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第二十九話 『アンドバリの指輪』
「来るとしたらそろそろかしらね。」
ミント達が水の精霊の依頼を引き受け数刻、ラグドリアン湖には既に夜の蚊帳が降りていた…
そうして襲撃者を待ち、湖畔の森の茂みの影に一行が身を隠したまましばらくの時間が経過した所で精霊の情報通りローブを纏った怪しげな二人の人物が現れた。
一人は小柄な体格で身長を上回る大きな杖を持ち、もう一人は背の高めな女性。ローブを纏っていてもその女性らしい体型で女生と十分に判別できる。
「来たわね…さっきも説明したけどギーシュはワルキューレで陽動、襲撃者の注意を引いてる間にあたしが裏から攻めて一気にけりをつけるわ。」
「任せてくれたまえ、君の為ならば僕はど「それじゃあ、あたしはもう行くわよ。ルイズとモンモランシーはギーシュが役に立たなかったら片方を何とか引きつけて。」」
ミントはギーシュを完全に無視しながらそう言い残すと襲撃者の背後を取る為に音も立てず、軽やかな動きで森の中へと消える…
その場に残されたルイズに対しモンモランシーは不安げな様子で近寄るとルイズのマントをクイクイと引っ張った。
「ねぇ…本当に大丈夫なの?さっきの作戦もはっきり言って無茶苦茶適当じゃ無い?それに…」
モンモランシーはチラリと己の脇に立ち造花の薔薇を手にして格好いいポーズを取っているギーシュをジト目で見つめる。
「モンモランシー、あんたの言いたい事は分かるわ。でも…ま、ここはミントを信じましょう。」
ルイズは言ってぎこちなく笑う…
(そうよ…ミントはあのワルドだって倒したんだから…)
「さて、モンモランシー、ルイズ、ではそろそろ行こうか…我が忠誠と愛を示せ僕のワルキューレ!全てはミント様の為に!!」
ミントが回り込むだけの時間を十分に待ったとみて、立ち上がったギーシュが七体のワルキューレを練金するとワルキューレを二人組の襲撃者へと一気に突撃させる。
そのワルキューレ達の動きはまさに一斉突撃であり、それはギーシュのミントへ良い所を見せたいという非常にわかりやすい単純な思考故であった。
それに素早く反応した二人組の襲撃者はほぼ同時に呪文を唱え、接近するワルキューレをそれぞれ火と風の魔法のコンビネーションで次々と迎え撃った…
積極的に前に出る火のメイジに対し風のメイジが確実な援護を行い、数分の攻防を経て既にワルキューレはその数を4体にまで減らす。
「さてと…そろそろ行こうかしら。」
「お?やっと俺様の出番かい相棒?」
その光景を草陰に隠れたまま、しばらく見守っていたミントはデルフリンガーを握りしめ軽く一声をかけると草陰から素早く飛び出した。
ミントの動きにいち早く気が付いたのは小柄な風のメイジ…風の流れや物音に対する持ち前の敏感さは流石と言えるか、躊躇う事も無く直ぐ様ミントに迎撃のエアハンマーが襲いかかる。
だがミントはそれをデルフリンガーの力で消し去るとより一層素早い踏み込みでローブを纏った風のメイジに肉薄し、デルフリンガーの峰を叩き付ける様に振るう。
「…っく!」
襲撃者の風のメイジから苦悶の声が漏れる…剣は魔法の刃を纏った杖と交錯し、ミントの一刀を辛うじて堪える形となった。
そのままミントが生来の物に加え、ガンダールブの効果による少女とは思えぬ怪力で風のメイジを力でねじ伏せようとする。
溜まらず片膝を付いた様に見せて、自らに掛かる負荷をいなしたメイジは余程実践馴れしているのか…そこから流れるような軽やかな身のこなしでミントの足下を蹴り払い、体勢を崩したミントから地面を転がるようにして距離を取ると体勢を素早く整えてた。
「ぅわっ…と!…結構やるわね…」
___
早鐘のように鳴る心臓の鼓動を沈める為に、咄嗟に雑木林に飛び込んだ風のメイジは何度か小さく息を吸っては吐く…
それは何もさっきの一瞬の攻防の緊張から故と言う訳では無かった。
さっきの一瞬の攻防でミントの視線は上から見下ろす形であった、それ故ローブのフードに隠されたメイジの顔は見えなかった…だが、逆にメイジはミントの顔をしっかりと見た。
(何で…ここに彼女が?)
