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「デュープリズムゼロ-14」(2012/03/28 (水) 13:08:33) の最新版変更点
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#navi(デュープリズムゼロ)
第十四話『アルビオンへ行こう。』
涙ながらに語ったアンリエッタの抱える悩み。
それは現在アルビオンで行われている貴族派レコンキスタと王党派の戦争の大きな流れの中での政略結婚とトリステイン、ゲルマニアの軍事同盟締結、そしてその政略結婚の障害になりうるアンリエッタのウェールズへ宛てた手紙の存在。
何とかして回収しようにも自分の周りにはそれを任せられる様な人物は居らず近く王党派は壊滅するだろう…
そこまでを話し、アンリエッタは絶望に暮れる様に両手で顔を覆い泣き崩れた。
「姫様、私にお任せを!!その件の手紙、わたくしがアルビオンに回収に赴きます。
姫様の為ならばこのルイズ・フランソワーズ、例え竜のアギトの中であろうが地獄の釜の中であろうと厭いません」
熱のこもった口調でルイズは言ってアンリエッタの手を強く握る。
「ルイズ、私の為に…あぁ、これぞ真の忠誠と友情です。」
アンリエッタはルイズのその手を握り返し涙を拭う。その仕草はまさに悲劇の物語の姫君の物で演劇のワンシーンの様であった。
手を取り合う二人の様子にミントは顎に手を当て、しばし思考に耽る…
ミント自身いずれ近い内に何とかしてアルビオンには赴くつもりでいた。
本から得た情報や様々な人物に聞いた話等からアルビオンがどういう国なのかは既に知っている。浮遊大陸など宝の匂いがプンプンしているではないか…
上手く立ち回れば滅んでいくアルビオン王家からアンリエッタの名の下に始祖の秘宝を譲り受ける事も出来るかも知れない。
しかしかといってアルビオンに行く気満々のルイズの唯のついでで自分もついて行く等とここで言ってしまうのは勿体ない…
なるべくアンリエッタへと恩を着せつつ好感を上げ、尚且つ自分にとってのアルビオン王家への架け橋にする。
ミントはそこまでを瞬時に考え、アンリエッタとルイズに対しわざとらしい位に手を広げて大げさなリアクションの演技をして見せた。
「あぁ…何て可哀想なのアンリエッタ!!あなたの気持ちは同じ王家に生まれた乙女として痛い程に解るわ。 任せて、あなたのお友達としてあたしもルイズと一緒に行くわ。」
ミントのその言葉にルイズとアンリエッタは特にルイズは心底驚いた。
まさかあのミントがアンリエッタが可哀想だという理由だけで自分と共に行くと言ってくれるとは思わなかったから…
「ミント殿下…しかしあなたは…」
異国の王女であるミントに行かせる訳にはいかないと駆け寄ってくるアンリエッタを受け止めてミントはわざとらしく頭を振った…
「ううん…良いのよ、心配しないでアンリエッタ…私達に任せて頂戴、必ず手紙取り戻してあげるから。(でっかい貸し一つよ♪簡単には返せないからね!!)」
「ミント……ありがとう。」
「気にしないでルイズ、あたし達なんだかんだ言ったってパートナーじゃない。(あんたに何かあったらあたし帰れなくなるじゃない。)」
今度は感動に瞳を潤ませるルイズの肩に手を置きながら言って、ミントは視線をそっと泳がせる…
(にしてもちょろいわね~…)
ここでルイズを直視できる程ミントも腐ってはいない…筈である。
「その任、どうかこのわたくしにも御命じ下さい。」
と、ここで突然ルイズの部屋に声が響くと扉がバンと音を立てて開かれ、一人の人物が颯爽と現れた。
薔薇を携えた金髪の美少年、人呼んで『花咲く薔薇の君-青銅のギー…』
「ゲフゥッ!!」
ギーシュが扉を開けポーズを決めた次の瞬間、無言のままゆっくり歩み寄ったミントの情け容赦無い非情の拳がギーシュの鳩尾に突き刺さる…
「何であんたがここに居るのよ?」
ミントはじと目で見下ろしながらぐったりとしたギーシュを床に転がしその背中をグリグリと踏みつけながら問う。
「うぐっ、やめてくれたまえミス…いや、ミント王女殿下。」
「…あたしが王女って知ってるって事はあんたずっと外で盗み聞きしてたのね…これって重罪よね。どうするアンリエッタ?どうされたいギーシュ?」
ミントのそのサディスティックな物言いにギーシュの顔が青くなる。
