「華の使い魔」(2010/08/30 (月) 13:50:38) の最新版変更点
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「…誰よアンタ?」
その日、少女・ルイズが召喚したのは1人の男であった。
その姿を最初見たとき、誰かが「平民を召喚した」と 言っていたのが聞こえたが、その男の姿はどう見てもただの平民の姿とは異なっていた。
それはハルケギニアでは見かけない黒い髪と瞳だけのせいではない。
その体格は2メイルほどもあり、全身を覆うのは鍛え上げられた筋肉の鎧。
しかもそれが飾りでないことを示すように散りばめられた無数の刀傷。
だが何より彼女を困惑させたのは平民とも貴族ともつかないその奇抜な衣装である。
「あぁ~ん?なんだぁここは。」
そう言うと男はボリボリ音を立てて頭をかきながらキョロキョロと辺りを見回し始める。
その品性のかけらもない様子にルイズは
「うん、間違いこいつは平民だ。」
と頭痛を感じながら呟いた。
その後、頭の薄い教師にやり直しを要求するも却下され結局ルイズはこのちょっと…いや、だいぶ変わった平民と契約する羽目となったのである。
その後もこの使い魔は主人であるルイズのいう事などどこ吹く風。
余程の田舎育ちであるのか目に映るもの全てが珍しいと自由奔放に学院内をうろついて回る始末。
そしていつの間に仲良くなったのか、夜ともなれば厨房のコックやメイドたちと 酒まで呑み交わしているではないか。
「あ゛ぁ…なんであんな下品な平民が私の使い魔なのよ…」
そう呟いてうなだれていたルイズの元に突然ひとりのメイドが飛び込んできた。
「たた…大変です!ミス・ヴァリエール!!」
血相を変えて迫ってきたメイドをなんとか落ち着かせ事情を聞いたところ、なんとあの使い魔が貴族から決闘を申し込まれたらしい。
それも、貴族に絡まれていた目の前のメイドの少女を庇ったためだとか…。
ルイズは慌てて決闘が行われる予定の場所、ヴェストリの広場へと身を走らせた。
数分後、ルイズがヴェストリの広場に着いたとき、そこには人だかりができており、
それをかき分けながら前に出たルイズは自らの使い魔と対面する金髪の少年を目にした。
「諸君、決闘だ!」
金髪の少年、ギーシュ・ド・グラモンが観客たちに向けて高らかに宣言する。
ルイズはそのギーシュに詰め寄ると決闘の中止を願い出た。しかしギーシュは軽口を放つと、彼女の頼みを一蹴してしまった。
話にならない…ルイズは次に使い魔に歩み寄る。
「あんた!何勝手に決闘なんて受けてんのよ!?」
「あぁ~ん、知らんよそんなこと。あっちが勝手にふっかけてきたんだよ。」
そう言うと彼はボリボリと耳の穴をほじり始める。
「ちょっと!人の話を真面目に聞きなさい!いいから今すぐギーシュに謝ってきなさい!」
「はぁ?何で俺が謝んなきゃなんないかね?」
心底不思議そうに聞き返す使い魔にルイズは激昂した。
「いい?いくらあんたが傭兵かなんかだろうと、平民はメイジには勝てないの!
それがこの世界の常識なの!じょ・う・し・き!!」
ふぅふぅと肩で息をしながらまくし立てるルイズ。
だが次の瞬間ルイズを待っていたのはそれは大きな笑い声であった。
「だぁ~~~っはっはっはっはっはっはっはっはぁ!!」
その笑い声の主は今しがた説教を受けたばかりの使い魔である。
「な、何笑ってんのよこの馬鹿はぁあああああああっ!?」
「くくくっ…いやぁすまんすまん。
それにしても、お主はなかなか面白い冗談が言えるじゃないか。」
…冗談?冗談と言ったかこの平民?
ルイズはその言葉にピクピクと額に青筋を浮かべたが、それより先に口を開いたのは決闘相手のギーシュであった。
「そこの平民君……平民が貴族に勝てないのを冗談と言ったかね?」
言葉自体は穏やかだが、ギーシュの言葉には確かな怒りが込められているのがわかる。
「冗談を冗談と笑って何が悪い?それとも何だ?
