「悪魔の虹-03」(2010/08/26 (木) 07:18:09) の最新版変更点
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#navi(悪魔の虹)
ルイズはヒラガサイトを仮の使い魔として扱いながらも、虹の卵の事が未だに頭から離れていなかった。
あの卵は中身が何なのか全く分からない以上、下手に手が出せないという事で学院内の宝物庫にて保管されたそうだ。
中にいるのが何なのかはルイズにとってはどうでも良かった。どうにかして許可を貰ってあの卵の中にいる幻獣を自分の正式な使い魔としたかった。
シュヴルーズ先生の錬金魔法の授業において実験で大失敗をしてしまった後、ルイズは失敗の後片付けをサイトに手伝わせながらもその事で頭がいっぱいだった。
「おい、人にばかりやらせてないでお前もやれよ」
「うるさいわね。ちゃんとやってるじゃない」
サイトが面倒臭そうにしつつもてきぱきと体を動かす中、ルイズはほとんど動いていない。
「そもそも、あんたはあたしの使い魔よ。主人のために働くのは当然じゃない」
「自分でやっておいて何だよ……」
「あんたも口より手を動かしなさい! 飯抜きにするわよ!」
と、叫んでお互いに黙り込んだまま作業を進めていく。
しばらくしてようやく後片付けを終えた二人は教室を後にしていた。
「しかしお前、〝ゼロ〟のルイズとは良いあだ名だな? さっきみたいな失敗をしょっちゅうやってるんだって?」
小馬鹿にしたように笑うサイトを、ルイズも睨み返す。
サイトは先程の授業中、何故ルイズが〝ゼロのルイズ〟と呼ばれているのかをキュルケから聞かされていた。魔法を今までまともに成功させた試しが無いために付けられたのだそうだ。
別にルイズ自身は授業を怠けたりしていた訳ではない。むしろ真剣に勉強していた。積極的な自習や予習も惜しまなかったのだ。
なのに、魔法そのものになるとどうしても成功しないのだ。
そのためルイズは学院内では今のサイトのように散々、他の生徒から馬鹿にされてばかりなのである。
「……あんた、仮とはいえ使い魔のくせによくそんな口が聞けるわね」
声と片眉を震わせながらサイトに詰め寄るルイズ。
彼女の気迫に押されたか、サイトは逃げ腰になっていたが何かに気付いたような顔をする。
「使い魔……そういえばあれは何かの卵なんだってな?」
「……そうよ。本当はあんたじゃなくてあっちがあたしの本当の使い魔だったのよ! あんたなんかとは全然、大違いの大物が入っていたに違いないわ!」
「じゃあ、最初からそっちを使い魔にすれば良かったじゃねえか」
「うるさいわね! あの時はあんただけしか召喚されていないと思ったから仕方なかったのよ!」
物凄い剣幕で叫ぶルイズだが、サイトは無視して言葉を続けている。
「間違えて俺まで召喚したって事は、やっぱりお前は〝ゼロ〟の……」
「また言ったわねぇ!」
再度、〝ゼロ〟と呼んだサイトは直後、ルイズの手でボコボコに伸されていた。
「あんたは飯抜きよ!」
と、床に倒れ伏す彼に向かって叫び、その場を後にする。
――見てなさい。いつかあの幻獣をあたしの使い魔にしてみせるんだから!
