「ゼロと電流-23」(2011/09/27 (火) 21:32:02) の最新版変更点
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#navi(ゼロと電流)
地下のラボ内に並べられた三機のザボーガーを才人は興味深そうに見比べている。
一つは完成予想模型であり、言ってしまえばただのマネキンだ。
一つは現在建造中のであり、半ば内部構造が露出している状態。
そして最後の一つは、激しい戦闘を終えてきたかのように所々損傷し、その手にはデルフリンガーを握りしめている。
「やっぱ、そっくりだよな」
才人はうんうんと何を合点しているのか、頷きながら飽きもせず眺めている。
「そりゃあ、本人だからな」
ザボーガーに握られたデルフが答えると、サイトが首を傾げた。
「本人? 人?」
「ん? 本……電人? 本電人で良いのか?」
「さあ?」
「その辺りは再考の余地があるようだね」
二人(?)に声をかける、ディスプレイを眺めていた男……大門勇は、手元の電源を落とすと才人に向き直った。
「区別するための名前は、才人君に付けて貰おうか」
「え、俺。いいの? 豊さんは?」
「あいつはまだまだ帰ってこないからな」
「留学してるんだっけ」
勇の息子である大門豊は、現在は地中海コルタ島で秘密刑事としての訓練中なのだが、それを才人が知るわけもない。
一部の警察関係者以外には、海外留学という事で話が通されているのだ。
「うむ、だから、君に任せよう」
才人の両親はそれぞれ、勇の教え子でもあった。そのため、才人自身もこのラボへは良く出入りしている。
世界屈指のロボット工学者である大門勇も、才人にとっては好奇心を満足させてくれる気の良い小父さんなのだ。
「よし。それじゃあいい名前、考えてやるからな」
「おお、よろしく頼むぜ、坊主」
「だから坊主じゃねえって」
「サイトだったか。じゃあ俺はデルフリンガーだ。デルフで良いぜ、坊主」
「おう、デルフ。って、坊主のままじゃないか」
騒がしいやりとりを最後まで続けながら、サイトはラボを後にする。
残った勇は、今度は別の機械に電源を入れると、デルフザボーガーの前に立つ。
「私がまだ完成させていないザボーガーか……」
「話を始めようか?」
サイトがいる前では敢えて語らなかったデルフ。
その一点で、勇はデルフの話を聞く気になっていた。
「それとも、こいつのメモリとやらを覗いた方が手っ取り早いか?」
「同時進行で行こう。概略は君に聞くとして、細かい部分はメモリを再生する」
「じゃあ、どの辺りから始めようかね」
「まずは、異世界の話だけに限定してくれないか?」
「つーと、ハルケギニアの話かい」
ザボーガーはまだ完成していないのだ。そうなると、デルフザボーガーはどこから来たことになるか。
例えそれがどれほど信じ堅いことであろうと、答えは一つしかない。
未来だ。
ならば、未来のどの時点から来たのか。
だから、まず勇はハルケギニアの物語を尋ねた。地球の未来を聞く準備はまだ整っていない。
デルフは語る。自分がルイズに引き取られてからの物語を。
そして魔神三ッ首の正体を。
「魔神三ッ首……」
「こっちの世界にゃまだいないのかい?」
「聞いたこともないな」
「じゃあ、もっと前の話をしようか」
「君は、ザボーガーのメモリを全て読みとることができるのか」
「……ああ、どうやらそうらしい。どっかが繋がっちまってるんだな」
「なら、一つ頼みがある」
「ん?」
