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第三十一話 『ゆうきのひかり』
「全く、キリが無いわ!!」
命のやり取りが続く最中、ギリギリの精神力でキュルケは額に汗を浮かべたまま思わず心内を溢して悪態をとる。
「えぇ、だけど私達は負けられないのよ…絶対に!!」
叫んだルイズが巻き起こした爆発が今、魔法を唱えようとしていたアルビオンのメイジの身体を直撃し、大きく吹き飛ばす。
「でかしたわ、ルイズ!!」
ルイズの牽制に合わせてキュルケの魔法がアルビオンのメイジの一人を炎で包んだ…
この場に居るアルビオンのメイジ達はウェールズ含め、全員が生命を司る水の力そのものアンドバリの指輪の力で肉体を蘇生され、操られている。現在の彼等は肉の身体を持っているとは言え、本質的には水の精霊に限りなく近く、受けた傷は即座に修復する。
これに対し、通常の攻撃では明確なダメージを与える事は至難の業である。だが、ミント、ルイズ、タバサ、キュルケの四人の中にそれを可能としている人物が二人居た。
それは『火』のメイジであるキュルケと異世界の魔法を持つミントだった…
「再生の限界。」
燃え上がる炎の中、ガクガクと足を振るわせながら尚、立ち上がろうとするアルビオンのメイジが遂に動きを止め崩れ落ちたた事に対してタバサが小さく呟く。その一言の中には僅かではあるが喜色と安堵が籠もっていた…
「ようやく一人ね…キュルケ、あんたまだやれる?」
「あったりまえでしょ、あんたがへばってないのにこの私が参る訳にはいかないもの!」
視線だけを交え口元を緩めた二人、ルイズとキュルケが互いを叱咤しながら呼吸を整え、再び敵へと意識を集中させる。
瞬間、キュルケにアルビオンのメイジが放った特大のエアハンマーの呪文が襲いかかる…しかし、キュルケもルイズもそれを一切気にする事は無かった。
ルイズの役目はその圧倒的速射性を生かした牽制、キュルケはそれに合わせた決定打のだめ押しである。そして道中一番精神力を消耗していたタバサの役目は二人を守る盾となる事…
キュルケの直ぐ脇で空間が音を立てて爆ぜた…
エアハンマー同士の衝突による相殺によって巻き起こった風が赤い髪を煽り、火照った身体と思考をクールダウンさせキュルケは自分が今、信頼する親友に守られているのだという事を実感する。
ルイズも又、今までの闘いの中から学んだ事を確実に生かしていた…仲間を頼る事、例えそれがどんなに地味で情けない事でも自分の出来る事をすると言う事。
大切なのは自分自身の役目と何の為に戦っているのかを見失わない事なのだから。
そして鉄壁の風の盾から起こる牽制の爆発と、水の力そのものを焼き尽くす微熱の炎…
ルイズは虚無に目覚めて以来の本当の闘いを経て確実に成長していた…
ルイズ達が三位一体の連携で奮闘している間、ミントはたった一人でウェールズとアンリエッタという超が付く優秀なトライアングルメイジを相手取り、苦戦を強いられていた。
というのもウェールズにダメージを与えるには『赤』の魔法を使う必要があるのだが、それに対してアンリエッタが所謂「積極的自衛」の為に水の魔法を使用してくる。
例えウェールズに対し、少々炎の効果を与えた所でアンリエッタの水の魔法がある限りウェールズの再生は止まる事は無い。
無論、ミントも直接アンリエッタを必殺の跳び蹴りで先に仕留めようともしたが、これも思いの外鋭いウェールズの剣技と魔法に阻まれてしまっていた。
(こいつ等…)
ミントは思わぬ苦戦に内心で毒づく…即席の筈でありながら生来の気性が故か、ウェールズが前に出て、アンリエッタが守るというその徹底された連携はベルとデューク等とは比べる事が出来ない程に完成している。
「アンリエッタ!!あんた、マジでいい加減に目を覚まさないと城までボコボコにしてから連れ戻すわよ!!」
「ミントさん、私をこのままウェールズ様と行かせて下さい!女王として間違っているのは解っています…ですが、人を本気で愛するというのはこういう事なのです!!」
「~~~~っ!!馬鹿なこと言ってんじゃ無いわよっ!!!」
苛ついた様子でミントが放った魔法『タイフーン』がアンリエッタの防御を貫いて身体を軽く吹き飛ばす。
地面に倒れ伏し、白いドレスを泥土で汚したアンリエッタに直ぐさまウェールズが駆け寄るとアンリエッタをミントから庇うかのようにしながらその身体を引き起こす。
「ミント君、君にはアンの気持ちが分からないようだね…仕方ない、さぁアン、残念だが彼女に僕たちの愛の力を見せるとしよう。」