お前さんみたいなシモの皮も剥けてない小僧が俺に勝てるのか?」
「なっ…!?なんと下品な!!」
ギーシュはその言葉に顔を真っ赤にして怒る。
「おやおや、図星かい。すまんすまん。
だっはっはっはっはっは!!」
男の大笑いが再び広場に響く。
するとそのやり取りを聞いていたであろう周りから僅かにクスクスという笑い声すら聞こえてきたではないか。
……ぷちん
ギーシュは頭の中で何かが切れた音を確かに聞いた。
「ふざけるな平民風情がぁあああああ!!この僕をっ…誇り高いトリステインの武門の血を引く僕を馬鹿にしやがってえええええええ!!」
平民にこうまで徹底的にコケにされた挙げ句、
周りからも笑い者にされたことで、薔薇を自称するほどプライドの高いギーシュは完全にキレていた。
「ほう、お前のような小僧が武家の者とはな。よほどこの国は平和と見える。」
「黙れぇえええええ!!」
叫び声を上げながらギーシュが薔薇の造化の付いた杖を振る。
するとひらりと一枚の花びらが舞い落ち、地面から鎧に身を包んだゴーレムが出現した。
「ほぅ、これが魔法という奴か。」
その様子に男が目を丸くする。
「僕はメイジだ。魔法で戦うのは卑怯とは言わせないよ。
よってこの青銅のゴーレム、ワルキューレがお相手しよう!」
その言葉にぴくりと男の眉が跳ねる。
「おい…お前は戦わないのか?」
その言葉にその場の貴族たちは「やっぱりな」と声を漏らす。
所詮平民は平民。魔法の力の前に怖じ気づいたのだ。
誰もがそう思っていた。
…だが、それは間違いである。
「貴族と野蛮な平民を一緒にしないでくれたまえ。
剣で戦うのは平民。貴族は杖を振るって戦うのは当たり前じゃないか。
それともなにか?今更謝れば済むとでも思ってないだろうね?」
ニヤリとギーシュの顔が歪む。
言葉こそ幾分落ち着いたが、未だに心の中は怒りの炎がマグマのように煮えたぎっているのだ。
だが、それと同じく、対する男もまた静かな怒りの炎を燃やしていた。
「わかったでしょ?平民はメイジに勝てないの!だから……ヒッ!!」
男の顔を見たルイズの表情が恐怖に染まる。
何故から男の表情はいつもの飄々とした人懐っこい笑顔などではなく、
まさに獲物に喰らいつかんばかりの獰猛な獣のそれに豹変していたのだから。
「なるほど…ならば俺も見せてくれよう。
貴様の言う平民の戦い方というものをなぁ!!」
--轟ッ!
男のその言葉と共に周囲に突風ともいえる気配が駆け巡る。
少し離れた場所で決闘を見ていた青い髪の少女はその気迫に目を落としていた本を落とし、瞬時に杖を構えてしまったほどだ。
(……あの人は…強い。それも、桁違いに…!!)
少女はそう感じると、目を見開いて男の戦いを見守り始めた。
「殺れぇええ!ワルキューレェェエエ!!」
男の声を決闘開始の合図とし、青銅のゴーレムが男へと猛スピードで突進する。
その中から現れたのは妖しく光る銀色の刃。
そう、それは棒ではなく鮮やかに輝く見事な長い朱色の槍であった。
「さあ…全力で参れ。」
「……ッ!?」
朱槍を構えた途端に男が放つ威圧感が数倍にも膨れ上がり、ギーシュを始めとする貴族たちを包む。
「来ぬのなら…こちらからゆくぞ?」
男の目がぎらりと輝いた瞬間…
「う…うわぁあああああああああ!!」
耐えきれずギーシュは6体全てのワルキューレに一斉攻撃を命じた。
槍と剣を手にしたワルキューレは猛スピードで男の命を刈り取るべく突撃する。
だが次の瞬間…
「おおりゃあ~~っ!!」
--斬撃一閃!
横一文字に振り抜かれた長槍の刃は青銅のゴーレムたちをまるで紙切れの如く一撃で 切り裂いてみせたのである。
「戦を兵に任せ、自分は安全な場所で身を守るしかない輩がいくさ人に勝てるか…。」
あまりにも鮮やかな決着に見ていた貴族たちも、ルイズもギーシュも声を失っていが、
一瞬の静寂を引き裂いたのは周りからの歓声とどよめきであった。
その中でただひとり、ギーシュだけが悔しさを超えて絶望に打ちひしがれ、その場に崩れ落ちた。
もう彼にはワルキューレを作るだけの力などカケラも残ってはいない。
そこへ向かい、男さのしのしと歩み寄ってゆく。
そしてギーシュの眼前に朱色の槍を突き立てた。
「ま…参った…降参だ。」
全てを諦め、俯いたまま呟いたギーシュ。
だがそんな彼を待っていたのは更なる恐怖であった。
「…参っただと?貴様は何を言っておるのだ?」
「……は?」
その言葉にギーシュの、周りの目が点になる。
「だ…だって…決闘というのは降参するか相手の杖を奪うかで……ひっ!!」
そう弁明したギーシュの顔が恐怖に歪む。
何故から、彼の目の前にいる男の全身から放たれる怒りの気配が決闘のときのそれの倍近くにまで膨れ上がったているのだから。
「ならば貴様は自分は死ぬ覚悟もないくせに俺を殺すつもりでいたのか?
笑わせるな小僧っ!!何者であろうと武士(もののふ)に刃を向けた以上!
決着は死以外はないと心得よ!!」
「!?」
それは確実な死刑宣告であった。それを裏付けるかのように男の瞳には全く迷いというものが見受けられない。
「お…おま…おま……平民が貴族を殺すなど……国が黙っていないぞ!?」
震える口から必死に言葉を絞り出すギーシュだが、完全に声が恐怖に塗りつぶされている。
「ならばそやつらも殺すまで!!
もう一度だけ言うが、武士に刃を向けた以上生きるか死ぬかふたつにひとつ。その覚悟すら持たぬ者など俺は絶対に認めん!!
