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#navi(るろうに使い魔)
「うおおおおおおっ!! トリステインがアルビオン軍を追い払ったぞ!!」
「夢を見ているようだ…まさかこんな日が起こるなんて…」
タルブにて勃発した、トリステインとアルビオンによる抗争。
誰が見てもアルビオン側が圧倒的優位だったにも関わらず、結果は…突如として起こった『謎の光』による現象で、艦隊は全滅。何もしていないトリステイン勢の勝利と相成った。
兵の大半は捕縛され、おまけにこちら側の被害は、全くではなかったがこの戦果を鑑みれば贅沢と言えるほどに少なかった。
「此度の勝利をもたらした我らが女王、アンリエッタ陛下に祝福を!!」
「万歳!! アンリエッタ女王陛下!!」
まさに完璧な『勝利』。人々はアンリエッタを『聖女』と称え、騒ぎ立てた。
第三十幕 『人斬り』
ここトリステイン魔法学院は、そんな喧騒とは程遠かった。
オスマンからタルブでの勝利について語られただけで、あれから特に何も変わってはいない。
そこは学び舎であるからして、政治関係や戦争とはあまり無縁なのである。
剣心は、暖かい日を浴びながら一人散歩していた。暇な時にする日課の一つにもなっていた。
(……志々雄真実)
まさかあの男まで、この世界にやってこようとは…。
剣心は、これからどうするか本格的に考え始めた。あれだけの敗退だ。志々雄とて暫くはそう迂闊な攻めは行っては来ないだろう。
(だが、もしあの男が刺客を差し向けるとするなら、これまでとは一筋縄ではいかない筈だ)
最悪、戦場の場はこの学院にもなりかねない。
それだけは…避けねばならなかった。今やこの学院は、剣心にとってもう一つの居場所になったのだから。
そんな風に歩いている内、不意に剣心に声が掛かった。
「あ、ケンシンさん!!」
「おお、シエスタ殿」
声の主、シエスタはいつものメイド服に身を包み、待っていたと言うような体で、剣心の所まで来た。
「あの、タルブを救ってくれてありがとうございます!!」
そう言って、シエスタは深々と頭を下げた。あのゼロ戦を飛ばしていたのは誰か、シエスタには分かっていたからだ。そして、誰があの戦艦達と戦ってくれたのかも。
「いや、拙者はそれらしいことは…というか、ゼロ戦をあんなにして逆に申し訳ないというか…」
剣心は、しどろもどろになりながらも答えた。
あの時、剣心は銃器を使いたくないがために、ゼロ戦を乗り捨てたからだ。
勿論、壊れないように最低限の処置はとったのだが、あの後学院に持って帰った時、結構内部の色んなところを破損させたりしたのが分かった。
目立った外傷は無いとはいえ、それでも家宝をぞんざいに扱ったことに対しては引け目を感じていたのだった。
「いいですよ。あれはもうケンシンさんのものですし」
シエスタも、特に気にすることはないような風で言った。そして、剣心に和かに笑ってみせた
「あの時、嬉しかったんです。ケンシンさんが来てくれたって分かった瞬間、凄く安心したんです。ああ、もう大丈夫なんだなって」
「そんな、買いかぶりでござるよ」
「いえ、買いかぶりとかじゃありません! 本当にそう思ったんです!!」
シエスタは力強く言った。こればっかりは嘘なんかじゃない。本物の気持ちだった。
「だから、お礼を言いたいんです…本当に、ありがとうって」
「シエスタ殿…」
そこまで言うと、シエスタは改めてはにかんだ笑顔を見せた。そして、それとなく剣心の散歩に一緒に付いて歩いていく。
それは、端から見ればカップルにも見えなくもなかった。
さて、その後ろには何か掘り進めたような跡があった。
まるで剣心達の後を追うかのように、ピッタリ追跡して放さない。
穴の中にはルイズと、連れてこられたデルフと、掘った主のウェルダンデがいた。
「ねえ…何でアイツはメイドなんかといちゃついてんの…?」
「いちゃついてんのか…あれ」
遠巻きに見る? デルフにはそうは見えなかったが、少なくともルイズにはそう感じたようだ。肩を震わせて様子を伺っていた。
ルイズが丁度見たときには、シエスタと剣心は普通に歩いてる途中だったため、その前の会話については知らなかった、というのもあるが。
