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#navi(使い魔は四代目)
意識を取り戻したシュヴルーズはあっさりとルイズの謝罪を受け入れた。
幸いにして怪我が無かった事、キュルケが制止したのにやらせたという負い目があった事、等もあり自分が爆発に巻き込まれ気絶した事に関しては叱責したりせずに不問にした。
が、それで終わり、とは流石に行かなかった。シュブルーズはそれとは別に教室を破壊した罰としてルイズに後片付けを命じた。
そして、その上で片付けの際に魔法を使う事を禁止したのである。
もっとも、まだ魔法を使えないルイズにとっては無意味なペナルティであったのだが、だからといって事態が好転するわけでもなかった。
今こうして、皆が去った教室でルイズがただ一人、散々溜息をつきながら後片付けを行っているのはそういう経緯があったのである。
ルイズとて流石に一人では惨憺たる現場と化した教室を片付けるのはきついだろうとは薄々感づいていたのだが…
迂闊にも、この程度まぁ一人でもどうにかなるわ等と見得を切ってしまい、じゃあ任せたとばかりにリュオが手伝いをあっさり放棄してどこかへ行ってしまった以上、一人でやるしかなかった。
「あー、しんどい…しっかし全然終わらないわ…これは予想以上にキツいわね…
こんな事なら何としてでもリュオに手伝ってもらうんだったわ」
片付けの手を止めて、げんなりとルイズが呟く。始めてから結構時間がたつが残念な事に余り進んでいない。
が、それも無理も無く、もともと良家の子女であるルイズはこういった作業とはとんと縁が無く、掃除のような雑事は全て使用人に任せていたので、手際も悪ければ手順も悪いのだ。
この後、ここで授業が行われるのなら片付けの途中でも有耶無耶のまま終わる可能性もあったのだが…ルイズにとっては残念ながら、今日はもうこの教室を使用する予定は無かったのである。
「えぇと、やっと半分ってとこかしら…やっぱり、一人じゃ辛いわね…かといってリュオ以外に当てはないし…
悔しいけれど、もしこれがキュルケ辺りだったら鼻の下を伸ばした男達が我先に手伝ってるわよね…
くっ…これだからツェルプストーの女は…リュオもリュオよ。全く、形式上は私は主人なんだから察して手を貸してくれても良いじゃない…」
疲労や片づけが進展しない苛立ち、そしてそれを手伝ってくれる友人や、恋人もいないという事が重なり、ルイズの独り言はどんどん恨み節になっていった。
そもそもキュルケはこんな失敗はしないし、こんな事で恨まれてもキュルケだって困るというものだろうが…まぁ、こんな理不尽な恨み言の前では現実は関係無いのである。
そんな不毛な呟きを中断させたのは、教室に近付く足音だった。
それを聞いたルイズはリュオが手伝いに戻って来たのか?と一瞬喜んだのだが、果たして現れたのはルイズが予想だにしなかった人物、シエスタであった。
「あ、あれ?シエスタ?何で?」
「失礼します。ミス・ヴァリエール様。リュオ様から昼食を届けるよう申し付けられたので参上いたしました」
「昼食?ああ、もうそんな時間だったんだ…え?リュオが?」
ルイズは予想もしていなかった差し入れに驚いた。素っ気無く手伝いを断ったからこっちの事はどうでも良いのかと思っていたが、何だかんだで、少しは気に掛けてくれていたようだ。
そう思うと、先程まで散々リュオへ愚痴っていたのが恥ずかしくなったが、態度がはっきりしないリュオが悪い、と自分を無理やり納得させるルイズであった。
「そう…とにかくありがとう。もうくたくたよ…」
割れた窓ガラスの張替えは魔法を使わずに行うと危険だから、という理由で免除されたものの、
煤だらけになった箇所を拭いたり、教壇の残骸を片付けたり…と、肉体労働に慣れていないルイズにとってはそれでも充分ハードであった。
この上に、木っ端微塵となった教壇を新しい物に取り替えねばいけないが、それはまだ手付かずである。
