「The Legendary Dark Zero 09b」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「The Legendary Dark Zero 09b」(2013/03/30 (土) 21:35:14) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
&setpagename(Mission 09 <災厄招く、破壊の箱> 後編)
#settitle(Mission 09 <災厄招く、破壊の箱> 後編)
#navi(The Legendary Dark Zero)
何事もなく破壊の箱を見つけることができたルイズ達は、偵察に行ったロングビルと
スパーダを迎えに行くため、すぐさま廃屋の外へと出ていた。
「スパーダ! 破壊の箱を見つけたわよ!」
外へ出て来た途端、森の奥に紫のコートを纏った銀髪と緑の髪の男女の姿をかいま見て、
ルイズは歓声を上げながら手を大きく振った。
しかし、森の中から出て来た二人の男女の姿を見て、ルイズとキュルケの表情から笑顔が消える。
破壊の箱を抱えたままのタバサは相変わらず無表情ではあるが、
自らの杖を構えるその瞳には凛々しさに満ちた闘志が宿っていた。
スパーダの肩にはロングビルの右腕が乗せられ、彼女は彼に体を支えられたまま苦悶の表情を浮かべて
荒々しく息をついている。
「ど、どうしたのよ!?」
ルイズが駆け寄ろうとした途端、破壊の箱を地面に置いたタバサが突如森の中へ向けて無数の氷の槍を放っていた。
森の奥で〝ズンッ〟と硬質な何かを貫くような音が響き渡る。
「スパーダ、一体どうしたの!?」
ルイズ達の近くまでやってきてロングビルの体を地に下ろすスパーダにルイズが詰め寄った。
「話は後だ。……お出ましだぞ」
スパーダは森の方を振り向きながら、背中のリベリオンに手をかける。
ルイズはハッと森の方へ視線をやると、その奥から無数の人影が次々と姿を見せるのが窺っていた。
……いや、人ではない。あれは……。
「ゴ、ゴーレム!?」
姿を現したのは大きさが1.8メイル近くはある、体を煉瓦色の石で造られたらしいゴーレムだった。
もちろん、その数は一体ではない。十は超える数のゴーレム達が森の中から次々と姿を現したのである。
昨日、学院を襲ってきたゴーレムに比べれば大きさは比べるまでもない。だが、今度は逆に数が多い。
しかも土くれの体ではなく、その体は硬い岩石だ。
おまけに、大の大人並の速さでこちらに駆けてくる。
「ファイヤー・ボール!」
「ウィンディ・アイシクル」
キュルケが火球の礫を、タバサが氷の矢を放ち、ゴーレム達を迎撃している。
スパーダは顔の前で構えていたリベリオンに力を込めると、それを投げ放った。
ブーメランのような勢いで回転しながら飛んでいくリベリオンが次々とゴーレム達を薙ぎ倒していく。
そして、まるで意志があるかのようにまっすぐ、持ち主の手元へと戻って来ていた。
しかし、それでもゴーレムの数はまだ十にも昇る。あの数で一斉に攻められたら危険だろう。
呆気に取られていたルイズも我に返り、自らの杖を手にして魔法を放つべくルーンを唱えようとする。
「な、何するのよ!」
突然、スパーダが杖を手にするルイズの腕を掴んできたため、声を上げていた。
スパーダはルイズの腕を掴んだまま、耳元で囁いてくる。
「ミス・ヴァリエール。昨日も言ったが、あいつらのすぐ傍で爆発させるようにするんだ」
その言葉に、このような状況であるにも関わらずルイズは逆上してスパーダに食ってかかった。
「何よ! こんな所まで来てあたしを馬鹿にする気なの!?」
スパーダの手を振り払おうと暴れるルイズ。
だが、それでもスパーダはあくまで冷静にルイズへと語りかける。
キュルケとタバサが、必死になって魔法を放ってゴーレム達の迎撃を続けていた。
「……いいか、ミス・ヴァリエール。前にも言ったが、君のあの爆発は決して失敗ではない」
「何言ってるのよ!あんなものが、成功なわけないじゃない!」
「あの爆発が他のメイジ達には認められないものであろうと、君はどうしてそれを新しい力として活かそうとしない?」
「……どういうことよ」
真剣な面持ちでルイズを見続けるスパーダはさらに続ける。
「……常識にばかり囚われるな。たとえ他の者達からは単なる失敗としか認められなくとも、それを君自身の手で育めば良いだけのことだ。
そして、他の者達に新しい力としていくらでも認めさせてやればいい。君自身の力をな」
スパーダはルイズの腕から手を離すと、手にするリベリオンを構えてゴーレム達に向かって突撃していった。
ルイズは呆然としたまま、その場に立ち尽くしていた。
スパーダはルイズの身長とほぼ同じ大きさのリベリオンをまるで棒切れのように軽々と振り回し、ゴーレムを薙ぎ倒していく。
キュルケとタバサの魔法も合わさり、次々と破壊されていくゴーレム達。数が減ったと思ったら、
今度は土が盛り上がり、新たなゴーレムが姿を現した。
さらに錬金がかけられたのか、その体が煉瓦色の石と化す。
「これじゃキリがないわよ!」
杖の先から炎の渦を放っているキュルケが叫びだすと、新たに出現したゴーレムがもうすぐ目の前まで迫って来ていた。
そちらへ杖を向けようとすると、また別のゴーレムが突撃してくる。
タバサはエアカッターによる風の刃でゴーレムの石の体を斬り裂き、接近してきたゴーレムにはエアハンマーを放って吹き飛ばしていた。
しかし、そのせいでキュルケの援護に手が回らない。
「あっ!!」
振るわれたゴーレムの拳がキュルケの手から杖を弾き飛ばし、彼女の体を突き倒した。
それほど強い一撃ではなかったものの、ゴーレムは地面に倒れたキュルケに追い討ちをかけようと、ゆっくり両手を頭上で組んで振り下ろそうとしている。
キュルケは思わず目を瞑ったが、目の前の二体のゴーレムが突然爆発し、その細かい破片を浴びることになった。
「ファイヤーボール!」
キュルケを襲おうとした二体のゴーレム。ルイズはそいつらに向けて魔法を放っていた。
唱えるルーンそのものはファイヤーボール。しかし、イメージするものは全く違う。
ピンポイントに、ゴーレム達のいる場所に小さな爆発を発生させるーーそうイメージをしてみた。
(ほ、本当にできた……)
その結果は見ての通りだ。
今までまともに魔法を使おうとしても、それは爆発を起こすだけだった。
狙いを外し、あらぬ場所に爆発を起こしてしまうことも度々だった。
魔法が一度も成功せず爆発しか起こせないことに、ルイズは昔から悔しさを感じていた。
……だが、今のは違う。
今まで通りの爆発だった。しかし、これまで起きた爆発はまるで制御が効いていないため、狙った場所にさえ起こせないものだった。
しかし、スパーダのアドバイス通りにしてみたら……。
(本当に、本当に今のがあたしの魔法?)
