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#navi(ゼロの戦闘妖精)
Misson 14「プロジェクトY ~挑戦者たち~」
『フェニックスの神罰』 レコンキスタのニューカッスル城攻略艦隊壊滅の知らせは、瞬く間にハルケギニア全土に広がった。
或る国は 詳細な情報を求めて大量の間者を送り、或る国は 密かに入国していたレコンキスタの使者を追い返した。
これは 歴史の流れが変化する瞬間だ。自分は今 それに立ち会っている。凡そ 国家運営に携る者ならば 誰もがそう思った。
だが ゲルマニア皇帝たるアルブレヒト三世が気に懸けているのは、それとほぼ同時に飛び込んできた もう一つの知らせの方であった。
即ち、トリステイン王家からの 正式な『婚約破棄』の通知である。
浮遊大陸アルビオンに点った レコンキスタという名の炎は、不平貴族という大量の薪を得て 瞬く間に紅蓮の劫火と化した。
現・王家の滅亡は目前、更に『ハルケギニア統一』の旗印を掲げる 狂信的ブリミル教集団の次なる侵略目標は 恐らくトリステイン。
歴史と伝統はあれども 国力は衰退傾向にあったトリステイン政府は、長きに渡る国境紛争すら封印して 隣国ゲルマニアに泣き付いた。
その代償として提示されたのが、『アンリエッタ妃殿下の御輿入れ』だった。
帝政ゲルマニアは 巨大な新興国家である。
この地に乱立していた小規模国家群を武力統一した 初代皇帝 アルブレヒト一世。
叛乱の火種も多く残る帝国に 非情非道 卑劣な手段まで用いて強固な中央集権体制を構築した アルブレヒト二世。
英雄の性か、色を好んだ二代皇帝が派手にバラ撒きまくった『世継ぎ』達との 血塗れのサバイバル戦を生き残った現皇帝 アルブレヒト三世。
祖父から孫へと続く『波乱万丈の物語』も、ハルケギニア六千年の歴史にあっては 『たかだか三代の新参帝国』でしかない。
アルブレヒト家自体 元々 征服した他国と同様の小国の王家。その家系図には 多くの虫食いやインクの染みに隠された 怪しげな部分が存在する。
表立って語られることこそないが 巷では皇帝陛下の血統は こう噂されている。 『平民混じり』と。
幸いにして ゲルマニア皇帝は、某国の王族や公爵家令嬢の様に 魔法が使えないという訳ではなかった。
だが、それだけでは『噂』を否定することは出来ない。なにより 皇帝陛下自身も 己の血統に確証を持てずにいた。
それ故に。
金も 力も、領土も地位も得たアルブレヒト三世が 今現在 最も欲するもの、それは『聖なる血統』だった。
今更何をしようとも 自分の二束三文の血は変えられない。血とは即ち 己自身なのだから。
だからこそ 帝国を継ぐ子孫には、『始祖直系』とされる『聖なる血統』を 流し込んでやりたかった。
直系の血が アルブレヒト帝の胡散臭い血筋を 真に高貴な血統にしてくれる、そう思っていた。
そして その為の第一段階は 間も無く成就する…筈だった。一匹の幻獣が 邪魔しなければ!
突然アルビオンの上空に現れた『聖獣』は、一撃をもって戦列艦を次々と沈め 地上部隊にも壊滅的な損害を与えたという。
竜と見紛うばかりの巨体に 炎を纏ったその姿、「間違いなく 伝説通りの『フェニックス』だった」とは、戦場から逃げ帰ったゲルマニア人傭兵からの聴取内容である。
その翌日 トリステインはアルビオン王家への救援軍の派遣を発表、反乱軍レコンキスタに対して宣戦を布告し、ゲルマニアには ほぼ決定していた『婚約』の破棄を通告した。
皇帝陛下のササヤカな野望は、『始祖の御使い』によって粉砕されたのだった。
怒り心頭のアルブレヒト三世陛下。
「えぇーい 『聖獣』とて構わん!我の邪魔をするケダモノの討伐隊を編成せよ!!燃える素っ首を我が前に持って参れ!!!」
さすがにコレは 家臣団総出で制止したが、トリステインからもたらされた新たな連絡によって 状況は大きく変化した。
『フェニックス(仮称)に対する トリステイン・ゲルマニア両国による共同調査』
驚いた事に トリステインは、あの『聖獣』の正体を把握しており、あまつさえ その身柄を押さえていると言うのだ!
