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#navi(ゼロのドリフターズ)
扉並ぶ終わりの見えぬ通路で事務に励む"男"――煙草を吸いながら新聞を読んでいる。
その見出しは様々であった。"世界の出来事"を、そこからわかりやすく知る。
"島津豊久ら"の蜂起。"ハンニバル"と"スキピオ"の状況。"十月機関"の活動。
そして・・・・・・"ワイルドバンチ"の行方も――様々な事柄を、新聞という媒体を通して目にする。
――突如、濃密な気配が顕現した。
空間ごとその色を塗り潰して侵食し、無機質な通路を歩いて近付いてくる"少女"。
"男"は新聞を広げたまま、目線を"少女"の瞳へ向ける。
「まだそんなあがきをしているのね"紫"」
紫の領域を侵犯し、"少女"は傍若無人といった様子で無遠慮に前へと立つ。
「あなたがいくら頑張った所で、あなたがいくら『漂流』を送り込んだ所で私の勝ちなの。あなたがいくら頑張っても全ては無駄な事なの」
"少女"は通告する。結果は火を見るより明らか。自明の理。わざわざ言うまでもないことを敢えて。
れは挑発であり、宣戦布告でありながら降伏勧告でもあるようで――
「失せよ"EASY"。間違いは正さねばならない」
相対する紫は、確固たる意志を込めた眼でEASYへ向かって繰り返す。
「失せよEASY。お前の好きにはさせぬ、哀れな女」
EASYの顔が歪んでいく。苛立つ・・・・・・紫の思いに、その眼に。
ギリッと鳴らすように歯噛みした後に、EASYは笑ってやる。紫にもすぐにわかる――絶望が。
「哀れなのはあなたよ、やれるものならやってみなさい」
すると紫が開いていた新聞の一面が、まるで水を零したように滲んでいく。
黒字はさながら生き物のようにのたうち、その形を変えて、また新たな情報を紫へと突きつける。
紫の顔がインクと同じように歪み崩れる。そこには"黒王軍"の勢力拡大と侵攻が書かれていた。
「あなたの漂流物たちなんかで、私の廃棄物たちが倒せるわけがない」
†
「おおー!!」
ブッチは感情のままに叫んだ。キッドはただただ言葉が出なかった。
夜空に浮かぶ双月のコントラストに照らされた浮遊大陸『白の国』アルビオン。
"空"から眺める"空と陸"。そんなスケールの大きさも相まって、圧倒され興奮するしかなかった。
そもそも船で空を飛んでいるというのも感動であった。まさに異世界ということを思い知らされる。
「ちょっと静かにしてよ、恥ずかしいでしょ」
ルイズの言葉も耳に入らず、ブッチは高揚感をそのまま全身で表す。
古ぼけた書を手に持ちながらルイズは嘆息をついた。決して観光目的ではないのだ。
下手すると修羅場が待っているかも知れないと言うのに・・・・・・――
――とはいえ、ブッチとキッドの二人は死線など慣れっこだから関係ないのだろうとも思う。
それにアルビオンの絶景は自分でも舌を巻いてしまう。
シャルロットもマイペースに、本片手にアルビオン大陸を見つめていた。
破壊の杖盗難未遂事件において、直接的にフーケを打倒し、第一の功を為したブッチとキッド。
二人には銃を武器に使うことと、また今後の立ち位置も含めて『銃士隊お預かり特別遊撃銃士お雇い』となった。
そして使い魔の活躍は主人の手柄でもあることから、ルイズは王女直属の女官へと任ぜられた。
シャルロットはその複雑な立場もあり、また銃を扱うことからブッチとキッドと共に特別銃士となる。
アンリエッタの御身を保護し、表向きは打倒のサポートも行った第二の功であるジョゼットとイルククゥには恩賞が送られた。
有事の際に王女の命によって動く特殊銃士。
その正式名の通り、銃士隊に帰属する雇われ銃士である。
されど普段から何もしなくても給金が出るというもので、ブッチとキッドの二人も快く受け入れた。
そしてこの度、ルイズに緊急かつ極秘の事柄として声が掛かり、任務が言い渡された。
『アルビオン王家のウェールズ皇太子に謁見して手紙を渡す』というもの。
日々脅威を増している黒王軍への対抗と、未だ各国へ侵略を続けるオルテ帝国への共同戦線。
その為の同盟と・・・・・・――婚姻。
形としては政略結婚となり・・・・・・本来であればそんなもの、ルイズは友として反対するところであった。
しかして今度のアンリエッタとウェールズに関しては、二人にとって望むべくものとなる。
二人は従兄妹の間柄になるが、密かに愛しあう仲であるからだ。
はっきりとアンリエッタ姫さまから聞いたわけではない。
だが言葉の節々や態度から、そう察することは幼馴染としては容易であった。
ルイズ自身、これ以上に嬉しいことはない。ただし差し当たっての問題がある。
少し前にアンリエッタはウェールズに対して一度、同盟と婚約について申し入れを行ったのだが断られているのだ。
アルビオン王家から直接の説明はなかったが、十中八九政治情勢が関係していることはトリステイン側も掴んでいた。