「いや僕は、お一人で出歩かれていた姫殿下を見つけたから影ながら御守りする為にですねぇ!それよりもアンリエッタ姫殿下!!その手紙の回収という困難な任務、是非ともこのギーシュ・ド・グラモンにも仰せつかい下さい!!」
ミントの足の下からゴキブリの様に這い出し、アンリエッタの前に跪いたギーシュは必死に部屋を覗いていた件を弁明しながらルイズ達の任務への同行を希望した。
「グラモン…もしやあなたはグラモン元帥の?」
「息子でございます。」
「あなたもわたくしの力になって頂けるの?」
「姫殿下の力になれるのであればそれはもう望外の幸せにございます。」
「ありがとう。あなたも父上に良く似て素晴らしい貴族なのですね。」
恭しく言ったギーシュにアンリエッタが微笑む。これでどうやらすっかり舞い上がっているギーシュがルイズ、ミントと共にアルビオンに向かう事が確定したようだ。
「それでは明日の朝、アルビオンに向かって出発するといたします。」
「お願いしますルイズ・フランソワーズ、ウェールズ皇太子は、アルビオンのニューカッスル付近に陣を構えていると聞き及びます。書を預けます、それをウェールズ皇太子に届けて下さい。」
「了解いたしました。以前、姉達とアルビオンを旅した事がございますゆえ、地理には明るいかと存じます。」
アンリエッタはそう説明するとルイズの机に座り、さらさらと手紙をしたためた。
そしてアンリエッタは自分が書きあげた手紙を思い悩む様にじっと見つめて、悲しげに首を振る。
その後アンリエッタは少し顔を赤らめると、決心したように頷き、末尾に一文付け加えた。
それから小さな声で呟く。
「始祖ブリミルよ……この自分勝手な姫をお許し下さい。でも、国を憂いても、わたくしはやはり、この一文を書かざるをえないのです……自分の気持ちに、嘘をつくことはできないのです……」
アンリエッタのその手紙への憂いた態度や仕草にルイズはまるでその手紙が恋文であるかの様な印象を受けた…
そしてアンリエッタの手ずから手紙に魔法で封蝋を施されトリステインの象徴である白百合の紋章が刻まれる…
「貴方達の双肩にトリステインの未来は掛かっています…どうか始祖の加護があらん事を…それと御守り代わりにこれを預けます。身の証明になる事でしょうし路銀の足しに必要であれば売り払って下さい。」
アンリエッタからルイズの手に渡されたのは手紙と一つの青い宝石の付いた指輪…
それを手にした瞬間、ルイズの目は大きく見開かれた。
「まさかこれは水のルビー!?」
ルイズのその言葉にミントがピクリと反応し、他の三人に気取られぬ様その口角をつり上げた。
そしてアンリエッタは今度はミントへと向き直る。
「ミント殿下、ルイズの事と此度の事あなたには本当に多大なご迷惑をお掛けします。
それでもあなたが会って間もないわたくしの事を友達と言ってくれた事本当に嬉しく思います。
無事に戻ってこられましたら是非とも一度ゆっくりお話をさせて下さい。
そして今後のあなたの帰還への助力をわたくしもお友達として惜しみませんわ。」
「えぇ任せてアンリエッタ。」
熱っぽい口調で語るアンリエッタに対してミントは込み上げる微笑みを押さえ込み唯頷く。
トリステイン王女の全幅の信頼…まさにミントにとっては最高の報酬だ…
___翌朝 正門前
翌朝、霧深い早朝の中、早々にルイズ達はアルビオンへ向かう為の馬の用意を済ませ、出発前の最終確認を行っていた。
「所で二人とも、アルビオンに僕の使い魔も連れて行きたいんだが構わないかな?」
ギーシュが二人に問う。
因みに既にギーシュはミントから王女である事を秘匿する旨と以前の様に接する様にと命令されている。無論絶対服従を身体にも言い聞かせてある。
「あんたの使い魔ってたしかジャイアントモールでしょ?これから馬でアルビオンに行くって事あんた解ってるの?」
ルイズが呆れた様にギーシュに言うとギーシュは地面を足で数度叩いた。
「心配ないさ、僕のヴェルダンデは馬並みのスピードで地面を掘り進める。それにこんなにも愛らしい姿の使い魔と離ればなれになるなんて僕には耐えられないよ。」
合図に反応して地面を突き破り現れたのは小熊の様な体躯をした大きなモグラ。
そのモグラのつぶらな瞳を見つめて感極まったのかギーシュは熱い抱擁を交わす…
「ま、足引っ張らないならあたしは何でも良いわよ。」
興味なさげに言ってミントはギーシュに用意させた自分の馬にひょいと跨がる。足手まといな様ならば最悪ギーシュもヴェルダンデも道中囮にでもして置いていけば良い。
と、突然ギーシュにされるがままだったヴェルダンデが何故かルイズに猛然と襲いかかりその小柄な身体を押さえつけて覆い被さる。