そして その秘密を明かす代わりに、婚約破棄をチャラにしろと。
「トリステインは、アレ程の力を隠し持っていたのか!」
「いや、そんなハズは無い。ならは、我が国に同盟など持ち掛ける必要は無いではないか!」
「それに 自軍の戦力であるなら、何故『調査』などする必要がある?」
「だいたい、幻獣の調査だというのに 担当者として魔法生物の専門家ではなく 我が国の工業産業省長官を指名するとは。」
「まさか、幻獣ではなく ガーゴイルの様なマジックアイテムなのか!?」
「それこそ悪夢だ。トリステインは、あんな怪物を量産する気だとでも!」
喧々囂々の論争を制したのは、皇帝陛下の一言。
「正体不明? フフン、面白いではないか。
トリステインは、婚約破棄の詫びとして 秘密を明かすと言うておる。引け目は向こうにあるのだ。
かの国が 過ぎた力を持っておるなら、我々が奪うまでの事!
ワット長官、すぐさまトリスタニアへ向かい、フェニックスとやらの正体 委細漏らさず調べて参れ!」
急遽結成された『第一次フェニックス調査団』が トリステインに派遣されてから数日、ゲルマニア皇帝陛下は 本日帰国予定のソレの到着を、玉座の間にて今か今かと待っていた。そこへ、
「陛下~ぁ、陛下は何処~ぉ~。何処に居られますや~、陛下~ぁ!」
ドタドタという足音と、老人のダミ声が響き渡る。
騒音の源は、ゲルマニア帝国アカデミー筆頭にして 同国工業産業省長官、今回の派遣調査団団長 サー・ジェイムズ・ワットその人であった。
還暦に近い高齢にも拘らず それを感じさせない老マッチョな肉体に ロングの白髪を振り乱しながらせわしなく動き回る姿は、彼の発明品『蒸気機関』を思わせる。
また、国内学術会のトップでありながら あらゆる分野に首を突っ込み引っ掻き回す行動から『ワット』ならぬ『マッド』と呼ぶ者も。
(ただし、当人は そう呼ばれても怒る素振りも無い。むしろ 喜んでいる節も?)
息せき切って駆け込んできたワット長官に 陛下が労いの言葉をかけようとするも、それすら制して、
「へっ、陛下ぁ~。今すぐ、すぐにコレに御署名を!」
差し出されたのは、フェニックス調査計画の正式合意調印書。(今回は、あくまで『予備調査』であった。)
「落ち着けワット、何があった。まずは報告せい!