「娘っ子の嫉妬も、えらいもんだぁね。もうちっと相棒を信用しろよ」
「分かってるわよ…」
「じゃあ何で覗きみたいな真似してんだ?」
ルイズは、口をモゴモゴさせて何やらボヤいた。
「だって…私は虚無の担い手なのよ…こんなに私が不安がっているのにさ…アイツは人の気も知らないであのメイドなんかと…」
あのタルブでの戦い、最後に起こった現象は人々にとって『奇跡』の一言で片付いた。
まさかあの光を起こした張本人がルイズだと、誰も思わなかったらしい。
だけど、虚無の力を使っていけばその内バレる。ルイズは不安だった。いきなり手にした力の強大さに。
だから、剣心に相談しようとした矢先、あのメイドと一緒に歩いているのが物凄く気に入らなかった。やっぱり何かあるんじゃないか、そう勘ぐってしまう。
「そういえばさ、何でアイツはあんたを使わないのよ、折角買ってあげたのに!!」
と、ルイズは怒りの矛先をデルフの方へと向けた。ルイズの見る限り、デルフの使用はワルドとの戦い以降、全然使ってはいないようだった。
それに関しては、デルフも大きくため息をつくかのような声で言った。
「仕方ねえよ。相棒は『不殺』を掲げてるんだ。俺じゃあどうしたって斬っちまうもんな」
「…前から思ってたけど、何でアイツはあんな面倒臭い戦い方するんだろ?」
ルイズは思った。あれほど強いにも関わらず、剣心が一度も人を斬るのを見たことがない。強いからなせる手加減なのだろうが、時々過剰にも思えるくらい『人を殺さない』事にこだわっているみたいだった。
『不殺』の為にゼロ戦を乗り捨てた事を聞いたときは、そこまでするか? と思うくらいだった。
「さあな、けどだけ一つ言えることがある」
「へえ? 何なのよ、勿体ぶらずに教えなさいよ」
ルイズの問いに、デルフは遠い向こうを眺めるかのような口調で言った。
「少しだけでも、振るわれて分かった。『飛天御剣流』だっけか…あれは相当えげつねえってことさ」
「…どういうこと?」
困惑する様子のルイズを他所に、デルフは続けた。
「あれはな、何というか…人をどれだけ速く、かつ正確に、そして一斉に斬れるかっていうのを重点に置いてある。手加減なんて効きやしねえ本当に実質本意な『殺人剣』さ。
もし相棒が逆刃刀じゃなく俺や普通の剣で戦っていたら、娘っ子は今頃沢山の惨殺死体を目の当たりにしてきたことだろうぜ」
「………」
「だから相棒にとって逆刃刀ってのは、かなり特別な存在なんだろうな。まあ、出番が全くない訳じゃねえし、俺は今のままでも構わないっちゃあ構わないけどな」
どこか諦めたような風に呟きながら、デルフは言った。
ルイズは、遠くにいる剣心を見やった。そう言えばワルドを相手にしていた時も、最初の決闘はデルフの峰で戦っていたし、最後の決戦も結局命までは奪わなかった。やろうと思えば出来た筈なのに。
ルイズに気を使って殺さなかった、というのもあるのだろうが、それ以上に剣心は自分に『殺す』という事を戒めている感じだった。
するとまた、デルフが再び口? を開いた。
「少なくとも、あの信念を見つけ出すのに相棒はかなり苦労してきた筈だ。挫折しかけたことだって一度や二度じゃないだろう。だからこそあんなに風格が身についているんだ。そんな相棒が、本気で娘っ子の事を考えてねえとでも?」
「う……」
「キュルケって娘も言ってたろ? もう少し使い魔を信用してみな。娘っ子だって、相棒が頼れると心の中で思っているから相談しようとしてんだろ?」
諭すようなデルフの口調に、ルイズは渋々ながらも頷いた。
「そうね…分かったわ。てかあんた、いい加減娘っ子って呼ぶのやめなさいよ」
そんな中、丁度ギーシュが使い魔を探しに通りかかってきたので、この追跡ごっこも取り止めとなった。
その夜、ルイズはいつもの様にベットに寝転がり、座るように目を瞑る剣心を見た。
「ねえ、ホントにベットはいいの?」
「大丈夫でござるよ」
「良いって言ってるのに……」
ちょっと不満そうに口を尖らせたが、これ以上は変に勘ぐられそうなので、ルイズは仕方なく諦めた。
だけど、ルイズはそんな事を話したいんじゃなかった。もっと色んなことを剣心に聞きたかった。シエスタの事、虚無の事、知りたいこと確かめたいこと。
