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マジシャン ザ ルイズ (12)上天の月光
「ミス・ロングビルがフーケだったとはのぅ………」
トリステイン魔法学院、学院長室。
オスマン、コルベール、そしてフーケを捕らえた四人。
事務机に座るオスマン、事件の解決を喜ぶ一方で、手放しに喜ぶ気にはなれない。
コルベール、右に同じく。
「学院は君達の功績を称えたいと思う、すでにミス・ヴァリエール、ミス・ツェルプストー二名の「シュヴァリエ」の爵位申請を宮廷に提出しておいた。
ミス・タバサは「シュヴァリエ」の称号を持っておるからの、「精霊勲章」の授与を願い出ておいたぞ」
「シュヴァリエ」の称号、自分がただのゼロのルイズではないという、確かな証。
しかし、ルイズのその顔色は冴えない。
「んん?ミス・ヴァリエール、どうしたのかね、何か悩みでもあるのかね?」
「オールド・オスマン。ミスタ・ウルザには何も無いのでしょうか………
今回、フーケのゴーレムを倒したのは彼です。
それに、『禁断の剣』は、その……壊してしまいましたが、あれは『禁断の剣』を使おうとしたフーケから、私達を守ろうとしてのことだと思います」
「うーむ…しかし、彼はのぅ…そのことを抜きにしても、素性が分からんからのぅ」
「でも!ミスタ・ウルザがいなければ私達は……っ!」
「私は構わんよ、ミス・ヴァリエール」
杖を手にした――デルフリンガー、シュペー卿の魔法剣はルイズの部屋――初老の男、ウルザ。
「ほれ、彼もこう申しておるしのぅ」
「む、むぅぅ………」
「そんなことよりも、さあさあ、今日の夜は『フリッグの舞踏会』じゃ、諸君らは支度を済ませねばなるまい。
今日の主役は君達三人じゃ、張り切って着飾るのじゃぞ」
オスマンがパンパンと手を打つ、解散の合図。
「ミスタ・ウルザ、あなたには残って頂きたい」
生徒達三人が下がった院長室。
そこに残るのは、オスマン、コルベール、ウルザ。
ウルザの秘密を知る三人である。
「さて、これでゆっくりと話が出来るじゃろう。
『禁断の剣』、何ゆえ破壊せねばならなかったのじゃ?
罪に問う気は無いが、あれは学院の宝物、理由くらいは教えてもらいたいところじゃな」
「そうです、ミスタ・ウルザ。あれは貴重な資料なのですぞ。それを破壊など………」
フーケを無事捕らえたウルザ。しかし、その際に梅澤の十手を破壊したことが問題視されているのだった。
「あれは『ハルケギニア』とは異なる世界『神河』のアーティファクト。元々、この世界のものではない」
「『神河』?ミスタ・ウルザがいらっしゃった、『ドミナリア』とは違うのですか?」
「『ドミナリア』も『神河』も、そして、この世界『ハルケギニア』も、多次元宇宙『ドミニア』に存在する世界だ」
「ふむ、ミスタ・ウルザ、その『ドミニア』というのは何じゃ?」
―――多次元宇宙世界ドミニア。
独自の世界を持つ次元が、多重に重なり合い存在する、包括的世界である。
そこには『ドミナリア』『神河』を初め、星の数ほどの世界が含まれる。
この幾つもの世界を渡り歩くものこそ、プレインズウォーカーと呼ばれるものである。
「分かりました、ミスタ・ウルザ。
しかし、そのことがなぜ『禁断の剣』破壊と結びつくのですか?」
応えてウルザ、色眼鏡の奥の瞳を閉じて巌の構え。
「あのように単体で強大なアーティファクト、使い続ければ、必ずやあれに悟られることとなる」
「あれ……というと、先日話しておられた『ファイレクシア』のことかの?」
ファイレクシア。遠い昔、ウルザの弟ミシュラを利用し、兄弟戦争の原因となった暗黒の次元ファイレクシア。
機械生命の次元ファイレクシア、侵略者ファイレクシア、憎むべき宿敵ファイレクシア!
