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マジシャン ザ ルイズ (11)力の解放
「どうしたのかしら、お互い動きが鈍くなったわよ」
「膠着状態」
タバサが説明するには、実力高い者同士の魔法戦において、お互いが決定打を欠いた状態になると…
このようにお互いが最低限の攻撃だけを行い、相手の出方を待つ膠着戦に陥りやすいのだという。
「へーって、じゃあ、私達が援護すればおじさまの勝ちってことじゃない!」
「…無理、再生するだけ」
「えー、じゃあさ、何か考えましょうよっ!」
「何かって何よキュルケ、何かいい考えでもあるの?」
「そりゃあ……じゃあ!今から王都に戻って騎士団を呼んきましょう!」
「………」
「あんたねぇ、もうちょっと頭使いなさいよ、せめていい武器を持ってきてあげるとか」
「そんなもの、あったら直ぐに渡してるに決まってるじゃ………」
「………」
「あ………」
三人の視線の先、そこにはキュルケに抱えられた、『禁断の剣』が納められた箱があった。
「!?」
影、飛竜の羽音、強風の降臨。
ルイズ達がウルザの背後に降下してくる、飛び降りる三人。
「ミス・ルイズ!先ほど私は安全な場所に退避していていなさいと―――!」
ルイズ、自信の笑み。改心の出来の課題を提出する生徒の顔つき。
「ミスタ・ウルザ!助けに来たわ!この剣を使ってあのゴーレムをやっつけるのよ!」
その手には、不思議な形状をした剣が握られている。
握りの先、途中から二つに枝分かれしている短剣のようなもの。
「君は何を言って……待ちたまえ、ミス・ルイズ、君が握っているそれは何だね」
「これが『禁断の剣』よっ!世界の均衡を壊すほどの剣!この剣があれば、あんなゴーレムなんてすぐにやっつけられるわっ!」
それを両手で握り締めたルイズが、ゴームレを睨み、大きく振り上げる。
「『禁断の剣』よ!目の前の敵を打ち払い給え!……たああっ!」
勢いよく振り下ろすルイズ。
閃光、爆発、倒壊、それ等、状況を打開する事態、一切何も起こらず。
「………えいっ!ええいっ!どうして何も起こらないのよ!『禁断の剣』!力を発揮しなさい!」
うんともすんとも返さない。
「―――フフフフ、……ハハハ!………これは驚いたっ!ハハハハッ!」
場違いな笑い声。
デルフリンガー、シュペー卿の魔法剣を地面に突き刺し、右手で顔を抑えたウルザが、心の底から愉快そうに笑い始める。
突然の展開についてゆけず、呆気に取られるルイズ、キュルケ。
「ミス・ルイズ、それを、貸したまえ、それはそう使うものではない。
いや、それは正しくは剣などではない、しかし、正しく世界の均衡を危うくする力だ」
「ミ、ミスタ・ウルザ?」
理解出来ていない顔のルイズから、剣を受け取る。
そのままそれを、天に差し出す供物のように、高々と掲げる。左手で輝くガンダールヴのルーン。
「これは……こうするのだ!」
マナを用い、『禁断の剣』と自身の間にリンクを組む。
そしてそのリンクを、この場のでウルザ自身と結びついているもう一つの『それ』へと結びつける。
接触、接続、成功。
『禁断の剣』が、ウルザ自身のマナを注がれ、その力を正しく発揮し始める。
まず『禁断の剣』から光の紐のようなものが現れ、今もゴーレムと戦い続けている鉄の獣へと伸びていく。
ウルザが手を離す。すると、それは結びつく片方に引き寄せられるように一直線に鉄の獣に向かって飛んでゆく。
飛んできたそれを、忠犬が主人から投げられたものをキャッチするように、獣は器用に口で受け止めた。
『禁断の剣』を咥える獣、対峙する土くれの巨人。
構図は変わったが、形勢に変化なし。
「あ、あのミスタ・ウルザ?一体何を?」
「――――――」
再び、土のゴーレムと鉄の獣との戦いが始まる。