詳しい話も聞かずに契約書に署名するなど、ゲルマニア人たる者がすると思うか?ましてや 皇帝たる我が!」
流石は商業国家、トップの皇帝陛下に至るまで その辺りは本能レベルで刻み込まれている。
「これは私としたことが。年甲斐も無く我を忘れてしまいましたな。」
(「いや、毎度の事だと思うが?」)と 心の中でツっ込む皇帝陛下。
「で 何であった、『フェニックス』の正体とは?」
「はぁ、なんと申しましょうか…」老長官は思いを馳せる。ほんの数日前、『アレ』と初めて対面した際の事を。明かされた事実と語られた内容を。
「…アレは、一言では語れませぬ。」
数日前、トリスタニアに到着したゲルマニアの調査団一行を 御自ら出迎えたアンリエッタ妃殿下は、
「私共の申し出をお受けいただいた事を 感謝致します。
さて、通例通りならば これより暫く 歓迎の意を込めた社交儀礼が続く訳で御座いますが、皆様は その様なものよりも実務を好む研究者の方々。
旅の疲れも無いという事でしたら 早速 御目当ての『フェニックス』の所へ参りたいと思いますが、如何でしょう?」
と 申し出た。
他国からの客人を寓するには 些か不調法であったが、今回の調査メンバーは 姫の言葉通りの研究者、それも『マッド』な長官が選んだ実践派学者揃い、却って好感を持って受け取られた。
一堂が移動した先は、トリステイン魔法学院敷地内にある 森の中の広場。元々召喚場であった場所。そこは 以前とは様変わりしていた。
見るからに頑丈そうな ドーム状の建造物。
交差する二本の道。しっかりと舗装され 表面も丁寧に整えられているが、何処へも繋がっていない 奇妙な道路。
そこに居たのは魔法学院講師の上着を着用した 禿頭の男。傍らに置かれた何かの装置を操作し、
「アンリエッタ様、どうぞ。」と 装置から伸びた紐状の物の先に付いた部分を手渡す。
「ありがとうございます、ミスタ・コルベール。」
受け取った姫君は、トークボタンを押して
「『プリンセス』より『ゼロ』、ゲストは到着した。繰り返す。ゲストは到着した。」
『ゼロ、了解。上空待機を終了、RTB。』
応答を返す装置に驚く ゲルマニアの一行。
「妃殿下、それは一体、どのようなマジックアイテムですかな?」
調査団の中で 好奇心の最も強いワット長官が 先陣を切って問いかける。
「『無線機』と申します、ワット卿。ただ、訂正させていただくなら、これは『マジック』アイテムでは御座いません。」
普通とは異なる部分にアクセントを付けた言い方。その意味合いに
「ほう ソレは興味深い。」
ワット長官の 常人よりも長い眉毛がピクピクと動く。未知の事象・新たな謎に強く心を引かれた際の 彼の癖である。
「説明は、して いただけるのでしょうな?」
「もちろんですわ。ですが…」
アンリエッタは空を見上げた。つられて 皆も空を見た。
誰かが気付く。遥か遠くの小さな影に。耳慣れない音に。
影は見る間に大きくなる。黒い点から 鳥の如き姿に。
あっという間に近付いてくる。雀程の大きさに見えたものが 鴉程になり 鷹になり 大鷲に、やがては飛竜へ。
轟音と共に ソレは舞い降りる。足を伸ばす。勢いが有り過ぎ 接地した足から白煙が上がる。
行き場の無い道(滑走路)が 何の為の物か、調査団員は理解した。
速度を落とすと 灰色の怪物は彼等の前で停止した。頭部?がやや後方へ移動し ぱっくりと開く。そこに人影が見えた。
その人物に向け 両腕を開いてアンリエッタが宣言する。
「皆様 お待たせいたしました。
これが 巷で噂の『フェニックス』、
レコンキスタ艦隊を壊滅させた『聖獣』、
私の大切な『トモダチ』 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが召喚せし使い魔、『雪風』です!」
雪風から降り 居並ぶゲルマニアの学者達を前にして、ルイズは思う。
(普通に格納庫から出てくるだけでもイイと思うんだけど…
姫様ッてば ハッタリの効いた演出が好きなのよね。)
…実はルイズも、ギーシュを相手に殆ど同じ事をやっているのである。(Misson 03 参照)
アンリエッタをどうこう言えたモノではない。
そんなことはさておき、雪風である。
雪風を初めて見た者は 驚く。それはそうだろう。だが、驚きにも程度がある。
幼な子ならば 素直に驚く。確固たる 己の世界を未だ持たぬが故に。
そして 怖がって泣き出すか、喜んで笑うかのどちらかだろう。
魔法学院の生徒程の年齢ともなれば 知識と経験から それなりの世界を構築している。
それでも まだまだ学生の身、未知なる事が存在するは 当たり前。柔軟性は失っていない。
これが いい歳をした大人では、そうもいかない。ましてやアカデミーの研究員ともなると。
今日迄の人生を 学問に奉げてきたという思い。知識において他人に劣る事は無いという自負。
真理は 我が行く道の先に在る。怪しき噂 無知なるが故の幻想を、正しい常識で打ち砕く。
それが学者であり研究者である。解らぬ謎など あるものか!
