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#navi(デュープリズムゼロ)
第八話『買うわ!デルフリンガー。』
「今日は授業は休みよ。街に買い出しに行きましょう。」
虚無の曜日の朝一番に朝食を取り終えたルイズはミントにそう提案した。
「街か…丁度良いわね。行きましょう。」
二つ返事の了承、それはミントとしても断る理由の無い提案である。
何せミントはハルケギニアに召喚された際は着の身着のまま、リュックにはミントの世界の通貨と各種コイン、後は最低限のサバイバルキット位しか持ち合わせていない。
それに寝間着や普段着等も出来れば確保しておきたいし何より様々な人々の集う街などで情報を集める事は冒険者の基本だ。
早速支度を済ませてミントとルイズは一路王都トリスタニアに馬を走らせた。
因みに今日はミントはいつもの服を洗濯へ出してルイズの制服のスペアを借りている。
(少々胸元が窮屈ではあったが入らないと言う事も無い。)
そんな二人の魔法学園を朝一番に出て行く姿を見ている人物がいた。
「あら?ルイズにミント…街に行くのかしら?………何か面白そうね。」
キュルケである。キュルケは昨日の決闘騒ぎ以来、より一層ミントへ強い好奇心を持つ様になっていた。
見た事も無い形態の魔法を使い、その行動と性格はまさに破天荒、まず間違いの無い天然トラブルメーカー。昨日の騒ぎはまさにそれだ。
キュルケ自身そういう騒ぎが大好きだ。自分に直接迷惑が掛からず、指先一つのちょっかいを出す事でより事態を面白く出来るなら尚良しだ。
「でも今からじゃ流石に追いつけないか…いや、あの子の使い魔なら。」
キュルケは鏡台の前でそう呟いて着替えと化粧を済ませると変わり者の自分の親友を頼る為軽い足取りで部屋をでる。
「……………………」
少女タバサは壁に背を預けながらベッドの上に座り静かに本を読みふける。
タバサの虚無の曜日の予定は決まっている。こうして一日静かに本を読む事である。
稀に任務を言い渡される事もあるが今日は幸い任務も無い。端から見れば分からないが今日のタバサの気分はおおむね良かった。
「タバサー居る〜?私よ〜。」
が、そんな静かなタバサの世界をぶち壊すかの様にドンドンと扉がノックされ唯一の友人の声がタバサの耳に入る。
タバサは杖を手に取るとサイレントの魔法を唱えて再び本の世界へと集中する。
しばらくして九割方文字の羅列を捉えていたタバサの視界の隅に赤い髪と共に揺れる二つの脂肪の塊が入り込んできた。
どうやら勝手にアンロックの魔法で鍵を解錠して進入してきたキュルケは、自分に何かを訴えている様でようやくタバサはサイレントの魔法を解除してやる。
「全くもう、あなたったら酷いじゃ無い。」
「用件は何?」
「ルイズがあの使い魔の子と街に行ったみたいなの。面白そうだから私も追いかけて行こうと思うんだけど今からじゃ追いつけそうに無いわ。
だからあなたの使い魔の風龍で追いかけて貰いたいのよ。ねぇ〜お願い…」
キュルケが胸の前で手を合わせて身体をくねらせる。無駄に色っぽい。
「……………………」
タバサは無言で少し思案した後、窓辺から外に向かって口笛を吹いた。
すると森の中からタバサの部屋へ向かって青い鱗に包まれた一匹の風龍の幼生が飛来してくる。名はシルフィード、タバサの使い魔である。
「乗って。」
一言そう言ってキュルケに促しながらタバサは軽やかにシルフィードの背中に飛び乗る。
「あれ、あなたの事だから「虚無の曜日」って言って渋ると思ってたけどどうしたの?」
シルフィードの背中に乗りながらキュルケがタバサに尋ねるとタバサは無言で自分とキュルケを順に指さし一言小さく呟く。
「友達」
「タバサ!!」
感極まった様子でキュルケはタバサを抱きしめる。その豊満な胸をタバサの顔に押し当てながら。
「それに私もあの使い魔に興味がある…」
タバサは昨日ミントの使用した魔法について思い返す。
もしもアレが先住でも系統でも無い魔法ならばもしかしたら自分の助けになりえるかも知れない。
その為には先ずはミントの事を知らなければならない…
春のまだ少し冷たい風を切ってタバサとキュルケを乗せたシルフィードはトリスタニアへと飛んだ。
___城下町トリスタニア
「ふーん…結構栄えてるわね。」
街の広場から周囲を見渡してミントは正直な意見を口にする。
「そりゃあ王都だもの。先ずはミントの服よね。さ、服屋に行きましょう。」
ルイズが先導して歩いて行くのでミントも素直にその後ろを付いていく。
自分一人ならどうとでもなるがルイズ(サイフ)が迷子になっては流石に厄介だ。
