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#navi(ゼロのペルソナ)
愚者 意味…天才・落ちこぼれ
ぼんやりと薄暗い世界に彼はいた。
ここはどこだろうか――?
「お久しぶりですな」
闇の中でも際立つ黒いスーツを着た長い鼻の老人が姿を現した。いや、もともとこの世界にいたのであろうか。
「突然、お呼びたてして誠に申し訳ない。とはいえ、私も一度お送りしたはずの客人を呼び立てるのは初めてなのです」
老人の動作は穏やかだ。小柄な体にしては長い指が空間の中で揺れる。
「さて、あなたのご友人はまことに奇妙な運命の中にあるようです」
失踪したという仲間たちのことを言っているのであろうか――?
「彼らは濁流のような運命の中で絆を築いているようです。フフッ、かつてのあなたと同じように」
興味深い――彼は血走った目とは対照的に静かに笑う。
「彼らの元に向かうことは世の理を曲げるが如き行為。だがあなたたちなら必ずや成し遂げられるでしょう。
あなたの絆を、彼らの絆を信じることです。そしてその時、あなたは新たなる世界に出会うでしょう」
彼にまとわりつく薄ら闇はやがて何もない暗闇に姿を変えていく――。
アーハンブラ城は1000年も昔エルフによって作られた幾何学模様と共に長い歴史を刻む建造物である。
それはかつて人間とエルフの戦いを臨んでいたが、城砦の小ささから軍事的価値は低いと判断されてここ数百年は丘の下に生まれた交易地の発展を見下ろしてきた。
エルフの作った神秘的な模様を持つ城を臨むことのできる交易地点……それがアーハンブラ城とその城下町の存在意義であるはずだった。
しかし現在、そこにはガリア、トリステイン、ゲルマニアなどの多国籍軍が居座っていた。
軍事拠点となり、もともと大きくはない城下町は町周りに張られたテントによってその面積は膨れ上がっており、
活気は常よりも大きいものの、今街を包んでいるのは商魂たくましくサクセスを望む商人たちが張り上げる声ではなく、鎧と剣、盾の金属音だ。
ハルケギニアの各国の軍事力が今、アーハンブラ城に集結していた。
それは虚無の後継者であるルイズがその場所をジョゼフ――正当な虚無の後継者との戦いの場所と感じ取ったからである。
ルイズにもなぜわかるかはわからない。
ただ正当な虚無の担い手が暴走したときのために生まれた者としての力がそれを教えるのだ。
陽介やキュルケなどは、だったら使い魔たちを呼び出すための聖地の場所がわかったほうが面倒がなくていいと言ったが、
聖地の場所はルイズにもわからなかった。
デルフリンガーが言うには、正当な虚無の後継者が使い魔たちを所有することまでを妨害してはならないようにと始祖ブリミルが考えたためであるという。
確かに正当な後継者が暴走する可能性と同様に、その暴走を止めるために生まれた虚無の担い手が暴走する可能性はあるのだから筋は通っている。
遥か昔の人間に6000年後のことを予想しろなどどだい無理な注文であろう。
たとえそれが現代で窮状に陥ってる者たちは納得出来ないことだとしてもそれでも遥か昔の人間を頼りには出来ない。
自分たちを救えるのは自分たちなのだから。
アーハンブラ城はもともと城砦の小ささから軍事的価値が低いとみなされた場所であり最近ジョゼフによって改修されたものの大きさは変わっていないので、
ハルケギニア中から集まってきた軍を全て収容することなどできるはずなどなかった。
なのでアーハンブラ城で寝食を行えるのはガリア女王シャルロット、トリステイン女王アンリエッタなどを筆頭とする階級の高いものであった。
しかしそのアーハンブラ城で、高い地位どころかそもそもこの世界において存在するはずのない男が食事をとっていた。
「ん、これうめえな」
「そうですか。よろしければおかわりもありますよ?」
