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#navi(ゼロのペルソナ)
#setpagename(ゼロのペルソナ 第12章 恋愛)
恋人 意味……魅力・誘惑
タバサと陽介が学園から出発したあとのこと、ルイズと完二の身に大変なことが起こっていた。
「ねえ、カンジ。わたしは世界で一番カンジが大好き!カンジはわたしのこと好き?」
ルイズはカンジの腕に絡み付いて言う。その声は貴族の好む高級菓子よりも甘い。
「……」
完二は苦い顔をして口を閉ざしている。
「ねえ、カンジ。答えてよ。もしかして……わたしのこと嫌い?」
ルイズは目を涙でうるうるさせる。
しょうがないというふうに完二は答えた。
「別にキライじゃねえよ」
「じゃあ、好きなの?」
「……好きなほうじゃねーのか」
ルイズの顔がぱあっと明るくなる。喜色満面とはこのことを言うのであろう。
「じゃあじゃあ、カンジはどれくらいわたしのこと好き?わたしはこーれくらいこーれくらい好き」
ルイズは絡めていた手を離して両手を挙げて広げるようなジェスチャーをする。
「どれくらい?」
ルイズは一旦離した完二の手に再びしがみつき、きらきらという擬態語が似合いそうな目で完二を見つめる。
完二は勘弁してくれと溜め息をついた。
ルイズが突然、完二に猛烈なアピールをするようになったのは、
ルイズが今まで完二に助けられていたことで募っていた思いが恋愛感情となって爆発したから。では当然ない。
ぎろりと完二は現在の状況を作り出した元凶を睨みつける。
その睨みを受けたのは二人の魔法使いはたじろいだ。
その二人とは以前シエスタに因縁をつけた際に完二にシメられたギーシュと、その彼女モンランシーである。
今ルイズと完二がイチャイチャしている(完二が望んだわけではないが)部屋もモンモランシーの部屋であった。
ルイズが完二に熱をあげるようになってしまったのは次のようなわけがあった。
モンモランシーはギーシュのガールフレンドである。そして彼女はボーイフレンドの浮気性にほとほと困り果てていた。
その時、水の魔法使いである彼女はひらめいた。水属性魔法の秘薬である惚れ薬を飲ませればいい。
そうすれば彼は自分にだけに愛を注ぐようになるはずだ、と。そして実行に移そうとした。
ところがそのギーシュに飲ませようとしたワインに入れた惚れ薬を誤ってルイズが飲んでしまったのだ。
結果、ルイズは完二に惚れてしまった。
完二に言わせればバカバカしいにもほどがある話だった。
とはいえ、他人事なら首をすくめて終わらせることでも、完二はその当事者となってしまったのだからたまったものではない。
「おいコラ、モン……モンモン」
「ちょっと変な略し方しないでよ」
モンモランシーが抗議の声を上げるが、完二はそれを上回る大声を出した。
「うっせえ!ダレのせいでこーなってると思ってんだ!ああッ!」
モンモランシーは思わず小さくなってしまう。ギーシュが彼女の盾になるように完二の前に立つ。
「やめたまえ、ぼくの彼女に無礼な真似は……うぐ」
完二はギーシュの襟首を掴んだ。
「テメーのせいだろうが!またシメっぞ!キュッとシメっぞ!」
かっこつけておきながら以前の再現のように再び吊るされるギーシュ。そんなギーシュを救ったのはルイズであった。
「ねえ、カンジ……。モンモランシーたちとばかり話をして……わたしといても楽しくない……?」
今にも泣き出しそうな目でルイズは完二を見上げている。
モンモラシーというよりは今はギーシュと話しているというか、そもそも話すらしていなように思えるが、
ルイズにはどうやらモンモラシーと楽しくおしゃべりをしているように思えたらしい。
見つめるルイズに完二も及び腰になってしまう。
ギーシュを掴んでいる手を離して弁明をする。ギーシュは尻餅をついてゲホゲホと咳をした。
「い、いや、んなこたあねえよ!」
「わたしと一緒はつまらなくない?」
潤んだ目のまま、小首をかしげながら言う。
「お、おう。つまらなくなんかねえよ」
「ありがと、カンジ……」
しがみついていた完二の腕をぎゅっとルイズはより強く抱きしめた。
ルイズの視線が完二の顔から外れたので、完二は射殺すような眼光を元凶たる二人のカップルに投げつけた。
このような茶番は当然ながら完二の望みではないのだ。
凶暴な視線を浴びせられたモンモランシーは慌てて言った。
「だ、大丈夫よ!薬の効果はそのうち切れるから!」
「そのうちっていつだよ?」
「一ヵ月か……一年後か……」
いぶかしげに尋ねた完二に対してモンモランシーは視線を泳がせながら言った。
「んなに待てっか!」
大声を出すとルイズはビクッと震えた。
「か、カンジ、もしかしてわたしが抱きついたりするの迷惑?わたしのこと嫌いになっちゃった?」
それから再び完二はまさしく恋という病にかかってしまったルイズのご機嫌取りを必死にした。
普段の彼なら考えられないほどの献身っぷりだが、今彼はこうする他ない。
なぜならルイズが突然、完二に最初に猛烈に求愛してきた際に
「何不気味なこと言ってんだ……、おかしくなったのか?」
と恋に恋する乙女のハートをナイフでえぐるようなことを言ってしまい、ルイズが大泣きしてしまったからだ。
完二はどうしていいかとあたふたして、泣き止まそうと必死になったし、
そのためにルイズの言うことを聞き、人には言えないようなことをさせられた
(その場にいたギーシュとモンモランシーには喋ったらタダじゃおかないと脅しつけた)。
そういうわけで完二は現在、うすら寒い恋愛ごっこをしているのだった。
