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機械仕掛けの使い魔 第3話
場所を移し、ここは学生寮内にある、ルイズの自室。学生寮と言うには豪奢に過ぎる室内のテーブルを挟み、ルイズとクロはイスに座っていた。
テーブルの上では、黒髪にそばかす、豊満な胸(ここでルイズが敵対心の篭った目でその部位を睨みつけていた)のメイドに淹れてもらった紅茶が、芳しい香りを漂わせている。
ちなみにクロは、広場からルイズの部屋に到着するまでの間、普通の猫同様、4本足で歩いていた。
さすがに猫が2本足で歩く事の奇怪さは、クロ自身もよく理解していたからである。
「まずはあなたの聞きたいことを聞くわ。何が知りたいの?」
足を組み、優雅な仕草で紅茶を含むルイズ。
「おう。オイラはまず、どの魔法使いと”ツカイマ”をブチのめせばいいんだ?」「ブッ!?」
優雅とは言えない表情で、含んだ紅茶を吹き出すルイズ。着弾点はもちろん、正面に座るクロの顔面。
実はこのクロ、この世界の全てに関して納得していたようだが、最も根本的な部分を一切理解していなかったのである。
いや、正確に言えば、完全に間違った意味で、使い魔という立場を解釈していたのであった。
「あ、アンタ…、もしかして、使い魔が何かも解らずに契約に応じたの…?」
「人の一張羅汚すんじゃねーよ!」
「一張羅って、アンタ服なんか着てないでしょ! 何を汚せってのよ!」
「一枚着てるんだよ、そう見えねーだろうけど!」
手近にあった布で顔を拭くクロ。ちなみにこの布、ルイズのお気に入りのハンカチーフだったりする。
「…一張羅の件は後回しでいいわ。とりあえず、アンタの思ってる使い魔について、教えてくれる?」
「いや、アレだろ? 『メダ○ット』とか『ロ○ットポン○ッツ』みてーに、”ツカイマ”同士を戦わせて、
残ったツカイマが、主と一緒に相手の魔法使いを半殺しにすんだろ?」
「どうしてそうなるのよ! 『メダ○ット』だの『ロ○ットポン○ッツ』だの言われても、意味分かんないし!」
「どいつもこいつも化物じゃねーか! 戦わせる以外に何するってんだよ!」
そう、クロは使い魔召喚の儀式の際、意外にも周囲の状況を観察していた。
そして、ルイズのクラスメイトたちが連れている人外の使い魔たちを見て、『ツカイマ=主と共に戦う生物』と解釈した、というワケだ。
いや、実際には完全に間違っているわけでもない。だが、使い魔の仕事を戦闘のみと解釈する辺り、さすがは『破壊のプリンス』といったところか。
「いい? 使い魔ってのはね…」
ルイズの使い魔講義が始まる。
1.主の目となり耳となる事
2.主の錬成する秘薬の材料を集める事
3.主の身をあらゆる驚異から保護する事
「…するってーと、何か? 魔法使い――いや、この世界ではメイジか。
そのメイジと使い魔のコンビで戦い合って、最強を決めるだけじゃねぇってのか?」
「決まってるじゃない! 使い魔の仕事は戦うだけじゃないのよ!」
「あー…、何かやる気なくなってきた…」
自身の解釈がほんの少ししか合っていない事を知らされたクロは、途端に机に突っ伏した。
「せっかくメイジ連中相手に大暴れできると思ったのによぉ…」
「アンタ、どんだけ物騒なのよ…。とにかく起きて、今度は私の質問よ!」
顔を伏せたまま、右前足――いや、右手と言って良いだろう――を左右に振るクロ。
それを肯定と受け取ったルイズは、当初の予定を変え、先程の疑問を口にした。
「一張羅って何なのよ? アンタ何も着てないじゃないの」
クロの耳が小さく、ピクンと跳ねた。ゆっくりと、頭をもたげる。
「そういや、まだ説明してねーんだったな」
クロは機敏な動作で机の上に立ち、ルイズを見下ろした。
「なぁルイズ、オメーにはオイラ、どう見える?」
「どうって…、そりゃ、どこにでもいる普通の黒猫に見えるわよ。
言葉を喋るって点ではこれ以上なく異常だけど」
「ごもっとも。んじゃ、オイラの主になった事だし、正体を見せてやるぜ」
「正体…?」
疑問を投げかけるルイズをよそに、クロは両手を首筋にかけ、まるで覆面帽を脱ぐかのように、自身の皮を――剥いだ。
「きゃあああぁぁぁぁぁっ!?」
目の前で起きる凄惨な自虐行動に、思わずルイズは絶叫しつつ顔を背け、両手で顔を覆った。
「よっ、ほっ、と…」
クロの声はまだ続いている。すなわち、クロは頭の皮だけでなく、他の部分の皮も剥いでいるのだろう。
他ならぬ、自身の手で。ルイズはもはや、叫ぶ事すら出来ない。
「よし、っと。ってルイズ。何、顔背けてんだ?」
「い、嫌…。がっかりしたからって自分の皮を剥いじゃうなんて…」
ルイズは全身を震わせ、いつの間にか椅子から転げ落ちている。
それでも顔はクロの方を向いておらず、その顔もしっかりと両手で覆われていた。
「皮ぁ? あぁ、コイツか」
呆れたように、ルイズの頭に皮を放り投げるクロ。
「いやあぁぁぁっ! …って、へ?」
頭に乗っかった感触に再び絶叫するルイズであったが、その感触に叫びはすぐになりを潜め、代わりに気の抜けたような声が漏れる。
「これは…”ぬいぐるみ”?」