思いもしなかった結果に唖然としていたルイズは、他に残っているゴーレム達にも、自分がイメージしたように様々な爆発を起こしてみた。
するとどうだ。全ての爆発がピンポイントに発生し、ゴーレムを吹き飛ばしたのだ。
「あ、あの子の魔法よね……?」
キュルケは尻餅をついたままゴーレム達を爆発で吹き飛ばしているルイズを見て、呆然としていた。
唱えているのは自分も軽々と使えるファイヤーボールやタバサが現在、使っているエアカッターといったものであるが、それで起きるのはいつも通り、ただの爆発に過ぎない。
本来なら笑うべき光景なのだが、今回ばかりはそうはいかない。
何故なら、彼女によって起こされる全ての爆発が、ゴーレム達を確実に薙ぎ倒しているのだから。
一体、これはどういうことなのだろう。失敗の魔法なのに、まるで自分の手足のように操っているなんて。
「……ふ、あたしも負けてられないわね!」
不敵に微笑むと落としていた杖を拾い、残ったゴーレム達に〝微熱〟のキュルケの炎の魔法をお見舞いしてやった。
スパーダの剣技、そして三人の少女達の魔法でゴーレムは次々と蹴散らされていった。
中でもルイズの爆発による魔法は、多数のゴーレムを倒すには最適のものであり、本人も己に自信がついてきたのか次々とゴーレムを吹き飛ばしている。
(やれやれ……やっと自分に自信がついたか)
スパーダは、何度も口添えをしてやっと自分の持つ力の使い方を自覚してくれたルイズに、嘆息を吐いていた。
本来ならばスパーダだけでもこれだけのゴーレムを薙ぎ倒すのは容易いことだが、今回ばかりはあえて実力はほとんど出さずに、ルイズ達に積極的に倒させてやろうと考えていた。
フーケこと、ロングビルも良い演技をしてくれた。
今も彼女は弱々しく地面に手をついたまま、その手にこっそりと杖を握っている。
彼女に頼み、まずはギーシュのワルキューレのように小さなゴーレムを造ってもらい、ルイズ達に戦わせるようにしてもらっていた。
もちろん、手加減はしてもらう。彼女達を鍛えるためなのだから。
だが、もうウォーミングアップはこれくらいで良いだろう。
ちらりとスパーダはロングビルの方へ視線を送って目配せをしてやると、彼女は弱々しい演技をしつつもこくりと頷いた。
「こ、今度は何!」
煉瓦のゴーレム達を全て倒したと思ったら、その残骸が一瞬にして土くれと化し、一か所に集まっていくと瞬く間に巨大なゴーレムとなっていたのだ。
昨日のものよりは小さいが、それでも20メイルはあろうかという巨体にルイズ達は慄く。
さらに土くれであったその体が今度はくすんだ光沢を持った灰色の鋼によって錬金されていた。
「どうやら、本気みたいね!」
キュルケが吠え、ルーンを唱えようとする。
ルイズも続いてルーンは今まで通りのファイヤーボールであるが、爆発をしっかりイメージして魔法を放とうとした。
今の自分なら、あのゴーレムでも倒せるかもしれない。いや、倒せるはずだ!
敵に後ろを見せない貴族ならば、あのゴーレムも倒さなければならないのだ。
一発で吹き飛ばせる爆発をお見舞いしてやる。
「待て」
ゴーレムに攻撃しようとルーンを唱えようとする二人の肩を掴み、制してくるスパーダ。
「何するのよ。早くあいつを倒さないと!」
ルイズの叫びにスパーダは首を横に振る。
そして、ゴーレムの背後に広がる森の方を顎で指していた。
「タバサ!」
キュルケはゴーレムに目も暮れず、森の方へ向かって駆けていくタバサの姿を見た。
そして、森の中に向けてウィンディ・アイシクルを放っている。
「あっ……」
ルイズは氷の矢が飛んでいった森の中で蠢く人影を目にした。
その人影ははっきりとは見えはしないものの明らかに人間であり、そして素顔を隠すためのフードを被っている。
(間違いない! あれはフーケね!)