再びルイズが完二の腕に顔を擦り付けるようになると、完二は再びモンモランシーに問うた。
「で、治す方法は?」
「解除薬があるけど、作るのにお金が……」
「作れ」
「わたし金欠で……」
「二度言わせんなよ」
モンモランシーは懐事情を理解してくれという風に言ったが、完二にはそんなものをかんがみるつもりなどさらさらない。
モンモランシーは予想外にしぶとく言い訳を続ける。
「でも……お金だけじゃなくて、ちょっと手に入らない材料もあるのよ……」
「どーいうこった」
めんどくさそうに完二はモンモランシーの言葉を促す。
「水の精霊の涙が解除薬を作るのに必要なんだけど……、その水の精霊たちと、最近連絡がとれなくなっちゃったらしいの」
「んだ、そりゃあ……。で、どこにいんのかわかんのか、その水の精霊ってのは」
「ラグドリアン湖だけど?」
「んじゃ行くぞ」
当然のように完二が言うと、モンモランシーはえええと驚いた。
しかし再び完二に睨みつけられて「はい……」とがっくりと頭を下げた。残念ながら彼女には拒否権は与えられていなかった。
その彼氏は彼女の肩に手をまわした。
「安心してくれ恋人よ。ぼくもついていくよ」
モンモランシーは、当然よ。とそっけなく言っただけだった。
ちなみに話に参加していなかったルイズはいつの間にか完二の腕ではなく、腹に顔を埋めようとするばかりに抱きついていた。
次の日の早朝に魔法学院を出て、昼頃ラグドリアン湖に完二たち一行は到着した。
その一行とは完二、ルイズ、モンモランシー、ギーシュだけではなかった。
「あら、今の馬車の中に金髪の美男子がいたわ。チラっとしか見えなかったけど」
「キュルケちゃん、金髪の美男子ならキュルケちゃんのすぐ後ろにいるクマよ」
キュルケとクマであった。この二人はルイズの様子がおかしいと悟り完二に話を聞いて今回の旅に同行を決めたのだった。
この二人の耳が早いとか、勘がいいといよりはルイズの豹変っぷりが目立ちすぎていたというのが正しいだろう。
とはいえこの二人以外は謎の巨人を呼び出しギーシュを倒したこわもての完二と
気難しいといってもいいほど気高いルイズの豹変っぷりを恐れて近寄っては来なかったが。
ここまでの交通手段は馬であった。クマは旅行気分なのか、
前回あれほど渋った着ぐるみを脱ぐことをあっさりと了承しキュルケに抱きついていた。
一方、完二は前回の旅以後、馬に乗ることがあってもルイズに情けなくしがみつくことがないように馬術の練習をここ最近かなり真剣にしていた。
しかし、どういうわけか今回も前回同様ルイズの駆る馬に同乗するはめになった。
まだ心もとないとはいえ一人で乗馬する気だったのだが、ルイズが完二と一緒じゃないとやだとごねたためだ。
ルイズは終始ニコニコと嬉しそうだったが、完二にとっては嬉しくもないタンデームシートだった。
後ろに乗せれば何をされるかわかったものじゃないが、手綱を握らせておけば問題ないだろうと完二は考えていたが、
道中の「あ、そんなに抱きつかれたらわたし……」とか「積極的なのねカンジ」という言葉を聞かされるはめになり、どうしようもないほど後悔した。
ラグドリアン湖は巨大な湖でありガリアとトリステインを区切り国境線の一部をもなしている。
「あの平民が言ってたことは本当みたいね。水位が上がってるみたい」
キュルケは膨大な水量を誇る湖を見ながら言った。
あの平民とは道中に会った農業を営むという男だ。
彼の話によると、ラグドリアン湖は最近、急激に水量を増やしてその湖の面積を増やし続けているという。
おかげで農地は水に沈んでしまったと同情話を長々としてくれた。
「あら、どうしてわかるの」
モンモランシーは以前来たことがあるので水位が上がったことには気付いたがどうしてキュルケは気付いたのだろうかと思った。
「家が沈んでるじゃない」
キュルケはその手入れの届いた指でついっと湖面よりさらに下を指差す。
その指につられてモンモランシーは湖の底を見る。
たしかに家がいくつか沈んでいる。いや、水位が上がったのであろうから沈んでいるという表現は正しくないかもしれない。
浸水というにも規模が大きすぎるであろうか。家まるまる全てが水に浸かって、湖面はさらにその上十数メイル、もしかしたらそれ以上だというのだから。
なるほどとモンモランシーが湖を見ているとき、キュルケは自分達以外が話に参加していないだけでなく、そもそもいなくなっていることに気付いた。
「あら、他のみんなは?」
喋っている間は気付かなかったがキュルケとモンモランシー以外は近くからいなくなっていた。
二人はいなくなった4人はどこかと首をめぐらした。その二人の視界に湖でばしゃばしゃと波を立てる金髪白シャツの姿が目に入った。
しかも二人も。
「あー!助けてくれーー!!」
「助けてクマー!!」
ギーシュもクマも必死に騒いでいる。おそらく遊びのつもりで入ったのであろう。
二人は助けを求めているようだが、残念ながらキュルケもモンモランシーも、何やってるの……以上の思いは抱けず助ける気には一歩届かなかった。
さらに首をめぐらし、静謐な湖を波立てる二人の無粋者を視界に外すと、代わりに水際近くに立つカップルの姿が見える。
おぼれる二人の金髪男子とは比較にならないほどラグドリアン湖に映える。
桃色の髪をした少女が大柄な男に喋りかける。
「ねえ、カンジ。この湖畔って避暑地で有名なのよ。ガリアの王族も別荘持ってるって噂よ」
「ああ、そう」
「わたしたちもいつかここに立派な別荘建てましょう。いいえ、立派じゃなくてもいいわ!