王家に不満を持つアルビオンの貴族達が、何やら不穏な動きを見せているという。
お互いの感情と国のメリットを考えても、断る理由があるとすればそれしか考えられなかった。
ルイズは手紙を届けると共に真意を確かめ、また説得をお願いされた。
トリステイン国の臣達の中に、内通する背信者がいる可能性が見られるからである。
よって極秘裏に、かつアンリエッタの想いを理解し、それを伝えることが出来るのがルイズしかいなかった。
再度正式な特使が改めて申し込むまでに、任務を完遂する。
そして・・・・・・ルイズと共にシャルロット、さらにキッドとブッチまでついてきた。
二人の友として心配するシャルロット。単純に浮遊大陸アルビオンが見たい行きたいワイルドバンチ。
一人で行こうと思っていたが――戦力として申し分ない三人であるので、正直心強いのも事実である。
アンリエッタからも許可を頂き、正式に四人の極秘特使として向かっている次第であった。
ルイズは"水のルビー"を嵌めた手に握る"始祖の祈祷書"見つめる。
トリステイン王家の伝統。婚姻の儀にて、貴族の中から巫女を選び、詔を詠むというもの。
始祖ブリミルの秘宝にして、トリステイン、アルビオン、旧ガリア、ロマリアにのみ、それぞれ伝わるという国宝。
数いる候補者達の中から・・・・・・始祖の祈祷書を通し『詔を詠む巫女』という大役にわたしを選んで下さった。
そして未だ正式に婚約が決まってない状況で、これから自分達が特使として赴く段階なのに渡してくれたのも――
――わたしがウェールズを必ず説得してくれるだろうという、絶対的な信頼の証なのだ。
同時にアンリエッタの本気が窺える。国と愛を両方貫き守ることが出来る選択なのだから。
アンリエッタ王女殿下――否、結婚後には王位を継ぐだろう。
アンリエッタ女王陛下直属の女官として、トリステインの為にも、絶対に失敗など許されない。
他国に内通し王家に背信する者達を欺く為にも、事は慎重に運ばねばならない。
正式な使者がやって来る前に・・・・・・必ず話をまとめ、スムーズに成立させるのだ。
そうしなければ付け入る隙を与えてしまうことになるのだから――
†
親ウェールズ派の信頼おけるパリーという人物を通して、ウェールズへと接触する。
二日ほどで特に問題もなく都合もつき、王宮内の個室で謁見することと相成った。
無礼があってはならぬことと、本人達も場違いを理解してか、ブッチとキッドは首都ロンディニウム内で観光をしている。
「ウェールズ・テューダーだ、人払いは済んでいるから安心していい」
「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールです」
「シャルロットと申します」
アルビオン皇太子ウェールズ・テューダーは、直接渡された手紙を読み始める。
トリステインで最も高貴な美貌を持つアンリエッタ王女とも釣り合いがとれ、お似合いといえるほどの整った顔立ち。
品行方正で堂々とし、武人としての気質も備えるウェールズは、御前にいるだけルイズは妙な緊張感を覚えてしまう。
以前に送られている申し入れと内容はそこまで変わらないのだろう。
すぐに読み終えたウェールズは早速本題へと入る。
「お待たせした。まずは遠路はるばる、余計な手間を掛けさせてしまって本当にすまないね。
君達のような者を派遣してきた意味もよくわかる。だが・・・・・・やはり"今はまだ"承服しかねる」
「理由をお聞かせ願えますか?」
"今はまだ"と言われればその理由も察することが出来る。
アルビオンの事情も任務を請け負う時に伺っている。
だがしかしそれでもルイズははっきり聞く。その上で説得するのだ。
「恥ずかしい話だが、王家の力不足で貴族達が不満を募らせている。場合によっては内乱にも発展するやも知れない。
そのような者とトリステインの王女が結婚するなど・・・・・・ね。まずは自国内を決着させ、相応しい男となりたいのだ」
「で・・・・・・でも・・・・・・ウェールズさまは、姫さまを――アンリエッタさまを愛していらっしゃるのでしょう!?」
ウェールズの顔が曇る。それは疑問や嫌悪といったものではない。
ある種の憂いを帯びたような色で、どこか儚げにも見えた。
「確かにぼくは彼女が好きだ、愛している。彼女もそうだ。ぼくを愛してくれている。それはお互いわかっている。
だが今のぼくには"資格"がないんだ。アルビオン王家の伝統と格式も恥ずかしいばかり。我々の力不足を痛感している」
そんなウェールズの言葉を黙って聞いているシャルロットの耳が痛い。
ガリアは既に亡国。つまりは6000年に及んだ歴史を守ることが出来なかったことを意味する。
シャルロット自身生まれる前の出来事であるが、王族の一人としてなんとなく居心地の悪さを感じた。
されど同時に内心だけでほくそ笑む。ウェールズがそういったことを重んじるということは好都合だった。
