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#navi(ゼロみたいな虚無みたいな)
その日の教室では、学級会で学園祭に向けての打ち合わせが行われていた。
「……トリステイン魔法学院の学園祭は、下級生が上級生を招いてお祭りをするのが慣例になってるわ。みんな、頑張るわよ!」
『はーい』
司会・キュルケの言葉に生徒達から賛同の声が上がる。
「カフェの準備の係を決めるわよー」
書記・ルイズも笑みを浮かべて黒板に様々な担当分野を書き出していく。
「ぶうー。シルフィ占い屋さんがよかったのね」
「……でもカフェならケーキ食べ放題……」
自分が希望する案が採用されなかった事に不満げな表情のシルフィードだったが、タバサの言葉にたちまち表情を緩ませる。
「………」
そんなルイズの様子を、あぽろはかすかに頬を赤らめて眺めていた。
学級会終了後、早速あぽろはルイズの元に駆け寄った。
「ルイズちゃんっ、私の出した案が通っちゃったよー!」
「はいはい。私調理室借りられるかミス・シュヴルーズに聞いてくるから、先帰ってて」
「はーい」
あぽろは手を振って職員室に向かうルイズを見送ったのだった。
(嬉しいなっ。私超超超々頑張っちゃうよー)
――キーンコーンカーンコーン……
「お洋服どうかしら?」
所用で席を外していたルイズが調理室に戻ってくると、
「あっ、ルイズ! いいところに……。今みんなの服仮縫いしてたのよ。来て」
キュルケに促されたルイズに気付いたあぽろが、
「あっ! ルイズちゃんだーっ」
と声を上げつつ背後からルイズに抱きついてきた。
「あっ、こらー」
「仮縫いするの? 私してあげるっ」
「えー、あんたできるの?」
「さっきもキュルケちゃんに仮縫いしてたのっ。任せろい」
「そう?」
自慢げなあぽろの言葉を聞いて任せる気になったルイズの背後では、包帯だらけの手を押さえたキュルケが冷ややかな視線を送っていた……。
案の定、仮縫いが始まって早々ルイズは悲鳴を上げる羽目になった。
「いたた! 痛い~! いたっ! あうっ、ちょっ、ちょっと、針刺さないでよ」
鼻歌混じりで仮縫いを進めるあぽろだったが、その無造作な手付きで刺される針は生地を貫通してルイズの皮膚にまで突き刺さっていた。
「ツェルプシュトオオオオ!」
ルイズは涙を浮かべつつキュルケに向かって絶叫した。
そんなこんなで、痛みに満ちたあぽろの仮縫いもようやく完了した。
「やっ……、やっと仮縫い終わった……。超痛かった……」
仮縫いの終了と共に涙目で床にへたり込んだルイズ。しかし、
「あれ? ごめんルイズちゃん、服とパンツ一緒に縫ってたよっ」
そのあぽろの言葉が意味するところを、ルイズは理解したくないにもかかわらず理解できてしまった。
「もう1回糸ほどいて縫い直すね」
「………」
ルイズの悲鳴を可能な限り平静を装って聞きつつ、キュルケは自分の作業を進めていた。
するとその時、調理室の扉が開いた。
「差し入れ持ってきたのねー。ケーキとクッキーなのねー」
「……ヒューヒュー……」
シルフィードが持ってきたホールケーキ・クッキーが乗った皿に、タバサが喜びの声を上げた。
「お茶もあるのねー♪」
そう言いつつシルフィードは、持参したティーカップにお茶を注ぐ。
「たくさんあるから全部食べるのねー♪」
「あれ」
そこでホールケーキの皿片手にシュークリームをぱくついていたあぽろは、ルイズがティーカップのみを手にしている事に気付いた。
「ルイズちゃん、食べないの?」
「うん、甘い物苦手なの」
「そーなの?」
「うん」
するとあぽろはおもむろに、
「美味しーよ」
とルイズの顔面にホールケーキを押し付けた。
「んぐっ! こらーっ!」
「やーん」
クリームまみれの顔をハンカチで拭いつつ、ルイズはあぽろに注意する。
「あのねっ、世の中には甘い物嫌いな人もいるの。学園祭の時そんな事しちゃ駄目よ? 私達は上級生をお招きする立場なんだからね」