そして…とどめをさすが果たし合いの作法。」
男の言葉にギーシュは絶望した。
どれだけ言ってもこの男には無駄だ。もうあと5分もしないうちに自分の首は胴体と分離してしまうに違いない。
そう思うと、急に世界の全てが輝いて見え始めた。
脳裏には今まで口説いてきた多くの女性たちの顔が浮かんでは消えてゆく。
その中で一際輝いて見えたのが、先程振られたばかりの金髪の巻き毛の少女の笑顔であった。
「……くない。」
「あん?」
ぽつりと聞こえた声に男は首を傾げる。
「…たくない…しになくない…死にたく…ないっ…!」
死を前にしたギーシュは、『命を惜しむな、名を惜しめ』という家訓すら忘れガタガタ震えながら 顔を涙と鼻水でべちゃべちゃにしていた。
それを目にした男はぐいっとギーシュの胸倉を掴むと顔の高さまで持ち上げ、その両頬を激しく掌で叩いた。
「ぎゃびっ!ぶぴっ!!」
その度ギーシュは奇声を上げ、顔からは血と涎だか涙だか鼻水だかわからぬ液体が飛沫となり飛ぶ。
「あがが…はばばばば…」
貴族の気品などあったもんではない情けない表情を向けるギーシュに男は信じられない行動に出た。
なんと、彼の掃いていたズボンを下着ごと一気にずり下ろしたのである。
瞬間、多くの女子生徒たちから悲鳴が上がるが、男はそんな声など気にするでもなくギーシュを怒鳴りあげた。
「なんだーっ!!この一物(いちもつ)は~っ!?
この程度で縮みあがるなど貴様それでも武家の出の者かーーっ!!」
「ひぃいいいいい!!」
男は再びギーシュを地面に叩きつけると怯えるギーシュに向かい言い放つ。
「死にたくないならば方法は簡単。
この俺を殺せばいいだけのことだ。」
「…は?」
…この男は何を言っているんだ?
ギーシュはそう思った。7体のワルキューレをもってしても 傷ひとつ付けられないような男にどうやって勝てというのだ?
だがそんなギーシュに向かい、男…いや、『漢』は声高らかに言い放つ。
「何を不思議がるか?貴様にはまだ命がある。両手両足に頭までもな。
ならば足掻いてみせよ!己の全てで!他の何者でもない貴様自身の体で!!
武人であるならば最期のその瞬間まで猛々しくあれ!そして華やかに散ることこそ本望と知れ!!」
「!?」
その言葉にギーシュは雷に撃たれたような衝撃を受けた。
だがその直後、その表情は憑き物が落ちたかのように晴れ晴れとしたものへと変化し始める。
「そうだ…君の言う通りかもしれない。
僕は自分のエゴのために知らず知らずのうちに貴族の
…いや、人としての誇りを傲慢さと履き違えてしまっていたんだ。」
そう言ってふっと笑ったギーシュはそのまま姿勢を正し穏やかな表情で目を閉じた。
「さぁ、討ってくれ。君のような男に首を取られるならば僕も武門の男として本望だ。」
「お主……ふっ、最期の最期に真の武人となったか。」
男はそのままギーシュに向けて槍を振り上げる。
この槍が振りおろされたとき、それは間違いなくギーシュが息絶えるときであろう。
その光景を見まいと多くの学生たちが一様に目を塞いだが、
その中でただ二人だけがそれをせずにいる者がいた。
「「駄目ぇええええ!!」」
突如、大声を上げながら男とギーシュの間に、そして男の背中へと二人の少女が駆け寄る。
そのうちの1人は男の主であるルイズ。
そしてもう1人は、先程ギーシュの浮気に愛想を尽かしたはずの金髪の少女・モンモランシーであった。
「おい、何をする?」
男はぎろりと腰の後ろを掴んでいる主人を見据える。
ルイズはその眼力に一度びくりと肩を揺らしたが、きっと男を睨み返すと震える体を押さえながら言葉を紡ぐ。
「あ…ああ…あんた!もう十分じゃない!何も命まで取る必要あるわけないでしょ!?」
「お主は黙っていろ。その言葉はこの男に対する侮辱でもあるのだぞ?」
男が更に増した眼力でルイズを見つめる。だがルイズも怯まない。
「あんたは私の使い魔よ!あんたこそ私の言葉をちゃんと聞きなさい!!
それにいい?あんたのいた場所ではどうか知らないけど!この国にいるからにはこの国の法に従いなさい!!
もしそれに従わずこの国を敵に回すというなら…
私は誇りに賭けても……例え刺し違えてでもあんたを殺すわ。」
そう言い放ったルイズの瞳は、涙をたたえながらも強く、まっすぐと男を見据えていた。
年齢以上幼く見えるその体にある瞳。
それを見つめた男はそこに宿る確かな強さを感じていた。
そしてもう1人。
「モ…モンモランシー!何をしているんだ!?」
「……ッ!!」
なんとモンモランシーは震える手で男に向かい杖を突きつけていたのである。
「ギ…ギーシュを殺すっていうなら…こ、今度は…私が相手になるわ!」
「なっ…モンモランシー!一体何を言っているんだ!?僕はいいから早く下がって…」
「ギーシュは黙ってて!!」
モンモランシーの言葉を聞いたギーシュは慌てて彼女を止めようとしたが、モンモランシーは強い言葉でそれを遮った。
「だいたいあなたはいつも私の気持ちなんて無視して自分のことばかり……
それも今度は勝手に納得して死のうですって?