最初店内に入った瞬間、「取り敢えずお勧め全部頂戴。」等と曰ったミントに思わず突っ込みを入れる等の一悶着がありながらも下着、寝間着等をを購入しミントの普段着のスペアをオーダーしたルイズ。
服などは完成したら学園まで配達して貰える手はずである。
次に二人が向かったのは貴族御用達のカフェレストランだ。
運ばれてきた料理に舌鼓をうちながら食後のデザートに頼んだクックベリーパイと紅茶をルイズとミントは語りあいながらゆっくりと味わう。
「おいしいわねこのパイ、そういえば昨日は結局ケーキ食べれなかったのよね〜ギーシュの奴のせいで。」
ミントはクックベリーパイの甘酸っぱさを味わいながら吐き捨てる様に言う。
「そういえばそうよ!あんたねあれはやり過ぎよ。あんたの為にシエスタに医務室用意させてたのにその医務室に運ばれたのがギーシュなんだからシエスタきっとそうとう驚いたわよ。」
怒りながらもルイズは愉快そうに笑って言う。
「だから言ったじゃん、あたしを舐めるなって。」
「まぁでもあいつにも良い薬よね。正直なところ私もすっきりしたし。」
「でしょうね。あたしああいう男正直嫌いだわ。」
「あはは、だと思う。」
「あら、じゃあミントの好みの男性のタイプってどんな人?私気になるわ。」
「そりゃあ…………って、キュルケじゃ無い?」
ルイズとミントが会話に花を咲かせているといつの間にやら隣のテーブルにキュルケとタバサが座っていた。
「ツェルプストーっ!?あんた何で…」
「何でも何もあたしはタバサとお茶しに来たのよ?そこでよーく見知った顔を見かければそりゃ声位掛けるわよ。」
反射的に立ち上がったルイズにキュルケはからかう様に笑って答える。
「まぁ座んなさいよルイズ。周りに笑われるわよ。」
ルイズを制してミントは優雅に紅茶を一口すする。確かに他の客の小さな笑い声がルイズの耳には聞こえてきた。
仕方なくルイズは席に着くとまだ不機嫌ながらもミント達のやり取りを静観する。
「所でミント、昨日見てたわよ〜。凄かったじゃない、平民だって思ってたけどあなたメイジだったのね!」
「フフフ、もっと褒めるが良いわ。ま、あたしにとっちゃあんなのチョロいチョロい。」
「あなたの使っていた魔法…アレは何?」
ここでさっきまでハシバミサラダをひたすら食べていたタバサが初めて口を開く
「あぁ、あれは…ってあんた誰?」
「紹介するわねミント。この子はタバサ、私の一番の親友よ。」
キュルケの抱擁に押しつぶされながらタバサは無表情にミントに会釈する。
「ふーん…あたしはミント様よ、よろしくタバサ。」
ミントもタバサの会釈に答える様に軽く掌を振った。
「で、あれは…「ストップ!!ミント。」」
ミントが昨日の魔法の簡単な説明をタバサにしようとした所でルイズが突然それにストップを掛ける。
「何?」
「フフフ、タバサには悪いけど使い魔の力の秘密をそうそう簡単には聞かせられないわ。
特にツェルプストーには尚更ね。」
「意地が悪い…」
「あんたの力じゃ無いでしょうが…」
「流石ヴァリエールね…」
三者それぞれ呆れた様にジト目でルイズを見つめる。空気を読めよと言いたげに。
「う…うるさい!!うるさい!!うるさい!!そもそもメイジとして使い魔の秘密を守る位のリスク管理は当然よ。私は何も間違った事は言っていないわ。」
顔を赤くしながらルイズは怒鳴る。言っている事は正論だが如何せん感情が先立って見え透いている為いまいち説得力に欠ける。
しかし、その言い分にはタバサも思うところがある以上ここでごねるのは憚られる。
ミントの事は別に直ぐに直ぐ知らなければならない訳では無い。
ミントとしてもよく考えれば自分のこの世界での特殊性を思い直せばこう言った事をホイホイ話しては無用なトラブルを呼びかねない。ここは癪だがルイズの言葉に理がある。
キュルケも大胸そう考える。
『仕方ない。』
三人の声がハモり、一人の空気の読めない少女のせいでこの話はここで打ち切りと相成った。
そのまま四人は折角だからとブラブラ街の中を散策する事にした。
途中タバサの為に本屋に寄ったり、露店で行儀悪く串焼きを買い食いしたり、ルイズのサイフに手を出そうとしたスリをミントがボコボコにしたりと楽しい時間が過ぎていく。
そうしてミントの希望でマジックアイテムの店などを巡った後、最後に武器屋を覗く事になった。
武器を持った際の力が溢れる現象が果たしてデュアルハーロウ以外でも起きるのかを確認する為だ。
ルイズの案内の元で狭い路地裏に入って行った三人、悪臭が鼻につく。よく見なくてもその辺りにはゴミや汚物が道端に転がっていた。
「路地裏っていうのはどこも同じね。でもその分掘り出し物ってのも期待できるわ。」
「そういう物なの?まぁそういう物だから掘り出し物っていうんだけどね。」