「――だからこそケジメをつけてから同盟を結び、結婚したい」
「そんな・・・・・・でも・・・・・・もし、万が一にも・・・・・・」
ルイズはそれ以上言葉を紡がない――否、紡げなかった。
「ああ、わかるよ。もしかしたら最悪王家が取り潰され、命を落とすような可能性があることも。
そうなれば当然同盟どころの話ではなくなる。国内も混乱するだろう。だから彼女には――」
「姫さまはそんなこと気にしません!! 姫さまは何よりも・・・・・・なに・・・・・・よりも・・・・・・」
ルイズは感情の余りに涙を目尻に溜めながらウェールズを遮る。
まともに恋もしたことない自分は、アンリエッタの心情を真には理解出来ない。
だけどそんな自分が慮るだけでもこれほど胸が苦しい。
だから姫さまはもっと辛い思いをしていらっしゃるに違いないのだ。
「提言よろしいですか?」
そこでようやくシャルロットが割って入る。打算的に、今が頃合だろうと見てのことであった。
「・・・・・・なんだい?」
感極まっているルイズがとりあえず落ち着くまで、ウェールズはシャルロットとの話へ切り替える。
「今すぐに婚約を発表すればこそ、貴族派も抑えられるというものではないでしょうか?」
「それは・・・・・・そうだろうね」
国という単位で見ればデメリットは殆どない、国民の支持も得られるだろう。
貴族派にとっても大義名分が弱まってしまうのが明らかだ。
「しかしアンリエッタに迷惑を掛けるわけには・・・・・・――」
あくまで抑えるだけで根絶するわけではない。そうなれば同盟国には迷惑が掛かる可能性が大いにある。
場合によっては、それをキッカケに貴族派がクーデターに踏み切るようなことも考えられる。
「姫さまは――!!」
ルイズが叫ぶ。語気が強くなり過ぎていたことに今更ハッとして、失礼を働いたことに気付く。
「――姫さまは、そんな・・・・・・迷惑だなんて思いません」
ウェールズは穏やかに笑う。それは慈しむような感じであった。
「アンリエッタは良い友をもっているんだね。こんなにも必死になってくれる・・・・・・」
ウェールズの顔色を窺いながら、シャルロットは続ける。
「ルイズの言う通り、王女殿下――そしてトリステインにとっても、被る迷惑など微々たるものです。
同盟による利点こそ余りあり、御結婚と同盟が行われないことこそ、両国にとって大損害。
日増しにその脅威を増す"黒王軍"。浮遊大陸のアルビオンにとっては、まだ実感のないことと思います。
ですが・・・・・・いつ迫るとも知れぬ危機であり、国の大事。備えるのは早ければ早いに越したことはありません」
シャルロット自身、噂に聞くばかりでしかなく黒王軍への実感はない。
しかしそれでもここは誇張してでも大袈裟に言う。
「それに・・・・・・失礼を承知で申し上げれば、先に仰った理由はいずれも王子殿下のエゴでしかありません。
端的に言えばただの面子でありプライド。アンリエッタ王女に対する思いも、些少ながら御理解は出来ます。
されどここは婚姻を早々に執り行い、貴族派に釘を刺しておくことこそが何よりも肝要であると心得ます」
シャルロットはまるで威圧するように強い想いを双眸に携え、ウェールズを射抜く。
「過ぎた言葉をお許し下さい。しかしそれこそがひいては国の為――そして"民の為"でもあるのです。
王族なればこそ・・・・・・私情を排し、たとえ自己を犠牲にしてでも、民の為に尽くすべきかと存じます」
シャルロットの言葉にウェールズは噛み締めた様子であった。
強めに言った。言う必要があった。ルイズが感情論で攻めて、自分が理屈を説く。
両面で説得する効果。その手応えを感じつつ、シャルロットはさらに畳み掛ける。
「――私は・・・・・・元ガリア王族です」
そう言ってシャルロットは、"指輪"を取り出すと指に嵌めて見せた。
「なんと・・・・・・それは・・・・・・」
「はい、"土のルビー"です。この指輪と、この青い髪色がその証です。
王族であればこそ、手遅れになる前にやらねばならぬことがあるのではないでしょうか。
まして私欲に塗れた貴族が権力欲に取り憑かれ、成り代わって政治を為すなど民の為とはなりません。どうかご再考を」
「・・・・・・お願いします。アルビオン国民の為に。そして何よりもウェールズさまと姫さまの為にも・・・・・・」
ルイズもシャルロットに続いて頭を下げる。
そんな少女達の姿を見て――焦りがあったとはいえ――ウェールズは心の底から己を恥じた。
そう、全てはシャルロット。彼女の言ったように、それらしいことを並べ立てていても――
突き詰めたなら所詮は・・・・・・つまらぬ男の意地に過ぎない。
聞こえは良くても結局のところ、自分の我儘でしかなかったこと・・・・・・――
同盟しようとしまいと、貴族派の脅威は消えない。貴族派が動くとするなら、遅かれ早かれ同じ事だ。
ゆえに必要なこととは。一刻も早く同盟し、万全の状態で迎えるということ。