…あった。 今 目の前に。
自分の世界に収まらない 理解を超えた存在から受けたショックは相当のものだった。唖然・呆然とする調査団員達。
それが 所謂『秀才』の限界。しかし、『天才』は その範疇に入らない!
(なんなんだコレは! ワカラン。ならば考えろ、持てる知識の全てをアライナオセ。あれか?チガウ。これか?違う。ちがう。チガウ!)
『ゲルマニアの頭脳』と称えられた老人の脳中枢が、フル回転していた。
(そもそもアレが本当に『フェニックス』と呼ばれていたものなのか?燃えとりゃせんが。
じゃがフェニックスの伝承は「炎の中から甦る」と言うのが原典で 普段から燃えているというのは後付けじゃ。
それよりもナニカがひっかかる 何じゃナンジャなんじゃ?そうじゃ!脚じゃ。
アレの脚は三本。怪我やカ○ワでも無い限り奇数本の脚の生物はおらん。幻獣を含めてじゃ。では生物ではないのか?
だがトリステインの姫君は言った「使い魔」と。使い魔は生物が基本。それでもマレにゴーレム等の自立型マジックアイテムが召喚される場合もある。
アレもそうなのか? いや東方の遥か遠き国には『ヤタガラなんとか』という球蹴りの上手い三本脚の神鳥が居るとも聞く。
エ~イ、アレはどっちじゃ?何か無いか決定的な判断材料は。さがせサガセ探せ。
ウム あった!アレが地に降り立った時の事を思い出せ、その脚には車輪があったではないか!
生物の身体駆動は筋肉の伸縮によるもの。これは如何なる種であっても例外無い。また伸縮を動きに変えるためには筋肉の両端が固定されていなければならない。
これは「支えていながら固定しない」という車輪の軸受けの構造とは相容れないもの。生物は身体に車輪の様な「際限なく回転する」器官を持つ事はできん。よってアレは無生物であると推測される。)
【注:生体軸受け構造 ミドリムシの『べん毛モーター』なんてモノは、当然ハルケギニアでは発見されていません。】
(ならばマジックアイテムか?ソレもおかしい。ディデクト・マジックなど使わんでも解る。アレが飛来した時 魔力を感じたか? 否!
あれほどの巨体 宙に浮いているだけで どれ程の魔力をタレ流す事になるか、数百メイル離れておってもビンビンに感じるハズじゃ。なのにソレがない。
加えて アレが現れる直前、奇妙な『喋る機械』を姫君はナンと言った?『マジックアイテム』では無い…少し違うな そう、『マジック』アイテムでは無いと言ったのじゃ!
マジックでなければ ただのアイテム。道具…魔法を使わぬカラクリ。
フェニックス 魔力を感じさせずに飛んできた、生き物で無い『何か』
つまり 『魔法によらず動く機械』 それが、答えか!
じゃが何故もっと早く思いつかんかった?何故最初に思い至らん!ワシの最高の発明品は何じゃ、魔力によらぬ動力源たる『蒸気機関』じゃろうが?)
(… 判った。判ってしまった。
えぇい 情けないぞジェームズ・ワット、貴様 あえてアレを非魔法機関だと考えないようにしたな!認めるのを拒んだな!
それでも己は研究者か!学問の徒か!
「ゲルマニアの工業技術は 世界一~ぃ」などと 浮かれ騒ぐバカ共に煽てられ、自分自身もすっかりその気になっていたとは!
つまらぬプライドを捨て目の前のモノをしかと見よ。貴様のガラクタよりも遥かに進んだ機械 その実物が在るではないか!
解らぬ事は恥ではない 解らぬ事を認めぬ事こそ恥なのだ。
おそらく トリステインでも アレ、『ユキカゼ』とか言う使い魔の全貌は未だ掴めておらんのだろう。其れゆえの『合同調査』の申し出か。
ならば、アレを最もよく理解している人物は…召喚した主人 唯一人!)
