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&setpagename(memory-28 「Liberation」前篇)
深夜、一時過ぎ。
夜空に煌々と輝く二つの月の光も、鬱蒼とした木々に阻まれ、森の中は闇に包まれている。
その深い闇の中を、風のように駆け抜けるフード姿の男が一人。エツィオであった。
左肩には、今や貴族派にとって死の象徴である、貴き血によって赤黒く染め上げられた亡王のマントが翻っている。
足音も鳴らさず走るその姿を見れば、誰しもがこう思うだろう、――死神と。
動きを悟られぬよう、アルビオンの軍勢で埋まる草原を大きく迂回し森の中に入ったエツィオは、馬を降りて自分の足でタルブの村へと向かっていた。
ボーウッドに示されたルートを辿っていたため、タルブの村に辿りつくのはそう難しいことではなかった。
辿り着いたタルブの村は、イタリアの農村にもよくあるような、こじんまりとした、しかし素朴で美しい村だった。
しかし今は、アルビオン軍に占領され、村のほとんどの家屋が焼け落ち、黒い煙を上げている。そこかしこにはレコン・キスタの旗が誇らしげに掲げられ、
村の中心部の広場には物見櫓が聳え立ち、その上で弓兵が周囲を警戒していた。村を囲むように作られた柵の中には大砲が外へ向けずらりと並べられている。
村の隅には何人か死体が転がっている、そのぞんざいな扱いを見るに、ここの防衛に当たっていたトリステイン軍の兵士達だろう。
そんな異様な村の中を、アルビオン軍の兵士が我がもの顔で闊歩していた。
エツィオは奥歯をギリっと噛みしめると、今にも怒りにまかせ飛び出してしまいそうな己を律するため、大きく深呼吸をする。
逸る心を落ち着かせ、周囲を警戒しながら村の中をじっくりと観察する。幸いにもアルビオン兵の姿はそれほど多くはないようだ。
目下のところ、その多くが大草原で待機しているラ・ロシェール攻撃部隊へとかりだされているのだろう。
さしもの彼らも、拠点防衛に回すほど人員を裂く余裕はなかったようだ。
ましてやここはトリステイン軍の立て籠るラ・ロシェールとは反対方向、ここからだと大草原のアルビオン軍、そして空軍艦隊を挟む形になっている。
そうやすやすと攻め込まれないと判断したのだろう。
そうやってエツィオが中の様子を盗み見ていると。突然、ばっさばっさ、と力強く羽ばたく音が空から聞こえてきた。
竜の羽音だ、その音を聞いたエツィオは、咄嗟に身をかがめる。それから、音がした方を見上げると、なるほどそれは、アルビオン軍の風竜であった。
万一見つかりでもしたらひとたまりもない、エツィオは見つからないように体勢を低くして、それをやり過ごす。
そうやって風竜を目で追っていると、やがて風竜は、村の広場へと降下して行った。
「伝令か?」
その風竜が降りた広場を見て、エツィオは首を傾げた。
見ると、村の広場に兵士たちが整然と並び、集まり始めている。どうやらその風竜を出迎えているようであった。
するとその風竜から、それを操っていた竜騎士と共に一人の立派な貴族が広場に降り立つのが見えた。
貴族は広場に降り立つと、防衛部隊の隊長と思わしきメイジと何やら話しこんでいる。
「あれは……」
エツィオはその貴族を見て、首を傾げた。
ここからでは距離が遠すぎてよく確認出来ないが、こうやって兵士たちに出迎えられているということは、かなり地位の高い貴族であることには間違いない。
もしかしたら、彼こそがこの地上部隊の指揮官なのかもしれない、と見当を付けた。
話が終わったのか貴族は、元は村長が使っていたのであろう、村の中でも大きな家の中に入ってゆく。
それから、兵隊長が号令をかけ、兵士たちは明日の戦へと向け、それぞれの軍務へと戻って行くのが見えた。
エツィオは兵達の動きが落ち着きを取り戻すまで待ち、頃合いを見計らって物陰に隠れながら村へと近づいてゆく、
すると、一人のアルビオン兵士が斧槍に寄り掛かってうつらうつらと船をこいでいるのが見えた。
どうやら彼は、この付近の見張りを任されているようだ。彼の他に周りの兵士の姿はない。
エツィオは僅かに口元に笑みを浮かべると、職務怠慢な彼の足もとに、一枚の銀貨を放り投げる。
ちりん、と硬貨が涼しい音を立てる、すると彼は目を覚まし音がした足元を見つめ、思わず顔をほころばせた。
「おほっ、銀貨じゃねえか」
兵士は喜んでそれを拾い上げる、すると数歩先に、もう一枚銀貨が落ちていることに気がついた。
思わぬ拾い物に兵士は顔を輝かせそれも拾い上げる、するとまた数歩先に、今度は金貨が落ちていた。
「おおっ! 今度は金貨! まだどっかに落ちてないかな?」
それも拾い上げた兵士が、あさましくもまだ落ちていないか周囲の地面を見回す。
すると今度は……。なんと財布と思われる布の袋が落ちているではないか!
