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「The Legendary Dark Zero 17」(2012/10/12 (金) 00:26:17) の最新版変更点
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&setpagename(Mission 17 <苦渋のロングビル> )
#settitle(Mission 17 <苦渋のロングビル> )
#navi(The Legendary Dark Zero)
吹き付ける夜風は今の時期だと肌寒さを感じるものである。
しかも今、その風の強さは普段よく浴びるそよ風などというものではなかった。
何しろここは空の上。地上から軽く千メイル以上も超えた高さなのだ。
ルイズ達が乗船したフネはラ・ロシェールを離れ、夜空に広がる大海原へと飛び出していた。
乗船した際、本来は明日に出航する予定であったために船員達は何の準備もしておらずに甲板で寝込んでおり、
おまけに酒まで飲んで酔っているという有様であった。
初めはいきなり乗船してきたルイズ達にも失礼な態度で応対していたが、そこをワルドが凄みを効かせてやることで
船員達を正気に戻し、船長への交渉を行った。
まず、直接密命を賜っているワルドが自分の身分を明かして早急にフネを出航させるように命じたが、
それは無理な話だと船員達も反論してきた。
何しろアルビオンがラ・ロシェールに最も接近するのは翌日であり、フネが動力源として積載している風石の量では
アルビオンまでの最短距離分までしか飛べないのである。
だからと言って、それ以上を積もうものならばそれは不法となるために足が付いてしまうのだ。
さすがにその言い分は通るため、ワルドは自分の風の魔法で風石の足りない分を補うということになった。
スクウェアクラスのメイジである彼ならば、それくらいは朝飯前だろう。
さらにワルドはフネの上からでも見える異変を指摘したため、船員達は血相を変えて大急ぎで出航の準備を進めていた。
……港のすぐ近くで、巨大なゴーレムが暴れているのを目にすれば誰だって腰を抜かすはずだ。
ルイズ、キュルケ、ギーシュはフネの上から巨大なゴーレムを相手に立ち回っているスパーダとタバサを
眺めることしかできないことを歯痒く感じており、それはフネが出航してからも同様だった。
出航したフネは見る見る内にラ・ロシェールを遠ざかっていき、すぐにゴーレムやスパーダ達も見えなくなっていたが、
ルイズだけは未だに甲板から身を乗り出して港があった方向を見つめ続けている。
その落ち着きがない曇った表情は、明らかに不安で満ちていた。
「ルイズ。大丈夫かい?」
側に歩み寄ってきたワルドが肩に触れてくるが、ルイズは振り返らなかった。
「大丈夫さ。ミスタ・スパーダのことだ。あんなゴーレムごときにやられはしない。
それに、タバサ君はトライアングルのメイジだそうじゃないか」
スパーダは確かに、あれだけの巨大なゴーレムの攻撃さえも剣で受け止めてしまうほどの実力の持ち主。
おまけにタバサはシュヴァリエの称号を賜わっている、まだ学生ながらエリート中のエリート。
ワルドの言う通り、そんな二人があの程度のゴーレムにやられるわけがない。
……だからこそ、悔しいのだ。
「でも、あたしは本当は彼のご主人様で……パートナーなのよ……」
本当はパートナーであるはずなのに、自分は何の力にもなれないことが。
「ならば、そのパートナーを信じて待とうじゃないか。彼がいない間は、僕が君を守る」