水の精霊への襲撃者の正体、それは自らの家事情によってガリア王国から任務を受けたタバサとその親友を手伝おうとしているキュルケだったのだ。
まさかそんな任務の最中に突然自分達に襲いかかってきた人間が学園の友人だとは思っていなかったタバサは内心で少なからず動揺した。ここで自分がフードを外し、ミントの名を呼べばお互い戦う必要は無い。
(だけど…)
タバサは又一歩ミントから距離を取って考える…
今、キュルケはワルキューレを相手にしているがドットとトライアングルの力差は明白、彼女の勝ちはもはや時間の問題だ。そしてそう間を置かずキュルケもミント達の正体に気づいてこの闘いは終わるだろう…
(ならば…)
タバサは思考を纏めて自分の導き出した結論に従って再び杖を構えて呪文を紡ぐ…
(私は本気で彼女と戦ってみたい…)
魔力で編まれた風が一度足下で円を描くとタバサは腰を落とす…握りしめられたその杖には今鋭い風の刃が付与されていた…
___
(…それにしてもあの動きと反応の良さ…何か引っかかるのよね~?)
距離を取ったタバサに対してミントは何とも言えぬ違和感を感じつつ、あえて再び距離を詰める事を選んで前進をする。
メイジにとって最悪とも言えるデルフリンガーの吸収能力…普通のメイジならば何かの間違いだろうとそれを断じて再び魔法の迎撃を選ぶだろう。
しかしタバサは違う、実際にデルフリンガーの力を知っているし、仮に知らずともそんな楽観視からの手を打つ愚は犯さない。
「おりゃぁぁっ!!」
「っ…!」
風の刃を纏った杖が大剣となって再びミントの気合いの掛け声と共に振り下ろされたデルフリンガーと鍔競り合う。
力と技、そして早さもやはりミントが上である以上無理はせず、再び斬撃を受け流したタバサは間合いを放すと悟られぬよう小声で詠唱していたウィンディアイシクルを杖先から解放した。
「うわっと!来た来た!!」
自分に襲いかかってくる氷柱に対し、ミントは落ち着いた様子でステップを交えながら、右片手持ちに切り替えたデルフリンガーを前に突き出す形で防御する。
と、同時に空いた左手でデュアルハーロウを纏めて掴むとデルフリンガーをその場に突き立てた。
「予測通りね。食らえっ!!」
ミントが言って、意地の悪い笑顔を浮かべる。刹那、最も発射までの時間が早い『バルカン』の光球が連発してデュアルハーロウから撃ち出された。
ミントは敵と再び競り合いになった場合、メイジである以上、敵は一度後退して魔法を撃ち込んで来るであろう事を予想して動いていた。そこをデルフで凌ぎ、魔法を唱え終えて最大の隙を晒して居るであろう敵を魔法で仕留める。
それがミントが描いた一連の立ち回り、ハルケギニアのメイジは魔法に絶対の自信を持っており、まさか剣で接近戦を挑んできた相手が魔法を使う等とはまず考えないだろう。その心理を完全に逆手に取った立ち回り。
しかし、それは一つの誤算で防がれる事になる。
それは敵対しているメイジが自分の手の内を知っているタバサだったと言う事だ。
ミントの放った魔弾を前に更に一手先を読んでいたタバサはウィンディアイシクルを放った直後から唱えていた魔法『ウォーターシールド』を解き放つ。
(間に合った!!)
次々と青銅をも容易く打ち抜く魔力の弾丸が分厚い水の障壁に着弾し、消滅するのを確認しタバサは内心安堵する。それと同時に、呪文の詠唱を行いながら水の壁の脇から飛び出した。
実際タバサにとってミントを魔法で狙えるのはデルフリンガーを手放している今しか無い。
夜の湖畔の暗さと、水の障壁の目隠し効果によってタバサが飛び出した事にミントが気が付いたのはその油断も相まってか、タバサが『ウインドブレイク』をミントに向かって唱えた直後だった。
「げっ…!!」
気づいた時にはもう遅い。雑木林の細い木々をへし折りながら強烈な風の鎚が軽いミントの身体をまるで紙細工のように大きく吹き飛ばす。
咄嗟の事とはいえ、ミントはデュアルハーロウを交差させ身を守る体勢をとっていた為ダメージ自体は問題はさして無い。
「やばっ!!?」
それでもその衝撃は空を飛べないミントの軽い身体を森の外へと弾き飛ばすには十分過ぎた。そして湖畔の雑木林の外には一体何があるか?
