどね」
「そんな事してる暇はないわ」
ゴブリンの兜の内側から、ルイズの声が響く。
「さあ、行くわよ! タバサを助けて、装置を壊す。やるべきことは、たったそれだけなんだから!」
君たちが立っているのは、厚い石壁に囲まれた短い通路だ。
道は少し先で二手に分かれている。
左の通路は、がっしりした木の扉で行き止まりになっている。
右の道は小さめの扉に通じており、扉には『調理場』と書かれた札が釘で打ち付けられている。
中では食事が作られているらしく、忙しげな物音が聞こえてくる。
どちらの道を選ぶ?
何が待っているかわからぬ左へ進むか(五三一へ)、それとも敵に見つかる危険をおかしてでも右へ行くか(四七八へ)?
四七八
君はそっと扉を開け、中をのぞきこむ。
札に書かれていたとおり、そこは調理場だ。
さまざまな食材が調理台の上に並び、大きな釜の下では火が焚かれている。
食事の支度をしているのは、なんとも奇妙な姿の怪物だ──胴と二本の足は人間のそれに似ているが、
腕というものを欠き、何本もの触手を生やした頭は蛸を思わせる。
灰色の皮膚はぶよぶよで、怪物が動くたびに不気味に震えている。
怪物は細長い触手で杓子や大匙をつかみ、煮え立つ釜の中身をかき混ぜている最中だ。
部屋の中に踏み込むと、向こうもこちらに気づき、もの問いたげな目で君を見つめる。
どう動く?
武器を抜いて襲いかかるか(二一五へ)、友好的に話しかけるか(一四三へ)、それとも術を使うか?
KID・六〇二へ
ROK・七二六へ
DUK・七五五へ
TEL・六九〇へ
FOG・六六八へ
六九〇
体力点一を失う。
布製の縁なし帽は持っているか?
なければこの術は使えない。
四七八へ戻って選びなおせ。
縁なし帽を持っているなら、頭にかぶって術を使い、相手の心を探れ。
術が効くにしたがい、目の前の『鞭叩き』──怪物の名前だ──の思考が頭の中に届く。
鞭叩きは君のことを、昼食のつまみ食いに来た将校だと思い込んでいる。
多くの将校が調理場を訪れては、カーカバードから持ち込まれた『珍味』を楽しんでいるのだ。
ここは調子を合わせたほうがよさそうだ、と君は考える。一四三へ。
一四三
君が呼びかけると、怪物は料理の手を止めて近づいてくる。
怪物のうねる触手とゼリーのような皮膚は、近くで見るとより一層おぞましく、君は思わず目を逸らす。
ルイズも同じように感じたらしく、小さく嫌悪のうめきを漏らす。
怪物の頭からくぐもった声が発せられ、どうにか人間の言葉として通じるものになる。
「将校の旦那」
丸い目玉が、君たち三人に順番に向けられる。
「料理番に何かご用で?」
君は将校らしく胸を張り、空腹なので何か食べ物をくれないかと言う。
怪物は無言でうなずくと、君たちを調理場に隣接した食物倉へと案内する。
食物倉に入ると、甘さ、香ばしさ、かび臭さが入り混じった匂いが鼻をつく。
肉、パン、野菜などさまざまな食糧が並んでいるが、その大半は、まともな味覚の人間には不向きとしか思えぬものだ。
部屋から出る扉は左手の壁にあるが、何も食べずに立ち去れば、料理番の不審を招くことになるだろう。
君は食糧のどれかを試してみることにする。
樽いっぱいに入った果物は異国のものらしく、甘い香りがする。
柔らかいチーズもあるが、あきらかに熟しすぎており、ひどい匂いに君は顔をしかめる。
壁に並んだ鉤には魚の干物がぶら下がっている──翼のように大きなひれと鋭い牙をもつ、異様な魚だ。
また、部屋の片隅には『象団子』と書かれた瓶(かめ)があり、蓋を開けると、中には肉団子がいくつか入っている。
どれを食べる?