その名を聞く、ウルザの相貌が燃え上がる。
「あれは正に『禁断』の剣、使ってはならぬアーティファクトであった。
しかし、確かにあれは、何らかの意志によって、この世界に持ち込まれたものであったはずだ。
誰によって、どのような目的で呼ばれたものか………オールド・オスマン、私はそれを知らなければならない」
プレインズウォーカーとなり、いかほどの時が流れようが、ウルザのその妄執が途絶えることなど、あり得はしない。
「あれは、古くこのトリステイン魔法学院創設時から伝わる宝物、世界の均衡を破壊しかねない剣。
しかし、どのような由来を持ち、誰が持ち込んだのか、その他一切のことは現代に伝わっておらん
残念ながらミスタ・ウルザ、わしは貴方の疑問に答える術を持たぬようじゃ」
「………そう、か」
執念の異邦者、その怨念にも近い濃密な意志の気配が薄れる。
「分からぬ………わしにも分からぬことばかりじゃ。
しかし、もしかしたらミスタ・ウルザがこの世界に呼ばれたことと、そのガンダールヴの印は何か関係しているのかも知れんのぅ………」
夜、アルヴィーズの食堂二階、「フリッグの舞踏会」。
ホール。煌びやかに着飾った少年少女、貴族の子弟達による将来のささやかな予行演習。
テラス。上天にて輝く、闇を照らす双月、それを睨む男、ウルザ。
「おじさま!こんなところにいらしたのね!」
美しく華やか、成熟しつつある女性の気配、力強くしなやかな猛禽類の趣、キュルケ。
「……ふむ、素敵なドレスだミス・キュルケ」
「うふふ、お褒めに与り光栄ですわ。
今夜は折角の舞踏会、こんな寂しいところになんていないで、一緒に中にはいりましょ!」
「………ふふ、しかし私のような年寄りでは君達のような若者には釣り合わんよ」
「そんなこと言わないで、おじさま。おじさまはこの会場のどの男子よりもセクシーでダンディですわ!」
キュルケに手を取られ、ウルザはホールへと導かれる。
ざわめくホール。
丁度誰かが出てくるところのようであった。
「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢……おなぁぁぁぁぁぁりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
「あ!ルイズじゃない!……ふぅん、あの子にしちゃ綺麗じゃない、馬子にも衣装ってとこかしら」
美しく結い上げられた桃色の髪、それにマッチするように選ばれた極上のドレス。
キュルケとは違う、ふくらみかけ、花開く直前の蕾のような生命力の少女。
その視線がウルザを一瞬捉えた。
「あ、おじさまっ!どこへっ!」
背後からキュルケの声、重なるように彼女をダンスに誘う男子生徒の声。
再びテラス、変わらず天を望むウルザ。
それは一つの絵画のような情景。
そして、静止した男に、娘が声をかける。
「ミスタ・ウルザ」
天上の月から視線を落とし、振り返るモノクロの男。
正面には地上の月、ルイズの姿。
「何かね、ミス・ルイズ」
「あなたは、何者?」
アーギヴィーア暦AR021年、若き日のウルザ。
彼はヨーティアの首都クローグにあるラスコー時計店に住み込んでいたが、そこで王女カイラと出会い、結ばれる。
ウルザが21歳の時、クローグでは王女の婿探しの儀が執り行われた。
王女の婿探し、それは「広場の中央にある翡翠の巨像を動かしたものが、王女と結婚できる」というもの。
当初、王女カイラとの結婚に何の魅力も感じなかったウルザであったが、王女の婿に与えられるという宝の山の中に古代文明「スラン」の秘本であるジェイラム秘本が含まれることを知る。
これを知ったウルザは、自らのアーティファクト製作の技術を用い、機械人形を製作する。
機械人形を使い翡翠像を動かし、見事王女の婿の座を射止めるウルザ。
しかし、この時もウルザにカイラへの愛情は無く、カイラもそれを理解していた。
省みられることの無いカイラであったが彼女は良くウルザを愛した。
若き日の幻影。過ぎ去った日々の幻視。
目の前の少女、あの日のカイラを思い出す。
彼女を利用する為に結婚した、カイラを省みることの無い若き日の自分。
4200年の歳月を生きた。
しかし、一体今の自分と過去の自分は何が違うと言うのだろう。
自分はまた、彼女を………
「何かね、ミス・ルイズ」
「あなたは、何者?」
「君を導く者だ」
即答。
「導く?私を?」
「ああ、私は君を更なる高みへと導く者だ」
「あの時のように?私をゼロから救い出してくれるの?」
「その通りだ、私は君の先にあるものを知っている」
月光は何も語らず、ただ照らすのみ。
戻れない、私は進むことしか出来ないのだから
―――ウルザ
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マジシャン ザ ルイズ (12)上天の月光
「ミス・ロングビルがフーケだったとはのぅ………」
トリステイン魔法学院、学院長室。
オスマン、コルベール、そしてフーケを捕らえた四人。
事務机に座るオスマン、事件の解決を喜ぶ一方で、手放しに喜ぶ気にはなれない。
コルベール、右に同じく。
「学院は君達の功績を称えたいと思う、すでにミス・ヴァリエール、ミス・ツェルプストー二名の「シュヴァリエ」の爵位申請を宮廷に提出しておいた。
ミス・タバサは「シュヴァリエ」の称号を持っておるからの、「精霊勲章」の授与を願い出ておいたぞ」
「シュヴァリエ」の称号、自分がただのゼロのルイズではないという、確かな証。
しかし、ルイズのその顔色は冴えない。
「んん?ミス・ヴァリエール、どうしたのかね、何か悩みでもあるのかね?」
「オールド・オスマン。ミスタ・ウルザには何も無いのでしょうか………
今回、フーケのゴーレムを倒したのは彼です。
それに、『禁断の剣』は、その……壊してしまいましたが、あれは『禁断の剣』を使おうとしたフーケから、私達を守ろうとしてのことだと思います」
「うーむ…しかし、彼はのぅ…そのことを抜きにしても、素性が分からんからのぅ」
「でも!ミスタ・ウルザがいなければ私達は……っ!」
「私は構わんよ、ミス・ヴァリエール」
杖を手にした――デルフリンガー、シュペー卿の魔法剣はルイズの部屋――初老の男、ウルザ。
「ほれ、彼もこう申しておるしのぅ」
「む、むぅぅ………」
「そんなことよりも、さあさあ、今日の夜は『フリッグの舞踏会』じゃ、諸君らは支度を済ませねばなるまい。
今日の主役は君達三人じゃ、張り切って着飾るのじゃぞ」
オスマンがパンパンと手を打つ、解散の合図。
「ミスタ・ウルザ、あなたには残って頂きたい」
生徒達三人が下がった院長室。
そこに残るのは、オスマン、コルベール、ウルザ。
ウルザの秘密を知る三人である。
「さて、これでゆっくりと話が出来るじゃろう。
『禁断の剣』、何ゆえ破壊せねばならなかったのじゃ?
罪に問う気は無いが、あれは学院の宝物、理由くらいは教えてもらいたいところじゃな」
「そうです、ミスタ・ウルザ。あれは貴重な資料なのですぞ。それを破壊など………」
フーケを無事捕らえたウルザ。しかし、その際に梅澤の十手を破壊したことが問題視されているのだった。
「あれは『ハルケギニア』とは異なる世界『神河』のアーティファクト。元々、この世界のものではない」
「『神河』?ミスタ・ウルザがいらっしゃった、『ドミナリア』とは違うのですか?」
「『ドミナリア』も『神河』も、そして、この世界『ハルケギニア』も、多次元宇宙『ドミニア』に存在する世界だ」
「ふむ、ミスタ・ウルザ、その『ドミニア』というのは何じゃ?」
―――多次元宇宙世界ドミニア。
独自の世界を持つ次元が、多重に重なり合い存在する、包括的世界である。
そこには『ドミナリア』『神河』を初め、星の数ほどの世界が含まれる。
この幾つもの世界を渡り歩くものこそ、プレインズウォーカーと呼ばれるものである。
「分かりました、ミスタ・ウルザ。
しかし、そのことがなぜ『禁断の剣』破壊と結びつくのですか?」
応えてウルザ、色眼鏡の奥の瞳を閉じて巌の構え。
「あのように単体で強大なアーティファクト、使い続ければ、必ずやあれに悟られることとなる」
「あれ……というと、先日話しておられた『ファイレクシア』のことかの?」
ファイレクシア。遠い昔、ウルザの弟ミシュラを利用し、兄弟戦争の原因となった暗黒の次元ファイレクシア。
機械生命の次元ファイレクシア、侵略者ファイレクシア、憎むべき宿敵ファイレクシア!
その名を聞く、ウルザの相貌が燃え上がる。
「あれは正に『禁断』の剣、使ってはならぬアーティファクトであった。
しかし、確かにあれは、何らかの意志によって、この世界に持ち込まれたものであったはずだ。
誰によって、どのような目的で呼ばれたものか………オールド・オスマン、私はそれを知らなければならない」
プレインズウォーカーとなり、いかほどの時が流れようが、ウルザのその妄執が途絶えることなど、あり得はしない。
「あれは、古くこのトリステイン魔法学院創設時から伝わる宝物、世界の均衡を破壊しかねない剣。
しかし、どのような由来を持ち、誰が持ち込んだのか、その他一切のことは現代に伝わっておらん
残念ながらミスタ・ウルザ、わしは貴方の疑問に答える術を持たぬようじゃ」
「………そう、か」
執念の異邦者、その怨念にも近い濃密な意志の気配が薄れる。
「分からぬ………わしにも分からぬことばかりじゃ。
しかし、もしかしたらミスタ・ウルザがこの世界に呼ばれたことと、そのガンダールヴの印は何か関係しているのかも知れんのぅ………」
夜、アルヴィーズの食堂二階、「フリッグの舞踏会」。
ホール。煌びやかに着飾った少年少女、貴族の子弟達による将来のささやかな予行演習。
テラス。上天にて輝く、闇を照らす双月、それを睨む男、ウルザ。
「おじさま!こんなところにいらしたのね!」
美しく華やか、成熟しつつある女性の気配、力強くしなやかな猛禽類の趣、キュルケ。
「……ふむ、素敵なドレスだミス・キュルケ」
「うふふ、お褒めに与り光栄ですわ。
今夜は折角の舞踏会、こんな寂しいところになんていないで、一緒に中にはいりましょ!」
「………ふふ、しかし私のような年寄りでは君達のような若者には釣り合わんよ」
「そんなこと言わないで、おじさま。おじさまはこの会場のどの男子よりもセクシーでダンディですわ!」
キュルケに手を取られ、ウルザはホールへと導かれる。
ざわめくホール。
丁度誰かが出てくるところのようであった。
「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢……おなぁぁぁぁぁぁりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
「あ!ルイズじゃない!……ふぅん、あの子にしちゃ綺麗じゃない、馬子にも衣装ってとこかしら」
美しく結い上げられた桃色の髪、それにマッチするように選ばれた極上のドレス。
キュルケとは違う、ふくらみかけ、花開く直前の蕾のような生命力の少女。
その視線がウルザを一瞬捉えた。
「あ、おじさまっ!どこへっ!」
背後からキュルケの声、重なるように彼女をダンスに誘う男子生徒の声。
再びテラス、変わらず天を望むウルザ。
それは一つの絵画のような情景。
そして、静止した男に、娘が声をかける。
「ミスタ・ウルザ」
天上の月から視線を落とし、振り返るモノクロの男。
正面には地上の月、ルイズの姿。
「何かね、ミス・ルイズ」
「あなたは、何者?」
アーギヴィーア暦AR021年、若き日のウルザ。
彼はヨーティアの首都クローグにあるラスコー時計店に住み込んでいたが、そこで王女カイラと出会い、結ばれる。
ウルザが21歳の時、クローグでは王女の婿探しの儀が執り行われた。
王女の婿探し、それは「広場の中央にある翡翠の巨像を動かしたものが、王女と結婚できる」というもの。
当初、王女カイラとの結婚に何の魅力も感じなかったウルザであったが、王女の婿に与えられるという宝の山の中に古代文明「スラン」の秘本であるジェイラム秘本が含まれることを知る。
これを知ったウルザは、自らのアーティファクト製作の技術を用い、機械人形を製作する。
機械人形を使い翡翠像を動かし、見事王女の婿の座を射止めるウルザ。
しかし、この時もウルザにカイラへの愛情は無く、カイラもそれを理解していた。
省みられることの無いカイラであったが彼女は良くウルザを愛した。
若き日の幻影。過ぎ去った日々の幻視。
目の前の少女、あの日のカイラを思い出す。
彼女を利用する為に結婚した、カイラを省みることの無い若き日の自分。
4200年の歳月を生きた。
しかし、一体今の自分と過去の自分は何が違うと言うのだろう。
自分はまた、彼女を………
「何かね、ミス・ルイズ」
「あなたは、何者?」
「君を導く者だ」
即答。
「導く?私を?」
「ああ、私は君を更なる高みへと導く者だ」
「あの時のように?私をゼロから救い出してくれるの?」
「その通りだ、私は君の先にあるものを知っている」
月光は何も語らず、ただ照らすのみ。
戻れない、私は進むことしか出来ないのだから
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