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機械仕掛けの使い魔 第5話
「じゃあ、まずは自己紹介ね。私はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。
キュルケでいいわ」
ベッドに腰掛け、足を組んでいるキュルケ。スタイルも相まって、非常に様になっている。
「で、そこにいるのが私の使い魔、サラマンダーの『フレイム』よ」
「きゅるきゅるっ」
紹介されたフレイムは、ロープにかけて干してある制服の下にいる。尻尾に灯っている炎で、制服を乾かしている。
なかなかに器用だった。
「彼女はタバサ。ちょっと無口だけど、悪い子じゃないの。さっきの件は、私が代わりに謝罪するわ」
そう言って、優雅に頭を下げる。当のタバサと言えば、テーブルを挟んでルイズと向い合いに座り、
カタカタと震えながら俯いて、何やらブツブツと呟いていた。耳を澄ましてみると、
「…射程は解った…今度はその外から…ウィンディ・アイシクルで串刺しに…」
と、物騒極まりない内容である。耳を澄ましたルイズは、タバサに対して震えるのであった。
「洗濯に使ったのは、雨の日に使う部屋干し用の石鹸なので、室内で干しても問題ありませんよ、ミス・ヴァリエール」
シエスタはルイズの傍らに立ち、ニコニコとしていた。貴族たちの会話に参加させてもらっているのが嬉しいのか、
はたまたクロの秘密を聞けるのが嬉しいのか、知るのは本人のみである。
一通りの人間組の紹介が済んだところで、寝そべっていたクロが立ち上がった。
「オイラはクロ。…先に言っとくけど、化け猫なんかじゃねーぞ」
「サイボーグ、だってさ。やる事なす事化け物じみてるけど、妖怪とかじゃないみたいよ」
「「「さいぼぉぐ?」」」
事情を知らないキュルケ、タバサ、シエスタの声が重なる。ご丁寧に頭上には、”?”マークが浮かんでいる。
「見せた方が早いんじゃないの?」「だな」
ここからは、概ねルイズの場合とほぼ同様の展開だった。頭部のぬいぐるみを脱いだ時点で3人とも目を伏せ、
ぬいぐるみを投げ渡されたキュルケのリアクションで、ようやくクロのメタルボディを直視する。…もう、ずっと脱いでた方がいいんじゃなかろうか、とも思えた。
「そう言えばクロ、さっき聞きそびれた事があったのよ」
頬杖を突きながら、ルイズが尋ねる。
「そのゴーって人、何でアンタをサイボーグにしたの?」
「世界征服、だってよ。今じゃすっかり諦めたみてーだけどな」
「「「「世界征服…?」」」」
見事にハモった。驚く者もいれば、呆れる者もいる。要するに三者三様、いや四者四様の受け取り方であった。
「世界征服って…いくら機械の身体って言っても、たった1匹で?」
「いや、オイラの他にも100匹くらいいたぜ。その日の内にほとんど潰しちまったけど」
クロは思案する。あの日叩きのめしたネコ型サイボーグは、一体何匹いたのだろうか。最初の乱闘の時点で、恐らく50匹前後はいたはずだが…。
やめた、数えんのメンドくせぇ。
「あぁ、それでさっき、100匹いるっておっしゃったんですか」
シエスタの疑問が1つ解けた。しかし、やや残念そうなのは、生身の猫が喋る、というワケではなかったからだろうか。
いや、2匹ほどいるにはいるが。
「にしても、アンタ1匹に潰されるって…どんだけ弱いのよ、そのサイボーグたちって…」
「いや、弱くはねーぞ」
「何それ、自慢かしら? 案外かわいいとこあるのねぇ」
妖艶な笑みを浮かべるキュルケ。コイツは本当にルイズと同じ学年なのか…。クロには、とてもそうは思えなかった。
逆にタバサについては、妙に納得出来るものがあったのだが。
「想像してみな? 馬なんかより遥かに足の速ぇ猫が、鋼鉄だって切り裂く長ぇ爪振り回して追っかけてくる。
おまけに水の中でも自由に動けるし、中には空を飛べるヤツもいる」
4人は、クロの言う通りの光景を頭に思い浮かべてみた。そして間を置かず、顔を引き攣らせる。
爪を振り回す、の時点でやや限界を迎えたらしい。タバサに至っては、怨嗟の声をあげる化け猫で想像してしまったようで、誰が見ても分かるレベルで顔を青ざめさせていた。
まだ化け猫を引きずっているようだ。
「ま、そんだけじゃねーんだけどな。他にも幾つか武器使えるんだが、オイラも使える武器だし、その内見せてやるよ…その内、な」
最後に見せたのは、悪役と言っても過言ではない、素晴らしく邪悪な笑顔だった。
一通りの説明――相変わらずかなりの部分を端折ってはいたが――を終えたクロは、「メンドくせーから、後は適当に」とそっぽを向き、自分の身体をいじり始めた。
ドライバーなどの工具がないため、本格的なメンテナンスは不可能であったが、手でやれる部分などはやらないに越した事はない。
その間、ルイズたちはクロについて、あーだこーだと議論を展開していた。