「おう、めいっぱいよそってくれ」
完二はスープ皿を給仕に渡した。貴族でもなんでもない彼がアーハンブラ城で食事を取っているかというと彼がルイズの使い魔だからである。
ルイズはこの世界の危機を教え、ハルケギニア各国に軍事的協力体制を築かせた、始祖の力を受け継ぐものと認識されている。
現在ではジョゼフに対抗するためガリア首都で揃って戴冠したシャルロット、アンリエッタ両女王と並んで、ハルケギニア軍の象徴的存在である。
そうでなくともルイズはトリステイン指折りの貴族ヴァリエール家の者だ。
その使い魔である完二がアーハンブラ城で寝床を確保できたのは当然であった。
もっとも流石に個室をとるほどの余裕はあるはずもなくルイズと相部屋なのだが。
現在、食事を共にはしていないものの、陽介、それとゲルマニアにおいて名家であるキュルケとクマもアーハンブラ城に寝床を確保している。
「はい。おまちどうさま」
メイドが空になったスープ皿を満たしテーブルの上におく。
完二に親しげに話しかける黒髪の少女は、トリステイン魔法学院のメイドであるはずのシエスタであった。
彼女は貴族や兵士たちの世話人として従軍したのだ。
城下町の外でテントを張っている軍人たちの世話に回る可能性もあったが
タバサやルイズなどと面識のあった彼女はアーハンブラ城にて勤めるように言われたのであった。
「いーいにおいだぜ」
完二は目の前に出されたスープを勢いよくすする。
「今日もミス・ヴァリエールは一緒じゃないんですね」
「おお。あいつ今も寝てんぜ。なんか寝んのがおせえみてえだな。
最近、部屋にこもってるしオレが部屋に戻ったらなんか隠すし……コソコソなんかやってのか?」
「何の話よ?」
「うおっ!?」
いつのまにかルイズが完二のそばに立っていた。完二もシエスタも驚いた。
「お、おはようございます。ミス・ヴァリエール。食事を持って来ますので……」
「必要ないわ。姫さま……いえもう女王さまね。アンリエッタさまとタバサのところに行くわよ」
ルイズは完二の二の腕を掴んだ。
完二は思わず立ち、そのまま食べかけの食事を残して食堂への入り口へと連れて行かれるがままになってしまう。
「オイ!まだオレ全部食ってねーって!」
「今はそれどころかじゃないわ」
「んだよ、いったい?」
ルイズが振り返った。ピンク色の髪がその髪質と同じくウェーブを描いて大きく揺れる。真剣なまなざしがそこにはあった。
「ジョゼフの使い魔たちが来るわよ」
エルフが住まうサハラの地。ゲルマニアとガリアの東方に位置する大規模な砂漠地帯がそれだ。
無限砂塵の中にシャイターンの門は存在した。
シャイターンの門は名前のように門が砂漠の中にぽつんと存在するわけではない。
シャイターンの門とは始祖ブリミルが使い魔たちを招くゲートを開く場所でありそこに何が存在するわけでもなく
普通の人が見れば広大に広がる砂漠の中でそこだけを区切ることなどできないだろう。
ガリア東部、ちょうどアーハンブラ城から東の地点に一人の人間と一人のエルフがいた。エルフはビダーシャル、人間はジョゼフである。
「まさか、我々の“聖地”がこんな近くにあったとはな。驚きだぞ」
「もともとはお前たちが領土と呼んだものだな。数千年前に我々が所有するようになっただのだ。
それから貴様らは聖地奪回などといいながら、まるで見当違いのところを攻め、アーハンブラ城を拠点とすることはなくなった。
聖地などといいながらそれがなんなのか、どこにあるのかすら知らないとは蛮人とは度し難いものだ」
ジョゼフは、ふふんと鼻で笑った。
「おれに献上するためにわざわざ人間から奪い取って管理していてくれたのか?殊勝なことだな」
ビダーシャルは不快げに顔を逸らした。
「ネフテスの方針が変わったのだ」
「お前らの国土に隣接する場所に生息する使い魔どもを人間の手に任せようというのだろ?