トリステインには借りを作ってしまうことになるだろうが・・・・・・借りは返すことが出来る。
滅びることなく存続するのであれば、いくらでも返す機会は作れるのだ。
さらに自分自身の素直な気持ち。繕うことない裸の本心を自問する。
(愚かだな・・・・・・、どこか己自身に酔っていた節があったのかも知れない)
シャルロット――元ガリア王族。ガリアを滅ぼした今のオルテ帝国という先例。
彼女は身をもって知っているのだ。王家としての道を奪われた、始祖ブリミルの直系一族として。
愛すべき国民を思えばこそ、改めて考える余地はなかった。
そして――アンリエッタと逆の立場であったならと考えた時、迷いすらも完全に消え失せていた。
それほどまでに彼女を愛しているということに・・・・・・ウェールズは気付かされたのだった――
†
「ブッチ、遅いわよ!!」
「あ~わかってるって、うるせーな。頭に響くからキャンキャン喚くなって」
後続の正式な使者が到着し、アルビオン皇太子ウェールズとトリステイン王女アンリエッタ。
二人の婚約と、二国間の同盟が発表されてから三日ほど。
使者として――さらに巫女として、ウェールズをトリステインまでお連れする為に、ロンディニウムに一行は残っていた。
そして今日、城へと参内する段になって悠長にブッチが準備をしていることを理由にルイズは怒る。
「毎日毎日、夜遊びをしては酒飲んで・・・・・・お・・・・・・女遊びをしてキスマークつけてくるなんて非常識よ!!
そりゃぁ契約の条件として面倒見るとは言ったけど、銃士隊としての給金使い切ってたかりに来るなんていくらなんでも――」
「あーあーすまん。調子に乗り過ぎたことは認めるっつの」
「ちょっとくらい悪びれなさいよね!!」
「・・・・・・確かに、苦言を呈しますが――いい大人が少々だらしないと思いますね」
敢えて感情を微塵にも込めなかったシャルロットがワイルドバンチ二人へ向けた言葉に、キッドがバツが悪そうに謝る。
「・・・・・・すまん」
ブッチと一緒にハメをはずした手前、言い訳の余地もない。
いい年したオッサンが、下手すると娘のような年の頃の少女の家のスネを齧るなんてみっともないにも程があった。
使い魔契約の見返りとはいえ、やはりプライドがないこともない。
苦痛を強いられているのならまだしも、逆に漂流者として保護されている立場でもある。
「お金貯めて牧場の一つや二つ、買えばいいじゃないの」
確か二人とも昔牧場で働いていた筈だ。そう以前に聞いたのを思い出して、ルイズはそう言った。
「ありゃあ俺には向いてねえ」
ブッチは言い切る。諸々あって結局身をやつして最終的に強盗団を結成したのだ。今更なのはキッドも同じ。
「・・・・・・経営者になればいいじゃないですか。オーナーとして誰かに任せればいいんです。悠々自適ですよ」
建設的にシャルロットが提案する。働くのが嫌なら、雇う側になればいい。
「実はな~、俺は牧場買ったことがあるんだよ。だが色々あってな・・・・・・」
ブッチは語る。立地が悪かった。アウトロー連中も流れてくるし、経済的に失敗した。
「――ふ~ん、ならウチの土地を使えばいいじゃない」
するとあっさりとルイズは言ってのけた。ルイズの生家、ラ・ヴァリエール家。
トリステインでも指折りの大名家の持つ富と、権力と、威光と、保有する土地は広大である。
「なん・・・だと・・・?」
「必要な土壌は土魔法で整えられますしね。用心棒は雇ってもいいし、お二人のルーンだけでも楽に出来るかと」
「お? お~・・・・・・」
「ふむ・・・・・・」
ブッチとキッドは顔を見合わせる。
二人の給金を合わせて、貯め続ければやってやれないことはない。
聞けば聞くほどイケそうな話に思えてくる。
「・・・・・・悪くねえな」
「あぁそうだな」
そもそもトリステイン国内に無法者が少ない。お国柄なのか"お世界柄"なのかはわからないが。
いや相対的にそう感じているだけで、元の世界――アメリカ西部開拓時代――が多すぎたのだのかも知れない。
世界全体に目を向ければ情勢は不安定なものの、いずれ安定した時の選択としては申し分ない。
「土地も資金援助も口利きしてあげるわ。その代わり数年間くらいは、一番質の良い物を優先的に買わせて貰うわよ」
それは逆を返せば、安定するまでの固定客になるということ。まさに至れり尽くせり。
「うん」
「うんうん」
ブッチとキッドは互いに何度も頷く。
あまり考えたくはないが、正直いつまでも無茶が出来る年じゃなくなってくる。
気ままに余生を過ごす人生設計。思わぬところで目標が出来た。
「良かったですね、夢が定まったみたいで」
「――って、早く準備して王宮に行かないと!!」
悠長に話し過ぎたと後悔しつつ、ルイズは焦りを全面に叫んだ。
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#navi(ゼロのドリフターズ)