あの重い教壇を倉庫から引っ張り出してここまで持ってくる、その労力を考えると、ルイズは暗澹たる気持ちになるのだった。
「それで、如何いたしましょうか、ミス・ヴァリエール様。お食事は…お部屋まで運びましょうか?」
「ええ、そうしてちょうだ…って、部屋でかぁ…うーん、ちょっと待ってて」
シエスタのその言葉に相槌を打ちかけたルイズは、今から自室まで移動する事を考えて顔をしかめた。はっきりいって億劫なのだ。
勿論食堂か、せめて自室で食べるべきだ。その事は充分承知している。
教室で食事を取るなどはしたない…までは言わないかもしれないが、マナー的に考えて褒められた物ではないだろう。
ここは学ぶ場所であってくつろぐ場所ではない。もしクラスメイトに見られたらまたからかわれるであろう、という思いもある。
しかし、心身ともに疲れきったこの状態で食堂、或いは自室まで移動するのは御免だった。マナーと、疲労とを天秤にかけ、そしてルイズの中では疲労が勝った。
ま、自室まで往復する時間も勿体無いし、この後はこの教室を使う予定も無いし、片付けついでに最後に掃除しておけば問題ないわね、
と内心で幾つか言い訳を並べて自己弁護しながら、ルイズはシエスタに答えた。
「…いいえ、ここで構わないわ。早速だけど用意してくれるかしら。ええと…この席で良いわね。そうそう、冷えた水、ある?」
「ええ、充分に冷えていますわ」
「それは良いわね。じゃぁ、食事の前にまずは一杯頂戴」
「畏まりました。どうぞ」
食事を並べられそうな適当な場所に陣取ると、ルイズの言葉を受けて水の入ったグラスが差し出された。
受け取ったグラスは、シエスタの言葉通り充分に冷えていた。それを額に押し当てて、少しの間その冷たさを味わう。そして一気に飲み干した。
飲み終えてふぅ、と一息つくと、やっと生き返ったような感じがした。乾いて火照った体によく冷えた水がこの上なくありがたかった。
水が体に染み込むような感覚を存分に味わっているうちに、シエスタは手際よく食事を並べ終えていた。
そこから漂う芳香と、今飲んだ水が先程まで感じなかった空腹を猛烈に意識させた。
食堂で出される食事がこれほどまでに美味しそうに見えたのは初めてだった。
ブリミルへの祈りもそこそこに用意された昼食に手を伸ばす。そして、猛烈な勢いで食べ始めた。
そのスピードはルイズが内心呆れ気味だったタバサのそれに匹敵するほどであったが、その事にルイズは気付いていなかった。
やがて、大半の皿が空になる頃には、空腹はほぼ解消されていた。そうなれば多少は気も晴れてくる。
それを見計らったかのように、黙って控えていたシエスタが口を開いた。
「ミス・ヴァリエール。実はリュオ様より言伝を預かっております」
「はひ?ひゃんて?…あう」
何の気なしに聞き返したルイズであったが、すぐに赤面し、口に手を当てた。
気が緩んでいた為に食べながら話すという普段なら絶対にしない失策を犯したからである。
何か溢したわけでも無いし、シエスタも気にした様子が無いのが幸いであった。
(…ここが学院で良かったわね。もしこれが母様の前だったらと思うと、ぞっとするわ…
慣れない事をやって疲れきっていたから、ノーカン…駄目だ、母様がそんな言い訳で納得するはずが無いわ。
大体、魔法の失敗で教室を破壊したって時点で駄目駄目じゃない。一体、どんなお仕置きが待っていたか…)
「ヴァリエール様?」
しばしの間、そういった事に厳しい母親からのお仕置きを連想してしまい、冷や汗を流していたルイズだったが、シエスタの呼びかけで何とか戻ってくると、軽く咳払いして続きを促した。
「分かったわ。聞くから言って頂戴」
はて、リュオの言伝って何かしら。言伝という事は急用や重要な用件ではない筈だけど…、と思いを巡らしていたルイズにシエスタはちょっと逡巡しつつ、続けた。
「ええとですね、そのまま言うので…その、怒らないでくださいね?