それで人間を襲わせようとするのだから全くエルフとは利口な生き物ではないか。
そして人間たちと戦わせて弱った使い魔たちをお前らは一掃するつもりか?」
「答える必要はない」
「まあいい。とりあえずお前たちの願いどおり人間たちの国を攻めてやる。そうでなければおれはエルフに遣わされた暗殺者に殺されてしまうからな」
ジョゼフは唇をゆがめて笑いながらビダーシャルを見遣った。エルフは黙して肯定も否定もしない。
そうだろう。お前はおれがこいつらでサハラを征服しようとすればすぐにでもおれを殺す気だろう?そうに決まってる。
だが構うものか。おれは嘆き悲しみたいのだ。
ならば征服するならわけのわからぬエルフなどより人間を滅ぼすほうがよっぽどいい。
だからジョゼフはアーハンブラ城で大規模な軍隊が待ち構えていると知っていてもそれを避けて進軍するようなことはしない。
むしろそれを望んでいるのだ、始祖でも誰でもなく彼自身の意思で。
そうであるからこそハルケギニア中から軍が結集するのを待った。
それと戦うことこそがジョゼフにとって好ましいのだ。戦いといえない一方的な虐殺になるだろう。
人間が斬られ、踏み潰され、焼かれ、死ぬ。
それこそがジョゼフの見たいものだ。
ジョゼフは空を見た。空の青でも、雲の白でもなく視界に映るのは黒ずんだ赤。
にぶい炎の色をした鱗を持つ火竜が空を埋め尽くしている。
視線を下げても砂漠だというのに地平線は見えない。
ジョゼフの周りに立つものは一体で数百の兵でさえかなわないであろう装甲と運動量を持つヨルムンガント、
全身を鎧のような装甲で覆いながら疾風の如き働きをするヴァリヤーグの大軍。
それらは全てのジョゼフの力だった。
ジョゼフは万の使い魔という途方もなく巨大な力で、人間たちを滅ぼすという想像を絶する悪行をなそうとする。
それは全てただ一粒の涙を流したいというささやかな夢をかなえるためだった。
「さあ、進軍だ」
号令というには静かな声。
主の言葉のもと、空を、大地を埋め尽くす使い魔たちが歩み始めた。
アーハンブラ城の東にハルケギニア混成軍が展開していた。
兵達はエルフたちの住まう土地に向かい、横列の分厚く横に長い陣形を組んでいる。
そのちょうど中心に当たる部分にルイズたちはいた。
彼女のそばに立つのは使い魔カンジ、キュルケとその使い魔クマ、そしてタバサの使い魔陽介と彼の補佐官として付けられたカステルモールである。
彼はタバサがトリステインで新王としての宣言をして最も早く駆けつけたメイジだ。タバサに心酔しており、陽介やイザベラ以外ではタバサに最も近い臣下である。
タバサも共に戦いたがったがガリア王が戦列の中に加わるなど許されるはずもなく、戦陣の後方でアンリエッタと共にいる。
ルイズは何かを感じ取ったようにさっと正面を見据えた。
「来たわ」
5人の視界に最初に入ったのは真っ赤な点だった。
「うわ……」
陽介が思わず、といった様子で呻く。それはその点が目に見えて数を増やしているからだ。
そして地平線からハケで縫ったように空の一部を赤くぬりあげ、こちらへ迫ってくる。
そしてさらに空気と地面が震え始める。それは巨大な物体が動くものと大量の兵が地面を叩いて生じる空気と地面の振るえだった。
ヨルムンガントとヴァリヤーグは混成して歩んで来る足音だ。
しかもそれらの後ろはまだまだ続いており、視界に入るそれらの数は増える一方だ。
兵たちにどよめきが生まれ、明らかな同様が走る。
兵たちの中で実際に火竜、ヴァリヤーグ、ヨルムンガントと戦ったものはいないのだ。
彼らには数に頼んで気を大きくしていた面もあった。
しかし初めて見る圧倒的な怪物というものは数というものにたいした意味を持たないことと思い始めた者もいただろう。
「これ以上待つわけにもいかないわ。早くあいつら落としちゃいなさい」
「おおよッ!」
完二、陽介、クマの眼前に金色の光を放ちながらカードが現れた。そして発する。
「「「ペルソナ!」」」
雷が、氷結が、疾風が異形の怪物たちを薙ぎ払い――ハルケギニア史上最大の戦いは幕を切って落とされた。