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#navi(ゼロのドリフターズ)
扉並ぶ終わりの見えぬ通路で事務に励む"男"――煙草を吸いながら新聞を読んでいる。
その見出しは様々であった。"世界の出来事"を、そこからわかりやすく知る。
"島津豊久ら"の蜂起。"ハンニバル"と"スキピオ"の状況。"十月機関"の活動。
そして・・・・・・"ワイルドバンチ"の行方も――様々な事柄を、新聞という媒体を通して目にする。
――突如、濃密な気配が顕現した。
空間ごとその色を塗り潰して侵食し、無機質な通路を歩いて近付いてくる"少女"。
"男"は新聞を広げたまま、目線を"少女"の瞳へ向ける。
「まだそんなあがきをしているのね"紫"」
紫の領域を侵犯し、"少女"は傍若無人といった様子で無遠慮に前へと立つ。
「あなたがいくら頑張った所で、あなたがいくら『漂流』を送り込んだ所で私の勝ちなの。あなたがいくら頑張っても全ては無駄な事なの」
"少女"は通告する。結果は火を見るより明らか。自明の理。わざわざ言うまでもないことを敢えて。
それは挑発であり、宣戦布告でありながら降伏勧告でもあるようで――
「失せよ"EASY"。間違いは正さねばならない」
相対する紫は、確固たる意志を込めた眼でEASYへ向かって繰り返す。
「失せよEASY。お前の好きにはさせぬ、哀れな女」
EASYの顔が歪んでいく。苛立つ・・・・・・紫の思いに、その眼に。
ギリッと鳴らすように歯噛みした後に、EASYは笑ってやる。紫にもすぐにわかる――絶望が。
「哀れなのはあなたよ、やれるものならやってみなさい」
すると紫が開いていた新聞の一面が、まるで水を零したように滲んでいく。
黒字はさながら生き物のようにのたうち、その形を変えて、また新たな情報を紫へと突きつける。
紫の顔がインクと同じように歪み崩れる。そこには"黒王軍"の勢力拡大と侵攻が書かれていた。
「あなたの漂流物たちなんかで、私の廃棄物たちが倒せるわけがない」
†
「おおー!!」
ブッチは感情のままに叫んだ。キッドはただただ言葉が出なかった。
夜空に浮かぶ双月のコントラストに照らされた浮遊大陸『白の国』アルビオン。
"空"から眺める"空と陸"。そんなスケールの大きさも相まって、圧倒され興奮するしかなかった。
そもそも船で空を飛んでいるというのも感動であった。まさに異世界ということを思い知らされる。
「ちょっと静かにしてよ、恥ずかしいでしょ」
ルイズの言葉も耳に入らず、ブッチは高揚感をそのまま全身で表す。
古ぼけた書を手に持ちながらルイズは嘆息をついた。決して観光目的ではないのだ。
下手すると修羅場が待っているかも知れないと言うのに・・・・・・――
――とはいえ、ブッチとキッドの二人は死線など慣れっこだから関係ないのだろうとも思う。
それにアルビオンの絶景は自分でも舌を巻いてしまう。
シャルロットもマイペースに、本片手にアルビオン大陸を見つめていた。
破壊の杖盗難未遂事件において、直接的にフーケを打倒し、第一の功を為したブッチとキッド。
二人には銃を武器に使うことと、また今後の立ち位置も含めて『銃士隊お預かり特別遊撃銃士お雇い』となった。
そして使い魔の活躍は主人の手柄でもあることから、ルイズは王女直属の女官へと任ぜられた。
シャルロットはその複雑な立場もあり、また銃を扱うことからブッチとキッドと共に特別銃士となる。
アンリエッタの御身を保護し、表向きは打倒のサポートも行った第二の功であるジョゼットとイルククゥには恩賞が送られた。
有事の際に王女の命によって動く特殊銃士。
その正式名の通り、銃士隊に帰属する雇われ銃士である。
されど普段から何もしなくても給金が出るというもので、ブッチとキッドの二人も快く受け入れた。
そしてこの度、ルイズに緊急かつ極秘の事柄として声が掛かり、任務が言い渡された。
『アルビオン王家のウェールズ皇太子に謁見して手紙を渡す』というもの。
日々脅威を増している黒王軍への対抗と、未だ各国へ侵略を続けるオルテ帝国への共同戦線。
その為の同盟と・・・・・・――婚姻。
形としては政略結婚となり・・・・・・本来であればそんなもの、ルイズは友として反対するところであった。
しかして今度のアンリエッタとウェールズに関しては、二人にとって望むべくものとなる。
二人は従兄妹の間柄になるが、密かに愛しあう仲であるからだ。
はっきりとアンリエッタ姫さまから聞いたわけではない。
だが言葉の節々や態度から、そう察することは幼馴染としては容易であった。
ルイズ自身、これ以上に嬉しいことはない。ただし差し当たっての問題がある。
少し前にアンリエッタはウェールズに対して一度、同盟と婚約について申し入れを行ったのだが断られているのだ。
アルビオン王家から直接の説明はなかったが、十中八九政治情勢が関係していることはトリステイン側も掴んでいた。
