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#navi(ゼロのチェリーな使い魔)
トリスタニアでの買い物から数日が経過した。
いつもと変わらぬ夜。ルイズとフリオニールは寝床についていた。
夜も丑三つ時にさしかかろうかという頃、突如、大きな破壊音が夜空に響いた。
「んん?・・・」
余りにも巨大な音であった為、フリオニールは目を覚ましてしまった。ルイズは気付かなかったのか
ぐっすりと眠っている。
半身をゆっくりと起こし辺りを見回すが、暗闇が視界に入るのみで異常は無い様子。
なんだ、空耳か、と思いフリオニールは寝直した。
そして、朝がやってきた。
トリステイン魔法学院に昨夜、盗賊が忍び込んだと学院中で大騒ぎになった。
壁を堂々と破壊し、現場に「領収書」を書置きして目当ての物品を頂戴する手口は、今、
ハルケギニア中の貴族を震撼させている「土くれのフーケ」の仕業であると波紋を呼んでいる。
(昨夜のあの音、夢じゃなかったのか)
と人事のように振り替えるフリオニール。一方、ルイズは好奇心を押さえられないようで、現場へ行くと言い出した。そして、主人と使い魔は現場である宝物庫へ向かうのであった。
(おたからなんてモンスターからブン取ればいいのに)
ルイズはフリオニールを「町人から隈なく情報収集するマメな男」と評価しているが、
実際はかなりの面倒くさがり屋であった。
フリオニールの義妹であるマリアは几帳面な性格で、洞窟に入った際は目ぼしいものが
隠されていないか隈なく探索する主義だった。
しかし、フリオニールは経験から洞窟探索より地上でモンスター(帝国軍)退治する方が
おたからもかなり入手できる上、時間短縮ができて良いと考える為、マリアとしばしば
意見が対立した(その為、『こだいのつるぎ』や『ねむりのけん』といった強力アイテムを
見逃したせっかちなフリオニール)。
フリオニールは渋々ルイズについていくと、宝物庫の壁は派手に壊されていた。
宝物庫のある塔の入り口にはオスマン院長を中心に教師や生徒達が集まっている。
「ああ、なんということじゃ。よりによって『破壊の杖』を持ち出すとは」
オスマン院長の顔は青ざめている。
「オールド・オスマン。このような破壊活動を行えるものが何故、『破壊の杖』を盗んだ
のでしょうか?『破壊の杖』とは一体・・・」
コルベールは腑に落ちない表情でオスマン院長に尋ねた。
「うむむ・・・恐らくは転売目的じゃろう。しかし、それだけは何としても食い止めなければならん!」
オスマン院長は珍しく感情を露わにしていた。
そのすぐ傍では当直であったシェヴルーズが泣きながら謝罪している。
「そういえば、ミス・ロングビルが見当たりませんが」
コルベールはこの集団の中にロングビルがいないことに気付きさり気なく呟いた。
すると、見計らったようにロングビルがやってきて、
「第一発見者である私が「土くれのフーケ」に関する調査を進めておりました」
「おお、さすがミス・ロングビルじゃ。道理で朝から見かけなんだ」
「それで、何かわかったことはありましたか!?」
「はい。近隣の農村へ赴き聞き込みを行ったところ、近くの森の廃屋にフード付ローブを
まとった怪しい人物が細長い筒を持って入って行った、という情報を入手しました」
淡々とした表情で事務的に報告した。
オスマン院長とコルベールは手がかりを入手できてひとまずほっ、とする。
「うむ。調べてみる価値はありそうじゃのぅ」
「では、早速王室に報告を」
「オホン!コルベール君よ。その間にフーケに逃げられたら元も子もないぞい。それに、
これは紛れも無く我がトリステイン魔法学院の失態!これはわしらで解決するのじゃ!