でも、まず最初に質問したのは、こうだった。
「ケンシンさ、何で逆刃刀なんて使っているの?」
剣心は、それを聞いて少しの間固まっていたが、やがてゆっくりとルイズを見て、切なげな表情で言った。
「拙者の剣は、そのままでは人を殺めかねない。だからこそこの刀は拙者にとって重要なものなのでござるよ」
「どうして、『不殺』をそんなにも貫いているの?」
剣心は、押し黙ってしまった。言おうか言うまいか、迷っているようだった。それを見かねたルイズは、余程言いたくないことだろうと思い、追及をやめた。
「いいわよ、そんなに話したくないなら。聞いた私が悪かったわ」
「…済まないでござる」
そのままルイズは布団に潜り込んだ。ただ、時々顔を上げては剣心の横顔…についている十字傷を見た。
普通の斬り傷なら、あのくらい時間が経てば直ぐに消えてしまうだろう。でも剣心のそれは、一生掛かっても消えないかのように今でもくっきり残っていた。
まるで、恨みかなにかを込められたかのように…。
(一体何で傷つけられたんだろう…?)
というより、そもそも剣心に傷を付ける相手がいたのだろうか。そんな事を考えながら、ルイズは眠りについた。
この時はまだ、本当に分からなかった。『不殺』の意味。『逆刃刀』の意味。
その日、ルイズは夢を見る。遠い記憶、昔の話。それは、彼のもう一つの顔の時の夢だった。
「…あれ…ここは?」
ルイズは、辺りを見回してそう呟いた。
「…こんな建物、見たことないわ…」
既に暗い夜道の中、ルイズは一人佇んでいたのだ。
周りには、木で出来た、ルイズから見れば納屋の様な家が一列に並んでいる。明かり一つ存在しない真っ暗闇だったが、それだけは何とか視認できた。
ただ一つ、上から照らす光を見上げてみれば、そこには月が一つしかなかった。
(じゃあこれ…またケンシンの…)
すると、不意に話し声がこちらに聞こえてきた。声は小さいながらも大きくなっていき、こちらに近づいてくるのが分かった。
慌てて隠れようとするが、これは剣心の夢だということを思い出し、それなら堂々としてもいいか、とやって来る人影を見た。
やがて、姿を現したのは三人の男達だった。先頭が提灯(無論ルイズは知らない)を持っているおかげで、その三人の顔がルイズにはよく見えた。
前から順に、優しそうな青年、好々爺に見える老人、筋骨隆々な大男と続いていった。
皆剣心と同じ服装に刀を差しており、改めてここが剣心の世界であることをルイズは実感させられた。
「遅くなりましたね、少し急ぎましょう」
先頭を歩いていた青年が、後ろの老人へと話しかけた。老人は頷くと、朗らかな口調で青年に話しかけた。
「聞いたぞ清里、来月祝言だそうじゃないか。あの幼馴染の器量良しを貰うか、果報者め」
清里、そう呼ばれた青年は幸せそうな笑みを浮かべた。
ルイズには、会話の内容から、あの青年が結婚するんだということは分かった。
そして思い出した。アンリエッタが結婚すると聞いたときにした、悲しい表情。そしてウェールズがあの晩に一瞬だけ見せた、やるせなさそうな表情を。
「やっぱり、結婚ってああいう風な顔をするわよね…」
ルイズも一度、結婚というのを考えさせられたのだから、清里の笑顔はよく理解できた。本当に幸せそうで、多分相手の女性も嬉しいんじゃないかなって、そうルイズにも思わせるような笑顔。
何というか、ウェールズやアンリエッタの様な二人を見てしまっただけに、彼には幸せになって欲しいな、とルイズに思わせていたのだ。
というより、あの笑顔にウェールズの姿を、無意識に重ね合わせていた節があったのかもしれない。
「でも、悪い気もするんですよ。世の中が荒んでいるというのに自分だけ…」
「コラコラ、何を言っとる」
どこか申し訳なさそうにする清里に対し、真ん中を歩く老人は優しく諭した。
「世の中がどうであろうと、人一人が幸せになろうとするのが、悪いわけがなかろう」
「そうよ、良いこと言うじゃない」
いつの間にか、すっかり共感したようにルイズが言った。勿論、これは夢なのだから見えないし聞こえないのだが。
結婚かぁ…ルイズは思った。そして何故か無意識に、アイツの姿が現れた。
(な、何でアイツが出てくんのよ…!?)