王家に不満を持つアルビオンの貴族達が、何やら不穏な動きを見せているという。
お互いの感情と国のメリットを考えても、断る理由があるとすればそれしか考えられなかった。
ルイズは手紙を届けると共に真意を確かめ、また説得をお願いされた。
トリステイン国の臣達の中に、内通する背信者がいる可能性が見られるからである。
よって極秘裏に、かつアンリエッタの想いを理解し、それを伝えることが出来るのがルイズしかいなかった。
再度正式な特使が改めて申し込むまでに、任務を完遂する。
そして・・・・・・ルイズと共にシャルロット、さらにキッドとブッチまでついてきた。
二人の友として心配するシャルロット。単純に浮遊大陸アルビオンが見たい行きたいワイルドバンチ。
一人で行こうと思っていたが――戦力として申し分ない三人であるので、正直心強いのも事実である。
アンリエッタからも許可を頂き、正式に四人の極秘特使として向かっている次第であった。
ルイズは"水のルビー"を嵌めた手に握る"始祖の祈祷書"見つめる。
トリステイン王家の伝統。婚姻の儀にて、貴族の中から巫女を選び、詔を詠むというもの。
始祖ブリミルの秘宝にして、トリステイン、アルビオン、旧ガリア、ロマリアにのみ、それぞれ伝わるという国宝。
数いる候補者達の中から・・・・・・始祖の祈祷書を通し『詔を詠む巫女』という大役にわたしを選んで下さった。
そして未だ正式に婚約が決まってない状況で、これから自分達が特使として赴く段階なのに渡してくれたのも――
――わたしがウェールズを必ず説得してくれるだろうという、絶対的な信頼の証なのだ。
同時にアンリエッタの本気が窺える。国と愛を両方貫き守ることが出来る選択なのだから。
アンリエッタ王女殿下――否、結婚後には王位を継ぐだろう。
アンリエッタ女王陛下直属の女官として、トリステインの為にも、絶対に失敗など許されない。
他国に内通し王家に背信する者達を欺く為にも、事は慎重に運ばねばならない。
正式な使者がやって来る前に・・・・・・必ず話をまとめ、スムーズに成立させるのだ。
そうしなければ付け入る隙を与えてしまうことになるのだから――
†
親ウェールズ派の信頼おけるパリーという人物を通して、ウェールズへと接触する。
二日ほどで特に問題もなく都合もつき、王宮内の個室で謁見することと相成った。
無礼があってはならぬことと、本人達も場違いを理解してか、ブッチとキッドは首都ロンディニウム内で観光をしている。
「ウェールズ・テューダーだ、人払いは済んでいるから安心していい」
「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールです」
「シャルロットと申します」
アルビオン皇太子ウェールズ・テューダーは、直接渡された手紙を読み始める。
トリステインで最も高貴な美貌を持つアンリエッタ王女とも釣り合いがとれ、お似合いといえるほどの整った顔立ち。
品行方正で堂々とし、武人としての気質も備えるウェールズは、御前にいるだけルイズは妙な緊張感を覚えてしまう。
以前に送られている申し入れと内容はそこまで変わらないのだろう。
すぐに読み終えたウェールズは早速本題へと入る。
「お待たせした。まずは遠路はるばる、余計な手間を掛けさせてしまって本当にすまないね。
君達のような者を派遣してきた意味もよくわかる。だが・・・・・・やはり"今はまだ"承服しかねる」
「理由をお聞かせ願えますか?」
"今はまだ"と言われればその理由も察することが出来る。
アルビオンの事情も任務を請け負う時に伺っている。
だがしかしそれでもルイズははっきり聞く。その上で説得するのだ。
「恥ずかしい話だが、王家の力不足で貴族達が不満を募らせている。場合によっては内乱にも発展するやも知れない。
そのような者とトリステインの王女が結婚するなど・・・・・・ね。まずは自国内を決着させ、相応しい男となりたいのだ」
「で・・・・・・でも・・・・・・ウェールズさまは、姫さまを――アンリエッタさまを愛していらっしゃるのでしょう!?」
ウェールズの顔が曇る。それは疑問や嫌悪といったものではない。
ある種の憂いを帯びたような色で、どこか儚げにも見えた。
「確かにぼくは彼女が好きだ、愛している。彼女もそうだ。ぼくを愛してくれている。それはお互いわかっている。
だが今のぼくには"資格"がないんだ。アルビオン王家の伝統と格式も恥ずかしいばかり。我々の力不足を痛感している」
そんなウェールズの言葉を黙って聞いているシャルロットの耳が痛い。
ガリアは既に亡国。つまりは6000年に及んだ歴史を守ることが出来なかったことを意味する。
シャルロット自身生まれる前の出来事であるが、王族の一人としてなんとなく居心地の悪さを感じた。
されど同時に内心だけでほくそ笑む。ウェールズがそういったことを重んじるということは好都合だった。
