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「使い魔は妖魔か或いは人間か15」(2012/10/08 (月) 00:06:44) の最新版変更点
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#settitle(第15話『決別』)
#navi(使い魔は妖魔か或いは人間か)
滅亡を迎えるアルビオンに朝が訪れる。
ルイズが眠りから覚めると、もう日は昇りきっていた。
「もう昼過ぎかしら……」
太陽の位置から何となく時刻を察する。
眠りすぎたのを若干悔いつつ、手早く着替えを済ませた。
「お早う、ルイズ」
ルイズが扉を開けると、そこにはワルドがいた。
「おはよう、ワルド。ずっと待っていたの?」
「いや、まだ起きないようなら昼食を置いておこうと思って運んでもらったんだ」
老紳士然としたメイジが、食器を運んでいた。
「お目覚めですかな。
私、皇太子様の世話役を任されておりましたパリーです。以後お見知り置きを」
老メイジが深々と頭を下げ一礼する。
「昼食後で結構ですが、後に国王陛下が会見を望まれております」
「ええ、是非」
ルイズは作り笑いを浮かべようと努力する。
声がかすれながらも、何とか誤魔化せたようだ。
「ありがとうございます、国王陛下も喜びになられます」
パリーは笑顔でそう答えると、部屋を後にする。
老メイジの笑顔とは対照的に、ルイズの心は晴れないままだった……
-------
国王への謁見も終わり、夜を迎える。
ルイズはずっと部屋にいたかったが、そうもいかずパーティにだけは出席する。
表向きは華やかな宴、実態は最期の晩餐。
国王が逃亡するよう斡旋するも、部下達は笑って皆その場を立ち去ろうとしない。
誰もが陽気に笑い、破滅に向かう。
会場の光景がルイズには虚しさしか感じず、直視できない。
「アセルス……」
バルコニーで外をぼんやりと眺めていたアセルスにルイズが近寄る。
「どうしたの?」
ルイズに掛ける言葉は優しさに満ちている。
自分の心が砕けそうになった時、アセルスは受け止めてくれた。
一方で他人の命を躊躇いもなく奪う。
アセルスの二面性に、ルイズは戸惑いを覚える。
笑顔で滅びようとしている、アルビオンの貴族達のように。
「どうして彼らは笑っていられるのかしら……死ぬのが悲しくないの?」
「さぁ……私には分からないわ」
ルイズの望む答えはアセルスにも分からず、素直に告げる。
「アセルスは命の奪い合いが怖くないの?躊躇したりとか……」
ルイズの口調にいつもの明るさはない。
人が死に向かう姿を目の当たりにした経験はなかった。
「戸惑っていたら、その間に大切な人を失うから」
崖での尋問や宿での交戦。
殺さなければ、こちらが殺されていたかもしれない。
理屈は分かっていても、心の未成熟な少女の感情は揺らいだままだった。
「私も……アセルスにとって大切な人なの?」
「当然じゃないか」
アセルスはルイズの質問した意図が理解できない。
「私、ワルドに婚約されたの」
アセルスに衝撃を与えるルイズの告白。
「……ルイズは……どうするの?」
曖昧すぎるアセルスの問いかけ。
止めるにせよ決心させるにせよ、何か言わなければならないのに何一つ浮かばない。
「分からないのよ……自分でもどうすればいいのか」
弱々しく首を振って、目を伏せた。
「だから、アセルスに聞きたかったの。私は一体どんな存在なのか」
ルイズの一言一言に、アセルスは胸が締め付けられた。
動悸が激しくなり、何もしていないのに嫌な汗が流れる。
「……ルイズにとって、私は何?」
ルイズの質問に息が詰まりそうになりながら、かろうじて言葉を絞り出す。
「理想よ。貴族の理想、こうなりたいと願う憧れ」
アセルスの問いに、ルイズは即答する。