「キャア!!ちょっと何よこのモグラ!放しな…さいっ!!」
「あはははは、懐かれてるじゃ無いルイズ。」
「笑ってないで助けなさいよっ!!」
突然襲いかかったヴェルダンデの鼻先がルイズの身体をまさぐる度、ルイズが身をよじらせて藻掻く。その様子を見てミントは他人事なので愉快そうに笑っていた。
ここで突然のヴェルダンデの奇行に首を捻っていたギーシュはようやくヴェルダンデが何をしているのかを検討付ける。
「成る程…ヴェルダンデは君が持っている水のルビーに反応しているんだ。彼は珍しい鉱物や宝石が大好きでね、まさに土のメイジである僕に相応しい使い魔なのさ。」
鼻高々にそう語るギーシュにルイズの批難の視線が飛ばされる。
「いいから早く助けなさいよっ!!姫様から預かった大切な指輪なのよ。」
そうこうしているとミントは霧の向こうから気配を感じて、軽い警戒態勢へと素早く移った。
次の瞬間、霧を切り裂き風の大砲の様な突風がルイズにのし掛かっていたヴェルダンデを吹き飛ばした。
「誰だっ!?」
杖を抜いて風が放たれた方へ油断無く構えたギーシュ。
程なくして、こちらにゆっくりと歩いて来ているのか朝霧の中に一人の人物のシルエットが浮かび上がってきた。
「済まない、婚約者が襲われていたのでな…あぁ、心配しなくて良い私は君達の任務の同行者…」
被っていた鍔の広い帽子を外してようやくはっきりと姿を見せた男にルイズの表情は驚きに染まり、ミントも目を丸くした。
そう、その男はミントが昨日見たルイズの視線の先に居たアンリエッタの護衛に付いていた貴族だった。
「魔法衛士隊、グリフォン隊隊長ジャン・ジャック・フランシス・ワルドだ。昨夜護衛として君達への随行を姫様から仰せつかった…よろしく頼む。」
ワルドと名乗った魔法衛士隊の制服を纏ったメイジは流れる様な動きで三人に向けて一礼する。
驚きに呆然としているルイズ…
「ルイズ、久しぶりだね僕のルイズ。」
ワルドはそんなルイズに駆け寄ると爽やかな笑顔でその身体を抱き上げて再会の喜びを表現する様にそのままクルリと一回転した。
「ワルド様…」
「ハハハッ、相変わらず君は羽の様に軽いな。さて、ルイズ彼等を紹介してくれたまえ。」
「あ、はい。クラスメートのギーシュと…使い魔のミントです。」
顔を赤くしたままルイズがワルドに二人を紹介するとワルドは途端に綻ばせていた表情を引き締めてミントの前に膝を突いた…
「アンリエッタ姫殿下から昨夜お話はお伺いしておりますミント殿下。何においてもあなたとルイズの御身は守り抜くようにと。」
「ふーん、婚約者とは道理で…ルイズもすみに置けないわね~。よろしく、ワルド。それと別にそんな風に畏まらなくても良いわ、今あたしは唯のルイズの使い魔だからね。」
両手を広げ肩を窄める仕草をとってワルドに畏まった態度を崩す様にミントは促す…
ミントの居た世界から比べればハルケギニアの貴族達は少々こういった礼儀的な物にやはりこだわりがありすぎる気がする。
その後ギーシュとも挨拶を交わしたワルドが自分のグリフォンを呼び寄せ、ルイズと共にその背に跨がると一行はアルビオンへと向かう為港町ラ・ロシェールへと魔法学園を出発した。
「行ってしまいましたね…どうか彼等に始祖の加護があらん事を…あなたは祈らないのですか?」
学院長室の窓からその様子を見ていたアンリエッタが手を組み祈りを捧げる。
その隣で部屋の主オールドオスマンはのんきに鼻毛を抜いていた。
「見ての通りこの老いぼれは鼻毛を抜いておりますのでな……それに既に杖は振られておりますでの。
まして彼女は始祖の加護など無くとも自らの力だけで必ずやあらゆる苦難を乗り越えるでしょうからな。
土くれのフーケすら圧倒するメイジでありながらガンダー………ゲフンゲフン……全く、勇ましい王女です。」
そんなオスマンの言葉に思う所あってアンリエッタは再び強く祈りを捧げる…
(私にもミントさんの様な強さがあったなら…)
「ねえ、ちょっと飛ばしすぎじゃないかしら?ミントとギーシュが大分離れちゃってるわ。」
ワルドのグリフォンの前へ跨っているルイズが後ろを見やりそう言った。既にルイズは道中ワルドと雑談を交わすうちに口調は昔の親しかったものに戻っていた。
「ラ・ロシェールの港町まで止まらずに行きたいんだ。へばったなら先にいけば良い。行き先は分かっているからね。」
「そうだけど……ミントの護衛もあなたの任務でしょう?」
「それなのだがねルイズ、一目見て解ったが彼女はどうやら相当の実力者なのだろう?