果敢に飛び掛る獣、挑戦者を打ち払うゴーレム、先ほどまでの焼き直し。
しかし、ウルザの目には、先ほどまでとの違いが、徐々に大きくなっていくのが見える。
その変化に、最初に気付いたのはキュルケであった。
「おじさま!『禁断の剣』が―――」
続いて、ルイズもその異変を察知する。
「何あれ?光ってる、の…?」
「………あの獣が攻撃するたび、光が強くなってる」
獣がゴーレムを攻撃する度に、徐々にだが確実に光を強めていく『禁断の剣』。
「見ていたまえ、これこそ、君達が『禁断の剣』と呼ぶものの力だ」
生徒に数式の解法を教える教師のような顔――ウルザ。
結びつくマナのリンクを経由し、全てを終わらせるべく、指示を送る。
唐突なる均衡の崩壊。
『禁断の剣』が一際大きな光を放つ、その中からが輝くものが多数飛び出す。
瞬間、解き放たれた光がゴーレムへと吸い込まれていくようにして消滅。
変化。
巨大な土くれのゴーレムの姿がその大きさを変容させていく。
小さく、小さく、小さく、小さく、小さく……。
30メイル、20メイル、10メイル、5メイル、3メイル、そして……消滅。
一つの戦いの、あっけない幕切れ。
一方、敵対者の消滅を見届けた勇敢な獣。
彼もまた、その使命を果たし、力尽きその動きを停止したのであった。
「う、嘘みたい!あの巨大なゴーレムが、どんどん小さくなって!最後は消えちゃうなんて!凄いわ『禁断の剣』!」
「―――ミス・ルイズあれは、」
「皆さん、お疲れ様でした」
強大な敵に勝利した実感、お互いが無事であった安堵感、そして自分達がやり遂げたという達成感に湧くルイズ達。
そんな彼女達に声をかけたのは、森の影から現れたロング・ビルであった。
「ミス・ロングビル!ご無事でしたか!」
「これで全員無事ってことね!『禁断の剣』も取り帰したことですし、帰りましょう!」
「……フーケ」
タバサの的確かつ、鋭い指摘。
「おっとっと、そういえばそうね」
「そうよ!フーケはどこ!?きっとこの近くにいる筈だわ!」
「きっと、何処かに隠れているんだわ。そう遠くないはずよ」
「そうね、探しましょ」
ルイズ達が手分けしてフーケを探す為の算段の相談している中、ロングビルがゴーレムと獣との戦いの痕、残骸が残るのみとなったそこへ向かうことを誰も気にしない。
ロングビル、学院の長、オールド・オスマンの秘書である彼女が、奪われた秘宝を回収することに問題など抱くはずも無い。
「ミスタ・ウルザ、お疲れ様でした」
そして、彼女は残骸の中から『禁断の剣』を見つけ出して、ひょいと持ち上げる。
「皆さん、もうよろしいですわよ」
『禁断の剣』を手にした、ロングビルに、ルイズ達の視線が集まる。
「あなた方の役目はここで終わりです。ご苦労様でした。
『禁断の剣』の使い方も分かりましたし、もう必要ありません」
高らかなる勝利宣言。
「え!?ミス・ロングビル!?」
「どういうことなの!?」
応えるロングビル、その口元が妖しく歪む。
「生徒の質問には、答えなくてはなりませんね。
さっきのゴーレムを操っていたのは私。加えて、トリステインの城下町にメイジの盗賊も、学院の宝物庫に忍び込んだのも私。
全て、私のしたこと、これが正解です」
「なるほど、つまり君が…『土くれのフーケ』だったのだね、ミス・ロングビル」
「ええ、その通りですわ、ミスタ・ウルザ。
おっと、動かないで頂戴。私はこの『禁断の剣』でいつでもあなた達を消すことが出来るのよ。
…わかったなら、全員、武器を遠くに捨てなさい」
先ほど、自分達の窮地を救った学院の秘宝、それが今、フーケの手の中にある。
先ほどの衝撃的な結末を見ているルイズ達は、フーケの指示に従い、武装を解除するほか無かった。
生徒三人は杖を捨て、ウルザは剣も捨てる。
「ありがとう、助かったわ。