一瞬にしてその結論に達したワットは、ルイズに向かって駆け出していた。
思いもよらぬ早駆けで迫る老人にルイズは身構えるも、息を切らして目の前に立ち止まったワット長官が いきなり深々と頭を下げたのに驚いた。
「あの使い魔、『ユキカゼ』の主人である貴女に御願い申し上げます。
何卒 ユキカゼに触れる事をお許しください。ユキカゼの内側を覗く事をお許しください。ユキカゼの全てを調べる事をお許しください。
あれこそ ワシの求めるモノ ハルケギニアを変え得る力 『動力機械』の未来で御座いましょう。
全く あのような機械が何処で作られましたのやら 皆目見当が付きませぬ。『主』である貴女様ならば、その辺りもお判りなのでしょうや?」
(凄いわ この人! まだ何も説明してないのに そこまで推測して、こんなポイントを突いた質問まで!!)
「サー・ジェイムズ・ワット様でいらっしゃいますね。御顔をお上げください。
私は、ヴァリエール公爵家 三女のルイズと申します。
一目で『雪風』の何たるかを見抜かれました慧眼、感服いたしました。仰る通り 雪風は、魔法の力を用いない機械 『飛行機』です。
そして 何所で作られたか判らないのも道理。我が使い魔は 異界、魔法無き世界より飛来いたしました。」
(何と! それならば幾分スジは通るが…にわかには信じられん!)
「確かにあの『ユキカゼ』が飛んでおりました際 魔力は感じませんでしたが…
魔法を使わずに飛ぶ事なぞ 真に可能だとは!?」
「宜しいですか、ワット長官。フネが飛ぶには風石の魔力を、幻獣が飛ぶには風の魔法を使います。
ですが、雀や鳩は魔法を使いますか?蜂や蝶は 飛ぶのに魔力を必要とするのでしょうか?
そうではありませんね。」
「じゃが アレらは、」
「体の大小については、ひとまず置きましょう。
魔法によらず飛ぶ生き物は存在する。これは事実です。魔法の存在しない雪風の世界にも 鳥や虫がいて 空を飛んでいます。
ならば なぜ飛べるのか。それは彼等が、空を飛ぶ為の『理』(ことわり)を体現しているからです。」
ルイズは雪風を召喚した日から毎晩 データLinkによる『睡眠学習』を受けていた。雪風の事が、雪風の全てが知りたかったから。
だが FAF最強の戦術偵察機である『雪風』を理解する為には、まず『航空機』の何たるかを知らねばならない。
航空力学 機体構造 使用素材 アビオニクス 情報工学 マン=マシン・インターフェイス、必要な知識は 数えれば限が無い。
それ以前に 基本的な物理学や数学から学ばねばならなかった。
幸いにして、脳内直結の特異な学習方法と 自身の資質の高さから、一月余りの短期間で ルイズの知識と思考は驚くほどの変化を見せた。
「万物は 其々に固有の理があり それに従って存在し、この理を『物理』と言います。
私達ハルケギニアの住人は、その事について あまり深く考えませんでした。
なぜなら 私達は『物理』を覆す術 始祖ブリミルより賜りし奇跡の力 『魔法』を手にしていたからです。
それが無かったとしたら どうでしょう。」
ルイズは 雪風を知ろうとする過程で 『科学』を知った。雪風を通じて その力と可能性を理解した。
ハルケギニアにおける絶対の基準 『魔法』。それに比肩し得るモノを知った事で 魔法及び魔法の存在する世界そのものを、相対的 客観的に見る事が出来るようになっていた。
「魔法無き『異界』にも、ヒトが住み 日々の生活を営んでいます。
空があり 海があり 大地が在る。そこで麦を撒き 魚を漁り 牛を飼う。国があり 兵士がいて 戦をする。
魔法が存在しない事以外 私達となんら変わりはありません。
それゆえ 彼等は魔法に代わるものとして 『物理』に目を向けたのです。その為の手法が『科学』です。」
「なんと…」
「異界の学問とは!」
「その辺を もっと詳しく!!」
驚きから立ち直った研究員一同も ルイズの元へと集まってきた。その中の一人が曰く
「待て待て。
その『科学』とやらは、万物の理を解き明かさんとするものか?それは世界の『真理』に迫ろうとするに他ならない。
神ならぬ身が真理に至るなど、始祖への不敬 冒涜に当たりますぞ!」
どうやら 熱心なブリミル教信者のようだった。それを一喝するワット長官。
「えーい、黙らんか この馬~鹿弟子がぁ!
