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#navi(Adventure-seeker Killy in the magian world quest)
LOG-11 脱出
道のりは、狭く、短いものであったが、そこに蠢く亜原人の密度は、極めて高いと言える。
この点に限って言えば、異例の行動であった。
殲滅を目的として不法居住者の集落へ接近、さらには潜伏を行った経験も、未だに強く記憶されているが、純粋に通過しようとしたのはこれが初めてかもしれない。
事態をさらに異例なものへと変えるのは、付近を動き回る有機体が明確な害意を持ってこちらへの接近を試みていることだ。
相手が珪素基系であるというのなら、過去に似たようなことがあったわけでもなかったが、貧弱な有機体が、よもや自分のような存在を積極排除しようとするとは、想定すらしなかったことである。
女は、コートをゆっくりはためかせて、古い建造物の間を闊歩していた。
まるで周囲の敵意を意に介していない。
辺りにあるのは、ネットスフィアの知識を借りるなら、古代ギリシャ、あるいはゴート風(ゴシック)といった、一部の建設者や古い集団が好む様式の、原始的構造である。
いくらか技術が進歩したとしても、ほんの幾らか昔に、このようなものを大真面目に作っていたのだとしたら、やはりお里が知れる。
もともとはそれなりの技術と知識を持った植民者だったとしても、時が経つうちに様式美以外にとりえのない原始構造物を作ることしかできないほど落ちたのだろう。
こうしてつまらぬ分析をしながら歩くうちに、この風化の激しいかつての集落の一角に到着した。
損壊はつい最近のもので、先ほど襲撃してきた連中と同じ技術に加え、また別の技術で行われた痕跡がある。
そして、そこに転がる亡骸も、今までの連中とは大きく違っている。
彼らは、劣化と退化こそしているが、列記とした人類の姿をしていた。
「101110010010010―――」
彼女はその亡骸の中に、まだ機能を自発的に落としているだけのものが混じっていることに気づき、情報を発信した。
「驚いた、その言葉をまだ覚えている奴なんて、何千年紀ぶりだ」
無数の取るに足らぬ原住民の亡骸に交じり、古い強化プラスチックと金属繊維でできた旧型のスーツをまとった、それなりの技術で作られ、後に自力で半ば機械化されたらしい体が片手で数えるほど転がっている。
うちの一つは、脚が砕け、循環器系の中心部を貫かれているが、脳とそれを維持する機能は無事であるらしい。
彼は、こちらの通信を正しく聞き取り、翻訳したが、それでもまるで理解できていなかった。
「でも俺たちは全部忘れちまってる。悪いが別な方法にしてくれ」
声は、肉体的衰弱ではなく、精神的なショックで弱っているらしい。
「あなた達の知っていることを話してほしい」
「………失われた古代のテクノロジーを復活させたって噂だ、あの“統治局”は、な」
―――統治局
彼は今しがた耳にした雑音に近い信号を聞いて、まさかと思いつつも、今となっては懐かしき、神の如き力の片鱗を感じ取ったのだ。
「何が言いたいの?」
ようやく振り向いた男は、皮肉めいた感じで笑いながら続けた。
「もし、帰る方法を知っているなら、俺を生かして元の階層に帰してくれ…危害を加える気なら、俺の脳は自壊させる。情報は―――」
「あなた達、ネットスフィアの規約に反するだけの不法居住者を駆除する気はない。統治局は端末遺伝子を持たない者でも、規則が許す限りは保護する」
「―――……俺の持っている、完全な情報のすべてだ」
首から旧世代の接続端子を引き出すと、“統治局”の女は、指を溶かして同世代の接続端子に変成すると、そこに繋げた。
刹那、すべてが引き出され、彼女は目の前の男と同じかそれ以上に理解した。
知識と機能、都市とネットの恩恵が失われた世界で、すべてに恐怖し、膨大な時を震えながら過ごす日々