「うみゅー……」
あぽろはしばらくへこんでいたもののすぐに元気を取り戻し、
「よーし、じゃあ仮縫いの続きしよっか」
「私、教室見てくる」
と誘ったものの、あぽろの裁縫の腕前を知ったルイズはそれより早く調理室から出ていった。
「じゃ、キュルケちゃん、仮縫いの続きしてあげるー」
(えーんっ)
再度しょんぼりしつつキュルケの元に向かうあぽろに、キュルケは思わず涙目になる。
「一緒に食べたかったなー……」
「きゃああああ!」
ルイズが出ていった扉に視線を向けつつそう呟きながら動かす縫い針は、布地ではなくキュルケの頭部に突き刺さっていた……。
屋台が建ち並ぶ学院の中庭を、ルイズ・あぽろが手を繋いで歩いていた。
「わー、もうほとんど完成状態だね♪」
「そうね」
気持ちは他の生徒達も同じなのだろう、屋台の様子を見ている生徒が多数中庭を歩いている。
「来年は私達がお客さんになるんだね。楽しみ♪」
「その時は一緒に教室回るわよ、アポロ」
「う……、うんっ、2人きりでねっ。2人きりだよ!!」
赤面して嬉しさを露わにしたあぽろに、思わずルイズも赤面する。
「……みんなでよ」
そしていよいよ学園祭当日。
「上級生のお姉さん達、喜んでくれるかなー?」
「大丈夫! いけるわよ」
不安そうな表情になるメイド服に着替えたあぽろを、同様にメイド服姿のキュルケが励ました。
丁度その時、廊下から教室内の様子を伺っていた上級生達の存在にキュルケが気付いた。
「あっ、いらっしゃいませ!」
「どうぞ中に入ってくださいなのね。お茶とケーキがありますのねっ」
ホールケーキの乗ったトレーを両手に持って客をもてなすシルフィードの姿に、執事服姿のタバサもかすかに笑みを浮かべる。
その後も続々と客が入室してくる。
「ただいまー、チラシ配ってきたわよ……うわあ、凄い人!!」
教室に戻ってきたルイズは、あまりの客の多さに思わず声を上げた。
「あっ、ルイズちゃん、お昼休みは一緒に……」
とあぽろが誘ったものの、
「お湯足りないから沸かしてくるわっ!」
と言って給湯室代わりにしているスペースに駆け込んでいった。
その後も、
「ジュース飲みに行こー」
「忙しいのっ!」
と皿洗いに専念したり、
「お店見て回ろうー」
「お茶っ葉ーっ!」
茶葉を取りに行ったりと、ことごとくあぽろの誘いに乗れない形になったのだ。
学園祭が無事終了し、学生寮に夜が訪れた。
疲労困憊という表情でベッドに倒れ込んでいるルイズの耳に、あぽろの声が聞こえてくる。
「ルーイズちゃんっ!」
「……何」
ルイズが視線を上げると、枕元にメイド服姿のあぽろが座り込んでいた。
「アポロ、何でまだ制服着てんの?」
「えへー♪ 2人で打ち上げしよー♪」
ホールケーキが乗った皿片手に誘うあぽろに、ルイズは苛立った表情になる。
「あのねー、私甘い物嫌いだし疲れてるのっ!」
そう言いつつ布団を被った拍子にホールケーキの乗った皿を跳ね上げ、
「あ……」
ひっくり返ったホールケーキがあぽろのメイド服のエプロンを汚してしまった。
「ゔ ー、今日ずっと忙しいって言って相手してくんなくて、夜まで待ってたのに~」
「ア、アポロ、泣かないで。ごめんね?」
涙をこぼし始めたあぽろをルイズは慌てて宥めた。
そして形が崩れたホールケーキから苺1個とクリーム少々をつまみ上げ、口に運ぶ。
「……甘いけど美味しいわ。あ……、ありがとう」
「ルイズちゃん」
「何よ」
「2人でケーキ食べれてうれしーよお♪」
目に涙こそ溜まっていたものの、先程までの泣き顔が嘘のようにあぽろは満面の笑みになる。
「上の部分なら無事だよー。はい、あーん、ルイズちゃん♪」
「えっ、あ、ありがと……」
そんな崩れたホールケーキとお茶の2人だけの打ち上げを、窓から2つの月が見下ろしているのだった……。
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