二人でいられるなら!夏になったら毎年毎年ここに来るの」
「……いや、あのな。オマエが今、オレのこと好きなのは魔法で……」
「何言ってるのカンジ、そんなわけないじゃない!ううん、たとえ魔法だとしても永遠に解けないはずだわ!」
完二が助けてくれという視線をキュルケとモンモランシーに送ってくる。彼女らはアホらしいし、自分たちが加わっても面倒になるだけだと判断し見守ることにする。
しばらくしたら完二が湖に飛び込み金髪二人組みを救出し始めた。ルイズから逃れられるなら何でも良かったようだ。
ところでギーシュとクマはおぼれているというにはバシャバシャと長く泳いでいたのでたぶんほっておいても自分で何とかしただろう。
ラグドリアン湖に着いたときの騒がしい事件から時間が経ち、今は夜だ。
一行は湖畔にある茂みの中で姿を隠し何かを待ち受けていた。それというのも水の精霊の涙を手に入れるためである。
一行は昼の水の精霊との対話をした。そこで水の精霊の涙を渡してもらえる約束をした。
最近、水の精霊を襲う者がいるらしく、それを撃退すれば涙をくれるとのことだ。
完二としては喋り方は回りくどいし、美しいと言われる外見も「こんなシャドウ、雨の日よく見かけたな」くらいにか思わず、
水の精霊にいい印象は抱けなかったから、わざわざ助けたいとも思わなかった。
そもそも自分で撃退できるが、面倒だから代わりに倒してくれではいまいちモチベーションも上がらない。
とはいえルイズを元に戻すのに必要だというのならしょうがなかった。惚れ薬を解除しない限り完二に平穏は訪れない。
「にしたって水の精霊を襲うって奴は本当来んのかよ」
「水の精霊が言うには前の襲撃者は自分で撃退したけど、そいつの心を読む限りさらに派遣されるかもしれないって話らしいわね」
「かもってなんだよ?」
「知らないわよ、水の精霊が言ったんで、わたしが言ったんじゃないから」
不機嫌そうな完二に不機嫌そうな態度でモンモランシーは応えた。
そこへクマが話に割り込んでくる。
「でもでもいつ襲撃されるかわからないクマよね?」
クマは金髪碧眼で白いカッターシャツを着て片手に手甲をつけた姿である。
質問に返答したのは彼の主だ。
「そうよね。今日じゃなくて明日かも知れないし、ひょっとすると一週間後かもしれないわね」
「水の精霊って気が長いから」
モンモランシーの付け加えた言葉に4人は溜め息をついた。
「なあに、ぼくがいるから安心さ、心配は無用」
「うっせえ、息が酒くせえんだよ」
陽気な声を一人出したのはギーシュだ。完二もこの世界に来てから飲酒量が増えたが、戦闘前に酒とはどういうつもりだろうか。
「景気づけだよ景気づけ」
「……そーかよ」
はあ、と完二は再び溜め息をついた。
そして最後の一人ルイズは完二の学ランをかけられてすうすうと寝息を立てている。
昼間から夕刻までルイズは完二に構ってもらおうと必死だった。
完二の気を引こうと様々な話を振ったり、それに完二が乗り気じゃないと怒ったり泣いたり、完二がキュルケやモンモランシーと話せば嫉妬したりと騒ぎっ放しだった。
それから騒ぎ疲れて夕方を過ぎたころには寝てしまった。今のルイズの調子では待ち伏せも出来ないので寝てくれて助かったというのが正直なところだった。
寝る前にキスしてとか、さすがにそこまでしてやる義理はないと完二が断ると喚き出したり、代わりに寄り添ってルイズが寝てやるまで待たなければいけなかったりと完二としては一苦労も二苦労もあったわけだが。
「それにしてもカンジ、ルイズちゃんにせっかくアプローチされてたのに全く嬉しそうじゃなかったクマね」
「うむ。そういえばそうだ。ルイズも性格はあれだが顔はいいじゃないか」
クマが疑問を呈するとギーシュも同調した。
「テメーらな……いつものルイズ知ってんだろ?知ってりゃ、あんなの気持ちワリーだけだっつの。
だいたいありゃあ薬でああなってるだけだ、ホントの気持ちじゃねえ。そんなヤツにナニもできるわけねえだろ」
「さすがカンジ、立派クマ」
「さすがぼくを倒した男」
勝手な質問をした二人は勝手に頷いていた。
その同じ動作にも完二は二人がよく似ていることに気付かされる。
金髪で白いシャツと黒いズボンをはいていて外見も似ているし、どちらも女好きだ。
昼間に湖に飛び込んでおぼれると二人して騒いでいた時は生き別れの兄弟かと疑った。
モンモランシーが二人の話に乗ってきて一つ尋ねる。
「じゃあ、本当に好きになってくれたら嬉しいの」
「なんでそういう話になんだよ……」
「いいから、いいから」とキュルケも促す。
二人とも興味津々と言った様子だ。とはいえ完二には恋愛話が好きな少女たちの欲求を満たせるような回答は持ち合わせていなかった。
「別に。タイプじゃねーしな」
ドライな答え方にその場にいた全員が苦笑する。
ルイズを女子と見ることはほとんどないけれど、完二は朴念仁ではない。