『疲れたじゃろうから昼食は用意してやる、精々感謝するが良い。
それでは続きを頑張るのじゃぞ。それと、シエスタにはまだ別の仕事があるゆえ、捗らぬからといって手伝わせるのは禁止じゃ』
だそうです。あ、あの、私の言葉じゃないですよ?これはあくまでリュオ様の言伝をそのまま言っただけでして」
「…そ、そう…他に何か言ってなかった?」
「いいえ、特には何も…申し訳ありません」
…先程は感謝したが、やはりリュオはリュオのようだ。この先も一人でやるしかないようである。
まぁ、応援してくれただけマシといったところだろうか。
だが、誰かの助けなくして教壇を持ってくるのは無理だ。そして、現実問題として助けてくれそうなのはリュオしかいない。と、なると…
「…はぁ、解ったからそんな怯えないで。大丈夫よ、分かっているから。
…まぁ、シエスタはリュオのメイドって扱いだし、リュオならそう言うわよね、あんな調子だし…
ああもう、仕方ないか。シエスタ、リュオがどこに居るかわかる?」
「ええと、食堂のロフトでミスタ・コルベールとミス・ロングビルの三人で歓談していらっしゃいましたが…ただ、今も居るかどうかは」
「解ったわ。取り合えず食堂に行ってみるしかないようね。それじゃ、食器の後片付けは頼むわよ」
シエスタにそう声を掛けると、ルイズは立ち上がった。リュオに頭を下げてでも手伝ってもらうしかない、と決意したのである。
「全く…なんでご主人様が使い魔に用を頼むのに一々頭を下げなきゃなんないのよ」
等と、口に出しては見たものの、実際ルイズはそれほど不機嫌なわけでもなかった。
他に道は無いのは分かっていたし、それにリュオは筋を通して頼めば何だかんだで手伝ってくれるだろうと確信していたからである。
「…さて、どう切り出したものかしらね…」
悩みつつ食堂へと足を速めるルイズは、その顔が僅かに楽しそうに見える事には気付いていなかった。
さて、シエスタがルイズに伝えたとおり、リュオは食堂のロフトでデザートを食べていた。コルベールとロングビルは既に退席しているので一人であった。
あの後、シエスタに用を頼んだリュオが戻ってきてみれば、何故かおかしな雰囲気になっていた。
コルベールとロングビルの間に微妙な空気が流れていた。それだけでなく、リュオを見る二人の視線にも妙な物を感じた。
どうにも気まずく、三人の間にしばし沈黙が流れる。それを打開しようとコルベールが色々と話題を切り出してみるが、すぐに途切れてしまう。そして、
「そうそう、ミス・ロングビル。もう一品デザートなど如何ですかな?なぁに、僕はマルトー親父に顔が利きまして、メニューに無いような珍しいデザート等も…」
と言いかけた所で、訪れたメイドが、
「どうぞリュオ様、マルトーさんから新作のデザートの試作品だそうです。いやぁ、リュオ様が来てるって知ったら是非『我等が杖』に味見してもらうんだ、って聞かなくて」
と、見た目にも豪華なデザートを持ってきたものだから、この上なく微妙な空気になった。それが止めであった。
その沈黙に耐えかねて、リュオは
「あー…何じゃ、その、そういう事らしいんじゃが…二人とも食べるかね?試作品という話じゃから、意見は多い方が良いじゃろうて」
と言ってみたものの、それで空気がどうなるわけでもなかった。だから、
「…ははは、いやいや。どうぞ、お食べ下さい。私はもう、満腹でございまして、ええ。おっと、そろそろ次の授業の用意をせねば!失礼します」
「それでは私も失礼いたしますわ。そろそろ仕事に戻りませんと…」
と、気まずそうに次々二人が席を外した時はリュオは心底ほっとした。が…その事をすぐ後悔する事になろうとは、この時リュオは予想だにしなかったのだ。
ロフトに上がったルイズは目指す姿を見つけると、早速声を掛けた。
「随分と、豪勢な物を食べているのね、リュオ」
「全くじゃ。毎回こう豪華じゃ贅沢に染まりそうじゃなぁ。文句を言うのもおかしな話じゃがな。
それはそうと、何の用かな、ルイズや」
「お気楽でいいわね…こっちは大変だったんだから…。でも、昼食を届けてくれた事に関しては素直に礼を言うわ。ありがとう。とても助かったわ」
「なぁに、届けたのはシエスタじゃよ。礼ならシエスタに言うべきじゃな。全く、熱心なのは良いが食事はしっかりとらねばいかんぞ?全ての活力の元じゃからな」
「分かってるわよ。終わったら食べようとは思ってたんだけど」
「で、全く終わらなかったというわけじゃな?」
「…さ、さすがはリュオね!私の事良く分かってるわ!」
「顔を引きつらせつつもお褒め下さるとは実に光栄じゃな。それじゃぁご主人様、続きを頑張るのじゃぞ」
「ちょ、ちょっと待ってリュオ」
話を打ち切られそうだったので、慌ててルイズは食い下がった。ここで終わっては何の意味も無い。