さっきのゴーレムもこいつも、あいつが操っているのだ。
黒い人影は森の奥へと逃げていき、タバサもそれを追って森の中へ入っていった。
「っ……!」
ルイズは声にならない悲鳴を漏らし、尻餅をついていた。巨大なゴーレムの拳がいつのまにか振り下ろされ、
自分達を叩き潰そうとしたのをスパーダがリベリオンを盾にして受け止めていたのだ。
「君達は奴の方を頼む。奴さえ何とかすれば、こいつも消える。こいつは私が相手をさせてもらおう」
こんな巨大な拳を受け止めているのにも関わらず、スパーダは相変わらず涼しい表情で答え、促していた。
本当ならば、パートナー一人だけをこんな相手と戦わせて自分は戦わないなど、そんなのはメイジではない。
だが、何も戦う相手は一人ではないのだ。
そして、そちらの方を倒せば全てが終わる。
「……良いわよ。あたし達がフーケを捕まえるまで、足止めをしてちょうだい! それと、絶対に死んだりしちゃ駄目よ!」
起き上がったルイズはタバサが追って入っていった森へと駆けていき、キュルケもその後をすぐに追っていった。
「ヴァリエールには、負けられないわよ!」
「フンッ!」
ルイズ達が森の中へと消えていったのを見届けた直後、受け止めていたゴーレムの巨大な拳を押し返し、転倒させる。
巨体に見合った凄まじい衝撃で、大地が震動する。
スパーダは軽く嘆息を吐くと、全てが終わったと言いたげにリベリオンを背負う。
そして、先ほどタバサが置いていったままの〝破壊の箱〟の元へと歩み寄り、その取っ手を掴んで拾い上げると拳でコンコンッ、と軽く叩いてやった。
「全部、あなたの思い通りになった訳ね」
起き上がったロングビルが呆れたように言いながら、歩み寄ってくる。
「君こそ良い演技をしてくれたな。今までオスマンの秘書の皮を被っていただけはある」
「……良いわよ。別に褒められたって嬉しくないわ」
ロングビルはどこか不機嫌な表情でプイッ、と顔を背ける。
「まあそう腐るな。……良い演技をしてくれた礼に、こいつの使い方を教えてやろうか。ちょうど良い実験台もあるしな」
必死に起き上がろうとバタついているゴーレムを見て、ニヤリと微かに笑う。
「そういえば、あなたの故郷で作られたってことだけど……こんな箱が本当に兵器なの?」
怪訝そうな顔でロングビルはスパーダが持つ破壊の箱を見つめる。
スパーダはロングビルを下がらせると、起き上がったゴーレムをじっと睨んでいた。
(こいつはまだ機嫌が良くない。どれ……)
スパーダが肩に担いでいた破壊の箱を頭上に掲げると、箱は光を放ち始めその光に包まれていく。
光が消えると、スパーダの手元には箱であったはずのものは跡形もなくなり、十字状の大柄なボウガンへと姿を変えていた。
「なっ——」
ロングビルもあまりの突然なことに仰天してしまっている。
スパーダはボウガンと化した破壊の箱を構え、ゴーレムに狙いを定める。
ボウガンから銛のように大きな矢尻がついた矢が放たれ、ゴーレムに命中した途端、爆発を起こした。
スパーダは問答無用で、次々とボウガンから矢を放ち、ゴーレムの体に命中させていく。
着弾する度に爆発し、ゴーレムの体を砕いていくそれは、もはや矢ではない。爆弾だ。
破壊の箱が再び光に包まれると、また形が別の物に変わった。
(う、嘘でしょ?)
平民が使う火薬を用いた武器、短銃よりも大きくて長い銃身が何十にも束ねられたような長銃となり、
スパーダはそれを片手で軽々と持ち上げると引き金を引く。
それだけで十を軽く超す銃口から凄まじい炸裂音と共に無数の火が一斉に噴き、ゴーレムの腕を粉砕していた。
(まだ何かする気!?)
これだけでも唖然とするしかなかったロングビルであるが、スパーダが巨大な銃となっている破壊の箱の銃口を足元にドン、と置くとまた光に包まれていく。
今度はロングビルも知っていた、戦艦によく積まれて大規模な戦争で使われる大きな砲身を持った大砲へと姿を変えていた。
戦艦に積まれたりするものよりは全然小さいが、それでもあんな大きな砲身から放たれるものを喰らえば、自分の作ったゴーレムと言えど跡形もなく吹き飛んでしまう。
スパーダは大砲と化した破壊の箱のハンドルを回して砲身の角度をピタリとゴーレムに狙いを定める。
そして取っ手を引くと、これまた耳が痛くなってしまいそうな騒音を立てて
砲口から巨大な火球が放たれ、ゴーレムの胴体に着弾した。
凄まじい爆発を起こし、爆風にロングビルは顔をマントで覆い隠してしまう。
そして次に目に入ってきたものは、上半身が跡形もなく粉々にされ、下半身が土くれの山となって崩れていく、
自分のゴーレムの哀れな姿だった。
もはやロングビルは開いた口が塞がらない。
確かに、〝破壊の箱〟と呼ぶべき凄まじい破壊力だ。
だが、初めはあんなに小さかったはずのあの箱が何故、原型を無視してあんな物へと変わることができるのだ? 分からない。
スパーダの故郷で作られたと言っていたが、一体彼の故郷はどんな場所なのだ。
ハルケギニアの技術では、とてもじゃないがあんなものは作れない。
砂漠の民であるエルフですら、不可能だろう。
光に包まれ、元の箱へと姿を戻した破壊の箱を肩に担いだスパーダは、唖然とするロングビルの元に歩み寄ってくる。
「こんな所だ。分かったか?」
「わ……分かる訳ないじゃない! 一体、何なのよそれ!」
「君達が呼んでいるだろう。〝破壊の箱〟だと。もっとも、本当の名は〝パンドラ〟と言うのだがな」
〝災厄兵器パンドラ〟——魔界で生み出された、文字通り破壊をもたらすための魔具である。
様々な災いが詰められていたという人間界の伝説で有名なパンドラの箱と同様に、こいつも様々な災いと破壊の力が秘められているのだ。
持ち主の記憶とイメージに反応して自在に姿を変え、様々な武器と化すのである。
こいつを扱うには、姿を変えるための武器の知識などを持ち主が知っていなければならないため、武器のことをあまり知らない人間が使っても意味はない。
ちなみに、変形させなくとも一応使うことはできるのだが……。