かつては女性恐怖症のようなものであったがそれも克服した。以後、完二は男子高校生らしい女性への興味を有している。
なのにハルケギニアでも有数の美少女といえるルイズにたいして全くグラっと来ないのは、完二自身が言ったようにタイプじゃないからだ。
黒髪美人、健康的なスポーツ少女、そして大人びたボーイッシュな少女と言ったように完二の好みのタイプは狭くはないのだが
なぜかルイズはその枠内に収まっておらず恋愛対象に見ることが出来ないのだ。
その理由は完二にもわからない(そもそも完二はそんなこと考えたことがない)。
性格かもしれないし、案外ひょっとすると声だったりするのかもしれない。
キュルケが突然、人指し指を顔の立てた。そして鋭く、しかし静かに言った。
「しっ、来たわよ」
キュルケが茂みの中からラグドリン湖のほうを指差す。
その指先には湖面を前に二人が立っていた。どうやら無駄話をしている間に来たようだった。
「あいつらがか?」
「そうじゃなきゃ夜中に男二人が湖のほとりを歩く?」
キュルケが見るところあの二人は男らしい。
一人はその巨体から男だと判断できるが、もう一人は帽子をしていて巨漢の男に比べて小柄に見える。
とは言っても隣に立っている男が大きすぎるだけのようだが。
「それに……あの二人、そうとうな使い手よ……」
「わかんのか?」
「まあね」
襲撃者を見つけたので事前に決めていた役割どおり動くことにした。
完二とクマがあの二人と直接戦い、ギーシュとキュルケが援護である。モンモランシーは戦えないらしいのでルイズを守ってもらう。
戦いの始まりはギーシュの先制攻撃で開始された。背後を見せていた二人のメイジに大きな土の手が足を掴もうとした。
しかし、それを察知したのか、二人は素早く飛び退き回避した。そこへキュルケの二つの巨大な炎の玉がそれぞれへ放たれる。
普通の人間なら反応の難しい速さとタイミングだったが二人はあっさりと回避する。
二人は魔法の飛んできた方向へ駆けた。そして完二とクマが飛び出して二人を遮る。
完二とクマは初めて二人の襲撃者と対面した。
巨漢の男は予想以上に鍛えられた体であることが分かった。筋骨隆々で杖が握られていなければ魔法使いと分からないだろう。
もう一人の男は予想以上に若かった。少し上向いた鼻が愛嬌を放っておりトリステイン魔法学院になんなくなじむような坊ちゃん顔だった。
「なにもんだ、テメーら」
「おいおい何者だってそりゃこっちの話だろ、なあドゥドゥーよ」
「そうだよね、ジャック兄さん。君らこそ何者だよ?」
すごむ完二を襲撃者はひょうひょうとして受け流し平然としている。
「ナメてんのか、ああ!」
「大声を出さないでくれ。俺たちは別に怪しいものじゃないさ。ここに来たのも仕事の用事で」
クマが発言を遮る。
「水の精霊を攻撃するクマか」
クマの発言を聞き、互いにジャック、ドゥドゥーと呼び、呼ばれた二人は顔を見合った。
「なんで知ってるんだ、こいつら?」
「さあ、ぼくが知ってるわけないじゃん」
彼らは敵が目の前にいるというのにまるで緊張感なく会話をしている。
ジャックは頭をぽりぽりとかいて言った。
「もしかしてお前らってオレたちの仕事をジャマしに来たのか?」
「ああ、そうだぜ」
完二の返答を聞いて、「そうか……」というと二人の襲撃者は杖を構えた。そして言った。
「おれたちは元素の兄弟。まあ、別に覚えなくてもいいよ」
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#navi(ゼロのペルソナ)
#setpagename(ゼロのペルソナ 第12章 恋愛 前編)
恋人 意味……魅力・誘惑
タバサと陽介が学園から出発したあとのこと、ルイズと完二の身に大変なことが起こっていた。
「ねえ、カンジ。わたしは世界で一番カンジが大好き!カンジはわたしのこと好き?」
ルイズはカンジの腕に絡み付いて言う。その声は貴族の好む高級菓子よりも甘い。
「……」
完二は苦い顔をして口を閉ざしている。
「ねえ、カンジ。答えてよ。もしかして……わたしのこと嫌い?」
ルイズは目を涙でうるうるさせる。
しょうがないというふうに完二は答えた。
「別にキライじゃねえよ」
「じゃあ、好きなの?」
「……好きなほうじゃねーのか」
ルイズの顔がぱあっと明るくなる。喜色満面とはこのことを言うのであろう。
「じゃあじゃあ、カンジはどれくらいわたしのこと好き?わたしはこーれくらいこーれくらい好き」
ルイズは絡めていた手を離して両手を挙げて広げるようなジェスチャーをする。
「どれくらい?」
ルイズは一旦離した完二の手に再びしがみつき、きらきらという擬態語が似合いそうな目で完二を見つめる。
完二は勘弁してくれと溜め息をついた。
ルイズが突然、完二に猛烈なアピールをするようになったのは、