「それ以前の物語は私に聞かせないでくれ」
「なに?」
勇は深く椅子に座りこむと、弱々しげに笑った。
「私は弱い人間でね。未来を知るという誘惑に勝てそうにない」
「いや、しかし……」
「駄目だ。それ以上は言わないでくれ。私は最初の予定通りにザボーガーを完成させる。そして君の希望通りザボーガーを修理しよう」
「だがよぉ……」
「論議は無しだ。豊は、ザボーガーとともに一度はその三ッ首を倒したのだろう?」
「ああ」
「ならば、私が未来を知る必要はない」
「だが……」
「……ザボーガー、いや、ダイモニウムの秘密を狙っている者がいる」
「おい」
「私は狙われるだろう。それくらいは予測できるさ」
「だったら!」
「なあ、デルフ君。私は、近い将来に息子が世界を守ることを確信できるんだぞ? 幸せな父親じゃないか」
それに、と勇は続ける。
「幸か不幸か、未来の知識を知る危うさだって理解できてしまう」
歴史を変えてはならない。未来の勝利を覆さないためにも。
約束された確実な勝利が待っているのならば、未来を知る権利などいらない。
「あんたは」
デルフの言葉は途絶える。
Σ団に殺されることを伝えろと言うのか。ダイモニウムが奪われることを伝えろと言うのか。
救うことはできるだろう。だが、それによって変えられる未来はどうなる。誰がそれを予測できる。
「デルフリンガー。ザボーガーを、豊を頼む」
「こんな与太話を本当に信じるのかい?」
「ザボーガーは君たちを信じてる。ならば、私が君たちを信じない理由などないだろう」
デルフリンガーはザボーガーとともに眠りにつく。
代々のガンダールヴに受け継がれ悠久の時を超えてきたデルフリンガーには、数年の眠りなど一瞬にすぎない。
そして、その日はやってくる。
「……お?」
閉じた空間に光が差し込まれ、デルフリンガーは意識を覚醒させる。
「そこに誰かいるのか?」
「ああ、もうそんな時間か」
デルフリンガーは見た。大門勲の面影を受け継いだ、一人の青年の姿を。
「よお、初めましてだな、ダイモンユタカ」
「ザボーガーが話している……わけじゃないな」
「ああ。俺っちは、デルフリンガー。あんたに、会いに来た」
全てを伝えよう。
大門勲の言葉を。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ジョゼフは、ヴィットーリオに繋がるコードを断ち切った。
「さらばだ、ロマリアの虚無よ」
「世話をかけたな、ガリアの虚無」
その瞬間、激しい光と熱を伴った爆発が広がる。
そして、ラグドリアンでは三ッ首の身体が揺れた。
(おのれっ、おのれぇぇ!!)
「お父様っ!」
イザベラは見た。
ガリアの王の、ガリアの虚無の、己の父親の死に様を。
ミョズニトニルンとリーヴスラシル、二つの紋章が同時に消失していく。
「ルイズ! 今です!」
カリーヌの言葉を待っていたかのように、ルイズの杖が振るわれる。
「宇宙の果てのどこかにいる……」
ルイズは言葉を止めた。
違う。自分が呼ぶべきは違う。
それはただ一つ。ただ一つ、心を預けたもの。
喚ぶは一つ!
「……来なさい! ザボーガー!」
ゴーレムの最後の一体が破壊され、水の壁も風の刃も雲散霧消する。
炎の玉ははじかれ、電人ホークの残骸が宙を舞った。
陣営の全ての攻撃が途絶え、三ッ首の咆吼が響く。
(嬲り殺す! 一人残らずはらわたを食い破ってくれるわっ!)
世界扉が開き、溢れんばかりの光が周囲を覆った。
「久しぶりだな、魔神三ッ首」
(貴様!)