ルイズがアセルスを追求しだしたのは、ほんの些細な重ね合わせから。
ワルドの求婚。
アセルスの人生を追憶する夢。
人と妖魔の関係に気づいてしまった事。
最大の理由は、自身が理想が揺らいでしまった事。
名誉を守る為、滅びを恐れぬ彼らの姿は紛れもなく貴族の精神だ。
同時に愛する者を捨ててまで、死に行く彼らがルイズには納得できない。
「ねえアセルス……お願い、答えて」
か細い声と共に、アセルスのドレスの裾を掴む。
理想が揺らいだから、ルイズはアセルスを求めた。
求められる事で、自分が間違っていないのだと信じたかった。
無論、求められたからと言って正しさを証明できる訳ではない。
ルイズが行おうとしているのは、単なる現実逃避だ。
誰より孤独を嫌うから、他人に必要とされようと求める。
何もルイズだけに当てはまる事ではない、アセルスも同様だった。
「私は……」
傍にいてくれればそれだけで良かった。
かつてルイズに告げた台詞だが、アセルスは肝心な関係を伝えていない。
主従として、友として……或いは愛する者として。
どのように寄り添って欲しいかまではアセルスは告げていない。
追求された今、何と返せば正しいのか言葉が浮かばない。
いや、この問答に正解など無い。
アセルスは単に嫌われまいとしているだけだ。
だから、アセルスは自分の感情ではなく当たり障りの無い答えを返す。
一番愚かな過ちだとも知らずに。
「私は貴女の使い魔よ」
「そう……」
明らかに落胆したルイズの声。
アセルスには何が間違っていたのかが感づけない。
「私は人間よ……」
ルイズの口から出てきたのはアセルスからすれば拒絶にも等しい言葉。
「それは……」
二の句が継げない。
関係ないとでも言うつもりか?
かつて白薔薇に妖魔と人間は相入れないと言っておきながら?
「いつか別れがくるわ……」
死について考えた時、自分も同じ立場だと気付いてしまった。
人間に過ぎない自分はいつかアセルスを置いて、死んでしまうと。
ルイズの宣告は、アセルスが気づきながらも考えようとしなかった問題。
「言ってたわよね、傍にいてくれるだけでいいって」
アセルスは声が出せない。
いくら足掻いても、喉が枯れたような呻き。
「でも、私じゃダメなのよ……」
ルイズの顔も悲壮に満ちていた。
「私はいずれアセルスを孤独にしてしまうわ……」
構わない、わずかな間でも孤独を忘れさせてほしい。
アセルスの頭に引き止める言葉は浮かぶも、口に出来ない。
何故なら、アセルスの本当の願いは自分と永遠を分かち合う存在。
人の身であるルイズには、決して叶えられない願い。
「ねえ……私、どうしたらいいかな?」
離れたくない、しかし種族の違いが二人の前に立ちはだかる。
思わずアセルスはルイズの腕を逃がさないように掴んでしまった。
「痛っ……アセルス…………?」
ルイズがアセルスを呼びかける。
掴んだ腕で華奢なルイズの身体を引き寄せる。
見慣れたはずのアセルスの紅い瞳。
それが今のルイズには、まるで別人に見えた。
「アセルス……怖い……!」
振りほどこうとするが、ルイズの力ではアセルスに適うはずもない。
怯えたルイズに対して、アセルスに過去の光景がフラッシュバックした。
オルロワージュを倒して、妖魔の君となった時。
ジーナを寵姫として迎えた時に残した彼女の言葉。
『アセルス様…………怖い……』
ジーナが怯えていたのは、慣れない針の城に迎えた所為だと思っていた。
ルイズの姿がジーナと重なる。
怯えていたのは自分にではないかと今更気づいた。
「止めないか!」
会話の内容までは知らないが、ただならぬ雰囲気にワルドが間に割って入る。
「とうとう本性を現したな、妖魔め!」
ワルドは杖を突きつけると、ルイズを庇う。
ルイズはワルドの背後でなおも恐怖から震えていた。
自分の何を恐れているのか?