それに君の話を聞けば随分と豪放な性格の様だし…トリステインじゃかなり珍しいが正直護衛などを煩わしく感じるタイプの人間なんじゃ無いかな?
そう君の母上カリーヌ殿の様に…」
ワルドのその言葉、特に母カリーヌの部分にルイズは一瞬呼吸が止まる。
「だが…確かに君の言う通りだな。僕は君との時間に少し浮かれていた様だ、少し戻るとしよう。」
そう言うとワルドはグリフォンの手綱を引いて来た道をゆっくりと引き返し始めた。
「あいつ等、人を置いていちゃつきながらどんどん先に行って~…こっちのペースも考えろってのよ!!」
「日が落ちるまでにラ・ロシェールに着きたいのは解るけど流石に半日以上走りっぱなしだからね………僕も君のその意見には完全に同意だよ。」
切り立った崖に挟まれたラ・ロシェールへの街道を併走する二頭の馬のそれぞれの上でミントとギーシュが上空を飛ぶグリフォンを恨めしげに見つめて愚痴を漏らす。
「しかし…やはり君が王女だったなんて今でも信じられないよ。」
「へぇ?あたしが王女っぽく無いとでも?」
ギーシュの軽口にミントはじと目を送る。
「うっ…」
思わずミントのプレッシャーにギーシュは言葉に詰まってしまう…
が、ここでミントの背中に大人しく背負われていたデルフリンガーが鞘から勝手に飛び出してカチャカチャと鍔を鳴らした。
「当たり前だろうが、俺様だって昨日聞かされたときにゃ驚いたぜ!!どこの世界に相棒みたいなお姫さんが居るかってんだよ。なぁ、坊主お前もそう思うだろ?」
極小さくギーシュが頷いたのを見てミントは溜息混じりにこのお喋りなインテリジェンスソードに文句の一つでも言ってやろうとその柄に手を伸ばした…
「ったく、あんた達ねぇ…」
そこまで言った瞬間、突然ミントの目の前を一本の弓矢が掠めた。続いて幾つもの矢と松明が上空、崖の上から二人に目掛けて降り注いで来た。
「敵っ?」
ミントは素早く反応するとデルフで自分とギーシュに飛来する矢をたたき落として暴れる馬から飛び降り、崖の上を睨む…
ギーシュもどうやら驚いた馬に振り落とされた程度で怪我らしい怪我はしていない様で既に土を練金し即席の大盾を作り矢を凌いでいる。
「盗賊の類いだろう…これは中々不味い状態だね。どうするミント君?」
忌々しそうに言ってギーシュはミントへと視線を移す。
するとミントはデルフを鞘に収め、デュアルハーロウを握り口元を歪めていた…
ギーシュはミントが何をしようとしているのかを悟る…
「どうする?そんなの決まってるじゃ無い。あんな奴ら ボ コ ボ コ よっ!!」
(やっぱりか…)
ミントは崖へと走りながら素早く魔法を放つと魔力の結晶体が4つミントの周囲に浮遊する、そのままその結晶体はミントの周りを旋回する様に漂い始めた。
街道を挟む崖も決してルイズやタバサの胸の様な絶壁と言う訳では無い、足場となる傾斜と起伏は十分にある。
ガンダールブの力に加えてかつて伝説の怪炎竜ウィーラーフの住まうあの怒りの山を何度も踏破した事のあるミントにはこんな崖を登るなど大した事は無い。
問題となる盗賊の放つ弓矢もミントの周囲に展開された自動迎撃魔法サテライトから撃ち出されるバルカンの様な魔力の弾丸によって尽く打ち落とされ、ミントには届く事は無い。
そしてトントンと器用に足場に飛び移りながらミントは崖をあっという間に登っていく。
その最中、何故か上に居る盗賊達の悲鳴が聞こえてきた事にミントは疑問を抱いたが崖を上り切ってみればその理由はすぐに分かった。
「またあの二人か………随分暇人ね…」
風に吹き飛ばされ、炎に焼かれて満身創痍の盗賊達、そしてその上空にはやはりと言うべきか見慣れた青い一匹の風龍とその背にはタバサとキュルケが居た…
#navi(デュープリズムゼロ)
#navi(デュープリズムゼロ)
第十四話『アルビオンへ行こう。』
涙ながらに語ったアンリエッタの抱える悩み。
それは現在アルビオンで行われている貴族派レコンキスタと王党派の戦争の大きな流れの中での政略結婚とトリステイン、ゲルマニアの軍事同盟締結、そしてその政略結婚の障害になりうるアンリエッタのウェールズへ宛てた手紙の存在。
何とかして回収しようにも自分の周りにはそれを任せられる様な人物は居らず近く王党派は壊滅するだろう…