その後、ルイズは怒りで興奮したまま一直線で学院長室へと向かっていた。
思わずノックをするのも忘れて学院長室に入室すると、中には学院長オールド・オスマンの他に秘書のミス・ロングビルとミスタ・コルベールまでいた。
「どうしたのかね? ミス・ヴァリエール。ノックもせずに入ってくるとは、余程興奮しているようじゃのう。まずは落ち着きたまえ」
オスマンは寛大にも彼女を咎めはせず、冷静になるよう諭してきていた。
「その非礼は詫びます。申し訳ありません、オールド・オスマン」
肩で息をしつつ自分を落ち着かせ、深呼吸もするルイズ。
「さて。一体、どうしたのかな? 落ち着いて話してみたまえ」
「……オールド・オスマン。どうかあの幻獣を、わたしの正式な使い魔にさせてください!」
「ミス・ヴァリエール。やはり、まだ諦めていなかったのかい」
単刀直入に懇願すると、コルベールが片眉を吊り上げていた。
「昨日も言ったように君は使い魔の契約を済ませているし、二体も使い魔を持つ事は……」
「それでも……あれはわたしが召喚した使い魔の一体なんです!」
ルイズはすぐにまた興奮し、コルベールの言葉を遮る。
「あれからどんな幻獣が生まれてくるのかは分かりません。……でも、せっかく召喚をしたのにその姿を見る事すらできないなんて嫌です! そもそも、あの平民は間違って……」
「……ミス・ヴァリエール。君があの卵の幻獣の事を思うのは分かるが、あの平民の少年も君が召喚した立派な使い魔には違いないのじゃよ? 大物にばかり心を奪われてはいかんよ。
彼もきっと、君のために立派に働いてくれるはずじゃよ。彼ともっと触れ合ってお互いに色々と知ってみたまえ。それが使い魔の主人である君の大切な役目じゃよ? ミス・ヴァリエール」
冷静に諭してくるオスマンに、ルイズもとうとう沈黙してしまう。
結局、ルイズはそのまま大人しく引き下がっていた。
時と日は過ぎていく。
サイトはちょっとしたトラブルから学院内の生徒ギーシュ・ド・グラモンと決闘になり、初めは痛めつけられはしていたものの、最終的には彼を打ち倒してしまった。
平民の少年が魔法を使うメイジに勝利したという事から、サイトは学院内で有名な存在になりつつあった。
ルイズも彼が平民にせよ実力のある存在である事で少しは彼を認めるようになり、彼のために武器でも与えてやろうかとも考え、トリスタニアの町の武具屋で剣でも買ってやろうとした。
使い魔には立派な剣を持たせてやろうかと思ったのだが、如何せんルイズが持ってきたお金ではあまりに高すぎて買う事はできなかった。
結局、サイトが選んだ古ぼけた長剣――言葉を解するインテリジェンスソードを破格の安値で買う事になった。
本人は面白いという事で気に入っているようだがルイズとしては貴族のプライドで、あんなボロくて錆付いた安値の剣しか買えなかったというのが悔しかった。
……それに、時を経たずして同級生のキュルケが立派な剣(最初にサイトが選んだものだ)をルイズへの当て付けのように難なく買っしまい、て彼に与えようとしたのだ。
ルイズが剣を買いに行った時、サイトも初めはその剣を気に入っていたので、インテリジェンスソードからそちらに乗り換えようとしていてた。
当然、それを許さないルイズはキュルケの買ってきた剣を突き返し、負けじと彼女に対する嫌味を吐きかけたりしていた。
口論が続き、最終的にサイト本人が選べという事になったのだが、彼は優柔不断に「二つ一緒」などと言ってしまっため、ついにはルイズとキュルケの決闘によって決める事になってしまった。
この頃になると、ルイズは自分がサイトと一緒に召喚した幻獣の卵の事をすっかり忘れてしまっていた。
オールド・オスマンから言われたように、正式に使い魔としたサイトの触れ合いに重きを置いた結果だった。
二つの月が高く昇ってきた頃、ミス・ロングビル――世間では<<土くれのフーケ>>の悪名で呼ばれるメイジの女盗賊は魔法学院の塔の外壁を歩きながら悩んでいた。
主に貴族が所有する秘宝や希少なマジックアイテムを標的としている彼女は、ここの宝物庫に〝破壊の杖〟と呼ばれるマジックアイテムがあるという事で、それを狙って今までオールド・オスマンの秘書を勤めていた。
そして、今夜ついに実行に移ろうかと思ったのだが、やはり魔法学院の施設は強固だ。普段、盗む時には防御魔法のかかった壁や床、天井でさえ、錬金魔法でただの土くれに変えてしまうのだがこの施設にはそれが効かない。
どうしたものかと悩んでいた彼女はふと、下の方が騒がしくなっている事に気付いた。
慌てて外壁から足を離し、浮遊魔法で塔の最上部へと移って隠れる。
学院の中庭、この塔のすぐ近くで何やら女生徒二人が争っているようだ。そのお付きとして、女生徒が一人。そして、ヴァリエールという生徒が召喚したという使い魔、平民の少年。
争っているのはそのヴァリエールと、もう一人はツェルプストーという生徒のようだった。
ヴァリエールの方がぎゃあぎゃあ喚くように叫び、杖を振りかざす。
「ファイヤーボール!」
そう、彼女は叫ぶ。……しかし、発動した魔法はファイヤーボールではなかった。
フーケがいる塔の外壁――ちょうど宝物庫がある辺りの所に爆発が起きた。
普段からどんな魔法を使おうとしても爆発を起こしてしまうという彼女らしいが、フーケはその爆発によって起きた結果に目を疑った。