答えは当然、ラグドリアン湖である…
「へぶっ!!がぼっ!!っ、…ぶはあぁぁっ!!!!」
タバサの放ったウィンドブレイクの勢いがついたまま、数度の水面への衝突の後、派手にラグドリアン湖の水面へと叩き付けられたミントはややあって水中から水面へと顔を飛び出させ、大きく息を吸う。
濡れた髪は頬へ張り付き、お気に入りの一張羅はビショビショで不快極まりない…
「あいつ…もう許せない…絶対ボコボコにしてやるわ。」
呪詛のように呟いて黒いオーラを纏った様なミントはフラフラと重い足取りでラグドリアン湖の浅瀬から岸を目指す。
しかしそのミントの怒りは思わぬ人物によって削がれる事となった。
「ミント~、大丈夫~?」
声の主はキュルケで彼女の隣にはルイズ、モンモランシー、ギーシュがそれぞれキュルケ同様ミントに声を送っている。
「キュルケ…何であんたがここに?」
ミントは思わず何故、今ここにキュルケが居るのかと目を丸くして四人の元へと浅瀬の中足を取られながらも駆け寄った。
「私達にも事情があるのよ。そっちの事情はルイズ達から聞いたわよ。あんたも災難ね。」
と、言ってキュルケが笑うと同時にさっきまで戦闘が行われていた雑木林の中からガサガサと音を立ててフードを外したタバサが現れる。その手には先程ミントが落としていたデルフリンガーが握られていた。
「いよ~相棒、この娘っ子にしてやられたな~!」
「タバサ!!まさかさっきのメイジってあんただったの!?」
再び大きな驚きにミントは口元を手で隠す。それもつかの間、さっきの恨みを忘れようも無いミントは凄まじい剣幕でタバサへと詰め寄るとデュアルハーロウはタバサの鼻先にビシリと突きつけた。
「どういうつもりよタバサ!?あんたのせいであたしはビショビショよ!!」
「ごめんなさい、貴女だと気が付かなかった。暗闇な上こちらも必死だった。」
しれと言ってタバサはミントにデルフリンガーを返却して軽く頭を下げる。勿論タバサの言葉は嘘であるが。
タバサのその返答を聞いてミントは非常にふまんげな表情を浮かべた。敵が友人だったのならミントの沸き上がる怒りは誰にぶつけろというのだろうか…これが赤の他人ならば本気で地獄巡りだ…
「ったく…わかったわタバサ。この怒りは後でモンモランシーとギーシュにぶつけるから…でもその代わりあんた達の精霊への襲撃は止めさせてもらうわよ。」
それでもやはりじっと真っ直ぐに自分を見つめる小柄な少女をぶっ飛ばすのも気が引けるミントは妥協案として諸悪の根源へとその矛先を向ける事とした。ミントのその言葉にタバサも何処か満足そうに無言で頷いた。
「ほら、約束道理あんたを襲ってた奴らとは話付けたんだからさっさと秘薬の材料頂戴。」
「うむ、約束だ…我が肉体の一部を授けよう、受け取るが良いガンダールブ。」
再びモンモランシーが水の精霊を呼び出すと先程と同じくモンモランシーの姿を模した水の精霊の指先から虹色の大きな水滴がフワフワと移動してミントの持つ小瓶へと収まった。
「やったわ!!これで解毒薬が作れるわ!!」
「フム…これだけの量の高純度の精霊の涙…末端価格は凄まじい値が付くだろうね…」
「ハ~…一時はどうなるかと思ったけど…何とかなったわね…」
そのハラハラとしたミントと水の精霊のやり取りが無事完了した事で一同に安堵の溜息が漏れる。
これでミントの目的は達成出来た訳ではあるが、だがまだタバサとキュルケの方の問題が残っている。続けてミントは水の精霊にそもそも何故ラグドリアン湖の水かさを上げているのかを訪ねる事にした。
「あ、それとさ~あんた何で湖の水かさなんて増やしてんの?この子の実家とか困ってるのよ…悪いんだけどやめてくんない?」
タバサを指さしたミントの言葉に反応し、水の精霊はしばらくフルフルと身体を震わせて何か考え込んでいるかのような印象を見せた。