変形する仕組みについてを聞かされたロングビルは口をあんぐりと開けて呆然としていた。
「……と、まあこんな所だ。君の大事な人達があれみたいにされたいのであれば、譲ってやっても良いが」
土くれの山を顎で指し、パンドラを差し出してくるスパーダだがロングビルは首をブンブンと横に振る。
「そうか。……では、彼女達を迎えに行くとしようか」
パンドラを肩に担ぎ、森の方へ歩き出すスパーダ。
呆けていたロングビルもその後を追う。
(そういえば、あいつをフーケに仕立てるとか言っていたけど……どういうつもりよ)
ロングビルは森の中で目にした、スパーダが呼び出したあの異形の姿を思い浮かべていた。
先ほどから広場の方で何度も爆音が響いてきているのだが、タバサは構わずフライで森の中を飛翔していた。
(人間じゃ、ない……)
森の中に見つけたフーケと思わしき人影を見つけ、その後をフライを用いて追っていたタバサは先に回りこんでいたのだが、
目の前にいる存在に眉を顰めていた。
フードで顔を隠した女性らしき姿をしているのだが……影のように漆黒の全身からはどす黒いオーラが湧き上がっており、そのフードの奥には不気味に赤く光る目が覗けていた。
こいつは間違いない——。
「ジャベリン」
瞬時にルーンを唱え、杖の先から氷の槍を放つ。
しかし、相手が人間ではないと確信して容赦なく放った氷の槍は、フーケと思わしきその人影をすり抜け、背後の木に刺さったのだ。
あまりに突然な出来事に目を見開くタバサ。
フーケはニヤリ、と赤く光る三日月のように裂けた口を開けて杖を構えていた。
「タバサ!」
「ファイヤー・ボール!」
フーケの背後からルイズとキュルケが姿を現し、キュルケがフーケの背に向けて火球の礫を放つ。
慌ててタバサは斜線から外れ、フーケの側面へと回り込んだ。
「えっ!?」
キュルケとルイズもタバサと同様に驚愕する。
火球は確かにフーケの背中に命中したはずだが、これもまたすり抜け、その先の木の表面を焼き焦がすだけであった。
「ど、どういうこと!?」
(やはり、あれは悪魔……)
既にその姿を見た時から、フーケが人間ではないことを確信していたタバサは、思わぬ所で悪魔と戦えることで杖を持つ手に力が入った。
こいつはこの間、自分も戦ったような奴とは全く性質が違う。
あの時はこちらの攻撃が通ったのだが、こいつには何故か効かない。
「あれが……フーケなの?」
「人間、じゃない……?」
ルイズとキュルケもフーケの正体に驚いているようだ。
フーケは振り向き様に杖を突きつけ、その先から無数のどす黒い影の塊を二人に向けて放っていた。
咄嗟のことに対応できない二人であったが、その目の前に飛んできたタバサが、エア・シールドによる分厚い空気の壁を作って攻撃を防いでいた。
即座にウィンディアイシクルで反撃をするものの、やはり氷の矢はまるで手応えがなくすり抜けてしまう。
フーケは再びニヤリと不気味な笑みを浮かべている。こちらを馬鹿にしているのか。
「どいて! あたしの魔法で……!」
ルイズが杖をフーケに突きつけ、ファイヤーボールのルーンを詠唱する。
先ほど、ゴーレムを次々と屠っていたようにフーケの周辺で大きな爆発を起こしていた。
(駄目……!)
もしかしたら、と思ったが木々をいくつか吹き飛ばしただけでフーケ本人は全くの無傷だ。
「もうっ! 何でよ!」
「ちょっと待って!」
ルイズが癇癪を起こして叫んでいたが、キュルケが声を上げだす。
今の爆発で森の木々がいくらか吹き飛ばされたために、日の光が森の中へと射し込んでいた。
光を浴びるフーケは絶叫を上げて苦しみだし、女性であったその姿が実体を持つ影法師のような姿へと変わっていた。
「あいつ、光が弱点なんだわ!」
キュルケが愉快そうに叫びつつ、隙だらけのフーケにファイヤーボールを放った。
タバサも素早くジャベリンを放つと、今度はしっかりとキュルケのファイヤーボール共々、フーケを捉えていた。
氷の槍が胴体を串刺しにし、火球がフーケを焼き焦がす。
ドサリ、と仰向けに地面に倒れたフーケはどす黒い体を液状のように溶かし、地面へと吸い込まれていった。
「や、やったの……?」
ルイズがフーケの倒れていた地面に杖を向けたまま息を呑む。
「ほう。そいつを倒せたのか。やるな」
不意に三人の背後から感嘆の声がかかり、振り向くとそこには、破壊の箱を肩に担ぐスパーダとロングビルの姿があった。
キュルケはダーリン! と嬉しそうに叫びながらその身に抱きつくがスパーダは気にした様子もなくルイズに顔を向けている。
「……今の、本当にフーケだったの? あれ、人間じゃあ……」
「ああ。私達も偵察中にそいつに追われたからな。それに昨日、私も姿を見ている。間違いなく、そいつは〝土くれのフーケ〟だ」
スパーダが断言し、どこかまだ釈然としない様子のルイズだったが、とにかくフーケの撃退に成功したということで納得することにした。
「君達の活躍で、フーケは見事倒せたな」
満面の笑顔で三人を称えてくるスパーダに、キュルケとルイズの顔がぱっと輝き、喜びを露にしていた。
タバサも顔には出さないが、嬉しそうな様子だった。
「当然よ。〝微熱〟のキュルケにかかれば、フーケを倒すなんて容易いもの」
キュルケが誇らしそうにすると、ロングビルはじっと細い目で彼女を睨んでいる。
「何言ってんの。あんた一人で倒したわけじゃないじゃない!」
「みんなのおかげ」
三人がフーケ撃退の成功に喜び、そして騒ぎ出す中、地面に溶け込んだ影の悪魔——〝死影霊〟ドッペルゲンガーは、
誰にも気づかれぬまま主であるスパーダの足元へと移動し、そのまま沈黙していた。
#navi(The Legendary Dark Zero)
&setpagename(Mission 09 <災厄招く、破壊の箱> 後編)
#settitle(Mission 09 <災厄招く、破壊の箱> 後編)
#navi(The Legendary Dark Zero)
何事もなく破壊の箱を見つけることができたルイズ達は、偵察に行ったロングビルと
スパーダを迎えに行くため、すぐさま廃屋の外へと出ていた。