果物・二八五へ
チーズ・二三〇へ
魚の干物・二七二へ
象団子・九三へ
二三〇
君はチーズを一切れつかみ、口に近づける──食欲がそがれる悪臭にたじろぐ。
料理番が見ているので無理に呑み込むが、ねばつく後味がいつまでも口の中に残る。
これはグロイスターと呼ばれるチーズに似た食物であり、味は悪いが、食べた者に強運をもたらす不思議な効力がある。
強運点を原点まで戻してよい。
君は料理番に礼を述べ、左の壁にある扉からそそくさと出ていく。二三六へ。
二三六
扉を開けて出た場所は、暗く長い廊下だ。
左右の壁には扉が数多く並び、いくつかは開いている。
そのうちの一つを覗いてみると、中には寝台やテーブルが見える──どうやら衛兵のねぐらのようだ。
「この階には、倉庫や寝室しかないみたいね」
キュルケが言う。
「大事なものは全部、上の階に隠しているんだわ……装置も、タバサも」
「それなら急がないと。階段はきっとこの奥よ!」
ルイズにせきたてられ、君は通路を足早に進む。
いくつめかの扉の前を通り過ぎようとした君は、ふと足を止める──扉の向こうから声が聞こえたのだ。
君は戸口に近づき、耳を澄ます。
「……この役立たずが!」
男の怒声が響く。
「……何ひとつまともにできんのか! 貴様を買い取るのに、俺がいくら払ったかわかるか? 値段ぶんの働きをしてみろ、耳長女め!」
声に続いて、鞭がピシリと鳴る音と、若い女のものらしき悲鳴が聞こえてくる。
「ひどいことを……」
君と一緒に耳をそばだてていたルイズが、怒りのつぶやきを漏らす。
「気持ちはわかるけど、構ってられないわよ」
キュルケが囁く。
「今のあたしたちが助け出さなきゃいけない相手は、ひとりだけ。誰も彼もは救えないわ」
「わ、わかってるわよ」
ルイズの返事と同時に、ふたたび鞭の音と悲鳴が響く。
君はどうする?
扉を開けて中の様子を見てみたいなら二八へ。
無用な危険はおかさず、先へ進むのなら二四八へ。
二八
扉を開けた先は、広々とした部屋になっている。
室内は置物や帳(とばり)で飾られており、この部屋の主が身分の高い者であることをうかがわせる。
部屋の真ん中には髭面の大柄な男が立ち、足元に倒れた若い女を足蹴にしている。
女は、うつぶせに倒れているため顔は見えぬが、きらきらと輝く流れるような金髪の持ち主だ。
身に纏っているのは胸と腰のまわりを覆う絹布だけであり、白い肌の大半があらわになっているが、
背中にできたみみず腫れが痛々しい。
髭面の男は、女に向かって罵りの言葉を吐き出すと、何本もの皮紐を束ねた鞭を振り上げる。
鞭打ちをやめさせようと君は動く──しかし、ルイズに先を越される。
「やめなさい!」
怒気をふくんだ声が、部屋中に響き渡る。
髭の男はこちらを振り向くが、驚き戸惑った表情を浮かべている。
勝手に部屋に入ってきたゴブリンに、少女の声で怒鳴りつけられたのだ!
正義感の強さとありあまる行動力は、ルイズの大きな長所だが、今この場で発揮されるべきものではなかった。
男は君たちに背を向けると、部屋の奥へと駆け込む。
武器を取るつもりか、それとも衛兵を呼ぼうとしているのだろうか?
君はどう反応する?