ふふふ、折角『剣』を奪ったのに、どうしても使い方が分からなかったの。
だから、実際に使わせてみて、使い方を知ろうと考えたのよ。
そうしたら、やっぱり正解だったみたいね。特にミスタ・ウルザには感謝しても感謝しきれないわ。
けれど……あなた達はもう用済みよっ!消えなさいっ!」
フーケが魔力を剣に込め、目の前の邪魔者たちを消滅させるよう、思念を送る。
「………っ!!!」
ルイズ達にとっては幸いにも、フーケにとっては不幸にも、何の変化も訪れなかった。
「…なぜ!?どうして魔法が発動しないのよ!?」
「フーケ。それは魔力を用い『装備』した上で力を溜めねばならない、能力を行使し、力を使い果たしたばかりのそれは、ただの置物に過ぎんよ」
ただ一人、結末が分かっていたように、応えてウルザ。
「それはそもそも、こちらの世界の『禁断の剣』などではない。」
ウルザがゆっくりと手を掲げる。
「解呪/Disenchant」
フーケの手にあったものが、ひび割れ、砕け、かつて『禁断の剣』であったものへと姿を変え、地面へ落ちていく。
「…それは、『神河』と呼ばれる世界の武器だ」
「な、なんてことを……」
手から零れ落ちていく残骸を呆然と見つめることしか出来ないフーケ。
「名を『梅澤の十手』という」
―――梅澤の十手
ハルケギニアともドミナリアとも違う、神河と呼ばれる異世界。
そこで梅澤俊郎という男が、銀と鋼と魔力を用いて作ったとされる武具。
梅澤の十手は三つの力を持つ。
一つ、強化。二つ、弱体化。三つ、癒し。
その強大なる力は「神河」における神同士の争い、
「夜陰明神」と「生網明神」の戦いの行方を左右したほどであったと言われている。
これこそが、一説では、梅澤の十手が神河最高の伝説の至宝であるとされる所以である。
強すぎる力は、更なる力の介入を招く結果となる。
―――ウルザ
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マジシャン ザ ルイズ (11)力の解放
「どうしたのかしら、お互い動きが鈍くなったわよ」
「膠着状態」
タバサが説明するには、実力高い者同士の魔法戦において、お互いが決定打を欠いた状態になると…
このようにお互いが最低限の攻撃だけを行い、相手の出方を待つ膠着戦に陥りやすいのだという。
「へーって、じゃあ、私達が援護すればおじさまの勝ちってことじゃない!」
「…無理、再生するだけ」
「えー、じゃあさ、何か考えましょうよっ!」
「何かって何よキュルケ、何かいい考えでもあるの?」
「そりゃあ……じゃあ!今から王都に戻って騎士団を呼んきましょう!」
「………」
「あんたねぇ、もうちょっと頭使いなさいよ、せめていい武器を持ってきてあげるとか」
「そんなもの、あったら直ぐに渡してるに決まってるじゃ………」
「………」
「あ………」
三人の視線の先、そこにはキュルケに抱えられた、『禁断の剣』が納められた箱があった。
「!?」
影、飛竜の羽音、強風の降臨。
ルイズ達がウルザの背後に降下してくる、飛び降りる三人。
「ミス・ルイズ!先ほど私は安全な場所に退避していていなさいと―――!」
ルイズ、自信の笑み。会心の出来の課題を提出する生徒の顔つき。
「ミスタ・ウルザ!助けに来たわ!この剣を使ってあのゴーレムをやっつけるのよ!」
その手には、不思議な形状をした剣が握られている。
握りの先、途中から二つに枝分かれしている短剣のようなもの。
「君は何を言って……待ちたまえ、ミス・ルイズ、君が握っているそれは何だね」
「これが『禁断の剣』よっ!世界の均衡を壊すほどの剣!この剣があれば、あんなゴーレムなんてすぐにやっつけられるわっ!」
それを両手で握り締めたルイズが、ゴームレを睨み、大きく振り上げる。
「『禁断の剣』よ!目の前の敵を打ち払い給え!……たああっ!」