学者たる者が真理を目指さんで どうする!!
しかし 貴様の様な『教会の首輪付き』を 調査団に選んでしまうとは… ワシも耄碌したかのぅ?」
最後の部分に 残りの研究者達(先程の発言者も含む)は、ブンブンと首を横に振る。誰が見ても ボケとは無縁のワットだった。
ルイズに向き直るワット。
「ヴァリエール殿、一つ 宜しいか。
貴女は仰った。『魔法』は『物理』を覆す『奇跡』だと。ならば 物理は魔法に劣るのですかな。」
「それは 一面的な考え方ですね。
確かに 科学技術は魔法に劣る部分があります。
例えば 何かに火をつけるとして、魔法ならばメイジ一人と自分の杖があればすぐ出来ますが、科学技術では予め着火の為の道具を作っておかねばなりません。これには それなりの資金と手間がかかるもの。」
「フム。」
「では、魔法はどうでしょう。始祖ブリミルが私達に伝えてくださったのは、『魔法の使い方』のみ。
魔法の『根本原理』は 各国アカデミーにて研究されておりますが、いまだ解明されておりません。
よって 魔法の応用は 限定的発展しか遂げていないのが現状。
それに対し、科学は 原理を解き明かすことから始まります。よって 技術的な応用は自在。
カネと手間さえ惜しまなければ、得られる成果は天井知らず。それこそ あの双月に到達する事すら可能です。
さて これに優劣を付けられますか?」
「なるほど。方向性が違う と。
それにしても、月に至る事が『可能』…『可能やも知れず』でなく はっきり断言されましたな。」
「はい。雪風の世界では、随分と前に成し遂げられました。
ただし それに掛かった費用は、ゲルマニアの国家予算数十年分を注ぎ込んでも まだ足りぬかと。」
「ははっ なんとも豪気な! それが『科学』ですか!!
面白い、実に面白い!!!
じゃが 不可思議なるはヴァリエール殿、貴女の その知識の量と深さ。
ハルケギニアにも 古来より『科学』があったとすれば、流石に一欠片なりとも我等の耳目に入らんという事はありますまい。
さすれば、貴女が科学を御知りになったのも ユキカゼを召喚されて以降の事で御座いましょう。
しかし召喚の儀は たかだか一月前の筈。如何様にして それほどまでに?」
「それも皆 雪風のお陰。雪風が 全て教えてくれました。」
ルイズは語った。コンピューター AI 電子知性体 データリンク ネットワーク、異世界の科学が 永き時を経て成し遂げた、脅威の技術について。
唯一度の説明で ゲルマニアの研究者達にどれだけ理解できたか、それは判らなかった。しかし モット長官は
「その『電子知性体』は、我々の知る『インテリジェンス・アイテム』と、どう違うのですかな?」
と問うた。
「でしたら、『当事者』に聞いてみましょう。デルフ~!」
「何でぇ嬢ちゃん、今日は偉ぇ学者センセーの集まりだから オレみてぇな無学な剣にゃ、出番は無えハズだぜ?」
喋らない筈の雪風 その下から聞こえてきた声に ビクッっとする研究者達。だが 驚き疲れたのか、反応は薄い。
「ほう。『インテリジェンス・ソード』ですか。」
「ええ。私の剣で、自称 雪風の『相棒』、デルフリンガーです。
ねぇデルフ、別に難しい事を聞こうっていうんじゃないの。
アナタから見た雪風って、どんな感じ?それを教えて欲しいの。」
「そうだな。オレっちみてぇなのは、確かに『インテリジェンス』なんてのがくっ付いちゃいるが、所詮はヒトの上っツラを真似ただけ。
良くも悪くも『ヒト並み』ってこった。お蔭サンで、モノの考え方はアンタ達と一緒。なんも変わらねぇ。
相棒は違う。
あ~ 上手く言えねぇんだけどよ、なんてぇか 一番の根元んところから違うんだな。
例えばよ、エルフとヒトは敵同士って事になってるよな。昔はそうじゃなかった気もするんだけど。
それだって 色恋も出来るし ガキだってこさえられる。知ってる限りじゃ、すぐに 殺されちまうみてぇだがな。
まぁ 国と国じゃ無理でも、一人と一人なら 判り合える事もあるってこった。
相棒は 敵になったりしねぇし、お嬢ちゃんを裏切ったりもしねぇだろうけど、判り合うってのは出来ねぇ。
判り合うってのは、自分と相手の根っこが 同じだって事に気付く、みてぇなこったろ?
