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#navi(機械仕掛けの使い魔)
機械仕掛けの使い魔 第2話
コルベールは、黒猫の顔に張り付いた笑みに戦慄を憶えた。
猫の表情など、彼には解らない。だがそれは、普通の猫の話だ。喜怒哀楽、コルベールはどのような感情でさえ、猫の表情から読み取ることは出来ない。
しかし、目の前の黒猫の笑みからは、ハッキリとその意図するところを感じ取れた。
(これは…狂戦士の目だ)
破壊、蹂躙することに悦びを得る、狂った戦士が持つ笑みだ。
もしかすると、ミス・ヴァリエールは、最悪のカードを引き当ててしまったのではないか。
5回目の爆発…いや、1回目の爆発の時に、彼女のサモン・サーヴァントを延期した方が良かったのではないか。
この後に控えるコントラクト・サーヴァントを、執り行わせて良いのか。
そして、例外など関係ない、今回の一件を例外としても良いのではないだろうか…。
いくつもの疑問…いや、もはや葛藤とも言うべき物が、コルベールの頭の中をグルグルと回り続ける。
だが、コルベールが頭を悩ませている間にも、時間と、その場の展開は進んでいく。
正直なところ、ルイズにも懸念事項はあった。
確かにこの黒猫、人語を解することが出来る。だがもしかすると、それだけではないのか。
ただ喋るだけの猫が、使い魔として役に立つのか。先程のブリミルへの感謝も忘れたかのような考えであったが、ルイズはすぐに頭を振る。
この猫、よく見れば喋るだけではない。これまた有り得ない事に、2本足で、危なげ無く立っているのだ。
そして先程怒声を張り上げた直後、この黒猫が何をしたか、今でもハッキリ覚えている。
腹が割れて、中から円筒状の何かを取り出したのだ。
そんな芸当が出来る生物は、人間を含めた一般的な生物から、それこそ高位のメイジが従えているような高等幻獣であっても、聞いた事がない。
あの円筒が何なのかはまるで見当がつかないが、改めて、目の前の黒猫の稀少性を実感する。
ルイズは確信した。期待を裏切られるような事にはなり得ない、と。
黒猫もまた、一抹の不安を抱えていた。
『砂漠の世界』では、元の世界に戻るまでに転送装置の完成を待たねばならず、完成も決して短期間に済んだものではなかった。
剛の姿が見えない以上、今回の異世界への転送、或いは以前よりも、戻るまでに時間がかかるかもしれない。
その間、彼が守っていたフジ井家のジーサンバーサンはどうなるか…。
しかし、この不安も、すぐに霧散する。剛どころか、あの場にいたメンバーは、誰一人この場にいない。
『砂漠の世界』同様、全員がバラバラの場所に飛ばされた可能性も考えたが、今回は事情が違う。
あくまでも黒猫は、ルイズに『召喚された』のだ。となれば、この世界に飛ばされたのは、黒猫1匹。元の世界には、黒猫を除いた全員が残っているはずである。
そして残ったメンバー、特にミーくんは、黒猫に勝るとも劣らないスペックと戦闘能力を有している。
昔こそ命を削り合った敵同士だったが、今では背中を任せられる戦友、と言っても過言ではない。
黒猫もルイズ同様、確信した。フジ井家の守りは、未だ鉄壁を誇るレベルを維持しているはずだ、と。
ルイズにとっては、『初の成功』と『レアどころの話ではなさそうな使い魔』。黒猫にとっては『新たな大暴れの場』。
どちらにとっても、悪い話ではない。それどころか、願ったり叶ったり、といった具合だ。
もはや現時点に於いて、互いの持つ不安は、何一つ無いのであった。
「そこの黒猫!」「おい、嬢ちゃん!」
2人の声が重なる。双方の目に、躊躇いはない。ルイズは目の前の黒猫を、黒猫はこの世界を、受け入れようとしていた。
「あなたを、私にふさわしい使い魔として認めてあげるわ!」
「その”ツカイマ”ってヤツの話、乗ってやるぜ!」
威勢の良い声と共に、視線を交わした。不敵な態度が、どちらも堂に入っている。
事ここまで進み、一番憔悴していたのはコルベールであった。
直接の教え子であり、トリステイン屈指の名門ヴァリエール家の三女と、狂戦士が互いを認め、契約を進めんとしている。
ルイズ自身のため、そして長期的な目で見ればトリステインの為にも、この契約は阻止すべきだろう。
だが、現実は非情だった。またしてもコルベールが苦悩に苛まれている間に、ルイズと黒猫は、コントラクト・サーヴァントに移る。
「そう言えば自己紹介がまだだったわね。私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。あなたは?」
「長ったらしい名前だなぁ…。まぁいいや。」
頭をポリポリと掻き、ルイズの名前のあまりの長さに呆れながらも、黒猫は彼女に、名乗った。
「オイラ、クロってんだ。よろしくな、ルイズ」
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
「ちょっ…! ミス・ヴァリエール!?」
ここまで進んだ展開にようやく気づいたコルベールが、慌ててルイズとクロの間に割って入ろうとする。しかし、時既に遅し。
ルイズは静かに呪文を紡ぎ、クロと唇を重ねた。それを、青ざめた顔で呆然と見るしかないコルベール。
予想しうる最悪の事態がコルベールの脳をグルグルと駆け巡り、彼を苛む。残り少ない毛根絶滅の危機、と言ってもよいだろう。
唇が重なった瞬間、ルイズはふとある事に気づいた。
