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第十三章 英雄の資質
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パラベラム/[Parabellum]――自分の殺意や闘志を、銃器の形にして物質化することが可能な特殊能力、およびその能力者。
ガンダールヴ/ [Gandalfr]――勇猛果敢な神の盾と伝えられる始祖ブリミルの使い魔。詠唱の時間、主人を守るために特化したとされる。あらゆる武器を扱ったと謳われ、左手に大剣を、右手に長槍を掴み戦ったという。
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オスマンの用意した馬車で、一行はフーケの隠れ家を目指す。魔法を使って移動した方が早いのだが精神力には当然、限りがある。《パラベラム》であるルイズとシエスタの場合は走った方が速いのだが、ほかの仲間を置いて行くのも危険だ。道中にフーケが罠などを張っていた場合も想定しなければならない。
馬車を操るのはシエスタ。隣に座るのはギーシュやフーケと同じ土メイジであるロングビル。いざとなれば戦力にもなり得るだろう頼もしい案内役だ。
オスマンの用意した馬車は屋根がついていない。この方が視界が広いし、襲われた時のことを考えればすぐに外へと飛び出せた方がいい。
「ミス・ロングビル・・・・・・こちらに座ればいいのでは? 道案内なんて片手間でできるじゃないですか」
暇を持て余した様子のキュルケがロングビルに話し掛ける。静かにシエスタに道を指示していたロングビルはゆっくりと振り返った。
キュルケの言葉にロングビルは優しげな微笑を浮かべる。相当な美人であるロングビルの笑顔は、学院長秘書という立場と本人がクールなのも相まって中々にレアだったりする。
「いいのです。わたくしは、貴族の名を失くした者ですから」
キュルケはきょとんとした表情を浮かべた。貴族の名を失くした。その言葉が意味するのは、そのままに没落貴族だということ。
「だって、貴女はオールド・オスマンの秘書なのでしょ?」
「ええ、でも、オスマン氏は貴族や平民だということに、あまり拘らないお方です」
オスマンの名はハルケギニア中に轟いている。外国でもその名を知るものは少くなくない。偉大なるメイジ、オスマン。シエスタの一件でもわかるが、オスマンはトリステインの貴族には珍しく身分や階級にあまり拘らない。学院のコック長であるマルトーも噂ではオスマンが直々にスカウトしたらしい。そのような大胆な雇用はトリステインでは珍しい。良くも悪くも格式を重んずる。トリステインはそういう国だ。
「差し支えなかったら、事情をお聞かせ願いたいわ」
今度は答えず、ロングビルは先ほどより少し困ったような優しい笑みを浮かべた。それは言いたくない、そういう意思表示だろう。
「いいじゃないの。教えてくださいな」
興味津々と行った様子で、身を乗り出しロングビルににじり寄る。おそらくロングビルの意思をキュルケはわかっている。その上で続けるのだから性質が悪い。本人にはそこまでの悪気は無いのだろうから、なおさらだ。
ルイズも興味が無いわけではないが、それとこれとは話が別だろう。誰しも人に聞かれたくない、言われたくないものというのはあるものだ。
キュルケの肩を掴み、止めた。キュルケは振り返り、ルイズを睨む。
「なによ。ヴァリエール」
「止しなさいよ。昔の事を根掘り葉掘り聞くなんて」
第一、今はそのようなことをしている場合ではない。いつ『土くれ』のフーケが襲ってきてもおかしくないのだ。
「暇だからお喋りしようと思っただけじゃないの」
「あんたにだって聞かれたくない話くらいあるでしょう。それに今は無駄話をしている暇は無いわ」
ふん、と詰まらなそうに鼻を鳴らしそっぽを向いてしまった。キュルケも緊張しているのかもしれない。
静かな、それでいて息苦しい沈黙が馬車の中を支配する。