そこまでを話し、アンリエッタは絶望に暮れる様に両手で顔を覆い泣き崩れた。
「姫様、私にお任せを!!その件の手紙、わたくしがアルビオンに回収に赴きます。
姫様の為ならばこのルイズ・フランソワーズ、例え竜のアギトの中であろうが地獄の釜の中であろうと厭いません」
熱のこもった口調でルイズは言ってアンリエッタの手を強く握る。
「ルイズ、私の為に…あぁ、これぞ真の忠誠と友情です。」
アンリエッタはルイズのその手を握り返し涙を拭う。その仕草はまさに悲劇の物語の姫君の物で演劇のワンシーンの様であった。
手を取り合う二人の様子にミントは顎に手を当て、しばし思考に耽る…
ミント自身いずれ近い内に何とかしてアルビオンには赴くつもりでいた。
本から得た情報や様々な人物に聞いた話等からアルビオンがどういう国なのかは既に知っている。浮遊大陸など宝の匂いがプンプンしているではないか…
上手く立ち回れば滅んでいくアルビオン王家からアンリエッタの名の下に始祖の秘宝を譲り受ける事も出来るかも知れない。
しかしかといってアルビオンに行く気満々のルイズの唯のついでで自分もついて行く等とここで言ってしまうのは勿体ない…
なるべくアンリエッタへと恩を着せつつ好感を上げ、尚且つ自分にとってのアルビオン王家への架け橋にする。
ミントはそこまでを瞬時に考え、アンリエッタとルイズに対しわざとらしい位に手を広げて大げさなリアクションの演技をして見せた。
「あぁ…何て可哀想なのアンリエッタ!!あなたの気持ちは同じ王家に生まれた乙女として痛い程に解るわ。 任せて、あなたのお友達としてあたしもルイズと一緒に行くわ。」
ミントのその言葉にルイズとアンリエッタは特にルイズは心底驚いた。
まさかあのミントがアンリエッタが可哀想だという理由だけで自分と共に行くと言ってくれるとは思わなかったから…
「ミント殿下…しかしあなたは…」
異国の王女であるミントに行かせる訳にはいかないと駆け寄ってくるアンリエッタを受け止めてミントはわざとらしく頭を振った…
「ううん…良いのよ、心配しないでアンリエッタ…私達に任せて頂戴、必ず手紙取り戻してあげるから。(でっかい貸し一つよ♪簡単には返せないからね!!)」
「ミント……ありがとう。」
「気にしないでルイズ、あたし達なんだかんだ言ったってパートナーじゃない。(あんたに何かあったらあたし帰れなくなるじゃない。)」
今度は感動に瞳を潤ませるルイズの肩に手を置きながら言って、ミントは視線をそっと泳がせる…
(にしてもちょろいわね~…)
ここでルイズを直視できる程ミントも腐ってはいない…筈である。
「その任、どうかこのわたくしにも御命じ下さい。」
と、ここで突然ルイズの部屋に声が響くと扉がバンと音を立てて開かれ、一人の人物が颯爽と現れた。
薔薇を携えた金髪の美少年、人呼んで『花咲く薔薇の君-青銅のギー…』
「ゲフゥッ!!」
ギーシュが扉を開けポーズを決めた次の瞬間、無言のままゆっくり歩み寄ったミントの情け容赦無い非情の拳がギーシュの鳩尾に突き刺さる…
「何であんたがここに居るのよ?」
ミントはじと目で見下ろしながらぐったりとしたギーシュを床に転がしその背中をグリグリと踏みつけながら問う。
「うぐっ、やめてくれたまえミス…いや、ミント王女殿下。」
「…あたしが王女って知ってるって事はあんたずっと外で盗み聞きしてたのね…これって重罪よね。どうするアンリエッタ?どうされたいギーシュ?」
ミントのそのサディスティックな物言いにギーシュの顔が青くなる。
「いや僕は、お一人で出歩かれていた姫殿下を見つけたから影ながら御守りする為にですねぇ!それよりもアンリエッタ姫殿下!!その手紙の回収という困難な任務、是非ともこのギーシュ・ド・グラモンにも仰せつかい下さい!!」
ミントの足の下からゴキブリの様に這い出し、アンリエッタの前に跪いたギーシュは必死に部屋を覗いていた件を弁明しながらルイズ達の任務への同行を希望した。
「グラモン…もしやあなたはグラモン元帥の?」
「息子でございます。」
「あなたもわたくしの力になって頂けるの?」
「姫殿下の力になれるのであればそれはもう望外の幸せにございます。」
「ありがとう。あなたも父上に良く似て素晴らしい貴族なのですね。」
