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#navi(ゼロのペルソナ)
#setpagename(ゼロのペルソナ 第13章 死神 前編)
死神 意味……別離・再生
「風吹く夜に」
「水の誓いを」
それが恋人たちの合言葉だった。
「きみが好きだ」
「わたくしだって、お慕いしております」
「きみと太陽のもと……、誰の目もはばからずに、この湖畔を歩いてみたいものだ」
「ならば、誓ってくださいまし」
「迷信だよ。ただの言い伝えさ」
「迷信でも、わたくしは信じます。信じて、それがかなうのなら、いつまでも信じますわ。いつまでも……」
それは全て、双月を映しこむ美しき湖でのことだった。
ルイズはラグドリアン湖から戻ってきてトリステイン魔法学院の自分の寝室にいた。
そして手持ち無沙汰となっていたルイズはトリステイン王家から送られて来た『始祖の祈祷書』を読むことに決めた。
もともと『始祖の祈祷書』はゲルマニア皇帝とトリステイン王女であるアンリエッタ姫との婚約の儀で
詔を読み上げられる任を頂いたルイズに、その文を作るために送られて来たのであった。
しかし、その『始祖の祈祷書』を読む前にルイズは忌まわしい事件に巻き込まれてしまいそれどころではなくなってしまった。
思い出すだけでどこであろうと奇声を発したくなるような羞恥の記憶。
ルイズが水の精霊のもとから帰ってきてすぐに『始祖の祈祷書』を読もうと決断したのはルイズの勤勉さの表れではなく、
なにかしらの仕事に集中して嫌なことを忘れようという意志の表れだった。
そして『始祖の祈祷書』はルイズの願いは十全にかなえてくれることとなる。
ベッドの上で行儀悪くうつぶせになりながら『始祖の祈祷書』を開いた。
祈祷書の中には白紙のページが続くばかりということは聞いていたが、
今のルイズはただ時間を潰すことの出来る言い訳があればなんでもよいという気分だった。
しかしページの中には古代ルーン文字が躍っていた。それを見た瞬間、ルイズはわけもわからぬほど、それに引き込まれてしまった。
序文。
これより我が知りし真理をこの書に記す。この世のすべての物質は、小さな粒より為る。
四の系統はその小さな粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり。その四つの系統は、『火』『水』『風』『土』と為す。
ルイズの知的好奇心が爆発的に膨れ上がる。読み始めた不純な動機はルイズの心の中から消え去っている。
神は我にさらなる力を与えられた。四の系統が影響を与えし小さな粒は、さらに小さな粒より為る。
神がわれに与えしその系統は、四のいづれにも属せず。我が系統はさらなる小さき粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり。
四にあらざれば零。零すなわちこれ『虚無』。我は神が与えし零を『虚無』と名づけん。
ルイズにはもうページをめくろうとする意志に抗うことはできない。たとえ目の前で戦争が起きようともルイズは構わず読み続けるだろう。
これを読みし者は、我の行いを受け継ぐもの、あるいはそれに抗するものなり。『虚無』を扱うものは心せよ。
『虚無』は強力なり。我はこの書の読み手を選ぶ。たとえ資格なきものが指輪を嵌めても、この書は開かれぬ。
選ばれしものが指輪を嵌めても、この書は開かれぬ。選ばれし読み手は『四の系統』の指輪を嵌めよ。されば、この書は開かれん。
ブリミル・ル・ルミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴァルトリ
ルイズはさらに急かされるようにページをめくるが、後のページには白紙が続くばかりであった。
本を閉じ、ルイズは半ば呆然としながらも先ほど読んだ内容のことで考え込んだ。
読んでいるうちに、いつの間にか横になっていた身を起こしていた。
何も書かれていないという『始祖の祈祷書』には文字があった。
いや、この書物は読むものを選ぶという。もしかして自分だけにしか見ることができないのか。
ルイズは指に嵌めた水のルビーを見た。それはアルビオンへ行く前にアンリエッタから譲られたものだ。
トリステイン、アルビオン、ガリアそしてロマリアに始祖の時代から伝わるという指輪。これが『四の系統』の指輪なのであろうか。
今まで自分が魔法を使えなかったのは自分の系統が虚無だったからであろうか。だが、読めたといっても序文だけである。
ということはやっぱり自分はただの落ちこぼれで、自分が虚無であるなどというのはただの妄想なのであろうか。
その後、ルイズは真剣な表情で考えこんでいるかと思えば、うんうん唸ったりと頭の中で思考の堂々巡りを繰り返した。
完二はいつも以上に厨房などで学園で働く平民たちと食堂で時間を潰し、部屋に戻ってきた。。