鏡と見まがう空間の断絶、扉のようにそびえる部分の向こうに二つの人影。
「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」
男の声。
鋭くはっきりとした、それはルイズにも聞き覚えのある声。
ザボーガーのメモリの中にあった声。
「俺の兄弟をよろしく頼む」
「貴方の兄弟?」
「ああ。身体は鋼鉄の機械でも、赤い血潮が流れている俺の兄弟だ」
ルイズは一歩、扉へと近づく。
「ヴァリエールの名にかけて誓うわ。私にとっても、ザボーガーは大切なパートナーだもの」
大門豊はうなずいた。
二人は同時にヘルメットのインコムを引き出す。
「電人ザボーガー!」
「GO!」
#navi(ゼロと電流)
#navi(ゼロと電流)
地下のラボ内に並べられた三機のザボーガーを才人は興味深そうに見比べている。
一つは完成予想模型であり、言ってしまえばただのマネキンだ。
一つは現在建造中のであり、半ば内部構造が露出している状態。
そして最後の一つは、激しい戦闘を終えてきたかのように所々損傷し、その手にはデルフリンガーを握りしめている。
「やっぱ、そっくりだよな」
才人はうんうんと何を合点しているのか、頷きながら飽きもせず眺めている。
「そりゃあ、本人だからな」
ザボーガーに握られたデルフが答えると、サイトが首を傾げた。
「本人? 人?」
「ん? 本……電人? 本電人で良いのか?」
「さあ?」
「その辺りは再考の余地があるようだね」
二人(?)に声をかける、ディスプレイを眺めていた男……大門勇は、手元の電源を落とすと才人に向き直った。
「区別するための名前は、才人君に付けて貰おうか」
「え、俺。いいの? 豊さんは?」
「あいつはまだまだ帰ってこないからな」
「留学してるんだっけ」
勇の息子である大門豊は、現在は地中海コルタ島で秘密刑事としての訓練中なのだが、それを才人が知るわけもない。
一部の警察関係者以外には、海外留学という事で話が通されているのだ。
「うむ、だから、君に任せよう」
才人の両親はそれぞれ、勇の教え子でもあった。そのため、才人自身もこのラボへは良く出入りしている。
世界屈指のロボット工学者である大門勇も、才人にとっては好奇心を満足させてくれる気の良い小父さんなのだ。
「よし。それじゃあいい名前、考えてやるからな」
「おお、よろしく頼むぜ、坊主」
「だから坊主じゃねえって」
「サイトだったか。じゃあ俺はデルフリンガーだ。デルフで良いぜ、坊主」
「おう、デルフ。って、坊主のままじゃないか」
騒がしいやりとりを最後まで続けながら、サイトはラボを後にする。
残った勇は、今度は別の機械に電源を入れると、デルフザボーガーの前に立つ。
「私がまだ完成させていないザボーガーか……」
「話を始めようか?」
サイトがいる前では敢えて語らなかったデルフ。
その一点で、勇はデルフの話を聞く気になっていた。
「それとも、こいつのメモリとやらを覗いた方が手っ取り早いか?」
「同時進行で行こう。概略は君に聞くとして、細かい部分はメモリを再生する」
「じゃあ、どの辺りから始めようかね」
「まずは、異世界の話だけに限定してくれないか?」
「つーと、ハルケギニアの話かい」
ザボーガーはまだ完成していないのだ。そうなると、デルフザボーガーはどこから来たことになるか。
例えそれがどれほど信じ堅いことであろうと、答えは一つしかない。
未来だ。
ならば、未来のどの時点から来たのか。
だから、まず勇はハルケギニアの物語を尋ねた。地球の未来を聞く準備はまだ整っていない。
デルフは語る。自分がルイズに引き取られてからの物語を。
そして魔神三ッ首の正体を。
「魔神三ッ首……」
「こっちの世界にゃまだいないのかい?」
「聞いたこともないな」
「じゃあ、もっと前の話をしようか」
「君は、ザボーガーのメモリを全て読みとることができるのか」
「……ああ、どうやらそうらしい。どっかが繋がっちまってるんだな」
「なら、一つ頼みがある」
「ん?」
「それ以前の物語は私に聞かせないでくれ」
「なに?」
勇は深く椅子に座りこむと、弱々しげに笑った。
「私は弱い人間でね。未来を知るという誘惑に勝てそうにない」