ルイズが今まで完二に助けられていたことで募っていた思いが恋愛感情となって爆発したから。では当然ない。
ぎろりと完二は現在の状況を作り出した元凶を睨みつける。
その睨みを受けたのは二人の魔法使いはたじろいだ。
その二人とは以前シエスタに因縁をつけた際に完二にシメられたギーシュと、その彼女モンランシーである。
今ルイズと完二がイチャイチャしている(完二が望んだわけではないが)部屋もモンモランシーの部屋であった。
ルイズが完二に熱をあげるようになってしまったのは次のようなわけがあった。
モンモランシーはギーシュのガールフレンドである。そして彼女はボーイフレンドの浮気性にほとほと困り果てていた。
その時、水の魔法使いである彼女はひらめいた。水属性魔法の秘薬である惚れ薬を飲ませればいい。
そうすれば彼は自分にだけに愛を注ぐようになるはずだ、と。そして実行に移そうとした。
ところがそのギーシュに飲ませようとしたワインに入れた惚れ薬を誤ってルイズが飲んでしまったのだ。
結果、ルイズは完二に惚れてしまった。
完二に言わせればバカバカしいにもほどがある話だった。
とはいえ、他人事なら首をすくめて終わらせることでも、完二はその当事者となってしまったのだからたまったものではない。
「おいコラ、モン……モンモン」
「ちょっと変な略し方しないでよ」
モンモランシーが抗議の声を上げるが、完二はそれを上回る大声を出した。
「うっせえ!ダレのせいでこーなってると思ってんだ!ああッ!」
モンモランシーは思わず小さくなってしまう。ギーシュが彼女の盾になるように完二の前に立つ。
「やめたまえ、ぼくの彼女に無礼な真似は……うぐ」
完二はギーシュの襟首を掴んだ。
「テメーのせいだろうが!またシメっぞ!キュッとシメっぞ!」
かっこつけておきながら以前の再現のように再び吊るされるギーシュ。そんなギーシュを救ったのはルイズであった。
「ねえ、カンジ……。モンモランシーたちとばかり話をして……わたしといても楽しくない……?」
今にも泣き出しそうな目でルイズは完二を見上げている。
モンモラシーというよりは今はギーシュと話しているというか、そもそも話すらしていなように思えるが、
ルイズにはどうやらモンモラシーと楽しくおしゃべりをしているように思えたらしい。
見つめるルイズに完二も及び腰になってしまう。
ギーシュを掴んでいる手を離して弁明をする。ギーシュは尻餅をついてゲホゲホと咳をした。
「い、いや、んなこたあねえよ!」
「わたしと一緒はつまらなくない?」
潤んだ目のまま、小首をかしげながら言う。
「お、おう。つまらなくなんかねえよ」
「ありがと、カンジ……」
しがみついていた完二の腕をぎゅっとルイズはより強く抱きしめた。
ルイズの視線が完二の顔から外れたので、完二は射殺すような眼光を元凶たる二人のカップルに投げつけた。
このような茶番は当然ながら完二の望みではないのだ。
凶暴な視線を浴びせられたモンモランシーは慌てて言った。
「だ、大丈夫よ!薬の効果はそのうち切れるから!」
「そのうちっていつだよ?」
「一ヵ月か……一年後か……」
いぶかしげに尋ねた完二に対してモンモランシーは視線を泳がせながら言った。
「んなに待てっか!」
大声を出すとルイズはビクッと震えた。
「か、カンジ、もしかしてわたしが抱きついたりするの迷惑?わたしのこと嫌いになっちゃった?」
それから再び完二はまさしく恋という病にかかってしまったルイズのご機嫌取りを必死にした。
普段の彼なら考えられないほどの献身っぷりだが、今彼はこうする他ない。
なぜならルイズが突然、完二に最初に猛烈に求愛してきた際に
「何不気味なこと言ってんだ……、おかしくなったのか?」
と恋に恋する乙女のハートをナイフでえぐるようなことを言ってしまい、ルイズが大泣きしてしまったからだ。
完二はどうしていいかとあたふたして、泣き止まそうと必死になったし、
そのためにルイズの言うことを聞き、人には言えないようなことをさせられた
(その場にいたギーシュとモンモランシーには喋ったらタダじゃおかないと脅しつけた)。
そういうわけで完二は現在、うすら寒い恋愛ごっこをしているのだった。
再びルイズが完二の腕に顔を擦り付けるようになると、完二は再びモンモランシーに問うた。
「で、治す方法は?」
「解除薬があるけど、作るのにお金が……」
「作れ」
「わたし金欠で……」
「二度言わせんなよ」
モンモランシーは懐事情を理解してくれという風に言ったが、完二にはそんなものをかんがみるつもりなどさらさらない。
モンモランシーは予想外にしぶとく言い訳を続ける。
「でも……お金だけじゃなくて、ちょっと手に入らない材料もあるのよ……」
「どーいうこった」
めんどくさそうに完二はモンモランシーの言葉を促す。
「水の精霊の涙が解除薬を作るのに必要なんだけど……、その水の精霊たちと、最近連絡がとれなくなっちゃったらしいの」