勢いよく振り下ろすルイズ。
閃光、爆発、倒壊、それ等、状況を打開する事態、一切何も起こらず。
「………えいっ!ええいっ!どうして何も起こらないのよ!『禁断の剣』!力を発揮しなさい!」
うんともすんとも返さない。
「―――フフフフ、……ハハハ!………これは驚いたっ!ハハハハッ!」
場違いな笑い声。
デルフリンガー、シュペー卿の魔法剣を地面に突き刺し、右手で顔を抑えたウルザが、心の底から愉快そうに笑い始める。
突然の展開についてゆけず、呆気に取られるルイズ、キュルケ。
「ミス・ルイズ、それを、貸したまえ、それはそう使うものではない。
いや、それは正しくは剣などではない、しかし、正しく世界の均衡を危うくする力だ」
「ミ、ミスタ・ウルザ?」
理解出来ていない顔のルイズから、剣を受け取る。
そのままそれを、天に差し出す供物のように、高々と掲げる。左手で輝くガンダールヴのルーン。
「これは……こうするのだ!」
マナを用い、『禁断の剣』と自身の間にリンクを組む。
そしてそのリンクを、この場のでウルザ自身と結びついているもう一つの『それ』へと結びつける。
接触、接続、成功。
『禁断の剣』が、ウルザ自身のマナを注がれ、その力を正しく発揮し始める。
まず『禁断の剣』から光の紐のようなものが現れ、今もゴーレムと戦い続けている鉄の獣へと伸びていく。
ウルザが手を離す。すると、それは結びつく片方に引き寄せられるように一直線に鉄の獣に向かって飛んでゆく。
飛んできたそれを、忠犬が主人から投げられたものをキャッチするように、獣は器用に口で受け止めた。
『禁断の剣』を咥える獣、対峙する土くれの巨人。
構図は変わったが、形勢に変化なし。
「あ、あのミスタ・ウルザ?一体何を?」
「――――――」
再び、土のゴーレムと鉄の獣との戦いが始まる。
果敢に飛び掛る獣、挑戦者を打ち払うゴーレム、先ほどまでの焼き直し。
しかし、ウルザの目には、先ほどまでとの違いが、徐々に大きくなっていくのが見える。
その変化に、最初に気付いたのはキュルケであった。
「おじさま!『禁断の剣』が―――」
続いて、ルイズもその異変を察知する。
「何あれ?光ってる、の…?」
「………あの獣が攻撃するたび、光が強くなってる」
獣がゴーレムを攻撃する度に、徐々にだが確実に光を強めていく『禁断の剣』。
「見ていたまえ、これこそ、君達が『禁断の剣』と呼ぶものの力だ」
生徒に数式の解法を教える教師のような顔――ウルザ。
結びつくマナのリンクを経由し、全てを終わらせるべく、指示を送る。
唐突なる均衡の崩壊。
『禁断の剣』が一際大きな光を放つ、その中からが輝くものが多数飛び出す。
瞬間、解き放たれた光がゴーレムへと吸い込まれていくようにして消滅。
変化。
巨大な土くれのゴーレムの姿がその大きさを変容させていく。
小さく、小さく、小さく、小さく、小さく……。
30メイル、20メイル、10メイル、5メイル、3メイル、そして……消滅。
一つの戦いの、あっけない幕切れ。
一方、敵対者の消滅を見届けた勇敢な獣。
彼もまた、その使命を果たし、力尽きその動きを停止したのであった。
「う、嘘みたい!あの巨大なゴーレムが、どんどん小さくなって!最後は消えちゃうなんて!凄いわ『禁断の剣』!」
「―――ミス・ルイズあれは、」
「皆さん、お疲れ様でした」
強大な敵に勝利した実感、お互いが無事であった安堵感、そして自分達がやり遂げたという達成感に湧くルイズ達。
そんな彼女達に声をかけたのは、森の影から現れたロング・ビルであった。
「ミス・ロングビル!ご無事でしたか!」
「これで全員無事ってことね!『禁断の剣』も取り返したことですし、帰りましょう!」
「……フーケ」
タバサの的確かつ、鋭い指摘。
「おっとっと、そういえばそうね」
