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#navi(つかいまのじかん)
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「今日から新しい先生来るってー」
「マジ!?」
「ミスタ・コルベール言ってたー」
「どんな先生かなー」
トリステイン魔法学院の2年1組教室は、新任教師の話題でもちきりになっていた。
「リン、何やってるのよ。下着だけで」
次の授業の準備をしつつそう問い掛けた2年1組生徒ルイズ・ヴァリエールの視線の先には、
「待って。今キュルケちゃんに速報を──」
長いツインテールを髪飾りで束ねた少女──ルイズが召喚した使い魔・九重りんが、ルイズの言葉通りショーツだけという姿で「遠話の手鏡」を操作していた。
(『お姉さんみたいな先生』、イメージはこれですね)
一方その頃、噂の新任教師・マチルダはトイレの鏡で身だしなみを確認し終えて、教室に向かっていた。
(ええと、2年1組……)
と歩いているうちに目的地である2年1組教室前に到着、扉に手をかける。
「は──」
と開けた扉の向こう側では、扉が開いた事に気付いたりんが下着姿で「遠話の手鏡」片手にマチルダの方に振り向いていた。
(2年生でよかったです。前の授業が体育だったとは……)
そう考えつつ黒板に自分の名前を書くマチルダ。書き上げると教室内を見回し、
「今日から1組の担任になった、マチルダ・サウスゴータといいます。皆さん、よろしくお願いします」
『お願いしまーす!』
マチルダの挨拶に生徒達が大声で挨拶を返した。
「それではまず、皆さんの顔と名前を覚えるように出席を取ります。キュルケ・ツェルプシュトー」
「来ていません」
キュルケに代わり、「遠話の手鏡」を操作していたルイズが気の無い返事を上げた。
「ルイズ・ヴァリエール」
「はい」
自分の名前が呼ばれても、ルイズの態度は変わらない。
「リン・ココノエ」
「はいはいはあーいっ!」
名前を呼ばれるや否やりんは満面の笑みで起立し、マチルダに矢継ぎ早に質問してくる。
「ねーねー、サウスゴータ先生って何歳?」
「ええと、23歳ですが……」
「独身ですかー?」
「そうです」
「彼氏いますかー?」
「いや、ちょっ……、今は出席を取っていますから」
赤面しつつ出欠確認を続行しようとするマチルダの注意に、りんはかすかに憐憫の表情を浮かべ、
「あ、いないんだ」
その言葉に教室内はどっと笑いの渦に包まれる。
(いえ、いませんけれど……)
「じゃあ、今日からりんが先生の彼女ね☆」
「は?」
りんのとんでもない発言にマチルダが呆気に取られていると、彼女は上目遣いでマチルダを見上げて瞳を潤ませる。
「だってえ~、先生に裸見られちゃったんだもん♪」
『きゃー!』
「ミス・サウスゴータ、えっちー!」
りんの言葉に、教室内の女子生徒達が一斉にどよめいた。
「いえ、あれは……(ミス・ココノエ、ませていますね……)」
その時、マチルダは自分に向けられている視線に気付いて振り返る。
するとルイズが、「遠話の手鏡」で2人の様子を撮影していた。
「そこ! 画像を撮影しないでください!」
「動画ですけれど?」
「もっと駄目です!」
しれっとした態度で返したルイズの言葉にマチルダはさらに慌て、それを聞いた生徒達の笑い声が教室内に響いたのだった。
そんなこんなで1日の授業を終え、マチルダは職員室で一息吐いていた。
「どうでしたか、1組は?」
とマチルダに声をかけつつ、1人の男性教師がティーカップに入れたお茶を差し出した。
「はあ、元気と言いますか何と言いますか……」
「あはは、騒々しいでしょう、あの子達」
男性教師はそう笑い混じりに返して、もう1個のティーカップに注いだお茶を口に運んだ。
「ミス・サウスゴータも大変ですね。赴任してすぐにクラス担任では」
「あ、聞きました。前任の方が体調を崩して辞められたそうですが……」
「ええ……。そうそう、まだ教科書も来ていないのです。届くまで前の先生の教科書を使ってください」
そこまで会話して男性教師はまだ自己紹介していなかった事に気付き、
「私2組の担任のコルベールです。何でも聞いてください」
そう言って職員室から出ていくコルベールを横目で見送って、マチルダは机の引き出しから1冊の教科書を取り出す。
と、その中に便箋の一部と思しき1枚の紙片が挟まれている事に気付いて、それを広げてみる。
『死ね』
(えっ……)
紙片に殴り書きされていた言葉に、マチルダは目を見開いた。
慌てて紙片があった教科書を開くと、
『ギトーふざけるな』『死』『学院辞めろ』
と、紙片同様中傷の言葉がページの大半を埋めていた。
(何ですか、これは……)
さらに引き出しに入っていた別の教科書を開いてみても、やはり同様の言葉でいっぱいになっていた。
(何ですか、これは!?)