武器を抜いて追いかけるか(一八二へ)、術を使うか。
REZ・五九二へ
LAW・六一九へ
DOZ・七九四へ
NAP・七五二へ
ZEN・七〇九へ
七九四
体力点二を失う。
術の効き目があらわれ、髭面の男の動きはひどくゆっくりとしたものになる。
相手は逃げきれぬと悟って向き直ると、手にしたままだった鞭で打ちかかってくる。
敵の動きは鈍っており、たやすく倒せるはずだ。
衛兵隊長
技術点・五
体力点・一〇
倒したなら一四〇へ。
一四〇
髭面の男は床に倒れて動かなくなる。
デルフリンガーは
「ざまあみやがれってんだ。女をいたぶるような野郎には、当然の報いさ」と言う。
闘いを終えた君はルイズたちの方を振り返り、鞭で打たれていた女が上体を起こすのを見守る。
あらためて見ると、女はどこか人間離れした、妖精めいた雰囲気をかもし出している。
さらさらと揺れる金色の髪は癖ひとつなく、手足は細く華奢だ。
その肌は雪のように白いが、それゆえに赤い鞭打ちの痕(あと)が目立つ。
「あ、あの……あなたたちはいったい……」
女は弱々しい声で尋ねる。
彫像のように整った顔立ちをしているが、不安げな表情は人間らしさに満ちている。
「大丈夫よ、安心して」
キュルケが優しく声をかける。
「あたしたちはトリステインから来たの。敵じゃないわ。ほら、ルイズも兜を取って。この子が怖がってるじゃない」
ルイズはその言葉に従ってゴブリンの兜を脱ぐが、奇妙な表情をしている──何か、信じられぬものを目にしたという顔つきだ。
「……ありえない」
「ありえないって、何が?」
キュルケが尋ねるが、ルイズは眉根を寄せたままだ。
「ご、ごめんなさい。やっぱり、変ですよね」
女は悲しげにうつむき、自分の耳を両手で隠す。
よく見れば、女の耳は数インチほど長く、先が尖っている。
「あなた、エルフなの?」
尖った耳を気にする様子もなく、キュルケは話を続ける。
「はい……あの、わたしの事、怖くないんですか?」
「全然。ここに来る途中でもっと怖い亜人をさんざん見てきたし、昔話で聞くような凶暴なエルフとは大違いだもの」
キュルケは微笑む。
君は話に加わろうと歩み寄るが、それを見た女エルフは、怯えた顔であとずさる。
「心配しないで。彼もあたしたちの仲間よ」
キュルケが言い聞かせるが、女の青い瞳は恐れに満ちている。
君の姿が、カーカバードの連中の同類にしか見えぬためか、それとも、すぐ目の前で髭面の男を殺したせいだろうか。
どちらにせよ、この女エルフの信頼を得るのは難しそうなので、話を聞く役目はキュルケに任せることに決める。
「……やっぱり、ありえない」
あいかわらず呆然と呟いているルイズに近寄り、何がありえぬのだ、と囁く。
「あれよ」
ルイズの視線を追った君は、女の胸を目にして──絶句する。
今まで気づかなかったが、この女エルフは、華奢な体つきとは不釣り合いな異様に大きい胸の持ち主なのだ。
キャベツほどもある大きな塊が、小さな胸覆いからはみ出しそうになっている。
あまり肉づきのよくないルイズにとっては、さぞ衝撃的に映ることだろう。
女エルフ──正確には半エルフらしい──はティファニアと名乗り、助けてもらった礼を述べる。
「ティファニア……もしかして、ウエストウッド村の?」
キュルケに尋ねられ、ティファニアは驚いた顔でうなずく。
「は、はい。そうですが、どうしてわたしのことを?」
「フーケ……じゃなくって、あなたのお姉さんから頼まれたのよ。この塔に捕らえられているかもしれないから、もしも見つけたら助けてほしいって」
「マチルダ姉さんから!?」
ティファニアは驚喜する。
「そう、そのマチルダさんから」
キュルケは話を合わせる。
考えてみれば、君たちは誰も≪土塊のフーケ≫の本名を知らなかったのだ。
「それで、姉さんは今どこに?」
「ここからずっと遠くの、安全な場所よ」
キュルケの言葉はまったくの嘘だが、ティファニアを心配させまいと気を遣っているのだろう。
「話は後よ」
ルイズが兜をかぶりながら言う。
「早く階段を探さないと。さあ、ティファニアも早く」
そう言うと、先に立って戸口をくぐる。
ティファニアは部屋を出るのをためらうが、君が近づいてくるのを見て、逃げるように通路に飛び出す。
君は溜息をつき、後ろ手に扉を閉める。九一へ。
九一
ティファニアが加わって四人連れとなった君たちは、足早に通路を進む。
やがて、突き当たりに螺旋階段を見つける。
君は先頭に立ち、慎重に階段を上る。
二階にたどり着いたので、周囲を見回す。
そこは広々とした部屋だが、家具は何一つなく、床には腐った食糧や紙屑、酒瓶などのごみが散らばっている。
部屋の奥には扉が二つ並んでいるが、その手前には、ぼろきれの塊らしきものが投げ出されている。
罠や衛兵の危険はなさそうだと考えた君は、ルイズたちを呼び寄せる。
「ちょっとおかしな部屋ね」
ルイズがいぶかしげに言う。
「一階はまあまあ綺麗になってたのに、急にごみだらけだなんて……不自然だと思わない?」
「そうよね」
キュルケはうなずく。
「でも、何のために汚しているのかしら。ティファニアは、あいつらから何か聞いてない?」
「いいえ、わたしは何も……」
ティファニアは申し訳なさそうにうつむく。
「この建物に連れてこられてから、まだ何時間も経っていないんです。それまでは、他の人たちと一緒に外にいました」
「あの柵の中に、羊みたいに押し込められてたのね」
ティファニアはうなずく。
君はどうする?
まっすぐ部屋を横切って扉に向かうか(三八二へ)、ごみの山を調べてみるか(四一七へ)、それとも術を使うか?
FAR・六八二へ
MAG・五九四へ
DEN・六七二へ
SUS・七八三へ
WOK・六四四へ
七八三
体力点二を失う。
術を使い、この部屋に罠があると示されるのを待つが、そのような警告はない。
九一へ戻って選びなおせ。
四一七
床の上を物色するが、特に役に立ちそうな物はない。
くしゃくしゃに握り潰された紙片を拡げてみると、カーカバード語で何かが書かれている。
どうやら書き損じて捨てられた書類の断片のようだが、読み取れるのは
『……の牢に入れた、青頭の女を殺してはならぬ。なぜなら、いまだ行方の知れぬ青頭の……』という部分だけだ。
紙片に書かれた内容を聞かされて、ルイズは考え込む。
「そういえば昨日、シルフィードが言ってたわよね。タバサを捕まえた奴らが、『青頭は生かしたまま連れて帰れ』って命令を受けてたって」
「タバサが手出しされていないと確信できただけでも、嬉しいわ」
キュルケが表情をほころばせる。
「でも、行方知れずの青頭って誰のことかしら? 変身したシルフィード?」
君たちは首をひねるが、答えは出ない。
長く立ち止まっているわけにもいかぬため、先へ進むことに決める。三八二へ。
三八二
君たちは、部屋の反対側の壁に並んだ二つの扉へ向かって歩いていく。
扉に近づくと、床に横たわっていたぼろきれの塊が動き出す。
君たちの足音が、ぼろきれの下で眠っていた何者かを起こしてしまったのだ。
床から起き上がったのは、汚れてぼろぼろの服をまとった老人だ。
白い髪と髭はぼさぼさに伸びており、君の顔に向けられたその目には、怯えの色が浮かんでいる。
「やめろ、近づくな!」
老人はわめき、あとずさる。
何者だろう、と君は思案する。
物乞いのように哀れな姿をしているが、その顔つきは、裕福な生活を送ってきた者のそれだ──身を落としたのは、つい最近の事だろう。
カーカバードの人間ではなく、このハルケギニアの生まれに見えるが、牢に閉じ込められておらぬというのは奇妙な事だ。
老人の視線はキュルケとティファニアに向けられる──ふたりとも捕虜を演じるために、両手を緩く縛られている。
老人はひざまずき、祈るように両手を組む。
「我が魂に災いあれ!」と嘆き、
涙を流す。
「娘さんたち、どうか許しておくれ! あんたがたがそのような目に遭わされておるのは、わしのせいなのじゃ! わしのせいでアルビオンは、
いや、世界は滅びようとしておるのじゃ!」
老人の言葉の意味はわからぬが、興味を惹かれる事だけは確かだ。
正体を明かして、話をしようとするか(四九四へ)?
それとも、老人を無視して右の扉(八五へ)か、または左の扉(三〇三へ)を開けて部屋を出るか?
四九四
君は老人に、自分たちは敵ではないと告げ、正体と目的を明かす。
老人は歓喜の声を上げ、
「神々は誉むべきかな!」と言って興奮する。
「あんたがたが、この悪夢を終わらせてくれるというのか? わしの過ちを正し、クロムウェルと奴が連れてきたけだものどもの野望を、
打ち砕いてくれるのか? おお、素晴らしい!」
君は老人を落ち着かせ、何者なのか、なぜこんな場所にいるのかを尋ねる。
「わしはこのアルビオンで生まれ育った貴族じゃ。リビングストン男爵と呼ばれておる」
君とルイズは、はっとして息を呑む。
忘れようもない名前だ──ハルケギニアとカーカバードを結ぶ、≪門≫の魔法を編み出した人物だ!