(クロの唇…なんだか硬い。それに物凄く冷たい…)
口づけは1秒にも満たなかった。それ故、気のせいかもしれない。だが気のせいにするには無理があるほどに、その感触は違和感にまみれたものであった。
だが、今はそれどころではない。サモン・サーヴァントは成功した。しかしだからと言って、コントラクト・サーヴァントが成功するとは限らないのだ。
刹那の口づけの後、ルイズはクロの様子を伺った。
「人間とキスする事になるたぁね…いやはや」
やれやれ、とばかりに溜息をつくクロ。今のところ変わった様子はない。だが直後、彼の体を異変が襲った。
「ぐっ…!? ぐあァァァァァァッ!?」
クロの体、特に左手――左前足の甲に、耐え難いほどの熱が走った。草の生い茂る地面に蹲り、熱を紛らわせるかのようにあらん限りの声を振り絞って絶叫する。
「大丈夫、コントラクト・サーヴァントによって、ルーンが刻まれているだけ。すぐに収まるわ」
尋常ではない苦しみ様に、ルイズはクロの左前足を両手で包み、ゆっくりと言い聞かせた。
間を置かず、クロの容態が安定する。包み込んだ両手を開くと、そこには見た事のないルーンが刻まれていた。
「はぁ、はぁ… 全く…、こういう事は先に言っとけよ…」
息を荒らげながらも、クロはようやく立ち上がった。そして、まじまじと自分の左前足の甲に刻まれたルーンを見つめる。
「これでオイラも、”ツカイマ”の仲間入り、ってワケだな」
主と使い魔の絆を示すルーン。それがクロには『大暴れ許可証』のように見え、人知れずほくそ笑んだ。
この事態にただ一人、絶望さえ抱く者が一人。コルベールである。コントラクト・サーヴァントが成されてしまった今、自分に出来る事は何か。
必死に考えを巡らせたコルベールは、1つの答えを導き出し、意を決してクロに歩み寄った。
ルーンの役割とは、契約の証を示すだけの物ではない。その使い魔がどのような存在か。元来どのような力を持ち、さらにルーンの影響下において、どのような力を発揮するか。
それらを明文化していると言える代物なのだ。
狂戦士はミス・ヴァリエールと契約してしまった。
であれば、今コルベールに出来るのは、可及的速やかにルーンを調査し、仮にクロが狂戦士としての本性を現した時に備える事のみである。
ゆっくりと進みながら、そっとルーンを確認する。ここでコルベールは、はて、と首を傾げる。
(何なのだ、あのルーンは…)
教師としてトリステイン魔法学院に赴任し、今日に到るまで、コルベールは幾度も使い魔召喚の儀式に立ち会っている。
だが、クロに刻まれたルーンは、そんな彼でも見た事のない物であった。
未知の代物とは、無条件で人々に恐怖を植え付ける。コルベールとて、同様であった。
彼は恐怖を悟られまいと必死で平静を装い、クロに話しかけた。
「ほぅ、見慣れないルーンですね。少々スケッチさせて頂いてもよろしいですかな?」
「んぁ? 別に構わねーけど?」
了承を得たコルベールは、迅速に、しかし決して写し間違える事のないよう、メモ帳とルーンに小刻みに目線を移し、スケッチに没頭した。
写し終えた後も3度確認し、正確なスケッチである事を認めると、大慌てでメモ帳をポケットに仕舞い、生徒たちに告げた。
「つ、つつつ使い魔召喚の儀式は、これをもって終了としますっ。もも申し訳ありませんが、これ以降の予定はすべて変更とし、自習とします!
みみみみなさん、召喚した使い魔との親睦を深めておいて下さいッッッ!」
普段は決して見せることのない慌てようと噛みに噛みまくった台詞を残し、コルベールは一目散に飛んで行った。
「ゼロのルイズ、お前は歩いて部屋に戻れよ!」
「2年にもなってフライどころか、レビテーションすら使えないなんて、お前くらいのもんだしな!」
嘲笑と共に、使い魔を連れたクラスメイトたちは、ごく短い呪文を唱えて宙に浮き、そのまま学生寮へ向け悠々と飛び去った。
「ふーん…。まさに、”剣と魔法のファンタジー”ってヤツだなぁ…」
これが普通の地球人であるなら、人間が生身で自由に飛ぶこの光景に、大なり小なり驚きを隠せないだろう。
しかし、クロは先程のコルベールの説明から、これがこの世界においては当たり前なんだろうと納得していた。むしろ、それくらいでなくては面白くない、と。
というよりも、クロは人生(猫生?)の転機からこっち、自分のお仲間や宇宙人、その成れの果てである地底人、さらには悪魔との戦闘も経験している。
今更この程度では驚かないのだろう。
「んで、これからどうすんだ?」
「本当なら、この後はミスタ・コルベールから使い魔との基本的な付き合い方とかの講義がある予定だったんだけど…。
まぁいいわ。言われた通り、あなたとの親睦を深めることにしましょう」
「オイラもまだまだ聞きたい事は色々あるからな。とりあえず、場所を移そうや」
「私だって沢山あるわよ。じゃあ、メイドにお茶でも淹れてもらって、私の部屋で話しましょうか。
お茶は飲める? 必要ならぬるめに淹れてもらうけど?」
「ガソリンとかの燃料は…あるワケねーよな。ま、猫舌じゃなくなったし、お前のと同じでいいぜ」
「がそりん…ねんりょう…? よく解んないけど、お茶でいいのね?」
正直に言えば、クロの『お前』呼ばわりに引っかかるものを感じた。だが今のルイズは頗る機嫌がいい。
ゆえに、あえてその点はスルーし、クロに合わせることにした。
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