「ミスタ・コルベール、さようならっ」
「皆さん、さようなら」
少々遅い時間まで残っていた上級生達が、ロングビルに挨拶して家路に着く。
「気をつけてくださいね」
「ミスタ・コルベールー、さよーなら」
そこにマチルダが職員室から顔を出し、声をかける。
「ミスタ・コルベール」
「ミスタ・ギトーが辞められた訳ですか?」
マチルダ・コルベールは、屋上に場所を映して話していた。
話の内容次第では周囲に人がいない方がいいかもしれないと、マチルダが判断したからだ。
「それは、ですからご病気で……」
「病気とは、何の病気ですか?」
そう曖昧な言葉を返したコルベールだったが、マチルダの追求は続く。
「……ほら、途中で担任が変わる事は子供にはショックではありませんか。やはりフォローするためには私自身がよく知っておかなければと……」
それを受けて、コルベールは溜め息を吐き口を開く。
「……実は、1組には不登校の子がいまして……」
「不登校ですか?」
ふとマチルダの脳裏に、出欠簿に欠席を現す×が並んでいるキュルケの名が浮かんだ。
(……ミス・ツェルプシュトー)
「勉強のできるおとなしい子なのですけれど、別にいじめがあった訳でもありませんし……。ミスタ・ギトーが何度も家庭訪問しましたけれど駄目で、もうずっと……」
ロングビルはそこまで言うと再度溜め息を吐き、
「ミスタ・ギトーも指導に行き詰まって悩んでいたのでしょうね。何て言いますか……、だんだん情緒不安定になって。突然暴れたり泣き出したり……。オールド・オスマンが病院に連れて行って、そのまま欠勤に。あの時はもう父兄からも苦情が来ていましたし、後で本人から辞めたいと連絡が……」
翌日の放課後、マチルダは教室に残って書類仕事をしていた。
(不登校の指導に悩んでの事かしら……? それじゃあの落書きはいったい?)
昨日聞いたギトーの事が気になって仕事がはかどらないでいたマチルダの所に、
「先生ーっ! 見て見て、四つ葉のクローバー!!」
と、四つ葉のクローバー片手にりんが駆け込んできた。
「あら」
「裏庭で見つけたの♪ 願いが叶うんだよー!!」
マチルダ自身今まで1度も見た事が無い四つ葉のクローバーに感嘆の声を上げると、りんもクローバーにキスせんばかりに満面の笑顔になる。
「押し花にしーよおっと♪」
机から便箋入りの袋を取り出したりんをマチルダは微笑を浮かべて眺めていた……が、
(ませていてもこういうところは子供ですね。可愛いでは──!)
そんなマチルダの笑顔は途中で凍結した。
りんが取り出した便箋の柄が、教科書に挟まれていた紙片の柄と同一だという事に気付いたからだ。
「……どういう事ですか?」
紙片をりんに突きつけ、マチルダは彼女に詰め寄った。
「なぜこのような事を……、ミス・ココノエ!?」
「……別に?」
犯人である決定的証拠を突きつけられたものの、りんの態度にまったく動じた様子は無い。
「あたし、ただギトー先生と同じ事しただけだもーん」
「同じ事、ですか?」
首を傾げたマチルダに、りんは手にした羽ペンを回しつつ話を続ける。
「うん、ギトー先生がキュルケちゃんに言った事。『声が小さい』『おどおどするな』『とろい』『すぐ泣くな』『お前を見てるとイライラする』……。『何で学校来ないんだ』って!? おめーのせいだっつーの!!」
一瞬言葉を失ったマチルダだったが、それでも強い意思を込めて言葉を口にする。
「……だからと言って、こんな……。病気になってしまうまで……。と……、とにかく、この事はミス・ココノエのご両親に連絡をしなくては──!?」
マチルダがそう言い終える前に、りんはおもむろにスカートの中に手を入れ下着を膝の高さまで下ろし、
「今ここで私が『助けて』って叫んだら……、先生どうなっちゃうと思う?」
「なっ……!?」
とその時、扉を開けてルイズが教室内に入ってきた。
「………」
焦るマチルダをよそにルイズはまったく気にした様子も無く、
「遅ーい! 何やってるのよ!」
「ごめんごめーん」
そう言いつつ下着を上げると何事も無かったかのように、
「じゃあね、先生。また明日ー♪」
と手を振って教室から去っていった。
1人教室に残されたコルベールは安堵する反面、
(恐ろしい子……!)