タバサはキュルケと対照的に黙々と本を読んでいるし、ギーシュは緊張した様子で小さく震えている。
無理も無い。シエスタが咄嗟に抱えて逃げなければ、ギーシュは挽肉になっていたのかもしれなかったのだ。
メイジとしての力もフーケの方が圧倒的に勝っている。フーケは百戦錬磨の盗賊。こちらは腕利きとはいえ、学生ばかり。実戦経験とは縁の遠い戦力だ。ロングビルは教師だが、土のライン。メイジとしてのそれはフーケに及ばないし、ルイズたち生徒という『守るべき人』がいる。二人のパラベラムがいるとはいえ、もしも戦闘になればどちらに転ぶともいえない。
ルイズ自身も少し気を抜けば、震えてしまいそうだった。あの大質量の腕を避ける感覚。それは薄い死の気配を纏っていた。だが。
「・・・・・・私たちは全力を尽くす。私はそれだけしか知らない。・・・・・・成功させましょう、必ず」
ルイズの言葉に全員が小さく頷いた。
馬車は確実にフーケの隠れ家に向かう。
2
森の中の空き地、そんな表現の良く似合う開けた場所。広さは魔法学院の中庭ぐらいだろうか。その中心には廃屋がある。元々は木こり小屋だったのであろうその廃屋の隣には、朽ち果てた炭焼き用らしき窯と、壁板の外れた物置がある。
少し離れた場所で馬車を降りた六人は、大きな茂みに身を隠し廃屋を観察していた。
「わたくしの聞いた情報だと、あの中にいるという話です」
ロングビルが指を指すのはもちろん廃屋。やはり、あの廃屋こそがフーケの隠れ家らしい。人の住んでいる気配は感じられない。
周囲は静かで、鳥や獣の声も聞こえない。当然、近くに人もいない。盗賊が隠れ家にするのにはこういう場所が適しているのかも知れなかった。
小さな声でシエスタたちは相談を始める。フーケが中にいるのならば、一番確実な戦法は奇襲だ。
タバサが地面に座り、その長い杖で地面に絵を書きながら策を説明する。
まずは偵察役が小屋の傍に赴き、罠の有無及び中の様子を確認する。偵察は囮も兼ねている。
中にフーケがいたのならば挑発し、外へと誘い出す。フーケの得意とするゴーレムは生成するのに大量の土が必要だ。小屋の中にはそれほどの土は無い。十中八九、フーケは外に出てくるだろう。
フーケが出てきたところを待ち構えていた残りの五人が集中砲火を浴びせ、フーケを確保。ゴーレムを作り出す暇は与えない。
シンプルでいい策だ。問題は。
「で、その偵察兼囮は誰がやるんだい?」
ギーシュの問いにタバサは短く答える。
「すばしっこいの」
偵察も囮も危険が高い。いざと言う時に回避し、逃げるだけの素早さが必要だ。全員の視線が一斉にシエスタとルイズに向いた。
「では私が」
シエスタは立ち上がり、デルフリンガーを抜刀する。
「お、相棒、さっそく出番か? さっきはなんか真剣な雰囲気から黙ってたけどよ」カチカチと鍔を鳴らし、声を発するデルフリンガーをシエスタが嗜める。
「はい。『土くれ』と呼ばれる盗賊に盗まれたものを取り返す任務です。これから《P.V.F》を展開しますね」
「おうよ、任せときな。最初はおでれーたが、ありゃあアレで面白ェな。銃剣になったなんざぁ長いこと生きているが始めてだぜ」
デルフリンガーを正眼に構え、小さく振り『錬金』を読み上げ、《P.V.F》を展開。光の粒子が弾け、デルフリンガーを中心に装甲を形成。
シエスタの右手に黒い拳銃型の《P.V.F》、ハウンド・ドッグが現れる。デルフリンガーの握りはグリップと一体化し、刀身の根元には銃身がある。デルフリンガーが長すぎるので、シルエットとしては変わった長剣のようにも見えるだろう。
内観還元力場が発生し、体が軽くなった。デルフリンガーも今ならば簡単に振り回せる。
「こ、これがミス・シエスタの魔法・・・・・・ですか?」
そういえばロングビルは見るのは初めてだ。平民であるシエスタがこれほどまでに精巧な錬金が使えると思っていなかったのだろう。
シエスタは小石を拾い上げ、再び『錬金』。左手に生み出した弾倉をハウンド・ドッグに装填。スライドを引いて薬室に初弾を送り込み、いつでも撃てる状態に。