疑問の答えはアセルスには決して紐解けないものだった。
人は常に最善の答えを探し出せるとは限らない。
しかし、限られた選択肢の中から次善策を見つけて生きる。
ジーナが陰鬱な針の城を嫌いながら、ファシナトールから離れられなかったように。
行く宛などなかったし、抜け出すだけの大金がある訳でもない。
結果、彼女は現実を妥協する。
だが、アセルスは城から逃げた。
受け入れねばならないはずの現実から逃げるようにして。
半妖の証明である自分の紫の血。
人間でなくなり、妖魔となった事実。
この時点でもアセルスに残された選択肢はいくつかあった。
例えば半妖として、蔑まれながらも生き続ける。
或いは主であるオルロワージュを討ち滅ぼして、妖魔の血を消し去る。
前者であればジーナがアセルスから離れはしなかった。
後者なら永遠の命を捨て、代わりに平穏な人生を得られたはずだ。
彼女は何の選択も行わず、逃げた。
妖魔として生きる道を選んだのではない。
自分の運命を呪うばかりで、選択を行わずに妖魔に堕ちたのだ。
シエスタの祖父が娘に語ったように、アセルスは運命を言い訳に使ったに過ぎない。
アセルスに残されたのは上級妖魔の血を継いだ事。
ルイズが貴族の自尊心に縋ったように、アセルスはオルロワージュを超えようと確執した。
寵姫の数や他者を支配するという目に見える成果だけを求めて。
決断を先延ばしにした結果、白薔薇を失った。
アセルスは白薔薇を自分勝手な使命感で失った自覚はある。
だが、後悔するだけで省みれなかった。
ジーナも失ってようやく、白薔薇が自分の下から去ったのではと気付かされた。
白薔薇は自分よりあの人を選んだのだろうかと、妬みにも似た感情に支配されるのはアセルスの稚拙さ。
現実を見ようとしなかった代償が押し寄せる。
その時、アセルスが選んだのはいつもと同じ行動だった。
「アセルス!」
ルイズの叫び声は空しく響きわたった。
アセルスはルイズの前から逃げ出したのだ……
ルイズもアセルスも気づいていない。
お互いが相手を求めながら、相手を見ていなかった現実。
ルイズはアセルスの半生を見て、彼女が苦悩を乗り越えた気高き存在だと思っている。
アセルスはルイズが自分で決断した目標、立派な貴族になるまで挫けないのだろうと思いこんでいる。
人の心はそれほど簡単ではないのに。
二人は擦れ違い続ける。
傍にいながらお互いの存在を正しく認識していないのだから。
-------
「どうして……」
残されたルイズがアセルスの消えた闇夜に呟く。
「ルイズ、無事かい?」
ワルドが振り返る。
「どうしたんだい?今にも泣きそうな顔だ」
ワルドがルイズに語りかける。
「分からないのよ、何が正しいのか……」
誇り高いはずの貴族の行動が理解できない。
アセルスも、自分の前から逃げ去ってしまった。
何が間違えていたのか、答えをいくら求めても見いだせない。
「あれが妖魔さ……人を裏切る事など露程も思っていない」
ワルドは吐き捨てるように言い放つ。
「大丈夫、君の傍には僕がずっといるとも」
今にも泣きそうなルイズの肩に手を置いた。
優しい一言にルイズの頬から一滴、涙が溢れ落ちる。
「君は優しすぎる……だから、好きになったんだけどね」
泣いたルイズをそのまま抱きしめる。
張りつめた精神が緩んだ結果、泣き疲れてルイズは眠ってしまった……
-------
次にルイズが目を覚ましたのはベッドの上だった。
昨日割り当てられた自分の部屋なのだろうと、感づいた。
「やあ、起きたかい?」
ワルドの声がした扉の方を振り向く。
ワルドは給仕に暖かい飲み物を運んでもらっている最中だった。
飲み物が入ったポットを暖めてルイズに手渡す。
「落ち着いたかい?」
「ええ、ごめんなさい。みっともない所見せちゃって」
立派な貴族になるという志がルイズにはある。
だが、それをなし得たと思う出来事は一度もなかった。
魔法は未だに扱えないままだし、人に弱音を見せてしまうのはこれが二度目だ。
一度目の時。
その相手だったアセルスは何も言わずに立ち去ってしまった……