「財布じゃねえか! 神様ってのはいる――っ!?」
兵士は思わず斧槍を放り出し、喜んでそれを拾い上げようと身をかがめた、その瞬間。
突如闇の中から伸びてきた手が、兵士の口を力強く塞いだ。
兵士は自分の身に何が起こっているのかわからず目を白黒させる。その手は兵士の身体を軽々と持ち上げ、木の幹に叩きつけた。
全身に走る強い衝撃で兵士は意識を手放しかける、半ば薄れかかった視界の中、首筋に突きつけられた短剣を目にし、恐怖のあまり兵士は言葉を失った。
「――っ! ……っ!」
「今から手をどける、……俺が言いたいことくらいわかるな?」
少しでも意に逆えば即座に殺される。そう感じた兵士はこくこくと必死に頷いた。
エツィオは兵士の胸倉をつかむと冷たい表情のまま口を開いた。
「お前に聞きたいことがある、答えてくれるな?」
「わかった! なんでも答える! ぼ、暴力はやめてくれ!」
「振るう側のお前がそれを言うのか? なかなか笑える冗談だ。……だが、それには賛成だ、俺も出来れば暴力は控えたい」
その言葉とは裏腹に、敵兵の首に突きつけた刃先に、僅かだが力を込めた。皮膚が切れ、流れ出た血が一筋、敵兵の首の上を滴り落ちた。
恐怖に凍りついた敵兵に、エツィオは低い声で尋ねた。
「先ほど風竜で降りてきた貴族がいたな、そいつは何者だ」
「サー・ジョージ・ヴィリアーズ公だ! 議会議員の!」
「議会議員? ということは……」
「そ、総司令官だ! 明日俺達はラ・ロシェールに総攻撃をかける予定なんだ! その指揮の為にここに……!」
その言葉に、エツィオは薄く笑った。なんという僥倖だろう、まさか相手からこっちに来てくれるとは。
だがその笑みを極力悟られぬように、平静を装ってさらに訊ねる。
「お前達が捕らえた捕虜はどこにいる?」
「む、村の離れだ! あそこの納屋と家畜小屋だ! 鍵は見張りが持つことになってる! ほら、あいつだよ!」
兵士が視線を向けると、なるほどそこには見張りの兵士が一人、納屋の前に立っていた。
エツィオは、小さく頷くと、兵士へと視線を戻した。
「なるほどな……分かった、お前の言葉に偽りがなければ、だが」
「い、偽りなどない! も、もういいだろう! 正直に話したんだ、放してくれ!」
「放す? 放せば報せに走るだろう?」
「だ、誰にも言わない! 誓ったっていい! ずっと黙ってる!」
「……なら約束してくれ」
エツィオがそう言うと、兵士は心底安堵したように頷いた。
「あ、ああ、約束する、約束すると……っ!」
兵士の言葉はそこで途切れる。
いつの間にかエツィオは兵士の太腿にアサシンブレードの先端を突き刺していた。刺しはしたものの、傷口は浅く、少し血がにじんだ程度である。
しかしどういうわけか、兵士の顔色は見る見るうちに変わり、目を大きく見開くと、ばたりと仰向けに倒れ伏した。
そして全身に緊張を起こした後、やがて動かなくなった。
「おでれーた、それ毒剣だったのかよ」
その様子を見ていたデルフリンガーが、カチカチと音を立てる。
「ああ、毒はレオナルドご自慢の特別製だ、効き目は……見ての通りみたいだな」
エツィオはニヤリと笑みを浮かべると絶命した兵士の死体を担ぎあげる。
そして暗がりの中に下ろすと、兵服と鉄兜をはぎ取った。殺害に毒を用いた為、血は付いていない。
エツィオはすばやく敵兵の服に着替え、死体を草むらの中に慎重に隠した。
それから放り投げられた斧槍を拾い上げ、何食わぬ顔で村の中に入ってゆく。
見破られはしないかと、内心不安を抱いていたエツィオであったが、夜の闇も手伝い、他の見回りの兵達は中身が入れ替わったことに全く気が付いていないようだ。
まんまと村の内部に潜入することに成功したエツィオは、自分の作戦がうまくいったことにほくそ笑みつつ、村の構造、敵兵の配置を把握するために歩き出す。
やはりというべきか、損壊を免れた家屋の多くは、アルビオン軍に利用されていた。ある家は兵達の宿舎として、またある家は武器火薬庫として。