「それでは」
「気をつけてね、シエスタ」
ルイズは心配を声音に滲ませている。本当にいい主だ。これほど惚れ甲斐のある女も中々いないだろう。
はい、と小さく頷き、小屋に向け駆け出す。
一瞬ともいえるようなスピードで窓に近づく。ずいぶんと磨かれていないだろう窓から中を覗いたが、誰もいない。小屋に部屋は一つしか無いらしく、部屋の真ん中には埃の積もったテーブルと、転がった椅子があるだけだ。崩れた暖炉に、空の酒瓶。やはり生活の気配は無い。
部屋の隅に薪が積み上げられているのが見えた。どうやら元は炭焼き小屋だったようだ。他にも木製の大きなチェストなどもあるが、人の隠れられそうな場所は無い。
「デルフさん、どう思いますか?」
「さんはいらねーぜ、相棒。・・・・・・まぁ、誰もいないんじゃねぇか? 罠とかも仕掛けられて無いっぽいしな」
シエスタはしばし考え、皆を呼ぶ。サインを出すと警戒しながらも五人が現れた。
「誰もいませんね」
タバサがドアに向かって杖を振る。罠が無いか調べているのだろう。魔法の知識の無いシエスタには見破れない。
「罠は無いみたい」
どうやら安全なようだ。中に入っていくタバサにルイズ、シエスタ、キュルケの三人は後に続く。ギーシュは外で見張り、ロングビルは周辺の偵察を行う。
小屋の中を手分けして探すと、すぐに『破壊の杖』は見つかった。部屋にぽつんと置かれたチェストの中からタバサが見つけたのだ。驚くほど、あっけない。
タバサが無造作に持ち上げるそれは。
「・・・・・・なんだかあなたたちの魔法に似ているわね?」
黒い光沢を持つ金属性の円筒。簡単に説明するならば、そういった言葉になるだろうか。『破壊の杖』が持つ雰囲気はシエスタの手に握られているハウンド・ドッグと良く似ていた。
「・・・・・・これが『破壊の杖』ですか?」
「そうよ。あたし、見たことあるもん。宝物庫の見学したときにね」
キュルケは『破壊の杖』を見たことがあるらしい。
その時、外で見張りをしていたギーシュの悲鳴が聞こえた。
その声に振り向いた瞬間、小屋の屋根が吹き飛んだ。澄んだ青空を背景にして巨大なゴーレムが佇んでいる。
フーケのゴーレム。その傲岸不遜な姿からは死の気配を感じさせていた。
「ゴーレム!」キュルケの叫びをきっかけにして、全員が戦いへと望む。
闘争が始まった。
3
一番、最初に反応したのはタバサだった。その自分の身長よりも大きな杖を振るい、呪文を唱える。巨大な竜巻が生まれ、ゴーレムに向かうがその圧倒的な質量には意味をなさない。
キュルケも杖を抜き、呪文を唱える。紅蓮の火炎がゴーレムを包み込むが、それすらも意に介さない。
「『錬金』」ルイズも《P.V.F》を展開し、それに続く。すぐに木片を拾い、錬金を唱えドラム・マガジンを生み出し装填。引き金を引く。効果は薄い。距離が近すぎる為に爆発は使えない。
シエスタも対構造物徹甲弾を撃ち込むが、ルイズのシールド・オブ・ガンダルーヴでさえ足りないのだ。五〇口径のハウンド・ドッグでは威力が足りない。
「無理よこんなの!」
「退却」タバサの声で、一斉に退く。狭い小屋の中ではいい的だ。
ゴーレムの注意をルイズとシエスタの二人が引き付ける。ゴーレムはその巨大な腕を振るい、ルイズとシエスタを叩き潰そうとするが、遅過ぎる。内観還元力場で強化されている二人は地面を強く蹴り、回避する。
「シエスタ! エゴ・アームズに切り替えなさいッ! 火力不足よ!」銃声にかき消されぬように声を張り上げる。
シエスタはルイズの指示に小さく頷き、ハウンド・ドッグをエゴ・アームズであるアーキタイプ・チェイサーに切り替える。赤い長剣のような《P.V.F》。マズル・フラッシュがそのスケルトンパーツを鮮やかに彩る。
タバサのシルフィードが主人とキュルケ、ギーシュを回収する。ロングビルの姿は見当たらない。今は無事を祈るしかない。
「二人とも乗って!」