「んだ、そりゃあ……。で、どこにいんのかわかんのか、その水の精霊ってのは」
「ラグドリアン湖だけど?」
「んじゃ行くぞ」
当然のように完二が言うと、モンモランシーはえええと驚いた。
しかし再び完二に睨みつけられて「はい……」とがっくりと頭を下げた。残念ながら彼女には拒否権は与えられていなかった。
その彼氏は彼女の肩に手をまわした。
「安心してくれ恋人よ。ぼくもついていくよ」
モンモランシーは、当然よ。とそっけなく言っただけだった。
ちなみに話に参加していなかったルイズはいつの間にか完二の腕ではなく、腹に顔を埋めようとするばかりに抱きついていた。
次の日の早朝に魔法学院を出て、昼頃ラグドリアン湖に完二たち一行は到着した。
その一行とは完二、ルイズ、モンモランシー、ギーシュだけではなかった。
「あら、今の馬車の中に金髪の美男子がいたわ。チラっとしか見えなかったけど」
「キュルケちゃん、金髪の美男子ならキュルケちゃんのすぐ後ろにいるクマよ」
キュルケとクマであった。この二人はルイズの様子がおかしいと悟り完二に話を聞いて今回の旅に同行を決めたのだった。
この二人の耳が早いとか、勘がいいといよりはルイズの豹変っぷりが目立ちすぎていたというのが正しいだろう。
とはいえこの二人以外は謎の巨人を呼び出しギーシュを倒したこわもての完二と
気難しいといってもいいほど気高いルイズの豹変っぷりを恐れて近寄っては来なかったが。
ここまでの交通手段は馬であった。クマは旅行気分なのか、
前回あれほど渋った着ぐるみを脱ぐことをあっさりと了承しキュルケに抱きついていた。
一方、完二は前回の旅以後、馬に乗ることがあってもルイズに情けなくしがみつくことがないように馬術の練習をここ最近かなり真剣にしていた。
しかし、どういうわけか今回も前回同様ルイズの駆る馬に同乗するはめになった。
まだ心もとないとはいえ一人で乗馬する気だったのだが、ルイズが完二と一緒じゃないとやだとごねたためだ。
ルイズは終始ニコニコと嬉しそうだったが、完二にとっては嬉しくもないタンデームシートだった。
後ろに乗せれば何をされるかわかったものじゃないが、手綱を握らせておけば問題ないだろうと完二は考えていたが、
道中の「あ、そんなに抱きつかれたらわたし……」とか「積極的なのねカンジ」という言葉を聞かされるはめになり、どうしようもないほど後悔した。
ラグドリアン湖は巨大な湖でありガリアとトリステインを区切り国境線の一部をもなしている。
「あの平民が言ってたことは本当みたいね。水位が上がってるみたい」
キュルケは膨大な水量を誇る湖を見ながら言った。
あの平民とは道中に会った農業を営むという男だ。
彼の話によると、ラグドリアン湖は最近、急激に水量を増やしてその湖の面積を増やし続けているという。
おかげで農地は水に沈んでしまったと同情話を長々としてくれた。
「あら、どうしてわかるの」
モンモランシーは以前来たことがあるので水位が上がったことには気付いたがどうしてキュルケは気付いたのだろうかと思った。
「家が沈んでるじゃない」
キュルケはその手入れの届いた指でついっと湖面よりさらに下を指差す。
その指につられてモンモランシーは湖の底を見る。
たしかに家がいくつか沈んでいる。いや、水位が上がったのであろうから沈んでいるという表現は正しくないかもしれない。
浸水というにも規模が大きすぎるであろうか。家まるまる全てが水に浸かって、湖面はさらにその上十数メイル、もしかしたらそれ以上だというのだから。
なるほどとモンモランシーが湖を見ているとき、キュルケは自分達以外が話に参加していないだけでなく、そもそもいなくなっていることに気付いた。
「あら、他のみんなは?」
喋っている間は気付かなかったがキュルケとモンモランシー以外は近くからいなくなっていた。
二人はいなくなった4人はどこかと首をめぐらした。その二人の視界に湖でばしゃばしゃと波を立てる金髪白シャツの姿が目に入った。
しかも二人も。
「あー!助けてくれーー!!」
「助けてクマー!!」
ギーシュもクマも必死に騒いでいる。おそらく遊びのつもりで入ったのであろう。
二人は助けを求めているようだが、残念ながらキュルケもモンモランシーも、何やってるの……以上の思いは抱けず助ける気には一歩届かなかった。
さらに首をめぐらし、静謐な湖を波立てる二人の無粋者を視界に外すと、代わりに水際近くに立つカップルの姿が見える。
おぼれる二人の金髪男子とは比較にならないほどラグドリアン湖に映える。
桃色の髪をした少女が大柄な男に喋りかける。
「ねえ、カンジ。この湖畔って避暑地で有名なのよ。ガリアの王族も別荘持ってるって噂よ」
「ああ、そう」
「わたしたちもいつかここに立派な別荘建てましょう。いいえ、立派じゃなくてもいいわ!