相棒は 違うんだ。
ヒトじゃ無ぇ、ヒトモドキでも無ぇ、生き物ですらねぇ『知性』(インテリジェンス)てぇのは たぶん そういうモンじゃねぇかな。」
色々とタブーに触れる発言もあり、先程の教会寄りの研究者が暴れそうになったが、周りが押さえ込んだ。
「う~む、『ヒトを模したる知性』と 『ヒトにあらざる知性』か。
いや、デルフリンガー殿、無学などと謙遜なさるな。貴殿の仰ることは、既に『哲学』の領域。
されど、我々が目指し求めるは 『実学』たる科学。
ヴァリエール殿、雪風から異界の知識を引き出す事ができるは 貴女のみ。
さしずめ、神託を下知する巫女でございますが どうでしょう 科学を修めれば我等も『電子知性体』を創り出す事が出来ますかな?」
「私が巫女…ですか?じゃぁ、『御布施』でも取ろうかしら。
いえっ ウソです、ほんの冗談ですって!
皆様から問われれば、私と雪風に可能な限りは 全てお答えします。もちろんタダで。
物理は ヒトの行いに係らず 変わらず在り続けるもの。研究の足取りさえ止めなければ いつか必ず辿り着くでしょう。
どれほど遠く 長く 険しい道であっても。」
「ならば、たった今より始めましょう!一分一秒とて 時間が惜しい!!
我 老い先短い身なれども、目の前に数多の未知をブラ下げられては、おちおち始祖の御許へ旅立つ事もできませぬわ!!!」
(…ワット卿。貴方、私よりも きっと長生きすると思うわ。)ルイズにも 大体この老人が判ってきた。
「と まぁ、そういった具合でしてな。
アレから連日連夜 向こうを発ちます寸前まで ルイズ殿の講義を受けておったのですが、それでも得られたのは『物理と科学』の ホンの入り口。
『汲めども尽きぬ 知識の泉』とは 正にあの雪風の事。
あれほどのものをトリステインが独占いたしましたなら、我がゲルマニアの工業界は 百年 いや千年の遅れを取りましょうぞ!」
そう言って、正式合意調印書への署名を迫るワット。ふと視線を下げると、皇帝陛下の膝が 小刻みに震えているのに気付く。
「判った。調査には合意しよう。だが その前に一つ問う。
ワット、貴様はその『雪風』とやらには もう乗ったのか?」
「はい! あの速さ あの動き、実に素晴らしい。此の世のものとは思えませんでした。
万の言葉を重ねるよりも、唯の一度 機乗いたしますれば、あれが『異界の機械』である事 何よりもスッキリと判りますな!」
それを聞いて 玉座から立ち上がる皇帝陛下。
「えぇい、もう我慢できん!
そのような面白き事、貴様等だけで楽しみよって!
我も行くぞ トリスタニアへ。我 自らが『雪風』に乗る迄、署名なぞせんぞ!
ワットよ、研究調査がしたくば 直ちにフネを用意せよ!」
結局のところ アルブレヒト三世のトリステイン訪問は ならなかった。
流石に 皇帝陛下が他国を訪れるとなれば、警護その他 準備だけでも大層な手間が掛かる。
「それならば」と、訪問の事前連絡を受けたアンリエッタはルイズを呼び出し 二人して雪風でゲルマニアへ飛んだのだった。
もちろん アンリエッタとて、そうヒョイヒョイ他国へ出掛けられるモノではないのだが、一旦飛び立った雪風を 誰が止める事が出来るだろうか?
