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#navi(ウルトラマンゼロの使い魔)
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#settitle(第五話「魔法学院の青い石(前編)」)
ウルトラマンゼロの使い魔
第五話「魔法学院の青い石(前編)」
磁力怪獣アントラー 登場
トリステイン王国の首都、トリスタニアをクール星人やピット星人などの宇宙人連合が襲撃した事件によって、
侵略者を圧倒的な力で蹴散らしトリスタニアを救ったウルトラマンゼロの名前は一気にトリステインはおろか
ハルケギニア中に広まった。実際に彼に救われたトリスタニアの民は、ゼロを「始祖ブリミルが遣わした平和の使者」
と呼んで感謝し、隠れて崇拝する者まで出ていた。
また、トリステイン王宮は怪獣、そして宇宙人の脅威を直に見せつけられて危機感を覚えたことで、
それまで遅々として進まなかった対策会議が急ピッチで進み出した。宇宙人により大打撃を食らった王国軍も、
一日も早い建て直しが進められることとなった。
とはいえ、ウルトラマンゼロの正体が魔法学院の一生徒、ルイズの使い魔である平賀才人であることを知っている者はいない。
そのためルイズと才人は急激に変わりつつあるトリステイン社会の影響を受けることなく、魔法学院で平穏な日々を過ごしていた……
と言いたいところだが、実はそうでもなかった。また新しい事件が、彼らの身に降りかかったのである。
「ミス・ロングビル……手綱なんて付き人にやらせればいいじゃないですか」
トリステイン魔法学院の近くにある森の中の道を進む、屋根ナシの荷車のような馬車に乗っている
四人の内のキュルケが、御者を務めているロングビルに話しかけた。するとロングビルは
にっこりと笑って返答する。
「いいのです。わたくしは、貴族の名をなくした者ですから」
キュルケはきょとんとした。
「だって、貴女はオールド・オスマンの秘書なのでしょ?」
「ええ、でも、オスマン氏は貴族や平民だということに、あまり拘らないお方です」
「差しつかえなかったら、事情をお聞かせ願いたいわ」
ロングビルは微笑んではぐらかそうとするのだが、キュルケはそんな彼女ににじり寄る。
「いいじゃないの。教えてくださいな」
諦めの悪いキュルケの肩をルイズが掴んで引き止める。
「よしなさいよ。昔のことを根掘り葉掘り聞くなんて」
キュルケはふんと呟いて、荷台の柵に寄りかかって頭の後ろで腕を組んだ。
「暇だからおしゃべりしようと思っただけじゃないの」
「あんたのお国じゃどうか知りませんけど、聞かれたくないことを、無理やり聞き出そうとするのは
トリステインじゃ恥ずべきことなのよ」
ルイズの忠言を無視したキュルケは、イヤミな調子で言い放った。
「ったく……あんたがカッコつけたおかげで、とばっちりよ。あれだけのことがあった直後なのに、
何が悲しくて、泥棒退治なんか……」
ルイズと才人がデルフリンガーを購入して、ウルトラマンゼロがハルケギニアから侵略者たちを追い払った日の晩、
ルイズの部屋にタバサを連れたキュルケが押し入ってきた。彼女はルイズの後で買った大剣をプレゼントにすることで、
才人の気を引こうと考えていたのだ。
その剣はゼロがこき下ろした剣だったので才人は、使いはしないものの日本人精神から
受け取るだけ受け取ろうと思ったのだが、それをルイズが許すはずがなかった。
そしてルイズとキュルケは口喧嘩を繰り広げ、どちらも一歩も引かなかった果てに、
魔法で決着をつけることになってしまった。
当初は決闘になるはずだったが、才人が「危ないからやめろよ」と言ったばかりに、
何故かロープで吊るされた才人を落とす対決となった。そして先攻のルイズが魔法を使ったら、
ロープではなく後ろの壁が爆発。結果的にキュルケの勝ちとなった。
ここで終わればまだ良かったのだが、直後にとんでもない事態が起きた。突然巨大な土ゴーレムが出現し、
ルイズの爆発でヒビの入った壁を破壊したのだ。そこは魔法学院の貴重なマジックアイテムが保管されている宝物庫で、
ゴーレムが去った後には、宝物庫の壁には『破壊の杖と青い石、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』
の文字が刻まれていた。
その翌朝、魔法学院は蜂の巣をつついた大騒ぎとなった。何せ、今世間を騒がす大怪盗フーケに、
この世に類を見ない秘宝が二つも盗まれたのだ。責任追及に走る教師たちをオスマンが諌めていたり、
現場に居合わせたルイズたちが証言をしたりしていると、ロングビルがフーケの逃げた先を掴んで舞い戻ってきた。
すぐに捜索隊が編成されることとなったのだが、教師たちは誰も立候補しない。代わりにルイズと、
彼女に対抗してキュルケ、そして心配したタバサが立候補し、彼女たちとルイズの使い魔の才人、
そして案内役としてロングビルの五名がフーケの逃げ込んだ先の森の廃屋へ出発することとなったのだ。
しかし出発の直前、オスマンはルイズたちに不可思議なことを告げた。
「諸君……最悪、破壊の杖は取り返せんでもいい。だが青い石だけは、絶対に取り返してくれんか。
それさえあれば、たとえフーケに正体を暴けずとも構わん」
その言葉にルイズたちは大いに驚いた。どうしてそんなに青い石だけに固執するのか。
「何故でしょうか? オールド・オスマン。青い石とは、そんなに重要なものなのでしょうか?」
とルイズが尋ねたのだが、はぐらかされてしまった。
「重要というか、何というか……ともかく、このことをよく胸に命じておいてくれ。頼んだぞ」
奇妙に思いつつも、ぐずぐずしていたらフーケに逃げられる。一行はオスマンの命を胸に、魔法学院を後にした。
話は現在の時間に戻る。不平を述べるキュルケを、ルイズがじろりと睨んだ。
「とばっちり? あんたが自分で志願したんじゃないの」
「あんたが一人じゃ、サイトが危険じゃないの。ねえ、ゼロのルイズ。あんたのゼロがウルトラマンゼロのだったら、
そんな心配しなくてもよかったのにね」
「……どういう意味よ」
こんな時でも、キュルケはルイズに対して辛辣だった。
「いざ、あの大きなゴーレムが現れたら、あんたはどうせ逃げ出して後ろから見てるだけでしょ?