臨時に治安維持を開始した安全装置との不毛な戦い
そして敗北と、逃走
不可解な転移
数世紀にわたる原始世界の放浪と、襲いくる脅威との闘争
消耗
二度目の敗北
ボロボロの情報であり、特に古いものはほとんど廃棄されてしまっていた。
残りの部分は、いわゆる人間の記憶のような不確かなものが、微かにこびりついているだけだ。
「残りは言語基体をフォーマットできてない」
接続端子をしまうのを見て、質問を続ける。
「なぜ、超構造体を越えたの?」
不安定な廃棄階層を行き来することが、彼らがこのような場所で無意味な死を迎える結果を生んだのだろう。
とすれば、当然の疑問だった。
「ずっと前に、端末遺伝子を探している男が、機能の生きている居住区を片っ端から回ってた」
遠い目の男は、あいまいな記憶を探る。
「恐らく3000階層か5000階層以上は下から来たはずだ、詳しくはわからないが…俺たちの集落にそれがないと知ると、また別の場所へ向かっていった。
奴は失われた知識と技術を持ってた。建設機械の行動に干渉できたし、決して壊すことのできない統治局の駆除系を、奴は殺せたんだ。誰もが奴が言ったことを信じた。
階層都市は、俺たちが知っていたほど小さいものじゃなくなってる。退化した連中の神話にあったように、無限に連続しているなんてことはないだろうがな。
下に何千階層も下ることはできないが、増築された上の階層には“新天地”があるんじゃないかと思った。あの男が目指す、正常な遺伝子か何かのある場所も、もしかしたらあるかもしれない。
幸い、俺たちには統治局の代理構成体や、擬装個体を殺せる武器と、超構造体を超える技術があった。だから生き残りを集めて旅に出た。
古い記憶媒体や通信じゃ、遊牧民なんて呼ばれて、シェルターを渡り歩いている連中も、実在したらしいからな。
でも駄目だったんだ………廃棄階層、壊滅したり人以外に汚染された区画。俺たちはいつの間にかここに飛ばされた………
後のことは、見てのとおりさ。どこのどいつともしれない、人間や都市の機械に似た原始的な有機体が、ある日から断続的に襲撃してきた。
何が原因かは知らんが、こうなった以上はどうしようもない。俺たちは一度死んだら死にっぱなしの体になっちまってる…連中の数で押しつぶされた。ついこの間のことさ」
話しながら、傷だらけの腕で、近くに落ちていた自動小銃を手繰り寄せると、弾倉と蓄電池を交換し、いつでも射撃可能な状態にする。
「さあ、約束だ。俺を連れてってくれ………俺の知覚システムじゃ捕捉できないが、奴らの生き残りが辺りをうろついてるはずだ」
「敵については何か知っている?」
「ただの蛮族じゃない。忘れたんじゃなくて、あいつら本当に何も知らないんだ………見つけたら話し合いなんてせずに、迷わず“駆除”しちまってくれ」
その点について、自分ひとりであれば何の問題もない。
だが、彼の持つ、原始的な化学反応とひ弱な電磁作用に頼った火器は、いささか頼りない。
何より、歩行すら不可能な損傷を負った彼を連れて行くのは、少し骨が折れそうだ。
「脚の機能を復元する」
帰還させるか否かは措くとしても、背負っていくわけにもいかない。
かといって、すでに見返りを受け取っていながら放置するような行為はあってはならなかった。
また、いわゆる対処療法として、可能な限りの生存者の保護は統治局内でも推奨されている行為であり、優先レベルは高い。
「早くしてくれ」
どろどろとした腕から無数の紐が伸び、千切れた脚と、もともとそれがぶらさがっていた場所を繋いでいく。
…見るからに隙だらけの行為だった。
突如、男は傷ついた上体を起こし、小銃を構える。
治療者が無数の触手で抑え込まれ、金属片が頭部を貫いたのだ。
しゅっ、という滑るような音とともに、一発の榴弾が打ち出され、次に自分へ突き刺さろうとした触手の塊を爆砕した。
しかし、敵の追撃は続く。