恭しく言ったギーシュにアンリエッタが微笑む。これでどうやらすっかり舞い上がっているギーシュがルイズ、ミントと共にアルビオンに向かう事が確定したようだ。
「それでは明日の朝、アルビオンに向かって出発するといたします。」
「お願いしますルイズ・フランソワーズ、ウェールズ皇太子は、アルビオンのニューカッスル付近に陣を構えていると聞き及びます。書を預けます、それをウェールズ皇太子に届けて下さい。」
「了解いたしました。以前、姉達とアルビオンを旅した事がございますゆえ、地理には明るいかと存じます。」
アンリエッタはそう説明するとルイズの机に座り、さらさらと手紙をしたためた。
そしてアンリエッタは自分が書きあげた手紙を思い悩む様にじっと見つめて、悲しげに首を振る。
その後アンリエッタは少し顔を赤らめると、決心したように頷き、末尾に一文付け加えた。
それから小さな声で呟く。
「始祖ブリミルよ……この自分勝手な姫をお許し下さい。でも、国を憂いても、わたくしはやはり、この一文を書かざるをえないのです……自分の気持ちに、嘘をつくことはできないのです……」
アンリエッタのその手紙への憂いた態度や仕草にルイズはまるでその手紙が恋文であるかの様な印象を受けた…
そしてアンリエッタの手ずから手紙に魔法で封蝋を施されトリステインの象徴である白百合の紋章が刻まれる…
「貴方達の双肩にトリステインの未来は掛かっています…どうか始祖の加護があらん事を…それと御守り代わりにこれを預けます。身の証明になる事でしょうし路銀の足しに必要であれば売り払って下さい。」
アンリエッタからルイズの手に渡されたのは手紙と一つの青い宝石の付いた指輪…
それを手にした瞬間、ルイズの目は大きく見開かれた。
「まさかこれは水のルビー!?」
ルイズのその言葉にミントがピクリと反応し、他の三人に気取られぬ様その口角をつり上げた。
そしてアンリエッタは今度はミントへと向き直る。
「ミント殿下、ルイズの事と此度の事あなたには本当に多大なご迷惑をお掛けします。
それでもあなたが会って間もないわたくしの事を友達と言ってくれた事本当に嬉しく思います。
無事に戻ってこられましたら是非とも一度ゆっくりお話をさせて下さい。
そして今後のあなたの帰還への助力をわたくしもお友達として惜しみませんわ。」
「えぇ任せてアンリエッタ。」
熱っぽい口調で語るアンリエッタに対してミントは込み上げる微笑みを押さえ込み唯頷く。
トリステイン王女の全幅の信頼…まさにミントにとっては最高の報酬だ…
___翌朝 正門前
翌朝、霧深い早朝の中、早々にルイズ達はアルビオンへ向かう為の馬の用意を済ませ、出発前の最終確認を行っていた。
「所で二人とも、アルビオンに僕の使い魔も連れて行きたいんだが構わないかな?」
ギーシュが二人に問う。
因みに既にギーシュはミントから王女である事を秘匿する旨と以前の様に接する様にと命令されている。無論絶対服従を身体にも言い聞かせてある。
「あんたの使い魔ってたしかジャイアントモールでしょ?これから馬でアルビオンに行くって事あんた解ってるの?」
ルイズが呆れた様にギーシュに言うとギーシュは地面を足で数度叩いた。
「心配ないさ、僕のヴェルダンデは馬並みのスピードで地面を掘り進める。それにこんなにも愛らしい姿の使い魔と離ればなれになるなんて僕には耐えられないよ。」
合図に反応して地面を突き破り現れたのは小熊の様な体躯をした大きなモグラ。
そのモグラのつぶらな瞳を見つめて感極まったのかギーシュは熱い抱擁を交わす…
「ま、足引っ張らないならあたしは何でも良いわよ。」
興味なさげに言ってミントはギーシュに用意させた自分の馬にひょいと跨がる。足手まといな様ならば最悪ギーシュもヴェルダンデも道中囮にでもして置いていけば良い。
と、突然ギーシュにされるがままだったヴェルダンデが何故かルイズに猛然と襲いかかりその小柄な身体を押さえつけて覆い被さる。
「キャア!!ちょっと何よこのモグラ!放しな…さいっ!!」
「あはははは、懐かれてるじゃ無いルイズ。」
「笑ってないで助けなさいよっ!!」
突然襲いかかったヴェルダンデの鼻先がルイズの身体をまさぐる度、ルイズが身をよじらせて藻掻く。その様子を見てミントは他人事なので愉快そうに笑っていた。
ここで突然のヴェルダンデの奇行に首を捻っていたギーシュはようやくヴェルダンデが何をしているのかを検討付ける。
「成る程…ヴェルダンデは君が持っている水のルビーに反応しているんだ。彼は珍しい鉱物や宝石が大好きでね、まさに土のメイジである僕に相応しい使い魔なのさ。」
鼻高々にそう語るギーシュにルイズの批難の視線が飛ばされる。
「いいから早く助けなさいよっ!!姫様から預かった大切な指輪なのよ。」
そうこうしているとミントは霧の向こうから気配を感じて、軽い警戒態勢へと素早く移った。
次の瞬間、霧を切り裂き風の大砲の様な突風がルイズにのし掛かっていたヴェルダンデを吹き飛ばした。
「誰だっ!?」
杖を抜いて風が放たれた方へ油断無く構えたギーシュ。
程なくして、こちらにゆっくりと歩いて来ているのか朝霧の中に一人の人物のシルエットが浮かび上がってきた。
「済まない、婚約者が襲われていたのでな…あぁ、心配しなくて良い私は君達の任務の同行者…」
被っていた鍔の広い帽子を外してようやくはっきりと姿を見せた男にルイズの表情は驚きに染まり、ミントも目を丸くした。
そう、その男はミントが昨日見たルイズの視線の先に居たアンリエッタの護衛に付いていた貴族だった。
「魔法衛士隊、グリフォン隊隊長ジャン・ジャック・フランシス・ワルドだ。昨夜護衛として君達への随行を姫様から仰せつかった…よろしく頼む。」
ワルドと名乗った魔法衛士隊の制服を纏ったメイジは流れる様な動きで三人に向けて一礼する。
驚きに呆然としているルイズ…
「ルイズ、久しぶりだね僕のルイズ。」
ワルドはそんなルイズに駆け寄ると爽やかな笑顔でその身体を抱き上げて再会の喜びを表現する様にそのままクルリと一回転した。
「ワルド様…」
「ハハハッ、相変わらず君は羽の様に軽いな。さて、ルイズ彼等を紹介してくれたまえ。」
「あ、はい。クラスメートのギーシュと…使い魔のミントです。」
顔を赤くしたままルイズがワルドに二人を紹介するとワルドは途端に綻ばせていた表情を引き締めてミントの前に膝を突いた…
「アンリエッタ姫殿下から昨夜お話はお伺いしておりますミント殿下。何においてもあなたとルイズの御身は守り抜くようにと。」
「ふーん、婚約者とは道理で…ルイズもすみに置けないわね~。よろしく、ワルド。それと別にそんな風に畏まらなくても良いわ、今あたしは唯のルイズの使い魔だからね。」
両手を広げ肩を窄める仕草をとってワルドに畏まった態度を崩す様にミントは促す…
ミントの居た世界から比べればハルケギニアの貴族達は少々こういった礼儀的な物にやはりこだわりがありすぎる気がする。
その後ギーシュとも挨拶を交わしたワルドが自分のグリフォンを呼び寄せ、ルイズと共にその背に跨がると一行はアルビオンへと向かう為港町ラ・ロシェールへと魔法学園を出発した。
「行ってしまいましたね…どうか彼等に始祖の加護があらん事を…あなたは祈らないのですか?」
学院長室の窓からその様子を見ていたアンリエッタが手を組み祈りを捧げる。
その隣で部屋の主オールドオスマンはのんきに鼻毛を抜いていた。
「見ての通りこの老いぼれは鼻毛を抜いておりますのでな……それに既に杖は振られておりますでの。
まして彼女は始祖の加護など無くとも自らの力だけで必ずやあらゆる苦難を乗り越えるでしょうからな。
土くれのフーケすら圧倒するメイジでありながらガンダー………ゲフンゲフン……全く、勇ましい王女です。」
そんなオスマンの言葉に思う所あってアンリエッタは再び強く祈りを捧げる…
(私にもミントさんの様な強さがあったなら…)
「ねえ、ちょっと飛ばしすぎじゃないかしら?ミントとギーシュが大分離れちゃってるわ。」
ワルドのグリフォンの前へ跨っているルイズが後ろを見やりそう言った。既にルイズは道中ワルドと雑談を交わすうちに口調は昔の親しかったものに戻っていた。
「ラ・ロシェールの港町まで止まらずに行きたいんだ。へばったなら先にいけば良い。行き先は分かっているからね。」
「そうだけど……ミントの護衛もあなたの任務でしょう?」
「それなのだがねルイズ、一目見て解ったが彼女はどうやら相当の実力者なのだろう?