ワルドが肩を抱いてきて、ルイズを甲板から船内の方へと連れて行こうとする。
途中、ギーシュが何かに抱きついて頬を擦り寄せている姿が目に入った。
「ああっ、ヴェルダンデ! ごめんよ、君を置いて来たりして!」
そう。ギーシュが抱きついているのは彼の使い魔であるジャイアントモール、ヴェルダンデだったのだ。
ヴェルダンデは頬を擦り寄せるギーシュにモグ、モグ、と鳴きながら甘えている。
「こんな所まで追ってくるなんて、ずいぶんと主人思いなのねぇ。
いつのまに乗り込んだのよ?」
ルイズが目を丸くする中、ギーシュの隣で呆れた様子でそれを眺めていたキュルケが尋ねる。
「ああ、実は出航する直前に港の階段を上がってくるのを見たんだ」
「……ずいぶんと器用なモグラね」
ギーシュが嬉しそうに感心する中、キュルケは嘆息を吐いて肩をすくめていた。
(ギーシュの使い魔は、主を追ってここまできた……)
使い魔と戯れるギーシュの姿を見て、ルイズは胸に置いていた拳を握り締める。
本来ならばこんな場違いとも言える使い魔でさえ、主を追ってやってきたのだ。
だったら、スパーダ達もきっと自分達を追ってきてくれるはず。
ルイズは自分のパートナーが必ずまた、自分達の前に現れてくれることを心より願った。
パートナーである彼を信じること。
今、自分にできることはそれしかないのだ。
ほんの十数分前まで戦場だった女神の杵亭では、未だにスパーダに倒された傭兵達が床に倒れ伏していたままだった。
急所こそ外れているものの、負わされた傷ではまともに動くことはできない。
客達は既に店を後にするか、自分の部屋に閉じ籠ってしまっている。店員達の姿もない。
そんな中、被害に遭っていない隅のテーブルで席につく三人の男女がいた。
銀髪の男は自らの愛剣を側に立てかけ、その隣の席につく青い髪の少女は黙々と本を読んでいる。
「奴らや君を送り込んだのは、アルビオンだな?」
スパーダは傭兵達を顎で指しつつ向かいの席についている緑の髪の女性、ロングビルに語りかけた。
「……ええ、そうよ」
両手を膝に置いたまま俯いているロングビルは苦悩に満ちた表情で答えると、この数日の出来事を語り始めた。
彼女が帰省と称して学院を出る前の日、アルビオンの貴族派から派遣されたメイジが自分の力を欲して
仲間になるよう持ちかけてきた。
おまけに、そいつはロングビルが〝土くれのフーケ〟であったことや、かつてはアルビオンの貴族であったことまで知っていたのだ。
もちろん、ロングビルはそれを拒んだ。……だが、彼女がアルビオンの故郷で大事にしている身内が
人質に取られてしまい、結果的に彼らへの協力を強いられることとなったのだという。
彼女には、選択の余地はなかった。
実にありきたりな脅迫だと、スパーダは呆れていた。
「……ああ。君はまだ知らないのだったな」
ロングビルがフーケである真実を知らないタバサがちらりとスパーダに目配せをしてきたが、
簡潔に真実と既に足を洗っていることも話してやると、すぐにまた本に視線を移していた。
「……それで、その身内とやらは無事なのか」
「ええ、ひとまずはね」
ロングビルの表情はますます苦しく、痛ましいものへと変わっていく。
「……でも、あいつらは本気であることを示すために、その子以外の孤児達を皆殺しにしていた。
一度、協力を拒んだ罰だと称してね……」
唇を噛みしめ、拳も強く握り締めるロングビルは顔を背ける。
よく見ると、泣いているようだ。僅かに嗚咽を漏らしているのが聞こえてくる。
スパーダはそんな痛ましい姿を見せるロングビルをじっと見つめ続けていた。
「あいつら、やっていることが人間じゃない。あの子達を……魔物を作る材料にしていたのよ?