サイトを戦わせて自分は高みの見物。そうでしょう?」
「誰が逃げるもんですか。わたしの魔法でなんとかしてみせるわ」
「魔法? 誰が? 笑わせないで!」
「ケンカすんなよ! もう!」
バチバチと火花を散らすルイズとキュルケの間を、才人が取り成した。口喧嘩を中断させられたルイズは、
自分について悩む。
(でも、悔しいけど、キュルケの言う通りだわ……。わたしには何の力もない……)
ルイズは自分の使い魔の才人に、その中のウルトラマンゼロに目をやる。ゼロは今更言うまでもないし、
才人もどうやら超人的な能力を有しているようなのだ。それにひきかえ、主人のはずの自分には、
普通のメイジにも出来ることすら何一つ出来ない。
(本当に私には、何も出来ることはないの……? そんなの、嫌……!)
今までだって何度も何かしらの力が欲しいとは思っていたが、才人とゼロが隣にいることで、
劣等感は余計に強くなっており、それを拭い去りたいという思いもまた強くなっていた。
馬車は森の深くに入っていき、そこからは徒歩となった。そして一行は、開けた場所に一軒だけ建つ廃屋の小屋を発見した。
「わたくしの聞いた情報だと、あの中にいるという話です」
ロングビルはそう言ったが、廃屋に人のいる気配はない。そこでタバサの提案により、
一番身体能力の高い才人が偵察兼囮を務めて、中にフーケがいれば外に追い出して
皆で集中攻撃する段取りとなった。
そういう訳で、才人はデルフリンガーを抜いて小屋に近づいていった。窓から恐る恐る中を覗き込むが、
一部屋しかない内部に人間の隠れられるような場所はなかった。
フーケはどこに行ったのか。用心しつつも、才人は皆を呼び寄せた。
「誰もいないよ」
タバサが罠のないことを確認し、才人とキュルケの三人で中に入っていく。ルイズは見張りを申し出て外に残り、
ロングビルは偵察してきますと言って森の中に消えていった。
小屋に入った才人たちはフーケの残した手がかりがないかと調べ始め、その末にタバサが
チェストの中から『破壊の杖』を見つけ出した。
「あっけないわね!」
「でも、念を押された青い石は見つからない」
「フーケが持ち歩いてるのかしら? だったらフーケ自身を捜さないと……」
二人が話し合っている横で、『破壊の杖』を見た才人が目を丸くした。
「お、おい。それ、本当に『破壊の杖』なのか?」
「そうよ。あたし、見たことあるんだもん。宝物庫を見学したとき」
キュルケが肯定するが、その『破壊の杖』はハルケギニアの人間ではない才人も、見たことがあるものだった。
『こいつはまさか……何だってこんな場所に……』
そしてゼロもまた、故郷の光の国のアーカイブで同じものの写真を見たことがあった。
そのとき、外で見張りをしていたルイズの悲鳴が聞こえた。
「きゃあああああああ!」
「どうした! ルイズ!」
一斉にドアを振り向いた時、小屋の屋根が吹っ飛んだ。そして青空をバックに見えたのは、
巨大なフーケの土ゴーレム。
「ゴーレム!」
キュルケが叫ぶと、タバサが真っ先に反応した。巨大な竜巻を起こして、ゴーレムにぶつける。
しかし、ゴーレムはびくともしない。キュルケも火炎をぶつけるが、それでも意に介さなかった。
「無理よこんなの!」
「退却」
タバサとキュルケは一目散に逃げるが、才人はルイズの姿を探した。
そのルイズは、ゴーレムの背後に立っていた。魔法を唱えて爆発を浴びせるが、それでもゴーレムは健在。
ルイズに気づいて振り返る。
「逃げろ! ルイズ!」
才人の警告を、ルイズは聞き入れなかった。
「いやよ! あいつを捕まえれば、誰ももう、わたしをゼロのルイズとは呼ばないでしょ!