冗談じゃないわ!あんたがいない世界で私がどうやって生きてけばいいっていうのよ!?」
「!?」
嬉しかった…ただただ嬉しかった。
ギーシュはモンモランシーの言葉にもういつ死んでもよいとばかりに大量の涙を流す。
だが、女子ひとりを戦場に立たせるのは武人として許せはしない。
ギーシュは軋む体を懸命に従わすと再び杖を手に立ち上がった。
そして最期の一滴の力を限界まで振り絞りながら杖を振ると、地面から一本の青銅の剣を錬金。
ギーシュはそれを手に握ると己が愛する女を守るべくモンモランシーの前に出て剣を構えた。
「ギーシュ…あなた…」
「ふっ…最後の最後まで格好つけたくなるのは僕の悪い癖でね。
それに最期は本物の薔薇として、誇らしく散りたいのさ。」
「あなた…やっぱ馬鹿よ。」
「最高の…誉め言葉だね。」
そう言って二人は小さく笑い合うと、眼前の障害を打ち砕くべく声を張り上げた。
「「さぁ!今度は『青銅』のギーシュと『香水』のモンモランシーがお相手仕る!
いざ尋常に勝負!!」」
二人は互いにに己の未来を、愛する者を守るべく全身に揺るがぬ決意を込め男に対峙する。
(この世界にも…このような強き者たちがいるのだな。)
ルイズにギーシュ、モンモランシーの瞳に宿る確かな強さを感じた男は満足そうにふっと息を吐くと、その背中に再び朱槍を背負う。
そこにはもう先程の鬼神の如き殺気はなく、ただ天で大らかにそびえる雲のような男が立っていた。
「かぁ~っ!やめだやめ!いくら俺でも勝利の女神相手じゃ勝てる気がしねえや。」
そう言って男はまたボリボリと頭を掻いた。
「なっ…僕らに情けをかけるのか!?」
ギーシュは予想外の男の態度に慌てて虚勢を張るが、男はさも面倒くさそうに言ってのけた。
「お前が絡んできたせいで飯を食いそびれて腹が減ってかなわん!
もしまだやる気なら飯の後で改めて声を掛けろい。じゃあな!」
そう言い残し男は観客たちを掻き分けのっしのっしと食堂の方角へ歩き始める。
「助かった…のか?」
そう呟いてギーシュは手にしていた剣を落とす。
だがそのとき、男はぐりんと体を向き直すと再びギーシュの前へと歩み寄ってきた。
「ひいっ!」
やっぱり殺す気か!?
そう思い剣を拾おうとしたギーシュだが、それより早く男の顔がギーシュのすぐ眼前に現れた。
そして怯えるギーシュをじろりと睨みつけ、一言。
「言い忘れていたが、お前が因縁をつけたメイドと、迷惑をかけたおなご達にしっかりと謝っておくのだぞ?」
「は…はい…はいぃ…。」
情けなくプルプルと震えながらそう答えるギーシュ。
その返事を聞いた男はにかりと笑うと、再び食堂の方角へ歩き出し、今度こそ見えなくなった。
「た…助かったぁ。」
その場にへなへなと座り込むギーシュとモンモランシー。
そして男に真っ向から啖呵を切ったルイズも魂を抜かれたように広場の芝生へと体を崩す。
「ルイズ…さっきはすまなかった。僕が悪かったよ。
そ、それで…一体彼は何者なんだい?」
ギーシュが疲労困憊な様子でルイズに問う。
「私もわかんないわよ…ただ遥か東方からやってきた天下御免の『カブキニン』とか言っていたわ…。」
「カブキニン…一体どういう意味だろうか?」
「…さぁ?」
疲れ切った表情に終始?マークを浮かべ る3人。
しかし彼らはまだ知らない。
この後、あの男が世を騒がす怪盗・土くれのフーケを討伐し、
遠くアルビオンにおいては風のスクウェアメイジであり、魔法衛士隊隊長である男に一騎打ちにて勝利。
更には攻め込んできた王党革命を目論む組織5万の兵をたった1騎で壊滅させることを…。
そして後々、ハルケギニアでイーヴァルディの勇者と肩を並べるまでに彼の名が永く語り継がれてゆくことを。
その伝説の勇者の名は奇抜な格好をした肖像画とともにこう記されている。
『ハルケギニア1の傾奇者・前田慶次』と。
了
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「…誰よアンタ?」
その日、少女・ルイズが召喚したのは1人の男であった。
その姿を最初見たとき、誰かが「平民を召喚した」と 言っていたのが聞こえたが、その男の姿はどう見てもただの平民の姿とは異なっていた。
それはハルケギニアでは見かけない黒い髪と瞳だけのせいではない。
その体格は2メイルほどもあり、全身を覆うのは鍛え上げられた筋肉の鎧。
しかもそれが飾りでないことを示すように散りばめられた無数の刀傷。
だが何より彼女を困惑させたのは平民とも貴族ともつかないその奇抜な衣装である。
「あぁ~ん?なんだぁここは。」
そう言うと男はボリボリ音を立てて頭をかきながらキョロキョロと辺りを見回し始める。
その品性のかけらもない様子にルイズは
「うん、間違いこいつは平民だ。」
と頭痛を感じながら呟いた。
その後、頭の薄い教師にやり直しを要求するも却下され結局ルイズはこのちょっと…いや、だいぶ変わった平民と契約する羽目となったのである。
その後もこの使い魔は主人であるルイズのいう事などどこ吹く風。