「早く! 破壊の杖は回収したじゃないか!」
「急いで」
三人が声に焦りを滲ませ、叫ぶ。
だがルイズはゴーレムに向き直った。シエスタもそれに倣う。
「早く行きなさい。フーケは私たちが相手をするわ」
「ええ、ミス・タバサは皆さんをお願い致します」
「何言ってんの! 詰まらない意地張ってるんじゃないのよ! 死ぬ気!?」
キュルケは焦った声で二人を急かす。その瞳には僅かに涙が滲んでいた。それを見てルイズとシエスタは思わず、顔を見合わせ笑ってしまう。
「死ぬ気なんてありませんよ。私たちならば十全に破壊できるでしょう」
「俺だっているんだぜ? 伝説の剣に別嬪のメイジ、こりゃあ見物さね」
「そ。それにね」
そこまでルイズが言ったところで、ゴーレムが再び迫り来る。タバサが仕方が無くシルフィードに飛び上がるように指示をする。
振り下ろされる拳を木の葉のように逃れ、二人のパラベラムが銃撃を浴びせる。
ルイズは貴族の証であるマントを翻し、貴族の誇りである杖を内包する《P.V.F》を眼前に迫るゴーレムに突きつけ、楽しげに笑う。
怯えるな。
ルイズは、戦う為にここにいる。
「敵に背中を見せない者を、貴族と呼ぶのよ?」
轟音と閃光がゴーレムを包む。着弾の衝撃で周囲の土くれが吹き飛び、弾丸は虚空を穿つ。
フルオートで派手に舞う。遠慮など要りはしない。
空薬莢が宙を踊り、青い閃光が輝く。ルイズとシエスタはゴーレムと踊る。
――侮られては困るのよ。だって、私たちは、
誇りある《パラベラム》だ。
4
眼下で繰り広げられる戦闘。唸るゴーレムの拳は少女たちを肉片に変えるのに十分過ぎる力を有している。それなのにも関わらず、二人のメイジはそれを易々と避け、攻撃を加える。青白い閃光で照らされる少女たちの顔には笑みさえ浮かんでいる。
その笑みは死のスリルを楽しんでいるわけではなく、ただ自身の怯えを誤魔化す為のそれなのだが、それはギーシュにはわからない。
――僕はいったい、何をしている?
怯えを必死に隠し、少しでもルイズたちの助けになりたいとこの任務に志願した。それなのに結果はどうだ。
見張りを買って出たのにも関わらず、フーケの奇襲を防げなかった。応戦しようと思っていたのに、いざとなれば恐怖で脳髄が痺れ、何一つ行動には移せなかった。
今はルイズとシエスタを矢面に立たせ、自分はタバサの風竜に乗り、高く安全なところで高みの見物。
無力感で押しつぶされてしまいそうだ。
――僕は、また何もできないのか・・・・・・?
あのシエスタに庇われた時と同じように?
そんなのは嫌だ。
そんなギーシュの眼にタバサの抱える『破壊の杖』が映った。
「タバサ! それを!」
タバサは小さく頷き、ギーシュに『破壊の杖』を渡す。
見れば見るほど、奇妙な形をした杖だ。こんなマジックアイテムは見たことが無い。
しかし、ギーシュの使う土系統の魔法ではフーケと戦うのは無理だ。今はこれに頼るしかない。
ルイズとシエスタの姿を見る。素早い動きで、ゴーレムを翻弄し東方の魔法で削る。ルイズがジャベリンに魔法を掛け、爆破。破壊されたゴーレムの表面はフーケの魔力で再生される。どちらが先に力尽きるのか。
震える足を必死に押さえ、早く大きな鼓動を落ち着けるために深呼吸。目を見開き、敵を見る。
「ちょっとギーシュ!?」キュルケの声に返事はできない。そんなことをすれば舌を噛む。
ギーシュはシルフィードの上から地面に身を躍らせた。杖を振り、地面にゆっくりと降り立つ。
ルイズは敵に背中を見せない者を貴族と呼んだ。
ルイズとシエスタが相対するゴーレムに向け、『破壊の杖』を振る。
しかし、何も起こらない。ありったけの魔力を込め、杖を振るが『破壊の杖』は沈黙したままだ。
「クソ! 頼むよ、動いてくれ!」ギーシュは悲痛に叫ぶが、『破壊の杖』は答えない。
なぜ『破壊の杖』は動かないのか。ギーシュにはわからない。
ギーシュが降り立ったのを見て、慌ててルイズがギーシュの元に駆けつける。
「なにやってんのよ!? 死ぬ気!?」
ルイズはゴーレムから視線を外さないままギーシュを怒鳴りつける。その剣幕に圧されそうになる。
「君は敵に背中を見せないものを貴族だと言った! 僕は貴族だ。だから今ここにいる」
返事は返ってこなかった。ギーシュに背中を見せたままルイズは魔法を放ち続けている。青い閃光は絶え間なく、ルイズの艶のある頬を照らし出す。その頬は笑みの形に歪んでいた。
「ギーシュ、あんた本当にバカね。・・・・・・いいわ、付き合ってもらうわよ!」
ゴーレムの拳をルイズはギーシュを抱えて飛び上がり、回避。振り下ろしたばかりの腕にシエスタの魔法が容赦無く炸裂し、土くれが吹き飛ぶ。
轟音が鼓膜を刺激し、風竜とは違う浮遊感。脳が痺れるような感覚がずっと続く。
「貸してみなさい」
言われるがままに『破壊の杖』をルイズに渡す。
「まったく・・・・・・どうしてこんなものがあるのかしらね。・・・・・・いい? 今からこれの使い方を教える。チャンスは一度きり、失敗すれば死ぬかもしれない。それでもやる?」
ギーシュは躊躇い無く頷いた。
5
「シエスタ! ギーシュに『破壊の杖』を使わせるわ! 注意を引くわよ!」
ルイズの言葉に頷きながら、リロード。すぐに照準をゴーレムの右腕に合わせ、引き金を引く。ゴーレムの左腕ではルイズの爆発で土くれが爆ぜていた。
「相棒、注意を引くっていってもどうすんだ? このままジリ貧で、坊主の方が狙われるかも知れねぇぜ?」
フーケも今度は本気なのか、再生のスピードが速い。学院を襲撃した時は、ルイズ一人でもなんとか勝てそうだったが、今はシエスタとルイズが二人掛りでようやくといったところだ。
このままでは拙いかもしれない。こちらはフーケの魔力が尽きるまで付き合わなければいけないが、こちらは一撃でも食らえば終わりだ。
気を抜けば殺される。恐怖心を誤魔化す為に貼り付けた笑みも今は引きつっている。
「相棒、『アレ』を使いな」
「スペシャル・ショット、ですか・・・・・・」
スペシャル・ショット。《P.V.F》によってはついていないものもあるが、シエスタのアーキタイプ・チェイサーは対応している。セレクターレバーの『S・S』がそれだ。
《P.V.F》には、その《P.V.F》固有の特殊攻撃が存在する。それがスペシャル・ショット。強力だがその分、消費も激しく満杯のマガジンが一瞬で空になる。精神的な疲労も激しく、新たなマガジンが生み出せなくなるそうだ。ここぞという場面でしか切れない切り札。
スペシャル・ショットの効果は様々だ。強力といってもそれを一言で説明することはできない。そして、問題がある。撃ってみるまでどんな効果を持つかわからないのだ。強力すぎる為に無闇に試すわけにもいかない。
「相棒、今が『勝負時』だ。大丈夫、なんとなくだが相棒の切り札はきっとに役に立つ」
「・・・・・・『伝説』のお墨付きですか。試してみる価値はありますね」
ちょうど使っている弾倉を撃ち尽くした。セレクターレバーを切り替え、左手にスペシャル・ショット用の特殊弾の弾倉を生み出し、装填。薬室に初弾を送り込む。
『S・S』に切り替えるとアーキタイプ・チェイサーの一部が変形し、近距離狙撃用のスコープになる。シエスタはスコープを覗き込み、ゴーレムを見た。
アーキタイプとは精神の原始的な部分から生まれるシンボル。元型とも呼ばれるそれは、『自我』、『影』、『アニムス』、『アニマ』、『太母』、『老賢者』、『自己』、『永遠の少年』、『英雄』、『愚者』など様々なイメージが存在する。
アーキタイプ・チェイサーのスコープを覗き込んだシエスタには、ゴーレムの周囲に靄のような影が浮かんで見えた。それが何なのかも不思議と理解できる。幽霊のようなその影は、ゴーレムを構成するアーキタイプのイメージだ。
『影』、『奴隷』、『狩人』などのアーキタイプに加え、ゴーレムを形成する『土』の魔力。『自我』のアーキタイプは見当たらない。
ゴーレムの胸、中心に近い場所に『太母』と呼ばれるアーキタイプの見つけた。一際大きなそれこそが、ゴーレムを作ったフーケの要だろう。逆V字のレティクルをゴーレムのアーキタイプに合わせる。