それに君の話を聞けば随分と豪放な性格の様だし…トリステインじゃかなり珍しいが正直護衛などを煩わしく感じるタイプの人間なんじゃ無いかな?
そう君の母上カリーヌ殿の様に…」
ワルドのその言葉、特に母カリーヌの部分にルイズは一瞬呼吸が止まる。
「だが…確かに君の言う通りだな。僕は君との時間に少し浮かれていた様だ、少し戻るとしよう。」
そう言うとワルドはグリフォンの手綱を引いて来た道をゆっくりと引き返し始めた。
「あいつ等、人を置いていちゃつきながらどんどん先に行って~…こっちのペースも考えろってのよ!!」
「日が落ちるまでにラ・ロシェールに着きたいのは解るけど流石に半日以上走りっぱなしだからね………僕も君のその意見には完全に同意だよ。」
切り立った崖に挟まれたラ・ロシェールへの街道を併走する二頭の馬のそれぞれの上でミントとギーシュが上空を飛ぶグリフォンを恨めしげに見つめて愚痴を漏らす。
「しかし…やはり君が王女だったなんて今でも信じられないよ。」
「へぇ?あたしが王女っぽく無いとでも?」
ギーシュの軽口にミントはじと目を送る。
「うっ…」
思わずミントのプレッシャーにギーシュは言葉に詰まってしまう…
が、ここでミントの背中に大人しく背負われていたデルフリンガーが鞘から勝手に飛び出してカチャカチャと鍔を鳴らした。
「当たり前だろうが、俺様だって昨日聞かされたときにゃ驚いたぜ!!どこの世界に相棒みたいなお姫さんが居るかってんだよ。なぁ、坊主お前もそう思うだろ?」
極小さくギーシュが頷いたのを見てミントは溜息混じりにこのお喋りなインテリジェンスソードに文句の一つでも言ってやろうとその柄に手を伸ばした…
「ったく、あんた達ねぇ…」
そこまで言った瞬間、突然ミントの目の前を一本の弓矢が掠めた。続いて幾つもの矢と松明が上空、崖の上から二人に目掛けて降り注いで来た。
「敵っ?」
ミントは素早く反応するとデルフで自分とギーシュに飛来する矢をたたき落として暴れる馬から飛び降り、崖の上を睨む…
ギーシュもどうやら驚いた馬に振り落とされた程度で怪我らしい怪我はしていない様で既に土を練金し即席の大盾を作り矢を凌いでいる。
「盗賊の類いだろう…これは中々不味い状態だね。どうするミント君?」
忌々しそうに言ってギーシュはミントへと視線を移す。
するとミントはデルフを鞘に収め、デュアルハーロウを握り口元を歪めていた…
ギーシュはミントが何をしようとしているのかを悟る…
「どうする?そんなの決まってるじゃ無い。あんな奴ら ボ コ ボ コ よっ!!」
(やっぱりか…)
ミントは崖へと走りながら素早く魔法を放つと魔力の結晶体が4つミントの周囲に浮遊する、そのままその結晶体はミントの周りを旋回する様に漂い始めた。
街道を挟む崖も決してルイズやタバサの胸の様な絶壁と言う訳では無い、足場となる傾斜と起伏は十分にある。
ガンダールブの力に加えてかつて伝説の怪炎竜ウィーラーフの住まうあの怒りの山を何度も踏破した事のあるミントにはこんな崖を登るなど大した事は無い。
問題となる盗賊の放つ弓矢もミントの周囲に展開された自動迎撃魔法サテライトから撃ち出されるバルカンの様な魔力の弾丸によって尽く打ち落とされ、ミントには届く事は無い。
そしてトントンと器用に足場に飛び移りながらミントは崖をあっという間に登っていく。
その最中、何故か上に居る盗賊達の悲鳴が聞こえてきた事にミントは疑問を抱いたが崖を上り切ってみればその理由はすぐに分かった。
「またあの二人か………随分暇人ね…」
風に吹き飛ばされ、炎に焼かれて満身創痍の盗賊達、そしてその上空にはやはりと言うべきか見慣れた青い一匹の風龍とその背にはタバサとキュルケが居た…
#navi(デュープリズムゼロ)
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