「…待つも何も、食事中じゃからどこにも行きはせんわい。それで、何じゃ?」
「そのね、私一人ではどうにもならない問題があるのよ」
「ほう?というと?」
「壊れた教壇を新しいのに取り替えなければならないんだけど、私一人じゃ重くて動かせそうにないのよね」
「ふむ。確かにルイズ一人で持ってくるのは辛かろうな。それで?」
「…もう。解ってるくせに。意地が悪いわね…あのね、そういうわけだから是非手伝って欲しいの。
お願いします」
そういうと、ペコリと頭を下げるルイズであった。
「ふっふっふ、そうじゃろうそうじゃろう。でなければわざわざここまで来る事も無かろうな。
それはそれとして、手伝ったら世界の半分をくれるのか?」
「……え…?何を…?」
「ふぉっふぉっふぉっ。冗談じゃ。うむ。よろしい。手を貸してやろう。全く、始めからそうやって頼めばわしとて最初から手伝っていたものを…で、教壇はどこにあるんじゃ?」
「そりゃ、やっぱり…倉庫じゃないかしら」
「倉庫…か。そのうち行くつもりじゃったが、意外に早く行く事になったな。よし、早速行こうじゃないか」
「え?倉庫に何の用が?」
「おいおい、忘れおったのか?このルーンに効き目があるかどうか何かの武器で試そうという話になっとったじゃないか」
「…ああ、そうだったわね。思い出したわ。でも、今は片付け優先で頼むわよ。あの時のリストも無いしね」
「それぐらいは心得ておるわい。しかしちょっと物色するぐらいなら構わんじゃろう?面白そうじゃしな」
「はいはい。好きにして頂戴。けど、その代わり教壇の方はしっかり頼むわよ?」
「うむ、任せておけい。だがちと待て。この皿を片付けてからじゃ。…そうじゃ、ルイズも食べるか?」
「え?良いの?始めて見るケーキだし、美味しそうだから気になってたんだけど。じゃあ遠慮なく貰うわよ…う~美味しい!」
「はっはっは、そりゃ良かった。確か試作品の…バーバーロアだかババアロアーとか言ったかな。
わしは始めて食べたんじゃが、何でもソースが今までのと違うとか…まぁとにかくどんどん食べてくれ…と?」
「…何その年寄りか理髪店みたいな名前って…え?」
ルイズにデザートを進めていたリュオの顔が言葉の途中で渋いものになった。怪訝に思い、リュオの視線を追うと、
教室から食器を下げて戻ってきた笑顔のシエスタがクリームたっぷりのパフェを載せた皿を持って近づいて来るところだった。
「リュオ様、これも試作品ですが」
「シエスタよ…確かに美味しいがもう満腹じゃ、そう伝えてくれとさっき言ったはずじゃが?」
「はい!ですからこれで最後です!」
満面の笑みで答えるシエスタ。そこには他意は全く感じられない。
「…そうか、最後か…ふう…」
溜息を吐くリュオをみて、ルイズは何となく察した。テーブルの上を改めて見渡せば、甘い香りの漂う空の皿が、ちょっとした山のように積まれている。
匂いから判断すれば、クリーム系、チーズ系、パイ系、フルーツ系…と、種類も豊富だ。
うわ、いくら美味くてもこれでは流石に…
そう思ったルイズは、シエスタに聞こえないよう小声でリュオに尋ねた。
「リュオ、ミス・ロングビルやコルベール先生と一緒って話じゃなかったの?何で一人なのよ」
「いや、何故かどうしようもなく場の空気が気まずくなったんでな、一皿目が出てきた時点で逃げられた」
「そ、そう…じゃぁ、これを全部、一人で?」
「うむ。そういうわけじゃから、ルイズ。お主もしっかり食べるのじゃ、残すでないぞ」
「ちょ、ちょっと…!私ももうキツイんだけど!」
「辛抱せい。タイミングが悪かったと諦めるんじゃ。その代わりばっちり片づけの方は手伝ってやるから、な?」
「あああ…これじゃ一人でやった方がマシだったかも…」
ルイズの嘆きの言葉が虚しく響くのであった。
実際、そのパフェは美味であった。例え満腹であってもまだ食べたくなる魅力があった。
しかし、もう限界の二人にとっては苦行でもある。半ば涙目になって二人は食べ続けた。
「お、美味しい。本当に美味しいけど、お腹が…うぷっ…」
「…なぁルイズ。提案があるんじゃ。片付けは食休みを取ってからにせんか?」
「…異議無し。絶対に異議無し」
どうにか食べきった後、テーブルに突っ伏して燃え尽きた二人がそこにいた。
「…ぐふっ…」
と、一声リュオが呻いた時、皿を下げに来たシエスタが陽気に声を掛けた。
「リュオ様、マルトーさん喜んでましたよ。まだまだ暖めているネタはあるから次の試作品も楽しみにしてくれ、だそうで…どうかしたんですか、リュオ様?」
「シエスタや…その時はせめて量は半分にしてくれ、と強く言っておいてくれ」
突っ伏したままげっそりと呟くリュオであった。マルトーに対し、ある意味二度目の敗北であった。
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