また戻ってくるかもしれないが、ルイズの心に暗鬱とした感情が溜まる。
再び会ったとして何を言えばいいのだろうか。
初めて、アセルスが妖魔である事を怖いと思ってしまった。
バルコニーでのアセルスの瞳。
信じていた相手にすら畏怖を与えるだけの重圧があった。
同時に、心に引っかかるのはアセルスが消える前に見せた表情。
既視感を覚えながら、ルイズには感覚の正体が何思い出せない。
「ルイズ」
ワルドの呼びかけにルイズが顔を上げる。
「もう一度言わせてくれ。ルイズ、僕と婚約して欲しい」
事の発端となったワルドのプロポーズ。
「ワルド、それは……」
「分かっている、君がまだ学生なのは。
不安なんだ、君がまた妖魔に殺されるんじゃないかと」
ルイズが否定しようとするより、ワルドが強くルイズの手を握る。
「アセルスは……」
そんな事はしないと言おうとして、言葉に詰まる。
ルイズの心情に構わず、ワルドは手を握り締めたままに捲し立てた。
「何も今すぐにと言う訳じゃない。
学校を卒業してからでもいいし、君が立派な貴族になったと思ってからでもいい。
ただ式をここで挙げたいんだ、二人っきりで」
「こんな所で?」
思わず、率直な意見を口にしてしまう。
「ウェールズ皇太子は勇敢な貴族だ。僕は皇太子に神父役を御願いしたいんだ」
ルイズが沈黙して考える。
ワルドに対しては少なからず好意を抱いている。
突然のプロポーズに困惑しているが、嬉しいと言う気持ちも無い訳ではない。
むしろ、自分なんかでいいのだろうかとすら思える。
グリフォン隊の隊長という立場にあるワルドと、魔法すら未だ使えぬゼロの自分。
「……本当に、私なんかでいいの?」
「君を愛しているんだ」
ワルドはルイズの質問に即座に答えてみせた。
「……うん」
長い沈黙の末に、ルイズが頷いた。
「本当かい!」
喜びにワルドは大声をあげ、ルイズの手を取る。
「ありがとう!必ず君を幸せにしてみせるよ」
ワルドが何気なく言った言葉。
幸せとは何か?願いが適う事だろうか?
アセルスの願いは自分と傍にいる事だった。
ワルドの願いは……婚約?
自分の願いは……何だろうか?
立派な貴族になるという目標は少し違う気がした。
ここまでの疲れが出たのだろうか、カップを戻そうと立ち上がるとふらついてしまう。
そんなルイズの肩をワルドは優しく抱きとめた。
「僕がやるよ、君は明日の式に向けて休んでおくといい」
就寝の挨拶を交わして、ワルドは部屋を立ち去る。
ベッドの上に仰向けになったルイズを月明かりが照らす。
ぼんやりと何も考えられずにいると、ルイズはいつの間にか眠りに落ちていた……
-------
逃げ出したアセルスは何処とも分からない森にいた。
崖下には奈落のように暗く深い、夜空だけが広がっている。
『相棒……』
デルフが呟くが、何と声をかけていいのか分からなかった。
素人玄人問わずに多くの人間に使われてきた記憶は存在する。
大小問わず悩み、苦しむ使い手もいた。
しかし、アセルスのように半妖の悩みを抱えた者はいない。
彼女の心に混沌とした感情が渦巻いているのだけは伝わる。
300年生きたオールド・オスマンがルイズに何も言えなかったように。
デルフも何も言葉をかけられない自分の無力さに、歯があれば歯軋りしただろう。
「ルイズ……」
朧げに彼女の名前を呟く。
初めは好奇心に近かった。
自分を召喚した少女の境遇はあまりに自分と似ていた。
同時に、彼女ならば自らの苦悩を理解してくれるかもしれないと考える。
事実、ルイズは受け入れてくれた。
他人に見せられない弱さも自分の前では見せた。
それでも成長しようとするルイズを見て、美しいと思った。
問題は幾度も悩んだ、種族の差。
加えて、アセルスにとっては新たな苦悩があった。
白薔薇の頃はまだ無自覚だった。
友達や姉のように思っているだけだと自分に言い聞かせた。
『自由になってほしい』
白薔薇が最後に告げた台詞はオルロワージュからの支配の脱却だと思っていた。
『くだらないことに捕らわれるんだな。