余程の田舎育ちであるのか目に映るもの全てが珍しいと自由奔放に学院内をうろついて回る始末。
そしていつの間に仲良くなったのか、夜ともなれば厨房のコックやメイドたちと 酒まで呑み交わしているではないか。
「あ゛ぁ…なんであんな下品な平民が私の使い魔なのよ…」
そう呟いてうなだれていたルイズの元に突然ひとりのメイドが飛び込んできた。
「たた…大変です!ミス・ヴァリエール!!」
血相を変えて迫ってきたメイドをなんとか落ち着かせ事情を聞いたところ、なんとあの使い魔が貴族から決闘を申し込まれたらしい。
それも、貴族に絡まれていた目の前のメイドの少女を庇ったためだとか…。
ルイズは慌てて決闘が行われる予定の場所、ヴェストリの広場へと身を走らせた。
数分後、ルイズがヴェストリの広場に着いたとき、そこには人だかりができており、
それをかき分けながら前に出たルイズは自らの使い魔と対面する金髪の少年を目にした。
「諸君、決闘だ!」
金髪の少年、ギーシュ・ド・グラモンが観客たちに向けて高らかに宣言する。
ルイズはそのギーシュに詰め寄ると決闘の中止を願い出た。しかしギーシュは軽口を放つと、彼女の頼みを一蹴してしまった。
話にならない…ルイズは次に使い魔に歩み寄る。
「あんた!何勝手に決闘なんて受けてんのよ!?」
「あぁ~ん、知らんよそんなこと。あっちが勝手にふっかけてきたんだよ。」
そう言うと彼はボリボリと耳の穴をほじり始める。
「ちょっと!人の話を真面目に聞きなさい!いいから今すぐギーシュに謝ってきなさい!」
「はぁ?何で俺が謝んなきゃなんないかね?」
心底不思議そうに聞き返す使い魔にルイズは激昂した。
「いい?いくらあんたが傭兵かなんかだろうと、平民はメイジには勝てないの!
それがこの世界の常識なの!じょ・う・し・き!!」
ふぅふぅと肩で息をしながらまくし立てるルイズ。
だが次の瞬間ルイズを待っていたのはそれは大きな笑い声であった。
「だぁ~~~っはっはっはっはっはっはっはっはぁ!!」
その笑い声の主は今しがた説教を受けたばかりの使い魔である。
「な、何笑ってんのよこの馬鹿はぁあああああああっ!?」
「くくくっ…いやぁすまんすまん。
それにしても、お主はなかなか面白い冗談が言えるじゃないか。」
…冗談?冗談と言ったかこの平民?
ルイズはその言葉にピクピクと額に青筋を浮かべたが、それより先に口を開いたのは決闘相手のギーシュであった。
「そこの平民君……平民が貴族に勝てないのを冗談と言ったかね?」
言葉自体は穏やかだが、ギーシュの言葉には確かな怒りが込められているのがわかる。
「冗談を冗談と笑って何が悪い?それとも何だ?
お前さんみたいなシモの皮も剥けてない小僧が俺に勝てるのか?」
「なっ…!?なんと下品な!!」
ギーシュはその言葉に顔を真っ赤にして怒る。
「おやおや、図星かい。すまんすまん。
だっはっはっはっはっは!!」
男の大笑いが再び広場に響く。
するとそのやり取りを聞いていたであろう周りから僅かにクスクスという笑い声すら聞こえてきたではないか。
……ぷちん
ギーシュは頭の中で何かが切れた音を確かに聞いた。
「ふざけるな平民風情がぁあああああ!!この僕をっ…誇り高いトリステインの武門の血を引く僕を馬鹿にしやがってえええええええ!!」
平民にこうまで徹底的にコケにされた挙げ句、
周りからも笑い者にされたことで、薔薇を自称するほどプライドの高いギーシュは完全にキレていた。
「ほう、お前のような小僧が武家の者とはな。よほどこの国は平和と見える。」
「黙れぇえええええ!!」
叫び声を上げながらギーシュが薔薇の造化の付いた杖を振る。
するとひらりと一枚の花びらが舞い落ち、地面から鎧に身を包んだゴーレムが出現した。
「ほぅ、これが魔法という奴か。」
その様子に男が目を丸くする。
「僕はメイジだ。魔法で戦うのは卑怯とは言わせないよ。
よってこの青銅のゴーレム、ワルキューレがお相手しよう!」
その言葉にぴくりと男の眉が跳ねる。
「おい…お前は戦わないのか?」
その言葉にその場の貴族たちは「やっぱりな」と声を漏らす。
所詮平民は平民。魔法の力の前に怖じ気づいたのだ。
誰もがそう思っていた。
…だが、それは間違いである。
「貴族と野蛮な平民を一緒にしないでくれたまえ。
剣で戦うのは平民。貴族は杖を振るって戦うのは当たり前じゃないか。
それともなにか?今更謝れば済むとでも思ってないだろうね?」
ニヤリとギーシュの顔が歪む。
言葉こそ幾分落ち着いたが、未だに心の中は怒りの炎がマグマのように煮えたぎっているのだ。
だが、それと同じく、対する男もまた静かな怒りの炎を燃やしていた。
「わかったでしょ?平民はメイジに勝てないの!だから……ヒッ!!」
男の顔を見たルイズの表情が恐怖に染まる。
何故から男の表情はいつもの飄々とした人懐っこい笑顔などではなく、
まさに獲物に喰らいつかんばかりの獰猛な獣のそれに豹変していたのだから。
「なるほど…ならば俺も見せてくれよう。
貴様の言う平民の戦い方というものをなぁ!!」
--轟ッ!