ルイズは今 ゲルマニア ウィンドボナの地で、上空を舞う雪風を見上げていた。
機上には、縁談が潰えたばかりの トリステインの姫君とゲルマニア皇帝陛下。
といっても 別に重苦しい雰囲気など無く、傍受するインカムからは はしゃぎまくる陛下の嬌声が聞いて取れる。
(『男は 幾つになっても子供』っていうけど、ホントねぇ。)
然り。自ら欲せず流されるまま跡を継ぐボンクラ皇太子ならいざ知らず、戦い抜いて王に成ろうとなどする者は、ぶっちゃけた話 『ガキ大将』の延長線上にあるともいえる。
まぁ それを十六歳の少女に言われたくはないだろうが… ルイズ、自重しろ。
雪風コクピット内の後部シート、そこで アルブレヒト三世は考えていた。
(我は欲していた、『聖なる血統』を。だが今は、何よりこの『雪風』が欲しい!)
無理なのは判っている。この使い魔が持つ価値は ワット長官から散々聞かされている。トリステインが手放す筈も無い。
そうではないのだ。強力な兵器としてでも 先進技術の宝庫としてでもなく、只 空を飛ぶ、自由に宙を舞う為だけに 雪風が欲しかった。
「いかがですか 皇帝陛下。雪風は 御気に召しましたか?」前席の姫君が言う。
「フッ この雪風を気に入らぬ者など、何処に居ろうか。これが我が物と成らぬ事、悔しゅうてならん程に!」
「では、陛下も 私と同じ思いで御座いますわね。」
「何を言う。これは、そなた達トリステインのモノであろうが!」
「いいえ。トリステインに『属する』モノではあっても、使い魔はあくまで召喚者のモノ。『私』のモノでは御座いません。
陛下も 同じ意味で『欲しい』と仰ったのでは?」
「だが その先は詮無き事。仮に主人を殺したとて、使い魔は他の者には従わぬ。」
「まぁ恐ろしい。この雪風の主は 私の大切な友人。ゆめゆめ その様な事は。」
「判っておるわ。ましてや、国境争いにおいて 我が軍を幾度と無く阻み続けた あの『ヴァリエール』の者とあってはな。」
幾許かの沈黙の後 再びアンリエッタが口を開く。
「確かに 雪風は私達のモノにはなりませぬ。ですが…
陛下は そこで諦めてしまわれるのですか?」
「ムッ?」
「雪風は 異界の『科学』にて造られしもの。そして 私達は、これから科学を学ぶのです。
異界の民は 皆 平民であると聞きます。かの者達に出来て 私達に出来ぬ道理がありましょうか?」
「グッ!」
「貴国ゲルマニアは工業国家、加えて私達には 異界には無い『魔法』があるのです。
初めから 雪風のような高度なものは無理でも、やがては私達自身の手で 私達の雪風を作り 飛ぶ。
素晴らしいとは思いませんか?」
アルブレヒト三世は 改めて前席の姫に目をやった。いや 初めて『アンリエッタ・ド・トリステイン』という女を見た。
婚約まで交わしていながら、皇帝陛下にとって意味があったのは、『聖なる血統』という付加価値のみ。親子程も歳の離れた小娘本人になど 妾の一人程度の興味しかなかった
だが その小娘の提示したビジョンはどうだ。諦めるしかなかった自分を超え その先の未来をも示しているではないか!
「クックックッ… いや、失敬。
アンリエッタ妃殿下、貴殿とは 男女の縁は無かったが、
…『友』としてなら 実に旨い酒が飲めそうだな!」
「はい。
それでは、私達の造る 新しき『飛行機』が、無事飛び立ちました折には、王家秘蔵のワインをお持ちしますわ。」
ここに、『メカフェチ皇女』と『ガキ大将皇帝』の計画は始まった。
それは ハルケギニアの政治・経済・社会に多大なる変化をもたらす事となる 『プロジェクトY』、『雪風製造計画』であった。
《 続く 》
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