姫も言ってたじゃないか、自由になれってね』
だからこそ、他人に指摘された時に動揺する。
──本心では、私は白薔薇を愛していたのだと。
ジーナは生まれて初めてはっきりとアセルスが愛情を抱いた相手だった。
だが、ジーナも失った。
未だ理由が分からないまま、彼女は自らの命を絶った。
アセルスは二度の喪失から誰かを求めるのが恐ろしくなる。
自分を受け入れてくれた存在をまた失うのではないかという不安。
アセルスは気付き始めていた。
いつの間にか、他人を妖力で支配していた事実。
嫌悪していたはずの妖魔の力を当然のように扱い、欲望のままに行動していた。
「だって私は妖魔の君……」
違う、妖魔の力なんていらない。
人としてただ、平穏に暮らしたかった。
誰でもいいから必要とされたかった、妖魔ではなく自分自身として。
だから……
「その為に、ルイズを利用した……」
寂しさや孤独を嫌った。
妖魔として生きると言いながら、人間のように理解者を求めてしまった。
召喚で呼び出された相手、ルイズが鏡写しのように思えたから。
一人の少女を地獄への道連れにしようとする行いだとも気づかず……
『違う!相棒が嬢ちゃんを思う気持ちは本物だったはずだ!』
デルフの制止にも構わず、左の拳を地面に叩きつける。
地面を容易く抉ると同時に、アセルスの皮膚にも微かに血が滲む。
「紫の血……妖魔でも人間でもない血の色……」
見慣れたはずの血の色が、汚らわしく見えた。
デルフを掴むと自分の手に何度も何度も突き立てる。
叶わないと知っていても、自分の血を全て流してしまいたかった。
『よせ!相棒!!こんな事したって……』
妖魔の血がなくなる訳じゃない。
デルフが言葉を引っ込めたのは、アセルスの悲痛な表情を見たからか。
「ルイズは……結婚するって……」
アセルスの言動は、もはや支離滅裂。
それでも、ルイズから告げられた事実を噛み締める。
婚約。
もし自分が人間のままだったなら、誰かと結ばれた人生もあったのだろうか?
そうなればジーナも……そう、ジーナも同じだ。
──ただの人間として。
──平凡だが、幸せな人生を満喫する権利が彼女にもあったはずだ。
──彼女から全てを奪ったのは……
「私だ……私がジーナを……」
アセルスが思い出すのは、針の城でジーナと二人になった時の事。
怯えるジーナにアセルスはこう告げた。
『大丈夫、二人で永遠の宴を楽しもう』
即ちジーナに自らの血を分け与えようとした。
人から妖魔になる。
どれ程の苦悩かは自分が一番知っていたはずなのに。
ジーナさえ傍にいてくれれば良かった。
だが、ジーナは本当に永遠を共にしたかったのか?
彼女はあくまで『人』として自分の傍にいたかっただけではないのか。
永遠を望んだのはアセルスのみ。
自分がジーナに妖魔として生きる事を強要していたと気づく。
──寵姫をガラスの棺に閉じ込めていたオルロワージュのように。
『あの人』と自分が同じ過ちを繰り返していた。
一度陥った悲観的感傷に、己の愚かさを否応なく見せつけられた。
どれほど後悔しようと手遅れだった。
ジーナが目を覚ます事はもう二度とないのだから。
失うのを恐れた続けた結果、人から全てを奪ってしまった。
白薔薇の居場所も……ジーナの命も……ルイズからも全てを奪うだろう。
アセルスは立ち上がると、浮浪者のように彷徨い歩く。
『相棒、どこ行くんだ!城は反対の方向……』
「私はもう、ルイズの傍にいられない」
デルフの叫びに力なく頭を振ると、ルイズの元に戻らない事を伝える。
『何を言ってんだ!?』
「きっと彼女を不幸にするもの……」
ジーナや白薔薇のように。
ルイズも自分の運命に巻き込んでしまうのを恐れた。
いや、既に巻き込んでしまっている。
これ以上、自分に付き合わせてはいけない。
運命に負けた敗残者の自分。
掲げた目標に向けて進むルイズ。
彼女の重りにしかなりえないと思い込んで、アセルスは姿を消した……
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