男のその言葉と共に周囲に突風ともいえる気配が駆け巡る。
少し離れた場所で決闘を見ていた青い髪の少女はその気迫に目を落としていた本を落とし、瞬時に杖を構えてしまったほどだ。
(……あの人は…強い。それも、桁違いに…!!)
少女はそう感じると、目を見開いて男の戦いを見守り始めた。
「殺れぇええ!ワルキューレェェエエ!!」
男の声を決闘開始の合図とし、青銅のゴーレムが男へと猛スピードで突進する。
次の瞬間、広場にゴキリと鈍い音が響いた。
「…終わったな。」
男の首の骨が砕けたであろう音を聞いてギーシュは静かに呟く。
……だが。
「……脆いな。」
「…なっ!!」
静寂を打ち破り聞こえた声に周囲は騒然とした。
何とワルキューレの一撃を受けた筈の男の拳がワルキューレの攻撃が当たるより早くその胴体を貫いていたのである。
「ぬぅん!」
男が腕を振り上げると、青銅でできているはずのワルキューレが腕から外れ、小石のように軽々と宙を舞った。
「だりゃあああっ!!」
そして男はもう一方の腕を自由落下してきたワルキューレに振るう。
その一撃を受けたワルキューレは粉々に砕け散り
そのまま目の前のギーシュをかすめて飛ぶと、後方の外壁に小気味よい音を立てながらぶつかった。
「ば…馬鹿な、僕のワルキューレが平民の拳なんかで…」
その信じられない光景にギーシュの頬を一筋の汗が伝う。
しかし、まだ自分のワルキューレは一体やられただけだ!
ギーシュは自分を奮い立たせると新たに落とした花びらから今度は6体ものワルキューレを錬金した。
「どうだ!平民がこれだけのワルキューレを一度に相手できるか!?」
自信満々に言い放ったギーシュに男は一言
「無論だ。」
と答えると、それがハッタリではないことを示すかのように背中に背負っていた長い朱色の棒を手に取ると、その先端に被されていた布を外す。
その中から現れたのは妖しく光る銀色の刃。
そう、それは棒ではなく鮮やかに輝く見事な長い朱色の槍であった。
「さあ…全力で参れ。」
「……ッ!?」
朱槍を構えた途端に男が放つ威圧感が数倍にも膨れ上がり、ギーシュを始めとする貴族たちを包む。
「来ぬのなら…こちらからゆくぞ?」
男の目がぎらりと輝いた瞬間…
「う…うわぁあああああああああ!!」
耐えきれずギーシュは6体全てのワルキューレに一斉攻撃を命じた。
槍と剣を手にしたワルキューレは猛スピードで男の命を刈り取るべく突撃する。
だが次の瞬間…
「おおりゃあ~~っ!!」
--斬撃一閃!
横一文字に振り抜かれた長槍の刃は青銅のゴーレムたちをまるで紙切れの如く一撃で 切り裂いてみせたのである。
「戦を兵に任せ、自分は安全な場所で身を守るしかない輩がいくさ人に勝てるか…。」
あまりにも鮮やかな決着に見ていた貴族たちも、ルイズもギーシュも声を失っていが、
一瞬の静寂を引き裂いたのは周りからの歓声とどよめきであった。
その中でただひとり、ギーシュだけが悔しさを超えて絶望に打ちひしがれ、その場に崩れ落ちた。
もう彼にはワルキューレを作るだけの力などカケラも残ってはいない。
そこへ向かい、男さのしのしと歩み寄ってゆく。
そしてギーシュの眼前に朱色の槍を突き立てた。
「ま…参った…降参だ。」
全てを諦め、俯いたまま呟いたギーシュ。
だがそんな彼を待っていたのは更なる恐怖であった。
「…参っただと?貴様は何を言っておるのだ?」
「……は?」
その言葉にギーシュの、周りの目が点になる。
「だ…だって…決闘というのは降参するか相手の杖を奪うかで……ひっ!!」
そう弁明したギーシュの顔が恐怖に歪む。
何故から、彼の目の前にいる男の全身から放たれる怒りの気配が決闘のときのそれの倍近くにまで膨れ上がったているのだから。
「ならば貴様は自分は死ぬ覚悟もないくせに俺を殺すつもりでいたのか?
笑わせるな小僧っ!!何者であろうと武士(もののふ)に刃を向けた以上!