「――だからこそケジメをつけてから同盟を結び、結婚したい」
「そんな・・・・・・でも・・・・・・もし、万が一にも・・・・・・」
ルイズはそれ以上言葉を紡がない――否、紡げなかった。
「ああ、わかるよ。もしかしたら最悪王家が取り潰され、命を落とすような可能性があることも。
そうなれば当然同盟どころの話ではなくなる。国内も混乱するだろう。だから彼女には――」
「姫さまはそんなこと気にしません!! 姫さまは何よりも・・・・・・なに・・・・・・よりも・・・・・・」
ルイズは感情の余りに涙を目尻に溜めながらウェールズを遮る。
まともに恋もしたことない自分は、アンリエッタの心情を真には理解出来ない。
だけどそんな自分が慮るだけでもこれほど胸が苦しい。
だから姫さまはもっと辛い思いをしていらっしゃるに違いないのだ。
「提言よろしいですか?」
そこでようやくシャルロットが割って入る。打算的に、今が頃合だろうと見てのことであった。
「・・・・・・なんだい?」
感極まっているルイズがとりあえず落ち着くまで、ウェールズはシャルロットとの話へ切り替える。
「今すぐに婚約を発表すればこそ、貴族派も抑えられるというものではないでしょうか?」
「それは・・・・・・そうだろうね」
国という単位で見ればデメリットは殆どない、国民の支持も得られるだろう。
貴族派にとっても大義名分が弱まってしまうのが明らかだ。
「しかしアンリエッタに迷惑を掛けるわけには・・・・・・――」
あくまで抑えるだけで根絶するわけではない。そうなれば同盟国には迷惑が掛かる可能性が大いにある。
場合によっては、それをキッカケに貴族派がクーデターに踏み切るようなことも考えられる。
「姫さまは――!!」
ルイズが叫ぶ。語気が強くなり過ぎていたことに今更ハッとして、失礼を働いたことに気付く。
「――姫さまは、そんな・・・・・・迷惑だなんて思いません」
ウェールズは穏やかに笑う。それは慈しむような感じであった。
「アンリエッタは良い友をもっているんだね。こんなにも必死になってくれる・・・・・・」
ウェールズの顔色を窺いながら、シャルロットは続ける。
「ルイズの言う通り、王女殿下――そしてトリステインにとっても、被る迷惑など微々たるものです。
同盟による利点こそ余りあり、御結婚と同盟が行われないことこそ、両国にとって大損害。
日増しにその脅威を増す"黒王軍"。浮遊大陸のアルビオンにとっては、まだ実感のないことと思います。
ですが・・・・・・いつ迫るとも知れぬ危機であり、国の大事。備えるのは早ければ早いに越したことはありません」
シャルロット自身、噂に聞くばかりでしかなく黒王軍への実感はない。
しかしそれでもここは誇張してでも大袈裟に言う。
「それに・・・・・・失礼を承知で申し上げれば、先に仰った理由はいずれも王子殿下のエゴでしかありません。
端的に言えばただの面子でありプライド。アンリエッタ王女に対する思いも、些少ながら御理解は出来ます。
されどここは婚姻を早々に執り行い、貴族派に釘を刺しておくことこそが何よりも肝要であると心得ます」
シャルロットはまるで威圧するように強い想いを双眸に携え、ウェールズを射抜く。
「過ぎた言葉をお許し下さい。しかしそれこそがひいては国の為――そして"民の為"でもあるのです。
王族なればこそ・・・・・・私情を排し、たとえ自己を犠牲にしてでも、民の為に尽くすべきかと存じます」
シャルロットの言葉にウェールズは噛み締めた様子であった。
強めに言った。言う必要があった。ルイズが感情論で攻めて、自分が理屈を説く。
両面で説得する効果。その手応えを感じつつ、シャルロットはさらに畳み掛ける。
「――私は・・・・・・元ガリア王族です」
そう言ってシャルロットは、"指輪"を取り出すと指に嵌めて見せた。
「なんと・・・・・・それは・・・・・・」
「はい、"土のルビー"です。この指輪と、この青い髪色がその証です。
王族であればこそ、手遅れになる前にやらねばならぬことがあるのではないでしょうか。
まして私欲に塗れた貴族が権力欲に取り憑かれ、成り代わって政治を為すなど民の為とはなりません。どうかご再考を」
「・・・・・・お願いします。アルビオン国民の為に。そして何よりもウェールズさまと姫さまの為にも・・・・・・」
ルイズもシャルロットに続いて頭を下げる。
そんな少女達の姿を見て――焦りがあったとはいえ――ウェールズは心の底から己を恥じた。
そう、全てはシャルロット。彼女の言ったように、それらしいことを並べ立てていても――
突き詰めたなら所詮は・・・・・・つまらぬ男の意地に過ぎない。
聞こえは良くても結局のところ、自分の我儘でしかなかったこと・・・・・・――
同盟しようとしまいと、貴族派の脅威は消えない。貴族派が動くとするなら、遅かれ早かれ同じ事だ。
ゆえに必要なこととは。一刻も早く同盟し、万全の状態で迎えるということ。