振り払うようにその事を頭から追い出しながら、ルイズは改めて清里を見る。
そしてやっぱり、ルイズの中にあの男の姿が出てきた。
「アイツとは、ただの使い魔の筈なのに…」
そんな顔を赤くしながら一人悶々としているルイズに…いや、本当は夢の三人に向けてだろう…声が掛かった。
「京都所司代、重倉十兵衛殿とお見受けする」
聞き覚えのある声、ルイズはハッとしてその方向を向いた。
「…ケン―――」
そして、ルイズは目を丸くした。
「―――シン…?」
声を聞いて、三人もそちらの方を見る。そこには、ルイズのよく知る男が立っていた。
いや、よく知るなんてものじゃない。一緒に暮らし、今さっきまで勝手に現れてルイズを悶々とさせていたその男。
緋村剣心は、その深い相貌でルイズ達を見つめていた。しかし……。
(違う…ケンシンじゃない…)
ルイズは何故か無意識に首を振った。そして改めて彼の姿を見やる。
まず頬の十字傷がない。髪の括り方も変わっており、そして身長も少し低く、どこか若々しく見えた。
そして何より違うのが、その身に纏う雰囲気。
ルイズ達を見る瞳は、刃のように冷たく、鋭く、そして深い。いつもニコニコしている、あの優しそうな笑顔が、今は無表情で塗り固められてどこにもなかった。
この彼には覚えがあった。確かアルビオンで、ウェールズが殺された時…これに近い雰囲気を彼は醸し出していた。
けど…今感じる殺気は怒りによる荒々しさこそないものの、あの時以上に冷徹な雰囲気をルイズに語らせる。
「ねえ…どうしたの……?」
そんな彼の変わりように、ルイズは軽く戸惑っている間に、三人に向かって剣心は冷たく言い放った
「これより、天誅を加える」
「ケンシン……?」
呆気にとられるルイズを他所に、その意味を悟った他の三人は慌てて刀の柄を手に取って叫ぶ。
「刺客か!!?」
「たかが剣のひと振りで、世が動くと思うのか?」
「名乗れ!!!」
一番強そうな大男が、剣心に向かって叫ぶ。しかし、彼は何も言わず只そこに佇むばかり。
「名乗らんかぁぁぁぁあああああああああああああ!!!」
遂に痺れを切らしたのか、男は大声を上げて突進した。
「ちょっと…待って!!!」
ルイズが止めよう動いたとき、男は刀を振りかぶっていた。
剣心は、それを刀の鍔で受け止めると、おもむろに鞘尻を男の目に向かって抉るように突き立てた。
「ぐあっ……!!!」
ドゴッと、嫌な音を立てて悶絶する男に、剣心は鞘から、逆刃刀ではない…本物の真剣を抜き放った。
閃く一筋の光。一瞬のうちに横一文字に斬られた男は、その腹に真っ赤な血の花を咲かせて、そして崩れ落ちた。
「え…?」
未だに状況が呑み込めないルイズは、飛び跳ねる血の跡をただ呆然と立っているだけだった。
その間にも剣心は他の二人に向かって駆け出し、一気にその距離を縮めていく。
二人も呆気にとられていたが、すぐさま本能的な危機を悟ったのか、刀を構えた。
だがもう間に合わない。重倉と呼ばれた老人は、清里を突き飛ばして庇った。
「清里、お前は今死んではいかん!!!」
その次の瞬間に、重倉の顎から脳天に向かって刀が深々と刺さっていた。一時の沈黙の後、剣心は刀を強引に引き抜いた。
重倉は顔の血を縦から流し、そのまま倒れていく。
「し、重倉さん!!!」
清里がそう叫んだ時には、剣心は彼に刀を振りかぶっていた。
清里は、奇跡的な反応でそれを防いだが、そのまま剣心に壁へ押し迫られていく。何とか切り返しその剣幕から逃れた清里は、改めて剣心と対峙した。
この間約数秒の出来事。
「あっ…うっ……」
ルイズが、ようやく事の顛末を理解したときには、既に剣心によって二つの屍が築かれていた後だった。
「何…で…?」
ルイズは、只々愕然としていた。涙を流し、腰砕けになりそうな身体を震わせ、吐きそうになる気分を必死に抑えて、理性を何とか保とうとしていた。
(どうして? この人達はそんなに悪い人なの…?)