時間が経つに連れ恥ずかしさも実感できるようになってきたので、最悪の場合、ルイズから八つ当たりでもされるのではないかと思っていたからだ。
だが却ってルイズのボーッとした様子に心配することになってしまった。
次の日もルイズは、始祖の祈祷書と虚無について考えこんでいるばかりであった。
今日一日ルイズがおかしいと思ったキュルケは夕食後、半ば強引にテラスに誘い、
半ば強引に付いて来たクマと食後のデザートを楽しみながらルイズに質問を投げかけていた。
ところがルイズときたら、「はあ」だの「そう」だのまるで気のない返事ばかりだった。
惚れ薬が効いている間のことをからかってみても似たような反応であった。これにはキュルケは驚愕した。
ルイズはわりといや、かなり粘着質な性質なのだ。そのルイズが惚れ薬で痴態を晒していたことをすぐに忘れるはずがない。
いつものルイズならこれだけで一年はからかうネタに困らないだろう。
「ねえ、ルイズ、あなた今日一日、その古びた本を読んでるだけじゃない?」
「そう」
それまでと同じように気のない返事をしたルイズは突然、はっと思いついたような顔をした。
「キュルケ!この本読んでみて!」
ルイズはその手に持っていた本をキュルケに渡した。
もう一人の自分の親友と同じように無感情になっていたルイズの突然の感情のほとばしりにキュルケはたじろいだ。
「え、なによ……ってこれ、なにも書かれてないじゃない」
このピンク髪の友人は一日何も書かれていない本を読んでいたのであろうか
。もしかしてモンモランシーの惚れ薬の悪影響を受けているのでは?
とキュルケが頭の具合を心配する少女はさらに自分の指に嵌めていた指輪を抜き取りキュルケに突き出した。
「これつけて読んでみて」
「それに何の意味が……」
「いいから!」
気おされたかのようにキュルケはおとなしく言うとおりにして指輪を嵌めてもう一度白紙だった本を見てみる。当然、今も白紙だ。
「読めないわよ……」
「古代ルーン語が読めないから?何も書かれていないから?」
キュルケは片眉をつり上げた。
「古代ルーン語……?なんでそれが出てくるのよ?」
「つまりなにも書いてないように見えるのね?」
「見えるも何も書いてないじゃない」
「そう……そうなのね……」
ルイズはそう言うとなにか得たものがあるというな顔になり、本と指輪を返してくれとキュルケに言った。
本と指輪を返しながら、キュルケは一日何も書かれていない本を読んだ挙句、
指輪を付けてそれを読めと言いう奇態な言動をする友人のことを本気で心配した。
そしてあとでモンモランシーを問い詰めることも心に決めた。
ところでルイズのぶんのデザートまで無心に食べていたクマだが、着ぐるみは着ていない。
召還されて最初のころは着ぐるみを脱ぐのを嫌がったものだが、最近は脱ぐのに抵抗がなくなったようだ。
未知の場所なのでクマにとって最も完全に近い姿を保っていたかったのかもしれない。
つまり今はこの世界になじんだということだ。
そこへ完二がやって来た。
「おい、キュルケ、クマ。タバサと花村センパイが帰ってきたぜ」
「あら、本当?じゃあ、迎えに行きましょうか」
「あ、ちょっと、モグモグ、待って欲しいクマ」
クマはクリームを飛ばしながら立ち上がったキュルケに言った。
完二はその二人とは別にもう一人同じテーブルに座っている少女に躊躇いがちに言った。
「な、なあルイズ、お前も行っとくか?」
ルイズの返答はなかった。それだけみれば昨日の夜と同じだったが、なにか黙考しているようであった。
「ごっくんペロリ。それじゃ迎えに行くクマよー」
顔をクリームでペイントしたクマが言った。キュルケがしょうがないとばかりにナプキンで顔を拭いた。
考え込んでいるルイズも無理矢理連れて一行は塔を出た。
4人が行った時、タバサと陽介はちょうど馬車から降りようとしていた。
「タバサ、数日ぶりね!」
そう言いながらキュルケは馬車から降りたタバサをその豊満な胸に押し付けるように抱きしめた。タバサはなされるがままだった。
完二とクマも数日ぶりに会う仲間を出迎える。
「センパイ、お疲れっス。つかどこ行ってたんスか?前もこんなことあったよな」
「どーこ行ってたクマ?さーさー、吐きんしゃい」
「んー、いや悪いな秘密なんだわ」
「ムムム、何か怪しい香りが……。でも陽介が秘密って言うならしょーがないクマね」
「ま、センパイがそーいうなら」
陽介の言葉に納得できたわけではないが、一年以上の深い付き合いだけあって完二とクマは踏み込むのをやめた。
タバサを抱きしめていたキュルケは、視界を去ろうとする馬車を見た。
タバサたちが乗ってきたものだが、それには交錯する二つの杖の紋章、ガリア王家の証が記されていた。
この子がガリア王家の馬車で?この子とガリア王家にどういう関係が?