ここで逃げたら、ゼロのルイズだから逃げたって言われるわ!」
「いいじゃねぇかよ! 言わせとけよ!」
「わたしは貴族よ。魔法が使える者を、貴族と呼ぶんじゃないわ」
ルイズは杖を握り締めた。
「敵に後ろを見せない者を、貴族と呼ぶのよ!」
爆発を食らわせるが、ゴーレムは土がこぼれるだけだった。そしてゴーレムは、ルイズを踏み潰そうと足を振り下ろす。
もうダメかとルイズが目をつぶった時、才人が烈風のごとく走り込んできて、ルイズを抱きかかえて地面に転がった。
そして才人が叱る。
「貴族のプライドがどうした! 前に言ったろ! 死んだら何もかも終わりって!」
するとルイズの目から、ぽろぽろと涙がこぼれた。
「だって、悔しくて……。わたし……。いっつもバカにされて……」
才人はルイズの抱えている思いを知り、困惑するのだが、そうしている暇はない。ゴーレムはなおも二人を狙っているのだ。
「少しはしんみりさせろよ!」
ずしんずしんと地響きを立てて追いかけてくるゴーレムからルイズを抱えて逃げる才人。
幸い、身体が重いためかスピードは才人とあまり変わらない。
そこにタバサを乗せた風竜が飛んでくる。タバサのシルフィードだ。
「乗って!」
タバサが叫ぶが、才人はルイズを彼女たちに託しただけだった。
「早く行け!」
タバサは無表情に才人を見つめていたが、追いついてきたゴーレムが拳を振り上げるのを見て、
やむなくシルフィードを飛び上がらせた。
一人残った才人は跳びさすって拳から逃れると、デルフリンガーを構え直した。
「悔しいからって泣くなよバカ。なんとかしてやりたくなるじゃねえかよ」
怪獣が相手ではないので、ウルトラマンゼロの力は借りられない。それに借りるつもりもない。
相手が人間、メイジの作ったものだというなら、自分の、あの少女の使い魔の力で勝利を掴みたい。
「たかが土っくれじゃねえか。こちとら、ゼロのルイズの使い魔だっつうの」
「へへッ、いい啖呵切るじゃねえか、相棒!」
デルフリンガーが才人を称賛した。
才人は単身ゴーレムに斬りかかるが、相手は巨大。彼の斬撃では身体の一部を削り取るので精一杯だ。
しかも敵は命を持たない土人形なので、ダメージなど意に介さず戦い続ける。時間が経つにつれて、
どんどんと才人が追い詰められる。
その様子をシルフィードの上から見ているルイズはどうにか助けたいと思うのだが、ゴーレムが激しく暴れるので、
近づくことすら出来ない。何か役立つものはないかと見回していると、タバサが抱えた『破壊の杖』に気づいた。
「タバサ! それを!」
タバサから『破壊の杖』を受け取ると、彼女の『レビテーション』で地上へ降ろしてもらう。
『破壊の杖』を使ってゴーレムを倒そうという算段だ。
だが『破壊の杖』は、彼女が生涯で一度として見たことのない奇妙な形をしていた。本当にマジックアイテムなのか。
大きく振ってみるが、何も反応しない。
そうしていると、ルイズが『破壊の杖』を持って降りてきているのに気づいた才人が、
ゴーレムの隙を突いて彼女の下まで駆けていった。
「サイト! 使い方が、わかんない!」
訴えるルイズから『破壊の杖』をもぎ取ると、両手でしっかりと構えて先端をゴーレムに向ける。
「これはな……こう使うんだ」
と言いながら、才人は自分が『破壊の杖』と呼ばれているものの使い方を理解していることに、自分で驚いていた。
『破壊の杖』。その銀色のボディに黒のラインが一本走った形状は、間違いなく自分の世界の武器であった。
怪獣頻出期の初期、「ウルトラマン」という存在がまだ初代ウルトラマンしか地球人に知られていなかった頃の防衛隊
「科学特捜隊」の主武装、スパイダーショットに違いないのだ。だが才人はその存在は知っていながらも、
安全装置の外し方までは知らないはずなのだ。
「ままよ!」
混乱しつつも、これを使わない手はない。トリガーを引くと、砲口から熱線が発射され、ゴーレムに命中する。
その途端にゴーレムが大爆発を起こした。上半身が完全に飛び散り、残った下半身も崩れ落ちて、ただの土の塊に戻った。
「ひゅー! すっげえ威力だな! おでれーた!」
背に戻されていたデルフリンガーが歓声を上げた。
ゴーレムが倒されると、ルイズは腰が抜けたのかへなへなと座り込んだ。キュルケは隠れていた木陰から出てきて、
才人に駆け寄る。
「サイト! すごいわ! やっぱりダーリンね!」
一方タバサはシルフィードから降りると、ひと言尋ねかける。
「フーケはどこ?」
全員がフーケのことを思い出して辺りを見回すと、ちょうどロングビルが茂みの中から彼らの下へと出てきた。
「ミス・ロングビル! フーケはどこからあのゴーレムを操っていたのかしら」
キュルケが尋ねると、ロングビルは首を横に振る。それで全員の気がそれた隙に、
ロングビルは素早く才人の手の中からスパイダーショットを取り上げた。
「ロングビルさん?」
怪訝な顔をする才人から離れたロングビルが、スパイダーを四人に向けて突きつけた。
「ご苦労様」
全員が唖然とし、ルイズが問いかける。
「どういうことですか?」
「さっきのゴーレムを操ってたのは、わたし」
淡々と答えたロングビルが眼鏡を外すと、優しそうだった目つきが猛禽類のように鋭くなる。
「そう。わたしが『土くれ』のフーケ。さすがは『破壊の杖』ね。私のゴーレムがばらばらじゃないの!」
タバサが杖を振ろうとするのを、ロングビル……いや、フーケが制する。
「おっと。動かないで? 破壊の杖は、ぴったりあなたたちを狙っているわ。全員、杖を遠くに投げなさい。
そこのすばしこい使い魔君は、剣を投げなさい。あんたは武器を握ってると、どうやらすばしこくなるみたいだから」
仕方なく、全員が命令に従う。それからルイズが怒鳴る。
「どうして!?」
「そうね、ちゃんと説明しなくちゃ死にきれないでしょうから……説明してあげる」
フーケは妖艶な笑みを浮かべて説明を始めた。
「私ね、『破壊の杖』と『青い石』を奪ったはいいけれど、『破壊の杖』は使い方がわからなかったのよ」
「使い方?」
「ええ。振っても魔法をかけても、この杖はうんともすんともいわないんだもの。杖と銘打っておきながら
使い方がわからないんじゃ、売り飛ばせない。だからあなたたちに、これを使わせて、使い方を知ろうと考えたのよ」
「それで、あたしたちをここまで連れてきたってわけね」
「そうよ。魔法学院の者だったら、知っててもおかしくないでしょう?」
「わたしたちの誰も、知らなかったらどうするつもりだったの?」
「そのときは、全員ゴーレムで踏み潰して、次の連中を連れてくるわよ。でも、その手間は省けたみたいね。
こうやって、きちんと使い方を教えてくれたじゃない」
フーケが説明している中で、才人はゼロに念じて話しかける。
(ゼロ。スパイダーを取り戻してフーケを捕まえるのに、力を貸してくれ。このままじゃみんなヤバい)
『ああ、いいぜ。俺たちの世界の武器で危険なことになってるんだったら、俺たちが責任取らないとな』
原則として、ウルトラ戦士はその星の住民同士のいさかいに介入してはならない。だが違う星、
違う世界のものが原因である時は別だ。別世界から来た者として、解決に尽力する必要がある。
『狙う時は、奴が撃とうとする瞬間だ。攻撃は、防御を捨てざるを得ないから、最も無防備になる瞬間の一つ。
そこで決めろ!』
(よし、分かった!)