兵士たちは弓を放ち、槍を持って勇敢に戦い、数多くのゴーレムが敵を攻撃し、魔法が敵を焼き、切り裂く。
砂埃が舞いながらも熱気立つ戦場の中を陽介は駆け抜ける。カステルモールと数十の魔法使いが彼に続く。
突如突き出された槍を前転して回避。そして起き上がりながら槍を突き出し無防備になったヴァリヤーグのわき腹にナイフを突き立てる。
「大丈夫ですか、ヨースケどの!」
「あ、心配ないっすよ」
動かなくなった鎧からナイフを抜きながら片手を振って焦ったカステルモールに応える。
戦局としては押しているが、さきほどからこのようなことがたびたびだ。
もともとヴァリヤーグ・火竜・ヨルムンガンド相手に密集陣形は意味をなさない、
むしろいい的になるだけだと一人一人の動きを制限しないように広めの配置を兵士たちにさせている。
だから最も小柄で機動力の高いヴァリヤーグが陣形に浸透してくるのはしょうがないことであり、それも多い数ではない現状では大きな問題にはならない。
そして何よりまだヨルムンガンドや火竜の戦陣への侵入は許しておらず戦列に大きな混乱は起きていない。
戦場の最前線に視線を送ると、まさにその時巨大な土のゴーレムがそれより巨大な鉄のゴーレムによって投げ飛ばされてきた。
「うぉっ!?み、みんな逃げろーーー!!!」
陽介が言うまでもなく巨大な土人形が吹っ飛んできたのを見た兵やメイジたちは逃げ出した。
横っ飛びをした陽介の近く、まさに先ほどまでたっていた場所にゴーレムが地面をえぐり突っ込んできた。
「ぺっ、うえっ、くそあぶねえな」
思いっきり食べてしまった土を吐き出す。
そしてハッと気付く。この質量を投げた怪物ゴーレムが戦列の中に食い込んできたことを。
「クソッ、ペルソナ!」
スサノオの放つ光弾をヨルムンガントが浴びるが、その鋼鉄の体に傷一つない。
「カステルモールさん、あいつに魔法を放ってくれ!」
「了解した。みな、やつを攻撃しろ!」
陽介の後ろについてきていた魔法使いたちが一斉に魔法を放った。数十の風魔法はさながら嵐のようだ。
それでも普通のヨルムンガントにはダメージを与えることは難しいが陽介が先ほど放った魔法は疾風ガードキル、相手の防御を奪う魔法だ。
疾風耐性を失ったヨルムガントの体表に小さな傷が幾つも出来ていき、やがて小さな傷は全身にくまなく刻まれ亀裂が入った、一つ、二つ、3つと増やしていく。
だが陽介はそれを見守るような余裕はない。視線を戦場へとはしらせて、さらに戦列に食い込もうとしているヨルムンガントを発見。
息つく間もなく再び疾風ガードキルによって疾風耐性を奪った。
「カステルモールさん!あいつをやってくれ!」
「かしこまりました!」
カステルモールは攻撃の手を休めた。彼は別の自分、偏在へと情報を伝達しているのだ。
そうすると兵士たちを踏みつけ、蹴り飛ばし、蹂躙していたヨルムンガドは暴風に包まれる。偏在の率いる部隊が攻撃を開始したのだ。
ハルケギニアの全ての軍が集結した戦場の中で戦いの核となっているのはたった三人の使い魔だった。
クマは火竜、完二はヴァリヤーグ、陽介はヨルムンガントを受け持っている。
戦いを優勢に運べているのはこの3人がそれぞれ強力な使い魔たちを押さえつけているからだ。
最初の開幕の攻撃でブフ系が弱点だと発覚した火竜はクマが氷結最大の呪文マハブフダインで完封している。
弱点があった火竜に対しヨルムンガントには電撃・氷結・疾風全てに耐性があった。
厳しい事実だが、以前の戦いとデルフリンガーからの情報で推測していた陽介たちはヨルムンガントへの対策を整えていた。
それが現在、陽介に従うカステルモールを筆頭とする風魔法使いの集団だ。
ヨルムンガントへ有効な攻撃手段がない以上、対抗するにはその耐性を消すしかない。
しかし、陽介・クマ・完二がガードキルを使って倒していくのは手間がかかり効率が悪い。
何より始祖の使い魔たちに対抗するために呼び出された3人がヨルムンガントだけと戦ってはいられないこと、魔法の使いすぎでSPが足りなくなってしまうことが問題だった。
陽介はもともと火竜の弱点は氷結だとあたりを付け、そして完二はSPの少なさから自分がヨルムンガントと闘わなければならないと覚悟していた。