だが、キュルケの思考は、小さな友人とは別の方向へと進んだ。
それは昨日ラグドリアン湖で感じた違和感、そして馬車と王家。それらがキュルケの頭の中で化学反応を起こした。
「なあ、クマちょっと話が……」
「ああああ!!」
キュルケの突然の大声に、話を遮られた陽介はもちろん周りの人間は全員驚いた。
その腕の中にいたタバサも彼女にしては珍しくビクリと小さく肩を震わせた。
「ちょっと、なんなの!?」
今まで帰ってきた二人との会話に参加せず、思考の海を漂っていたルイズも怒ったようにキュルケに言った。
タバサを解放してキュルケは真剣な表情を浮かべてルイズを視界の中央に納めた。
「昨日、わたしなにかひっかかりを感じてたのよ。水の精霊からアンドバリの指輪の話を聞いてから……いえ、正確に言うならそれ以前かしら……」
「ちょっと何を勝手に納得しようとしてるのよ!わたしにもわかるように説明しなさい」
さきほどのテラスでの会話で自分も同じようなことをしておきながらルイズは悪びれている様子はない。
キュルケはルイズの要求の身勝手さを気にはしなかった。もとより意趣返しのつもりもない。
「ならはっきり言うわ。昨日、ウェールズ皇太子の姿を見たわ」
その場に居た一同は言葉を失った。もっともタバサはいつもの寡黙なのかもしれないが。
「どこで?」
やはり一人驚愕とまではいたらなかったのかタバサはキュルケの簡潔な説明の詳細を簡潔に求めた。
「ここからラグドリアン湖へ向かう途中で馬車とすれ違ったの。
やけにいい男が乗ってると思ったんだけどその人がウェールズ皇太子だったのよ」
「な、なんでもっと早くに気付かないのよ!?」
「しょうがないじゃない。男の顔なんていちいち覚えていないわ。
というか死んだものと思ってたのよ、ニューカッスル城にいた人間は全員殺されたって聞いてたし」
「ま、まあよかったじゃん?皇太子さん死んでなくてさ」
陽介がキュルケに噛み付くルイズをなだめる。
クマと完二も陽介と同意見である。
「よかったクマー!王子さま生きてて。クマも頑張ったかいがあるってもんです!」
「ああ、まったくだぜ」
しかしキュルケの顔はウェールズの生存を喜んでいるようではなかったので、完二は尋ねる。
「なに渋い顔してんだ?ちったあ喜ばーねのか?」
「生きてるなら喜ぶわよ。もし生きてるならね……」
キュルケの言葉にルイズだけがはっとした顔になった。
「もしかして、あんたアンドバリの指輪で甦らせられたって言うつもりなの?」
その言葉でようやく完二とクマもキュルケの言わんとしていることを理解した。しかし陽介とタバサは話がつかめない。
「ちょ、待ってくれ。いったいなんの話をしてんだ?」
「ラグドリアン湖で水の精霊から死んだ人間を操るアンドバリの指輪が盗まれたのよ」
これでわかるでしょ。というようにキュルケは端的に情報を告げた。タバサは瞬時に理解し、陽介も少し遅れて理解する。
「つまり皇太子はアンドバリの指輪で操られている?」
タバサが要点をキュルケに問いかける。
「確信はないわ。ただ、もしあの皇太子が誰かに……いえ、操っているならレコン・キスタでしょうね。そうなら狙いは……」
「姫さま……!」
キュルケの出す結論をルイズは言った。キュルケはこくりと頷き、ルイズの推論と同意見であることを示した。
ウェールズ皇太子をわざわざ生き返らせてトリステインに送り込んできている。
彼はアンリエッタの恋人である以上、最もシンプルで効率的なのはアンリエッタを誘拐することだ。
公の場に死体であるはずのウェールズを出すことはできない。種がバレてしまう危険も大きい。
しかし密会し、トリステインの重要人物をかどわかすなら?その重要人物が王女ならば?