よし!それでは、捜索隊を編成する。我こそはと思うものは杖を掲げよ!」
オスマン院長は「破壊の杖奪還」を宣言したが、それに呼応する教師や生徒はいない。
院長はため息も出ないとばかりに苦い顔をすると、
「情けないのぅ。「土くれのフーケ」を捕まえて名を上げようという心意気のある貴族は
ここにはおらんのか!」
集団に叱責の言葉を浴びせた。すると、
「わたしが行きます!」
ルイズが杖を掲げて捜索隊入隊の意思を示した。オスマン院長はにっこりと微笑み、
「おお、ミス・ヴァリエール!」
勇気ある少女の名を呼んだ。しかし、
「生徒の出る幕ではない!」
『疾風』のギトーと呼ばれる評判の芳しくない教師がけん制する。ルイズは臆することなく、
「でも、先生達はひとりも杖を掲げなかったじゃないですか!」
ギトーに反論した。痛いところを指摘され、うぬぬ、と唸るギトー。
ルイズとギトーの応酬を見ていたキュルケもルイズに負けじと杖を掲げる。
「ヴァリエールが行くなら私も行きます!」
最後にタバサもフリオニールを一瞥すると杖を掲げた。
「彼の魔法を見るチャンス」
すると、教師達は一斉にオスマン院長に反対声明を出した。生徒だけでは危ないと。
しかし、院長は
「では、諸君に聞くが、何故先程杖を掲げなかったのかね? ただ反対するだけの諸君に
彼女達を阻む権利はない!代わりに行くというなら話は別じゃが?」
口先だけ達者で臆病な部下達を叱り飛ばした。
それまで黙って事の成り行きを見ていたフリオニールは、院長のその言葉を聞くと突然、拍手をし
「さすが院長ですね。うちの参謀に院長の爪の垢を煎じて飲ませてやりたいくらいです」
「おお、君は確かフニオチール君」
「フリオニールです」
「そうじゃった。そうか、ミス・ヴァリエールには頼もしい使い魔がおるな」
「俺、盗賊とか海賊には縁があるんで何とか話つけてきますよ」
『破壊の杖』奪還をオスマン院長に約束した。さらに、院長は教師達を説き伏せる。
「それに、ミス・タバサは『シュバリエ』の称号を持つ騎士じゃ」
その一言に周囲は騒然となった。当のタバサは他人事のように無表情だ。
(何か知らないけど、あの子凄いんだなぁ)
とひとしきり感心するフリオニール。説得はさらに続き、
「ミス・ツェルプストーはゲルマニアの名家出身で、彼女自身もかなりのメイジじゃ」
(キュルケ、留学生だったんだ。そうか、スキンシップが多いのは寂しさを紛らわす為
だったのか)
フリオニールはひとり異国で勉学に励むキュルケにシンパシーを感じた。
なぜなら、彼は孤児だったからだ。
義理の両親には我が子同然に育ててもらったが、少年の時、自分はこの家の子ではない、
という卑屈な感情が沸き起こる時期があった。
その時はそれを押し殺すかのように義理の両親に甘えた。二人はそれに応えてくれた。
義兄(同年生まれであるが生まれ月はフリオニールより早い)と義妹も許してくれた。
この平和で優しい家庭の温もりに抱かれる中でフリオニールはいつか必ず恩返しをしよう、
その為に真っ直ぐに生きようと決心したのだが、その温もりをある日突然、帝国軍に奪われる
ことになった。
フリオニールの回想を傍目にオスマン院長の説得は佳境に入った。
「最後にミス・ヴァリエール。彼女はトリステイン屈指の名門の子女であり、え~っと、
その、なんじゃ?あれじゃな・・・」
院長はルイズの長所を述べようとするが思いつかない。無理もない。彼女の二つ名は
『ゼロ』なのだから。
戸惑うオスマン院長にすかさずフリオニールがフォローを入れる。
「大爆発を起こせます!」
フォローになっていないフォローに失笑する一同。しかし、オスマン院長は間髪入れず、
「それに、一番に名乗り出たのは他でもないミス・ヴァリエールじゃ。ここにいる中で
一番の勇者じゃ」
ルイズを称えた。押し黙る一同。その沈黙を是、と受け取ったオスマン院長は居住まいを正し、
「魔法学院は、諸君らの努力と貴族の義務に期待する」
「杖にかけて!」