自分の錬金魔法さえ効かないはずの塔の外壁に、大きなヒビが入っているのだ。
どうしてこのような事が起きるのか疑問が尽きないフーケだが、これは実に好都合だった。
魔法学院の宝物庫。様々なマジックアイテムや秘宝を厳重に保管しているここに先日、また新たな秘法が保管されていた。
正確には秘宝ではなく、幻獣の卵だ。その正体が全く分からない以上、下手に手が出せないためにこうして保管されているのである。
ルイズがサイト以外に召喚してしまった虹の卵。それはこの部屋の一角で布の上で鎮座していた。
突然、外から爆音と共に宝物庫の壁の一部に大きなヒビが入った。ちょうど、虹の卵が置かれている場所の近くだ。
衝撃で虹の卵は床へと転がり落ちる。
破壊の杖がしまわれた箱のすぐ近くで止まった虹の卵は、一瞬だけ内部から微かな光を放った。
続いて、ヒビが入った壁が凄まじい衝撃と共に破壊され、大きな土くれの腕が入り込む。
そのゴーレムの腕を伝って、フーケは難なく宝物庫への侵入を果たした。
彼女の標的は、破壊の杖。それがしまわれた箱に近づきそれを手にすると壁に〝破壊の杖、確かに領収致しました。 土くれのフーケより〟と毎度のようにメッセージを残す。
「これは……」
さっさと退却しようとしたフーケは、足元に落ちている物に気が付き、破壊の杖が入った箱を抱えながらそれを拾い上げた。
とても冷たい手触りで、思わずぞくりと身震いする。
ヴァリエールが召喚したとされる何かの幻獣の卵だという事はフーケもオスマンとコルベールの会話を盗み聞きしていて知っている。
しかし、この美しい光沢、手触り……物を見る目が無い人間には単なる宝石にしか見えない事だろう。
じっと虹の卵を見つめていたフーケは微かに笑みを浮かべた。
「……まあ、どこかに売りつけるのもいいかもね」
これだけの美しさなら宝石として売りつけても問題はないはずである。捨て値でも千エキューはするだろう。
もし、売った後に何かの幻獣が生まれてきたとしても、自分には関係ない。
フーケは虹の卵を懐にしまい、破壊の杖の箱を抱えたままゴーレムの腕を伝って戻り、ゴーレムに乗ったまま学院から脱出していた。
フーケの懐の中で、虹の卵は幾度か怪しい光を微かに放っている事に彼女は気付いていなかった。
#navi(悪魔の虹)
#navi(悪魔の虹)
ルイズはヒラガサイトを仮の使い魔として扱いながらも、虹の卵の事が未だに頭から離れていなかった。
あの卵は中身が何なのか全く分からない以上、下手に手が出せないという事で学院内の宝物庫にて保管されたそうだ。
中にいるのが何なのかはルイズにとってはどうでも良かった。どうにかして許可を貰ってあの卵の中にいる幻獣を自分の正式な使い魔としたかった。
シュヴルーズ先生の錬金魔法の授業において実験で大失敗をしてしまった後、ルイズは失敗の後片付けをサイトに手伝わせながらもその事で頭がいっぱいだった。
「おい、人にばかりやらせてないでお前もやれよ」
「うるさいわね。ちゃんとやってるじゃない」
サイトが面倒臭そうにしつつもてきぱきと体を動かす中、ルイズはほとんど動いていない。
「そもそも、あんたはあたしの使い魔よ。主人のために働くのは当然じゃない」
「自分でやっておいて何だよ……」
「あんたも口より手を動かしなさい! 飯抜きにするわよ!」
と、叫んでお互いに黙り込んだまま作業を進めていく。
しばらくしてようやく後片付けを終えた二人は教室を後にしていた。
「しかしお前、〝ゼロ〟のルイズとは良いあだ名だな? さっきみたいな失敗をしょっちゅうやってるんだって?」
小馬鹿にしたように笑うサイトを、ルイズも睨み返す。
サイトは先程の授業中、何故ルイズが〝ゼロのルイズ〟と呼ばれているのかをキュルケから聞かされていた。魔法を今までまともに成功させた試しが無いために付けられたのだそうだ。
別にルイズ自身は授業を怠けたりしていた訳ではない。むしろ真剣に勉強していた。積極的な自習や予習も惜しまなかったのだ。
なのに、魔法そのものになるとどうしても成功しないのだ。
そのためルイズは学院内では今のサイトのように散々、他の生徒から馬鹿にされてばかりなのである。
「……あんた、仮とはいえ使い魔のくせによくそんな口が聞けるわね」
声と片眉を震わせながらサイトに詰め寄るルイズ。
彼女の気迫に押されたか、サイトは逃げ腰になっていたが何かに気付いたような顔をする。
「使い魔……そういえばあれは何かの卵なんだってな?」
「……そうよ。本当はあんたじゃなくてあっちがあたしの本当の使い魔だったのよ! あんたなんかとは全然、大違いの大物が入っていたに違いないわ!」
「じゃあ、最初からそっちを使い魔にすれば良かったじゃねえか」
「うるさいわね! あの時はあんただけしか召喚されていないと思ったから仕方なかったのよ!」
物凄い剣幕で叫ぶルイズだが、サイトは無視して言葉を続けている。
「間違えて俺まで召喚したって事は、やっぱりお前は〝ゼロ〟の……」
「また言ったわねぇ!」
再度、〝ゼロ〟と呼んだサイトは直後、ルイズの手でボコボコに伸されていた。
「あんたは飯抜きよ!」
と、床に倒れ伏す彼に向かって叫び、その場を後にする。
――見てなさい。いつかあの幻獣をあたしの使い魔にしてみせるんだから!