と白目になった。
一方、家路に着いたりん・ルイズは、
「何ただで脱いでるのよ!」
「ツッコむとこそこかよ!」
「知らないわよ、突っ込まれても」
「名前変えようか。九重りん・オブ・ジョイトイ」
「馬鹿」
そんな軽口を叩いていたが、
「……どうするのよ、ミス・サウスゴータ」
「大事なのはキュルケちゃんのメンタルだから、キュルケちゃん次第かな……」
りんはルイズにそう答えて溜め息を吐いた。
それからしばらく後、マチルダはツェルプシュトー邸を訪問していた。
「まあ、すみませんわざわざ。まったくあの子は……。キュルケー!」
「あ、いえ、できたらミス・ツェルプシュトーと2人で……」
キュルケを呼ぼうとした彼女の母を制し、マチルダは部屋への案内を依頼する。
部屋に入ったコルベールは、小さなテーブルを挟みキュルケと対面した。
(彼女が……。何を言えばいいのでしょうか)
キュルケにどのような言葉をかけるべきかわからず、
「ええと……、初めまして。その……、調子はどうですか?」
等と当たり障りの無い話題から始め、
「私驚きましたよ。とても成績優秀だそうですね? 凄いですよ」
「………」
キュルケは言葉を返さず、ただ俯いたまま沈黙するばかりだった。
(違います。もっと……!! 1番言うべきなのは……)
そう考え、意を決したように口を開くマチルダ。
「ミ……、ミス・ココノエから聞きました」
マチルダの口から出たりんの名前に、キュルケは初めて顔を上げる。、
「ミスタ・ギトーがあなたに酷い事を言ったと……。それであなたは……」
「……っ」
当時の事を思い出したのか、再度俯いたキュルケの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちていた。
「あ……」
「うっ、ふっ、ひっく……」
(他の教師も親も誰も気付かず、学院を休む以外自分を守れなかった……)
泣き声を上げ始めたキュルケに伸ばそうとした手を途中で止めてマチルダはただ一言、
「辛かったのですね」
「んっ……」
と声をかけたマチルダに、キュルケもその一言だけで答えたのだった。
翌朝。
教室にいたりん・ルイズは、入ってきた人物に気付いて顔を上げる。
「キュルケちゃん!?」
そう声を出すが早いかりんは駆け寄ってキュルケの首にしがみつき、ルイズもかすかな笑みを浮かべ彼女の手を取る。
「リン」
「元気だった?」
「ルイズ」
「心配したぞ、こいつぅ! お仕置きっ♪」
「うふふふふふふふ」
りんにくすぐられ、キュルケが嬌声じみた笑い声を上げる。
そんな3人の様子を微笑混じりに眺めていたマチルダだったが、ふと1つの疑問が浮上した。
(ミス・ココノエ……、いったいどちらが本性なのでしょうか……? 友人想いの優しさと、大人を平気で陥れる残忍さと……)
マチルダは学級を受け持つ自信を少々喪失するのだったが、その時彼女の視界にりんの机に置かれた1枚の紙が入る。
『キュルケchanが学院に来れますように Rin』
と書かれていた便箋に、昨日りんが発見した四つ葉のクローバーが貼られていた。
それを見たマチルダは、そっと微笑むのだった。
「……リン」
その日の午後の教室。
「何でずっと休んでたキュルケより点が悪いわけ?」
「さー?」
ルイズの指摘をどこ吹く風と受け流し、りんは悲惨な点数のテスト答案片手に笑い声を上げていた。
(こちらの意味でも問題児ですか!)
2人のやり取りに、マチルダは頭を抱え心中でそう独白した。
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