ルイズ、キュルケ、タバサは同時に唱和し、オスマン院長に一礼した。フリオニールは
杖を持っていないのでとりあえず右腕を上げた。
オスマン院長は4人を優しい眼差しで当分に見やると、
「ふむ。では馬車を用意しよう。目的地に着くまで魔力は温存しておいたほうがよいからの。
では、ミス・ロングビル、案内役を頼んだぞい」
「かしこまりました」
ロングビルに案内役を依頼した。情報の詳細を知っているものはロングビル只一人。
ロングビルは事務的に応対したつもりであったが、表情にわずかなかげりが出ていたのを
フリオニールは偶然見てしまった。
(よりによってあの男が一緒とは・・・)
(ロングビルさん、顔色悪いなぁ・・・それに、なんとなく目元が誰かに似てるような)
こうして、ルイズ達はロングビルの先導でフーケの隠れ家へ向かうのであった。
目的地へ向かう道中、ロングビル自身が手綱を取って馬車をリードしていた。オスマン院長の
秘書なので当然貴族だと思われるのだが、使用人を伴うことはなく馬車メンバーは少女3人、
フリオニール、そしてロングビルの計5人であった。
そのことを不思議がり暇つぶしとばかりにロングビルの身の上を聞き出そうとするキュルケ。
ルイズはキュルケの詮索好きを咎めるのだが、例によって口げんかが始まる。タバサは
我関せずで読書に勤しんでいる。
そして、ピクニックも楽しいな、呑気なことを思い口笛を吹くフリオニールと日常の光景と
さして変わらない馬車の中はとても盗賊退治に向かうものとは思えなかった。
馬車は森へ到着し中へと入っていく。背の高い木々がうっそうと覆い茂っている為、
太陽の光は遮られ森の中は薄暗い。途中、ロングビルは馬車を止め、中のメンバーに
「ここから先は歩きましょう。フーケに感づかれては困りますので」
と提案した。承諾し馬車から降りるルイズ達。
「暗くて怖いわ。ダーリン私を守って!」
キュルケは早速フリオニールの右腕に抱きついた。うっかり鼻の下を伸ばしデレるフリオニール。
「人の使い魔に馴れ馴れしく触れないでいただけるかしら?」
ルイズは鋭い眼光でキュルケを睨んだ。
「あら、ごめんなさい。でも、彼も満更でもない様子よ?」
キュルケは平然と言い返す。すると、ルイズは弛緩した表情の使い魔に向け
「あんたが守らなければいけないのはこのわたしでしょ!」
一喝すると、キュルケの腕を無理やり解いた。
そんなこんなで廃屋のあるところまでやってきたルイズ一行。
「私の仕入れた情報ですと、あの中に怪しい人物がいるということです」
ロングビルは廃屋を指差し緊張した面持ちで説明した。
それを聞いた一行はどうしたものか、とそれぞれ思案をめぐらせる。すると、タバサが
杖で地面に作戦を書いて提案した(フローチャート式)。
偵察兼おとりが廃屋へ行き中を調べる→フーケがいれば挑発し外へ誘き出す→外へ出てきた
ところを魔法の集中攻撃でフーケを退治し捕獲する、というものだった。
賛成するルイズとキュルケ。字が読めないフリオニールは困惑したがルイズから説明を
受けると、「では俺が」と忍び足で廃屋へ向かって行く。
ちなみに、ロングビルは緊急事態に備えて馬車で待機することになった。
ドアを静かに開けて廃屋の中に入るフリオニール。
「おじゃましまーす」
小声で挨拶するが返事が無い。ただのしかばねもない。あるのはテーブルと椅子、暖炉と薪、
その横にチェストが置かれているだけだった。部屋は一室のみ。
(誰もいないみたいだな。どれどれ、おたからはっと)
ポールもびっくりの手際のよさで室内を物色するフリオニール。すると、チェストの中に
筒が納められているのを発見した。
(これだな。どれ)
フリオニールは筒を取り出してふたを外すが中は空だった。ちっ、と舌打ちをすると、
突然、外から悲鳴が聞こえた。紛れも無い「ご主人様」の声だ。
フリオニールは筒をほっぽり投げて駆け足で外へ出た。
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