助言を受けて、フーケの指の動きを注視する。
「じゃあ、お礼を言うわね。短い間だったけど、楽しかった。さよなら」
フーケがうそぶいてトリガーに掛けた指の力を強めるその瞬間に、才人が飛び出そうとする。
しかし、それは突然発生した激しい地揺れで遮られた。その場の全員、フーケも、思わず姿勢を崩す。
「な、何!? 突然!」
「この揺れ方……まさかッ!」
才人の不吉な予感はドンピシャで当たった。
「キャ――――――――オォォウ!」
彼らの近くで、森の木々を吹っ飛ばし、クワガタムシに似た大顎を持った昆虫型怪獣が地面から這い出てきたのだ。
かつて中東の伝説の町・バラージを襲い、かのウルトラマンも苦戦せしめた恐るべき大怪獣、
アントラーである。
「か、怪獣!? よりによってこんな時に!」
「このッ! いいところを邪魔して!」
フーケは反射的にアントラーにスパイダーの熱線を発射した。しかしゴーレムを粉砕したその熱線は、
アントラーの甲殻に呆気なく弾かれた。
「キャ――――――――オウ!」
それどころか、アントラーが口から虹色の光線を空に向けて放出すると、スパイダーが
勝手にフーケの手から離れてアントラーへ飛んでいく。
「は、『破壊の杖』が! 泥棒!」
「あんたが言えたことじゃないでしょ!」
思わずツッコミを入れるルイズ。そして見れば、デルフリンガーまでアントラーに引き寄せられて飛んでいっている。
「おわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ! あ、相ぼおおおおおおおおうッ!」
「デルフリンガー!」
手を伸ばす才人だがもう遅かった。才人は端末からアントラーの情報を得る。
「あいつの出す光線は強力な磁力光線なんだ! だから鋼鉄で出来てるものは引き寄せられちまう!」
端末は磁力の影響を受けないようになっているが、だからと言って何か特別なことが出来る訳でもなかった。
と、森の中にそびえ立つアントラーが、何故か地中へと戻っていく。
「な、何? 今ので満足したの?」
「いや……違う! みんな逃げろぉッ!」
「キャ――――――――オォォウ!」
才人の警告の直後に、先ほどよりもずっと近い地面からアントラーが顔を出してきて、
その勢いで五人が吹っ飛ばされる。
「きゃあああああああああああっ!?」
「アントラーは地中を高速で動き回るんだよ!」
「そういうことはもっと早く教えなさいよぉー!」
ルイズが怒って絶叫した。
「うああぁぁッ!」
アントラーに最も近かったフーケは、地面に叩きつけられた衝撃で失神する。
「キャ――――――――オォォウ!」
アントラーは襲う相手を品定めするかのように、五人のことをねめ回す。と、その時、
「きゅーい!」
彼らの下にシルフィードが降下してきた。するとすぐにタバサがシルフィードに跨り、
残りの四人にも促す。
「乗って! 早く!」
言われるまでもなく、キュルケ、ルイズの順に乗り込んでいく。最後の才人は気絶したフーケを背負って跨った。
「フーケまで助けるの!?」
「当たり前だろ! さすがに見殺しにするのはかわいそうだ!」
ルイズに才人が短く答えると、シルフィードが飛び立って、ちょうど振り下ろされてきたアントラーの大顎をかわした。
そのまま飛んで逃げようとするのだが、
「キャ――――――――オウ!」
アントラーが磁力光線を放つと、もう鋼鉄製のものはないのに、シルフィードが引っ張られていく!