しかも……〝失敗作〟とか何とか言って、ゴミを始末するみたいに……」
その子供達は相当、えげつない方法で処分されたのだろう。そして、それを彼女は見てしまったのだ。
彼女が守ろうとしていた者達をそれほどまでに残酷な手段で殺されたのだ。相当、ショックを受けたに違いない。
そして、それほどまでの残酷なことを平気で行えるアルビオンの貴族派とやらは相当な外道らしい。
それこそ、悪魔がやることだ。
「あいつら、悪魔よ……」
「そうだろうな」
「だから、たった一人残ったその子を守らないといけなかった。
私はそいつらの命令に従って、野盗や傭兵達をけしかけたのよ。
……あなた達を分断させるために」
「分断だと?」
「本来の計画では、ここであなた達の中から極少数をアルビオンへ行かせるようにする手筈だった。
でも、あなたがあいつらを全滅させたから、私が出ることになったわ。あなたを足止めにするか、倒すためにね」
「私をか?」
何故、スパーダ直接狙ってをここで足止めにしたり倒す必要があるのか。
「連中にとって、計画の障害になるものは確実に廃したいのよ。
あなたは私のゴーレムも倒せる力があるから、それが目障りだったんでしょうね」
ロングビルは、フッと口元を歪めて苦笑しだす。
「何故、アルビオンの貴族派が私のことをそこまで知っている?」
その外道などに知り合いはいないはずだ。
なのにどうして、スパーダの情報を詳しく知り得ているのか。
「……もしかしたら、身近であなたの力を見た奴がいるのかもね」
力なく、意味深げに微笑を浮かべるロングビル。
その言葉を聞いたスパーダは顎杖を突き、顔を僅かに顰める。その言葉が意味するのは……。
すると、隣のタバサがぽつりと呟いた。
「わたし達の中に、アルビオンの手先がいる」
「やはり、そうなるか」
スパーダも考えていたことを彼女が口にし、本人も頷いた。
まずスパーダやタバサ、そしてルイズは論外だ。
だとすると残りの三人が候補となるが。
「キュルケは、大丈夫。安心して」
無二の親友のことを信じているタバサは彼女が白であることを強い調子で呟く。
あの二人は相当に仲の良い友人であることはスパーダも理解している。ならば、タバサの言葉に嘘偽りはないだろう。
……自分の弟子であるギーシュには、残念だが動機があるので疑いをかけなければならない。
先日もルイズの部屋の前で盗み聞きをしていたし、積極的に任務に参加しようともしていたのだから。
逆に言えばそれくらいしか怪しい部分はないし、スパイなどという器でもないのだが。
そしてもう一人、ワルドに関してだが……彼が最も怪しい存在だ。
これまで彼が取ってきた行動の端々にスパーダは疑問を持っていた。
まず、学院を出発してからここまでの道中、彼はノンストップかつ全力でグリフォンを飛ばしていた。
出発した時から全力で行かずに予定通りに馬と同じ速さで進めばスヴェルによってこの町で足止めになることもなく、それこそノンストップでフネに乗れていたはずである。
それくらいのことはハルケギニアの人間である彼ならば分かっていそうなものだ。
あれではまるで、自分達を襲ってくださいと言っているようなものである。
それに全力で飛ばしていた彼はグリフォンとは明らかに身体能力に差がある馬に乗っていた自分達のことなど気にしていなかったようだ。
何より、遅れるならば置いて行けば良いとそんなことを言っていた気がする。
もしも本当に遅れていれば、あの野盗達は自分達を集中攻撃してきただろう。
それにあいつらはワルドのグリフォンに対してはほとんど攻撃していなかったし、そもそも彼に対する攻撃も
まるで打ち合せ通りと言わんばかりのものだったように見える。
……だが、これらは推測に過ぎない。もう少し、様子を見る必要がありそうだ。
「まあ、今はそれについては置いておこう。
それで君はこれからどうする気だ? まだ、奴らの元にいるのか」
スパーダに問われ、ロングビルは苦渋に満ちた表情を浮かべる。
「できることなら、あの子を助けだして逃げたいわよ。……でも、私の力じゃそれはできないわ」