恋人であったウェールズにならばそれが出来る。
「行くわよ、手遅れになる前に!」
太陽が地平へと消えようとする時刻、ルイズを先頭に6人は馬を駆り王都トリスタニアに向かった。
アンリエッタは王宮にある寝室にいた。本来ならもう就寝してもいい時間だがここ最近は寝つきが悪くなってきている。
理由は彼女自身分かっている。彼女の恋人であるウェールズ皇太子が戦死したことだ。
恋人は死に、そして自分は政略結婚のためにゲルマニア皇帝に嫁がなければいけない。
アンリエッタは自分が、あの下賎な国に嫁がなければいけないことを考えると情けない気持ちになる。
自分はかつてウェールズが言ったように政略結婚をしなければならないのだ。
ただ、それでも彼の一言があれば救われる気がした。
14歳の夏の短い間、一度でいいから聞きたかった言葉。
「どうしてあなたはあのときおっしゃってくれなかったの?」
目が自然と水気を持ってくる。アンリエッタが目元を拭っていると、扉がノックされた。
「誰ですか、こんな夜中に?」
「ぼくだ」
その声を耳にした瞬間アンリエッタの顔から表情が消えた。
「いやだわ、こんなはっきりと幻聴が聞こえるなんて……」
「ぼくだよアンリエッタ。この扉を開けておくれ」
アンリエッタの鼓動は早鐘のようになる。そして扉へと駆け寄る。
「ウェールズさま?嘘。あなたは反乱軍の手にかかったはずじゃ……」
「それは間違いだ。こうしてぼくは、生きている」
「嘘よ。嘘。どうして」
「ぼくは落ち延びたんだ。死んだのは……、ぼくの影武者さ」
アンリエッタはまるで現実ではないかのように感じられた。
手足の感覚が感じられなくなり、空間に存在していることが強く感じられる。
扉の向こうからウェールズの言葉が聞こえた。
「風吹く夜に」
ラグドリアン湖で、何度も聞いた合言葉。
アンリエッタは合言葉を返す余裕などなく、ドアを急いで開け放つ。
湖畔で見た笑顔がそこにあった。
「おお、ウェールズさま……よくぞご無事で……」
その先は言葉にする事が出来ず、ウェールズの胸でむせび泣いた。
「泣き虫は相変わらずだね、アンリエッタ」
「だって、てっきりあなたは死んだものと……」
「敗戦のあと、巡洋艦に乗って落ち延びたんだ。ところでアンリエッタ、水のルビーはまだルイズが持っているのかい?」
突然の質問にアンリエッタはきょとんとした顔になる。もっともその顔は涙で崩れきっていたが。
「水のルビーですか?あれはルイズに譲渡したものですが……。なぜ指輪の話を?」
「いいや、なんでもない」
強引にウェールズは話を打ち切った。
アンリエッタは疑問を持てないでなかった。今のアンリエッタには瑣末なことであった。なにせウェールズが生きていたのだから。
「アンリエッタ、ぼくはアルビオンに帰るつもりだ。いや帰らなければいけない」
アンリエッタははっとした。
「ばかなことを!せっかく拾ったお命を、むざむざ捨てに行くようなものですわ!」
「それでも、ぼくは戻らなくてはいけない。だから今日、ぼくはきみを迎えに来たんだ」
「わたしを?」
「アルビオンを解放するためにはきみの力が必要なんだ。一緒に来てくれるね」
「わたしは……」
突然のことにアンリエッタは混乱する。
愛する人が自分を求めているのだ。何をためらう必要がある。
しかしそれは感情で、理性は王家として果たすべき義務を語りかけている。
「愛している。アンリエッタ。だからぼくといっしょに来てくれ」
ウェールズの言葉は理性を吹き飛ばした。
ウェールズとアンリエッタは唇を重ねる。
アンリエッタは幸福感に包まれながら、眠りの世界へと落ちていった。
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