だから対ヨルムンガトの軍団として風の魔法使いたちをタバサに集めてもらったのだ。耐性を失ったヨルムンガントを魔法使いが狩る。
副官として付いたカステルモールの数人の偏在がそれぞれ個別の指揮する部隊を持つことでさらに効率が上がる。
「つっても……」
多くのヨルムンガントが戦列に食い込み始めている。
土のゴーレムや火・風の魔法で対抗しようとしているが、足止め以上の効果は難しく撃退にまで至っているところはほとんどない。
というのに巨大な鉄の鎧で身を包んだ脅威はさらに数を増やしている。
今まではいわば前哨戦、使い魔たちの群れの中から突出したものたちに対して有利に戦っていたに過ぎない。
それは敵の本軍が近づいてくれば持ちこたえることができなくなるということだ。
戦場ではまたヨルムンガントが均衡をくずそうとしている。
「ヨースケ殿!」
「わかってる、ペルソナ!」
狼狽に近い色を含む副官の声に応え、もう何度目になるかわからないガードキルを撃つ。
それまで何とか抑えてきたがヨルムンガントの圧迫力は増し陽介の手が回らないどころか、SPが少なくなってきている。もう何体のヨルムンガントを抑えられるかわからない。
もともとこの作戦には陽介のSPという上限があるため時間稼ぎ以上の意味は勝ち得ない。
それでも陽介はこの作戦を取ったのは勝率があるからだ。
「頼むぜ、ルイズ……!」
「砕け!ロクテンマオウ!」
「滾れ!カムイ!」
雷轟が響き、肌を刺すような冷気が生まれる。
降り注ぐ高電圧が鎧姿の怪物を砂に倒れさせ、大空に生まれた冷気は巨大な火竜の全身を包み氷柱として捕らえる。
クマのマハブフダインと完二のマハジオダイン、その威力はハルケギニアの魔法とは比べ物にならないほど高い。
だというのにキュルケは不安げに尋ねる。
「クマ、だいじょうぶ?」
ハルケギニアの魔法とは根本的に別種だが、ペルソナによって行使される魔法も術者の精神を削るという点に違いはなく、キュルケもそれを知っている。
「まだまだ大丈夫クマ。クマはカンジと違ってタフですから」
「ンだとコラァッ!」
「わかったわ」
無理はしないでね。そう言えない自分が歯痒い。無理をしてでも戦ってもらわないと均衡状態はすぐに断ち切れてしまう。
クマは戦いが始まってから休まずに大魔法を使い続けている。疲労が溜まっていないはずがないということくらいわかる。彼女は主なのだから。
それでも陽介がヨルムンガントを抑えていることと同様、いやそれ以上にクマが一人で火竜を抑えていることが重要なのだ。
何もできない自分の身が憎い。いや、違う。自分にも出来ることがやるべきことがある。自分のそばに立つ少女は図書館にだってあるか分からないほど古い本を一心に読んでいる。
ルイズ・フランソワーズ。この戦いを終わらせるキュルケの親友だ。
敵が侵入してきたとき、ルイズを守り通すことが彼女に出来ることだ。
「おい、おめえら!見てみろ!」
完二の手にあるデルフリンガーが声を上げる。
「お前が見てみろって言ってもどこ見りゃいいかわかんねえ……」
しかし、完二は戦場の最前線を見ただけでインテリジェンスソードの言ったものを理解した。
ヨルムンガントが疾駆する。地面を踏みつけるたびに爆発したかのように巻き上がる砂。
しかし今はヨルムンガントが駆けるたびに人が砂粒のように空を舞っている。
さながら人が砂と同じく取るに足らない存在であるというように砂粒のように蹴り上げていく。
その光景が一つではない。2つ、3つ、4つ…数多くのヨルムンガントが戦列へと踏み入っていった。
砂漠のはずなのにひどく大きな地響きが聞こえる。それは幻聴なのかもしれない。
それでも確かに聞こえる。鈍い音ではない、むしろ鋭く、速く。
鈍重なはずのゴーレム、ましてや金属のゴーレムとなればなおさらのこと。
だが、それはまるで人のように駆けている。死という概念が鎧を着たかのようだ。理不尽に、死を撒き散らしている。
恐怖も通りこし呆然と怪物を見上げる人たちは地を走り近づいてきた死に気がつくことはなかった。