「義手義足ってレベルじゃないわよ、あの猫ちゃん。新種のゴーレムか何か?」
「全身が機械なんですよね…?」
「触ったけど、硬いし冷たいしで、間違いなく、生き物じゃないわね」
「機械の…化け猫…」「化け猫はもういいってば、タバサ」
化け猫ネタを引っ張るタバサを窘るキュルケ。その傍らで、シエスタはクロを眺めていた。
性格は猫そのものだ。説明を始めたかと思えばあまりにも抽象的で、気まぐれに過ぎる。
だけど、シエスタにとっては些細な事だった紅茶の件。そこから解るのは、これまた猫のような義理堅さ。
シエスタの中で、クロへの興味が、枯れることのない泉のように湧き出るのだった。
「そう言えばヴァリエール、さっきのあの音は何だったの?」「音?」
キュルケから投げかけられた質問に、ルイズは記憶を探った。そして、ある一つの出来事に思い至る。
「あぁ…。クロがそのベッド持ち上げた時ね」
「その…ベッド?」「アンタが座ってる、そのベッドよ」
ルイズの指先が示すのは、キュルケが腰掛けている、ダブルベッドだった。
改めて、ルイズのベッドを見てみよう。外見はそこそこ質素だが、天蓋付きで、作りもしっかりとした物である。
彼女一人が寝るには、あまりにも大き過ぎる。重量は、100kgは下らないだろう。
「ちょっと待ってヴァリエール…あの子、コレを持ち上げたの?」
「しかも片手で軽々とね。アンタ…いや、私たち全員が乗ってても、余裕なんじゃない?」
「み、ミス・ヴァリエール…、私たち全員が乗ると、多分300kg前後になるんじゃないかと…」
「クロ、いける?」「さーな」
とぼけてみせたクロだが、実はやれるという確信があったりする。
以前、ミーくんと共に巻き込まれた、ロミオ主催の鬼ごっこ(敗北時は桜町消滅)において、クロは改造車『鈴木GM2』を持ち上げ、大遠投をやってのけたのだ。
しかもこの改造車、大量の武装やブースター(ウルトラミノフスキーマッハエンジン)を搭載しており、恐らくその重量は、軽く1tを超えていたはずだ。
「ま、やってみるわ。さー、乗った乗った」
ちょいちょい、と手を動かして促すクロ。それにしたがって、キュルケを除く3人はベッドに乗った。なぜか、正座である。
ベッドの上で落ち着かない4人。持ち上がるかどうか疑ってはいるが、仮に持ち上がったとしたら…? と言うか、持ち上がったとしたら、本気で怖い。
「そーら、よっと」
「あー…」「ひっ!?」「…!?」「きゃっ!?」
嫌な方向に事実が提示された。クロは、持ち上げてしまったのだ。先程のように、軽々と、女性4人を乗せた天蓋付きダブルベッドを、片手で。
しかも持ち上げている位置がベッドの縁である辺り、重心が作用点からズレていても、何ら問題はないようだ。
ルイズは脱力し、呆けた顔で天蓋を見上げていた。残りの3人は、姿勢を崩し、慌ててベッドシーツにひっ掴まった。クロは、相変わらず涼しげな顔だ。
と言うか、手持ち無沙汰な左手で鼻をほじっている。本格的に余裕らしい。
「降ろしていいわよー…」「あいよー」
気の抜けたやりとりの直後に響くは、寮塔を揺るがす轟音。衝撃は寮塔を震わせるに留まらず、ベッド上の4人を1メイルほど打ち上げた。
マットレスに着地した4人は、何かこう、全てがどうでも良くなってしまっていた。
互いに視線を交わし、その思いが共通のものであることを悟った彼女たちは、そのままベッドに身体を投げ出した。
「ヴァリエール、悪いけど今日はここで寝かせて…」
「気持ちは解るわ、ツェルプストー…今日は特別よ…」
「私も…ここがいい…」
「ミス・ヴァリエール…ごめんなさい…」
間を置かず、寝息の4重奏が始まった。ダブルベッドとは言え、4人で寝るには狭いだろう。
しかし、それすらも気にならない程の倦怠感と疲労が、彼女たちを襲っていたのだった。
「ったく、またかよ…」
呆れ返りながら、クロは窓から夜空を見上げた。
「月が2つ、ねぇ…」
桜町…いや、地球上では絶対にありえない光景だった。だが、クロにとっては驚く事でもない。
偽りの砂漠の大地、偽りの空、偽りの太陽と月。それらに比べて、この月のなんと幻想的な事か。
柄にもなく、クロは月を見上げ、心打たれていたのであった。
「新世界、か…」
タブーが打ち破った偽りの空の向こうに広がっていた、光溢るる新世界。
あの世界を思い出した時、決まってクロの記憶から蘇るのは、タブーを守る1体の戦闘ロボットだった。
サイボーグの体になってから、初めて『本当の名前』を打ち明けた相手。
仮に。仮にアイツが、人々と共に新世界に辿り着いたとしたら…アイツは、死に場所を探すのを諦めただろうか。
…別の道を歩んだだろうか。
「お前は新世界を見たくなかったのか…? なぁ、『バイス』…」
ランプとフレイムの尻尾の炎が揺らめく室内で双月を見つめ、クロは誰に言うでもない…届くわけもない呟きを漏らした。
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