決着は死以外はないと心得よ!!」
「!?」
それは確実な死刑宣告であった。それを裏付けるかのように男の瞳には全く迷いというものが見受けられない。
「お…おま…おま……平民が貴族を殺すなど……国が黙っていないぞ!?」
震える口から必死に言葉を絞り出すギーシュだが、完全に声が恐怖に塗りつぶされている。
「ならばそやつらも殺すまで!!
もう一度だけ言うが、武士に刃を向けた以上生きるか死ぬかふたつにひとつ。その覚悟すら持たぬ者など俺は絶対に認めん!!
そして…とどめをさすが果たし合いの作法。」
男の言葉にギーシュは絶望した。
どれだけ言ってもこの男には無駄だ。もうあと5分もしないうちに自分の首は胴体と分離してしまうに違いない。
そう思うと、急に世界の全てが輝いて見え始めた。
脳裏には今まで口説いてきた多くの女性たちの顔が浮かんでは消えてゆく。
その中で一際輝いて見えたのが、先程振られたばかりの金髪の巻き毛の少女の笑顔であった。
「……くない。」
「あん?」
ぽつりと聞こえた声に男は首を傾げる。
「…たくない…しになくない…死にたく…ないっ…!」
死を前にしたギーシュは、『命を惜しむな、名を惜しめ』という家訓すら忘れガタガタ震えながら 顔を涙と鼻水でべちゃべちゃにしていた。
それを目にした男はぐいっとギーシュの胸倉を掴むと顔の高さまで持ち上げ、その両頬を激しく掌で叩いた。
「ぎゃびっ!ぶぴっ!!」
その度ギーシュは奇声を上げ、顔からは血と涎だか涙だか鼻水だかわからぬ液体が飛沫となり飛ぶ。
「あがが…はばばばば…」
貴族の気品などあったもんではない情けない表情を向けるギーシュに男は信じられない行動に出た。
なんと、彼の掃いていたズボンを下着ごと一気にずり下ろしたのである。
瞬間、多くの女子生徒たちから悲鳴が上がるが、男はそんな声など気にするでもなくギーシュを怒鳴りあげた。
「なんだーっ!!この一物(いちもつ)は~っ!?
この程度で縮みあがるなど貴様それでも武家の出の者かーーっ!!」
「ひぃいいいいい!!」
男は再びギーシュを地面に叩きつけると怯えるギーシュに向かい言い放つ。
「死にたくないならば方法は簡単。
この俺を殺せばいいだけのことだ。」
「…は?」
…この男は何を言っているんだ?
ギーシュはそう思った。7体のワルキューレをもってしても 傷ひとつ付けられないような男にどうやって勝てというのだ?
だがそんなギーシュに向かい、男…いや、『漢』は声高らかに言い放つ。
「何を不思議がるか?貴様にはまだ命がある。両手両足に頭までもな。
ならば足掻いてみせよ!己の全てで!他の何者でもない貴様自身の体で!!
武人であるならば最期のその瞬間まで猛々しくあれ!そして華やかに散ることこそ本望と知れ!!」
「!?」
その言葉にギーシュは雷に撃たれたような衝撃を受けた。
だがその直後、その表情は憑き物が落ちたかのように晴れ晴れとしたものへと変化し始める。
「そうだ…君の言う通りかもしれない。
僕は自分のエゴのために知らず知らずのうちに貴族の
…いや、人としての誇りを傲慢さと履き違えてしまっていたんだ。」
そう言ってふっと笑ったギーシュはそのまま姿勢を正し穏やかな表情で目を閉じた。
「さぁ、討ってくれ。君のような男に首を取られるならば僕も武門の男として本望だ。」
「お主……ふっ、最期の最期に真の武人となったか。」
男はそのままギーシュに向けて槍を振り上げる。
この槍が振りおろされたとき、それは間違いなくギーシュが息絶えるときであろう。
その光景を見まいと多くの学生たちが一様に目を塞いだが、
その中でただ二人だけがそれをせずにいる者がいた。
「「駄目ぇええええ!!」」
突如、大声を上げながら男とギーシュの間に、そして男の背中へと二人の少女が駆け寄る。
そのうちの1人は男の主であるルイズ。
そしてもう1人は、先程ギーシュの浮気に愛想を尽かしたはずの金髪の少女・モンモランシーであった。
「おい、何をする?」
男はぎろりと腰の後ろを掴んでいる主人を見据える。
ルイズはその眼力に一度びくりと肩を揺らしたが、きっと男を睨み返すと震える体を押さえながら言葉を紡ぐ。
「あ…ああ…あんた!もう十分じゃない!何も命まで取る必要あるわけないでしょ!?」
「お主は黙っていろ。その言葉はこの男に対する侮辱でもあるのだぞ?」
男が更に増した眼力でルイズを見つめる。だがルイズも怯まない。
「あんたは私の使い魔よ!あんたこそ私の言葉をちゃんと聞きなさい!!
それにいい?あんたのいた場所ではどうか知らないけど!この国にいるからにはこの国の法に従いなさい!!