ルイズは顔を覆っていた両の手で、皮だと思っていた物――”ぬいぐるみ”を掴んだ。しかし、このぬいぐるみは変だ。
本来入っているはずの綿が、綿毛1つ残らず抜き取られている。しかも、よく見るとこのぬいぐるみ、クロにそっくりである。
「これが、オイラの正体だ」
緩慢な動作で机の上に視線を向けるルイズ。
その視線の先には、二本足で机上に立つ、銀色の体の猫が、いた。
「クロ…その体は…?」
「オイラは生身の猫じゃねぇ。…サイボーグだ」
+ + + + + +
「――つまり、アンタは体のほとんどが、機械仕掛けになってるって事?」
「元々はそこらの猫と同じ、生身の体だったんだよ」
「んで、その『ゴー』って人が、アンタの身体を勝手に機械に作り替えた、と…」
「そーいうこった。…んで、いつまでオイラの体触ってんだ?」
クロからの回答は、まずサイボーグについての説明から始まった。
生物を一部もしくは限りなく100%に近いレベルまで機械化し、その生物の有する能力の向上や、失われた能力の復元、
さらには本来持ち得ない能力までも付加することをも可能とする。広義においては、義手や義足もサイボーグと分類出来る。
ハルケギニアにも義手や義足は存在しているようなので、ルイズにもピンとくるところがあったようだ。
そしてルイズは、クロが面倒臭がりながらも説明している間、ずっとクロの身体を触っていた。
時にはペタペタと触れ、時にはノックをするようにコンコンと叩き、時にはサワサワと撫で、時には指先でツンツンとつついて。
「なーるほど…。コントラクト・サーヴァントの時の感触も、これで納得出来たわ」
「感触ぅ?」
「だってアンタの唇、猫なのにめちゃめちゃ硬いし、冷たかったんだもん」
「当たりめーだろ、メタルボディなんだからよ」
「めたるぼでぃ…?」「金属の身体、な」
ようやくクロの身体から手を離したルイズは、一歩下がって彼を見つめてみた。
頬や胴体の下辺りに、金属同士の継ぎ目のようなものがある。
耳の中には玉のようなものが入っている。
腕や足には、数多くの節目のようなものがある。
そして極めつけに、銀色の身体全体が、金属独特の光沢を放っている。
「うん、金属の身体ってのは解ったわ。でも、アンタはその身体で、どんな事が出来るの?」
「どんな事?」
「例えば、火を噴いたり、空を飛んだり…」
ルイズの中でクロは、”義手や義足の凄いバージョン”程度の認識しかなかった。
もっとも、クロ自身が面倒臭さのあまり、本来のサイボーグについての大部分を端折ってしまっていた為、それも無理のない話ではあるが。
「そうだなぁ…。ん、アレでいいか」
クロは室内に視線を走らせ、ある物に目を止めた。机から飛び降り、ソレに歩いていく。
「アレって…私のベッド?」「おぅ、まー見てな」
クロが目をつけた物――ルイズ愛用のベッドの脇に到着した。小柄な体型の彼女に似合わず、そのベッドはずいぶんと大きかった。
ダブルベッドと言ってもいいだろう。
腰を屈め、ベッド下の隙間に右手を挿し入れる。そして――
「よっ、と」
あろう事か そのベッドを 右手一本で 頭の上まで――持ち上げてしまったのだ。
「………………………………………………………は?」
先程からありえないものばかり目にしていたルイズだが、ここでとうとう、限界を迎えてしまった。
身長1メイルにも満たない、どこにでもいそうな猫が、喋り、2本足で立ち、文字通り腹を割り、自分の皮を剥いだかと思ったら、
実は機械仕掛けの身体で、それだけに留まらず、ダブルサイズのベッドを片手で軽々と持ち上げた。
羅列すると、完全に常軌を逸している。口に出せば、精神異常者認定されるだろう。だがルイズは、それらを全て、自分の目で、見てしまったのだ。
その場に力なく座り込み、頭を垂れるルイズ。
「…も、解ったわ。解ったから…ベッド降ろしてくれない?」
「んぁ? もういいのか?」
ドォン! と、床が抜けるのではないかという音を立て、地震もかくやという振動と共に床に落着するベッド。
ルイズは相変わらず顔を伏せたまま、ノロノロと立ち上がり、ベッドへ向かいながら、着ているマントや制服を脱ぎ、下着姿となった。
「おい、どうしたんだ?」
先程までとは正反対のルイズのテンションに、クロは問いかける。だがそれに明確な返事を返さぬまま、ルイズはベッドに倒れこんだ。
「どうしたってんだよ、ったく…」
仕方なく、脱ぎ捨てられた衣服を回収するクロだが、さて、この服はどうすべきなのだろう?
とりあえず、近くに置いてあった籠に突っ込むが、これで合っているのかは解らない。
衣服を籠に突っ込んで首を捻った辺りで、ようやくルイズから返事があった。
「召喚と契約の疲れが、今ので一気に来たみたい…。悪いけど、今日の続きは明日にするわ…。
それと、その服は明日までに洗濯しておいてー…」
「洗濯だぁ? おい何だそれ!」
雑用としか思えない要求にクロが食いかかるが、既にルイズは夢の中だった。小さく、規則正しい寝息が聞こえる。
「初の仕事が洗濯かよ…」
夕日が差し込む室内。クロは理想と現実の格差に、落胆を隠せなかった。
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