「スパーダ! 破壊の箱を見つけたわよ!」
外へ出て来た途端、森の奥に紫のコートを纏った銀髪と緑の髪の男女の姿をかいま見て、
ルイズは歓声を上げながら手を大きく振った。
しかし、森の中から出て来た二人の男女の姿を見て、ルイズとキュルケの表情から笑顔が消える。
破壊の箱を抱えたままのタバサは相変わらず無表情ではあるが、
自らの杖を構えるその瞳には凛々しさに満ちた闘志が宿っていた。
スパーダの肩にはロングビルの右腕が乗せられ、彼女は彼に体を支えられたまま苦悶の表情を浮かべて
荒々しく息をついている。
「ど、どうしたのよ!?」
ルイズが駆け寄ろうとした途端、破壊の箱を地面に置いたタバサが突如森の中へ向けて無数の氷の槍を放っていた。
森の奥で〝ズンッ〟と硬質な何かを貫くような音が響き渡る。
「スパーダ、一体どうしたの!?」
ルイズ達の近くまでやってきてロングビルの体を地に下ろすスパーダにルイズが詰め寄った。
「話は後だ。……お出ましだぞ」
スパーダは森の方を振り向きながら、背中のリベリオンに手をかける。
ルイズはハッと森の方へ視線をやると、その奥から無数の人影が次々と姿を見せるのが窺っていた。
……いや、人ではない。あれは……。
「ゴ、ゴーレム!?」
姿を現したのは大きさが1.8メイル近くはある、体を煉瓦色の石で造られたらしいゴーレムだった。
もちろん、その数は一体ではない。十は超える数のゴーレム達が森の中から次々と姿を現したのである。
昨日、学院を襲ってきたゴーレムに比べれば大きさは比べるまでもない。だが、今度は逆に数が多い。
しかも土くれの体ではなく、その体は硬い岩石だ。
おまけに、大の大人並の速さでこちらに駆けてくる。
「ファイヤー・ボール!」
「ウィンディ・アイシクル」
キュルケが火球の礫を、タバサが氷の矢を放ち、ゴーレム達を迎撃している。
スパーダは顔の前で構えていたリベリオンに力を込めると、それを投げ放った。
ブーメランのような勢いで回転しながら飛んでいくリベリオンが次々とゴーレム達を薙ぎ倒していく。
そして、まるで意志があるかのようにまっすぐ、持ち主の手元へと戻って来ていた。
しかし、それでもゴーレムの数はまだ十にも昇る。あの数で一斉に攻められたら危険だろう。
呆気に取られていたルイズも我に返り、自らの杖を手にして魔法を放つべくルーンを唱えようとする。
「な、何するのよ!」
突然、スパーダが杖を手にするルイズの腕を掴んできたため、声を上げていた。
スパーダはルイズの腕を掴んだまま、耳元で囁いてくる。
「ミス・ヴァリエール。昨日も言ったが、あいつらのすぐ傍で爆発させるようにするんだ」
その言葉に、このような状況であるにも関わらずルイズは逆上してスパーダに食ってかかった。
「何よ! こんな所まで来てあたしを馬鹿にする気なの!?」
スパーダの手を振り払おうと暴れるルイズ。
だが、それでもスパーダはあくまで冷静にルイズへと語りかける。
キュルケとタバサが、必死になって魔法を放ってゴーレム達の迎撃を続けていた。
「……いいか、ミス・ヴァリエール。前にも言ったが、君のあの爆発は決して失敗ではない」
「何言ってるのよ!あんなものが、成功なわけないじゃない!」
「あの爆発が他のメイジ達には認められないものであろうと、君はどうしてそれを新しい力として活かそうとしない?」
「……どういうことよ」
真剣な面持ちでルイズを見続けるスパーダはさらに続ける。
「……常識にばかり囚われるな。たとえ他の者達からは単なる失敗としか認められなくとも、それを君自身の手で育めば良いだけのことだ。
そして、他の者達に新しい力としていくらでも認めさせてやればいい。君自身の力をな」
スパーダはルイズの腕から手を離すと、手にするリベリオンを構えてゴーレム達に向かって突撃していった。
ルイズは呆然としたまま、その場に立ち尽くしていた。
スパーダはルイズの身長よりも大きいのリベリオンをまるで棒切れのように軽々と振り回し、ゴーレムを薙ぎ倒していく。
キュルケとタバサの魔法も合わさり、次々と破壊されていくゴーレム達。数が減ったと思ったら、
今度は土が盛り上がり、新たなゴーレムが姿を現した。
さらに錬金がかけられたのか、その体が煉瓦色の石と化す。
「これじゃキリがないわよ!」
杖の先から炎の渦を放っているキュルケが叫びだすと、新たに出現したゴーレムがもうすぐ目の前まで迫って来ていた。
そちらへ杖を向けようとすると、また別のゴーレムが突撃してくる。
タバサはエアカッターによる風の刃でゴーレムの石の体を斬り裂き、接近してきたゴーレムにはエアハンマーを放って吹き飛ばしていた。
しかし、そのせいでキュルケの援護に手が回らない。
「あっ!!」
振るわれたゴーレムの拳がキュルケの手から杖を弾き飛ばし、彼女の体を突き倒した。
それほど強い一撃ではなかったものの、ゴーレムは地面に倒れたキュルケに追い討ちをかけようと、ゆっくり両手を頭上で組んで振り下ろそうとしている。
キュルケは思わず目を瞑ったが、目の前の二体のゴーレムが突然爆発し、その細かい破片を浴びることになった。
「ファイヤーボール!」
キュルケを襲おうとした二体のゴーレム。ルイズはそいつらに向けて魔法を放っていた。
唱えるルーンそのものはファイヤーボール。しかし、イメージするものは全く違う。
ピンポイントに、ゴーレム達のいる場所に小さな爆発を発生させるーーそうイメージをしてみた。
(ほ、本当にできた……)
その結果は見ての通りだ。
今までまともに魔法を使おうとしても、それは爆発を起こすだけだった。
狙いを外し、あらぬ場所に爆発を起こしてしまうことも度々だった。
魔法が一度も成功せず爆発しか起こせないことに、ルイズは昔から悔しさを感じていた。
……だが、今のは違う。
今まで通りの爆発だった。しかし、これまで起きた爆発はまるで制御が効いていないため、狙った場所にさえ起こせないものだった。
しかし、スパーダのアドバイス通りにしてみたら……。
(本当に、本当に今のがあたしの魔法?)