トリステインには借りを作ってしまうことになるだろうが・・・・・・借りは返すことが出来る。
滅びることなく存続するのであれば、いくらでも返す機会は作れるのだ。
さらに自分自身の素直な気持ち。繕うことない裸の本心を自問する。
(愚かだな・・・・・・、どこか己自身に酔っていた節があったのかも知れない)
シャルロット――元ガリア王族。ガリアを滅ぼした今のオルテ帝国という先例。
彼女は身をもって知っているのだ。王家としての道を奪われた、始祖ブリミルの直系一族として。
愛すべき国民を思えばこそ、改めて考える余地はなかった。
そして――アンリエッタと逆の立場であったならと考えた時、迷いすらも完全に消え失せていた。
それほどまでに彼女を愛しているということに・・・・・・ウェールズは気付かされたのだった――
†
「ブッチ、遅いわよ!!」
「あ~わかってるって、うるせーな。頭に響くからキャンキャン喚くなって」
後続の正式な使者が到着し、アルビオン皇太子ウェールズとトリステイン王女アンリエッタ。
二人の婚約と、二国間の同盟が発表されてから三日ほど。
使者として――さらに巫女として、ウェールズをトリステインまでお連れする為に、ロンディニウムに一行は残っていた。
そして今日、城へと参内する段になって悠長にブッチが準備をしていることを理由にルイズは怒る。
「毎日毎日、夜遊びをしては酒飲んで・・・・・・お・・・・・・女遊びをしてキスマークつけてくるなんて非常識よ!!
そりゃぁ契約の条件として面倒見るとは言ったけど、銃士隊としての給金使い切ってたかりに来るなんていくらなんでも――」
「あーあーすまん。調子に乗り過ぎたことは認めるっつの」
「ちょっとくらい悪びれなさいよね!!」
「・・・・・・確かに、苦言を呈しますが――いい大人が少々だらしないと思いますね」
敢えて感情を微塵にも込めなかったシャルロットがワイルドバンチ二人へ向けた言葉に、キッドがバツが悪そうに謝る。
「・・・・・・すまん」
ブッチと一緒にハメをはずした手前、言い訳の余地もない。
いい年したオッサンが、下手すると娘のような年の頃の少女の家のスネを齧るなんてみっともないにも程があった。
使い魔契約の見返りとはいえ、やはりプライドがないこともない。
苦痛を強いられているのならまだしも、逆に漂流者として保護されている立場でもある。
「お金貯めて牧場の一つや二つ、買えばいいじゃないの」
確か二人とも昔牧場で働いていた筈だ。そう以前に聞いたのを思い出して、ルイズはそう言った。
「ありゃあ俺には向いてねえ」
ブッチは言い切る。諸々あって結局身をやつして最終的に強盗団を結成したのだ。今更なのはキッドも同じ。
「・・・・・・経営者になればいいじゃないですか。オーナーとして誰かに任せればいいんです。悠々自適ですよ」
建設的にシャルロットが提案する。働くのが嫌なら、雇う側になればいい。
「実はな~、俺は牧場買ったことがあるんだよ。だが色々あってな・・・・・・」
ブッチは語る。立地が悪かった。アウトロー連中も流れてくるし、経済的に失敗した。
「――ふ~ん、ならウチの土地を使えばいいじゃない」
するとあっさりとルイズは言ってのけた。ルイズの生家、ラ・ヴァリエール家。
トリステインでも指折りの大名家の持つ富と、権力と、威光と、保有する土地は広大である。
「なん・・・だと・・・?」
「必要な土壌は土魔法で整えられますしね。用心棒は雇ってもいいし、お二人のルーンだけでも楽に出来るかと」
「お? お~・・・・・・」
「ふむ・・・・・・」
ブッチとキッドは顔を見合わせる。
二人の給金を合わせて、貯め続ければやってやれないことはない。
聞けば聞くほどイケそうな話に思えてくる。
「・・・・・・悪くねえな」
「あぁそうだな」
そもそもトリステイン国内に無法者が少ない。お国柄なのか"お世界柄"なのかはわからないが。
いや相対的にそう感じているだけで、元の世界――アメリカ西部開拓時代――が多すぎたのだのかも知れない。
世界全体に目を向ければ情勢は不安定なものの、いずれ安定した時の選択としては申し分ない。
「土地も資金援助も口利きしてあげるわ。その代わり数年間くらいは、一番質の良い物を優先的に買わせて貰うわよ」
それは逆を返せば、安定するまでの固定客になるということ。まさに至れり尽くせり。
「うん」
「うんうん」
ブッチとキッドは互いに何度も頷く。
あまり考えたくはないが、正直いつまでも無茶が出来る年じゃなくなってくる。
気ままに余生を過ごす人生設計。思わぬところで目標が出来た。
「良かったですね、夢が定まったみたいで」
「――って、早く準備して王宮に行かないと!!」
悠長に話し過ぎたと後悔しつつ、ルイズは焦りを全面に叫んだ。
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