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「流星の双子 外伝 -加速×加速-」(2010/08/10 (火) 18:29:29) の最新版変更点
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ガリア王国首都、リュティス上空、小型フリゲート艦、艦上。
手を縛られたアンリエッタは、ただ茫然とその成り行きを見つめていた。
『地獄を見せてやる』
そう言い放ったジョゼフの意味を否応なく理解させられる。
文字通りの「地獄」。禍々しい「太陽」。タルブでルイズが見せた「太陽」とは大きく違いすぎる。
――息が、出来ない。
それが地獄が放った熱によるものなのか、あまりの衝撃に自分の体が呼吸の仕方を忘れたからなのか、アンリエッタにはもう分らなかった。
「では次はこの大きさで試そうか」
無慈悲に、無感情に、淡々と紡がれる虚無のルーンを聞き、アンリエッタの体は本人の意思と関係なく、目の前の狂気に向かって跳んだ。
だがそれも空しく、護衛のガーゴイルに組み伏せられてしまう。
「せっかく、誰も目にしたことのない地獄を見せてやろうというのに、何を考えているのだ?」
「あなたは……! あなたは、狂っている……!!」
ガーゴイルに拘束されながらも、怒りや悲しみが込められた瞳でジョゼフを睨みつける。
それを聞いてジョゼフは一時詠唱を中断し、アンリエッタに視線を合わせるようにしゃがみ込む。
「出来る事なら、おれは狂いたかったよ。せめて狂えたなら、まだ幾らかも幸せだったろうさ」
そう吐き捨てると、もうアンリエッタに興味は無いとばかりに再び詠唱を開始する
。
もう、駄目だ。
アンリエッタの心を絶望が塗りつぶす。黒より暗い暗闇が容赦なく彼女の精神を蝕む。
しかし、突如として発生した爆発にジョゼフは吹き飛ばされ、アンリエッタは確信する。
希望の光はまだ潰えていないと。
爆発の煙の向こうに、二人分の人影が見えてくる。
「――そこまでだ。大人しくしてもらおうか」
二人のうち、背の高いほうの影――ゴランは堂々と、ジョゼフに告げた。
「ジョゼフ様っ!!」
シェフィールドが悲鳴を上げてジョゼフに駆け寄る。ガーゴイル達は突如現れたゴランに向かって跳びかかろうと身構える。
その混乱に乗じて、幾らか冷静さを取り戻していたアンリエッタは、ジョゼフの手から零れ落ちた火石を咥える。
そしてルイズたちを一瞥し、心の中で礼を告げると躊躇せずに艦から身を躍らせた。
「姫さま!!」
アンリエッタの予想外の行動にルイズは叫ぶ。そしてすぐに此処まで連れてきてくれたシルフィードに飛び乗りアンリエッタを追う。
しかしその行動は迂闊以外の何物でもない。ガーゴイルたちはルイズに飛び掛かり、その華奢な体を切り裂く……はずだった。
「後は頼んだわよ、ゴラン!」
「指示が遅いぞ」
青い光の残照を引き摺りゴランは答える。
彼の前には、ガーゴイルだったものが散らばっていた。
アンリエッタが飛び降り、ルイズがそれを追う数瞬の間に十数体ものガーゴイルたちは全滅していたのだ。
「いや~、相変わらず相棒は速いねぇ~! 振られてる俺も何が何だかサッパリわかんねぇよ!」
「無駄口を叩くんじゃない」
デルフリンガーが上機嫌そうに笑い、ゴランが黙らせる。
心なしか凹んだように見えるデルフリンガーを構え、シェフィールドへ視線を移す。
シェフィールドの目はまだ死んでいなかった。次の瞬間、ゴランは再生するガーゴイルたちを見た。
「この水の力に特化したガーゴイルは不死身に近い。斬っただけじゃ無駄だね」
「ミョズニトニルンか、面倒だな……」
シェフィールドはガーゴイルたちに一度に襲いかかるよう指示を出す。
瞳を赤く光らせ、青い光を纏い、次の瞬間にゴランは消える。
だがガーゴイルたちは斬られない。
「だから無駄だって……」
シェフィールドが見た最期の光景に、ゴランはいなかった。
シェフィールドからデルフリンガーを抜き、軽く血を払う。
物言わぬシェフィールドをその場に捨て置き、ずっと抱えていた紙袋からハンバーガー(手作り)を取りだして口に運ぶ。
それをジョゼフは後甲板の鐘楼の上で眺めていた。その手の中には、アンリエッタからガーゴイルが奪ってきた火石が握られている。
「そいつを渡してもらおうか。素直に渡すのならコイツを別けてやってもいい」
「もう貰っているぞ? フム……なかなかイケるな」
しかしその返答はゴランの後ろから聞こえてきた。
咄嗟に振り返り距離を取る。ジョゼフは黙々とハンバーガー(手作り)を頬張っている。
一瞬で自分の後ろを取ったソレを、ゴランはよく知っていた。
「加速、か」
「その通り。奇しくもお前も同じようなことが出来るようだな」
ハンバーガーを食べ終え、指に付いたソースを舐め取りながら、ジョゼフは静かにゴランを眺める。
ゴランの表情に焦りは見えない。それほどまでに自分の速度に自身があるのだろう。
おもむろにジョゼフは懐から短剣を取りだす。
「どちらがより速いか、それを試すのも一興だな」
二人の間に沈黙が流れる。ゴランが紙袋を掲げる。合図だ。上に放り投げる。甲板に落ちる。二人は消えた。
タバサがどうにか駆けつけた時、そこにはガーゴイルの破片と、事切れたシェフィールドしか確認できなかった。
ルイズとアンリエッタ、そして自分の使い魔はここへ来るまでの間にすれ違った。
慎重に甲板の上を移動する。誰もいない筈なのに、タバサの直感が告げる。まだ危険だと。
すると頭上から金属同士がぶつかり合う音が響いてくる。
咄嗟に上を仰ぐもそこにはマストが風になびくだけだった。
次の瞬間には横から、その次には後ろから。次々に、そこかしこから金属音が鳴り響く。
そしてタバサは理解する。今、自分がここにいるその理由を。
淀みのない動作で杖を構えルーンを唱える。詠唱中に甲板の破片が頬を掠るもタバサは動じない。
そして、呪文が完成した。
悩みはない。それが、彼女がここにいる理由。ゴランがここにいる理由。
「ウォーター・フォール」
「「ぐわああああああ!!」」
後年、その日は聖戦の終結記念日となる。そしてそれを鎮めた一人の英雄を称える日でもある。
彼の好物はハルケギニア中に広まり、貴族、平民関係なく愛されることになったとサ。
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