「…ふむ…お前とその周りの単なる者たちに話して良いものか我は悩む。しかし、ガンダールブ、お前は我に力を示し、また我と交わした約束を果たした…ならばこそ信用して話しても良いことと我は判断する。」
「そりゃどーも…」
そこまで深刻な様子を見せられてもミントとしては正直困る。まぁ話してくれるならば特に問題はない…厄介事の予感はするが。
佇まいを正すかのように水の精霊はぐねぐねと形を変え、今度はミントの姿を模すと湖の水かさを増やし続ける理由を話し始めた。
「……数えるのも愚かしいほど月が交差する時の間、我が守りし秘宝を、お前たちの同胞が盗んだのだ」
「秘宝!?」
秘宝という言葉にミントの瞳が邪にギラついたのをルイズは見逃さず、そんなミントに半ば呆れつつ視線を向ける…そんな事を気にした様子も無く、水の精霊の語りは続く…
「そうだ。我が暮らす最も濃き水の底から、その秘宝が盗まれたのは、月が三十ほど交差する前の夜の事だ…我はただ、秘法を取り返したいと願い水を増やした。
ゆっくりと水が浸食すれば我が知覚はいずれ秘宝に届くだろう。水が全てを覆い尽くした時、秘宝は我の元に戻る…無論、その暁には水かさは元に戻そう。」
『…………………』
語り終えた水の精霊に対して六人の反応は正に絶句の一言だった。人間の時間の流れではあり得ない行為を精霊はさも当然の如く行おうとしているのだ…
「そういえば、私お父様から聞いた事があるわ、水の精霊が守り続けている秘宝。確か名前はアンドバリの指輪…強力な水の先住の力を秘めた指輪だと。」
「そう、その通りだ。我が秘宝アンドバリの指輪は生命を操る…偽りの生命を死者に与え、心を操るその指輪を持ち出したのはそなた達の同胞たる三人のメイジ…一人はクロムウェルと呼ばれていた。」
続けられる精霊の言葉に一同は再び絶句する。
「クロムウェルって言ったら…アルビオンの…」
「たしか…新皇帝よね?でもタルブ開戦で捉えられてた筈よね?」
ルイズに続けてキュルケも自らの知りうる情報を口に出して整理する…
「そんなの何でも良いわよ!!とにかく、そんな危ない指輪がアルビオンにあるんでしょう?どうせ今回の戦争だって裏でその指輪が使われてるのは間違いないのよ!!」
「ミント…」
まるで自分の事のようにアルビオンの卑怯なやり方に怒りを露わにするミントにルイズは思わず胸を打たれる…
「指輪は絶対にあたしが取り戻すわ!!そんな凄いマジックアイテムがあれば世界征「水の精霊よ、指輪は私達が責任を持ってお返しします。」」
「ふむ…解った。我はそなた達に期待する。では湖の増水も止めるとしよう…」
グッと手を握ったミントの不穏な言葉をルイズは遮って、水の精霊との間に指輪の捜索と返却の約束が成立する。ミントはルイズを不満げに睨んだがルイズは更に険しい剣幕でミントを睨み付ける…
(ったく、折角の遺産級のお宝を…勿体ない…)
まぁミント自身、今現在、身を持って人の心を操る事の愚かさを味わっている以上、アンドバリの指輪は精霊の手の届く所に置いておく事に異論は無いのだが…
その後幾つかの細かい問答やミントの遺産関係の質問、タバサの湖に置ける誓いの伝承の疑問に答えた事で水の精霊はその姿を再び湖の中へと沈めていった…
こうしてようやくミントの惚れ薬問題とタバサの任務である湖の増水問題も全て解決したのであった…
「何にしても…」
ミントは美しい夜の湖畔をぼんやりと眺めると深く溜息をついた…
ギーシュとモンモランシーのせいでここまで来て、結果としてはそこそこに壮大な問題の解決に尽力した訳だが…ミントにとっても未だかつてこれ程馬鹿馬鹿しい理由の冒険は経験した事は無かった…
「…疲れたわ。」
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