「よし、ブッ放せ、相棒!」
通常弾とは比べ物にならないほど大きな銃声とマズル・フラッシュと共に放れた巨大な銃弾は唸りを上げ、ゴーレムのアーキタイプに喰らい付く。
シエスタにしか聞こえない音を立て、『太母』のアーキタイプに着弾。砕かれたような弾痕を残し、貫通する。
すると目に見えてゴーレムの動きが遅くなった。核となる元型を傷つけられ、フーケとの繋がりが薄くなったのだ。
だがシエスタのスペシャル・ショットはまだ終わりでは無かった。貫通した弾丸は空中でありえない軌道を描き、再び『太母』のアーキタイプに弾痕を穿ち、貫通。最初の一撃より威力は落ちているが再び向きを変え、ゴーレムに襲い掛かる。
シエスタの猟犬のようなスペシャル・ショット。
「・・・・・・元型追撃」
自然とシエスタはその言葉を口にしていた。
アーキタイプに五個目の弾痕を空けた時、ついにゴーレムは膝をついた。
6
どうやらシエスタがスペシャル・ショットを使ったようだ。まるで意思を持ったようなその弾丸はゴーレムの体を削り、その度に動きが鈍る。
強力なスペシャル・ショットだ。ルイズも負けてはいられない。
無数のジャベリンをゴーレムに撃ち込み、それを楔に魔法をかける。ルイズの魔法は当然の如く爆発し、当然の結果として土くれを爆散させる。
ギーシュを見れば、おぼつかない手つきではあるが、準備をしている。今はなんとかリアカバーを引き出したところだ。
それにしてもどうしてルイズには『破壊の杖』の使い方がわかったのだろうか。ルイズはシールド・オブ・ガンダールヴの空になったドラム・マガジンを取り替えながら思案する。
左手のルーン。ルイズの《P.V.F》の名前。ガンダールブの盾。
ルイズは勤勉な人間だ。確証は無いが、検討はつく。
ずいぶんと鈍ったゴーレムの拳を避け、射撃。魔法をかけ、爆破。再生するスピードもずいぶんと遅くなっている。
もし、この推論が正しければ。どうして『ゼロ』の自分にこんな巨大な力が与えられたのだろうか。
「ルイズ! シエスタ! 離れてくれッ!」
ギーシュが肩にかけた『破壊の杖』をゴーレムに向けている。準備が完了したのだろう。シエスタのスペシャル・ショットのおかげでゴーレムは既に片膝をついている。
ルイズとシエスタはパラベラムの強化された身体能力で、フーケのゴーレムから一蹴りで距離を取った。
「大当たり、ってヤツよ」
ギーシュが『破壊の杖』のトリガーを押した。
栓抜きのような音がして、白煙を引きながら羽をつけたロケット状のものがゴーレムに吸い込まれる。
動きの止まったゴーレムに命中した弾頭はゴーレムの体にめり込み、そこで信管を作動させた。
爆発。
それはルイズのそれよりも大きく強力な威力で、爆音と共にゴーレムの体を吹き飛ばした。土くれが雨のように降り注いだ。
煙が徐々に晴れて、僅かに形の残ったゴーレムの残骸が見えてくる。
僅かに動こうとしたゴーレムは崩れた。ルイズがフーケを逃がした時のように、後にはただ土くれだけが残された。
その様子を呆然と眺めていたギーシュは腰が抜けたのか、へなへなと地面に腰を下ろした。
ルイズは小さく安堵のため息を吐き、ギーシュの傍に寄る。興奮した様子のデルフリンガーの声を響かせながら、シエスタもルイズとギーシュの元へ。
タバサの風竜もキュルケを乗せ、三人の下へ降りてくるのが見えた。
「ほら、しっかりしなさいよ、ギーシュ」
「ハハハ・・・・・・腰が抜けてしまってね。『破壊の杖』というのは、とんでもない威力だね」
「いやぁ、おでれーた! 相棒も凄かったが、小僧もなかなか根性あるじゃねぇか!」
「ルイズ様、ミスタ・グラモン、お怪我はありませんか?」
三人と一振りは笑いあった。空からキュルケの声が聞こえてくる。ルイズたちは勝ったのだ。
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