思いもしなかった結果に唖然としていたルイズは、他に残っているゴーレム達にも、自分がイメージしたように様々な爆発を起こしてみた。
するとどうだ。全ての爆発がピンポイントに発生し、ゴーレムを吹き飛ばしたのだ。
「あ、あの子の魔法よね……?」
キュルケは尻餅をついたままゴーレム達を爆発で吹き飛ばしているルイズを見て、呆然としていた。
唱えているのは自分も軽々と使えるファイヤーボールやタバサが現在、使っているエアカッターといったものであるが、それで起きるのはいつも通り、ただの爆発に過ぎない。
本来なら笑うべき光景なのだが、今回ばかりはそうはいかない。
何故なら、彼女によって起こされる全ての爆発が、ゴーレム達を確実に薙ぎ倒しているのだから。
一体、これはどういうことなのだろう。失敗の魔法なのに、まるで自分の手足のように操っているなんて。
「……ふ、あたしも負けてられないわね!」
不敵に微笑むと落としていた杖を拾い、残ったゴーレム達に〝微熱〟のキュルケの炎の魔法をお見舞いしてやった。
スパーダの剣技、そして三人の少女達の魔法でゴーレムは次々と蹴散らされていった。
中でもルイズの爆発による魔法は、多数のゴーレムを倒すには最適のものであり、本人も己に自信がついてきたのか次々とゴーレムを吹き飛ばしている。
(やれやれ……やっと自分に自信がついたか)
スパーダは、何度も口添えをしてやっと自分の持つ力の使い方を自覚してくれたルイズに、嘆息を吐いていた。
本来ならばスパーダだけでもこれだけのゴーレムを薙ぎ倒すのは容易いことだが、今回ばかりはあえて実力はほとんど出さずに、ルイズ達に積極的に倒させてやろうと考えていた。
フーケこと、ロングビルも良い演技をしてくれた。
今も彼女は弱々しく地面に手をついたまま、その手にこっそりと杖を握っている。
彼女に頼み、まずはギーシュのワルキューレのように小さなゴーレムを造ってもらい、ルイズ達に戦わせるようにしてもらっていた。
もちろん、手加減はしてもらう。彼女達を鍛えるためなのだから。
だが、もうウォーミングアップはこれくらいで良いだろう。
ちらりとスパーダはロングビルの方へ視線を送って目配せをしてやると、彼女は弱々しい演技をしつつもこくりと頷いた。
「こ、今度は何!」
煉瓦のゴーレム達を全て倒したと思ったら、その残骸が一瞬にして土くれと化し、一か所に集まっていくと瞬く間に巨大なゴーレムとなっていたのだ。
昨日のものよりは小さいが、それでも20メイルはあろうかという巨体にルイズ達は慄く。
さらに土くれであったその体が今度はくすんだ光沢を持った灰色の鋼によって錬金されていた。
「どうやら、本気みたいね!」
キュルケが吠え、ルーンを唱えようとする。
ルイズも続いてルーンは今まで通りのファイヤーボールであるが、爆発をしっかりイメージして魔法を放とうとした。
今の自分なら、あのゴーレムでも倒せるかもしれない。いや、倒せるはずだ!
敵に後ろを見せない貴族ならば、あのゴーレムも倒さなければならないのだ。
一発で吹き飛ばせる爆発をお見舞いしてやる。
「待て」
ゴーレムに攻撃しようとルーンを唱えようとする二人の肩を掴み、制してくるスパーダ。
「何するのよ。早くあいつを倒さないと!」
ルイズの叫びにスパーダは首を横に振る。
そして、ゴーレムの背後に広がる森の方を顎で指していた。
「タバサ!」
キュルケはゴーレムに目も暮れず、森の方へ向かって駆けていくタバサの姿を見た。
そして、森の中に向けてウィンディ・アイシクルを放っている。
「あっ……」
ルイズは氷の矢が飛んでいった森の中で蠢く人影を目にした。
その人影ははっきりとは見えはしないものの明らかに人間であり、そして素顔を隠すためのフードを被っている。
(間違いない! あれはフーケね!)