「ち、ちょっとぉ! 何で私たちまで引っ張られるのよぉ!」
「血液は、鉄分を含んでるんだ! きっと、それが引っ張られてるから――!」
才人が理由を分析したが、だからと言ってどうにか出来る訳ではない。シルフィードは必死に光線から逃れようとするものの、
引力の強さに抗い切れず、遂に大顎で殴られた。
「きゅいい!!」
「きゃあああああああああっ!!」
シルフィードがはたき落とされ、当然乗っていたルイズらも放り出されて森の木々に突っ込んでいく。
しかしこの時、才人は生い茂る葉で姿が隠れた瞬間に、ウルトラゼロアイを顔に装着した。
「デュワァッ!」
そして森の中から巨大化したウルトラマンゼロが現れ、アントラーを驚かす。
『散々好き勝手してくれたじゃねぇか。だが、俺がこうして出てきた以上、もうそんなことはさせねぇぜッ!』
下唇をぬぐったゼロが啖呵を切り、宇宙拳法の構えを取ってアントラーに対峙した。
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#navi(ウルトラマンゼロの使い魔)
#navi(ウルトラマンゼロの使い魔)
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#settitle(第五話「魔法学院の青い石(前編)」)
ウルトラマンゼロの使い魔
第五話「魔法学院の青い石(前編)」
磁力怪獣アントラー 登場
トリステイン王国の首都、トリスタニアをクール星人やピット星人などの宇宙人連合が襲撃した事件によって、
侵略者を圧倒的な力で蹴散らしトリスタニアを救ったウルトラマンゼロの名前は一気にトリステインはおろか
ハルケギニア中に広まった。実際に彼に救われたトリスタニアの民は、ゼロを「始祖ブリミルが遣わした平和の使者」
と呼んで感謝し、隠れて崇拝する者まで出ていた。
また、トリステイン王宮は怪獣、そして宇宙人の脅威を直に見せつけられて危機感を覚えたことで、
それまで遅々として進まなかった対策会議が急ピッチで進み出した。宇宙人により大打撃を食らった王国軍も、
一日も早い建て直しが進められることとなった。
とはいえ、ウルトラマンゼロの正体が魔法学院の一生徒、ルイズの使い魔である平賀才人であることを知っている者はいない。
そのためルイズと才人は急激に変わりつつあるトリステイン社会の影響を受けることなく、魔法学院で平穏な日々を過ごしていた……
と言いたいところだが、実はそうでもなかった。また新しい事件が、彼らの身に降りかかったのである。
「ミス・ロングビル……手綱なんて付き人にやらせればいいじゃないですか」
トリステイン魔法学院の近くにある森の中の道を進む、屋根ナシの荷車のような馬車に乗っている
四人の内のキュルケが、御者を務めているロングビルに話しかけた。するとロングビルは
にっこりと笑って返答する。
「いいのです。わたくしは、貴族の名をなくした者ですから」
キュルケはきょとんとした。
「だって、貴女はオールド・オスマンの秘書なのでしょ?」
「ええ、でも、オスマン氏は貴族や平民だということに、あまり拘らないお方です」
「差しつかえなかったら、事情をお聞かせ願いたいわ」
ロングビルは微笑んではぐらかそうとするのだが、キュルケはそんな彼女ににじり寄る。
「いいじゃないの。教えてくださいな」
諦めの悪いキュルケの肩をルイズが掴んで引き止める。
「よしなさいよ。昔のことを根掘り葉掘り聞くなんて」
キュルケはふんと呟いて、荷台の柵に寄りかかって頭の後ろで腕を組んだ。
「暇だからおしゃべりしようと思っただけじゃないの」
「あんたのお国じゃどうか知りませんけど、聞かれたくないことを、無理やり聞き出そうとするのは
トリステインじゃ恥ずべきことなのよ」
ルイズの忠言を無視したキュルケは、イヤミな調子で言い放った。
「ったく……あんたがカッコつけたおかげで、とばっちりよ。あれだけのことがあった直後なのに、
何が悲しくて、泥棒退治なんか……」
ルイズと才人がデルフリンガーを購入して、ウルトラマンゼロがハルケギニアから侵略者たちを追い払った日の晩、
ルイズの部屋にタバサを連れたキュルケが押し入ってきた。彼女はルイズの後で買った大剣をプレゼントにすることで、
才人の気を引こうと考えていたのだ。
その剣はゼロがこき下ろした剣だったので才人は、使いはしないものの日本人精神から
受け取るだけ受け取ろうと思ったのだが、それをルイズが許すはずがなかった。
そしてルイズとキュルケは口喧嘩を繰り広げ、どちらも一歩も引かなかった果てに、
魔法で決着をつけることになってしまった。
当初は決闘になるはずだったが、才人が「危ないからやめろよ」と言ったばかりに、
何故かロープで吊るされた才人を落とす対決となった。そして先攻のルイズが魔法を使ったら、
ロープではなく後ろの壁が爆発。結果的にキュルケの勝ちとなった。
ここで終わればまだ良かったのだが、直後にとんでもない事態が起きた。突然巨大な土ゴーレムが出現し、
ルイズの爆発でヒビの入った壁を破壊したのだ。そこは魔法学院の貴重なマジックアイテムが保管されている宝物庫で、
ゴーレムが去った後には、宝物庫の壁には『破壊の杖と青い石、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』
の文字が刻まれていた。
その翌朝、魔法学院は蜂の巣をつついた大騒ぎとなった。何せ、今世間を騒がす大怪盗フーケに、
この世に類を見ない秘宝が二つも盗まれたのだ。責任追及に走る教師たちをオスマンが諌めていたり、
現場に居合わせたルイズたちが証言をしたりしていると、ロングビルがフーケの逃げた先を掴んで舞い戻ってきた。
すぐに捜索隊が編成されることとなったのだが、教師たちは誰も立候補しない。代わりにルイズと、
彼女に対抗してキュルケ、そして心配したタバサが立候補し、彼女たちとルイズの使い魔の才人、
そして案内役としてロングビルの五名がフーケの逃げ込んだ先の森の廃屋へ出発することとなったのだ。
しかし出発の直前、オスマンはルイズたちに不可思議なことを告げた。
「諸君……最悪、破壊の杖は取り返せんでもいい。だが青い石だけは、絶対に取り返してくれんか。
それさえあれば、たとえフーケの正体を暴けずとも構わん」
その言葉にルイズたちは大いに驚いた。どうしてそんなに青い石だけに固執するのか。
「何故でしょうか? オールド・オスマン。青い石とは、そんなに重要なものなのでしょうか?」
とルイズが尋ねたのだが、はぐらかされてしまった。
「重要というか、何というか……ともかく、このことをよく胸に命じておいてくれ。頼んだぞ」
奇妙に思いつつも、ぐずぐずしていたらフーケに逃げられる。一行はオスマンの命を胸に、魔法学院を後にした。
話は現在の時間に戻る。不平を述べるキュルケを、ルイズがじろりと睨んだ。
「とばっちり? あんたが自分で志願したんじゃないの」
「あんたが一人じゃ、サイトが危険じゃないの。ねえ、ゼロのルイズ。あんたのゼロがウルトラマンゼロのだったら、
そんな心配しなくてもよかったのにね」
「……どういう意味よ」
こんな時でも、キュルケはルイズに対して辛辣だった。
「いざ、あの大きなゴーレムが現れたら、あんたはどうせ逃げ出して後ろから見てるだけでしょ?
サイトを戦わせて自分は高みの見物。そうでしょう?」
「誰が逃げるもんですか。わたしの魔法でなんとかしてみせるわ」
「魔法? 誰が? 笑わせないで!」
「ケンカすんなよ! もう!」
バチバチと火花を散らすルイズとキュルケの間を、才人が取り成した。口喧嘩を中断させられたルイズは、
自分について悩む。
(でも、悔しいけど、キュルケの言う通りだわ……。わたしには何の力もない……)
ルイズは自分の使い魔の才人に、その中のウルトラマンゼロに目をやる。ゼロは今更言うまでもないし、
才人もどうやら超人的な能力を有しているようなのだ。それにひきかえ、主人のはずの自分には、
普通のメイジにも出来ることすら何一つ出来ない。
(本当に私には、何も出来ることはないの……? そんなの、嫌……!)
今までだって何度も何かしらの力が欲しいとは思っていたが、才人とゼロが隣にいることで、
劣等感は余計に強くなっており、それを拭い去りたいという思いもまた強くなっていた。
馬車は森の深くに入っていき、そこからは徒歩となった。そして一行は、開けた場所に一軒だけ建つ廃屋の小屋を発見した。
「わたくしの聞いた情報だと、あの中にいるという話です」
ロングビルはそう言ったが、廃屋に人のいる気配はない。そこでタバサの提案により、
一番身体能力の高い才人が偵察兼囮を務めて、中にフーケがいれば外に追い出して
皆で集中攻撃する段取りとなった。
そういう訳で、才人はデルフリンガーを抜いて小屋に近づいていった。窓から恐る恐る中を覗き込むが、
一部屋しかない内部に人間の隠れられるような場所はなかった。
フーケはどこに行ったのか。用心しつつも、才人は皆を呼び寄せた。
「誰もいないよ」
タバサが罠のないことを確認し、才人とキュルケの三人で中に入っていく。ルイズは見張りを申し出て外に残り、
ロングビルは偵察してきますと言って森の中に消えていった。
小屋に入った才人たちはフーケの残した手がかりがないかと調べ始め、その末にタバサが
チェストの中から『破壊の杖』を見つけ出した。
「あっけないわね!」
「でも、念を押された青い石は見つからない」
「フーケが持ち歩いてるのかしら? だったらフーケ自身を捜さないと……」
二人が話し合っている横で、『破壊の杖』を見た才人が目を丸くした。
「お、おい。それ、本当に『破壊の杖』なのか?」
「そうよ。あたし、見たことあるんだもん。宝物庫を見学したとき」
キュルケが肯定するが、その『破壊の杖』はハルケギニアの人間ではない才人も、見たことがあるものだった。
『こいつはまさか……何だってこんな場所に……』
そしてゼロもまた、故郷の光の国のアーカイブで同じものの写真を見たことがあった。
そのとき、外で見張りをしていたルイズの悲鳴が聞こえた。
「きゃあああああああ!」
「どうした! ルイズ!」
一斉にドアを振り向いた時、小屋の屋根が吹っ飛んだ。そして青空をバックに見えたのは、
巨大なフーケの土ゴーレム。
「ゴーレム!」
キュルケが叫ぶと、タバサが真っ先に反応した。巨大な竜巻を起こして、ゴーレムにぶつける。
しかし、ゴーレムはびくともしない。キュルケも火炎をぶつけるが、それでも意に介さなかった。
「無理よこんなの!」
「退却」
タバサとキュルケは一目散に逃げるが、才人はルイズの姿を探した。
そのルイズは、ゴーレムの背後に立っていた。魔法を唱えて爆発を浴びせるが、それでもゴーレムは健在。
ルイズに気づいて振り返る。
「逃げろ! ルイズ!」
才人の警告を、ルイズは聞き入れなかった。
「いやよ! あいつを捕まえれば、誰ももう、わたしをゼロのルイズとは呼ばないでしょ!
ここで逃げたら、ゼロのルイズだから逃げたって言われるわ!」
「いいじゃねぇかよ! 言わせとけよ!」
「わたしは貴族よ。魔法が使える者を、貴族と呼ぶんじゃないわ」
ルイズは杖を握り締めた。
「敵に後ろを見せない者を、貴族と呼ぶのよ!」
爆発を食らわせるが、ゴーレムは土がこぼれるだけだった。そしてゴーレムは、ルイズを踏み潰そうと足を振り下ろす。
もうダメかとルイズが目をつぶった時、才人が烈風のごとく走り込んできて、ルイズを抱きかかえて地面に転がった。
そして才人が叱る。
「貴族のプライドがどうした! 前に言ったろ! 死んだら何もかも終わりって!」
するとルイズの目から、ぽろぽろと涙がこぼれた。
「だって、悔しくて……。わたし……。いっつもバカにされて……」
才人はルイズの抱えている思いを知り、困惑するのだが、そうしている暇はない。ゴーレムはなおも二人を狙っているのだ。
「少しはしんみりさせろよ!」
ずしんずしんと地響きを立てて追いかけてくるゴーレムからルイズを抱えて逃げる才人。
幸い、身体が重いためかスピードは才人とあまり変わらない。
そこにタバサを乗せた風竜が飛んでくる。タバサのシルフィードだ。
「乗って!」
タバサが叫ぶが、才人はルイズを彼女たちに託しただけだった。
「早く行け!」
タバサは無表情に才人を見つめていたが、追いついてきたゴーレムが拳を振り上げるのを見て、
やむなくシルフィードを飛び上がらせた。
一人残った才人は跳びさすって拳から逃れると、デルフリンガーを構え直した。
「悔しいからって泣くなよバカ。なんとかしてやりたくなるじゃねえかよ」
怪獣が相手ではないので、ウルトラマンゼロの力は借りられない。それに借りるつもりもない。
相手が人間、メイジの作ったものだというなら、自分の、あの少女の使い魔の力で勝利を掴みたい。
「たかが土っくれじゃねえか。こちとら、ゼロのルイズの使い魔だっつうの」
「へへッ、いい啖呵切るじゃねえか、相棒!」
デルフリンガーが才人を称賛した。
才人は単身ゴーレムに斬りかかるが、相手は巨大。彼の斬撃では身体の一部を削り取るので精一杯だ。
しかも敵は命を持たない土人形なので、ダメージなど意に介さず戦い続ける。時間が経つにつれて、
どんどんと才人が追い詰められる。
その様子をシルフィードの上から見ているルイズはどうにか助けたいと思うのだが、ゴーレムが激しく暴れるので、
近づくことすら出来ない。何か役立つものはないかと見回していると、タバサが抱えた『破壊の杖』に気づいた。
「タバサ! それを!」
タバサから『破壊の杖』を受け取ると、彼女の『レビテーション』で地上へ降ろしてもらう。
『破壊の杖』を使ってゴーレムを倒そうという算段だ。
だが『破壊の杖』は、彼女が生涯で一度として見たことのない奇妙な形をしていた。本当にマジックアイテムなのか。
大きく振ってみるが、何も反応しない。
そうしていると、ルイズが『破壊の杖』を持って降りてきているのに気づいた才人が、
ゴーレムの隙を突いて彼女の下まで駆けていった。
「サイト! 使い方が、わかんない!」
訴えるルイズから『破壊の杖』をもぎ取ると、両手でしっかりと構えて先端をゴーレムに向ける。
「これはな……こう使うんだ」
と言いながら、才人は自分が『破壊の杖』と呼ばれているものの使い方を理解していることに、自分で驚いていた。
『破壊の杖』。その銀色のボディに黒のラインが一本走った形状は、間違いなく自分の世界の武器であった。
怪獣頻出期の初期、「ウルトラマン」という存在がまだ初代ウルトラマンしか地球人に知られていなかった頃の防衛隊
「科学特捜隊」の主武装、スパイダーショットに違いないのだ。だが才人はその存在は知っていながらも、
安全装置の外し方までは知らないはずなのだ。
「ままよ!」
混乱しつつも、これを使わない手はない。トリガーを引くと、砲口から熱線が発射され、ゴーレムに命中する。
その途端にゴーレムが大爆発を起こした。上半身が完全に飛び散り、残った下半身も崩れ落ちて、ただの土の塊に戻った。
「ひゅー! すっげえ威力だな! おでれーた!」
背に戻されていたデルフリンガーが歓声を上げた。
ゴーレムが倒されると、ルイズは腰が抜けたのかへなへなと座り込んだ。キュルケは隠れていた木陰から出てきて、
才人に駆け寄る。
「サイト! すごいわ! やっぱりダーリンね!」
一方タバサはシルフィードから降りると、ひと言尋ねかける。
「フーケはどこ?」
全員がフーケのことを思い出して辺りを見回すと、ちょうどロングビルが茂みの中から彼らの下へと出てきた。
「ミス・ロングビル! フーケはどこからあのゴーレムを操っていたのかしら」
キュルケが尋ねると、ロングビルは首を横に振る。それで全員の気がそれた隙に、
ロングビルは素早く才人の手の中からスパイダーショットを取り上げた。
「ロングビルさん?」
怪訝な顔をする才人から離れたロングビルが、スパイダーを四人に向けて突きつけた。
「ご苦労様」
全員が唖然とし、ルイズが問いかける。
「どういうことですか?」
「さっきのゴーレムを操ってたのは、わたし」
淡々と答えたロングビルが眼鏡を外すと、優しそうだった目つきが猛禽類のように鋭くなる。
「そう。わたしが『土くれ』のフーケ。さすがは『破壊の杖』ね。私のゴーレムがばらばらじゃないの!」
タバサが杖を振ろうとするのを、ロングビル……いや、フーケが制する。
「おっと。動かないで? 破壊の杖は、ぴったりあなたたちを狙っているわ。全員、杖を遠くに投げなさい。
そこのすばしこい使い魔君は、剣を投げなさい。あんたは武器を握ってると、どうやらすばしこくなるみたいだから」
仕方なく、全員が命令に従う。それからルイズが怒鳴る。
「どうして!?」
「そうね、ちゃんと説明しなくちゃ死にきれないでしょうから……説明してあげる」
フーケは妖艶な笑みを浮かべて説明を始めた。
「私ね、『破壊の杖』と『青い石』を奪ったはいいけれど、『破壊の杖』は使い方がわからなかったのよ」
「使い方?」
「ええ。振っても魔法をかけても、この杖はうんともすんともいわないんだもの。杖と銘打っておきながら
使い方がわからないんじゃ、売り飛ばせない。だからあなたたちに、これを使わせて、使い方を知ろうと考えたのよ」
「それで、あたしたちをここまで連れてきたってわけね」
「そうよ。魔法学院の者だったら、知っててもおかしくないでしょう?」
「わたしたちの誰も、知らなかったらどうするつもりだったの?」
「そのときは、全員ゴーレムで踏み潰して、次の連中を連れてくるわよ。でも、その手間は省けたみたいね。
こうやって、きちんと使い方を教えてくれたじゃない」
フーケが説明している中で、才人はゼロに念じて話しかける。
(ゼロ。スパイダーを取り戻してフーケを捕まえるのに、力を貸してくれ。このままじゃみんなヤバい)
『ああ、いいぜ。俺たちの世界の武器で危険なことになってるんだったら、俺たちが責任取らないとな』
原則として、ウルトラ戦士はその星の住民同士のいさかいに介入してはならない。だが違う星、
違う世界のものが原因である時は別だ。別世界から来た者として、解決に尽力する必要がある。
『狙う時は、奴が撃とうとする瞬間だ。攻撃は、防御を捨てざるを得ないから、最も無防備になる瞬間の一つ。
そこで決めろ!』
(よし、分かった!)
助言を受けて、フーケの指の動きを注視する。
「じゃあ、お礼を言うわね。短い間だったけど、楽しかった。さよなら」
フーケがうそぶいてトリガーに掛けた指の力を強めるその瞬間に、才人が飛び出そうとする。
しかし、それは突然発生した激しい地揺れで遮られた。その場の全員、フーケも、思わず姿勢を崩す。
「な、何!? 突然!」
「この揺れ方……まさかッ!」
才人の不吉な予感はドンピシャで当たった。
「キャ――――――――オォォウ!」
彼らの近くで、森の木々を吹っ飛ばし、クワガタムシに似た大顎を持った昆虫型怪獣が地面から這い出てきたのだ。
かつて中東の伝説の町・バラージを襲い、かのウルトラマンも苦戦せしめた恐るべき大怪獣、
アントラーである。
「か、怪獣!? よりによってこんな時に!」
「このッ! いいところを邪魔して!」
フーケは反射的にアントラーにスパイダーの熱線を発射した。しかしゴーレムを粉砕したその熱線は、
アントラーの甲殻に呆気なく弾かれた。
「キャ――――――――オウ!」
それどころか、アントラーが口から虹色の光線を空に向けて放出すると、スパイダーが
勝手にフーケの手から離れてアントラーへ飛んでいく。
「は、『破壊の杖』が! 泥棒!」
「あんたが言えたことじゃないでしょ!」
思わずツッコミを入れるルイズ。そして見れば、デルフリンガーまでアントラーに引き寄せられて飛んでいっている。
「おわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ! あ、相ぼおおおおおおおおうッ!」
「デルフリンガー!」
手を伸ばす才人だがもう遅かった。才人は端末からアントラーの情報を得る。
「あいつの出す光線は強力な磁力光線なんだ! だから鋼鉄で出来てるものは引き寄せられちまう!」
端末は磁力の影響を受けないようになっているが、だからと言って何か特別なことが出来る訳でもなかった。
と、森の中にそびえ立つアントラーが、何故か地中へと戻っていく。
「な、何? 今ので満足したの?」
「いや……違う! みんな逃げろぉッ!」
「キャ――――――――オォォウ!」
才人の警告の直後に、先ほどよりもずっと近い地面からアントラーが顔を出してきて、
その勢いで五人が吹っ飛ばされる。
「きゃあああああああああああっ!?」
「アントラーは地中を高速で動き回るんだよ!」
「そういうことはもっと早く教えなさいよぉー!」
ルイズが怒って絶叫した。
「うああぁぁッ!」
アントラーに最も近かったフーケは、地面に叩きつけられた衝撃で失神する。
「キャ――――――――オォォウ!」
アントラーは襲う相手を品定めするかのように、五人のことをねめ回す。と、その時、
「きゅーい!」
彼らの下にシルフィードが降下してきた。するとすぐにタバサがシルフィードに跨り、
残りの四人にも促す。
「乗って! 早く!」
言われるまでもなく、キュルケ、ルイズの順に乗り込んでいく。最後の才人は気絶したフーケを背負って跨った。
「フーケまで助けるの!?」
「当たり前だろ! さすがに見殺しにするのはかわいそうだ!」
ルイズに才人が短く答えると、シルフィードが飛び立って、ちょうど振り下ろされてきたアントラーの大顎をかわした。
そのまま飛んで逃げようとするのだが、
「キャ――――――――オウ!」
アントラーが磁力光線を放つと、もう鋼鉄製のものはないのに、シルフィードが引っ張られていく!
「ち、ちょっとぉ! 何で私たちまで引っ張られるのよぉ!」
「血液は、鉄分を含んでるんだ! きっと、それが引っ張られてるから――!」
才人が理由を分析したが、だからと言ってどうにか出来る訳ではない。シルフィードは必死に光線から逃れようとするものの、
引力の強さに抗い切れず、遂に大顎で殴られた。
「きゅいい!!」
「きゃあああああああああっ!!」
シルフィードがはたき落とされ、当然乗っていたルイズらも放り出されて森の木々に突っ込んでいく。
しかしこの時、才人は生い茂る葉で姿が隠れた瞬間に、ウルトラゼロアイを顔に装着した。
「デュワァッ!」
そして森の中から巨大化したウルトラマンゼロが現れ、アントラーを驚かす。
『散々好き勝手してくれたじゃねぇか。だが、俺がこうして出てきた以上、もうそんなことはさせねぇぜッ!』
下唇をぬぐったゼロが啖呵を切り、宇宙拳法の構えを取ってアントラーに対峙した。
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#navi(ウルトラマンゼロの使い魔)
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