全力で姿を隠していた敵は、想像より近い位置から急速に接近する。
金属音を発して小銃が震え、一発の銃弾が回転しながら、先ほどの金属片を飛ばした狙撃者の頭部を粉砕したが、残りは障害物を盾に接近している。
銃を向けると接近をあきらめ、すぐに隠れようとするが、ほかの敵は構わず寄ってくるため、全員の頭は抑えきれない。
フルオートで射撃し、二体に壁ごと大穴を開け、上半身を丸ごともぎ取るが、背後から接近した二体が自分の間合いまで滑り込んだ。
大気中の水分を凝縮して氷の拘束具として抑え込み、そのまま止めを刺すべきく刃を引き抜く。
だが、その刃は弱く、思い切り斬りつけても、小銃を叩き落とすだけで腕を切断するには至らなかった。
それどころか固いものをたたいた反動で相手がよろめいたので、そこを不完全ながら修復された片足で蹴りつけると、折れた骨が呼吸器に突き刺さり、貧弱な有機体は血潮を吹き出しながら折れた柱に倒れこむ。
続く一体は、同じく刃を引き抜いたが、そこには何らかの力場が発生している。
彼らの技術だろうが、とにかくこれで斬り付けられれば、先ほどの数十倍の圧力がかけられ、致命傷を負うことになってしまう。
あわてて銃を持っていた腕で抑えると、渾身の一撃は頭上で静止した。
この、数えれば5秒とない時間は、振り下ろす側の体力が限界になると同時に、次なる攻撃手段を行使することを可能とした。
不可視の刃が腕を切り裂き、襲撃者の刃は自由になる。
双方が勝負の結果を覚悟したが、勝負がつくことはなかった。
「………………」
先ほど殺害したはずの女が、仲間の死体を二つほど生産したうえで、こちらの銃口を向けているのを見て、襲撃者は絶句する。
この隙があったからどうということはないが、少なくともその下で腕を引き裂かれた男から僅かばかり離れた状態で撃ち殺せた。
眼のフィルターが切り替わり、無数の情報と警告が、第三者の目にもわかるよう、空中に表示される。
もちろん、理解させる必要もないので、引き金は即座にひかれた。
襲撃者の肉体は瞬時に原子すら残さず破壊され、膨大なエネルギーが解放。
その余波は、付近の建造物をなぎ倒し、銃から発せられた力場に沿って円錐状の熱と光の海を作った。
射角のおかげで、それはほとんど空へ向かって伸びていったが、それでも驚くべき光景といっていい。
残りの敵は、これを見て撤退したか、そのまま死んでしまった。
舞い上げられた塵は、震えた大空と雲から降り注ぐ雨粒によって、地面に打ち付けられる。
このショックで、男は意識を取り戻した。
「やっぱり統治局だったんだな」
血液を失いすぎた体は、脳に思考を続けさせる能力を失っている。
パウチから、一つの記憶装置を取り出すと、それを地面において、ゆっくりと続けた。
「遠征隊の人格と経験がバックアップされてる。集落に戻れば、ここ数世代の遺伝情報もある………だが、もうヒーゼンは…最後の脳髄技師は、技術を保存する前に死んじまった。遺伝子技師はここで死んだ―――」
ここで少し考える。
いつもなら瞬時であったはずの判断は、ひどく時間がかかるのだ。
「―――まあ、もう、どうでもいいことだ………」
保存してくれ―――そう訴える前に、疲労と衰弱で、気怠そうに締めくくった。
間もなく彼は機能を維持できなくなり停止したが、かつての一時的な肉体の死と違って、もう復旧することはないだろう。
ここで道草を食う意味を失った女は、記憶装置の中身を走査し、より高性能な自身の記憶装置へと転写すると、また無気力そうに歩き出した。
変化があるとすれば、歩いていく方向のみ。
ここ数時間で、周辺で活動していたうちのほとんどを殺害したが、生きて情報を持ち、逃げ出した襲撃者の“逃げ込む先”。
足取りを辿るのは容易い。
一先ず寄り道すべき場所はそこだった・・・
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