「いや、しかし……」
「駄目だ。それ以上は言わないでくれ。私は最初の予定通りにザボーガーを完成させる。そして君の希望通りザボーガーを修理しよう」
「だがよぉ……」
「論議は無しだ。豊は、ザボーガーとともに一度はその三ッ首を倒したのだろう?」
「ああ」
「ならば、私が未来を知る必要はない」
「だが……」
「……ザボーガー、いや、ダイモニウムの秘密を狙っている者がいる」
「おい」
「私は狙われるだろう。それくらいは予測できるさ」
「だったら!」
「なあ、デルフ君。私は、近い将来に息子が世界を守ることを確信できるんだぞ? 幸せな父親じゃないか」
それに、と勇は続ける。
「幸か不幸か、未来の知識を知る危うさだって理解できてしまう」
歴史を変えてはならない。未来の勝利を覆さないためにも。
約束された確実な勝利が待っているのならば、未来を知る権利などいらない。
「あんたは」
デルフの言葉は途絶える。
Σ団に殺されることを伝えろと言うのか。ダイモニウムが奪われることを伝えろと言うのか。
救うことはできるだろう。だが、それによって変えられる未来はどうなる。誰がそれを予測できる。
「デルフリンガー。ザボーガーを、豊を頼む」
「こんな与太話を本当に信じるのかい?」
「ザボーガーは君たちを信じてる。ならば、私が君たちを信じない理由などないだろう」
デルフリンガーはザボーガーとともに眠りにつく。
代々のガンダールヴに受け継がれ悠久の時を超えてきたデルフリンガーには、数年の眠りなど一瞬にすぎない。
そして、その日はやってくる。
「……お?」
閉じた空間に光が差し込まれ、デルフリンガーは意識を覚醒させる。
「そこに誰かいるのか?」
「ああ、もうそんな時間か」
デルフリンガーは見た。大門勲の面影を受け継いだ、一人の青年の姿を。
「よお、初めましてだな、ダイモンユタカ」
「ザボーガーが話している……わけじゃないな」
「ああ。俺っちは、デルフリンガー。あんたに、会いに来た」
全てを伝えよう。
大門勲の言葉を。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ジョゼフは、ヴィットーリオに繋がるコードを断ち切った。
「さらばだ、ロマリアの虚無よ」
「世話をかけたな、ガリアの虚無」
その瞬間、激しい光と熱を伴った爆発が広がる。
そして、ラグドリアンでは三ッ首の身体が揺れた。
(おのれっ、おのれぇぇ!!)
「お父様っ!」
イザベラは見た。
ガリアの王の、ガリアの虚無の、己の父親の死に様を。
ミョズニトニルンとリーヴスラシル、二つの紋章が同時に消失していく。
「ルイズ! 今です!」
カリーヌの言葉を待っていたかのように、ルイズの杖が振るわれる。
「宇宙の果てのどこかにいる……」
ルイズは言葉を止めた。
違う。自分が呼ぶべきは違う。
それはただ一つ。ただ一つ、心を預けたもの。
喚ぶは一つ!
「……来なさい! ザボーガー!」
ゴーレムの最後の一体が破壊され、水の壁も風の刃も雲散霧消する。
炎の玉ははじかれ、電人ホークの残骸が宙を舞った。
陣営の全ての攻撃が途絶え、三ッ首の咆吼が響く。
(嬲り殺す! 一人残らずはらわたを食い破ってくれるわっ!)
世界扉が開き、溢れんばかりの光が周囲を覆った。
「久しぶりだな、魔神三ッ首」
(貴様!)
鏡と見まがう空間の断絶、扉のようにそびえる部分の向こうに二つの人影。
「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」
男の声。
鋭くはっきりとした、それはルイズにも聞き覚えのある声。
ザボーガーのメモリの中にあった声。
「俺の兄弟をよろしく頼む」
「貴方の兄弟?」
「ああ。身体は鋼鉄の機械でも、赤い血潮が流れている俺の兄弟だ」
ルイズは一歩、扉へと近づく。
「ヴァリエールの名にかけて誓うわ。私にとっても、ザボーガーは大切なパートナーだもの」
大門豊はうなずいた。
二人は同時にヘルメットのインコムを引き出す。
「電人ザボーガー!」
「GO!」
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