さっきのゴーレムもこいつも、あいつが操っているのだ。
黒い人影は森の奥へと逃げていき、タバサもそれを追って森の中へ入っていった。
「っ……!」
ルイズは声にならない悲鳴を漏らし、尻餅をついていた。巨大なゴーレムの拳がいつのまにか振り下ろされ、
自分達を叩き潰そうとしたのをスパーダがリベリオンを盾にして受け止めていたのだ。
「君達は奴の方を頼む。奴さえ何とかすれば、こいつも消える。こいつは私が相手をさせてもらおう」
こんな巨大な拳を受け止めているのにも関わらず、スパーダは相変わらず涼しい表情で答え、促していた。
本当ならば、パートナー一人だけをこんな相手と戦わせて自分は戦わないなど、そんなのはメイジではない。
だが、何も戦う相手は一人ではないのだ。
そして、そちらの方を倒せば全てが終わる。
「……良いわよ。あたし達がフーケを捕まえるまで、足止めをしてちょうだい! それと、絶対に死んだりしちゃ駄目よ!」
起き上がったルイズはタバサが追って入っていった森へと駆けていき、キュルケもその後をすぐに追っていった。
「ヴァリエールには、負けられないわよ!」
「フンッ!」
ルイズ達が森の中へと消えていったのを見届けた直後、受け止めていたゴーレムの巨大な拳を押し返し、転倒させる。
巨体に見合った凄まじい衝撃で、大地が震動する。
スパーダは軽く嘆息を吐くと、全てが終わったと言いたげにリベリオンを背負う。
そして、先ほどタバサが置いていったままの〝破壊の箱〟の元へと歩み寄り、その取っ手を掴んで拾い上げると拳でコンコンッ、と軽く叩いてやった。
「全部、あなたの思い通りになった訳ね」
起き上がったロングビルが呆れたように言いながら、歩み寄ってくる。
「君こそ良い演技をしてくれたな。今までオスマンの秘書の皮を被っていただけはある」
「……良いわよ。別に褒められたって嬉しくないわ」
ロングビルはどこか不機嫌な表情でプイッ、と顔を背ける。
「まあそう腐るな。……良い演技をしてくれた礼に、こいつの使い方を教えてやろうか。ちょうど良い実験台もあるしな」
必死に起き上がろうとバタついているゴーレムを見て、ニヤリと微かに笑う。
「そういえば、あなたの故郷で作られたってことだけど……こんな箱が本当に兵器なの?」
怪訝そうな顔でロングビルはスパーダが持つ破壊の箱を見つめる。
スパーダはロングビルを下がらせると、起き上がったゴーレムをじっと睨んでいた。
(こいつはまだ機嫌が良くない。どれ……)
スパーダが肩に担いでいた破壊の箱を頭上に掲げると、箱は光を放ち始めその光に包まれていく。
光が消えると、スパーダの手元には箱であったはずのものは跡形もなくなり、十字状の大柄なボウガンへと姿を変えていた。
「なっ——」
ロングビルもあまりの突然なことに仰天してしまっている。
スパーダはボウガンと化した破壊の箱を構え、ゴーレムに狙いを定める。
ボウガンから銛のように大きな矢尻がついた矢が放たれ、ゴーレムに命中した途端、爆発を起こした。
スパーダは問答無用で、次々とボウガンから矢を放ち、ゴーレムの体に命中させていく。
着弾する度に爆発し、ゴーレムの体を砕いていくそれは、もはや矢ではない。爆弾だ。
破壊の箱が再び光に包まれると、また形が別の物に変わった。
(う、嘘でしょ?)
平民が使う火薬を用いた武器、短銃よりも大きくて長い銃身が何十にも束ねられたような長銃となり、
スパーダはそれを片手で軽々と持ち上げると引き金を引く。
それだけで十を軽く超す銃口から凄まじい炸裂音と共に無数の火が一斉に噴き、ゴーレムの腕を粉砕していた。
(まだ何かする気!?)
これだけでも唖然とするしかなかったロングビルであるが、スパーダが巨大な銃となっている破壊の箱の銃口を足元にドン、と置くとまた光に包まれていく。
今度はロングビルも知っていた、戦艦によく積まれて大規模な戦争で使われる大きな砲身を持った大砲へと姿を変えていた。
戦艦に積まれたりするものよりは全然小さいが、それでもあんな大きな砲身から放たれるものを喰らえば、自分の作ったゴーレムと言えど跡形もなく吹き飛んでしまう。
スパーダは大砲と化した破壊の箱のハンドルを回して砲身の角度をピタリとゴーレムに狙いを定める。
そして取っ手を引くと、これまた耳が痛くなってしまいそうな騒音を立てて
砲口から巨大な火球が放たれ、ゴーレムの胴体に着弾した。
凄まじい爆発を起こし、爆風にロングビルは顔をマントで覆い隠してしまう。
そして次に目に入ってきたものは、上半身が跡形もなく粉々にされ、下半身が土くれの山となって崩れていく、
自分のゴーレムの哀れな姿だった。
もはやロングビルは開いた口が塞がらない。
確かに、〝破壊の箱〟と呼ぶべき凄まじい破壊力だ。
だが、初めはあんなに小さかったはずのあの箱が何故、原型を無視してあんな物へと変わることができるのだ? 分からない。
スパーダの故郷で作られたと言っていたが、一体彼の故郷はどんな場所なのだ。
ハルケギニアの技術では、とてもじゃないがあんなものは作れない。
砂漠の民であるエルフですら、不可能だろう。
光に包まれ、元の箱へと姿を戻した破壊の箱を肩に担いだスパーダは、唖然とするロングビルの元に歩み寄ってくる。
「こんな所だ。分かったか?」
「わ……分かる訳ないじゃない! 一体、何なのよそれ!」
「君達が呼んでいるだろう。〝破壊の箱〟だと。もっとも、本当の名は〝パンドラ〟と言うのだがな」
〝災厄兵器パンドラ〟——魔界で生み出された、文字通り破壊をもたらすための魔具である。
様々な災いが詰められていたという人間界の伝説で有名なパンドラの箱と同様に、こいつも様々な災いと破壊の力が秘められているのだ。
持ち主の記憶とイメージに反応して自在に姿を変え、様々な武器と化すのである。
こいつを扱うには、姿を変えるための武器の知識などを持ち主が知っていなければならないため、武器のことをあまり知らない人間が使っても意味はない。