だけど、今この場ではルイズは、どう見ても剣心が悪役にしか見えなかった。
なんの躊躇もなく、人を殺した。
それでいて、表情は依然として変化を見せず、感情のない眼で清里を睨んでいる。
死への恐怖を感じながらも、勇気を振り絞り必死で刀を構えている清里に対し、剣心はどこまでも冷たく言い放った。
「……諦めろ」
生きること全てを捨てさせるような言葉。絶望しか覚えないような言葉でも、清里は諦めず、刀を握る手を強くした。
「そうはいかん!!」
清里は立ち向かった。拙い剣術ながらも、それでも必死に剣心に食らいついていった。
だが、徐々に実力の差が現れ始めたのか、刀で所々を斬られていく。
(死ねない…今死ぬわけにはいかない…)
腹を斬られ、悶絶するも清里は必死で刀を振るう。
(死にたくない…死んでたまるか…!!)
肩を斬られ、血が噴き出すも、清里は耐えて立ち上がった。
「死なん…絶対に……っ」
最早ボロボロの状態にも関わらず、それでも清里は諦めなかった。
おそらく待っているだろう婚約者を想って、その先の幸せへを願って……。
それなのに、剣心はどこまでも変わらない。ただ彼を生かしてはおけない。目がそう語っているだけだった。
「いや…やめて…」
ルイズは、震える声で呟いた。それを合図に、清里は最後の抵抗を試みる。刀を突き出し、大声を上げて特攻をかけた。
「うおおおおおおおおおおああああああああああああああああああ!!!!!」
「やめてええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」
ルイズの悲鳴と清里の叫び。それが街中に響き渡った。
だが、二人の声の願いは、届くことなく終わった。
「がっ…ぁ…!」
交差気味に走ってきた剣心のすれ違いざまの一撃、それが清里の止めの一撃となった。
清里も、真っ赤な血の雨を撒き散らしてその場に倒れ込む。
だがそれでも、清里は生きていた。震える手を動かして、その先にいるルイズに訴えかけるように呟いていた。
「…死に…た…く…ない…」
頬から涙を流し、そうルイズに話しかける清里は、本当に…本当に悲しかった。
多分、普通に大切な人の幸せを願っただけだろうに…こんなことになるなんて、きっと夢にも思わなかったことだろうに…。
「今は…まだ………死に…たく…ない…」
剣心は、彼がまだ生きていることを知ると、真剣を向けてこちらにゆっくりとやって来た。その目は、どこまでも感情のない瞳をしていた。
「と…も…ぇ…」
その最後の言葉を遺して、清里は事切れた。否……剣心が首筋向けて剣を突き立て、息の根を止めたのだった。
なのに、剣心は激昂するでも悲しみを見せるわけでもなく、ただずっと変わらない無表情で、彼の死体を見下ろしていた。
ルイズは、何も言えなかった。ただショックで…放心するしかなかった。限界が来たのか、遂に腰を抜かして剣心を見上げていた。
(何…で…こんな…)
そしてルイズは見た。彼の左頬に、一つ目の傷が出来ていることに。
(どう…して……ねぇ…何か…言ってよ…)
それを最後に、ルイズは意識を手放していった。
(ケン…シン……)
鋭く冷たい、彼の表情をその目に焼き付けながら…。
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