二人でいられるなら!夏になったら毎年毎年ここに来るの」
「……いや、あのな。オマエが今、オレのこと好きなのは魔法で……」
「何言ってるのカンジ、そんなわけないじゃない!ううん、たとえ魔法だとしても永遠に解けないはずだわ!」
完二が助けてくれという視線をキュルケとモンモランシーに送ってくる。彼女らはアホらしいし、自分たちが加わっても面倒になるだけだと判断し見守ることにする。
しばらくしたら完二が湖に飛び込み金髪二人組みを救出し始めた。ルイズから逃れられるなら何でも良かったようだ。
ところでギーシュとクマはおぼれているというにはバシャバシャと長く泳いでいたのでたぶんほっておいても自分で何とかしただろう。
ラグドリアン湖に着いたときの騒がしい事件から時間が経ち、今は夜だ。
一行は湖畔にある茂みの中で姿を隠し何かを待ち受けていた。それというのも水の精霊の涙を手に入れるためである。
一行は昼の水の精霊との対話をした。そこで水の精霊の涙を渡してもらえる約束をした。
最近、水の精霊を襲う者がいるらしく、それを撃退すれば涙をくれるとのことだ。
完二としては喋り方は回りくどいし、美しいと言われる外見も「こんなシャドウ、雨の日よく見かけたな」くらいにか思わず、
水の精霊にいい印象は抱けなかったから、わざわざ助けたいとも思わなかった。
そもそも自分で撃退できるが、面倒だから代わりに倒してくれではいまいちモチベーションも上がらない。
とはいえルイズを元に戻すのに必要だというのならしょうがなかった。惚れ薬を解除しない限り完二に平穏は訪れない。
「にしたって水の精霊を襲うって奴は本当来んのかよ」
「水の精霊が言うには前の襲撃者は自分で撃退したけど、そいつの心を読む限りさらに派遣されるかもしれないって話らしいわね」
「かもってなんだよ?」
「知らないわよ、水の精霊が言ったんで、わたしが言ったんじゃないから」
不機嫌そうな完二に不機嫌そうな態度でモンモランシーは応えた。
そこへクマが話に割り込んでくる。
「でもでもいつ襲撃されるかわからないクマよね?」
クマは金髪碧眼で白いカッターシャツを着て片手に手甲をつけた姿である。
質問に返答したのは彼の主だ。
「そうよね。今日じゃなくて明日かも知れないし、ひょっとすると一週間後かもしれないわね」
「水の精霊って気が長いから」
モンモランシーの付け加えた言葉に4人は溜め息をついた。
「なあに、ぼくがいるから安心さ、心配は無用」
「うっせえ、息が酒くせえんだよ」
陽気な声を一人出したのはギーシュだ。完二もこの世界に来てから飲酒量が増えたが、戦闘前に酒とはどういうつもりだろうか。
「景気づけだよ景気づけ」
「……そーかよ」
はあ、と完二は再び溜め息をついた。
そして最後の一人ルイズは完二の学ランをかけられてすうすうと寝息を立てている。
昼間から夕刻までルイズは完二に構ってもらおうと必死だった。
完二の気を引こうと様々な話を振ったり、それに完二が乗り気じゃないと怒ったり泣いたり、完二がキュルケやモンモランシーと話せば嫉妬したりと騒ぎっ放しだった。
それから騒ぎ疲れて夕方を過ぎたころには寝てしまった。今のルイズの調子では待ち伏せも出来ないので寝てくれて助かったというのが正直なところだった。
寝る前にキスしてとか、さすがにそこまでしてやる義理はないと完二が断ると喚き出したり、代わりに寄り添ってルイズが寝てやるまで待たなければいけなかったりと完二としては一苦労も二苦労もあったわけだが。
「それにしてもカンジ、ルイズちゃんにせっかくアプローチされてたのに全く嬉しそうじゃなかったクマね」
「うむ。そういえばそうだ。ルイズも性格はあれだが顔はいいじゃないか」
クマが疑問を呈するとギーシュも同調した。
「テメーらな……いつものルイズ知ってんだろ?知ってりゃ、あんなの気持ちワリーだけだっつの。
だいたいありゃあ薬でああなってるだけだ、ホントの気持ちじゃねえ。そんなヤツにナニもできるわけねえだろ」
「さすがカンジ、立派クマ」
「さすがぼくを倒した男」
勝手な質問をした二人は勝手に頷いていた。
その同じ動作にも完二は二人がよく似ていることに気付かされる。