「うぅ……ごめんなさい、ミントさん…」
アンリエッタの手を取ったウェールズは不敵に言ってアンリエッタの杖と自分の杖を交差させる様に構え、それをミントへと突きつけ呪文の詠唱を始めた。そしてアンリエッタも又ウェールズに合わせて詠唱を行い始める。
その並々ならぬ魔力の集中を察し、流石のミントにも緊張が走る…魔法の阻止もああも密着されては形としてはアンリエッタが半ば人質になっている状況では難しい…
「おい、相棒。」
が、ここでミントの掌の中でこの戦闘の最中、ずっと沈黙を保っていたデルフリンガーが突然ミントを呼んだ。
「……何よ?あんたまさかあの魔法は吸収出来そうにありませんとか言わないわよね?」
「あぁ、それもあるが…あの王子様を操っている水の先住の力…ありゃブリミルも相当苦労した代物でな。」
「でっ?今そんな話して何だっての?」
苛ついた様子でミントはデルフを睨み付ける…
「まぁ、聞けって、だからこそブリミルは大した奴でな、ちゃんと対策用の虚無を用意してやがったのさ!!あの呪文を嬢ちゃんがそいつを唱えさえすればあいつ等を動かす水の力は大人しくなりやがるはずだ。
ただ虚無の魔法ってのは詠唱にやたらと時間が掛かりやがる。だがこの状況じゃその時間を稼ぐのが難しい、何とかできねぇか?」
普段のデルフリンガーの様子から言えば何とも不安が残るがミントはここはこの自称伝説の痴呆症のインテリジェンスソードを信じる事にした。
「へ~、だったらここはあたしが何とかしといてあげるから、あんたはルイズにその事をとっとと伝えて来なさい。」
言うが早いか、デルフの返答も聞かず、ミントは振り向きざまに手にしたデルフリンガーをルイズ達が居る方向へと迷い無く投擲する。
察するに、直に二人の魔法が完成する…ここを凌げるか凌げないか、それは半ば賭けになるであろうという事を思いながらミントはしっかりとそれぞれの手にデュアルハーロウを握り込んで構えを取った。
産み出された竜巻が、木々を巻き上げ破砕する、地を抉って吹き飛ばす…風の絶叫はあらゆる音を遮断し水のうねりが視界を遮る。
アンリエッタとウェールズによって産み出された水という絶対の質量を纏った巨大な竜巻はデルフリンガーを手放したミントの視界の先で、あらん限りの猛威を振るってまるで暴れ狂う大蛇の如く、突き進む。
王族という極限られた血脈の中でのみ可能とされるそれは『風』『風』『風』そして『水』『水』『水』という魔法を組み合わせた『ヘクサゴンスペル』一人のメイジの力では到達できないまさに別次元の破壊力を持った魔法だ。
ミントはゆっくりと迫るその圧倒的な力を前にして、一度深呼吸をするとデュアルハーロウを構えて魔力を込めて引き絞る…
(凄まじい威力ね…でも!!)
瞳を見開いたミントの両手で魔力の螺旋が回転と収束を始める。
それはいつもの虹を連想させる七色では無く、黄昏の落日か夜明けの日の出か?いずれにしろまさに太陽を連想させる様な眩い黄金…その高貴な輝きは金ですら霞みかねぬ程の眩さ…
「あれは…?」
「黄金の結界…だと?」
アンリエッタとウェールズの視線の先、うねる竜巻の先で突如、ミントの身体が黄金の光に包まれたかと思うとまるでミントの周囲を覆うように黄金の結界が現れ、それが竜巻に飲み込まれたのは一瞬の事であった…
『黄金』の魔法 タイプ『コスモス』
それはただ『勇気の光』と呼ばれる魔法…
幼い人形の少年に託された願いと妹から託された力…故に他の色と効果と組み合わさる事の無い異色にして純血の魔法。
ミント自身は否定するだろうがこれは紛う事無い大切な『絆』から生まれたミントにとっての究極の魔法…
全てを吹き飛ばさんとする竜巻の中、黄金の結界勇気の光を纏ったミントはひたすらに魔力を集中させる…
土砂を巻き上げ猛威を振るう竜巻は勇気の光との衝突によって完全にその進行を止め、純粋な魔力と魔力のぶつかり合いへと相成っていた。
「クッ…わたくしは…」
アンリエッタは襲いかかる頭痛と嘔吐感に思わず苦悶の表情を浮かべた…
ウェールズとのまさに絶妙とも言える魔力の制御を行いながら、トライアングルクラスの魔法の継続使用は精神的にも揺らぎと迷いを抱いた今のアンリエッタには実際かなりの無理が掛かっていた。
「耐えるんだアン!僕たちはここで倒れる訳にはいかない!!」
実際アンリエッタは魔法の使いすぎでいつ倒れてもおかしくない現状、今立っていられるのもシンクロしたウェールズの魔力に引きずられるような形であった…
(何…これ?歌声?…ルイズなの?)
圧倒的な破壊すらも意に介さぬ自身の魔法で築かれた絶対防御領域の中、ミントは沸き上がる様な胸の高鳴りと魔力の充実に加え、自分の耳に何故か何処か懐かしくすらある歌のような物が聞こえてきたのを感じた…
それはルイズの唱える虚無の呪文。それに背中を押されるように、尚も輝きを増していくミントの纏う黄金の輝きは余波とも言える魔力の粒子を噴出し、立ち上る竜巻を黄金の光で染め上げていく…
____
唐突にあれ程までに荒れ狂っていた竜巻が跡形も無く消滅したのは互いの『絆の力』がぶつかり合い、しばらくが立ってからだった…
涙雨の如く降りしきる雨の中で既に爪痕深く、凄惨な光景となった湖畔にあるのは倒れ伏してもう動く事が無くなったウェールズとその身体を抱いて泣きはらすアンリエッタ…そしてその様子を黙して直ぐ側で見つめるミント達四人。
ルイズがデルフリンガーの助言を受けて新たに目覚め、使用した魔法『ディスペルマジック』それはあらゆる魔法効果の消去という物だった。
そのルイズの魔法の力を受けたウェールズは心を操っていたアンドバリの呪縛から遂に解放された。だが、それは同時にその魔力で構成されていた肉体の支えを失うと言う事に他ならない…
結局ウェールズは他のアルビオンのメイジと同じく再び冥府へと戻る他無く、アンリエッタはその事を唯々その場で嘆き続けた…愛した男の悲報に嘆き、そして又その男を目の前で失うという事に四人もアンリエッタに掛ける言葉を見つけられないでいた…
その中でも一つ救いがあったとすればウェールズは今際の際に自らの口と意思を持って、アンリエッタと言葉を交わす事が出来た事だろう。
国を背負う事の責任の重さを説き、また最後までアンリエッタを泣かせている自身の不甲斐なさを謝罪し、最後に自分の事を忘れ、その分までしっかりと強く生きて貰いたいと…
それだけをアンリエッタに伝え、ウェールズは覚める事の無い眠りへとついた…
「全く…王女がこれじゃあトリステインの行く末も心配ね。」
泣き疲れたのかそれとも精神力の限界を超えた反動か、既に気を失ったアンリエッタを回収し、王城への帰路についた一行を背に乗せ、シルフィードが空を裂く…
「そうね…でも案外そうでも無いかも知れないわよ、これだけの事があったんだもの…きっと嫌でも変わるわよ、それが良い事だとは私には思えないけど…」
ミントのアンリエッタを指しての問題発言にフォローを入れたのはキュルケだった。だがその視線の先にあるのはアンリエッタの姿では無く、自分達に背を向ける形でシルフィードを操るタバサの背中だった…
ミントの発言にいの一番に食いつきそうなルイズであったが今ルイズは思う所があるのだろうか俯いたまま、アンリエッタの身体を黙って支え続ける…
「そうね…ま、あたしなら散々舐めた真似してくれたレコンキスタを絶対ぶっ潰してやるわ。ってなるんだろうけどね~。」
「まぁ予想通りというか…貴女の場合ならそうなるわよね…」
戯けた調子でキュルケは不機嫌な様子のミントに微笑む。願わくば目の前の眠れる少女が自分の親友と同じように心を閉ざしてしまわない事を願いながら…
「ウェールズ様…」
失ってしまった愛しい人の名を呼ぶ一人の少女の頬を涙雨はただ静かに濡らしていた…
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