その後、ルイズは怒りで興奮したまま一直線で学院長室へと向かっていた。
思わずノックをするのも忘れて学院長室に入室すると、中には学院長オールド・オスマンの他に秘書のミス・ロングビルとミスタ・コルベールまでいた。
「どうしたのかね? ミス・ヴァリエール。ノックもせずに入ってくるとは、余程興奮しているようじゃのう。まずは落ち着きたまえ」
オスマンは寛大にも彼女を咎めはせず、冷静になるよう諭してきていた。
「その非礼は詫びます。申し訳ありません、オールド・オスマン」
肩で息をしつつ自分を落ち着かせ、深呼吸もするルイズ。
「さて。一体、どうしたのかな? 落ち着いて話してみたまえ」
「……オールド・オスマン。どうかあの幻獣を、わたしの正式な使い魔にさせてください!」
「ミス・ヴァリエール。やはり、まだ諦めていなかったのかい」
単刀直入に懇願すると、コルベールが片眉を吊り上げていた。
「昨日も言ったように君は使い魔の契約を済ませているし、二体も使い魔を持つ事は……」
「それでも……あれはわたしが召喚した使い魔の一体なんです!」
ルイズはすぐにまた興奮し、コルベールの言葉を遮る。
「あれからどんな幻獣が生まれてくるのかは分かりません。……でも、せっかく召喚をしたのにその姿を見る事すらできないなんて嫌です! そもそも、あの平民は間違って……」
「……ミス・ヴァリエール。君があの卵の幻獣の事を思うのは分かるが、あの平民の少年も君が召喚した立派な使い魔には違いないのじゃよ? 大物にばかり心を奪われてはいかんよ。
彼もきっと、君のために立派に働いてくれるはずじゃよ。彼ともっと触れ合ってお互いに色々と知ってみたまえ。それが使い魔の主人である君の大切な役目じゃよ? ミス・ヴァリエール」
冷静に諭してくるオスマンに、ルイズもとうとう沈黙してしまう。
結局、ルイズはそのまま大人しく引き下がっていた。
時と日は過ぎていく。
サイトはちょっとしたトラブルから学院内の生徒ギーシュ・ド・グラモンと決闘になり、初めは痛めつけられはしていたものの、最終的には彼を打ち倒してしまった。
平民の少年が魔法を使うメイジに勝利したという事から、サイトは学院内で有名な存在になりつつあった。
ルイズも彼が平民にせよ実力のある存在である事で少しは彼を認めるようになり、彼のために武器でも与えてやろうかとも考え、トリスタニアの町の武具屋で剣でも買ってやろうとした。
使い魔には立派な剣を持たせてやろうかと思ったのだが、如何せんルイズが持ってきたお金ではあまりに高すぎて買う事はできなかった。
結局、サイトが選んだ古ぼけた長剣――言葉を解するインテリジェンスソードを破格の安値で買う事になった。
本人は面白いという事で気に入っているようだがルイズとしては貴族のプライドで、あんなボロくて錆付いた安値の剣しか買えなかったというのが悔しかった。
……それに、時を経たずして同級生のキュルケが立派な剣(最初にサイトが選んだものだ)をルイズへの当て付けのように難なく買っしまい、て彼に与えようとしたのだ。
ルイズが剣を買いに行った時、サイトも初めはその剣を気に入っていたので、インテリジェンスソードからそちらに乗り換えようとしていてた。
当然、それを許さないルイズはキュルケの買ってきた剣を突き返し、負けじと彼女に対する嫌味を吐きかけたりしていた。
口論が続き、最終的にサイト本人が選べという事になったのだが、彼は優柔不断に「二つ一緒」などと言ってしまっため、ついにはルイズとキュルケの決闘によって決める事になってしまった。
この頃になると、ルイズは自分がサイトと一緒に召喚した幻獣の卵の事をすっかり忘れてしまっていた。
オールド・オスマンから言われたように、正式に使い魔としたサイトの触れ合いに重きを置いた結果だった。