悔しそうなロングビルの言葉を聞いたスパーダは何かを決断したように頷く。
「助け出す気は、あるのだな」
こくん、と弱々しくロングビルは頷く。
しばし黙ったまま、ロングビルを睨むように見つめていたスパーダは無言のまま、リベリオンを背に戻しつつ席を立つ。
ロングビルとタバサはそんな彼を怪訝そうに見上げた。
「もしも身内を助けたいのであれば、いつでも訪ねに来い。
最も、今はこちらの用があるからすぐにとはいかん」
そう言うと、スパーダは踵を返して店を後にしようとする。タバサも自分の杖を手にし、その後をついていった。
残されたロングビルは俯いていた顔を上げて立ち上がると、声を上げる。
「アルビオンの、シティオブサウスゴータの酒場で待っているわ」
スパーダは肩越しに振り向くと無言のままこくりと頷き、倒れ伏している傭兵達を跨いで店を後にした。
外へ出ると、タバサが指笛でシルフィードを呼び寄せ、その背に乗ると空へと舞い上がった。
店の外へ出てきたロングビルは哀願の眼差しのまま、月明かりの中を飛び交い、遠ざかっていくシルフィードを見送り、ぼそりと呟く。
「……もう、頼れるのはあなただけなのよ……」
#navi(The Legendary Dark Zero)
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#settitle(Mission 17 <苦渋のロングビル> )
#navi(The Legendary Dark Zero)
吹き付ける夜風は今の時期だと肌寒さを感じるものである。
しかも今、その風の強さは普段よく浴びるそよ風などというものではなかった。
何しろここは空の上。地上から軽く1000メイル以上も超えた高さなのだ。
ルイズ達が乗船したフネはラ・ロシェールを離れ、夜空に広がる大海原へと飛び出していた。
乗船した際、本来は明日に出航する予定であったために船員達は何の準備もしておらずに甲板で寝込んでおり、
おまけに酒まで飲んで酔っているという有様であった。
初めはいきなり乗船してきたルイズ達にも失礼な態度で応対していたが、そこをワルドが凄みを効かせてやることで
船員達を正気に戻し、船長への交渉を行った。
まず、直接密命を賜っているワルドが自分の身分を明かして早急にフネを出航させるように命じたが、
それは無理な話だと船員達も反論してきた。
何しろアルビオンがラ・ロシェールに最も接近するのは翌日であり、フネが動力源として積載している風石の量では
アルビオンまでの最短距離分までしか飛べないのである。
だからと言って、それ以上を積もうものならばそれは不法となるために足が付いてしまうのだ。
さすがにその言い分は通るため、ワルドは自分の風の魔法で風石の足りない分を補うということになった。
スクウェアクラスのメイジである彼ならば、それくらいは朝飯前だろう。
さらにワルドはフネの上からでも見える異変を指摘したため、船員達は血相を変えて大急ぎで出航の準備を進めていた。
……港のすぐ近くで、巨大なゴーレムが暴れているのを目にすれば誰だって腰を抜かすはずだ。
ルイズ、キュルケ、ギーシュはフネの上から巨大なゴーレムを相手に立ち回っているスパーダとタバサを
眺めることしかできないことを歯痒く感じており、それはフネが出航してからも同様だった。
出航したフネは見る見る内にラ・ロシェールを遠ざかっていき、すぐにゴーレムやスパーダ達も見えなくなっていたが、
ルイズだけは未だに甲板から身を乗り出して港があった方向を見つめ続けている。
その落ち着きがない曇った表情は、明らかに不安で満ちていた。
「ルイズ。大丈夫かい?」
側に歩み寄ってきたワルドが肩に触れてくるが、ルイズは振り返らなかった。
「大丈夫さ。ミスタ・スパーダのことだ。あんなゴーレムごときにやられはしない。
それに、タバサ君はトライアングルのメイジだそうじゃないか」
スパーダは確かに、あれだけの巨大なゴーレムの攻撃さえも剣で受け止めてしまうほどの実力の持ち主。
おまけにタバサはシュヴァリエの称号を賜わっている、まだ学生ながらエリート中のエリート。