ちなみに、変形させなくとも一応使うことはできるのだが……。
変形する仕組みについてを聞かされたロングビルは口をあんぐりと開けて呆然としていた。
「……と、まあこんな所だ。君の大事な人達があれみたいにされたいのであれば、譲ってやっても良いが」
土くれの山を顎で指し、パンドラを差し出してくるスパーダだがロングビルは首をブンブンと横に振る。
「そうか。……では、彼女達を迎えに行くとしようか」
パンドラを肩に担ぎ、森の方へ歩き出すスパーダ。
呆けていたロングビルもその後を追う。
(そういえば、あいつをフーケに仕立てるとか言っていたけど……どういうつもりよ)
ロングビルは森の中で目にした、スパーダが呼び出したあの異形の姿を思い浮かべていた。
先ほどから広場の方で何度も爆音が響いてきているのだが、タバサは構わずフライで森の中を飛翔していた。
(人間じゃ、ない……)
森の中に見つけたフーケと思わしき人影を見つけ、その後をフライを用いて追っていたタバサは先に回りこんでいたのだが、
目の前にいる存在に眉を顰めていた。
フードで顔を隠した女性らしき姿をしているのだが……影のように漆黒の全身からはどす黒いオーラが湧き上がっており、そのフードの奥には不気味に赤く光る目が覗けていた。
こいつは間違いない——。
「ジャベリン」
瞬時にルーンを唱え、杖の先から氷の槍を放つ。
しかし、相手が人間ではないと確信して容赦なく放った氷の槍は、フーケと思わしきその人影をすり抜け、背後の木に刺さったのだ。
あまりに突然な出来事に目を見開くタバサ。
フーケはニヤリ、と赤く光る三日月のように裂けた口を開けて杖を構えていた。
「タバサ!」
「ファイヤー・ボール!」
フーケの背後からルイズとキュルケが姿を現し、キュルケがフーケの背に向けて火球の礫を放つ。
慌ててタバサは斜線から外れ、フーケの側面へと回り込んだ。
「えっ!?」
キュルケとルイズもタバサと同様に驚愕する。
火球は確かにフーケの背中に命中したはずだが、これもまたすり抜け、その先の木の表面を焼き焦がすだけであった。
「ど、どういうこと!?」
(やはり、あれは悪魔……)
既にその姿を見た時から、フーケが人間ではないことを確信していたタバサは、思わぬ所で悪魔と戦えることで杖を持つ手に力が入った。
こいつはこの間、自分も戦ったような奴とは全く性質が違う。
あの時はこちらの攻撃が通ったのだが、こいつには何故か効かない。
「あれが……フーケなの?」
「人間、じゃない……?」
ルイズとキュルケもフーケの正体に驚いているようだ。
フーケは振り向き様に杖を突きつけ、その先から無数のどす黒い影の塊を二人に向けて放っていた。
咄嗟のことに対応できない二人であったが、その目の前に飛んできたタバサが、エア・シールドによる分厚い空気の壁を作って攻撃を防いでいた。
即座にウィンディアイシクルで反撃をするものの、やはり氷の矢はまるで手応えがなくすり抜けてしまう。
フーケは再びニヤリと不気味な笑みを浮かべている。こちらを馬鹿にしているのか。
「どいて! あたしの魔法で……!」
ルイズが杖をフーケに突きつけ、ファイヤーボールのルーンを詠唱する。
先ほど、ゴーレムを次々と屠っていたようにフーケの周辺で大きな爆発を起こしていた。
(駄目……!)
もしかしたら、と思ったが木々をいくつか吹き飛ばしただけでフーケ本人は全くの無傷だ。
「もうっ! 何でよ!」
「ちょっと待って!」
ルイズが癇癪を起こして叫んでいたが、キュルケが声を上げだす。
今の爆発で森の木々がいくらか吹き飛ばされたために、日の光が森の中へと射し込んでいた。
光を浴びるフーケは絶叫を上げて苦しみだし、女性であったその姿が実体を持つ影法師のような姿へと変わっていた。
「あいつ、光が弱点なんだわ!」
キュルケが愉快そうに叫びつつ、隙だらけのフーケにファイヤーボールを放った。
タバサも素早くジャベリンを放つと、今度はしっかりとキュルケのファイヤーボール共々、フーケを捉えていた。
氷の槍が胴体を串刺しにし、火球がフーケを焼き焦がす。
ドサリ、と仰向けに地面に倒れたフーケはどす黒い体を液状のように溶かし、地面へと吸い込まれていった。
「や、やったの……?」
ルイズがフーケの倒れていた地面に杖を向けたまま息を呑む。
「ほう。そいつを倒せたのか。やるな」
不意に三人の背後から感嘆の声がかかり、振り向くとそこには、破壊の箱を肩に担ぐスパーダとロングビルの姿があった。
キュルケはダーリン! と嬉しそうに叫びながらその身に抱きつくがスパーダは気にした様子もなくルイズに顔を向けている。
「……今の、本当にフーケだったの? あれ、人間じゃあ……」
「ああ。私達も偵察中にそいつに追われたからな。それに昨日、私も姿を見ている。間違いなく、そいつは〝土くれのフーケ〟だ」
スパーダが断言し、どこかまだ釈然としない様子のルイズだったが、とにかくフーケの撃退に成功したということで納得することにした。
「君達の活躍で、フーケは見事倒せたな」
満面の笑顔で三人を称えてくるスパーダに、キュルケとルイズの顔がぱっと輝き、喜びを露にしていた。
タバサも顔には出さないが、嬉しそうな様子だった。
「当然よ。〝微熱〟のキュルケにかかれば、フーケを倒すなんて容易いもの」
キュルケが誇らしそうにすると、ロングビルはじっと細い目で彼女を睨んでいる。
「何言ってんの。あんた一人で倒したわけじゃないじゃない!」
「みんなのおかげ」
三人がフーケ撃退の成功に喜び、そして騒ぎ出す中、地面に溶け込んだ影の悪魔——〝死影霊〟ドッペルゲンガーは、
誰にも気づかれぬまま主であるスパーダの足元へと移動し、そのまま沈黙していた。
#navi(The Legendary Dark Zero)
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: