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#navi(使い魔は四代目)
ガンダールヴ。
始祖ブリミルが呪文を発動させる為に長い詠唱を行う間、無防備になる体を守る事に特化した使い魔。
そして、あらゆる武器を自在に扱い、その強さは千人の軍隊を一人で壊滅させる程だったという。
アレフガルドから来たリュオは当然ながらガンダールヴについての知識は無い。そこでルイズに聞いてみると、得られた答えはそういうものだった。
若干胡散臭さも感じないわけではなかったが、ルイズやオスマンにしてもロト一族の話をすれば同様に胡散臭く感じるだろうし、それは仕方の無いところだろう。
なるほど、伝説になるだけあって確かに強力な使い魔のようだ、オスマン達が慌てるのも無理が無い、と得心した。
アレフガルドに擬えればブリミルが大地の女王ルビス、ガンダールヴが勇者ロト、或いはその仲間達、という事になろうか。勿論、ロトはルビスの使い魔などではないのだが。
「しかしオスマンよ。はっきり言ってわしは武器なぞ使わんぞ。言い伝えが間違いではないのならガンダールヴとやらもとんだ人選ミスをしたもんじゃな」
そうは言ったものの、興味を引かれたのも事実である。あらゆる武器を使いこなした、と言うのがルーンの恩恵だとすれば、当然それはリュオにも適用される筈だ。
しかし、今の所特に何も変わった様子は感じ取れない。その為、リュオはルーンの効果は大して期待しなかった。
元々リュオは基本的に武器を用いた戦いはしない為に、ルーンの効果が得られなくても全く困らない。いかにも魔法使い、といった人間の姿でいる時はその印象どおり呪文を使って戦うのが基本である。
一方、正体を表した時は装備できる武器など無いし、そもそも使う必要が無いからだ。それ以前の問題としてリュオが戦う事など殆ど無いのだが。
とはいえ、もし効果があれば面白い事になりそうだ。試してみる価値はあるだろう。リュオはそう判断したが、生憎とそれには問題が一つあった。
「まぁ、一応確認してみる必要はあるかのぉ… そうは言ってもわしは見ての通り武器らしい武器なんぞ持っておらんのじゃがな。ここには何か気の利いた武器とかは無いのかな?」
「え?いや、ここは学園ですのでそういった物は…まあ、衛兵ならば剣なり槍なり持っているでしょう。品質に関しては余り期待はできないでしょうがね」
「別にそれでも良いのじゃがな。…そうじゃ、教師たちは授業だけしておるわけでもあるまい。空いた時間に自分の研究をしている者もおるのでは無いか?」
「…? 確かにその通りですね。かくいう私もその一人ですが」
リュオが何を言いたいのか分からず、若干困惑しながらコルベールは答えた。発明と研究が今の…教師になってからの彼の生きがいであった。そのため、彼の授業は発明品の発表会の様になる事もしばしばであった。
もっとも、その成果はまず生徒達に理解されない為、役立たない研究ばかりしている冴えない (独身)教師というのが生徒達の間での彼の評価であり、彼自身もその事を知っている。だが、それでも良い、と思っている。
トライアングルクラスの火のメイジである彼が実力の一端を見せれば、否定的なその評価はあっさり変わるであろうが本人はそれをしない。火が司るものが破壊だけでは寂しい、というのが彼の持論である。
少なくとも破壊につながるような事でその評価を改める気は無かった。
「ならば、もう研究の必要が無くなった、不用品の中に武器があったりしないかね?」
「おお、そう言われれば…!確かに倉庫を漁れば保管されているそういったものが出てくるかもしれません…しかし、お恥ずかしい限りですが大層散らかってまして…」
「ま、倉庫なんぞどこへ行ってもそんなもんじゃろ、構わんよ。色々と面白そうじゃしな。問題があるとすれば立ち入りの許可がでるかどうか、じゃが。良いかな、オスマン」
「協力すると申した以上拒否するわけもありませんな。どうぞ存分に使ってくだされ。とはいえ、期待通りの武器があるかどうかはわかりませぬぞ?」
「そう都合良く行く事など期待しとらんわい。ま、あれば幸いぐらいじゃからな。それはそうと…」
リュオはガンダールヴの話を聞いた時から感じていた最大の疑問、それをそのまま口にした。
「結局その使い魔は一体何だったんじゃ?」
「それが…分からないのですじゃ。そのルーンは書物に残されておるのですがのぅ…」
長年語り継がれていくうちに話が当初のものと代わっていく、というのは珍しい話ではない。
だからこそリュオは答を得られる事をさほど期待していなかったし、オスマンの申し訳無さそうな返答も予想範囲内のものだった。
さて、この場合、抜け落ちている部分を知る手段はあるのだろうか。ある所には伝えられているが広く知られていないだけという場合ならまだ可能性はある。意図的に内容が改竄された場合、となると厄介だ。
そんな事をやるのは相当な権力者だろうが、それだけに徹底して元の話の痕跡を消されている可能性がある。
とはいえ、それが必要な情報かどうかはまだ不明だし、大体今考えてどうにかなるものではない。それ以上は後で考えることにしてリュオは話を進める事にした。
「そんな大層な使い魔の姿が何故伝わっておらんのじゃ?まぁ、お主等に聞いてもしょうがない事じゃがな。
そのルーンがわしに…か。そういう話ならお主等が興奮するのも分かるが…
…悪いが、特にこの身に何か変わったような感じはないぞい。」
「勿論、随分昔の話ですから、誤って伝えられた部分もあるかもしれません。あるいは、たまたま似たようなルーンが現れた、と言うだけかもしれません」
「だから、リュオ殿がガンダールヴだ、と決まったわけでもないのじゃが…
しかし、事実はともあれそれだけで注目を集める存在になることは事実。ましてや、リュオ殿のような竜族の王ともなれば尚更ですな。
勿論リュオ殿何らかの野心を持っていると疑っているわけではないのですが」
「…なるほど。野心を持った者がわしや、わしを使い魔としたルイズを神輿として担ぎ出そうとするかもしれぬ、と」
「…確かにわしにその気が無くとも、『伝説の使い魔のルーンを持つ竜が今降臨した事事態が我々に正義がある事を云々』などと一席打てばその気になる輩は多いかもしれんなぁ。
まぁ、素直に利用されてやるようなわしではないが」
「そうでしょうな。ですが、愚か者というのはとかく身の程を弁えないものですから」
「うむ、一々そんな輩の相手をするのも煩わしいのぉ…ともあれ、お主等が危惧する理由は良く分かった。確かに大事になりかねんな」
ルイズは王女アンリエッタが幼少の頃の遊び相手を務めたほど王族と近しい有力貴族の三女である、となれば求心力は充分にある。竜族の王ともなれば尚更だ。
そのうえ伝説の使い魔のルーンを持っている、ともなればそのカリスマ性は計り知れない。神輿にするにはうってつけと言えよう。
そして、それほど巨大なカリスマ性の有る神輿を必要とする者の野望とは、多くの人間を巻き込んだものだろう。そして恐らくは…多くの血が流れる事になるだろう。
そのような事態をオスマンが回避しようとするのは当然と言えたし、リュオも自分のせいでそうなる事は本意ではなかった。
リュオの同意を得た事で、オスマンは幾分表情を和らげていたが、思い出したように付け加えた。
「そうそう、後でリュオ殿にメイドをつける事に致しましょう。
いくら表向きはメイジということにするとはいえ、竜族の王に対し何のお世話もしないではトリステイン魔法学院の恥ですからな。ミス・ヴァリエール。誰か適任なものを知っているかね?」
「えぇと…申し訳ありませんが特に思いつきません。」
「そうですか…では、特に希望が無いようでしたらこちらの方で適当に選ぶ事にします。後で誰か適当な人物を見つけたならその旨お伝えくださればその者に変更しますので」