ワルドの言う通り、そんな二人があの程度のゴーレムにやられるわけがない。
……だからこそ、悔しいのだ。
「でも、あたしは本当は彼のご主人様で……パートナーなのよ……」
本当はパートナーであるはずなのに、自分は何の力にもなれないことが。
「ならば、そのパートナーを信じて待とうじゃないか。彼がいない間は、僕が君を守る」
ワルドが肩を抱いてきて、ルイズを甲板から船内の方へと連れて行こうとする。
途中、ギーシュが何かに抱きついて頬を擦り寄せている姿が目に入った。
「ああっ、ヴェルダンデ! ごめんよ、君を置いて来たりして!」
そう。ギーシュが抱きついているのは彼の使い魔であるジャイアントモール、ヴェルダンデだったのだ。
ヴェルダンデは頬を擦り寄せるギーシュにモグ、モグ、と鳴きながら甘えている。
「こんな所まで追ってくるなんて、ずいぶんと主人思いなのねぇ。
いつのまに乗り込んだのよ?」
ルイズが目を丸くする中、ギーシュの隣で呆れた様子でそれを眺めていたキュルケが尋ねる。
「ああ、実は出航する直前に港の階段を上がってくるのを見たんだ」
「……ずいぶんと器用なモグラね」
ギーシュが嬉しそうに感心する中、キュルケは嘆息を吐いて肩をすくめていた。
(ギーシュの使い魔は、主を追ってここまできた……)
使い魔と戯れるギーシュの姿を見て、ルイズは胸に置いていた拳を握り締める。
本来ならばこんな場違いとも言える使い魔でさえ、主を追ってやってきたのだ。
だったら、スパーダ達もきっと自分達を追ってきてくれるはず。
ルイズは自分のパートナーが必ずまた、自分達の前に現れてくれることを心より願った。
パートナーである彼を信じること。
今、自分にできることはそれしかないのだ。
ほんの十数分前まで戦場だった女神の杵亭では、未だにスパーダに倒された傭兵達が床に倒れ伏していたままだった。
急所こそ外れているものの、負わされた傷ではまともに動くことはできない。
客達は既に店を後にするか、自分の部屋に閉じ籠ってしまっている。店員達の姿もない。
そんな中、被害に遭っていない隅のテーブルで席につく三人の男女がいた。
銀髪の男は自らの愛剣を側に立てかけ、その隣の席につく青い髪の少女は黙々と本を読んでいる。
「奴らや君を送り込んだのは、アルビオンだな?」
スパーダは傭兵達を顎で指しつつ向かいの席についている緑の髪の女性、ロングビルに語りかけた。
「……ええ、そうよ」
両手を膝に置いたまま俯いているロングビルは苦悩に満ちた表情で答えると、この数日の出来事を語り始めた。
彼女が帰省と称して学院を出る前の日、アルビオンの貴族派から派遣されたメイジが自分の力を欲して
仲間になるよう持ちかけてきた。
おまけに、そいつはロングビルが〝土くれのフーケ〟であったことや、かつてはアルビオンの貴族であったことまで知っていたのだ。
もちろん、ロングビルはそれを拒んだ。……だが、彼女がアルビオンの故郷で大事にしている身内が
人質に取られてしまい、結果的に彼らへの協力を強いられることとなったのだという。
彼女には、選択の余地はなかった。
実にありきたりな脅迫だと、スパーダは呆れていた。
「……ああ。君はまだ知らないのだったな」
ロングビルがフーケである真実を知らないタバサがちらりとスパーダに目配せをしてきたが、
簡潔に真実と既に足を洗っていることも話してやると、すぐにまた本に視線を移していた。
「……それで、その身内とやらは無事なのか」
「ええ、ひとまずはね」
ロングビルの表情はますます苦しく、痛ましいものへと変わっていく。
「……でも、あいつらは本気であることを示すために、その子以外の孤児達を皆殺しにしていた。
一度、協力を拒んだ罰だと称してね……」
唇を噛みしめ、拳も強く握り締めるロングビルは顔を背ける。
よく見ると、泣いているようだ。僅かに嗚咽を漏らしているのが聞こえてくる。
スパーダはそんな痛ましい姿を見せるロングビルをじっと見つめ続けていた。
「あいつら、やっていることが人間じゃない。あの子達を……魔物を作る材料にしていたのよ?