長槍がその生を貫くまで。貫いた槍は引き抜かれ、しなりをもって獲物を求め始めた。
彼らが何と戦おうとしていたのに気付いてしまった。それは始祖の力。それは6000年前に世界を統一した力。
それは6000年前にエルフを退けた力。そして自分たちを殺す力だと。
戦線は崩壊した。
「オラア!」
デルフリンガーがヴァリヤーグの頭を打ち抜く。
顔面を潰されたヴァリヤーグが殴られた勢いのまま砂地へと倒れ伏す。
その剣も普通ならたとえ戦ってようとも間違った剣の使い方に不満の一つでも唱えることだがそうしない。
なぜなら普通とはいえないほど過酷な戦闘状況だからだ。
完二たちは陣形の中央部分までいたはずなのにすでにヴァリヤーグが侵入し、混戦の態をなしている。
いや、混戦などとはまだいい表現だ。なぜなら戦う意志を失い逃げ惑うだけに陥ってる者が少なくない割合でいるためだ。
恐怖は感染する。逃走は逃走を生み、振り絞っていたはずの勇気は振り捨てられる。
しかしそれでも完二たちは戦っていた。
完二とキュルケは未だ詠唱を続けるルイズを守るために戦い続け、
クマは火竜がこの戦況へ入ってきて勝敗を完全に決してしまわぬようマハブフダインをやめない。
そうでなくとも絶望というほかない状況。
だがむしろ完二の中には勇気が湧き上がっていた。
自分でも不思議なことだと思う。
デルフリンガーが言っていた虚無の担い手の詠唱を聞くと使い魔の意識が高揚するという話だろうか。
いいや、ちげーな。
ルイズに向かった槍を片手で掴み止め、もう一方の手のデルフリンガーをヴァリヤーグに叩き込みながら、思い浮かんだ考えを即時に否定する。
そんなつまんねー理由じゃねー。
掴んだ槍を倒れ行く持ち主から奪い取りそのまま槍投げのように投げると、力強く新たに襲い掛かろうとしていたヴァリヤーグの腹に突き刺さった。
ルイズはただ呪文を紡ぐことだけに集中している。
戦場で一瞬先に死ぬかもしれない中ではそんなことできるなどありえないはずである。
それでも彼女がそれをなしているのは……
オレを信頼してんだろ。
思わず笑ってしまいそうになるほど心地よい感触。彼女は自分の命を彼に預け、彼は懸命に彼女を守る。
初めて出会った時にこんなことになるなど彼も彼女も思いもしなかっただろう。
守ってやるって約束しちまったしな。
エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ
ルイズの背中から遅いかかる影に雷撃を放つと同時に背中からの攻撃を体を反って回避し体を返す勢いで裏拳を放ちヴァリヤーグを倒す。
だからよお、ルイズ
オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド・ベオーズス
ロクテンマオウが手を突き出しエネルギーを叩きつける。
ルイズとカンジ、まとめて踏み潰そうとするヨルムンガントは胸に巨大な空洞を作り、それでも消費しきれない衝撃だけ吹き飛んだ。
オレがオマエを守ってやっからよ
ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ・ジェラ・イサ
キュルケが放った3つの巨大な火の玉を放つ、二つは標的を捉えるかわり、一体のヴァリヤーグが回避する。
しかしその行く先は完二の真正面だ。キュルケの戦闘センスに感心しながら袈裟斬りにする。
オマエはみんなを守ってやれ
ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル
エクスプロージョン
虚無魔法『 爆 発 』 が完成した。
「あの光は……!」
数リーグ離れた場所からでも確認できるほどの光が起こった。
間違いなく戦場で起こったものだ。
「おれの敵が爆発を使ったようだな」
「ということは……」
「そうだ」
ビダーシャルに緊張が走るのに対しジョゼフにはただ気だるさしか感じられない。
「全て予定通りということだ」
さも当然であり、そして何より退屈だというように言った。
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