そりゃ確かに王様でガンダールヴだけどさ、ご主人様を差し置いてメイドをつける使い魔ってどうなのよ、嗚呼きっとメイドの中での序列は リュオ>私 になるんだわ、とルイズは心の中で愚痴るのであった。
「ではリュオ殿何卒、今後ともよろしくお願いしますぞ。それとミス・ヴァリエール。ひとまずリュオ殿を部屋に案内して差し上げなさい。いつまでもここにおるわけにもいかんじゃろう。
その後はどうするかな?色々話し合う事もあるじゃろうし、次の授業を休むなら担当にそう連絡しておくが」
「えぇと…私としては出席しておきたいのですが」
「わしは構わんよ、出てくると良かろう」
「そう?それじゃそうさせてもらうわ。細かい事は戻ってから決めましょ」
「そうですか。それでは遅れないようにしてくださいね。ではこれで、我々は失礼します」
「うむ。こちらこそよろしくな」
飛んで行く二人を見送ると、ルイズは歩き出した。
「ルイズよ、飛んでいかんのか?」
「…言ったでしょ。私は、魔法が使えないゼロのルイズだって」
「そうか。それじゃ歩きじゃな。遠いのかね?」
「それほどでもないわ。こっちよ」
成り行き上自分から口にした事とはいえ、ルイズにとってあまり話題にしたいようなことでもない。それ以上口にしないリュオに内心感謝しつつルイズは先頭に立ち歩き出した。
「やれやれ、一時はどうなる事かと思ったわい」
学院長室に戻ってきたオスマンは、しみじみと安堵の溜息をつきながら呟いた。同じく安堵の表情を浮かべたロングビルが心より同意した。
「本当に何事も無く済んで良かったですわね、」
「全くじゃ.…ああ、そうじゃ、ミス・ロングビル。倉庫の備品の目録はあるかな?あるようならこの際不備があっても構わん。その旨断ってミス・ヴァリエールに届けておいてくれい」
「わかりました。探してみます…でも、そんな物、ミス・ヴァリエールが何に使うのですか?」
「…さて、伝説の検証、といったところかのぉ」
「さっぱりわかりませんわ」
首をひねりながら退出したロングビルを見て、オスマンは好々爺の笑みを浮かべた。が、すぐに其の表情は引き締まり、深く物思いに沈むのであった。
「失礼します。持って来ましたぞ、オールド・オスマン」
そこに、オスマンの指示でフェニアのライブラリーに向かい、一冊の書物を探していたコルベールが戻ってきた。
「うむ。確かに『始祖ブリミルの使い魔たち』じゃな。まぁ君の表情を見れば結果はもう分かったも同然なのじゃが…
どれ…やれやれ、記憶違いであって欲しかったが…やはり同じルーンじゃな」
「そうですね…これから一体、どうなってしまうんでしょうか…」
黒猫が人間の言葉を喋れる様になるなど、使い魔に特殊能力が備わるのは良くある事だ。では、リュオの手に浮かんだガンダールヴのルーンは一体何を与えると言うのだろう。あれだけの力を持ったドラゴンが更に強力になったら…
いずれにせよ、一人の少女に預けるには強大すぎる力には違いない。使い方によって神にも悪魔にも成り得るだろう。そして、その事実は野望を抱く人間に対しては非常に魅力的だろう。
幸いな事に、リュオは理性的な性格のようだし、普通の使い魔のようにヴァリエールの言いなりではないから大丈夫だとは思いたいが…
ともあれ、こうなった以上はヴァリエールが道を踏み外さないようしっかり導いてやらねばならない。それが教師として、そして大人としての役目と言うものなのだから。
これからの事に不安を覚えつつも、決意を新たにする二人であった。
案内されたルイズの部屋を見て、リュオは素直に感嘆した。
「ふむ、相当な広さじゃのぉ。寮とはいえ流石に貴族の部屋だけあって見事なもんじゃな」
「王様なんでしょ?もっと凄いところに住んでるんじゃないの?」
ルイズの反応は当然のものであった。だが、リュオの居城はルイズが想像したような豪華絢爛な城ではない。英雄譚にあるような巨大な洞窟に様々なお宝がぎっしり敷き詰めて…といったものでもない。
リュオがいる階層自体は清浄な雰囲気が漂う地下湖を擁する宮殿なのだが、其処に辿りつくには様々なモンスターが跋扈する洞窟を深く潜って行かねばならない。竜族の王の居城、という響きからは程遠いものであった。
「…まぁ、ある意味凄い所じゃがなぁ… バジリスクやらドラゴンフライやらがうろついてるしのぉ…」
「よ、良く分からないけどなんか苦労してるっぽいわね.…」
「いや、不満は無い。…不満は無いんじゃよ?」
遠い目をして呟くリュオに、ルイズはどんなに強くても叶わぬこともあるのだなぁ、と妙な悟りを得たのであった。
「…詳しく聞きたいところだけど、残念だけど時間が無いわね。それじゃ私は授業に出てくるけど…リュオはどうするの?ここで待っているのかしら?」
「さて、それも暇じゃし、今のうちに多少はここら辺を見て回っておきたいが」
「じゃぁ、鍵を渡しておくわ。夕方には戻っているからそれまでには戻っていて頂戴。まぁ、今は授業中だし、ここに侵入しようなんて不心得者がいるとも思えないけど…いや、いるわね」
「…この鍵、使い捨てじゃないじゃろうな?」
「…何それ」
「違うようじゃな。…いや、、そういう時代があってな」
リュオが何でそんな事を言うのか理解できない、というようにルイズは眉を寄せた。アレフガルドではその昔…リュオの曽祖父であった竜王が魔王として君臨していた頃の話だ。
大抵の扉が開く魔法の鍵が堂々と売られていた事がある。余り上等な魔法ではなかったために耐久性に難があり一回使うと使えなくなる、おいそれと買えるような値段でもない、と言う事から広く流通するものではなかったが、
流石に今はご禁制となり表向きは姿を消している。リュオの質問はそれに由来するものであった。
とはいえ、魔法を扱う店に行けばどんな鍵でも開くという究極解錠の呪文を封じ込めたアバカムの宝石が目の玉の飛び出るような値段で取引されている事もあるらしい。
というか実際カインはそうしていた。手持ちが足りなかったのであの時は不思議な帽子を売るしかなかったとぼやいていたが…
ともあれ、ルイズが渡した鍵は何の変哲も無い普通の鍵である。勿論使い捨てなどではない。
「何の話か分からないけど…ま、いいわ。それじゃぁ、行って来るわね」
「うむ、気をつけていくのじゃぞ.。 …さてと、行ったかの?」
ルイズの姿が消えたのを確認すると、リュオは行動を開始した。
リュオはツボをのぞきこんだ! しかしなにもみつからなかった…
リュオはひきだしをあけた! しかしなにもみつからなかった…
リュオはひきだしをあけた! なんとちいさなメダルをみつけた!
リュオはタンスをあけた! なんとビロードのマントをみつけた!
リュオはタンスをあけた! なんとブルーガードをみつけた!
…まぁ、お約束であった。
「いや、辺りを見てくるというのは本当なんじゃよ?」
一通り部屋の確認を終え、誰にしているのか分からない弁明をすると、リュオは施錠し、外へと歩き出した。
中庭に出た時、そこには先客が一人いた。黒髪をカチューシャで纏めた、モップを抱えたメイドであった。そばかすが純朴そうな雰囲気を漂わせているが、その表情は硬い。
油断無く…というよりは落ち着き無く辺りを見渡している。どうみても酷く怯えているようだ。見かねてリュオは声を掛けた。
「…そこのお嬢ちゃん。お主、そこで何をしておる?」
「あ、あれ?見ない顔ですね…お客様ですか?失礼ですが…
貴族の方々が凶暴なドラゴンがこの近くに現れたと噂していたんですが、知りませんかっ!」
「……あー、それは……」
…わしぢゃ。とは言えず。リュオは心の中で頭を抱えた。
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