しかも……〝失敗作〟とか何とか言って、ゴミを始末するみたいに……」
その子供達は相当、えげつない方法で処分されたのだろう。そして、それを彼女は見てしまったのだ。
彼女が守ろうとしていた者達をそれほどまでに残酷な手段で殺されたのだ。相当、ショックを受けたに違いない。
そして、それほどまでの残酷なことを平気で行えるアルビオンの貴族派とやらは相当な外道らしい。
それこそ、悪魔がやることだ。
「あいつら、悪魔よ……」
「そうだろうな」
「だから、たった一人残ったその子を守らないといけなかった。
私はそいつらの命令に従って、野盗や傭兵達をけしかけたのよ。
……あなた達を分断させるために」
「分断だと?」
「本来の計画では、ここであなた達の中から極少数をアルビオンへ行かせるようにする手筈だった。
でも、あなたがあいつらを全滅させたから、私が出ることになったわ。あなたを足止めにするか、倒すためにね」
「私をか?」
何故、スパーダ直接狙ってをここで足止めにしたり倒す必要があるのか。
「連中にとって、計画の障害になるものは確実に廃したいのよ。
あなたは私のゴーレムも倒せる力があるから、それが目障りだったんでしょうね」
ロングビルは、フッと口元を歪めて苦笑しだす。
「何故、アルビオンの貴族派が私のことをそこまで知っている?」
その外道などに知り合いはいないはずだ。
なのにどうして、スパーダの情報を詳しく知り得ているのか。
「……もしかしたら、身近であなたの力を見た奴がいるのかもね」
力なく、意味深げに微笑を浮かべるロングビル。
その言葉を聞いたスパーダは顎杖を突き、顔を僅かに顰める。その言葉が意味するのは……。
すると、隣のタバサがぽつりと呟いた。
「わたし達の中に、アルビオンの手先がいる」
「やはり、そうなるか」
スパーダも考えていたことを彼女が口にし、本人も頷いた。
まずスパーダやタバサ、そしてルイズは論外だ。
だとすると残りの三人が候補となるが。
「キュルケは、大丈夫。安心して」
無二の親友のことを信じているタバサは彼女が白であることを強い調子で呟く。
あの二人は相当に仲の良い友人であることはスパーダも理解している。ならば、タバサの言葉に嘘偽りはないだろう。
……自分の弟子であるギーシュには、残念だが動機があるので疑いをかけなければならない。
先日もルイズの部屋の前で盗み聞きをしていたし、積極的に任務に参加しようともしていたのだから。
逆に言えばそれくらいしか怪しい部分はないし、スパイなどという器でもないのだが。
そしてもう一人、ワルドに関してだが……彼が最も怪しい存在だ。
これまで彼が取ってきた行動の端々にスパーダは疑問を持っていた。
まず、学院を出発してからここまでの道中、彼はノンストップかつ全力でグリフォンを飛ばしていた。
出発した時から全力で行かずに予定通りに馬と同じ速さで進めばスヴェルによってこの町で足止めになることもなく、それこそノンストップでフネに乗れていたはずである。
それくらいのことはハルケギニアの人間である彼ならば分かっていそうなものだ。
あれではまるで、自分達を襲ってくださいと言っているようなものである。
それに全力で飛ばしていた彼はグリフォンとは明らかに身体能力に差がある馬に乗っていた自分達のことなど気にしていなかったようだ。
何より、遅れるならば置いて行けば良いとそんなことを言っていた気がする。
もしも本当に遅れていれば、あの野盗達は自分達を集中攻撃してきただろう。
それにあいつらはワルドのグリフォンに対してはほとんど攻撃していなかったし、そもそも彼に対する攻撃も
まるで打ち合せ通りと言わんばかりのものだったように見える。
……だが、これらは推測に過ぎない。もう少し、様子を見る必要がありそうだ。
「まあ、今はそれについては置いておこう。
それで君はこれからどうする気だ? まだ、奴らの元にいるのか」
スパーダに問われ、ロングビルは苦渋に満ちた表情を浮かべる。
「できることなら、あの子を助けだして逃げたいわよ。……でも、私の力じゃそれはできないわ」
悔しそうなロングビルの言葉を聞いたスパーダは何かを決断したように頷く。
「助け出す気は、あるのだな」
こくん、と弱々しくロングビルは頷く。
しばし黙ったまま、ロングビルを睨むように見つめていたスパーダは無言のまま、リベリオンを背に戻しつつ席を立つ。
ロングビルとタバサはそんな彼を怪訝そうに見上げた。
「もしも身内を助けたいのであれば、いつでも訪ねに来い。
最も、今はこちらの用があるからすぐにとはいかん」
そう言うと、スパーダは踵を返して店を後にしようとする。タバサも自分の杖を手にし、その後をついていった。
残されたロングビルは俯いていた顔を上げて立ち上がると、声を上げる。
「アルビオンの、シティオブサウスゴータの酒場で待っているわ」
スパーダは肩越しに振り向くと無言のままこくりと頷き、倒れ伏している傭兵達を跨いで店を後にした。
外へ出ると、タバサが指笛でシルフィードを呼び寄せ、その背に乗ると空へと舞い上がった。
店の外へ出てきたロングビルは哀願の眼差しのまま、月明かりの中を飛び交い、遠ざかっていくシルフィードを見送り、ぼそりと呟く。
「……もう、頼れるのはあなただけなのよ……」
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