二つの月が高く昇ってきた頃、ミス・ロングビル――世間では<<土くれのフーケ>>の悪名で呼ばれるメイジの女盗賊は魔法学院の塔の外壁を歩きながら悩んでいた。
主に貴族が所有する秘宝や希少なマジックアイテムを標的としている彼女は、ここの宝物庫に〝破壊の杖〟と呼ばれるマジックアイテムがあるという事で、それを狙って今までオールド・オスマンの秘書を勤めていた。
そして、今夜ついに実行に移ろうかと思ったのだが、やはり魔法学院の施設は強固だ。普段、盗む時には防御魔法のかかった壁や床、天井でさえ、錬金魔法でただの土くれに変えてしまうのだがこの施設にはそれが効かない。
どうしたものかと悩んでいた彼女はふと、下の方が騒がしくなっている事に気付いた。
慌てて外壁から足を離し、浮遊魔法で塔の最上部へと移って隠れる。
学院の中庭、この塔のすぐ近くで何やら女生徒二人が争っているようだ。そのお付きとして、女生徒が一人。そして、ヴァリエールという生徒が召喚したという使い魔、平民の少年。
争っているのはそのヴァリエールと、もう一人はツェルプストーという生徒のようだった。
ヴァリエールの方がぎゃあぎゃあ喚くように叫び、杖を振りかざす。
「ファイヤーボール!」
そう、彼女は叫ぶ。……しかし、発動した魔法はファイヤーボールではなかった。
フーケがいる塔の外壁――ちょうど宝物庫がある辺りの所に爆発が起きた。
普段からどんな魔法を使おうとしても爆発を起こしてしまうという彼女らしいが、フーケはその爆発によって起きた結果に目を疑った。
自分の錬金魔法さえ効かないはずの塔の外壁に、大きなヒビが入っているのだ。
どうしてこのような事が起きるのか疑問が尽きないフーケだが、これは実に好都合だった。
魔法学院の宝物庫。様々なマジックアイテムや秘宝を厳重に保管しているここに先日、また新たな秘法が保管されていた。
正確には秘宝ではなく、幻獣の卵だ。その正体が全く分からない以上、下手に手が出せないためにこうして保管されているのである。
ルイズがサイト以外に召喚してしまった虹の卵。それはこの部屋の一角で布の上で鎮座していた。
突然、外から爆音と共に宝物庫の壁の一部に大きなヒビが入った。ちょうど、虹の卵が置かれている場所の近くだ。
衝撃で虹の卵は床へと転がり落ちる。
破壊の杖がしまわれた箱のすぐ近くで止まった虹の卵は、一瞬だけ内部から微かな光を放った。
続いて、ヒビが入った壁が凄まじい衝撃と共に破壊され、大きな土くれの腕が入り込む。
そのゴーレムの腕を伝って、フーケは難なく宝物庫への侵入を果たした。
彼女の標的は、破壊の杖。それがしまわれた箱に近づきそれを手にすると壁に〝破壊の杖、確かに領収致しました。 土くれのフーケより〟と毎度のようにメッセージを残す。
「これは……」
さっさと退却しようとしたフーケは、足元に落ちている物に気が付き、破壊の杖が入った箱を抱えながらそれを拾い上げた。
とても冷たい手触りで、思わずぞくりと身震いする。
ヴァリエールが召喚したとされる何かの幻獣の卵だという事はフーケもオスマンとコルベールの会話を盗み聞きしていて知っている。
しかし、この美しい光沢、手触り……物を見る目が無い人間には単なる宝石にしか見えない事だろう。
じっと虹の卵を見つめていたフーケは微かに笑みを浮かべた。
「……まあ、どこかに売りつけるのもいいかもね」
これだけの美しさなら宝石として売りつけても問題はないはずである。捨て値でも千エキューはするだろう。
もし、売った後に何かの幻獣が生まれてきたとしても、自分には関係ない。
フーケは虹の卵を懐にしまい、破壊の杖の箱を抱えたままゴーレムの腕を伝って戻り、ゴーレムに乗ったまま学院から脱出していた。
フーケの懐の中で、虹の卵は幾度か怪しい光を微かに放っている事に彼女は気付いていなかった。
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