ルイズは立ち止まると、辺りをきょろきょろと見回す。
「ピエモンの秘薬屋の近くだったから、この辺だったと思うんだけど…」
「あれね。」
ルイズが見つけるよりも早くミントが指をさす、見ると剣の形をした銅の看板が下がっていた。 どうやらそこが武器屋のようだった。
四人は石段を上り、羽扉を開け、店の中に入って行った。
店の中は昼間だと言うのに薄暗く、とても貴族を相手にしている商売では無い事を物語る。
壁や棚には所狭しと剣や槍、槌が乱雑に並べられ、中には目玉商品なのだろうか立派な甲冑もあった。
店の奥では煙草をくわえていた親父が入ってきたミント達を胡散臭げに見つめて直ぐに
紐タイ留めに描かれた五芒星に気付く。
それから慌てて煙草の火をカウンターに押しつけて消すと、ドスの利いた声を出した。
「旦那、貴族の旦那、うちはまっとうな商売してまさぁ、お上に目をつけられるようなやましいことなんかこれっぽっちもありませんや。」
「客よ。」
ルイズが腕組みをしたまま答えると店主はまた驚いた表情を浮かべる。
「へぇ?貴族のお嬢様方が武器をですかい?そりゃまた………しかしそうですね、そうでしたらこちらなど如何で?美しさで言えばうちで一番でさぁ。」
店主は店奥から繊細な銀の細工の施されたレイピアを持ち出してきた。それをミントが受け取り軽く構えを取ってみる。
「駄目ね…帰りましょ。」
溜息混じりに呟きレイピアをカウンターに戻してミントは肩を窄めた。
全く持って力がわき上がるあの感覚がこの銀細工のレイピアからは感じられないのだ。
「結局何がしたかったのよ?まぁ良いわ、邪魔したわね。」
ルイズはミントの行動に首を傾げるがまぁ良い、用事が無いならこんな所に用は無い。
「はいよ、どうか御贔屓に…」
用も済んだと早々に帰ろうとする四人に店主は内心武器屋にガキが来るんじゃねぇと舌打ちをする。
『おぅ、帰れ帰れっ!!武器はガキのおもちゃじゃねぇんだよ。二度と来んな!!』
と羽扉に手を掛けた四人に突然そんな男の声が聞こえてきた。
無論店内に居る男など店主以外には居ない。四人が振り返りそれぞれギロリと店主を睨む。
「馬鹿野郎、デル公!貴族のお客様に何て事を言いやがるんだ!!」
慌てて店主は店の隅に置かれた樽の中から随分と古びた一本の剣を取り出して四人の前に差し出す。
「これってインテリジェンスソード?随分口が悪いわね。」
「何それ?」
「インテリジェンスソード、自我と知性を持った剣。」
ミントの疑問に相変わらず本を読み続けるタバサが簡潔に答えた。
「へぇ〜面白いじゃない。ねぇおっさん貸して貸して。」
言うが早いかミントは店主の手から剣をかすめ取る。同時に左手に熱が走り、力が漲る感覚を感じた。
そして今まで剣など扱った事の無いはずのミントの頭の中に剣という武器に関するあらゆる知識が一瞬でたたき込まれた。
適切なメンテナンス方法から適切な構え、振り方、重心の取り方、そして何よりもこの剣がやたらと手に馴染むのだ。
「驚いた…嬢ちゃん『使い手』かよ……それに嬢ちゃんあんたすげぇ修羅場くぐってるな。
よし嬢ちゃん、俺を買え。」
突然神妙な様子になったインテリジェンスソードの様子に全員が目を丸くする。
「へ〜……あんた剣の癖に面白い事言うわね。良いわ買って上げる。おっさんこれ幾ら?」
「ちょっとミント、そんなボロッちぃ剣なんか買うの!?ていうかあんたあたしに払わせるんでしょうが!!駄目よ!」
ルイズの訴え等最早関係ない、冒険者としての経験がミントに訴える。
こいつは掘り出し物のお宝だと。
「良いじゃ無いルイズ、面白そうだし。何ならミント、どうせ一山幾らの剣なら私が買ってあげるわよそれ位。」
「おっキュルケ、太っ腹。流石に胸の大きい女は違うわね。」
「胸は関係ないでしょうがっ!!解ったわよ!!買うわ買って上げるわよ馬鹿!!」
キュルケの提案に半泣きで食って掛かるルイズをミントはしてやったりと言った表情で笑う。
はっきり言ってキュルケもこうなる事が読めていての提案だったのだがチョロいにも程がある。
「くっ…そういう訳よ!あの剣幾ら?」
ルイズは金貨の入ったサイフを怒りのままのカウンターへと叩き付ける。
「あれなら新金貨100で結構でさぁ。」
「あっそう!!」
カウンターに乱暴にぶちまけられる金貨…苦笑いで店主はその金貨の枚数を数えている。最早ルイズからのただの八つ当たりである。
「そういえばあんた名前は?」
「あぁ、おれっちの名前はデルフリンガーだ。よろしくな、相棒。」
「あたしはミントよ。ミント様って呼ぶ様に、よろしくねデルフ♪」
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