金髪で白いシャツと黒いズボンをはいていて外見も似ているし、どちらも女好きだ。
昼間に湖に飛び込んでおぼれると二人して騒いでいた時は生き別れの兄弟かと疑った。
モンモランシーが二人の話に乗ってきて一つ尋ねる。
「じゃあ、本当に好きになってくれたら嬉しいの」
「なんでそういう話になんだよ……」
「いいから、いいから」とキュルケも促す。
二人とも興味津々と言った様子だ。とはいえ完二には恋愛話が好きな少女たちの欲求を満たせるような回答は持ち合わせていなかった。
「別に。タイプじゃねーしな」
ドライな答え方にその場にいた全員が苦笑する。
ルイズを女子と見ることはほとんどないけれど、完二は朴念仁ではない。
かつては女性恐怖症のようなものであったがそれも克服した。以後、完二は男子高校生らしい女性への興味を有している。
なのにハルケギニアでも有数の美少女といえるルイズにたいして全くグラっと来ないのは、完二自身が言ったようにタイプじゃないからだ。
黒髪美人、健康的なスポーツ少女、そして大人びたボーイッシュな少女と言ったように完二の好みのタイプは狭くはないのだが
なぜかルイズはその枠内に収まっておらず恋愛対象に見ることが出来ないのだ。
その理由は完二にもわからない(そもそも完二はそんなこと考えたことがない)。
性格かもしれないし、案外ひょっとすると声だったりするのかもしれない。
キュルケが突然、人指し指を顔の立てた。そして鋭く、しかし静かに言った。
「しっ、来たわよ」
キュルケが茂みの中からラグドリン湖のほうを指差す。
その指先には湖面を前に二人が立っていた。どうやら無駄話をしている間に来たようだった。
「あいつらがか?」
「そうじゃなきゃ夜中に男二人が湖のほとりを歩く?」
キュルケが見るところあの二人は男らしい。
一人はその巨体から男だと判断できるが、もう一人は帽子をしていて巨漢の男に比べて小柄に見える。
とは言っても隣に立っている男が大きすぎるだけのようだが。
「それに……あの二人、そうとうな使い手よ……」
「わかんのか?」
「まあね」
襲撃者を見つけたので事前に決めていた役割どおり動くことにした。
完二とクマがあの二人と直接戦い、ギーシュとキュルケが援護である。モンモランシーは戦えないらしいのでルイズを守ってもらう。
戦いの始まりはギーシュの先制攻撃で開始された。背後を見せていた二人のメイジに大きな土の手が足を掴もうとした。
しかし、それを察知したのか、二人は素早く飛び退き回避した。そこへキュルケの二つの巨大な炎の玉がそれぞれへ放たれる。
普通の人間なら反応の難しい速さとタイミングだったが二人はあっさりと回避する。
二人は魔法の飛んできた方向へ駆けた。そして完二とクマが飛び出して二人を遮る。
完二とクマは初めて二人の襲撃者と対面した。
巨漢の男は予想以上に鍛えられた体であることが分かった。筋骨隆々で杖が握られていなければ魔法使いと分からないだろう。
もう一人の男は予想以上に若かった。少し上向いた鼻が愛嬌を放っておりトリステイン魔法学院になんなくなじむような坊ちゃん顔だった。
「なにもんだ、テメーら」
「おいおい何者だってそりゃこっちの話だろ、なあドゥドゥーよ」
「そうだよね、ジャック兄さん。君らこそ何者だよ?」
すごむ完二を襲撃者はひょうひょうとして受け流し平然としている。
「ナメてんのか、ああ!」
「大声を出さないでくれ。俺たちは別に怪しいものじゃないさ。ここに来たのも仕事の用事で」
クマが発言を遮る。
「水の精霊を攻撃するクマか」
クマの発言を聞き、互いにジャック、ドゥドゥーと呼び、呼ばれた二人は顔を見合った。
「なんで知ってるんだ、こいつら?」
「さあ、ぼくが知ってるわけないじゃん」
彼らは敵が目の前にいるというのにまるで緊張感なく会話をしている。
ジャックは頭をぽりぽりとかいて言った。
「もしかしてお前らってオレたちの仕事をジャマしに来たのか?」
「ああ、そうだぜ」
完二の返答を聞いて、「そうか……」というと二人の襲撃者は杖を構えた。そして言った。
「おれたちは元素の兄弟。まあ、別に覚えなくてもいいよ」
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