「で、でも」
ルイズが上ずった声を出す。
「男爵さまはお亡くなりになられたと聞きました。≪レコン・キスタ≫に捕まってすぐ処刑され、遺体は晒しものにされた、と」
「それは奴らの──いや、クロムウェルの目くらましじゃ。死体は偽物で、わしはクロムウェルのために魔法兵器を作らされておった」
老人──リビングストン男爵は言う。
「≪門≫についての知識があるのなら、わしがどんな魔法を研究しておったのかも知っておろうな? クロムウェルはわしを脅し、痛めつけ、
あの呪わしい装置を完成させたのじゃ。用済みになったわしは、クロムウェルから褒美を受け取った……それは、
このごみ溜めのような部屋で生きることじゃ!」
男爵は無念そうにうめく。
「奴は、あえてわしを殺そうとはせず、屈辱と苦痛の中で行き長らえさせた。祖国を裏切った後悔と自責だけでは、まだ苦しみ足りぬとばかりに。
衛兵どもは、ここを通るたびにわしを小突きまわし、唾を吐きかけ、そこらじゅうにごみを撒き散らしていく。つらい日々じゃが、それでもまだ、
わしは生きていたい……」
そう言って、悲しみに頭を垂れる。
「クロムウェル……なんて奴なの……」
ルイズの瞳に、怒りの炎が燃える。
ティファニアは≪門≫について何も知らぬが、男爵の境遇には同情し、慰めの言葉をかける。
「あの装置は最上階にある」
リビングストン男爵は話題を変える。
「強力な魔法の防壁で護られておるが、打ち破る手段はあるのかね?」
「秘密兵器がある、とだけ言っておきますわ」
キュルケは言葉を濁す──≪虚無≫について語らぬのは賢明なことだ。
次に口を開いたのは君だ。
先へ進むにあたって、二つ並んだ扉のどちらを選べばよいのか、助言を求める。
「右に行ってはならん。侵入者を捕らえるための罠が仕掛けられておる。左の通路をまっすぐ進めば、階段にたどり着くはずじゃ」
君は男爵に礼を述べ、左側の扉の把手(とって)を掴む。
「あんたがたの幸運を祈っておるぞ。無事に任務を成功させて、この世界を救ってくれ」
君たちはリビングストン男爵に別れを告げ、先に進む。三〇三へ。
三〇三
扉の向こうは短い通路になっており、突き当たりに別の扉がある。
扉に耳をあててみるが、何も聞こえない。
そっと開けてみると、大きな正方形の部屋に通じている。
向かい側に出口の扉があるだけで、家具もなければ窓もない。
「ここって、なんのための部屋なのかしら?」
ルイズはそう言って、周囲を見回す。
「あの、早く行ったほうが……」
ティファニアがおどおどした声で言う。
「なんだか嫌な感じがします……誰かに見張られているような」
君は部屋を横切って扉を試すが、鍵がかかっている。
「あたしにまかせて。≪アンロック≫をかけてみる」
キュルケが進み出て≪開錠≫の術を使うが、扉は開かない──鍵ではなく、閂(かんぬき)がかかっているようだ。
引き返すべきかと考えた君の背後で、物音がする。
振り向いた君が見たのは、鉄の落とし格子が戸口に下りてきて、逃げ道を塞ぐ瞬間だ。
ルイズの疑問に対する答えは出た──この部屋全体が罠なのだ!
あわてふためく君たちの耳に、シューッと息を吐くような音が飛び込んでくる。
天井に隠されたいくつもの小さな穴から煙が噴き出し、君たちを包む。
「息を止めて! この匂いは眠りの秘薬よ!」
キュルケが警告の叫びを発するが、もう遅い。
まずティファニアが床にくずおれ、すぐにルイズが続く。
キュルケも長くはもたず、君もだんだん意識が遠のいてゆき、目の前が真っ暗になる。二二六へ。
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