それからエツィオは村の広場へと視線を送る、そこには先ほど総司令官が地上に降りるために乗ってきた風竜が一匹繋がれていた。
どうやらこの村にいる竜はこの一匹らしい、数が少ないのはいいが、それでも生身の人間 にとっては十二分に脅威である。
これはどうしたものかと首を傾げていると、不意に声をかけられた。
「おい、そこの貴様」
「はいっ!」
エツィオが振り返り、下っ端らしく威勢よく返事をする。
すると目の前には一人の騎士が、牛や豚の肉の塊が入った手桶を持って立っていた。
「悪いが竜に餌をやっといてくれないか」
「自分が……ですか?」
「そうだ。なに、そんなに怯える必要はない、別に取って食われやしないんだから、とにかく頼んだぞ」
「りょ、了解しました」
騎士はエツィオに手桶を手渡すと、そそくさと立ち去ってゆく。
その場に取り残されたエツィオは手桶の中身と風竜を交互に見やった。
別に従う必要もないが、不審な動きをしてばれてしまっては元も子もない、エツィオは意を決したように、そろそろと風竜に近づいてゆく。
以前、タバサの風竜の背に乗せてもらったこともあったが、やはりその巨体を目の前にすると竦んでしまう。
エツィオはおそるおそる手桶の中の肉片を風竜の前に置いてみる。ちょっと腰が引けている。
すると腹をすかせていたのか、風竜はがつがつと肉をおいしそうに食べ始めた。
ほっ、と胸をなでおろし、エツィオは残りの肉を風竜に与える、そして最後の一つをやろうとしたその時、何かを思いついたのかエツィオはその手を止めた。
「悪いが、これはまた後でな」
どこか不満そうな目でこちらを睨みつけてくる風竜にエツィオは小さく笑みを浮かべると、その場を後にし、肉の入った手桶を物陰に隠しておいた。
そうして風竜に餌をやり終えたエツィオは調査を続行する、頭の中で作戦を練りながら、捕虜たちが囚われているという離れへと近づいてゆく。
するとその姿に気が付いたのか、納屋の警備をしていた兵士がこちらに手招きをしてきた。
「おいっ……、おいっ、そこのお前だ、ちょっと」
「はい!」
先ほどと同じように返事をし、エツィオがその兵士の元へ走り寄る。
すると兵士は、なにやら落ち着きのない様子でエツィオに囁いた。
「な、なあ、ちょっとお前に頼みがあるんだ」
「何でしょう?」
「少しの間でいい、見張りを代わってくれないか?」
思わぬ申し出にエツィオは思わず口元が緩みそうになる。だがそれを悟られぬように、エツィオは頷いた。
「了解しました」
「へへっ、すまねえな、後でお前にもいい思いをさせてやるからよ」
兵士はそう言うと下卑た笑みを浮かべながら、どういうわけか納屋の鍵を開け、その中に入っていった。
それを見送ったエツィオは周囲に他の兵士がいないことを確かめ、納屋の取っ手に手をかけようとした、その時だった。
納屋の中から、何かを殴りつける音が聞こえてくる。それから何かを引きずる音……。
拷問か? エツィオは顔をしかめながら納屋の扉を開ける。中はやはりというべきか真っ暗闇で、その中には傭兵達と思われる男達がすし詰めに拘束されていた。
しかし先ほどの兵士の姿は見えない。エツィオは近くにいた傭兵の元に歩み寄り訊ねた。
「おい、今入ってきた奴はどこにいった?」
「い、今、隊長を連れて、向こうの部屋に……」
アルビオン兵士の格好をしているためか、どこか怯えたような様子で傭兵が答える。
エツィオはすぐに兵士が入って行ったという扉の前に行き、音を立てぬようにゆっくり扉を開けた。
そして、その中の光景を見てエツィオは目を疑った。
窓から漏れる月明かりに短く切った金髪がきらめき、その下に青い瞳が泳ぐ。
白い肌、細い首、一目で女性とわかる、しなやかできめ細やかな素肌が月光の元に晒されていた。
彼女の足元には、無理やりに引き裂かれたのであろう革鎧が無造作に落ちている。