「そうよ!フーケはどこ!?きっとこの近くにいる筈だわ!」
「きっと、何処かに隠れているんだわ。そう遠くないはずよ」
「そうね、探しましょ」
ルイズ達が手分けしてフーケを探す為の算段の相談している中、ロングビルがゴーレムと獣との戦いの痕、残骸が残るのみとなったそこへ向かうことを誰も気にしない。
ロングビル、学院の長、オールド・オスマンの秘書である彼女が、奪われた秘宝を回収することに問題など抱くはずも無い。
「ミスタ・ウルザ、お疲れ様でした」
そして、彼女は残骸の中から『禁断の剣』を見つけ出して、ひょいと持ち上げる。
「皆さん、もうよろしいですわよ」
『禁断の剣』を手にした、ロングビルに、ルイズ達の視線が集まる。
「あなた方の役目はここで終わりです。ご苦労様でした。
『禁断の剣』の使い方も分かりましたし、もう必要ありません」
高らかなる勝利宣言。
「え!?ミス・ロングビル!?」
「どういうことなの!?」
応えるロングビル、その口元が妖しく歪む。
「生徒の質問には、答えなくてはなりませんね。
さっきのゴーレムを操っていたのは私。加えて、トリステインの城下町にメイジの盗賊も、学院の宝物庫に忍び込んだのも私。
全て、私のしたこと、これが正解です」
「なるほど、つまり君が…『土くれのフーケ』だったのだね、ミス・ロングビル」
「ええ、その通りですわ、ミスタ・ウルザ。
おっと、動かないで頂戴。私はこの『禁断の剣』でいつでもあなた達を消すことが出来るのよ。
…わかったなら、全員、武器を遠くに捨てなさい」
先ほど、自分達の窮地を救った学院の秘宝、それが今、フーケの手の中にある。
先ほどの衝撃的な結末を見ているルイズ達は、フーケの指示に従い、武装を解除するほか無かった。
生徒三人は杖を捨て、ウルザは剣も捨てる。
「ありがとう、助かったわ。
ふふふ、折角『剣』を奪ったのに、どうしても使い方が分からなかったの。
だから、実際に使わせてみて、使い方を知ろうと考えたのよ。
そうしたら、やっぱり正解だったみたいね。特にミスタ・ウルザには感謝しても感謝しきれないわ。
けれど……あなた達はもう用済みよっ!消えなさいっ!」
フーケが魔力を剣に込め、目の前の邪魔者たちを消滅させるよう、思念を送る。
「………っ!!!」
ルイズ達にとっては幸いにも、フーケにとっては不幸にも、何の変化も訪れなかった。
「…なぜ!?どうして魔法が発動しないのよ!?」
「フーケ。それは魔力を用い『装備』した上で力を溜めねばならない、能力を行使し、力を使い果たしたばかりのそれは、ただの置物に過ぎんよ」
ただ一人、結末が分かっていたように、応えてウルザ。
「それはそもそも、こちらの世界の『禁断の剣』などではない。」
ウルザがゆっくりと手を掲げる。
「解呪/Disenchant」
フーケの手にあったものが、ひび割れ、砕け、かつて『禁断の剣』であったものへと姿を変え、地面へ落ちていく。
「…それは、『神河』と呼ばれる世界の武器だ」
「な、なんてことを……」
手から零れ落ちていく残骸を呆然と見つめることしか出来ないフーケ。
「名を『梅澤の十手』という」
―――梅澤の十手
ハルケギニアともドミナリアとも違う、神河と呼ばれる異世界。
そこで梅澤俊郎という男が、銀と鋼と魔力を用いて作ったとされる武具。
梅澤の十手は三つの力を持つ。
一つ、強化。二つ、弱体化。三つ、癒し。
その強大なる力は「神河」における神同士の争い、
「夜陰明神」と「生網明神」の戦いの行方を左右したほどであったと言われている。
これこそが、一説では、梅澤の十手が神河最高の伝説の至宝であるとされる所以である。
強すぎる力は、更なる力の介入を招く結果となる。
―――ウルザ
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