もしそれに従わずこの国を敵に回すというなら…
私は誇りに賭けても……例え刺し違えてでもあんたを殺すわ。」
そう言い放ったルイズの瞳は、涙をたたえながらも強く、まっすぐと男を見据えていた。
年齢以上幼く見えるその体にある瞳。
それを見つめた男はそこに宿る確かな強さを感じていた。
そしてもう1人。
「モ…モンモランシー!何をしているんだ!?」
「……ッ!!」
なんとモンモランシーは震える手で男に向かい杖を突きつけていたのである。
「ギ…ギーシュを殺すっていうなら…こ、今度は…私が相手になるわ!」
「なっ…モンモランシー!一体何を言っているんだ!?僕はいいから早く下がって…」
「ギーシュは黙ってて!!」
モンモランシーの言葉を聞いたギーシュは慌てて彼女を止めようとしたが、モンモランシーは強い言葉でそれを遮った。
「だいたいあなたはいつも私の気持ちなんて無視して自分のことばかり……
それも今度は勝手に納得して死のうですって?
冗談じゃないわ!あんたがいない世界で私がどうやって生きてけばいいっていうのよ!?」
「!?」
嬉しかった…ただただ嬉しかった。
ギーシュはモンモランシーの言葉にもういつ死んでもよいとばかりに大量の涙を流す。
だが、女子ひとりを戦場に立たせるのは武人として許せはしない。
ギーシュは軋む体を懸命に従わすと再び杖を手に立ち上がった。
そして最期の一滴の力を限界まで振り絞りながら杖を振ると、地面から一本の青銅の剣を錬金。
ギーシュはそれを手に握ると己が愛する女を守るべくモンモランシーの前に出て剣を構えた。
「ギーシュ…あなた…」
「ふっ…最後の最後まで格好つけたくなるのは僕の悪い癖でね。
それに最期は本物の薔薇として、誇らしく散りたいのさ。」
「あなた…やっぱ馬鹿よ。」
「最高の…誉め言葉だね。」
そう言って二人は小さく笑い合うと、眼前の障害を打ち砕くべく声を張り上げた。
「「さぁ!今度は『青銅』のギーシュと『香水』のモンモランシーがお相手仕る!
いざ尋常に勝負!!」」
二人は互いにに己の未来を、愛する者を守るべく全身に揺るがぬ決意を込め男に対峙する。
(この世界にも…このような強き者たちがいるのだな。)
ルイズにギーシュ、モンモランシーの瞳に宿る確かな強さを感じた男は満足そうにふっと息を吐くと、その背中に再び朱槍を背負う。
そこにはもう先程の鬼神の如き殺気はなく、ただ天で大らかにそびえる雲のような男が立っていた。
「かぁ~っ!やめだやめ!いくら俺でも勝利の女神相手じゃ勝てる気がしねえや。」
そう言って男はまたボリボリと頭を掻いた。
「なっ…僕らに情けをかけるのか!?」
ギーシュは予想外の男の態度に慌てて虚勢を張るが、男はさも面倒くさそうに言ってのけた。
「お前が絡んできたせいで飯を食いそびれて腹が減ってかなわん!
もしまだやる気なら飯の後で改めて声を掛けろい。じゃあな!」
そう言い残し男は観客たちを掻き分けのっしのっしと食堂の方角へ歩き始める。
「助かった…のか?」
そう呟いてギーシュは手にしていた剣を落とす。
だがそのとき、男はぐりんと体を向き直すと再びギーシュの前へと歩み寄ってきた。
「ひいっ!」
やっぱり殺す気か!?
そう思い剣を拾おうとしたギーシュだが、それより早く男の顔がギーシュのすぐ眼前に現れた。
そして怯えるギーシュをじろりと睨みつけ、一言。
「言い忘れていたが、お前が因縁をつけたメイドと、迷惑をかけたおなご達にしっかりと謝っておくのだぞ?」
「は…はい…はいぃ…。」
情けなくプルプルと震えながらそう答えるギーシュ。
その返事を聞いた男はにかりと笑うと、再び食堂の方角へ歩き出し、今度こそ見えなくなった。
「た…助かったぁ。」
その場にへなへなと座り込むギーシュとモンモランシー。
そして男に真っ向から啖呵を切ったルイズも魂を抜かれたように広場の芝生へと体を崩す。
「ルイズ…さっきはすまなかった。僕が悪かったよ。
そ、それで…一体彼は何者なんだい?」
ギーシュが疲労困憊な様子でルイズに問う。
「私もわかんないわよ…ただ遥か東方からやってきた天下御免の『カブキニン』とか言っていたわ…。」
「カブキニン…一体どういう意味だろうか?」
「…さぁ?」
疲れ切った表情に終始?マークを浮かべ る3人。
しかし彼らはまだ知らない。
この後、あの男が世を騒がす怪盗・土くれのフーケを討伐し、
遠くアルビオンにおいては風のスクウェアメイジであり、魔法衛士隊隊長である男に一騎打ちにて勝利。
更には攻め込んできた王党革命を目論む組織5万の兵をたった1騎で壊滅させることを…。
そして後々、ハルケギニアでイーヴァルディの勇者と肩を並べるまでに彼の名が永く語り継がれてゆくことを。
その伝説の勇者の名は奇抜な格好をした肖像画とともにこう記されている。
『ハルケギニア1の傾奇者・前田慶次』と。
了
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