思わずその姿に目を奪われてしまっていたエツィオだったが、継いで目に入ってきた光景に我を取り戻す。
先ほどの兵士が、彼女にのしかかるようにして襲いかかったのだ。
考えるまでもなく、エツィオは即座に兵士の背後に忍び寄り、頸部をアサシンブレードで貫いた。
「見下げた奴だ」
言葉も発せずに絶命した敵の死体を見つめながら、エツィオが吐き捨てるように呟く。
それから、突然の光景に言葉を失っている女の拘束を解いてやる。そして鉄兜を脱ぎ捨てると、安心させるようににこりとほほ笑んだ。
「お怪我はありませんか?」
「お、お前は……? な、なぜ助けた?」
「ディアーナを汚そうとする不埒者を成敗したまで。立てるか?」
震える声で尋ねる女に、エツィオは手を差し伸べる。
差し出された手を取り、女はふらふらと立ち上がる。その身体はまだ震えていた。
「きみは、傭兵か?」
「そうだ。……お前は、わたしを犯しに来たわけではなさそうだな」
「俺は紳士でね。でも、いざその時になったら、そこの男より満足させてあげられる自信はある」
エツィオは彼女の頬をそっと掌で包み、仰向かせた。だがすぐにその手は打ち払われてしまった。
「言ってろ、その時はお前のモノを噛みきってやる」
どうやら落ち着きを取り戻したようだ、彼女の物騒な物言いに、エツィオは苦笑しながら肩を竦める。
それから床に転がる兵士が脱いでいた兵服を拾うと、女傭兵に手渡した。
「お前……何者だ? アルビオンの兵士じゃないのか?」
兵服に袖を通しながら、女傭兵が訊ねる。
「俺か? 俺はただの使い魔さ、……つい最近クビになったけどな」
「使い魔だと? 冗談はやめろ」
「残念なことに冗談じゃないんだ。なんにせよ俺はアルビオンの兵士じゃない。ついでに言えば、トリステインの兵士でもない」
「トリステイン兵じゃない? 救援じゃないのか? ではお前は何をしにここへ?」
からかう様なエツィオの口調に女傭兵は顔を顰める。
そんな彼女の瞳を覗き込み、エツィオはにやっと笑った。
「聞けばこの村に、アルビオン軍の総司令官が来ているそうじゃないか」
「……らしいな」
「そいつを消しに来た、と言ったら?」
「消しっ……!」
エツィオの口から飛び出した言葉に、女傭兵は思わず叫んだ。
エツィオは女傭兵の口に人差し指を当て、中断させる。
「……くっ! け、消すだと! お前は一体何者なんだ! 答えろ!」
「そのうちわかるさ。それよりもだ、そのためにはきみたちの力がいる。力を貸してほしい。どうかな? きみたちにとっても悪い話じゃないはずだ」
「名乗りもしない癖に……そんな奴をどうやって信用すればいいというのだ?」
「それを言われると返す言葉もないな。こちらも無理強いはできないし、するつもりもない。
ただ、このまま坐して敗北を待つか、行動を起こして勝機をつかみ取るか、好きな方を選べばいい。
まあ、どちらにせよ俺は動くつもりでいるけどな」
未だに疑いの目を向ける女傭兵の胸に、エツィオは人差し指を突き立てる。
「それにだ、困ったことに俺はいくら手柄を上げても、恩賞を受け取れない立場にあってね、なんなら手柄を全部きみたちに譲ってもいい。うまくいけば大出世だ」
その言葉に女傭兵は信じられないとばかりに大きく目を見開いた。
「ほんとうか?」
「もちろん、相手は総司令官、大手柄だ。勿論この戦に勝利し、生き残る必要があるけどな」
女傭兵は、ほんの少し考えた後、エツィオの目をまっすぐ見据え、大きく頷いた。
「……わかった。その話、乗った」
「決まりだな」
エツィオがにやりと笑い、手を差し出す。
「名前を聞いていなかったな」
「……アニエスだ」
「いい名前だ。俺は……アウディトーレだ。よろしくな、アニエス」
差し出された手を、アニエスが握り返した。
「よし、それじゃあ、向こうの彼らにも手順を説明する。付いてきてくれ」
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